「執行猶予期間がいつまでかわからない」「執行猶予期間や判決日を記載したメモを紛失してしまった」などの場合には、速やかに執行猶予の残期間を確認してください。
というのも、執行猶予期間中か経過後かによっ日常生活における注意事項の程度・内容が大きく異なるからです。たとえば、執行猶予期間が満了したと勘違いをして控えていた自動車運転をし、その結果、深刻な人身事故を起こしてしまった場合、人身事故について法的責任を問われるだけではなく、執行猶予が取り消されるリスクにも晒されてしまいます。
そこで、この記事では、執行猶予の残期間がわからない人や、執行猶予が付いたらどうなるか知りたい人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 執行猶予の残期間の確認方法
- 執行猶予期間中にやってはいけないこと
- 執行猶予期間を数える方法
- 執行猶予の確認方法などについて弁護士に相談するメリット
目次
執行猶予が期間満了したか確認する方法
刑事事件を起こして執行猶予付き判決が確定した場合、執行猶予期間が終わったら完全な形で社会復帰が叶います。
ところが、自分が下された執行猶予期間がいつ満了するか、残期間について忘れてしまうケースは少なくありません。
まずは、執行猶予が終わったかを確認する方法について解説します。
判決謄本の内容を確認する
刑事裁判の判決が言い渡された日に判決謄本を取得していた場合、手元に判決謄本があるはずです。
判決謄本の主文の箇所を確認すれば、執行猶予期間についての記載があるので、執行猶予がいつまでかわかるでしょう。
手元に判決謄本がないなら裁判所に請求する
判決謄本を紛失して手元にない場合には、裁判所に判決謄本を請求するのも選択肢のひとつです。
自分が被告人になった刑事事件の判決に関するデータは裁判所に記録・保管されています。
被告人本人や弁護人であれば、裁判所に判決書謄抄本交付請求書を提出して、判決の内容を確認できます。
引用:刑事訴訟法|e-Gov法令検索
判決書謄抄本交付請求書は、裁判所のHPからダウンロード、裁判所の窓口での交付といった方法で手に入ります。
また、謄本または抄本の工夫を受けるには、用紙1枚につき60円の費用を収入印紙で収める必要があります。
手元に判決謄本がないなら検察庁に請求する
手元に判決謄本がない場合、検察庁に問い合わせをして判決謄本を取得するのも選択肢のひとつです。
管轄の検察庁では過去に取り扱った刑事事件の記録が保管されています。判決書謄抄本交付請求書を請求すれば、最寄りの検察庁で判決謄本を受け取ることができます。
用紙1枚につき60円の費用を収入印紙が必要になる点は裁判所への交付請求と同じです。
【注意!】執行猶予が終わっても連絡はない
執行猶予期間が終わったとしても、裁判所や検察庁から通知が来ることはありません。
そのため、執行猶予付き判決が確定した場合には、事件番号、判決言い渡し日、判決確定日、執行猶予期間などの情報を自分で記録しておく必要があります。
判決に関する情報を失念・紛失してしまった場合には、できるだけ早いタイミングで所定の方法で判決謄本を入手してください。自分で判決謄本の請求をするのが難しい場合には、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。
執行猶予が終わったか確認するときの注意点
執行猶予期間が満了したかを確認するときの注意点を解説します。
執行猶予期間の起算点は判決確定日から
執行猶予期間の起算点は「判決確定日」です(刑法第25条第1項柱書)。「判決が言い渡された日」からカウントされるのではないので注意をしてください。
原則として、刑事裁判の判決が確定するのは、判決言い渡し日の翌日から14日が経過したあとです(刑事訴訟法第358条、同法第55条、同法第373条、同法第414条)。たとえば、判決言い渡し日が5月1日の場合、判決確定日は5月16日になります。
ただし、刑事裁判の上訴権は放棄できるので(刑事訴訟法第359条〜同法第360条の3)、被告人及び検察官の両者が上訴権放棄に関する書面が裁判所に到達した時点で判決が確定した場合には、例外的にこの前倒しされた判決確定日から執行猶予期間がスタートします。
執行猶予期間は最長5年
執行猶予期間は1年〜5年の範囲で言い渡されます。
執行猶予期間は、刑事事件をめぐる諸般の事情を総合的に考慮して決定されます。
たとえば、再犯よりも初犯のほうが執行猶予期間は短くなりやすいです。また、犯行の態様や社会復帰後の生活状況などから再犯の可能性が高いと判断されると、執行猶予期間が長くなります。さらに、被害が甚大だったり、反省の態度を示していなかったりすると、厳しい執行猶予期間の判断が下されるでしょう。
執行猶予期間満了までにやってはいけないことがある
執行猶予期間がいつ終わるのかわからない場合には、執行猶予期間中にやってはいけないことがある点に注意が必要です。
執行猶予期間中にやってはいけないことをしてしまうと、執行猶予の取り消しの対象になってしまいます。
執行猶予の取り消しは、以下のように、必要的取り消しと裁量的取り消しに区分されます。
| 執行猶予の必要的取り消し | ・猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき ・猶予の言渡し前に犯した他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき ・猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたことが発覚したとき |
|---|---|
| 執行猶予の裁量的取り消し | ・猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき ・第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき ・猶予の言渡し前に他の罪について拘禁刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき |
執行猶予期間中は再犯に及んではいけない
まず、執行猶予期間中に再犯に及んで拘禁刑以上の実刑判決が確定すると、執行猶予は必ず取り消されてしまいます。
また、執行猶予期間中に再犯に及んで罰金刑が確定したケースでは、個別具体的な事情を総合的に考慮したうえで、裁判所が執行猶予を取り消すかについて判断を下します。たとえば、飲酒運転や重大な人身事故を起こした場合にも罰金刑が下される可能性があるため、執行猶予期間中は、飲酒や自動車の運転などにも気を付ける必要があるでしょう。
保護観察が付された場合には遵守事項に違反しない
さらに、執行猶予に保護観察が付された場合には、以下の遵守事項を守らなければいけません。遵守事項への違反が発覚すると、執行猶予が裁量的に取り消される可能性があります。
- 再犯することがないよう、または、非行をなくすよう健全な生活態度を保持すること
- 保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けること
- 速やかに住居を定め届け出をすること
- 届け出をした住居に住むこと
- 転居または7日以上の旅行をするときは事前に保護観察所長の許可を得ること
- 健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し、または、継続すること
- 指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上・身分上の特定の事項について、緊急の場合を除いて、あらかじめ保護観察官・保護司に申告すること
- 特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること
- 改善更生のために適当と認められる特定の場所であって、宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること
- 地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと など
執行猶予に付された人の状況によって、執行猶予期間中の生活で気を付けるべき点は異なります。
判決内容を丁寧にチェックしつつ、不安・疑問があれば、弁護士や保護観察官などのアドバイスを参考にしてください。
執行猶予期間が終わったらどうなる?
執行猶予期間が終わったらどうなるかについて解説します。
刑の言い渡しの効力がなくなる
執行猶予中に取り消し事由が発生せずに執行猶予期間が経過したときには、刑の言い渡しの効力がなくなります(刑法第27条第1項)。
そのため、「拘禁刑⚪︎⚪︎年 執行猶予△△年」という判決が確定したケースでも、拘禁刑が科されるリスクが消滅します。
前科は残る
執行猶予付き判決が確定した場合、拘禁刑が執行されることはなく、今までどおりの日常生活を送ることができます。
しかし、執行猶予付き判決であったとしても、有罪になったという事実に間違いはありません。
ですから、執行猶予付き判決が確定した以上、執行猶予期間が満了したとしても、前科がつきます。
そして、前科持ちになってしまうと、今後の社会生活に以下のデメリットが生じる可能性があります。
- 履歴書の賞罰欄への記載義務、採用面接で質問されたときの回答義務が生じるので、就職活動・転職活動の難易度が高くなる
- 記載義務・回答義務に違反して前科の事実を申告せず内定を獲得したり就職を果たしたりすると、その後、前科の事実が発覚すると、経歴詐称を理由に内定が取り消されたり懲戒解雇処分が下されたりする
- 前科を理由に就業が制限される資格・仕事がある(士業、警備員、金融業など)
- 前科を理由に離婚を言い渡されたり結婚話がなくなったりしかねない
- 前科があると、ビザやパスポートの発給制限を受ける場合がある(海外旅行、海外出張に支障が生じる)
- 再犯時の刑事処分が重くなる可能性が高い など
執行猶予について弁護士に相談・依頼するメリット
さいごに、執行猶予をめぐる問題について弁護士に相談・依頼するメリットを紹介します。
執行猶予の残期間を確認してくれる
裁判所や検察庁に対して判決書謄抄本交付請求をすれば、執行猶予の残期間を確認できます。
しかし、裁判所手続きなどに慣れていない人や、社会復帰を目指して日々懸命に頑張っている人のなかには、判決書謄抄本交付請求のような法的手続きを自分で進める余裕がないという場合も少なくありません。
弁護士に相談・依頼をすれば、執行猶予の残期間の確認方法についてアドバイスをもらえたり、依頼者を代理して判決書謄抄本交付請求手続きを進めてくれたりするでしょう。
刑事事件に強い弁護士のサポートがあれば執行猶予付き判決獲得の可能性が高まる
実刑判決が確定すると、判決で指定された刑期を満了するまで、刑務所への服役を強いられます。
そして、一定期間刑務所生活を強いられると、出所後の社会復帰が極めて困難になります。たとえば、履歴書に空白期間が生じるために再就職先が見つかりにくかったり、そもそも住む場所さえ見つからなかったりしかねないでしょう。
そのため、刑事裁判にかけられたケースでは、執行猶予付き判決を獲得できるかがポイントになると考えられます。
刑事裁判経験豊富な私選弁護人に依頼をすれば、以下のような弁護活動によって、裁判官から執行猶予付き判決の量刑判断を引き出してくれるでしょう。
- 弁論内容や弁論方針、弁論姿勢に関するアドバイスを期待できる
- 被告人にとって有利な情状証人、情状証拠を用意してくれる
- 社会生活を営みながら更生が可能だと示すために、身元引受人を用意したり住環境を整えたりしてくれる
- 検察側の主張する公訴事実に的確に反論してくれる など
執行猶予次第で社会復帰の難易度は変わる!不安があればすぐ弁護士に相談しよう
執行猶予期間がいつまでかわからないときには、できるだけ早いタイミングで残期間を確認してください。
というのも、執行猶予期間中にはやってはいけないことがありますし、取り消し事由が発生すると、刑務所に収監されるリスクが高まるからです。
刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、執行猶予期間の確認方法について詳しかったり、執行猶予獲得実績豊富な弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど日常生活に生じるリスクや不安を払拭しやすくなるので、速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。