誤認逮捕されたら補償はある?警察や国からの謝罪・損害賠償を詳しく解説

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「誤認逮捕」と聞いて、自分には関係のない話だと思う方も多いかもしれません。しかし、誤認逮捕は誰にでも起こり得る現実的な問題です。たとえば、防犯カメラの映像にたまたま映り込んでいた、似た服装をしていた、というだけで逮捕されてしまうケースもあります。

誤認逮捕は、ただのトラブルでは済まされません。一度でも「逮捕された」という事実が広まれば、たとえのちに無実と判明しても、社会的信用の失墜、精神的なトラウマ、SNS等による風評被害といった深刻な影響を受けてしまいます。

また、警察や国による謝罪や補償も十分とは言えず、名誉回復が難しい現状もあります。この記事では、誤認逮捕の定義や冤罪との違い、誤認逮捕による影響、補償の有無や制度、さらに誤認逮捕が起こる理由について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

誤認逮捕の定義とは

誤認逮捕とは、「誤って逮捕されてしまうこと」を指します。「冤罪」とは別の言葉として使われることが多く、実際に「誤認逮捕とは何か?」についてよくわからないという人も多いのではないでしょうか。まずは、誤認逮捕の定義について詳しく解説します。

誤って「逮捕」されること

誤認逮捕とは、誤って「逮捕」されることを指します。「逮捕」と呼ばれる行為は、犯罪を犯したと疑われる人の身柄を一時的に拘束するために行われる手続きです。

罪を犯したからと言って、すべての人が逮捕されるわけではなく、証拠隠滅の恐れや逃亡の恐れがあることなど、一定の条件のもとで逮捕が許されています。

逮捕の方法は「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。通常逮捕は、裁判官が発布した逮捕状を元に逮捕する方法です。現行犯逮捕は、現行犯である場合に逮捕状がなくても逮捕できる方法です。

緊急逮捕は、緊急性を要しており逮捕状を請求している時間がない場合に認められる逮捕方法です。

誤認逮捕として起こり得るのは「通常逮捕」と呼ばれる逮捕です。通常逮捕は、警察等の捜査機関が捜査を進め、証拠を固めたうえで裁判所に逮捕状の発布を請求します。裁判所は、証拠等を確認したうえで逮捕の必要があると判断した場合に逮捕状を発布する流れです。

また、現行犯逮捕でも誤認逮捕が発生する可能性があります。たとえば、痴漢をしていないにも関わらず「痴漢です!」と騒がれ、その場で逮捕されてしまった場合です。

逮捕された場合は、逮捕から48時間以内の身柄拘束が行われます。この間は、当然、自宅へ帰ることができません。会社や学校へいけないため、さまざまな影響が発生し得ます。

冤罪と誤認逮捕は異なる

誤認逮捕は「誤って逮捕されること」であるのに対し、冤罪は「無実の罪で有罪判決を受けた場合」に使用される言葉です。

刑事事件は、逮捕された後に送致されて刑事裁判を受け、有罪判決が確定して刑罰を受ける流れです。逮捕時点では有罪判決が確定しているわけではないため、冤罪とは呼びません。

これが、冤罪と誤認逮捕の主な違いです。似ている言葉であり、混同されがちですがまったく異なる意味合いで使用されるため注意しましょう。

誤認逮捕による影響とは

誤認逮捕された場合は、さまざまな影響が発生します。具体的には、以下のような影響が発生し得るでしょう。

  • 精神的苦痛やトラウマ
  • 社会的信用の失墜と生活の変化
  • 報道・SNSによる風評被害

次に、誤認逮捕による影響についても詳しく解説します。

精神的苦痛やトラウマ

誤認逮捕は、自分は何もしていないにも関わらず、ある日突然強制的に身柄を拘束されてしまう状況です。まったく心当たりがないにも関わらず、身柄を拘束され、警察等から取り調べを受ける日々は精神的苦痛が計り知れません。

また、どのような事情があったにせよ、誤認逮捕が発生したことによって、大きなトラウマを植え付けられてしまうことになるでしょう。

社会的信用の失墜と生活の変化

「逮捕」という言葉を聞いただけで、多くの人が瞬間的に「悪いことをした」と認識してしまいます。また、逮捕後すぐに疑いが晴れれば良いものの、しばらくの間は犯罪者として扱われる日常を過ごすことになるでしょう。

社会的な信用の失墜、会社の解雇等さまざまな影響が発生し得ます。また、仮に後から「誤認逮捕でした」と言われても、多くの人に広く認知されるわけではありません。

「逮捕された=犯罪者である」というレッテルを一度貼られてしまった以上、後から「間違いでした」と言われてもなかなか拭うことができません。

報道・SNSによる風評被害

現在は、報道やSNSを通じて広く事件が知れ渡ってしまいます。そのため「逮捕された」という事実が報道されることによって、SNS上でさまざまな風評被害が発生し得るでしょう。

「逮捕された」という報道がなされることによって、多くの人が「この人が罪を犯したんだ」と認識します。たとえ、誤認であったとしても「逮捕」という言葉が重く、SNS等を通じた誹謗中傷も発生します。

たとえあなたが犯罪事実を否認していたとしても、逮捕という言葉が強く「悪いことをしたのに否定している」という印象にしかなりません。

誤認逮捕された場合の補償(謝罪)の有無

誤認逮捕された場合、警察等の捜査機関から謝罪される可能性があります。ただし、警察や国には謝罪の義務がありません。また、非公開で行われるケースが多く、一度傷ついてしまった名誉が完全に回復する可能性はゼロに近いでしょう。

次に、誤認逮捕された場合の補償(謝罪)の有無についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

警察・国等からの謝罪義務はない

捜査機関が誤認逮捕をしたとしても、警察等の捜査機関、国からの謝罪義務はありません。とはいえ、誤認であった事実がある以上、謝罪されるのが一般的です。実際、誤認逮捕されたケースの多くで、誤りであったことを認めたうえで謝罪されています。

謝罪は非公開・個別であるケースが多い

実務上として謝罪は行われるものの、非公開かつ個別で行われるケースがほとんどです。誤認逮捕された際は、報道機関等によって広く知らされますが、誤認であった場合は非公開であるケースが多いため、報道等によって広く知らされません。

多くの人は、誤認逮捕の報道によって多かれ少なかれ社会的な影響を受けます。その名誉を回復するためにも、「誤認逮捕であったことを広く知らせてほしい」と考えるのが一般的です。しかし、現実として叶わないことが多いことを覚えておきましょう。

報道機関を通した謝罪はほとんどない

報道機関を通した謝罪はほとんど行われません。警察等の捜査機関は、捜査を行って証拠を集め、自信を持って裁判所に逮捕状の発布を請求します。

裁判所も証拠等を精査したうえで逮捕状を発布するため、誤認逮捕であったことを広く知らせてしまうことによって、機関としての在り方が問われます。そのため、可能であれば内々に済ませたいと考えるのが通常であるためです。

ただし、社会的影響力の多い事件である場合などは、報道機関を通して謝罪されるケースがあります。たとえば、誤認逮捕で真犯人が見つかっていない場合は、社会の人々の生活にも多大な影響を与える恐れがあるためです。

誤認逮捕による補償制度

誤認逮捕された場合は、金銭的な補償を受けられる可能性があります。主な補償制度は、以下のとおりです。

  • 被疑者補償規定
  • 刑事補償法
  • 国家賠償法

次に、謝罪以外でどのような補償を受けられるのか?についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

被疑者補償規程に基づく賠償請求

被疑者補償規定に基づく賠償請求は、逮捕・勾留されたものの最終的に不起訴となった人を対象とした賠償制度です。誤認逮捕が明らかになった場合は、被疑者補償規定に基づいて「身柄拘束期間×1,000円〜12,500円」が支払われます。

ただし、不起訴処分となった理由が嫌疑不十分や起訴猶予など、「罪を犯した可能性はあるものの、罪に問えるほどの証拠がない」という場合は認められません。あくまでも「嫌疑なし」である場合に限ります。

嫌疑なしは、「捜査機関の誤りでした」ということを認めるものであり、勾留日数に応じて賠償金が支払われます。

刑事補償法に基づく賠償請求

刑事補償法に基づく賠償請求は、起訴された被疑者が起訴後の身柄拘束期間に応じて賠償金を得られる補償制度です。金額は「身柄拘束日数×1,000円〜12,500円」です。

たとえば、刑事裁判において無罪判決が言い渡された場合などに、刑事補償法に基づく賠償請求が可能です。金額に差があるのは、精神的苦痛等を総合的に考慮して判断されるためです。

国家賠償法に基づく賠償請求

誤認逮捕が認められた場合、国に対して賠償請求を行うことができます。たとえば、精神的苦痛に対する賠償金等の請求が可能です。

ただし、国家賠償請求が認められるためには、捜査機関や裁判所などが明らかに不正を行っていたことを証明しなければいけません。正当な捜査の結果、誤認逮捕が発生した場合は国家賠償請求が認められない、もしくは認められても少額となるケースが多いです。

誤認逮捕が起こる理由とは

誤認逮捕は絶対に起こるべきではありません。しかし、現実問題として発生してしまうケースがあります。その主な理由は、以下のとおりです。

  • 目撃証言の誤り
  • 防犯カメラ等の誤った分析
  • 勘違い・捜査ミス
  • 決めつけ・自白の強要
  • その他要因

次に、誤認逮捕が起きてしまう理由についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

目撃証言の誤り

目撃証言の誤りによって、誤認逮捕が発生するケースがあります。警察等の捜査機関は、事件が発生した周辺の聞き込み等を行います。

聞き込みを行った際、「怪しい人物を見た」という曖昧な証言を得られたとしましょう。しかし、「怪しい」という言葉は抽象的であり、見る人の印象によっても異なります。

たとえば、あなたが仕事終わりにただ歩いていただけであるにも関わらず、他の人から見たら「怪しい人」と認識されてしまう可能性もあります。証言をした人も適当なことを言っているわけではなく、思ったことをただ口にして証言しているだけです。

しかし、捜査機関がその言葉を鵜呑みにしてその人の特徴を聞き、その人が犯人であると仮定してさらなる証拠を集めます。結果的に、誤認されて逮捕まで至ってしまうケースがあるかもしれません。

防犯カメラ等の誤った分析

警察等の捜査機関は、犯罪が発生した場所の周辺の防犯カメラも確認します。目撃証言で、たとえば「〇〇色の〇〇という車が逃げていくのを見た」と聞けば、その車の行方を追います。

防犯カメラの映像等で逃亡ルート等を確認して、犯人を発見するケースもあります。このときに何らかのミスが発生していれば、誤認逮捕が発生し得るでしょう。

また、防犯カメラの映像が必ずしも鮮明に映っているとは限りません。「似ている」という理由で捜査対象になる可能性もあるでしょう。

勘違い・捜査ミス

単純な勘違いや捜査ミスによる誤認逮捕の可能性もあります。絶対に起こってはいけないことですが、人間が捜査等をする以上ミスや勘違いをゼロにすることが難しいです。結果的に、誤認逮捕につながるケースもあります。

決めつけ・自白の強要

決めつけや自白の強要による誤認逮捕の可能性もあります。たとえば、被害者とあなたの間で怨恨があったとしましょう。事件の状況からして、怨恨による犯行である可能性が高いと判断された場合、「あなたがやった」と決めつけられてしまうかもしれません。

決めつけによって捜査対象となり、突然の取り調べに怯えているあなたに対して自白の強要を行えば、誤認逮捕が生まれてしまう原因になり得ます。

その他要因によっても起こり得る

他にも、さまざまな要因によって誤認逮捕が発生し得ます。たとえば、裏付捜査の不足や決めつけ、私人逮捕等による誤認逮捕の可能性もあるでしょう。

「誤認逮捕の原因は〇〇!」のように特定のことが原因であるとは限りません。さまざまな要因が重なって発生してしまうものです。

誤認逮捕の補償(謝罪)に関するよくある質問

誤認逮捕の補償(謝罪)よくある質問を紹介します。

Q.誤認逮捕した警察官は解雇されますか?

A.解雇されません。

誤認逮捕した警察官等が解雇されることはありません。誤認逮捕された側からすると、「2度と同じことが起きてほしくない」といった思いから、解雇を希望する声が上がるのは当然です。

しかし、捜査を担当した警察官が必ずしも悪気があって誤認逮捕したとは限りません。職務を全うした結果、誤認逮捕が発生してしまっただけである可能性も否定はできず、解雇理由には該当しないのです。

とはいえ、人1人の人生を大きく変えてしまう恐れのある「逮捕」という行為は、慎重に判断をして行うべきです。

もし、誤認逮捕した警察等が「誤認(誤った認識)」ではなく、あなたを陥れる目的で逮捕したのであれば、解雇理由に該当し得るでしょう。この場合は、当然解雇となります。

Q.不起訴になった場合は謝罪されますか?

A.不起訴理由によります。

「不起訴」といってもその種類はさまざまです。たとえば、「嫌疑不十分」や「起訴猶予」など、罪を犯した疑いがあるものの、罪に問えるほどの証拠が集まっていない(罪に問える確証がない)場合は謝罪されません。

一方で「嫌疑なし」のように、明らかに誤認逮捕であった場合は謝罪される可能性が高いです。ただ、本記事でも解説したとおり、謝罪は義務ではないため必ずしも謝罪されるとは限りません。

Q.誤認逮捕の場合は前科が付きますか?

A.有罪判決が下された場合は前科が付きます。

前科がつくタイミングは「有罪判決が確定した時点」です。つまり、誤認逮捕ではあるものの、その事実が認められずに刑事裁判を受け、最終的に有罪判決が確定した場合は前科が残ります。

一方で、「逮捕された」という事実のみでは前科が付きません。つまり、逮捕されたけどすぐに誤認逮捕が認められて釈放された、不起訴処分となった、刑事裁判で無罪判決が言い渡された。という場合は、前科が付きません。

Q.名誉毀損に対する訴えを起こすことは可能ですか?

A.名誉毀損に該当する場合は可能です。

まず、名誉毀損に対する「訴え」の定義として、刑事・民事それぞれで考える必要があります。刑事で訴えを起こすことを検討している場合、名誉毀損罪の成立要件を満たしていなければいけません。

名誉毀損罪の成立要件は以下のとおりです。

  • 公然性
  • 事実適示性
  • 名誉毀損性

まず、公然性とは「広く知れ渡らせること」を指します。たとえば、報道機関による報道が該当します。

そして、事実適示性とは、事実を述べることを指します。つまり、「罪を犯していないにも関わらず、罪を犯したかのように記事を書かれた」という場合は、事実適示性に該当しないため、名誉毀損罪は成立しません。この場合は侮辱罪が成立する可能性があります。

最後の要件は名誉毀損性です。名誉毀損性とは、公然と事実適示性されたことによって社会的評価を下げられた場合に認められます。上記条件を満たした場合は、名誉毀損罪が成立するでしょう。

民事では、名誉を毀損されたことによる賠償請求が可能です。訴えを起こすことは可能であり、要件等はありません。ただ、裁判において認められるかどうかは別問題です。

Q.誤認逮捕だった場合、解雇された会社に戻ることができますか?

A.戻れる可能性が高いです。

誤認逮捕であることが明らかとなった場合、解雇が無効となるため復職できる可能性が高いと思っておいて良いでしょう。

ただし、イメージを大事にしている企業である場合、誤認逮捕であった事実があっても復職がスムーズに行かないケースもあります。この場合は、弁護士等に相談をしたうえで解雇の無効を主張していくことになるでしょう。

まとめ

誤認逮捕とは、実際には罪を犯していないにもかかわらず、警察や裁判所によって誤って逮捕されてしまう状況です。冤罪との違いは「逮捕段階」であるか「有罪判決が下されたか」という点にあり、似ているようで異なる意味を持っています。

誤認逮捕は精神的苦痛や社会的信用の失墜、さらには報道やSNSによる風評被害といった深刻な影響があります。それにもかかわらず、警察や国には謝罪義務がなく、補償も十分とは言い切れません。

補償制度には「被疑者補償規定」や「刑事補償法」「国家賠償法」などがありますが、適用には厳格な条件があります。誤認逮捕は目撃証言の誤りや捜査ミス、防犯カメラの誤認識など、人為的な要因で発生するケースが多く、完全に防ぐことは難しいのが現実です。

だからこそ、誤認逮捕の実態や補償制度について知識を持っておくことは、万が一の備えとして非常に大切です。誤認逮捕は誰にでも起こり得る問題であることを忘れず、正しく理解し行動できるよう心がけましょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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