「盗聴」という言葉を聞くと、多くの方が「違法なのでは?」「盗聴したら捕まる?」と不安に思うのではないでしょうか。
しかし、日本の法律では「盗聴罪」という犯罪は存在せず、盗聴行為そのものが直ちに違法となるわけではありません。たとえば、自宅での家族の会話を録音したり、自分が同席している会話を録音することは、基本的に法律違反にはなりません。
とはいえ、盗聴器を設置するために他人の家に無断で入れば「住居侵入罪」、他人の持ち物に盗聴器を取り付ければ「器物損壊罪」や「有線電気通信法違反」に問われます。また、盗聴した音声を第三者に漏らした場合は「プライバシーの侵害」や「名誉毀損」に問われるリスクがあります。
このように、盗聴の違法性はケースによって大きく異なります。この記事では「盗聴は違法なのか?」というについて、どのような行為が違法となるのか、また逆に違法にならないケースはどのようなものか、法律の観点から詳しく解説していきます。
盗聴は違法ではない
人の話などを盗み聞く行為を一般的に「盗聴」と言いますが、盗聴行為は違法ではありません。そもそも、この日本において「盗聴罪」のような法律は存在しません。まずは、盗聴行為の違法性について詳しく解説します。
「盗聴罪」は存在しない
日本の法律では「盗聴罪」といった犯罪は存在しません。そのため、人の会話を盗み聞いたり盗聴器を設置したりしても罪に問われることはありません。
たとえば、自分の子どもがいじめ被害に遭っている可能性を考え、子どものカバンの中に勝手に盗聴器を入れておいた。という行為があったとしましょう。この行為もいわゆる盗聴です。しかし、罪に問われることはないのです。
ただし、盗聴行為が罪に問われる可能性もあるため注意しなければいけません。詳しくは後述しますが、たとえば固定電話に盗聴器を仕掛けるような行為は、「有線電気通信法違反」となります。
他にも、盗聴器を仕掛ける目的で人の住居等に侵入した場合は、住居侵入罪という罪に問われる可能性があります。
このように、盗聴そのものに対する違法性はないものの、盗聴するために行った行為や盗聴器を仕掛けた場所等で罪に問われる可能性があるため注意しなければいけません。
盗聴をしても違法ではない
盗聴行為に違法性はありません。自分や自分の身内を守る目的で盗聴を行うケースもあります。そのため、盗聴行為自体を規制する法律はありません。
たとえば、配偶者が自宅内で不倫をしている可能性を疑い、自分の自宅内に盗聴器を仕掛けて盗聴をしていたとしましょう。この場合も盗聴行為であることに変わりはないものの、当然罪に問われることはありません。
あくまでも自分を守るために行われた行為であり、罪に問う必要がないですし、そもそも罪に問える法律も存在しません。
録音をしても違法ではない
録音行為も違法ではありません。たとえば、話し合いの場を相手に内緒で録音していたとしても、罪に問われることはないため安心してください。
後から「言った・言わない」の水掛け論になる可能性を考慮して、とくに話し合いの場ではこっそり録音しておくのもひとつの防衛策になり得ます。積極的に活用することで、後のトラブルを回避できる行為であり、法律によって規制する必要がありません。
盗聴が犯罪となるケース
盗聴行為自体に違法性はないものの、以下に該当する場合は罪に問われる可能性があるため注意しなければいけません。
- 住居侵入した場合
- 器物を損壊した場合
- 携帯電話等を盗聴した場合
- ストーカー行為として盗聴した場合
- 盗聴内容で脅迫した場合
次に、盗聴行為が違法となるケースについて詳しく解説します。
住居侵入した場合
盗聴器を仕掛ける目的で他人の自宅等に侵入した場合は、住居侵入罪が成立します。たとえば、彼女や彼氏の浮気を疑い、相手の部屋に盗聴器を仕掛けた場合は「盗聴器を仕掛ける目的で住居に侵入した」ということになるため、犯罪として成立する可能性があるでしょう。
ただし、同棲している部屋に盗聴器を仕掛けた場合は、自分の自宅でもあるため住居侵入罪は成立しません。住居侵入罪が成立するのは、あくまでも「他人の住居や敷地へ侵入した場合」です。
なお、住居侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。懲役刑の可能性もある厳しい犯罪であるためくれぐれも注意しましょう。
器物を損壊した場合
盗聴器を仕掛けるために器物を損壊した場合は、器物損壊罪に問われる可能性があります。たとえば、盗聴器を仕掛けるためにコンセント部分を損壊した場合は、コンセント部分を破壊した罪(器物損壊罪)に問われることになるでしょう。
器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。罪に問われれば、懲役刑の可能性もある犯罪であるためくれぐれも注意しましょう。
携帯電話・固定電話を盗聴した場合
携帯電話や固定電話に盗聴器を仕掛けた場合は、有線電気通信法違反や電波法違反に問われる可能性があるため注意しましょう。
そもそも、携帯電話や固定電話を盗聴する行為自体に違法性はありません。ただし、電話回線に盗聴器を仕掛けて電話の内容を故意に受信して盗聴する行為は、有線電気通信法違反となり、1年以下の懲役もしくは20万円以下の罰金に問われる可能性があります。
そのため、携帯電話のように無線式の通信手段である場合は、有線電気通信法には抵触しません。つまり、携帯電話に盗聴器を仕掛けていたとしても、現行法で罪に問うことはできません。ただ、盗聴した内容を第三者に漏らした場合は、電波法に抵触するため注意しなければいけません。
なお、現在は振り込め詐欺対策で録音機能付きの固定電話を使用される人が増えています。このように自分にかかってきた電話を録音する行為は、盗聴ではないため当然違法性はありません。録音機能は振り込め詐欺対策としても有効であるため、積極的に活用しましょう。
ストーカー行為として盗聴した場合
ストーカー目的で盗聴を行った場合は、ストーカー規制法違反に問われる可能性があります。また、盗聴器を仕掛けた場所が相手の住宅であれば住居侵入罪、器物を損壊した場合は器物損壊罪に問われるため注意しなければいけません。
また、盗聴した内容をもとに相手を脅迫した場合は、脅迫罪に問われる可能性があります。
ストーカー規制法の法定刑は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。また、禁止命令を受けてもなお、ストーカー行為を繰り返した場合は、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」に問われます。
ストーカー規制法における禁止命令とは、法律に従って国(公安委員会)が出せる命令(行政処分)です。禁止命令が出されてもなお、ストーカー行為(盗聴行為)を繰り返した場合は、より重い刑罰が下されるため注意しましょう。
盗聴内容で脅迫をした場合
盗聴内容をもとに脅迫をした場合は、脅迫罪や恐喝罪等が成立する可能性があります。たとえば、人の会話を盗聴し、外部に漏らすことのできない内容を聞き取ったとしましょう。
その内容をもとに「〇〇の情報を外部に漏らされたくなければお金を払え」といえば恐喝罪が成立します。脅した場合は脅迫罪、盗聴した内容を元に性交渉等を求めた場合は、強制性交等罪が成立するため注意しましょう。
盗聴行為で逮捕された場合の流れ
盗聴行為自体に違法性はないものの、逮捕される可能性があるため注意しなければいけません。万が一、逮捕された場合はどのような流れで事件は進んでいくのでしょうか。次に、盗聴行為で逮捕された場合の流れについて詳しく解説します。
逮捕
盗聴行為は逮捕される可能性があります。逮捕という行為は、罪を犯した疑いのある人の身柄を拘束するために行われる手続きです。逮捕には「通常逮捕」「緊急逮捕」「現行犯逮捕」の3種類があります。
通常逮捕は、一般的な逮捕方法であり逮捕状を請求したうえで逮捕を行う流れです。一般的には、ある日突然警察官が目の前に現れ、逮捕状を見せて逮捕をします。
緊急逮捕は、指名手配犯を発見した場合などすぐに逮捕状を請求できない状況下でも逮捕できる逮捕方法です。ただし、逮捕後は直ちに逮捕状を請求しなければいけません。
現行犯逮捕は、現行犯で罪を犯した場合に行われる逮捕方法です。盗聴器を仕掛けようとした場合など、その場で逮捕される可能性があるため注意しましょう。
いずれの場合も「逮捕」であることに変わりはありません。逮捕された場合は、逮捕から最大48時間以内の身柄拘束が可能となります。土日祝日などは関係なく、「逮捕による身柄拘束は48時間以内」という制限があります。
逮捕後は、警察署内にある留置所と呼ばれる場所に収監され、1日8時間を超えない範囲で取り調べを受ける流れです。当然、身柄拘束されている間は自宅へ帰ることはできないため、「学校へ行けない」「会社へ行けない」といった影響が発生するため注意しましょう。
勾留請求
逮捕から48時間以内に検察官へ送致しなければいけません。逮捕されている被疑者を送致することを「身柄付送致」と言います。身柄付き送致された被疑者は、さらに24時間以内に引き続き身柄拘束をする必要があるかどうかを判断され、裁判所に対して勾留請求が行われます。
勾留請求が認められた場合は、さらに10日間の身柄拘束が可能となります。さらに、勾留延長が認められるケースが一般的であるため、さらに10日間、合計20日間の身柄拘束が行われることになるでしょう。
つまり、逮捕から勾留までで最長23日間の身柄拘束が可能となります。この間は、警察署内にある留置所へ収監され、検察等の取り調べに応じなければいけません。当然、自宅へ帰ることはできないため、逮捕時同様に会社や学校へ行けないことによる影響が発生する可能性があります。
なお、逮捕されたからといって必ずしも勾留されるわけではありません。勾留は、逮捕時同様に「証拠隠滅・逃亡の恐れがあること」もしくは「その他勾留する必要があること」が条件です。
上記条件を満たしていない場合は、勾留請求が認められず在宅捜査となります。在宅捜査となった場合は自宅に帰れますが、検察官等の呼び出しには応じなければいけません。呼び出しに応じなかった場合は、勾留されてしまう可能性があるため注意してください。
起訴・不起訴の判断
勾留されている被疑者は、勾留期間中に起訴するか不起訴とするかを判断されます。盗聴行為の内容によっては、被害者と示談が成立し、不起訴処分となる可能性もあるでしょう。
万が一起訴されてしまった場合は、「正式起訴」と「略式起訴」のいずれかが選択されることとなります。正式起訴された場合は、刑事裁判を受けて判決が言い渡される流れです。略式起訴された場合は、刑事裁判が行われません。
略式命令という形で判決が言い渡され、判決に従って刑が執行されます。略式起訴となった場合は、100万円以下の罰金刑が確定します。刑事裁判が開かれないため、自分の意見を主張する機会が与えられません。
つまり、検察側の主張を全面的に受け入れ、刑罰も受け入れるということになります。一方で、早期に釈放が認められるため、被疑者にとってはメリットが大きい起訴方法であるといえます。
刑事裁判を受ける
正式起訴された場合は、刑事裁判が行われます。刑事裁判では、あなたが犯した罪について有罪か無罪かを判断します。盗聴行為の一環として起訴されている以上、何らかの犯罪が成立している可能性が高いです。
そのため、起訴された時点で無罪となる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。そのため、有罪であることを前提に、いかにして刑罰を軽減するかを考え、弁護活動を行っていく流れとなります。
最終的には、判決が言い渡されて判決に従って刑に服することとなります。
判決に従って刑に服する
判決が言い渡された場合は、判決に従って刑に服します。懲役刑であれば、一定期間刑務所に収監されます。ただし、執行猶予付の判決が言い渡された場合は、直ちに刑罰が執行されることはありません。
たとえば「懲役1年執行猶予3年」の刑罰が言い渡されたとしましょう。この場合、「懲役1年」という刑罰が直ちに執行されることはありません。3年間執行を猶予し、執行猶予期間中に罰金刑以上の刑罰が下されなければ、懲役1年の刑罰が執行されません。
一方で、執行猶予期間中に罰金刑以上の刑罰が確定した場合は、執行を猶予されていた懲役1年の刑罰が加算されるため注意しましょう。
盗聴行為で問われる刑事罰以外のリスク
盗聴行為で問われる刑罰以外のリスクには、以下のものもあります。
- 社会的なリスク
- 民事損害賠償請求のリスク
次に、盗聴行為で問われる刑事罰以外のリスクについても詳しく解説します。
社会的なリスク
盗聴行為で罪に問われた場合は、長期勾留リスクが発生します。逮捕から勾留までで最長23日間、その後起訴されて保釈が認められなければ、さらに長期間の身柄拘束が発生します。さらに懲役刑となれば、長期間の身柄拘束が発生するでしょう。
長期間の勾留は、会社へ行けない、学校へ行けないなどさまざまな影響が発生するでしょう。解雇となったり退学処分となったりする可能性もあるため注意しなければいけません。
また、有罪判決が確定した場合は前科が残ります。前科による影響も懸念されるため、大きな社会的リスクが発生すると思っておいたほうが良いでしょう。
民事損害賠償請求のリスク
盗聴行為は、民事損害賠償請求のリスクがあります。たとえば、盗聴されていた被害者が精神的苦痛を訴えた場合、慰謝料請求が行われるでしょう。他にも、盗聴によって名誉を毀損された場合や財産的損害等による賠償請求が行われる可能性もあります。
罪を犯した場合は、刑事罰のみならず民事上の責任も発生することを覚えておきましょう。
盗聴の違法性に関するよくある質問
盗聴の違法性に関するよくある質問を紹介します。
Q.相手に秘密で電話の内容を録音する行為は違法ですか?
A.違法ではありません。
相手対自分の電話の内容を録音する行為は盗聴ではありません。そのため、何らかの罪に問われる可能性はありません。しかし、携帯電話や固定電話に盗聴器を仕掛けた場合は、有線電気通信法違反や電波法違反に問われる可能性があるため注意しましょう。
あくまでも「盗聴器を仕掛けた場合」です。盗聴器は、第三者の会話内容等を盗み聞くために行われる行為です。そのため、録音行為はそもそも盗聴行為ではなく、罪に問われることのない行為であると言えます。
なお、電話内容の録音は詐欺防止やトラブル防止の観点から見ても有効な手段です。そのため、とくに重要な会話を電話上でやり取りする場合は、積極的に録音機能を活用したほうが良いでしょう。
Q.犯罪の証拠を集めるために盗聴する行為は合法ですか?
A.違法・合法で判断をするのであれば、違法となる可能性が高いです。
そもそも、本記事で何度もお伝えしている通り、盗聴行為自体に違法性はありません。ただし、盗聴を行うために行った行為次第では違法となる可能性があります。
たとえ、犯罪の証拠を集める目的で行った行為であっても、その行為自体に違法性がある場合は違法となるため注意しなければいけません。また、配偶者等の浮気調査の目的で盗聴器等を仕掛けた場合も住居侵入等を行っていた場合は、違法です。
なお、違法に取り付けた盗聴器によって証拠を得られた場合、証拠能力として有効なのか?無効なのか?の判断は別で考えられます。判断基準としては「著しく反社会的な手段」であるかどうかによって、有効・無効の判断がなされると思っておきましょう。
Q.壁に耳を押し当てて隣人の声を聞くのは違法ですか?
A.何らかの法律に抵触する可能性は低いでしょう。
本記事で解説している通り、盗聴行為自体に違法性はありません。そして、「壁に耳を押し当てるという行為」は、何らかの法律に抵触しているわけではないため、犯罪としては成立しません。
しかし、壁に耳を押し当てて聞いた内容を元に隣人を脅迫したり金銭を要求したりした場合は、脅迫罪や恐喝罪が成立します。その他、無理に聞いた情報を元に性交渉等を求めれば、不同意性交等罪などの犯罪が成立するため注意しましょう。
Q.パワハラの証拠集めでICレコーダーを持ち歩いてます。違法ですか?
A.違法ではありません。
ICレコーダーは会話を録音する目的で使用される機器です。そのため、会話を録音するために使用した場合は、違法ではありません。
ただし、盗聴を目的としてICレコーダーを持ち歩き、盗聴をする目的で人の住宅等に侵入し、実際に録音をして盗聴をした場合は違法です。この場合は、住居侵入罪が成立します。
先ほども解説したとおり、たとえ犯罪の証拠を集める目的であっても、盗聴するために何らかの犯罪を犯した場合は罪に問われます。そのため、たとえパワハラの証拠を集める目的であっても、違法行為があった場合は罪に問われる可能性があります。
ただし、他人の会話を盗聴するのではなく、自分に対するパワハラ行為を録音する行為であれば、違法ではありません。また、録音された言葉等は証拠として有効であるため、積極的な利用を検討しましょう。
Q.防犯目的の盗聴や盗撮は合法ですか?
A.合法です。
防犯目的の盗聴や盗撮は合法です。たとえば、自分の自宅に盗聴器を仕掛けておいたり防犯カメラを仕掛けておいたりしても違法ではありません。
まず、盗聴行為は盗聴をするために行った行為や、盗聴によって得られた情報を元に脅迫したり金銭を要求したりした場合に、犯罪として成立します。本記事で何度もお伝えしているとおり、盗聴行為自体に違法性はありません。
そして、盗撮行為は迷惑防止条例という法律によって規定されていますが、犯罪として成立するには「人が通常衣服を脱ぐ場所」や「公共の場所」で行われた場合です。そして、通常、衣服等で隠れている場所を撮影した場合に成立します。
つまり、防犯目的で監視カメラ等を設置・撮影する行為は、違法ではありません。むしろ、防犯目的として有効であるため、積極的に活用するべきでしょう。
まとめ
今回は、盗聴の違法性について解説しました。
盗聴行為は日本の法律では「盗聴罪」として処罰されることはなく、基本的には違法ではありません。しかし、盗聴器を設置するために他人の住居に無断で侵入すれば住居侵入罪、器物を破壊すれば器物損壊罪が成立します。また、固定電話に盗聴器を仕掛ければ有線電気通信法違反、ストーカー目的で盗聴すればストーカー規制法違反に問われる可能性があります。
録音についても、会話の録音自体は違法ではなく、証拠として有効です。盗聴行為で逮捕された場合は、逮捕後48時間以内に検察送致、その後勾留が決定されれば最大23日間の身柄拘束が行われます。盗聴行為が他の犯罪に発展しないよう、法律の正しい知識を持ち、慎重な行動を心がけることが大切です。