出頭とは、警察や検察から呼び出されて出向く場合と、自らの意思で警察署等に行く場合の2種類があります。一般的には、自発的に出頭することで自首が成立するケースと、事件発覚後に出頭するケースを区別することが重要です。
自首が成立するためには、犯罪発覚前に自発的に申告することが条件であり、減刑の可能性が生じます。一方で、捜査機関に事件が発覚している場合の出頭は自首には当たらず、法律上の減刑はありません。
警察や検察からの呼び出し、いわゆる出頭要請は原則任意ですが、正当な理由なく無視すると逮捕される可能性があります。また、呼び出し状に記載された日時に出頭するのが基本で、体調不良や急用がある場合は事前に警察や弁護士と相談して日程を調整することが望ましいです。
出頭前には、証拠や必要書類の整理、供述内容の整理、弁護士への相談を行うことで、取り調べや逮捕のリスクを適切に管理できます。この記事では、出頭の種類や違い、適切なタイミング、出頭前の準備、出頭後に起こり得ることまで詳しく解説し、万が一の状況に備える方法を紹介します。
出頭とは何か?
出頭とは、大まかに警察や検察から呼び出されて出頭するケースと、自首と同義で言われる「出頭」の2種類があります。まずは、それぞれの出頭の違いについて詳しく解説します。
2つの出頭の違い
出頭は、警察や検察から呼ばれて行く「出頭」と、自首が成立しなかった場合に成立する「出頭」の2種類があります。
まず、警察や検察から呼ばれていく出頭は、たとえば在宅捜査となっている被疑者が事情聴取を受けるために警察署や検察庁に行くことを指します。
そして、自首が成立しなかった場合に成立する「出頭」というものがあり、呼ばれていく出頭とはまったく異なるため注意しましょう。この出頭は、犯罪を犯した者が自らの意思で警察署等へ出向くことを指します。
本来、犯罪を犯した者が自分の意思で警察署等へ行った場合、「自首」が成立するのではないか?と考える人が多いでしょう。しかし、自首が成立するためには、以下の要件を満たしていなければいけません。
- 自発的であること
- 捜査機関に発覚する前に申告していること
- 自身に対する処罰を求めていること
たとえば、あなたが殺人事件を起こしてその事件が捜査機関に発覚していない状況で、自発的に「〇〇で人を殺しました」といった場合は自首が成立します。自首が成立した場合は、減刑が認められているため、罪が軽くなる可能性があります。
一方で、捜査機関に事件が発覚している場合や犯人が特定されている場合に警察署へ行っても自首が成立しません。この場合は「出頭」という扱いになり、出頭したことによる法律上の減刑はありません。
出頭要請は任意出頭
警察や検察から行われる呼び出しのことを「出頭要請」と呼びます。出頭要請は、任意であるため拒否をしたり、取り調べの途中で離席しても問題ありません。
ただし、警察等も何らかの事件の参考人もしくは、被疑者として出頭を依頼しているため、正当な理由なく拒否をしていると逮捕される可能性があります。
出頭要請の方法は、ハガキもしくは電話で行われることが多いです。仕事上の都合などで出頭できない場合は、日時を調整してもらうなど、適切な方法を取ることが好ましいです。
【出頭命令とは】
出頭要請に似た言葉で「出頭命令」という言葉があります。出頭命令は、裁判所が被告人に対して出頭を命令する手続きを指します。要請とは異なり、「命令」であることから拒否できません。
出頭の適切なタイミングとは
出頭の適切なタイミングは、基本的に呼び出し状に記載されている日時です。ただし、その日時に出頭できない事情がある場合は、警察等へ相談をして日程の調整をできる場合があります。緊急性がある場合もその事情を伝えたうえで、再度出頭日の調整をする必要があります。
次に、出頭の適切なタイミングについても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
呼び出し状が届いたら指定された日時に出頭
呼び出し状とは、指定された日時に指定された場所へ出頭するよう要請された書面を指します。警察の場合は、ハガキや電話によって呼び出されるケースがあります。
呼び出し状が送付された場合の適切なタイミングは、呼び出し状に記載されている日時です。他に適切なタイミングはありません。もし、その日にちにどうしても外せない用事等がある場合は、記載されている電話番号へ電話をかけたうえで日時の調整を行いましょう。
ただし、呼び出し状が送付されているということは、何らかの事件に関与している可能性が高いと判断されています。そのため、むやみに日時を変更したり無断で出頭日を変更したりすると、逮捕される可能性があるため注意しましょう。
弁護士と相談して日程を調整する方法もある
事件に心当たりがある場合は、弁護士と相談をしたうえで日程を調整する方法もあります。私選弁護人であれば、自分の好きなタイミングで自由に弁護人を選任できます。
そのため、呼び出し状が送付された時点で早期に弁護士へ相談をし、弁護士と日程調整をしたうえで警察署等へ出向くと良いでしょう。なお、呼び出し状に記載されている日時に出頭するのが難しい場合は、弁護士を通して警察等へ連絡してもらうことが好ましいでしょう。
体調や緊急事態がある場合の対応策とは
体調不良や緊急事態が発生した場合は、その時点で早期に警察等へ連絡をしましょう。たとえば、呼び出し状に記載された日時に体調不良になってしまったり、親族の葬儀が入ってしまったりする可能性があります。
状況次第では「忙しくて連絡する余裕がない!」と悩まれるかもしれません。しかし、何ら連絡をせずにそのまま放置してしまうと、そのまま逮捕される可能性があるため注意が必要です。
電話のみであれば数分程度で終了するため、どれだけ忙しい状況であっても警察への連絡は忘れずに行うようにしましょう。
出頭前に準備しておくべきこと
出頭する前に以下のことを準備しておきましょう。
- 証拠や必要書類の整理
- 供述内容を整理しておく
- 弁護士へ相談をしておく
出頭要請がなされているということは、何らかの事件の参考人等になっている可能性が高いです。おそらく、心当たりがあることでしょう。そのため、上記の準備を進めたうえで出頭するようにしましょう。
証拠や必要書類の整理
心当たりのある事件に関する証拠や必要書類の整理をしておきましょう。
そもそも、あなたが被疑者であると特定されており、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断された場合は、呼び出しではなく「逮捕」されています。現時点で逮捕されていないということは、証拠が揃っていない、もしくは逮捕する事件ではないと判断されています。
前者である場合は自ら進んで証拠を提示する必要はありません。一方で、素直に事件について認めてしまうことで、逮捕を回避できる可能性もあるため慎重な判断が必要です。
素直に事件について認めようと考えているのであれば、あらかじめ事件に関する証拠を揃えて持っていくことが好ましいでしょう。
供述内容を整理しておくことの重要性
事前に供述内容を整理しておくことが大切です。そもそも、出頭要請が行われている時点で、何らかの事件に関与している疑いをかけられている可能性は高いです。
しかし、先ほども解説したとおり「容疑が固まっていなくて逮捕できない」のか、「逮捕するほどの事件ではない」と判断されているのかのいずれかです。もし、前者である場合は、自らあえて証拠を提出する必要はないでしょう。
後者の場合は、事件について認めないことで「証拠隠滅や逃亡の恐れがある」と判断され、逮捕される可能性が高まります。
出頭前の段階でどちらの状況で出頭要請がなされているのかは分かりません。そのため、あなた自身にできることとして、どちらのパターンでも対応できるように供述内容を整理しておくことです。
不安であれば、事前に弁護士へ相談をしたうえで方針を決めておくことが好ましいでしょう。
弁護士に相談して対応方針を決める
出頭要請が行われた時点で、弁護士へ相談をして対応の方針を決めておくと安心です。初めから、罪を認めてしまうことで長期勾留を回避できたり、減刑されたりする可能性があるため、まずは弁護士への相談を検討しましょう。
出頭後に起こり得ること
出頭後に起こり得ることは以下のとおりです。
- 取り調べ
- 逮捕・勾留
- 刑事裁判
出頭をすることによって、取り調べを受けてそのまま逮捕されたり勾留されたりし、最終的には刑事裁判が行われる可能性もあります。もちろん、そのまま在宅捜査となったり、容疑が晴れる可能性もゼロではありません。さまざまな状況を考慮して、行動することがとても大切です。
次に、出頭後に起こり得ることについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
任意出頭の場合の取調べの流れ
任意出頭した場合は、あくまでも「任意」であるため、途中で退席したり返ったりしても問題はありません。しかし、任意出頭した以上は、基本的にその日の取り調べが終了するまでは帰れません。
滞在時間は事件によって異なるものの、早ければ数十分で終了しますし、長ければ1日程度かかるケースもあります。
取り調べにおいては、警察署内にある取り調べ室で事件に関係する内容を聞かれます。その他、プライベートに関する内容を聞かれることもありますが、話したくないことは話さなくても良いです。
逮捕・勾留の可能性があるケース
出頭後に逮捕・勾留されるケースもあります。たとえば、逮捕できるだけの証拠が揃っていなくて、逮捕状を請求できていなかった場合です。この場合は、任意という形で被疑者を呼び出し、取り調べを経て容疑が固まり次第逮捕状を請求、逮捕という流れです。
逮捕された場合は、最長48時間の身柄拘束が行われます。その後、さらに24時間以内に検察官へ事件を送致し、勾留請求が認められれば最長20日間の身柄拘束が可能です。
そのため、最長で23日間の身柄拘束が可能となります。その後、起訴されれば未決勾留者として引き続き身柄拘束が行われるため、社会的な影響も大きくなる点に注意しましょう。
その後の裁判手続きの概略について
出頭後に逮捕・勾留され、起訴された場合は刑事裁判を受けます。刑事裁判で有罪判決が確定するまでは、未決勾留者として拘置所の中で身柄を拘束されます。
起訴後は、保釈金を支払って保釈請求を行うこともできますが、証拠隠滅や逃亡の可能性があると判断された場合は認められません。また、保釈金を支払えない場合も保釈は認められません。
未決勾留中の日数は刑に算入されるため、拘禁刑が言い渡された場合はその分を差し引いた期間、刑事施設に収監されるのが一般的です。たとえば、未決勾留日数が100日間で、判決が3年の拘禁刑だった場合は、未決勾留日数の100日間を差し引いた期間(2年265日)の間、刑事施設へ収監されます。
出頭時に知っておくべきこと
出頭する際は、以下のことを覚えておきましょう。
- 遅延や無断欠席のリスク
- 警察とのやり取りは注意が必要
- 弁護士を通すことで得られる安全性
次に、出頭をする際に知っておくべきことについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
遅延や無断欠席がもたらすリスク
遅延や無断欠席は、逮捕のリスクがあるため注意しましょう。本記事で何度もお伝えしているとおり、出頭要請は何らかの犯罪の疑いをかけられている可能性が高いです。
出頭要請があるにも関わらず、それを無視し続けていると、「証拠隠滅や逃亡の可能性が高い」と判断されやすく、結果的に逮捕されるかもしれません。逮捕されてしまえば、長期間にわたる勾留の可能性が発生するため注意が必要です。
何らかの事情で出頭要請の日時に出頭できない場合は、事前にその理由を伝えたうえで日程調整をしておきましょう。
警察とのやり取りで注意すべきポイント
出頭要請があった時点で、警察側でまだ逮捕できるほどの決め手がない状況かもしれません。そのため、逮捕を回避するために慎重な供述を求められます。
もし、その場で罪を認めてしまえば、逮捕状を請求されたうえで逮捕となる可能性があります。もちろん、罪を犯した事実がある以上、遅かれ早かれ逮捕される可能性はあるでしょう。
それでもなお、状況を冷静に判断したうえで供述内容を慎重に判断し、一度帰宅したうえで弁護士へ相談をするなどの対応を検討しましょう。
弁護士を通すことで得られる安全性
あらかじめ弁護士へ相談をしておくことで、安心材料になり得ます。どのような内容で出頭要請が来ているのか、取り調べにおいてどのように対応すべきか、といった点を具体的にアドバイスしてくれます。
また、取り調べにおいても「これ以上の話は、弁護士と話し合ってから供述します」と伝えれば良いです。不当な取り調べがあった場合も弁護士が対応してくれるため安心です。
出頭に関してよくある質問
出頭に関するよくある質問を紹介します。
Q.呼び出しが来たらかならず出頭しないといけませんか?
A.任意であるため、かならず出頭する必要はありません。
出頭要請(呼び出し)は、任意です。そのため、必ずしも応じる必要はありません。しかし、出頭要請に応じないことが原因で、「証拠隠滅や逮捕の可能性がある」と判断され、逮捕となる可能性があるため注意しなければいけません。
何らかの事情がある場合は、出頭できない旨を伝えて日程を調整するなどの対応を検討したほうが良いでしょう。何もせずに無断で出頭要請を拒否してしまうことは、リスクであるため注意しましょう。
Q.出頭の際に弁護士を同席させられますか?
A.一緒に出頭しても良いですが、取り調べには同席できません。
警察署まで弁護士を一緒に連れていくことは可能です。しかし、取り調べには同席させられないため注意しましょう。もし、取り調べの途中で「どのように答えれば良いのだろうか?」と悩んだ際などは、弁護士へ確認を取ることは可能です。
Q.出頭のタイミングを遅らせることは可能ですか?
A.相談をすることで遅らせることは可能です。
出頭要請は、あくまでも任意であるため相談を遅らせることは可能です。しかし、とくに理由がないにも関わらず、長期間にわたって遅らせる行為はリスクとなるため注意しましょう。
Q.出頭後に逮捕される可能性はありますか?
A.可能性があります。
出頭時点で容疑が固まっていない場合、取り調べを通じて容疑が固まり次第逮捕状の請求、逮捕となる可能性はゼロではありません。そのため、捜査機関がどのような状況で出頭要請を出しているのかを把握し、適切に対応することが求められます。
Q.出頭に必要な持ち物は何ですか?
A.呼び出し状や連絡があった際に伝えられます。
出頭時に必要な持ち物は、呼び出し状が送付された場合はその書面に記載されています。電話で呼び出しがあった場合は、必要な持ち物を伝えられるため、その持ち物を持参すれば良いでしょう。
まとめ
出頭は、警察や検察の呼び出しに応じる場合と、自発的に警察署等へ向かう場合の2種類に大別されます。呼び出し状に記載された日時に出頭するのが原則であり、無断で遅延・欠席をすると逮捕や勾留のリスクが高まります。
任意出頭であれば途中で退席することも可能ですが、実際の取り調べでは冷静に供述内容を整理し、弁護士と相談したうえで対応することが安全です。出頭前には、事件に関する証拠や必要書類を整理し、心当たりのある事案について供述内容を事前に検討することが大切です。
万が一逮捕や勾留に発展した場合でも、未決勾留の日数は刑期に算入されるため、適切な対応が重要となります。弁護士を通すことで、取り調べ時の不当な対応を防ぎ、日程調整や供述方法について具体的なアドバイスを受けられます。
出頭は、事件の状況や法的リスクを正しく理解したうえで臨むことで、不要な不利益を避けることが可能です。本記事を参考に、出頭の基本的な流れや注意点を把握し、適切な準備と行動で安全に対応できるようにしておきましょう。