「友人を助けただけのつもりが、実は犯罪だった」そんな事態を招くおそれがあるのが、犯人隠避罪 です。犯人隠避罪とは、罪を犯した人であると知りながら、その発見や逮捕を妨げる目的で逃走を手助けした場合に成立する犯罪を指します。たとえば、事件を起こした知人を自宅にかくまう、逃走資金を渡す、「知らない」と嘘をついて警察の捜査を妨げるこうした行為が該当することがあります。
一見すると単なる「友情」や「思いやり」と思える行動でも、捜査機関の発見を妨げる意図が認められれば、刑法第103条に定められた犯人隠避罪として処罰の対象になります。また、SNSやインターネットを通じた犯人隠避も増加しており、たとえば「警察がこの地域にいる」と投稿して逃走を助けた場合にも、隠避行為として立件されるおそれがあります。
この記事では、犯人隠避罪の定義から成立要件、犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪との違い、実際にあった隠避行為の具体例、さらには罰則内容までをわかりやすく解説します。「どんな行為が罪にあたるのか?」「どこまでがセーフで、どこからがアウトなのか?」その境界線を正しく理解し、思わぬトラブルを防ぐためにも、ぜひ参考にしてください。
目次
犯人隠避罪とは
犯人隠避罪とは、犯人を隠避(隠した)場合に成立する犯罪です。たとえば、逃走を手助けしたり、逃走資金を提供したりした場合に成立する犯罪であると考えておけば良いです。
犯罪を犯したことを認識していながら、その人を隠したり手助けしたりする行為は犯罪となるため注意しなければいけません。まずは、犯人隠避罪とはどのような罪なのか?について詳しく解説します。
犯人を隠避した場合に成立する犯罪
犯人隠避罪とは、罪を犯した人を警察などの捜査機関から隠したり、逃走を手助けしたりする行為を処罰する犯罪です。刑法第103条で規定されており、正式には「犯人隠避の罪」と呼ばれます。
この罪が成立するのは、「罪を犯した人」であると知りながら、その発見や逮捕を免れさせる目的で行動した場合です。
たとえば、事件を起こした友人を自宅にかくまったり、警察に「知らない」と嘘をついて逃がした場合などが該当します。犯人隠避罪は、犯罪行為そのものに関与していなくても、その後の行動によって新たな犯罪として問われる点に注意が必要です。
犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪との違い
犯人隠避罪と混同されやすいのが、「犯人蔵匿罪」と「証拠隠滅罪」です。これらは似たような行為を処罰しますが、行為の目的や対象が異なります。
- 犯人隠避罪:すでに罪を犯した人「隠避」する行為
- 犯人蔵匿罪:すでに罪を犯した人を「蔵匿」する行為
- 証拠隠滅罪:犯罪の証拠(凶器・書類・データなど)を隠したり破棄したりする行為
つまり、犯人隠避罪は「逃走を助ける」「逮捕を妨げる」ことに焦点があり、証拠や物ではなく人に対する行為が処罰対象になります。
隠避とは、間接的に逃走の手助けをする行為を指します。たとえば、変装するための道具を用意して提供する、逃走資金を提供する、といった行為が該当します。蔵匿は、匿う行為です。たとえば、自分が住む家に匿う行為が蔵匿に該当します。
犯人隠避罪の成立要件
犯人隠避罪の成立要件は「犯人」を「隠避」することです。犯人とは、「罪を犯した者」ですが、その定義には争いがあります。基本的には、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」と考えておけば良いでしょう。
次に、犯人隠避罪の成立要件について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
「犯人」とは誰を指すか
犯人隠避罪における「犯人」とは、すでに犯罪行為を行った者を指します。つまり、まだ犯行に及んでいない「これから犯罪をしようとしている者」は対象外です。
ただし、実務上は「犯罪を行ったとみられる人物」を警察が追っている場合、その人物を隠す行為は、隠避の意図が認められれば処罰の対象となる可能性があります。
「隠避」とは何を意味するか
「隠避」とは、捜査機関の発見や逮捕を妨げる一切の行為を意味します。具体的には、以下のような行為が該当します。
- 犯人を自宅や車にかくまう
- 逃走資金を渡す
- 警察の捜査情報を知らせる
- 「知らない」と嘘をついて行方を隠す
つまり、罪を犯した者を「励ます」「心配して連絡を取る」などの行為だけでは、隠避行為とまではいえないため、犯人隠避罪は成立しません。あくまでも「逃げるのを助ける意図があったかどうか」で判断されます。
故意の要件
犯人隠避罪が成立するには、「相手が犯罪者であると知っていた」ことと「逃がそうとする意思」が必要です。これを刑法上では「故意」と呼びます。
たとえば、相手が犯罪者だと知らずに車に乗せた場合や、単に親切で助けた場合などには、故意が認められず犯人隠避罪は成立しません。一方で、「逮捕されそうだから逃げたい」と知りながら手助けした場合には、故意ありと判断されます。
幇助犯との区別
犯人隠避罪と混同されやすいのが、幇助犯(犯罪の手助けをした人)です。両者の違いは、犯罪の「前」か「後」かというタイミングにあります。
- 幇助犯:犯罪が行われる「前」に手助けした場合(例:逃走用の車を準備した)
- 犯人隠避罪:犯罪が終わった「後」に逃走を助けた場合
この違いは刑事上非常に重要であり、同じように助けた行為でも、いつ・どんな目的で行ったかによって罪の重さが変わります。
たとえば、銀行強盗を行おうとしている犯罪者の逃亡を手助けするため、銀行の前に逃走用車両に乗車し、ドライバーとして待機していたとしましょう。この場合は、銀行強盗を幇助したと見なされるため、強盗罪の共犯として処罰されます。
一方で、銀行強盗をした人から連絡を受け、たとえば「お金を払うから逃走を手助けしてほしい」頼まれて実行した場合は、犯人隠避罪に問われます。
犯人隠避にあたる具体例
犯人隠避罪に問われる具体的な例は以下のとおりです。
- 自宅に匿う行為
- 逃走資金を渡す行為
- 偽名や身分証を与える行為
- 警察の追跡を妨害する行為
- SNSやネットを使った隠避
次に、犯人隠避罪に問われる可能性のある行為について詳しく解説します。
自宅にかくまう行為
犯人を自宅や知人宅にかくまい、警察の発見を妨げる行為は典型的な犯人隠避です。たとえ短期間でも、逃走目的で「泊める」「隠す」などの行動を取った場合には、隠避とみなされる可能性があります。
とくに、警察の捜索を避けるために隠し部屋や物置に匿った場合などは、明確な隠避行為として立件されやすいため注意しましょう。「友人が困っていたから」といった理由でも、犯罪を知ったうえで助けた場合は、故意ありと判断される可能性がある点に注意が必要です。
逃走資金を渡す行為
逃走のために現金を渡したり、交通費・宿泊費を負担する行為も犯人隠避にあたります。金銭の授受は証拠が残りやすく、逃走を助けた明確な意思の証拠として扱われることがあります。
とくに、「警察に捕まらないように」と言いながら金銭を渡した場合は、隠避目的が明確とされ、犯人隠避罪が成立しやすいです。
偽名や身分証を与える行為
逃走中の犯人に偽名を使わせたり、他人名義の身分証を渡したりする行為も犯人隠避罪の典型例です。身分証の偽造や譲渡は、場合によっては私文書偽造罪や有印私文書等偽造罪にも発展します。
また、犯罪者本人の代わりに身分を偽って手続きを行う行為も、隠避の一環とみなされることがあります。たとえば、本人に代わってホテルの宿泊手続きや交通チケットの購入などをした場合が該当するため注意しましょう。
警察の追跡を妨害する行為
警察の追跡や捜査活動を意図的に妨げる行為も隠避に該当します。たとえば、以下のような行為に注意が必要です。
- 捜査官に虚偽の情報を伝える
- 犯人の位置を隠す
- 逃走経路を遮断するために車でブロックする
といった行為は、隠避の意思があると判断されれば刑事責任を問われる可能性があります。単なる誤情報や勘違いによる発言であれば罪にはなりませんが、「犯人を守ろうとした意図」があると立件されることがあります。
SNSやネットを使った隠避
近年では、SNSやインターネットを利用した犯人隠避も増えています。たとえば、以下のような行為が該当します。
- SNSで「警察がこの地域にいる」と発信して逃走を助ける
- 逃走犯とDMなどで連絡を取り、居場所や動向を隠す協力をする
その他、掲示板や匿名アカウントを使って犯人の潜伏先を匿うよう呼びかける行為なども、デジタル上の隠避行為として刑事責任が問われる場合があります。
犯人隠避にあたらないケース
犯人隠避罪は「犯人を隠避した場合」に成立する犯罪ですが、以下に該当する場合は、犯人隠避罪が成立しません。
- 知らずに匿った場合
- 単なる同情や付き添い
- 法的義務の範囲内の行為
- 偶然の接触や居合わせ
- 結果的に逃走につながったが故意がない場合
次に、犯人隠避罪に当たらないケースについても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
知らずにかくまった場合
犯人隠避罪が成立するには、相手が犯罪者であると知っていたこと(認識)が前提です。そのため、相手が犯罪を犯したことを知らずにかくまった場合には、故意がないため犯人隠避罪にはなりません。
たとえば、友人が「警察に追われている」と言わずに泊まりに来た場合や、ニュースを見て初めて知ったようなケースでは、隠避の意思が認められないと判断される可能性が高いです。
単なる同情や付き添い
逃走中の人物に対して、同情して声をかけたり、話を聞いたりするだけでは犯人隠避罪にはなりません。また、ケガをしている犯人を救急車に乗せるなど、人道的な行為も処罰の対象外です。
ただし、「逃げるよう勧めた」「発見を避けるための行動を助けた」と判断される場合には、隠避とみなされるおそれがあります。境界があいまいな場合もあるため、状況によっては弁護士への相談を検討しましょう。
法的義務の範囲内の行為
職業上の守秘義務や法的義務の範囲内で行った行為は、犯人隠避罪に該当しないことがあります。たとえば、弁護士が依頼人の発言内容を守秘義務として外部に漏らさない場合や、医師・看護師が患者の情報を保護する行為などは、法律で認められた職務の範囲内です。
これらは正当な業務行為として違法性が阻却されるため、犯人隠避罪の構成要件に該当しません。
偶然の接触や居合わせ
たまたま逃走中の犯人と出会って、同じ場所に居合わせただけの場合も、当然ながら犯人隠避にはなりません。たとえば、逃走犯が立ち寄ったコンビニに居合わせただけの客や、道でたまたま会話した人にまで罪が及ぶことはありません。
隠避罪はあくまで「隠す意思をもって行動したかどうか」が重要であり、意図しない接触は処罰の対象外です。
結果的に逃走につながったが故意がない場合
本人の意思とは関係なく、結果的に逃走の助けになってしまった場合でも、故意がなければ犯人隠避罪は成立しません。たとえば、車で送った相手が後に犯罪者と判明したケースなどが典型です。
このような場合は、警察の捜査で事情を丁寧に説明することが大切です。「隠すつもりはなかった」という事実を裏付けるメッセージ履歴や通話記録などがあれば、嫌疑不十分として不起訴になる可能性もあります。
犯人隠避罪の刑罰
犯人隠避罪の刑罰は「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」です。執行猶予がつく可能性があり、また、罰金刑の規定もあるため比較的軽微な刑罰であることがわかります。
次に、犯人隠避罪の法定刑についても詳しく解説します。
法定刑
刑法第103条では、犯人隠避罪の法定刑を「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」と定めています。
罰金刑の規定があるものの、犯人隠避の罪が悪質な場合は拘禁刑に処される可能性があるため注意しましょう。拘禁刑の実刑判決が下された場合は、一定期間刑務所へ収監され、さまざまなプログラムを実施します。
拘禁刑とは、これまでの刑罰であった「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化した刑罰です。2025年6月に導入された刑罰であり、受刑者の特性にあった更生プログラムを実施します。
罰金刑が選択される場合
犯人隠避罪は、隠避行為の内容が軽微で、社会的影響も小さい場合には罰金刑が選ばれる傾向にあります。
たとえば「一晩だけ友人を泊めた」「逃走資金を少額だけ渡した」といったケースでは、反省の姿勢や自首が評価され、罰金刑で済む可能性があります。ただし、警察の捜査を妨げたり、長期間にわたって逃走を助けた場合は、拘禁刑が選択されることも少なくありません。
執行猶予の可能性
初犯であれば、たとえ拘禁刑が科されても執行猶予が付くケースが多く見られます。執行猶予とは、一定期間刑の執行を猶予し、その期間内に問題行動がなければ刑の効力を失わせる制度です。
反省文の提出や被害者・関係者への謝罪など、真摯な反省態度が認められれば、実刑を回避できる可能性も十分あります。
前科の有無と刑の重さ
過去に犯罪歴がある場合や、他の罪(窃盗、暴行、詐欺など)と併せて行われた場合は、量刑が重くなります。とくに、犯人をかくまった動機が「犯罪を隠すため」「報復を避けるため」といった悪質なものだった場合、情状が不利に働くこともあります。
反対に、家族や友人として一時的に助けてしまったようなケースでは、前科がなければ情状酌量の余地があるでしょう。
未成年者や初犯の扱い
未成年者が犯人隠避行為を行った場合は、刑事罰ではなく家庭裁判所での審判手続に回されることが一般的です。家庭裁判所では、行為の悪質性や反省の度合いを考慮し、「保護観察」や「審判不開始」となるケースもあります。
また、成人であっても初犯の場合は、執行猶予や罰金刑が選択される可能性が高く、拘禁刑の実刑判決になることはまれです。
親族が犯人をかくまった場合の特例
犯人隠避罪は、他人の逃走を助ける行為を処罰する犯罪であり、犯人が自分の家族や親族である場合には特例が設けられています。刑法第105条には「親族相隠(しんぞくそういん)」の規定があり、一定の親族関係にある場合には刑が免除されることがあります。
次に、親族相隠の仕組みや対象となる親族の範囲、免除が認められないケースについて詳しく解説します。
刑法105条の親族相隠の規定
刑法第105条では、犯人隠避罪や犯人蔵匿罪などに関して「親族がこれらの罪を犯した場合は、その刑を免除する」と定めています。これは、人間の自然な感情として「家族を守りたい」「助けたい」と思う行為を、厳しく罰するのは相当でないという考え方に基づくものです。
つまり、家族が犯人をかくまった場合でも、その行為が情に動かされたものであれば、刑事罰を科さずに済む可能性があるというわけです。
直系血族・配偶者などの扱い
この「親族相隠」の対象となるのは、刑法で定められた親族関係にある人です。具体的には、以下のとおりです。
- 直系血族(親・子・祖父母・孫など)
- 配偶者(夫・妻)
- 同居の親族(兄弟姉妹や甥姪など、同居している場合)
たとえば、母親が犯罪を犯した息子を自宅にかくまった場合、または妻が夫の逃走を手助けした場合などは、刑が免除される可能性があります。このように、家族としての情に配慮した制度であることが特徴です。
犯人隠避罪と関連する犯罪との違い
犯人隠避罪は、「犯罪を犯した本人が逃げるのを助ける行為」を処罰するものですが、似たような犯罪が複数あります。とくに、以下の犯罪は混同されがちです。
- 犯人蔵匿罪
- 証拠隠滅罪
- 逃走援助罪
次に、犯人隠避罪と他の関連犯罪との違いを詳しく解説します。
犯人蔵匿罪との違い
犯人蔵匿罪は、犯人を自宅などにかくまう行為を処罰する犯罪です。犯人隠避罪は、かくまうだけでなく、逃走を助ける行為も含まれます。
つまり、以下の点で異なります。
- 犯人蔵匿罪:犯人を物理的に隠す行為(静的)
- 犯人隠避罪:逃走を助ける行為(動的)
たとえば、自宅に匿う行為は「犯人蔵匿罪」、逃走資金を渡して逃げやすくする行為は「犯人隠避罪」となります。
証拠隠滅罪との違い
「証拠隠滅罪」(刑法第104条)は、犯人を助けるのではなく、犯罪の証拠を隠したり破壊したりする行為を処罰するものです。たとえば、犯人に代わって凶器を処分したり、血痕を拭き取ったり、犯行の記録データを削除したりすると証拠隠滅罪が成立する可能性があります。
犯人隠避罪が「人(犯人)」を対象とするのに対し、証拠隠滅罪は「物(証拠)」を対象とする点が大きな違いです。
逃走援助罪との違い
逃走援助罪は、すでに逮捕・勾留された犯人の逃走を助ける行為を処罰するものです。これに対し、犯人隠避罪は、まだ逮捕されていない段階で逃走を手助けする行為が対象になります。
具体的には、以下の違いがあります。
- 逮捕前に逃げ道を教える → 犯人隠避罪
- 逮捕後に逃走を助ける → 犯人逃走援助罪
逃走を助けたタイミングによって罪名が変わる点に注意が必要です。
犯人隠避罪に問われやすいケース
犯人隠避罪は、犯罪を犯した人の逃走を助ける行為を処罰する法律です。日常生活では想像しにくいかもしれませんが、身近なケースでも成立する可能性があります。ここでは、とくに犯人隠避罪に問われやすい典型的なケースを紹介します。
知人や友人をかくまったケース
犯人隠避罪でもっとも多いのが、知人や友人を自宅や車などにかくまったケースです。たとえば、飲酒運転や軽犯罪を犯した友人が逃走してきた際、「泊めてあげただけ」でも、逃走を助ける意図が認められると罪に問われる可能性があります。
友人として助けたい気持ちは理解できますが、法的には「犯罪者の逃走を助けた」とみなされる点に注意が必要です。
犯罪グループでの仲間意識からの隠避
暴力団や犯罪グループの仲間意識によって犯人をかくまう場合も、犯人隠避罪が成立しやすいです。仲間を守るための行為でも、犯罪の隠蔽や逃走支援と評価されると刑事責任を問われます。
ネットを利用した逃走支援
近年では、SNSやチャットアプリを利用して逃走を助けるケースも増えています。たとえば、以下のような行為が犯人隠避罪に問われる可能性があります。
- 警察の目をくらますための情報を送る
- 逃走経路や隠れ場所をネットで教える
- 証拠隠滅の指示をオンラインで行う
このような行為も犯人隠避罪として処罰の対象になります。たとえ直接会って助けていなくても、ネット上で逃走を支援した場合も法律上犯人隠避と評価されます。
交通手段の提供
車やバイク、タクシーなどの交通手段を提供して逃走を助ける行為も、犯人隠避罪の典型例です。たとえば、逃走中の友人を自宅や駅まで送るだけでも、逃走を助ける意図が認められると罪に問われる可能性があります。とくに、逃走先までの送迎や長距離移動を手助けした場合は、刑が重くなる傾向です。
暴力団関係者との関与
暴力団関係者や犯罪組織のメンバーと関与して犯人をかくまう場合、罪の評価はより厳しくなります。組織的な犯罪や逃走支援は、犯人隠避罪に加えて他の刑事罰(共犯・幇助、組織犯罪など)が適用されるリスクもあります。社会的な影響も大きくなるため、逮捕や実刑の可能性が高まります。
犯人隠避罪に問われにくいケース
犯人隠避罪は犯罪を犯した人の逃走を助ける行為を処罰しますが、すべての支援行為が罪になるわけではありません。たとえば、以下に該当する場合は、犯人隠避罪に問われにくいでしょう。
- 緊急避難的な行為
- 事実を知らずに行った場合
- 軽微な援助にとどまる場合
- 自発的に通報した場合
次に、犯人隠避罪に問われにくいケースについて詳しく解説します。
緊急避難的な行為
犯罪者をかくまう行為が、本人や他者の生命・身体・財産を守るための緊急避難として行われた場合は、犯人隠避罪が成立しにくくなります。たとえば、暴力行為を避けるために一時的に隠したケースなどが該当します。この場合、行為の動機が「犯罪者の逃走を助ける」ことではなく、「危険回避」であるため、犯人隠避罪が成立しません。
事実を知らずに行った場合
犯人隠避罪では、行為者が「犯人であることを知っていた」ことが成立要件になります。つまり、犯罪を犯した事実を知らずに助けた場合は、故意がないため罪に問われません。たとえば、無実の友人や知らない人をかくまった場合は、罪に問われることはないでしょう。
軽微な援助にとどまる場合
逃走を助けたとしても、その援助がごく軽微で、一時的・限定的なものであれば、犯人隠避罪で処罰されにくいケースがあります。たとえば、短時間の待機や簡単な助言にとどまる場合は、刑事責任が問われないことがあります。
自発的に通報した場合
犯人の逃走を一時的に助けたとしても、自発的に警察や関係機関に通報した場合は、責任が軽減される場合があります。逃走支援の後に速やかに通報して協力した場合、行為全体が「犯罪の助長」とは評価されにくくなるためです。
犯人隠避罪と社会的影響
犯人隠避罪で処罰を受けた場合、刑事上の責任だけでなく、社会生活にもさまざまな影響が生じます。たとえば、以下のような影響が発生し得るでしょう。
- 前科による影響
- 就職・資格の制限
- 家族や周囲への影響
- SNS上の炎上リスク
次に、犯人隠避罪と社会的な影響について詳しく解説します。
前科がつくことの影響
犯人隠避罪で有罪判決を受けると、前科が残ります。前科は一生涯残り、警察や裁判所だけでなく、場合によっては就職先や取引先にも影響するため注意しましょう。とくに公務員や警備・金融関係の職種では、前科があることで採用が難しくなるケースがあります。
就職・資格への制限
犯人隠避罪の前科があると、就職活動や資格取得にも制限がかかることがあります。たとえば、以下のような制限を受ける可能性があります。
- 公務員試験の受験制限
- 弁護士・司法書士・宅建などの資格取得への影響
- 信用調査や採用選考での不利
上記のとおり、社会的信用や職業選択に直接的な影響が出る可能性があるため、注意しましょう。
家族や周囲への影響
自分だけでなく、家族や親しい人にも影響が及ぶ場合があります。逮捕や前科の報道や噂が広まることで、家族が社会的に不利な立場に置かれることがあります。とくに親族が同居している場合や、子どもがいる場合は、学校や地域での信用にも影響する可能性があるため注意しましょう。
SNSでの炎上リスク
近年はSNSの発展により、逮捕や事件の情報がネット上で拡散されやすくなっています。犯人隠避罪で処罰を受けた場合、名前や顔、関与の内容が投稿されることで炎上するリスクがあります。ネット上での評判の低下は、就職や人間関係にも影響するため、注意が必要です。
よくある質問
犯人隠避罪に関するよくある質問を紹介します。
Q.犯人隠避罪と犯人蔵匿罪の違いは何ですか?
A.成立要件が異なります。
犯人隠避罪は、犯人を隠避した場合に成立する犯罪である一方、犯人蔵匿罪は犯人を蔵匿した場合に成立する犯罪です。隠避とは、犯人の逃亡を助ける行為です。本記事で解説しているとおり、たとえば逃亡資金を渡しただけでも成立する犯罪です。
一方で、蔵匿とは犯人を匿った場合に成立する犯罪を指します。つまり、犯人隠避罪のほうが広義で成立する可能性があるということです。
Q.家族をかくまった場合も罪に問われる可能性はありますか?
A.家族を匿った場合は、親族相隠となり罪が免除される可能性があります。
家族を匿った場合は、親族相隠となり「罪が免除される可能性」があるため、罪に問われない可能性があります。あくまでも可能性の話であり、必ずしも罪に問われないとは限りません。
法律上も「免除することができる」と記載されているのみであり、必ずしも免除されるとは限らないことにくれぐれも注意が必要です。
Q.犯人隠避罪は罰金で済むこともありますか?
A.あります。
犯人隠避罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」であるため、罰金刑で済む可能性があります。罪の内容を考慮し、罰金刑で済む可能性もありますし、拘禁刑の実刑判決が下される可能性もあります。
できるだけ罪を軽減するためにも、早期に弁護士へ相談をしたうえで適切な弁護活動を行ってもらいましょう。
Q.犯人隠避で逮捕される可能性はありますか?
A.罪を犯した内容等によって異なります。
犯人隠避罪は刑法犯であり、罪を犯した時点で逮捕される可能性があります。しかし、逮捕するためには「逃亡の恐れがある」もしくは「証拠隠滅の恐れがある」のいずれかの条件を満たしていなければいけません。
犯人隠避罪は、比較的軽微な犯罪であることから、上記条件を満たしていなければ基本的に逮捕されずに在宅捜査となるケースが多いでしょう。
Q.知らずに協力した場合も罪になりますか?
A.知らずに協力した場合は、罪に問われません。
犯人隠避罪が成立するためには、故意がなければいけません。そのため、故意が認められなければ、犯人隠避罪は成立せず、罪に問われることもありません。
弁護活動を行っていくうえで、「故意がなかった」ということを主張し、認められることが条件となります。そのためにも、できるだけ早期に弁護士へ相談しておきましょう。
まとめ
犯人隠避罪は、犯罪行為そのものに直接関わっていなくても、「犯人を逃がそうとした」という行動によって罪に問われる可能性がある点に注意が必要です。たとえ短期間であっても、事件を起こした人物をかくまう、金銭を渡す、嘘をついて逃走を助けるなどの行為は、捜査機関の発見を妨げたとみなされれば、犯人隠避罪が成立します。
刑罰は「2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金」であり、罰金刑で済む場合もありますが、悪質なケースでは拘禁刑の実刑判決となるおそれもあります。
一方で、相手が犯罪者だと知らなかった場合や、単なる同情・人道的な救助行為であった場合には、犯人隠避罪は成立しません。重要なのは「相手が罪を犯したと知っていたか」「逃がす意図があったか」という2点です。
もしも思いがけず警察から事情聴取を受けた場合や、犯人隠避を疑われてしまった場合には、早急に刑事事件に詳しい弁護士へ相談しましょう。軽い気持ちの行動が、取り返しのつかない結果を招かないよう、法のルールと責任を正しく理解しておくことが大切です。