被害弁済とは?弁済を行った場合のメリットや行わなかった場合のリスクを解説

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被害弁済とは、犯罪加害者が被害者に対して行う「弁償」のことを指します。一般的な弁償とは異なる意味合いを持ち、刑事罰や処分にも多大な影響を与える可能性がある制度です。

この記事では、被害弁済とは何か?被害弁済を行うことによるメリット・デメリットは?について詳しく解説しています。被害者目線で被害弁済を提案された場合の対処法についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。

目次

被害弁済とは

被害弁済(弁償)とは、犯罪加害者が被害者に対して行う弁償のことを指します。たとえば、人の物を故意に壊すことによって成立する「器物損壊罪」という罪に問われた場合、この犯罪によって壊してしまった物を弁償することを「被害弁済(弁償)」と言います。

被害弁済は、民事上の責任と同じ意味合いを持ちます。また、被害者に対する「示談」とも異なるため注意しなければいけません。

まずは、被害弁済(弁償)とはどういうものなのか?について、詳しく解説します。犯罪加害者であり、被害弁済について検討されている人は、本記事をぜひ参考にしてください。

被害弁済は「被害弁償(ひがいべんしょう)」というのが一般的ですが、意味合いは同じです。基本的には「被害弁償が正しい」ということを覚えておいてください。

犯罪被害者に対する弁済

被害弁済は正確には「被害弁償」と言います。被害弁償は、犯罪被害者に対する弁済(弁償)という意味です。

犯罪被害者に対する弁償とは、たとえば他人の所有する物などを故意に壊した場合は、器物損壊罪という犯罪が成立します。この場合、刑事罰として何らかの処分を受けますが、被害者に対する弁償は別として考えなければいけません。

具体的には、壊してしまった物を新たに購入して返すもしくは、壊してしまった物相当額の金額を被害者に対して支払うことを「被害弁償」と言います。

被害弁償を行うことによって、被害者の処罰感情が気薄化する可能性が高くなり、結果的に刑事処分に与える影響もあるため覚えておくと良いでしょう。

なお、被害者が必ずしも被害弁償を受け入れるとは限りません。とくに、処罰感情が厳しい場合は、被害弁償を断る被害者もいます。この場合は、供託や寄付といった方法もあります。供託や寄付については、後ほど詳しく解説しますのでぜひ参考にしてください。

民事上の賠償責任と同じ

被害弁償は、民事上の賠償責任と同じです。罪を犯した場合、被害者は民事訴訟を起こすことができます。たとえば、「人の物を盗んだ」というケースであれば、刑事上の責任として窃盗罪に問われ、何らかの処分が下されます。

また、民事上の責任として民事訴訟を起こされるケースがあります。民事訴訟では、接種された財産の返還や相当額の支払い、窃盗によって受けた被害額相当額の賠償金等が請求されることになるでしょう。

民事訴訟で判決が確定した場合は、判決に従って賠償金を支払わなければいけません。しかし、あらかじめ被害弁償を行っておくことによって、民事訴訟を回避できる可能性が高まります。

被害弁償をする・しない関係なしに、いずれにせよ賠償責任を負うこととなります。そのため、あらかじめ被害弁償を行っておいたほうが、メリットは大きくなるでしょう。

被害弁済と示談は異なる

被害弁償に似た行為として「示談」という制度があります。被害弁償は、「犯罪被害者に対して弁償を行うこと」である一方で、示談とは「話し合いによって被害者と和解を目指すこと」です。

示談を行うことによって、被害者は検察や裁判官に対して「嘆願書」という書類を提出します。嘆願書には「私(被害者)は〇〇(加害者)と示談交渉が成立しています。どうか寛大な処分をお願いします」といった内容のことが書かれている書類です。

示談や嘆願書に法的効力はないものの、上記のとおり嘆願書によって被害者の処罰感情が気薄化していることが明らかになります。結果的に、刑罰が軽くなることが多いのです。

示談もお金が発生するやり取りではあるものの、被害弁償とは大きな違いがあります。

まず、被害弁償は「被害に対する賠償」という意味合いがあり、支払って当然であるという考え方が強いです。仮に被害弁償を行わなくても、民事訴訟によって賠償請求が確定するケースもあるためです。

たとえば、10万円の物を壊してしまったのであれば、10万円の返還もしくは壊したものと同等品を返すことが被害弁償です。一方で、示談交渉は被害弁償とは別に、被害者に対して金銭を支払ったり謝罪の弁を述べたりすることによって成立を目指すものです。

示談金によって支払うべき金額は犯罪の内容や被害者の処罰感情等によって大きく異なり、一概には言えません。ただ、被害弁償と示談交渉は、似て非なるものであることを覚えておきましょう。

供託・寄付という選択肢もある

被害弁償は、被害者に対する弁償金という意味合いがありますが、被害者が必ずしも受け入れてくれるとは限りません。とくに処罰感情が強い被害者の場合は、被害弁償を断り、徹底的に厳罰を望むケースもあるのです。

上記の場合、加害者側としてできることの選択肢として「供託」と「寄付」があります。

供託とは、被害者が被害弁償を断った場合に加害者が犯罪被害の弁償金を法務局に預け入れることを言います。預け入れることによって、加害者はその債務を免れることができます。ただし、刑事罰へ与える影響は限定的であるため注意しましょう。

寄付とは、贖罪寄付のことを指します。さまざまな団体や機関にお金を寄付することを指します。贖罪寄付は、被害弁償とは全く異なる意味合いを持つため、民事上の賠償責任を免れることはできませんが、少なからず刑事罰へ良い影響を与える可能性もあるため、検討する余地はあるでしょう。

被害弁済を検討するケースとは

被害弁済(弁償)を検討するべき主なケースは以下のとおりです。

  • 犯罪加害者であること
  • 被害が発生していること
  • 損害を補填する必要があること

次に、被害弁済を検討すべきケースについて詳しく解説します。

犯罪加害者であること

被害弁済を行うことを検討すべき人は、前提として「犯罪加害者であること」です。そもそも、被害弁済は本記事で解説しているとおり「被害者に対する被害の弁償」という意味合いがあります。

つまり、通常の弁償とは異なり、「被害」に対して「弁償」を行うことを指します。つまり、前提として弁償する側の人が何らかの不法行為によって被害者の物を壊したり窃取もしくは詐取した場合に検討する必要があるのです。

通常の弁償は行っても行わなくても刑事罰を受けることはありません。しかし、被害弁済は行うか行わないかによって、刑事罰へ影響を与える可能性もあるのです。

仮に被害弁済を行わなくても、後から民事訴訟を提起されて賠償請求される可能性が高いです。そのため、あらかじめ被害弁済を行っておいたほうが今後の処分に良い影響を与えるでしょう。

被害が発生していること

被害弁済は、犯罪加害者が犯罪被害者に対して弁償を行うものです。そのため、何らかの「被害」が発生していなければ、そもそも被害弁済を検討する必要はありません。

たとえば、覚せい剤取締法違反に抵触した場合、そもそも「被害者」がいません。また、被害弁済を行うような被害も発生していないため、被害弁済を検討する必要がないのです。

一方で、たとえば窃盗罪の場合は窃盗された人が「被害者」であり、加害者が窃取した物は「被害品」です。つまり、被害者に対して被害品を弁償する必要があるため、被害弁済を検討する必要があるのです。

損害を補填する必要があること

被害弁済を行う場合は、「損害を補填する必要があること」が前提です。先ほども解説したとおり、覚せい剤取締法違反といった犯罪の場合、そもそも「損害」が発生していないため、損害の補填をする必要がありません。

一方で、たとえば詐欺罪の場合は詐欺被害に遭った被害者は、経済的な損害を受けています。そのため、損害を補填する必要があると判断されるため、被害弁済を検討する必要があるのです。

なお、詐欺罪の場合は組織的犯罪集団で細かく役割が分担されています。中でも、受け子・出し子と呼ばれる、被害者と接触する機会の多い人が逮捕されてしまうケースが多いです。

上の人の情報は末端には伝えられていないケースが多いため、詐欺被告事件における受け子・出し子は、1人で詐欺被害額の全額を負担することが多いでしょう。

もちろん、被害弁済は義務ではありませんし、金額に定めもありません。しかし、可能な限り被害弁済を行っておくことで、被害者の処罰感情に大きな影響を与えることになるため、結果的に処分が軽くなる可能性が高まります。そのため、被害弁済は積極的に検討すべきでしょう。

被害弁済を行う流れ

被害弁済を行う流れは以下のとおりです。

  1. 弁護士へ相談をする
  2. 被害者の意向を確認する
  3. 被害者が受け入れる・被害弁済を受け入れない
  4. 被害弁済を行う

被害弁済は、通常弁護士を介して行われる手続きです。また、被害者が必ずしも被害弁済を受け入れるとは限りません。

次に、被害弁済を行う流れについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

1.弁護士へ相談をする

被害弁済を検討されている人は、初めに弁護士への相談をしましょう。被害弁済は、基本的には弁護士を介して行う手続きであるためです。

なぜなら、被害者と加害者が直接やり取りをすることによって、さまざまな弊害が発生する可能性があるためです。たとえば、被害者が加害者に対して恐怖心を抱いている可能性も否定できません。

恐怖心を抱いている状況下でお互い冷静にフラットな状態で交渉を行い、被害弁済に応じる・応じないを判断することは難しいです。そのため、基本的には弁護士を介して被害者に対して被害弁済の申し出を行います。

なお、弁護士は私選が原則です。私選弁護人とは、自分で選んで自分で弁護士に報酬を支払う方法です。

刑事事件においては、国選弁護人という制度もありますが、経済的に余裕がないなど幾つかの条件を満たしている必要があります。また、国選弁護人が選任されるタイミングは、「勾留確定後」もしくは「起訴後」のいずれかです。

被害弁済を行って刑罰を軽くしたいと考えている加害者からすると、タイミングとしてはとても遅いです。そのため、私選弁護人を選任したうえで、早期に被害者と接触していかなければいけません。

2.被害者の意向を確認する

弁護士が被害弁済について申し入れた後は、被害者の意向を確認します。被害者は、被害弁済の申し入れ内容を聞き、受け入れるかどうかを判断します。

被害者は、必ずしも被害弁済を受け入れる必要はありません。とくに加害者に対する処罰感情が強い場合は、断固として被害弁済を受け入れないという姿勢を貫く人もいるでしょう。

ここは、弁護士が根気強く交渉を進めてはいくものの、相手の処罰感情によるものであるため、必ずしも被害弁済を受け入れてくれるとは限らないことを覚えておきましょう。

3.被害者が受け入れる・被害弁済を受け入れない

被害者が被害弁済を受け入れる・受け入れないのいずれかを判断します。被害弁済を受け入れる場合は、そのまま被害弁済を行う流れになります。

しかし、被害弁済の受け入れを断られてしまった場合は、被害弁済を行うことはできません。ただ、加害者の立場として何もできないのか?といえば、そうではありません。できることはあります。

それが「供託」と「贖罪寄付」です。

供託とは、被害者が被害弁償の受領を拒否している場合に管轄する法務局に対して供託金としてお金を預け入れる制度のことを指します。被害者の処罰感情が厳しい場合は、被害者側から被害弁償を拒否されるケースがあります。

この場合、管轄の法務局を調べたうえで法務局に対して供託の申請を行い、申請が通り次第供託をする流れです。供託を行うことによって、情状に影響を与える可能性が高く、結果として有利な判決を受けられる可能性があります。

なお、供託として預け入れる費用は、基本的に被害弁償金額+遅延損害金です。まずは弁護士に相談をしたうえで、被害弁償額を確認してみると良いでしょう。

贖罪寄付とは、弁護士会などの被害者支援団体などに対して、寄付をします。寄付をすることによって、受領証が発行されるため、検察官や裁判官に対して提出します。結果的に情状に影響を与える可能性があり、有利な判決を受けられる可能性があるでしょう。

ただし、贖罪寄付はあくまでも「寄付」であるため、被害者のいる刑事事件ではあまり検討されるものではありません。基本的には、供託を行うべきであると考えておけば良いでしょう。

4.被害弁済を行う

被害者が被害弁償を受け入れる姿勢を取ってくれた場合は、被害者に対して被害弁償金を支払います。支払い方法は、基本的には弁護士を介して被害者の指定する口座に振り込む形で行います。

被害弁償が行われることによって、被害者の処罰感情が気薄化したり民事訴訟を回避できたりなどのメリットがあります。まずは弁護士へ相談をしたうえで、被害弁済について検討をしていくと良いでしょう。

被害弁済を行った場合のメリット

被害弁済を行った場合は、以下のようなメリットが発生します。

  • 起訴回避の可能性がある
  • 刑事罰が軽くなる可能性がある
  • 民事訴訟を回避できる可能性がある

次に、被害弁済を行った場合に起こり得るメリットについて詳しく解説します。

起訴回避の可能性がある

被害弁済を行った場合は、起訴を回避できる可能性があります。起訴とは、被疑者(罪を犯した人)を刑事裁判にかけるための手続きです。起訴されてしまうと、99%の確率で有罪判決が下されると言われています。

有罪判決が下されてしまった場合は、「前科」として有罪判決を受けた事実が一生記録として残ってしまいます。前科があることによって、一定の職業に就くことが難しかったり、海外渡航時に影響がでたりなど、今後の人生でさまざまな影響が出る恐れがあるのです。

しかし、被害弁済を行うことによって被害者の処罰感情が気薄化するため、犯罪の内容や被疑者の態様次第では、不起訴処分となる可能性もあるのです。不起訴処分となった場合は、有罪判決ではないため、前科は残りません。

今後起こり得るさまざまな影響を回避できる可能性もあるため、被害弁済によるメリットは大きいと言えるでしょう。

刑罰が軽くなる可能性がある

被害弁済を行ったとしても、起訴されて有罪判決を受ける可能性はあります。しかし、被害弁済が済んでいることを考慮して、刑罰が軽くなる可能性があるのです。

たとえば、罰金刑で済んだり執行猶予付きの判決が下されたりなど、早期の社会復帰を目指せる刑罰が下される可能性があるでしょう。

執行猶予付き判決とは、刑罰を直ちに執行せずに一定期間猶予することを言います。たとえば、「懲役1年執行猶予3年」の場合は、懲役1年という刑罰を直ちに執行せずに、3年間猶予します。この間は、社会に戻って生活を送り、罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役刑が執行されることはありません。

罰金刑が確定した場合、罰金を支払うことによって事件は終了します。しかし、経済的な事情等で罰金を支払うことが難しい場合は、労役場留置となるため注意しなければいけません。労役場留置は、1日5,000円で働き、罰金を支払い終えるまで刑務所内に収監されます。

民事訴訟を回避できる

被害弁償をあらかじめ済ませておくことで、民事訴訟を回避できる可能性があります。

そもそも、被害者のいる罪を犯した場合、刑事と民事2つの責任が生じます。刑事責任は、刑事裁判を受けて懲役刑や罰金刑といった判決が下されて終了します。一方で、民事訴訟は犯罪被害によって発生した損害金の支払いを求める訴訟です。

民事訴訟は被害金や慰謝料を求める請求であるため、あらかじめ被害弁償を行っておくことで、民事訴訟を回避できる可能性があるのです。

民事訴訟を提起されてしまった場合は、訴訟費用が発生したり裁判所へ何度も足を運ばなければいけなかったりします。また、新たに弁護士費用が発生したりなどさまざまなデメリットがあります。

いずれにせよ、免れることのできない弁済であるため、早めに被害弁済を行っておくことを強くおすすめします。

被害弁済を行わなかった場合に起こり得ること

被害弁済は必ず行わなければいけないものではありません。しかし、行わなかった場合は、以下のようなことが発生するため覚えておきましょう。

  • 被害者の処罰感情が厳しくなる
  • 民事訴訟を起こされる可能性が高い
  • 厳しい刑事罰を受ける可能性が高い

次に、被害弁済を行わなかった場合に起こり得ることについて解説します。なお、本記事で解説しているとおり、被害弁済は義務ではありません。しかし、最終的には民事訴訟を提起され、判決が確定した場合は被害弁済の義務が発生します。

そのため、いずれにせよ被害弁済を行わなければいけないケースが多いです。そのため、あらかじめ被害弁済を行い、メリットを最大限活かしたほうが良いです。このことを念頭に置き、もし、被害弁済を行えなかった場合はどうなるのか?について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

被害者の処罰感情が厳しくなる

被害弁済を行わなかった場合、当然、被害者の処罰感情は厳しくなります。結果的に、刑事罰も厳しくなるため注意しなければいけません。

そもそも、刑事事件においては被害者の処罰感情が非常に重要です。もし、被害者の処罰感情がとても厳しい場合は、裁判官も被害者の処罰感情を鑑みて厳しい判決を言い渡します。

一方で、被害者の処罰感情が気薄化している場合や処罰を望んでいない場合は、刑罰が軽くなる傾向にあるのです。なぜなら、犯罪による1番の被害者は「犯罪の被害を受けた人」であるためです。

刑事事件において、罪を犯した人に対して何らかの罰を与えることは当然ですが、「被害者の感情」がとても大切であると考えられています。

たとえば、詐欺被告事件で被害者が老後資金として取っておいた数千万円もの被害を受けたとしましょう。この場合、被害弁済が行われていなければ、「絶対に許せない!厳罰を望みます!」と考えるのは当然です。

そのため、裁判では被害者が裁判官に対して「厳罰を望みます」といった内容のことを証言することになるでしょう。被害者の感情を考慮すると、「許せない」と考えるのは当然であり、被告人に対しても厳しい刑罰を与えるのが妥当であると考えます。

一方で、被害者に対して被害弁済が行われている場合、被害者は「お金が帰ってきたならそれで良い。あとは、被告人の更生を切に願う」ということになるでしょう。

上記のことからも、被害弁済が行われていない場合は被害者の処罰感情が厳しく、結果的に厳しい判決が言い渡されることになるため注意しなければいけません。

民事訴訟を起こされる可能性が高い

被害弁済を行っていない場合、民事訴訟を起こされてしまう可能性が高いです。そもそも、罪を犯した人は、「刑事罰を受けたら終わり」と考えている人が多いですが、大きな誤りです。

被害者のいる事件の場合、刑事罰の他に民事上の責任も負うことを覚えておくべきでしょう。たとえば、「詐欺被告事件で逮捕された」という事案の場合、詐欺罪として刑事罰を受けます。

他にも、被害者は詐欺事件によって自分の財産を奪われているため、罪を犯した人に対してお金を返すよう裁判を提起するのです。これが「民事裁判」です。つまり、被害者のいる罪を犯した人は、刑事上の責任の他に民事責任も負うことになります。

民事責任は、被害額の補填や慰謝料といった意味であるため、あらかじめ被害弁済を行っておかなければ、後から民事責任を問われる可能性があるのです。

万が一、民事訴訟を提起された場合は、当然罪を犯した人に対して賠償責任の命令が下されるでしょう。民事訴訟に移行してしまった場合は、弁護士費用や手続きの手間がかかってしまうため、被害弁済を行う以上に多くのデメリットがあります。

そのため、いずれにせよ被害弁済を行わなければいけなくなるため、あらかじめ被害弁済(弁償)を行っておいたほうがメリットは大きくなるでしょう。

厳しい刑事罰を受ける可能性が高い

被害弁済が済んでいない場合、被害者の処罰感情はとても厳しくなります。結果的に、厳しい刑事罰が下されることになるため注意しなければいけません。

先ほども解説したとおり、刑事事件において被害者の処罰感情が刑事罰へ与える影響はとても大きいです。そのため、可能であれば被害弁済を行ったり被害者と示談交渉を行ったりして、被害者の処罰感情を気薄化しておくことが重要です。

なお、被害弁済を行った場合は不起訴処分で済むケースであっても、被害弁済を行っていないことが理由で起訴されて有罪判決が下されるケースも多いです。また、仮に起訴された場合であっても、執行猶予付きの判決が下されるか、実刑判決が下されるかといった違いもあります。

【執行猶予とは】
執行猶予付き判決とは、刑罰を直ちに執行せずに一定期間猶予することを言います。たとえば、「懲役1年執行猶予3年」の場合は、懲役1年という刑罰を直ちに執行せずに、3年間猶予します。この間は、社会に戻って生活を送り、罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役刑が執行されることはありません。

被害弁済が必ずしも有利に働くとは限らないものの、情状に与える影響は大きく、結果として被告人にとって有利な判決となる可能性が高いため覚えておきましょう。

被害弁済が難しいときの対処法

被害弁済は、義務ではありませんが行っておいたほうが良いです。しかし中には、さまざまな事情で被害弁済ができない人もいるでしょう。被害弁済をできない理由として考えられるのは、以下のとおりです。

  • 被害者が拒否をした場合
  • 金銭の用意が難しい場合

次に被害弁済を行いたいけど行えない場合の対処法についても詳しく解説します。これから解説する内容を踏まえ、被害弁済について検討されてみてはいかがでしょうか。

被害者が拒否をした場合

被害者が被害弁済の受領を拒否した場合、「供託」もしくは「贖罪寄付」を検討することになるでしょう。供託や贖罪寄付については、本記事でも詳しく解説していますが、改めて簡単に解説します。

供託とは、簡単に言えば「被害者の所在地を管轄する法務局にお金を預け入れること」です。自らの行為を反省し、自らが相当であると考える金額を法務局に預け入れます。供託は、被害者が被害弁済の受領を拒否した場合であっても行えます。

ただし、被害者は被害弁済の受領を拒否しているため、処罰感情は相当厳しいものであると考えられるでしょう。そのため、刑事罰へ与える影響は限定的であると思っておいたほうが良いです。

贖罪寄付とは、犯罪被害者支援団体や弁護士会などに「寄付」をすることを指します。贖罪寄付をすることによって、寄付されたことを証明する証明書が発行されます。発行された書類を検察官や裁判官に提出することによって、少なからず刑事罰へ影響を与えるでしょう。

とはいえ、被害者のいる犯罪の場合は、基本的には「供託」を検討すべきです。贖罪寄付は、あくまでも「寄付」であるため、一般的には犯罪被害者のいない被告人や被疑者が行うものであるためです。

金銭の用意が難しい場合

金銭の用意が難しい場合は、被害弁済や供託、贖罪寄付はできません。とはいえ、最終的には民事責任として賠償請求をされる可能性があり、遅かれ早かれお金を用意しなければいけません。

そのため、可能であれば友人や家族に相談をしたうえでお金を借り、被害弁済や供託といった方法を検討したほうが良いでしょう。

なお、民事責任に問われた場合、支払い能力がなければ支払いをすることはできません。被害者が差し押さえ等の手続きを行えば最終的に差し押さえ手続きへ移行される可能性がありますが、基本的に返済能力のない者に対しては泣き寝入りするケースが多いです。

【被害者目線】被害弁済を提案されたときの対処法

被害者目線で見たときの「被害弁済」は多くのメリットとデメリットがあります。被害弁済は、加害者が行う・行わないを選択するのも自由ですし、被害者がわが受領する・しないを選択するのも自由です。

もし、犯罪被害者であるあなたが加害者側から被害弁済の申し入れをされた場合、応じるべきかどうか?と悩む人も多いのではないでしょうか。次に、被害者目線で「被害弁済を提案されたときはどうすれば良いのか?」について解説をします。

被害弁済の流れ

加害者が被害者に対して被害弁済を希望した場合、加害者の担当弁護士に対して「被害弁済を行いたい」という旨を伝えます。その後、弁護士は犯罪被害者であるあなたに接触し、「加害者が被害弁済を行いたいと申し出ている」と話を持ちかけてくるでしょう。

最初に話を持ちかけてくる弁護士は「加害者の弁護士」である点に注意しましょう。加害者の弁護士は、加害者が少しでも刑罰を軽くするためにどうすれば良いか?と考え、弁護士倫理に基づいて適切な弁護活動を行います。

つまり、加害者のことを最優先に考えていることを覚えておくと良いでしょう。本記事でも解説しているとおり、被害弁済は量刑判断や処分に多大な影響を与えます。そのため、弁護士は被害者に対して「どうすれば被害弁済に応じてくれるだろうか?」と考え、提案をします。

そのため、被害者であるあなたは相手弁護士の話を鵜呑みにするのではなく、まずは自分で調べたり弁護士に相談をしたりするなどして、必ず自分で判断しましょう。

なお、被害者であるあなたが加害者側から提案された被害弁済に納得をした場合は、弁済金が指定口座に振り込まれます。受領を拒否した場合は、弁済金は支払われません。

メリット・デメリットを把握する

被害弁済は、被害者にとってもメリットとデメリットがあります。そのため、加害者側から被害弁済を提案された場合は、初めにメリットとデメリットについて把握したうえで、受領するかどうかを判断するべきでしょう。

まず、被害弁済を受領するメリットは「被害額の補償を受けられる」という点です。被害弁済を提案してくるということは、実損額等の補填をしようと考えています。たとえば、犯罪被害で100万円を失ったとしても、100万円を確実に取り戻せる点がメリットです。

また、被害弁済は犯罪被害によって実際に奪われた損失のみならず、慰謝料の請求も可能です。いずれ、最終的には民事訴訟にて請求を行うこともできますが、加害者側に財力がなければ、結局弁済を受けることができません。

この点、被害弁済を受領することによって、確実に弁済を受けられる点が最大のメリットであると言えるでしょう。

一方で、デメリットは「加害者に対して少なからず有利な情状を与える要因となる」ということです。本記事で解説しているとおり、被害者に対する被害弁済や示談交渉の成立は、加害者にとって非常に有利な情状となり得ます。

そのため、加害者が不起訴処分となったり執行猶予付きの判決が下されたりする可能性もあるため、そのことを頭に入れておかなければいけません。

【執行猶予とは】
執行猶予付き判決とは、刑罰を直ちに執行せずに一定期間猶予することを言います。たとえば、「懲役1年執行猶予3年」の場合は、懲役1年という刑罰を直ちに執行せずに、3年間猶予します。この間は、社会に戻って生活を送り、罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役刑が執行されることはありません。

もし、加害者に対して「厳罰を望む」という強い意思があるのであれば、被害弁済に応じるべきではないでしょう。少しでも、「更生を望みたい」と考えるのであれば、被害弁済を受け入れてあげても良いでしょう。

もし、被害弁済に応じるべきかどうかわからない、被害弁済の額が妥当なのかわからないという場合は、弁護士へ相談をしてみるのもひとつの手段です。法律の専門家の意見を聞き、自分の意見を交えたうえで最終的な決断をすると良いでしょう。

被害弁済を受け入れる

最終的に判断すべきは、被害弁済を受領するかどうかです。被害弁済を受け入れることを決めた場合は、相手方の弁護士に対して「被害弁済を受け入れる」と伝えれば、指定口座に被害弁済額が振り込まれます。

被害弁済によって得られる金額は、実際に発生した損害額のほか、慰謝料の請求も可能です。不明な点がある場合は、必ず自分で選任した弁護士へ相談をするようにしましょう。加害者側の弁護士に相談をしても相手方にとって有利な判断しかなされない可能性が高いためです。

被害弁済を断る

処罰感情が厳しい場合は、被害弁済を断っても構いません。仮に断ったとしても、後に被害者請求を行ったり民事訴訟を提起したりすることもできます。「絶対に許せない」という気持ちがあるのであれば、応じないという選択も検討すべきでしょう。

被害弁済に関するよくある質問

被害弁済に関するよくある質問を紹介します。

Q.被害弁済を受けられる人は犯罪被害者だけですか?

A.被害弁済を受けられるのは、基本的に犯罪被害者のみです。

そもそも「被害弁償(被害弁済)」とは、刑事事件を起こした加害者が被害者に対して行う弁償のことを指します。そのため、いわゆる「弁償」とは異なる意味で使用されることが前提です。

たとえば、一般的に「弁償」とは、人のものを誤って壊してしまった場合などに使用される言葉です。具体的には、「自分の子どもがキャッチボールをしていて人の家の窓を割ってしまった」というケースで、親が「弁償」をすることがあります。

この場合の弁償と刑事事件における被害弁償は、まったく異なる意味で使用されることを覚えておいてください。

一般的な弁償は、当然、犯罪被害者ではなくても請求することができます。上記のケースであれば、子どもの親に対して窓ガラスを直すための費用を請求することが可能であり、これを「弁償」と言います。

なお、犯罪被害者でもあり、自分自身も犯罪被害者である場合は、被害弁済を受けられる可能性は低いです。

たとえば、あなたが銀行口座を人に売却し、売却した口座が詐欺に使用されたとしましょう。この場合、あなたの銀行口座は凍結され、今後、銀行口座を所有することができなくなってしまいます。さらに、あなた自身も刑事罰を受けることになります。

上記の場合、銀行口座が凍結されたことによる被害や今後の影響を考慮して、「被害弁済を受けたい」と考えるかもしれません。しかし、そもそも口座を売却すること自体が違法であり、立派な犯罪です。そのため、この場合は被害弁済を受けられません。

Q.被害弁済を行えば不起訴処分となりますか?

A.被害弁済を行っても、必ずしも不起訴処分になるとは限りません。

被害弁済を行うことによって、情状に影響を与え、結果的に不起訴処分となったり量刑が軽くなったりする可能性は十分に考えられます。しかし、必ずしも不起訴処分を得られるとは限りません。

そもそも不起訴処分とは、検察官が公訴しない手続きを指します。仮に、罪を犯した事実があったとしても、「起訴猶予」となる可能性があります。起訴猶予は、罪を犯した事実は明らかではあるものの、起訴して裁判を行う必要がないと判断された場合に下される処分です。

不起訴処分は前科が残らないため、その後に与える影響も最小限に抑えられたり、早期の釈放が可能となる点がメリットです。そのため、不起訴処分を得るために可能な限りのことを行いたいと考えるのは当然でしょう。

しかし、被害弁済を行ったからといって必ずしも不起訴処分(起訴猶予)となるとは限りません。犯罪の態様や被害者の処罰感情、これまでの前科・前歴を考慮したうえで検察官が判断をします。

なお、仮に起訴されてしまったとしても、被害弁済を行った事実が情状に影響を与え、結果的に執行猶予付きの判決となる可能性もあるでしょう。

【執行猶予とは】
執行猶予付き判決とは、刑罰を直ちに執行せずに一定期間猶予することを言います。たとえば、「懲役1年執行猶予3年」の場合は、懲役1年という刑罰を直ちに執行せずに、3年間猶予します。この間は、社会に戻って生活を送り、罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役刑が執行されることはありません。

Q.詐欺の受け子・出し子という立場でも全額の被害弁済は必要ですか?

A.被害弁済の費用は法律によって決められていないため、必ずしも全額である必要はありません。

被害弁済の相場は「被害額+慰謝料」です。たとえば、詐欺で100万円を詐取する事件に関与した場合は、100万円+慰謝料の請求が相場であるということです。

しかし、詐欺の受け子・出し子と呼ばれる役割を担っている人たちは、いわゆる末端であり、受け取れる報酬もわずかです。仮に、100万円の詐欺に成功したとしても数万円程度の報酬しか得られないでしょう。

それにもかかわらず、100万円+慰謝料の弁済が必要なのか?と疑問に思う気持ちもわかります。しかし、被害者としては加害者側の事情は知りません自分が詐取されたお金を取り戻したいという気持ちが強いでしょう。

そのため、基本的には立場に関わらず、事件に関与した人たちで被害者に対する弁済を行うのが妥当であると考えておいたほうが良いです。とはいえ、強制ないですし、金額も決められているわけではないため、弁護士とよく話し合って決定すると良いでしょう。

なお、被害弁償の金額が著しく低い場合は、被害者側から受領を拒否されてしまう可能性もあります。結果的に情状による減刑を得られなくなるため注意しましょう。

Q.被害弁済は任意ですか?強制ですか?

A.被害弁済は任意です。

被害弁済は必ずしも行わなければいけないものではなく、あくまでも加害者側の気持ちによるものです。そのため、経済的な余裕がない、そもそも反省をしていないなど思うところがある場合は、被害弁済をしなくても良いです。

ただし、最終的には被害者請求によって賠償請求が行われる可能性があります。最終的には民事訴訟へと発展し、ほとんどの確率で支払い命令が下されるでしょう。

そのため、被害弁済を行っていなくても、いずれ賠償をしなければいけません。遅かれ早かれ弁済を行わなければいけないため、あらかじめ行っておいたほうがメリットは大きいでしょう。

Q.被害弁済を断ったうえで民事訴訟を起こしても良いですか?

A.問題ありません。

加害者から被害弁済を提案された場合、受領するか断るかは被害者側の自由です。とくに処罰感情が厳しい場合は、被害弁済を断って良いでしょう。受領してしまうと、加害者側の情状に影響を与え、処分や刑罰が軽くなる可能性が高いためです。

しかし中には、「被害弁済を断った場合、一切の弁済を受けられないのではないか?」と不安を感じている被害者の方も多いでしょう。

その点は安心してください。被害弁済を断った場合であっても、被害者請求による賠償請求を求めることができます。被害者請求による賠償請求は「損害賠償命令請求」と言い、刑事裁判の終了と同時に開始されます。原則4回程度の審理で結審し、加害者側に賠償命令が下される流れです。

犯罪事実があった以上、ほとんどの確率で賠償命令が下されるでしょう。しかし、損害が発生したことを証明する義務が被害者側にあります。何かと煩わしいため、必ず弁護士へ相談をしたうえで手続きを進めていくことを強くおすすめします。

損害賠償命令請求は、原則2,000円で行うことができます。賠償命令が下されれば加害者に対して金銭を請求することはできますが、相手に財産がなければ弁済を受けることは難しいため注意してください。

まとめ

今回は、被害弁済について解説しました。

被害弁済は、犯罪加害者が被害者に対して弁済を行うための制度であり、被害者が受領した場合は情状に良い影響を与え、処分や刑罰が軽減される可能性があります。

とはいえ、被害者の感情次第なところであり、必ずしも受領されるとは限らない点に注意が必要です。また、示談とは異なる性質を持つ制度であるため、混同しないようにすることも注意しましょう。

被害弁済を検討している人は、本記事を参考にしていただいき、弁護士へ相談をしたうえで検討していくと良いでしょう。

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