偽証罪と自白の関係性とは?成立要件から注意点まで詳しく解説

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裁判に関わるニュースや記事で耳にすることがある「偽証罪」や「自白」という言葉。しかし、これらが具体的にどう違い、どのような場面で問題になるのかを正しく理解できている人は少ないでしょう。

偽証罪は「宣誓をした証人が虚偽の証言をした場合」に成立する犯罪であり、裁判の公正さを守るために設けられた非常に重い罪です。一方、自白は被疑者や被告人が自分に不利な事実を認める行為を指し、刑事裁判において証拠として強い影響力を持ちます。

ただし、自白が強要によってなされた場合には、証拠能力を否定されることもあります。この記事では、偽証罪の定義や成立要件、実際にどのような場面で成立するのかを解説するとともに、自白の意味や証拠能力の扱いとの違いについて解説しています。

さらに「虚偽の自白は偽証罪になるのか?」といった誤解しやすいポイントや、偽証罪が成立しないケースについてもわかりやすく説明します。ぜひ参考にしてください。

目次

偽証罪とは何か

偽証罪とは、「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」に成立する犯罪であると定義されています。たとえば、裁判の証人として出廷した証人は、証言をする前に宣誓をしなければいけません。

宣誓をしたにも関わらず、虚偽の証言をした場合に成立する犯罪であるということです。まずは、偽証罪とは何か?どのような場合に成立するのか?について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

偽証罪の定義

偽証罪の定義は「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」です。法律上の宣誓とは、裁判や法的手続きを行う際に「虚偽の証言をしない」と約束することです。つまり、裁判や法的手続きで「虚偽の証言をしません!」と宣誓したにも関わらず、虚偽の申告をした場合に偽証罪という犯罪が成立する可能性があるため注意しましょう。

たとえば、刑事裁判で証言を求められ、証人として出廷した場合、はじめに「宣誓書」という用紙が渡されます。宣誓書には「真実を述べ、隠し事をせずに偽りを述べないことを誓います」といった内容のことが記載されており、意味は言葉通りです。

そして、裁判中に証人として証言をする際は、証言をする前にかならず宣誓書を朗読し、その後に署名・押印をして宣誓が成立します。これが法律上の宣誓のひとつです。

成立要件

偽証罪は「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」によって成立する犯罪です。つまり、成立要件は以下の2つです。

  • 法律によって宣誓した者
  • 虚偽の陳述をした場合

本記事で解説している通り、たとえば刑事裁判で宣誓をして証言した者が証言内容で嘘をついていた場合は、偽証罪が成立します。

一方で、スポーツ大会で選手宣誓を行ったにも関わらず、スポーツマンシップに則った行動をしなかった場合であっても偽証罪は成立しません。なぜなら、「法律によって宣誓した者」に該当しないためです。

想定される場面

偽証罪が成立する場面としてよくあるのは、「裁判において自分の記憶に反して虚偽の証言をした場合」です。偽証罪の成立要件は法律上の宣誓と虚偽の陳述の2つです。

そのため、偽証罪が成立し得る場面は主に「裁判上の虚偽証言」です。たとえば、被告人が罪を犯した場面を見ているのにも関わらず、「この人は罪を犯していません」と嘘をついたような場合に成立すると考えておきましょう。

そのため、裁判等に証人等として参加していない場合は、基本的に偽証罪が成立する可能性は低いと考えておいて良いです。

ちなみに「記憶にありません」と証言すること自体は、偽証罪に問われません。たとえば、実際には記憶に残っているにも関わらず、「記憶にありません」といっても虚偽の陳述をしているわけではないため、偽証罪は成立しません。

自白とは何か

自白とは、捜査機関等による取り調べ時に自分にとって不利となる内容等を自ら話すことを指します。自白をすることによって、その内容が証拠として扱われ、良くも悪くも処分や刑罰に影響を与える可能性があります。

次に、「自白」とはどのような内容を指すのか?について詳しく解説します。偽証罪と自白の関係性を把握するためにも、まずは自白の定義についても把握しておきましょう。

刑事訴訟法における自白の定義

自白とは、捜査機関等による取り調べ時に自分にとって不利となる内容等を話すことを指します。一般的には、「自らの違法行為を認めること」を指します。自白をすることによって、その内容が証拠として扱われ、刑事裁判では処分や刑罰に影響を与えることになるため注意が必要です。

ただし、捜査機関等による自白を強要された場合、冤罪を発生させる原因にもなり得るため注意しなければいけません。捜査機関は、被疑者や被告人に対して自白をするよう求められますが、強制力はありません。

自白の証拠能力と信用性の問題

刑事事件における「自白」は、「証拠の王」と呼ばれるほど強力な証拠となり得ます。自白は、罪を犯した本人自らが犯罪の内容等を詳細に話す者であることから、高い証拠能力を有すると考えられています。

自ら積極的に罪を認めて自白した場合は、自白証拠として高い信用性を持ち、刑事裁判においても多大な影響を与える可能性が高いです。

一方で、よく問題となるのが「強要によって申告した場合」です。たとえば、捜査機関が自白をさせるために被疑者や被告人に対して暴力をふるったり、食事を与えない、トイレに行かせない、長時間の取調べ等が行われたケースが過去にあります。

このような状況下に基づいて発生した自白証拠は、証拠として扱われません。そのため、被疑者や被告人が、強要に基づいて自白をしてしまった場合は、弁護士へ相談をしたうえで自白の強要があった旨を伝え、証拠能力がないことを主張しましょう。

自白と供述調書の違い

自白とは、犯罪について自ら話すこと、具体的には「自らの違法行為を認めること」です。一方で、供述調書は供述内容に関わらず、話した内容が調書として作成されることを指します。

たとえば、取り調べにおいて「私は何もやっていない。何も知らない」と伝えた場合は、その内容が供述調書として作成され、刑事裁判においても証拠として扱われます。自白も同様であり、自白した内容が供述調書として作成され、その内容が証拠として扱われることになるでしょう。

偽証罪と自白の関係

偽証罪と自白はまったく異なる関係性にあります。しかし、以下のようなケースを想定されている人もいるのではないでしょうか?

  • 虚偽の自白をした場合は偽証罪が成立するのか?
  • 他人に不利益を与える虚偽供述をした場合は?
  • 裁判所での証言と警察や検察での自白の違いは?

次に、上記の疑問について詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてください。

自白内容が虚偽でも偽証罪は成立しない

自白内容が虚偽であっても、偽証罪という犯罪は成立しません。なぜなら、偽証罪は「法律上の宣誓をした者が虚偽の証言をした場合」に成立する犯罪であるためです。

そもそも自白とは、罪を犯したことを認めることを指します。つまり自白の虚偽とは、「罪を犯していないにも関わらず、罪を犯しました」と虚偽の証言をすることを指します。

たとえば、自白の強要を受けて実際に罪を犯していないにも関わらず、罪を犯したと言ってしまった。誰かを庇うために自分が罪を犯したと嘘をついたというシチュエーションが考えられます。これらは、法律上の宣誓をしているわけではないため、偽証罪は成立しません。

他人に不利益を与える虚偽供述をした場合

他人に不利益を与える虚偽供述をした場合は、偽証罪が成立するケースとしないケースがあります。まず、「他人に不利益を与える虚偽供述をした」という事実のみで偽証罪は成立しません。

しかし、「法律上の宣誓をしたうえで他人に不利益を与える虚偽供述をした」となれば、当然に偽証罪が成立します。

また、法律上の宣誓を行っていない場面であっても、他人を陥れる目的で虚偽の供述をした場合は、刑法(第172条)の虚偽告訴罪が成立する可能性があります。虚偽告訴罪の法定刑は3カ月以上10年以下の拘禁刑です。

裁判所での証言と警察・検察での自白の違い

裁判所での証言と警察、検察での自白の取り扱いは大きく異なります。まず、警察や検察で自白する状況にある人は、被疑者や被告人(罪を犯したと疑われている人)です。そして、裁判所で証人として証言をする人は、被疑者や被告人以外の人です。

つまり、裁判所での証言と警察・検察での自白は取り扱いがまったく異なります。

裁判上で被告人が虚偽の話をしたとしても、偽証罪は成立しません。なぜなら、被告人はそもそも宣誓を行わないためです。また、罪を犯しているにも関わらず、「私は何もやっていません」と言うことが偽証罪になることもありません。

偽証罪が成立するケース

偽証罪が成立する主なケースは以下のとおりです。

  • 虚偽の供述を証人として行った場合
  • 事実を知っていながら隠した場合
  • 他人を庇う目的で虚偽証言をした場合
  • 裁判に影響を与える重大な虚偽をした場合

次に、偽証罪が成立するケースについて詳しく解説します。

虚偽の供述を証人として行った場合

裁判上の証人として供述を行い、その供述内容に虚偽があった場合は偽証罪が成立します。そもそも、証人は証言をする前にかならず宣誓をしなければいけません。そのため、偽証罪の成立要件である「宣誓をした者が虚偽の証言をした場合」に該当し、犯罪として成立します。

たとえば、犯罪現場を目撃した証人として出廷し実際は「逃げて行く白い車を見た」のにもかかわらず、何らかの理由で「逃げて行く黒い車を見た」と証言したとしましょう。明らかな虚偽である場合は、偽証罪が成立します。

事実を知っていながら隠した場合

事実を知っていながら「知らない」と答える行為も偽証罪が成立します。たとえば、犯行現場を見た人が、「私は何も見ていません」と証言した場合は偽証罪に問われるでしょう。

やはり、裁判で宣誓をしたうえで証言をしているため、虚偽である以上は偽証罪に問われてしまうため注意しなければいけません。なお、事実を知っていながら「わかりません」「記憶にありません」と言う行為も偽証罪に問われる可能性があります。

本当に知らないのであれば、偽証罪に問われることはありませんが、知っていながら「知りません」と言う行為は偽証罪となるため注意しましょう。

他人をかばう目的で虚偽証言をした場合

他人を庇う目的で、虚偽の証言をした場合も当然に偽証罪が成立します。ただし、偽証罪が成立するケースは「法律上の宣誓を行った場合」のみです。つまり、裁判の証人として出廷した場合に限ります。

宣誓を行っていない状況下で他人を庇う目的で虚偽証言をした場合は、他の犯罪が成立する可能性もあるため注意しましょう。たとえば、被疑者や被告人を庇う目的でまったく関係のない第三者を犯人に仕立て上げようとしたとしましょう。

そして、「犯人は〇〇(被疑者・被告人)ではなく、〇〇(まったく関係のない人)です」と警察の取り調べ等で証言をしたとしましょう。この場合、虚偽告訴罪等が成立する可能性があるため注意しなければいけません。

裁判に影響を与える重大な虚偽

裁判に影響を与えるような重大な虚偽は、当然に偽証罪が成立します。そもそも、現在は裁判員裁判が行われています。一般市民も裁判に参加することから、証人の証言が事実である前提でなければ、裁判を進めて行くうえで大きな弊害が発生します。

そのため、当然に裁判に影響を与えるような重大な虚偽を行った場合は、偽証罪が成立するため注意しましょう。

偽証罪が成立しないケース

宣誓を行った証人が誤った証言をしても、偽証罪が成立しないケースがあります。そのケースとは、主に以下のとおりです。

  • 証言が誤解や記憶違いによるもの
  • 強要された証言
  • 自分を守るための供述
  • 裁判以外での虚偽の発言

次に、偽証罪が成立しない主なケースについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

証言が誤解や記憶違いによるもの

証言が誤解や記憶違いによる場合は、結果的に虚偽の証言になってしまったとしても、偽証罪は成立しません。

たとえば、犯行現場を見た証人が「逃げて行く黒い車を見た」と証言をしたとしましょう。しかし実際は、グレーの車両であり夜間であって見えにくい状況で、勘違いや記憶違いによるものだった。というケースです。

このように、証人の誤解や記憶違いによる場合は、偽証罪という犯罪は成立しません。あくまでも、故意を持って虚偽の証言をした場合にのみ偽証罪が成立します。

強要された証言

強要されて証言をした場合も、偽証罪が成立しません。たとえば、被告人や被告人の身内等から「被告人に対する不利な証言をした場合は、あなたに危害を加える」といった内容の告知をされた場合が該当します。

この場合は、強要のもとで証言をしてしまっているため強要罪は成立しません。そもそも、偽証罪は「自己の記憶に反して虚偽の申告をした場合」という前提があります。そのため、自分の意思に反して強要による証言をした場合は、偽証罪が成立しません。

自分の利益を守るための供述

被告人が自分の利益を守るために行った虚偽の証言は、偽証罪が成立しません。そもそも、被告人は宣誓を行わないため、偽証罪という概念がないためです。

また、被告人はたとえば自分が罪を犯しているにも関わらず「自分は何もやっていない」と言う人もいます。もし、被告人に対する偽証罪を認めてしまえば、このことすらも否定することとなってしまうためです。

裁判以外での虚偽の発言

裁判以外での虚偽の発言は、偽証罪が成立しません。たとえば、警察や検察の取り調べにおいて、嘘の証言をしたとしても偽証罪という犯罪は成立しません。

ただし、被疑者や被告人以外の者が嘘の証言をした場合は、犯人隠避罪もしくは虚偽告訴罪に問われる可能性があるため注意しましょう。犯人隠避罪は、犯人を隠避(隠す)目的で取り調べ等において嘘をついた場合に成立する犯罪です。

虚偽告訴罪は、虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪です。それぞれ、成立要件は異なりますが、取り調べにおいて虚偽の申告をした場合に成立する可能性のある犯罪であるため、言いたくないことは言わない、もしくは「わかりません」と伝えるようにしましょう。

偽証罪と虚偽自白の違い

偽証罪と虚偽の自白をした場合の違いについて、以下のとおり解説します。

  • 自分に対する虚偽自白は偽証罪が成立しない
  • 虚偽自白は冤罪を生むリスクがある
  • 偽証罪は「他人に対する虚偽」で成立するのがポイント

次に、偽証罪と虚偽自白の違いについて解説しますのでぜひ参考にしてください。

自分に対する虚偽自白は偽証罪は成立しない

自分に対する虚偽自白は偽証罪が成立しません。本記事で解説しているとおり、そもそも偽証罪は「法律上の宣誓を行った者が虚偽の証言をした場合」に成立する犯罪です。

つまり、自白の対象となる被告人は宣誓を行わないため、前提として偽証罪が成立することはありません。そして、裁判上で誰かを庇う目的で「私が罪を犯しました」といっても偽証罪は成立しません。なぜなら宣誓を行っていないためです。

たとえば、自分の家族が何らかの罪を犯し、家族のために自分が罪を被ろうとしていたとしましょう。その人は、裁判上で虚偽の自白「私がやりました(と嘘をつくこと)」をしたとしても、偽証罪は成立しないのです。

ただし、先ほども解説したとおり犯人隠避罪に問われる可能性があるため注意したほうが良いでしょう。

虚偽自白は冤罪を生むリスクがある

虚偽の自白は冤罪の原因となります。そのため、万が一虚偽の自白をするよう求められた場合は、弁護人へ相談しましょう。

そもそも、警察や検察、裁判官はあなたが犯人であると仮定して逮捕状等を請求・発付します。そのため、あなたからの自白を得るためにさまざまな手段で対応を検討することでしょう。その一環として、あなたに対する自白の強要が発生する可能性も否定できません。

この場合、あなた自身も圧力に負けて虚偽の自白をしてしまうことがあるかもしれません。しかし、重大な冤罪事件のきっかけとなるため、虚偽の自白は避けるべきでしょう。

誰かを庇おうとした場合を除いて、虚偽の自白をしたとしても原則罪に問われることはありません。

偽証罪は「他人に対する虚偽」で成り立つ点がポイント

偽証罪は、前提として「他人に対する虚偽」で成立するのがポイントです。何度もお伝えしているとおり、たとえば裁判上で証言をする場合は、良くも悪くもあなたの証言が被告人への判決に影響を与えます。

つまり、偽証罪は前提として「被告人もしくはその他の人に対する嘘をついている」ということになります。とくに裁判員裁判においては、一般人が裁判へ参加することから嘘の証言が判決等へ影響を与える可能性が非常に高いです。このことから、偽証罪の積極的な適用を進めていると言われています。

偽証罪の刑罰

偽証罪は刑法犯であり、違反した場合は拘禁刑に問われる可能性があります。ただし、執行猶予がつくケースもあるため、必ずしも直ちに刑務所へ収監されるとは限りません。次に、偽証罪の刑罰と執行猶予が付く可能性、実際の判例の傾向について詳しく解説します。

偽証罪の法定刑(3月以上10年以下の拘禁刑)

偽証罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の拘禁刑」です。拘禁刑とは、2025年6月に始まった新しい刑罰です。これまで、刑務作業が義務付けられている「懲役刑」と刑務作業が義務付けられていない「禁錮刑」がありました。

2025年6月以降は懲役刑と禁錮刑が一本化され、受刑者に合ったプログラムを行えるようになりました。これが現在の刑罰である「拘禁刑」です。

そして、偽証罪の刑罰は3カ月以上10年以下の拘禁刑であり、罰金刑の規定はありません。そのため、偽証罪に問われた時点で刑務所へ収監される可能性があるということを覚えておきましょう。

執行猶予がつく可能性

偽証罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の拘禁刑」であるため、執行猶予付きの判決が下される可能性があります。執行猶予付きの判決は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」の場合にのみ付けることができるものです。

なお、執行猶予とは判決の執行を直ちに執行せずに一定期間猶予することを指します。たとえば、偽証罪の罪で「拘禁刑3年執行猶予5年」の判決が言い渡された場合は、拘禁刑3年の刑罰を直ちに執行せずに5年間猶予します。

猶予されている期間は、社会生活を送りながら更生を目指します。執行猶予期間中に罰金刑以上の刑が確定しなければ、執行を猶予されていた刑罰が執行されることはありません。ただし、罰金刑以上の刑罰が確定した場合は、猶予されていた刑罰が加算される可能性があるため注意しましょう。

初犯か累犯かによる違い

初犯か累犯かによって、刑罰に差が出る可能性があります。初犯とは、過去に一度も有罪判決を受けたことがない人を指します。累犯は、過去に1回以上有罪判決が下されたことのある人を指します。

過去に一度も偽証罪に問われたり有罪判決を受けたりしたことがない人は、刑罰が軽くなる傾向にあります。一方で、悪質な偽証を行った人や有罪判決を受けたことがある人は、刑罰が重くなり、執行猶予が付かない可能性もあるため注意しましょう。

偽証罪に問われないための注意点

偽証罪に問われないために注意すべきことは、以下のとおりです。

  • 裁判で証言をする際の心がけ
  • 曖昧な記憶は「覚えていない」と答える
  • 弁護士と証言内容を確認しておく

次に、偽証罪に問われないための注意点について詳しく解説します。

裁判で証言する際に心がけること

偽証罪に問われる可能性があるのは、法律上の宣誓をした場合に虚偽の申告をした場合です。そのため、主に注意すべきシチュエーションは「裁判で証言をする際」です。裁判で証言をする機会がある場合は、以下のことに注意しましょう。

  • 曖昧な記憶で証言しない
  • 自分の記憶に正直に答えることを意識する

裁判官や弁護人もしくは検察官等から質問をされた際、記憶が曖昧である場合は「記憶が曖昧です」や「覚えていません」と正直に答えましょう。記憶が曖昧なままで証言をしてしまうと、後から誤った証言であることが発覚した場合に偽証罪に問われる可能性があるためです。

そして、証言をする際はどのような状況であっても自分の記憶に反した証言をしてはいけません。たとえば、実際に見た状況とは異なる状況を証言することで、偽証罪に問われる可能性が高まります。

そのため、たとえ被告人を守りたいという気持ちがあったとしても、嘘の証言だけは避けましょう。なお、証言は断ることができるため、「被告人に不利となる証言であるため、裁判で証言をしたくない」という場合は、証人としての依頼を断ってください。

曖昧な記憶は「覚えていない」と答える

先ほども解説しましたが、記憶が曖昧である場合は「覚えていない」と証言してください。

偽証罪は、誤解や記憶違いによる証言である場合は、基本的に罪に問われることはありません。しかし、人の記憶を第三者が把握することは困難であり、嘘の証言をしようとしていたのか、本当に記憶違いだったのかを見極めるのは困難です。

そのため、結果的に誤った証言をしたことによって、偽証罪に問われる可能性が発生するため注意しなければいけません。少しでも曖昧な記憶である場合は、「覚えていません」や「記憶が曖昧なのですが……」という前提で話を進めるようにしましょう。

弁護士と証言内容を確認する重要性

弁護側の証人として裁判へ参加する場合は、被告人の弁護人とよく話し合ったうえで証言内容を明確にしておきましょう。検察側の証人として立つ場合は、検察官と話し合ったうえで証言内容を明確にしておく必要があります。

弁護士との話や検察官との話の場合は、たとえ嘘や誤った証言をしたとしても偽証罪に問われることはありません。記憶が曖昧な場合は、「記憶が曖昧なのですが、このまま裁判で証言をしても大丈夫でしょうか?」などと聞いてみても良いでしょう。

偽証罪を自白した場合の取り扱いについて

偽証罪を犯し、その罪を自白した場合は罪に問われて最終的には刑事罰が下される可能性があります。ただし、自白をした場合は「反省をしている」と見なされて心証が良くなり、結果として執行猶予付きの判決が下される可能性もあります。

次に、偽証罪を自白した場合の取り扱いについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

自白による量刑への影響

偽証罪について自白をしたからといって、法律上の減刑を受けられることはありません。しかし、自白したことによって「反省の情」として捉えられ、結果的に被疑者や被告人にとって有利な処分や判決が下される可能性があります。

なお、自白証拠のみで有罪判決を下すことはできないため、その他証拠があることが前提です。もし、自白証拠以外の証拠がなければ、有罪判決が下されることはありません。

自白が証拠として採用される条件

自白は、被疑者や被告人にとって自分に不利となる情報を相手に伝える行為です。そのため、自白が証拠として採用されるためには「自白の任意性」が認められなければいけません。

自白の任意性とは、「自ら進んで自白をした」という事実が認められなければいけません。たとえば、脅迫や暴行等を用いて自白をした場合、いわゆる「自白の強要」となるため、自白を証拠として扱うことはできません。

他にも、長時間の取り調べや食事を与えない、トイレに行かせないといった行為も自白の強要となり、自白証拠は無効となります。そのため、このような行為があった場合は、担当の弁護人に相談をしてみましょう。

よくある質問

偽証罪の自白について、よくある質問を紹介します。

Q.嘘の自白は偽証罪になりますか?

A.偽証罪に問われることはありません。

警察や検察で嘘の自白をしたとしても、偽証罪は成立しません。なぜなら、偽証罪が成立するためには「法律上の宣誓をした者が」という前提が必要であるためです。そのため、たとえば自白ではなく、実際に罪を犯したにも関わらず「私は何もやっていない」と嘘をついても罪に問われることはありません。

また、裁判において嘘の自白をしたとしても、偽証罪に問われることはありません。なぜなら上記と同じ理由であり「法律上の宣誓をした者が」という前提があるためです。

そもそも、自白とは自ら犯罪を認めて自供することを指します。つまり、自白をする人は被告人本人ということになります。そして、刑事裁判において被告人は法律上の宣誓を行いません。つまり、裁判で嘘をついたとしても罪に問われることはないのです。

ただし、証人として出廷した者が被告人を守るために「私が罪を犯しました。犯人はこの人(被告人)ではありません」と嘘をついた場合は偽証罪が成立します。なぜなら、証人は裁判上の宣誓を行う必要があるためです。

Q.偽証罪と虚偽告訴罪は何が違いますか?

A.偽証罪は「法律上の宣誓を行った者が虚偽の証言をした場合」に成立する犯罪です。虚偽告訴罪は、「虚偽の告訴をした場合」に成立する犯罪であり、大きな違いがあります。

そもそもの成立要件が異なります。偽証罪は本記事で解説しているとおり「法律上の宣誓を行った者が嘘の証言をした場合」に成立する犯罪です。つまり、裁判で証人として出廷し、宣誓をしたにも関わらず、嘘の証言をした場合に偽証罪に問われます。

虚偽告訴罪は、虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪です。たとえば、誰かを陥れるために「この人に痴漢をされました」と嘘をつき、告訴した場合に成立する犯罪です。

Q.虚偽の自白は撤回できますか?

A.自白は撤回できますが、すべて証拠として扱われます。

一度自白した内容を後から「あの時の自白はすべて嘘でした」ということ自体は可能です。しかし、自白した内容や自白をした事実が証拠として扱われます。そのため、裁判においては、「なぜ、一度自白をしたにも関わらず、自白は嘘でしたと供述を変えたのですか?」と聞かれるでしょう。

このとき、たとえば「長時間の取調べに耐えられなかった」「取り調べをした担当者から暴言・暴行を受けた」などの証言をすれば、その調査が行われます。実際に違法な取り調べがあった場合は、自白証拠は撤回できます。

ただ、何ら理由もなく自白を撤回したいと言っても、自白した内容自体が証拠として扱われるため、信憑性の有無を判断したうえで判決が言い渡されます。

Q.偽証罪で初犯なら執行猶予は付きますか?

A.偽証した内容等によります。

偽証罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の拘禁刑」です。そして、執行猶予付きの判決は3年以下の拘禁刑について付けられるものです。そのため、3年以下の拘禁刑が言い渡された場合は、執行猶予がつく可能性があるでしょう。

初犯で軽微な偽証である場合は、執行猶予がつく可能性があります。しかし、初犯であっても重大な偽証が認められた場合は、実刑判決となる可能性が高くなるため注意しましょう。

とくに、現在は裁判員裁判として一般の人が刑事裁判に参加をしています。「証人が本当の証言をしている」という前提がなければ、一般の人が判断に悩んでしまいます。そのため、現在は、偽証罪について積極的な適用を進めていると言われいるため注意しましょう。

偽証罪は、「嘘をついていた場合」に成立する犯罪です。本記事で解説しているとおり、記憶違いや勘違いである場合は成立しません。つまり、検察側は「嘘をついていた」という証拠を集める必要があります。人の心を読める人は存在せず、本人が「勘違いだった」「記憶違いだった」といえば、検察側が「嘘をついていた」という証明することがとても難しくなります。そのため、現実的に考えて偽証罪に問うこと自体が困難であるとも言われています。

Q.自白を強要されたときはどう対応すべきですか?

A.かならず弁護人へ相談をしましょう。

自白の強要は違法です。強要に基づいて話した内容は、一切証拠として扱うことはできません。そのため、たとえ自白をしてしまったとしても、まずは弁護人へ自白の強要があった旨を伝え、証拠能力の排除を求めましょう。

なお、現在は特定の事件において取り調べの状況を常時録画する運用となっています。しかし、すべての事件が対象ではないため、実際に違法な取り調べが行われている可能性も否定できません。

もし、取調べにおいて「この取り調べは問題ないのか?」と疑問に思うことがあった場合は、かならず弁護人へ相談をしてください。

まとめ

本記事では、偽証罪と自白の定義や違い、成立する・しないケースについて詳しく解説しました。

偽証罪は「法律により宣誓した証人が虚偽の証言をした場合」に成立する犯罪であり、裁判の公正を守るうえで極めて重要な役割を持ちます。一方、自白は被疑者や被告人が自分に不利な事実を認める行為であり、強力な証拠能力を持つものの、強要による自白は無効とされるなど慎重な取り扱いが求められます。

よく誤解される点として、「虚偽の自白をしても偽証罪にはならない」ということがあります。これは、自白には宣誓が伴わないためであり、虚偽の自白は偽証罪ではなく、冤罪の原因や供述調書の信用性の問題として扱われます。

また、偽証罪は故意に虚偽の証言をした場合に成立しますが、記憶違いや誤解による証言は偽証罪に該当しません。裁判や刑事事件に関わる可能性がある人にとって、こうした違いを理解しておくことはとても大切です。偽証罪や自白の取り扱いを正しく知ることで、自身や他人の権利を守る第一歩につながります。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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