特殊詐欺事件の指示役として関与した事実が捜査機関に発覚すると、詐欺罪の共犯として逮捕される可能性が高いです。
特に、特殊詐欺事件は組織的に犯行がおこなわれて、被害者も多数存在することが想定されるため、再逮捕・再勾留が繰り返された結果、数ヶ月に及ぶ身柄拘束期間を強いられたり、初犯でも実刑判決が下されたりしかねません。
そこで、この記事では、特殊詐欺事件に関与した過去がある人や、指示役として刑事訴追されている人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 詐欺事件の指示役に適用される可能性がある罪状
- 詐欺事件の指示役が逮捕されたときの刑事手続きの流れ
- 詐欺事件の指示役として刑事訴追されたときに生じるデメリット
- 指示役として詐欺罪に関与してしまったときに弁護士に相談・依頼するメリット
目次
詐欺事件の指示役が問われる可能性がある犯罪類型
特殊詐欺事件の指示役とは、詐欺を計画して部下などに具体的な指示をする役割を担う人物のことです。被害者に直接接触をしたり、疑罔行為をおこなったりすることはありません。
それでは、詐欺事件の首謀者である指示役にはどのような犯罪類型が適用されるのでしょうか。ここでは、詐欺事件の指示役が問われる可能性がある罪状について解説します。
詐欺罪の共犯
特殊詐欺事件の指示役は、詐欺罪の共犯として刑事訴追される可能性があります。
指示役が特殊詐欺事件にどのように関与したかによって、以下の3種類のいずれかが適用されます。
- 詐欺罪の共同正犯
- 詐欺罪の共謀共同正犯
- 詐欺罪の幇助犯・教唆犯
【前提】詐欺罪とは
詐欺罪(1項詐欺罪)とは、人を欺いて財物を交付させたときに成立する犯罪類型です(刑法第246条第1項)。詐欺罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」と定められています。未遂犯も処罰対象です(刑法第250条)。
詐欺罪の構成要件は以下のとおりです。
- 欺罔行為
- 被害者の錯誤
- 被害者による交付行為
- 財物の移転
- ①〜④の因果関係
たとえば、以下の詐欺事件をモデルケースにして考えてみましょう。
この事案では、「①嘘をつく → ②発言を受けて被害者が騙される → ③被害者が現金100万円を引き渡す → ④犯人が現金を受け取る」という一連の流れを経ているため(⑤)、現金100万円について詐欺罪が成立します。
詐欺罪の共同正犯
共同正犯(実行共同正犯)とは、2人以上が共同して犯罪を実行したときに、全員が正犯として単独犯と同じ法的責任を追求されることです。
複数人が共同して犯罪の実行に関与しているという意味において明確に単独犯とは異なりますが、その関与形態の犯罪遂行における寄与のあり方と重要度に鑑みた結果、単独犯と同じ正犯として一次的責任を追求されます。
共同正犯(実行共同正犯)の構成要件は以下のとおりです。
- 共同実行の意思:複数の者が、特定の犯罪を共同で実行しようとする意思の連絡があること
- 共同実行の事実:共同実行の意思に基づいて、複数の者が実行行為を分担して犯罪行為に及んだこと
詐欺罪の実行共同正犯が問題になるケースについて考えてみましょう。
この事案では、詐欺事件の実行行為を犯人A・犯人Bが共同実行の意思のもと、共同で実行しているという事実が存在します。
犯人Bは、詐欺計画を作成して犯人Aに指示を出しているという指示役としての側面もありますが、実際に犯人Aと詐欺行為に及んでいるという実行犯としての側面も存在します。
ですから、犯人Aと犯人Bは、それぞれ詐欺罪の共同正犯として刑事責任を追求されると考えられます。
詐欺罪の共謀共同正犯
共謀共同正犯とは、実行行為には関与していないものの犯罪の謀議への関与が認められる人物を正犯として処罰することです。刑法第60条の共同正犯の一類型に位置付けられます。
実行共同正犯と共謀共同正犯は、実行行為を一部でも分担しているかどうか、という点で異なります。実行共同正犯は犯罪行為の実行行為の少なくとも一部を分担していますが、共謀共同正犯は実行行為自体への関与は存在しません。実行行為自体への関与は認められないものの、謀議や計画などの段階で重要な役割を担っていると判断される場合に、共謀共同正犯として刑事責任を問われます。
共謀共同正犯の構成要件は以下のとおりです。
- 犯罪を共同遂行する意思(正犯の意思)があること
- 共謀の事実があること
- 共謀に基づいた実行行為があること
詐欺罪の共謀共同正犯が問題になるケースについて考えてみましょう。
このケースでは、犯人A・犯人Bが詐欺事件の実行犯です。犯人Xは詐欺罪の実行行為には一切関与していないため、実行共同正犯として刑事責任を問われることはありません。
ただし、今回の詐欺事件を計画して、実行役A・Bに指示を出しており、実行役A・Bは、指示役Xが作成した計画に基づいて詐欺行為に及んでいます。
ですから、指示役Xは詐欺罪の共謀共同正犯として正犯として刑事処罰されると考えられます。
詐欺罪の幇助犯・教唆犯
幇助とは、正犯に援助を与えることによってその構成要件該当行為を促進し、構成要件該当事実の惹起を促進することです。幇助犯(従犯)として処罰されるときには、正犯の刑が減軽されます。
教唆とは、人に犯罪遂行の意思を生じさせて、犯罪を実行させることです。教唆犯には、正犯と同じ刑罰が科されます。
第六十二条 正犯を幇助した者は、従犯とする。
(教唆)
第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
(従犯減軽)
第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
引用:刑法|e-Gov法令検索
たとえば、特殊詐欺事件の計画を共謀して作成した客観的証拠が見つからない状況であったとしても、詐欺行為をするように唆したメッセージや音声データが発見されたようなケースでは、詐欺罪の共謀共同正犯ではなく、詐欺罪の教唆犯として処罰される可能性があります(実務的には、共謀共同正犯でも教唆犯でも法定刑は変わらないので、捜査活動の進捗状況によって適用される罪状が変わるのが実情です)。
また、指示役とされる人物が特殊詐欺事件を計画した客観的証拠が不足しているために共謀共同正犯・教唆犯としての刑事訴追が難しいケースであったとしても、指示役とされる人物が逃走用の車両を準備するなどの関与をしていた場合には、詐欺罪の幇助犯として刑事責任を追求される可能性があります。
窃盗罪
「特殊詐欺事件」と称される刑事事件のなかには、詐欺罪ではなく、窃盗罪が適用されるケースが少なくありません。
たとえば、隙を作って被害者のキャッシュカードをすり替える「キャッシュカード詐欺盗」、被害者から騙し取ったキャッシュカードでATMを操作して現金を引き出す「出し子」などは、窃盗事件に分類されます。そして、これらの詐欺事件を計画して指示を出した場合には、窃盗罪の共同正犯などの罪状で刑事訴追されます。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」です。未遂犯も処罰対象とされます(刑法第243条)。
組織犯罪処罰法違反
特殊詐欺事件の指示役として詐欺行為に及んだときには、組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)が適用される可能性があります。
具体的には、詐欺罪に該当する行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果またはこれによる利益が当該団体に帰属するもの)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織によっておこなわれたときには、「1年以上の有期拘禁刑」の範囲で刑事罰を科されます(組織犯罪処罰法第3条第1項第13号)。
ここにおける「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的または意思を実現する行為の全部または一部が組織によって反復しておこなわれるもののことです(組織犯罪処罰法第2条第1項)。
たとえば、暴力団や反社会的集団、特殊詐欺グループなどと銘打ってなくても、過去に何度も集団で特殊詐欺事件を起こしていたような経緯があれば、組織犯罪処罰法違反が適用されて、通常の詐欺罪の法定刑である「10年以下の拘禁刑」よりも重い法定刑の範囲内で量刑判断がおこなわれます。
【参考】特殊詐欺事件の種類と役割
さまざまな手口でおこなわれる特殊詐欺事件が社会問題になっています。
代表的な特殊詐欺の手口として、以下のものが挙げられます。
詐欺の手口 | 内容 |
---|---|
オレオレ詐欺 | 家族や親族、知人だと名乗り、「交通事故を起こして急ぎでお金が必要だ」「仕事でミスをしてまとまった資金が必要だ」などと言って、現金を騙し取る手口のこと。 |
預貯金詐欺 | 警察官や銀行職員などと名乗って「あなたの口座が犯罪組織に悪用されているのでキャッシュカードを交換する必要がある」と嘘をついたり、市役所職員などと身分を偽って「医療費の過払い金手続きのためにキャッシュカードと暗証番号が必要だ」などを告げたりすることで、キャッシュカードを騙し取って現金を詐取する手口のこと。 |
架空料金請求詐欺 | 有料サイトや消費料金、サブスク料金などについて「未払い料金があるので、指定期限までに支払わないと裁判になります」とメール・手紙・SNSで通知をしたり、スマホやパソコン使用時に「ウイルスに感染してデータが破壊された。復旧するためにサポート費用が必要になる」などの文言を画面に表示させたりして、金銭を騙し取る手口のこと。 |
還付金詐欺 | 医療費、税金、保険料などの還付金があると嘘をついて、騙された被害者にATMなどを操作させて、犯人が使用している預貯金口座に送金をさせる手口のこと。 |
融資保証金詐欺 | 実際に融資するつもりはないのに融資を希望する人を募って、応募者に対して「補償金が必要だ」などと説明をして、金銭などを騙し取る手口のこと。 |
金融商品詐欺 | 市場価値がない未公開株式やデジタル通貨などについて虚偽の情報を提供し、購入すれば利益が出ると信じ込ませて、その購入代金を騙し取る手口のこと。 |
ギャンブル詐欺 | 「パチンコの打ち子募集」などと広告を打って応募してきた人に、登録料や情報料などの名目で金銭を騙し取る手口のこと。 |
交際あっせん詐欺 | 「女性を紹介します」などと雑誌やメールで広告をし、応募をしてきた人に、会員登録料金や保証金として金銭を騙し取る手口のこと。 |
キャッシュカード詐欺盗 | 警察官や銀行員、百貨店の店員などを騙って、「キャッシュカードの不正利用が発覚したので確認したい」などと伝え、被害者の手元に用意させたキャッシュカードをすり替えて盗み、ATMから現金を引き出す手口。 |
また、これらの特殊詐欺への関与方法・程度によって、以下のような役割に分類されます。
- かけ子:被害者に電話などの形でアプローチをして騙す役割
- 受け子:被害者の自宅や指定された場所で、直接被害者から現金やキャッシュカードなどを受け取る役割
- 出し子:騙し取ったキャッシュカードなどを利用してATMを操作して現金を引き出す役割
- 名簿屋:被害者の個人情報をリスト化して管理・提供する役割
- 道具屋:特殊詐欺で使用する預貯金口座やスマートフォン、部屋、自動車などを調達・提供する役割
- 指示役:詐欺計画を練って末端構成員に指示を与える役割
詐欺事件の指示役が逮捕されたときの刑事手続きの流れ
特殊詐欺事件の指示役として逮捕されたときの刑事手続きの流れについて解説します。
- 警察に逮捕される
- 警察段階の取り調べが実施される
- 検察官に送致される
- 検察段階の取り調べが実施される
- 検察官が公訴提起するかどうかを判断する
- 検察官が起訴処分を下すと刑事裁判にかけられる
警察に逮捕される
特殊詐欺事件の指示役として関与した事実が警察に発覚すると、逮捕状が請求されて、通常逮捕(後日逮捕)される可能性が高いです。
特殊詐欺事件の場合、実行犯が現行犯逮捕されて取り調べが進められて、指示役が芋づる式に逮捕される、という流れを経ることが多いです。
警察に逮捕されると、被疑者の身体・行動の自由は大幅に制限されます。たとえば、警察署に連行されるタイミングを調整したり、家族や会社などに電話連絡を入れたりすることはできません。
警察段階の取り調べが実施される
特殊詐欺の指示役として逮捕されると、警察段階の取り調べが実施されます。逮捕中に実施される取り調べでどのような供述をするかは自由ですが、取り調べ自体を拒否することはできません。また、取り調べが実施されない間は、留置場に身柄を押さえられた状態になるので、自宅に戻ったり会社に出社したりすることも禁止されます。
なお、警察段階の取り調べには「48時間以内」の制限時間が設けられています。
検察官に送致される
警察段階の取り調べが終了すると、事件が検察官に送致されます。
なお、極めて軽微な詐欺事件なら微罪処分の対象と扱われて警察段階で刑事手続きが終了しますが、特殊詐欺のような悪質な詐欺事件については、微罪処分の対象にはならず、検察官の判断に委ねられる可能性が高いでしょう。
検察段階の取り調べが実施される
送検されたあとは、検察段階の取り調べが実施されます。
検察段階の取り調べの制限時間は「24時間以内」が原則です。
つまり、逮捕段階の48時間以内と検察段階の24時間以内の「合計72時間以内」は、捜査機関に身柄を拘束されて、取り調べを受ける必要があります。
ただし、以下のようなやむを得ない理由がある場合には、検察官による勾留請求が認められて、身柄拘束期間が延長される可能性が高いです。
- 共犯者の人数や反抗実態など、特殊詐欺グループの全貌を把握するために長期間の捜査活動が必要な場合
- 指示役と実行役との間で供述内容に矛盾がある場合
- 継続的に特殊詐欺行為を働いていた可能性があり、被害者の洗い出しと裏取りに時間を要する場合
- 被害者や目撃者に対する参考人聴取に時間を要する場合
- 逮捕された指示役が取り調べで黙秘・否認をしている場合
- 犯行グループが使っていたアプリや削除されたメッセージなどを解析するのに時間を要する場合 など
勾留請求が認められて裁判所から勾留状が発付されると、被疑者の身柄拘束期間は10日間以内の範囲で延長されます(再延長によって最長20日間まで身柄拘束可能)。
ですから、特殊詐欺事件の指示役として逮捕された場合には、逮捕されてから検察官の公訴提起判断までの間に、最長23日間の身柄拘束期間が生じる可能性があるといえるでしょう。
検察官が起訴・不起訴を決定する
特殊詐欺事件に関する捜査活動に目処がついた段階で、検察官が公訴提起するかどうか(起訴処分か不起訴処分か)を判断します。
起訴処分とは、特殊詐欺事件を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為です。不起訴処分は、特殊詐欺事件を公開の刑事裁判にかけることなく検察限りの判断で刑事手続きを終了させる旨の判断を意味します。
なお、起訴処分には、「刑事裁判にかけられる」以上の実質的な意味がある点に注意しなければいけません。
というのも、検察官が起訴処分を下すのは「刑事裁判で有罪判決を獲得できる見込みがあるとき」であり、日本の刑事裁判の有罪率はほぼ100%なので、検察官に起訴処分を下されて刑事裁判にかけられることが決まった時点で、有罪になって前科がつくことが確定的になってしまうからです。
ですから、「有罪になりたくない」「前科がついて今後の社会生活が困難になるのは嫌だ」などと考えるなら、検察官から不起訴処分の判断を引き出せるかがポイントになるといえるでしょう。
刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を下すと、公開の刑事裁判で特殊詐欺事件について審理がおこなわれます。
刑事裁判が開廷されるタイミングは、起訴処分の1ヶ月〜2ヶ月後が目安です。
公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で結審しますが、公訴事実を争う場合には、複数回の公判期日を経て弁論手続きや証拠調べ手続きが実施されます。
なお、詐欺罪の法定刑には罰金刑が定められていないので、執行猶予が付かない限り、実刑判決が確定してしまいます。刑務所への服役を強いられると刑期を満了するまで社会生活から完全に隔離されますし、出所後の社会復帰が極めて困難になりかねません。
ですから、特殊詐欺の指示役が刑事裁判にかけられたときには、執行猶予付き判決獲得を目指した防御活動が重要になるといえるでしょう。
詐欺事件の指示役が刑事訴追されたときに生じるデメリット4つ
特殊詐欺の指示役として刑事訴追されたときに生じるデメリットについて解説します。
- 実名報道される危険性が高い
- 逮捕・勾留によって一定期間強制的に身柄拘束される可能性が高い
- 特殊詐欺事件を起こした事実が会社や学校にバレて何かしらの処分を下されかねない
- 有罪になって前科がつく
実名報道されるリスクに晒される
まず、刑事事件を起こすと、テレビの報道番組やネットニュース、新聞などで実名報道されるリスクに晒されます。
一度でも実名報道されると、半永久的にインターネット上に犯罪歴に関する情報が残りつづけるので、知人などに知られるだけではなく、結婚や就職・転職にも大きな支障が生じます。
もちろん、すべての刑事事件が実名報道の対象になるわけではありません。しかし、以下の要素を含む刑事事件は実名報道の対象になることが多い点に注意が必要です。
- 社会的関心が高い刑事事件(性犯罪、特殊詐欺など)
- 深刻な被害が発生した刑事事件(殺人、強盗など)
- 被疑者が逮捕・起訴された刑事事件
- 著名人や有名人が犯行に関与した刑事事件 など
特殊詐欺事件は近年社会的関心の対象にされることが多いです。また、組織的に巧妙な手口で遂行されるために悪質性も高いと考えられます。
ですから、指示役・首謀者として特殊詐欺事件を起こして立件されたときには、実名報道される可能性が高いといえるでしょう。
逮捕・勾留によって一定期間身柄拘束されるリスクが生じる
特殊詐欺事件の指示役としての関与が疑われた場合、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束される可能性が高いです。
たとえば、1つの特殊詐欺事件について逮捕・勾留されると、それだけで最長23日間社会生活から隔離される期間が発生します。この期間中は、被疑者本人が外部と直接連絡をとることができないため、たとえば、勤務先を無断欠勤する状態になりかねません。また、逮捕・勾留中は厳しい取り調べが繰り返されるだけではなく、過酷な留置場生活を強いられるので、心身に相当のストレスがかかります。さらに、先ほど紹介したように、複数の特殊詐欺事件で立件されると、再逮捕・再勾留が繰り返されて、数ヶ月に及ぶ身柄拘束期間が生じる可能性も否定できません。
仮に不起訴処分の獲得に成功して刑事責任を一切問われない状況になったとしても、これだけの期間社会生活から隔離されると、それだけで日常生活にまさまざまな支障が生じかねないでしょう。
会社や学校などにバレて処分を下される可能性がある
実名報道や逮捕・勾留による身柄拘束の結果、特殊詐欺事件に関与した事実が勤務先や学校にバレる可能性があります。
そして、特殊詐欺事件への関与が発覚すると、会社や学校から何かしらの処分が下されます。
たとえば、勤務先の企業が定める就業規則の懲戒規程に抵触すると、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった懲戒処分が下されます。昇進・昇格は望みにくくなりますし、希望どおりのキャリアも形成できなくなります。また、犯人が学生の場合には、学則・校則に違反したと判断されて、退学・停学・出席停止・訓告などの処分が下されて、進級や就職に支障が出ることもあるでしょう。
有罪になると前科がつく
特殊詐欺事件に指示役として関与したことを理由に起訴処分が下されると、有罪判決が確定して刑事責任を問われるだけではなく、前科によるデメリットにも悩まされつづけます。
前科とは、有罪判決を下された経歴のことです。前科者になると、今後の社会生活に以下のようなデメリットが生じます。
- 前科情報は履歴書の賞罰欄への記載義務が生じるので、就職活動・転職活動が成功しにくくなる
- 前科を隠して入社しても、発覚すると、経歴詐称を理由に懲戒解雇される
- 一部の資格・職業は、前科を理由に就業などが制限される(士業、警備員、金融関係など)
- 法定離婚事由である前科を理由に離婚を求められると拒絶できない(慰謝料・親権・面会交流などの離婚条件も不利になる)
- 前科を理由にビザ・パスポートが発給されない可能性があるため、海外旅行・海外出張に制限がかかる
- 前科がある状態で再犯に及ぶと、刑事手続きを有利に進めにくくなったり、不利な刑事処分が下されたりする など
詐欺事件の指示役が刑事訴追されたときに弁護士に相談するメリット5つ
特殊詐欺事件の指示役として刑事訴追されたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
というのも、刑事事件を得意とする弁護士の力を借りることで、以下のメリットを得られるからです。
- スピーディーに示談交渉を進めてくれる
- 詐欺事件に関与した他の共犯者の状況などを総合的に考慮しながら防御活動を展開してくれる
- 身柄拘束によるデメリットの回避・軽減を目指してくれる
- 不起訴処分獲得を目指してくれる
- 執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
なお、刑事事件を起こした場合には、国選弁護人制度・当番弁護士制度を利用できることがありますが、少しでも刑事手続きを有利に進めたいなら、私選弁護人と委任契約を締結することを強くおすすめします。国選弁護人や当番弁護士はどのような人物が担当になるかわかりませんが、私選弁護人なら、人柄・熱意・経験・コミュニケーション能力などを総合的に考慮したうえで、信頼できる弁護士に刑事弁護を任せることができるでしょう。
被害者との間で示談交渉を進めてくれる
特殊詐欺事件に指示役として関与したときには、できるだけ早いタイミングで被害者との間で示談交渉を開始するのがポイントです。
刑事手続きの進捗状況次第ですが、被害者との間で示談が成立し、示談金を支払うことによって、以下のメリットが得られます。
- 警察に通報する前に示談が成立すれば、刑事事件化自体を防止できる
- 警察に通報されたとしても、早期の示談成立によって被害届・告訴状の取り下げを期待できるので、不起訴処分獲得の可能性が高まる
- 公訴提起判断までに示談成立が間に合わずに起訴されたとしても、判決言い渡しまでに示談が成立すれば、執行猶予付き判決獲得の可能性が高まる
示談交渉は、加害者本人が被害者との間で直接おこなうことも可能です。
しかし、犯罪被害にあった人は、加害者に対して怒りや不安を感じているケースが少なくありません。被害者のなかには「加害者と直接連絡を取り合いたくない」と感じる人もいますし、交渉に応じてくれたとしても、建設的な話し合いが難しいこともあるでしょう。
ですから、スムーズに示談交渉を進めて早期の示談成立を目指すなら、示談交渉自体を弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士が交渉に入ることによって被害者側の冷静な対応を引き出しやすくなりますし、相場どおりの示談条件での和解契約締結を期待しやすくなるでしょう。
他の共犯者に対する取り調べ状況を踏まえた防御活動を期待できる
特殊詐欺事件には複数の加害者が関与しています。そして、共犯者全員に対する取り調べが並行しておこなわれることが多いです。
このような状況で、中途半端な供述をして共犯者の証言と齟齬が生じたり、共犯者が自白をしているのに指示役だけが黙秘を貫いたりすると、捜査機関や裁判所からの心証が悪くなって、刑事手続き上、不利な状況に追い込まれかねません。
刑事事件に強い弁護士に依頼すれば、指示役本人に対する捜査活動の進捗状況だけではなく、共犯者に対する取り調べ状況なども踏まえながら、少しでも有利な刑事処分を獲得するための防御活動を展開してくれるでしょう。
身柄拘束期間の短縮化、逮捕・勾留の回避を目指してくれる
逮捕・勾留といった強制処分は、それだけで被疑者の社会生活にさまざまな支障をもたらします。
そのため、刑事事件に強い弁護士は、以下の防御目標を掲げて、身柄拘束によるデメリットの回避・軽減を目指してくれます。
- 逃亡または証拠隠滅のおそれがないことを示して、逮捕されずに在宅事件処理になるように働きかけてくれる
- 逮捕されたとしても、供述内容を工夫するなどして、勾留阻止を目指してくれる
- 準抗告や取り消し請求などの法的措置を駆使してくれる
- 起訴処分が下された時点で速やかに保釈請求をおこなって起訴後勾留を回避してくれる など
起訴猶予処分獲得を目指してくれる
特殊詐欺事件の指示役として関与した事実に間違いがなくても、不起訴処分を獲得することが可能です。
というのも、不起訴処分は以下3種類に区別されるので、実際に刑事事件を起こした事実を争う余地がない状況でも起訴猶予処分獲得を目指すことができるからです。
- 嫌疑なし:刑事事件を起こした客観的証拠が存在しない冤罪の場合
- 嫌疑不十分:刑事事件を起こした客観的証拠が不足している場合
- 起訴猶予:刑事事件を起こした事実に間違いはないものの、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要性は低いと判断される場合
起訴猶予を下すかどうかを判断するときには、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況などの諸般の事情が総合的に考慮されます(刑事訴訟法第248条)。
刑事事件を得意とする弁護士は、早期に示談を成立させたり、犯行に至ったやむを得ない事情などを主張したりすることで、起訴猶予処分獲得の可能性を高めてくれるでしょう。
執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
詐欺罪の法定刑には罰金刑が定められていないので、執行猶予がつかない限り、実刑判決が確定してしまいます。
そのため、検察官が起訴処分を下した場合には、刑事裁判で裁判官から執行猶予の判断を引き出す必要があるといえます。
刑事裁判の経験豊富な弁護士は、酌量減軽・自首減軽などのテクニックを駆使したり、社会生活での自力更生が可能だと判断されるような環境を整えたりすることによって、執行猶予付き判決の可能性を高めてくれるでしょう。
詐欺事件の指示役として関与したときには速やかに弁護士へ相談しよう
特殊詐欺事件に指示役や受け子などの形で関与した場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
刑事事件への対応を得意とする弁護士の力を借りることで、身柄拘束処分によるデメリットを回避・軽減したり、捜査機関や裁判官から軽い刑事処分を引き出しやすくなるでしょう。
刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、特殊詐欺事件などの刑事弁護に強い法律事務所を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど刑事手続きを有利に進めやすくなるので、速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。