精神障害で刑事責任なしと判断されたらどうなる?刑事責任能力について詳しく解説

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刑事責任能力とは、刑事事件における責任能力のことを指します。刑事責任能力がなければ、当然刑事罰を問うことはできません。とくに、精神障害がある人で、物事の判断をうまくできない人の場合、刑事責任を問うことができない可能性があるのです。

この記事では、刑事責任能力とは何か?精神障害がある場合はどうなるのか?について詳しく解説しています。刑事責任能力と精神障害の関係性について知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

刑事責任能力とは

刑事責任能力とは、刑事事件における責任能力の有無のことを指します。刑事事件においては、責任能力のない人を罪に問うことができません。そのため、責任能力の有無が非常に重要になってきます。

刑事責任能力の有無を判断するうえでのポイントは「自分が犯した罪を認識できているかどうか」です。もし、認識できていないと判断されれば、刑事責任を問うことはできません。

なお、精神障害があるからといって直ちに「刑事責任能力なし」と判断されるわけではありません。精神障害の程度や犯行時の状況等を考慮したうえで刑事責任能力の有無を判断していくこととなります。

まずは、そもそも「刑事責任能力とは何か?」について詳しく解説をします。

刑事事件における責任能力の有無

刑事責任能力とは、刑事事件における責任能力の有無のことを指します。刑事責任能力とは、刑事上の責任を負うための能力のことです。

たとえば、アメリカ等では幼児が拳銃を誤射してしまい、母親等を殺してしまう事件が多く発生しています。幼児の場合は、当然に母親を殺そうとする意思はなく、拳銃に触れることの危険性を理解できていません。そのため、日本で上記のようなことが起こった場合は、刑事責任を問うことはできません。

刑事に問う責任能力とは、上記のように犯罪であることを認識してその行為を行っているかどうか?という基準で判断をします。

犯罪であることを認識せずに行ってしまった行為である場合、その人に対して刑事責任を問うことはできないのです。そのため、日本でも犯行当時の精神状況に疑いがある場合は、精神鑑定を行うなどして刑事責任能力の有無を判断します。

自分の犯した罪を認識できているか

刑事責任能力とは、「自分の犯した罪を認識できているかどうか」で判断されます。先ほども紹介したとおり、たとえば幼児が誤射して人を殺してしまったとしても、幼児が自分の犯した行為が犯罪になり得る行為であることを認識していたとは考えられません。

そのため、「自分の罪を認識できていなかった」と判断されるため、当然刑事責任能力はないと判断されます。当然、何らかの罪に問われることもありません。

日本でも14歳未満の少年(少年法では性別に関わらず少年と呼びます)の場合は、どのような犯罪を犯したとしても、刑事責任能力はないと判断されます。ただし、日本の場合は刑事責任を問うことはできなくても、更生するために矯正施設への入院等の保護措置が取られます。

刑事責任能力なしと判断されるケース

刑事責任能力なしと判断されるケースは、大きく分けて以下の3つです。

  • 心神喪失
  • 心神耗弱
  • 14歳未満の少年

次に、日本国内において「刑事責任能力がない」と判断されるケースについて解説します。精神障害が犯行に影響を与えた場合は、心神喪失もしくは心神耗弱となる可能性があります。

心神喪失

心神喪失とは、精神障害の影響で物事の善悪を判断できない状況であることを指します。たとえば、「人を殴る行為」は当然に悪い行為であり、犯罪であることは多くの人が認識できているはずです。

しかし中には、精神障害等の影響で「人を殴る」という行為が良いことなのか悪いことなのか判断できない人もいるのです。もし、善悪の判断も付かない状況で人のことを殴ってしまった場合は、刑事責任能力がないと判断されるため、刑事罰を科すことができません。

なお、心神喪失状態は必ずしも精神障害者に限っているわけではありません。たとえば、アルコールの影響で酩酊状態になっているケースも考えられます。この場合もいわゆる「心神喪失」となります。

中には、違法薬物の影響で善悪を判断できない人もいるでしょう。違法薬物の種類によっては、幻覚や幻聴による影響から人に危害を加えてしまうケースもあります。この場合も心神喪失となります。

いずれの場合も、心神喪失状態にあったことが認められた場合は、刑事責任能力なしと判断されます。つまり、刑事罰には問われません。

極端な例をあげるとすれば、「アルコール依存症の人が過度な飲酒の末、物事の善悪を判断できずに同居人に暴行を加えた」となった場合、心神喪失で刑事責任を問えません。

とはいえ、アルコールや違法薬物等による心神喪失を証明するのは困難であり、あまり現実的ではありません。とくにアルコールの場合は、「異常酩酊」さらには「病的酩酊」であることが前提となるため、現実的には難しいです。

そして、精神障害を持っているからといってどのような犯罪を犯しても心神喪失となるわけではありません。あくまでも「物事の善悪を判断できない状態」であったと認められなければ、心神喪失にはなりません。

心神耗弱

心神耗弱とは、精神障害等が原因で「物事の善悪を判断する能力や行動抑制能力が著しく低下している場合」に成立します。心神耗弱が認められた場合は、一部刑事責任能力に問うことができるものの、罪は大幅に軽減されます。

たとえば、「人を殺す」という行為は、どのような理由があれ100%悪い行為であると認識している人が大半でしょう。しかし、心神耗弱者は「悪いことなのかもしれない」程度にしか考えられません。中には、悪いことなのか良いことなのかも深く考えられない人もいます。

上記の場合、少なからず「悪いことかもしれない」と考えられているため、その部分についてのみ刑事責任能力を問うことができます。

一方で、心神喪失者の場合は「悪いこと」という認識すらない状態です。つまり、善悪を考える以前の状態であるため、刑事責任能力を問えないのです。心神耗弱者であれば、少なからず「悪いことかもしれない」程度で考えられているため、一部刑事責任能力を問えるのです。これが心神喪失と心神耗弱の大きな違いです。

14歳未満の少年

日本の法律では、14歳未満の少年は刑事責任能力がないと判断されます。そのため、極端な例で言うと人を殺してしまったとしても、刑事責任能力を問うことができません。つまり、逮捕されることもなければ、刑務所へ収監されることもありません。

とはいえ、健常者の14歳であればある程度、物事の善悪は判断できます。そのため、刑事責任に問えないとしても、その少年ごとに対して適切な保護措置を行うものとされています。

そのため、14歳未満の者が犯罪を犯した場合は、たとえば少年院に入院したり、児童自立支援施設で共同生活を送ったりなどさまざまな保護措置が検討されます。つまり、14歳未満であることを理由に何をしても許されるわけではありません。

精神障害がある場合は無罪になるのか

精神障害のある人が犯罪を犯した場合、無罪になるのか?と言えば一概には言えません。可能性を大きく分けると以下のとおりです。

  • 無罪となる可能性
  • 減刑される可能性
  • 減刑されない可能性

精神障害であることを理由に無罪となったり、減刑されたりする可能性はあります。しかし、いずれもされない可能性もあるため一概には言えません。次に、どういった場合にそれぞれの可能性が選択されるのか?について詳しく解説します。

無罪となる可能性がある

心神喪失と判断された場合は、無罪となる可能性があります。まず、犯行当時の精神状態に疑いがある場合は、精神鑑定というものを行います。

精神鑑定の結果、心神喪失と判断された場合は無罪となる可能性があるでしょう。そもそも、心神喪失と判断された場合は、刑事責任を問うことができません。そのため、その人が罪を犯したと疑うに足りる明らかな証拠があったとしても無罪となります。

極端な話ですが、たとえば連続殺人鬼が精神鑑定を受けた結果、犯行当時心神喪失であったことが証明されれば、無罪判決となるのです。そもそも、起訴される前に心神喪失が明らかとなった場合は、起訴されることもありません。

つまり、刑事裁判を待たずして罪に問われないことが確定するケースもあるのです。ただし、無罪になったからといって、直ちに社会に戻れるわけではありません。通常は、入院等必要な措置を行います。

減刑される可能性がある

精神鑑定の結果、心神耗弱として認められた場合は、減刑されます。心神耗弱の場合は、罪を犯しているという自覚がなくても、「悪いことかもしれない」と考えられる能力を少なからず有している人です。

そのため、完全に責任能力がないと判断するのではなく、少なからず刑事責任を問えると判断されるのです。とは言え、完全責任能力ありと判断された場合と比較して、少なからず精神的な障害が犯行に影響を与えたことを考慮し、減刑されるのです。

減刑されない可能性もある

精神障害のみが原因で、必ずしも減刑されたり無罪判決となったりするわけではありません。犯行に影響がない程度の障害である場合は、減刑されない可能性もあるため覚えておきましょう。

つまり、精神障害者であることを理由に何をしても無罪になるわけではありません。精神鑑定はとても正確であるため、精神科医を騙すことはできません。

刑事責任能力がない場合に無罪となる理由

刑事責任能力がない場合は、無罪判決となります。しかし、このことに納得ができない人のほうが多いのではないでしょうか。「なぜ、精神障害で刑事責任能力がないと判断されるのか?」「なぜ、刑事責任能力がなければ、刑事罰を科すことができないのか?」と考えている人も多いでしょう。

とくに被害者や被害者遺族のことを思うととくにこのように思う人も多いです。しかし、刑事責任能力を問うことができない場合に無罪判決となるには、大きな理由があります。次に、刑事責任能力がない場合に無罪となる理由について詳しく解説します。

罪に問うためには「構成要件該当性」「違法性」「有責性」が必要

そもそも罪を問うためには、「構成要件該当性」「違法性」「有責性」の3つを満たしていなければいけません。ひとつひとつ詳しく解説します。

構成要件該当性とは、犯した罪が刑法に定められている犯罪のいずれかに該当していることを指します。たとえば、殺人罪に問うためには「殺意があること」「被害者の意思に反していること」「人を死亡させていること」の要件を満たしていなければいけません。

上記いずれかの要件を満たしていなかった場合は、殺人罪に問うことができません。つまり、すべての要件を満たしていることこそが「構成要件該当性」であるのです。

そして、違法性とは刑法による明文はありませんが、違法性がない場合は罪に問えないとされています。たとえば、正当防衛のようなケースが該当するでしょう。

正当防衛とは、防衛の意思を持って防衛行為を行った場合は罪に問われないというものです。極端な話ですが、仮に相手を殺害してしまったとしても、その行為が正当な防衛であると認められた場合は、違法性がないため刑事罰に問われません。

有責性とは、いわゆる「刑事責任能力」のことを指します。本記事で何度もお伝えしているとおり、加害者側に刑事責任能力がなければ罪に問うことができません。逆に、刑事責任能力がある場合は、刑事罰を与えることができるのです。

つまり、3つすべての要件を満たして初めて刑事責任を問うことができるのです。一つでも欠ける場合は、刑事罰を問うことはできません。精神障害による心神耗弱もしくは心神喪失が認められた場合は、有責性が認められないため罪には問えません。

刑事責任能力なし=物事の善悪を判断できないため

刑事責任能力なしと判断されるということは、物事の善悪を判断できないということです。健常者からすると、想像のできないことかもしれません。

しかし、現実に大人の見た目をしていたとしても、さまざまな障害によって物事の良し悪しを判断できず、結果的に犯罪を犯してしまうケースもあるのです。被害者や被害者遺族からすると「関係ない」と思うかもしれませんが、日本の法律ではそのように定められています。

たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんを想像してみましょう。当然社会を知らず、善悪もわかりません。言葉も理解できていません。これを「当然である」と考えるでしょう。

しかし、見た目は大人であっても、上記のような状況の人がいるのです。そのような人が罪を犯したとしても、善悪を判断できていないため、罪に問うのはあまりにも酷です。罪を犯してしまった以上、直ちに社会に戻ることはできずとも、適切な治療をすることが最適であると考えられています。

精神障害で刑事責任能力なしと判断された場合のその後

精神障害で刑事責任能力なしと判断された場合、最終的には無罪判決が言い渡されます。しかし、無罪判決が言い渡されたからといって、直ちに釈放されて社会生活に戻れるわけではありません。

一般的な流れとしては、審判を受けたうえで指定医療機関への入院や通院をして社会復帰を目指します。次に、精神障害で刑事責任能力なしと判断され、無罪判決となった場合のその後について詳しく解説します。

審判を受ける

心身衰弱によって無罪判決が下された場合、直ちに釈放されるわけではありません。殺人や放火等のような重大な事件である場合は、検察官から審判の申し立てが行われます。

その後、審判にて以下のうちいずれかの決定がなされます。

  • 入院
  • 通院
  • 入院・通院もしない

重大な事件を起こしているにも関わらず、心身衰弱が認められて無罪となった場合は、ほとんどのケースで入院となります。入院の決定がなされた場合は、閉鎖病棟に強制的に入院しなければいけません。

退院できたとしても、通院が義務付けられるケースが多いです。いずれにせよ、精神障害の寛解を目指した治療等を行うことになります。

指定医療機関への入院・通院

審判にていずれかの決定がなされた場合は、入院もしくは通院をしなければいけません。これは強制です。

罪を犯す前であれば、病院へ通う通わない、入院するしないは自身や家族、あるいは都道府県知事等が決定する必要がありました。ある程度は本人の意思も尊重されるため、人に危害を及ぼす可能性があっても、措置入院までなかなかできないのが現実です。

しかし、無罪判決を受けたうえで審判を受け、入院の決定がなされた場合は強制的に入院や通院の決定がなされるのです。

精神保健観察を受ける

精神保健観察については「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という法律によって定められています。社会復帰を目的として、精神障害の治療を行うために指導をしたり観察をしたりするための法律です。

つまり、罪を犯して心神喪失で無罪判決となった場合は、治療をする目的で精神保健観察を受けるということです。

精神障害の刑事責任能力に関するよくある質問

精神障害の刑事責任能力に関するよくある質問を紹介します。

Q.罪を犯しても精神障害を装えば罪を免れるのですか?

A.精神鑑定の結果、心神喪失であることが証明されなければいけません。

精神障害を装っていたとしても、実際に精神障害等が原因で犯行当時に心神喪失状態であったことが証明されなければいけません。精神障害を装って心神喪失を装うことは簡単なことではありません。ほぼ不可能であると考えていたほうが良いです。

つまり、精神障害を装っていたところで現実的に無実になるのは不可能です。

Q.どのような精神障害でも減刑されるのですか?

A.精神障害があることを理由に減刑されることはありません。

精神障害を持っていたとしても、減刑されるわけではありません。あくまでも、心神耗弱もしくは心神喪失状態にあったことが証明されなければいけません。

善悪の判断ができる状態なのであれば、現実的に減刑は見込めません。また、精神障害を理由に何をしても良いわけではない点に注意が必要です。善悪を判断できるのであれば、健常者同様に罪に問われます。

Q.精神障害で無罪となり、入院した場合はいずれ社会に戻れるのですか?

A.可能性はあります。

心身喪失で無罪判決となった人は、初めに入院となるケースが大半です。入院後、必要な治療等を行って最終的には退院を目指します。

そもそも、入院をさせるのは治療をして社会復帰を目指すことを目的としています。刑務所は罰を与える場所である一方で、入院は寛解を目指すための治療です。具体的にどのくらいの期間で社会復帰できるかはケースバイケースです。

しかし、ゴールは社会復帰することであることであることを覚えておきましょう。

Q.刑事責任能力なしと判断された場合、民事上の責任を負わすことはできますか?

A.原則できません。

心神喪失しているものに対しては、刑事罰のみならず民事上の責任を負わすことも原則できません。ただし、自分自身の過失等が原因で心神喪失になっている場合は、請求することができます。

たとえば、過度な飲酒が原因で心身喪失している場合は、自分自身の過失であると言えます。そのため、加害者に対して民事上の責任を負わせることは可能です。

Q.精神鑑定はすべての被疑者に対して行われるのですか?

A.すべての被疑者ではありません。

精神鑑定を行うのは、刑事裁判にて刑事責任能力が争点になりそうな場合にのみ行われます。

まとめ

今回は、精神障害がある場合の刑事責任能力について解説しました。

精神障害があるからといって、必ずしも刑事責任能力がないとは言い切れません。犯行当時に善悪の判断ができたかどうかについて診断を受けたうえで、刑事責任能力が決定します。

刑事責任能力がないと判断されれば、無罪判決となります。また、起訴される前であれば、起訴されないという可能性もあります。いずれにせよ、刑事責任を問うことはできません。

今回、刑事責任能力について詳しく解説しました。精神障害があるからと言って、何をしても良いわけではありません。当然、刑事責任能力があれば罪に問われる可能性があることを覚えておきましょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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