騒音やゴミ出し、駐車マナー、ペットの鳴き声など、隣人トラブルはどの家庭でも起こり得る、ごく身近な問題です。そのため「せいぜい管理会社や町内会で注意される程度」「裁判になっても民事だけ」と考えてしまいがちですが、実際には行為の内容次第で刑事事件として逮捕に発展するケースも少なくありません。
相手が隣人であっても、侮辱・脅迫・暴行・器物損壊・住居侵入・つきまとい行為などに当たれば、刑法や迷惑防止条例違反、ストーカー規制法などの適用対象となり得ます。
とくに、同じような嫌がらせを何度も繰り返す「反復性」、相手の身体や生活の平穏を強く害する「悪質性」は注意が必要です。録音・動画・メモ・監視カメラ映像などの「証拠」が揃っている場合、警察が本格的な捜査に踏み切り、逮捕・送検・起訴へと進む可能性は低くありません。
また、トラブルの当事者は「自分は被害者だ」と思っていても、やり返し行為によって、一転して加害者側と見なされる危険もあります。
本記事では、隣人トラブルでも逮捕に繋がりやすい具体的な行為、実際に逮捕された後の刑事手続きの流れ、警察沙汰を避けるための対策について詳しく解説します。
目次
隣人トラブルでも行為内容次第では逮捕される
近隣住民とのトラブルは「騒音」「ゴミ出し」「駐車場」「ペットの鳴き声」など、日常的なものが多く、一般には民事の範囲で解決されることが多いものです。しかし、そこで仮に「侮辱」「脅迫」「暴行」「侵入」などが加わった場合、たとえ相手が隣人であったとしても、刑事事件として捜査・逮捕される可能性があります。
まずは、隣人トラブルでも行為内容次第で逮捕される理由について詳しく解説します。
隣人トラブル=民事ではない
多くの人は「隣人トラブル=まずは話し合い・調停・民事訴訟」というイメージを持っていますが、それはあくまで通常の範囲での紛争の場合に限ります。たとえば、「夜間に騒音を出されて腹が立ったから壁ドンをした」「嫌がらせの貼り紙を一度だけ貼った」というレベルであれば、たいていは民事的なものとして処理されるでしょう。
しかし、そこに不法侵入、相手を精神的・身体的に脅す言動、監視行為などが加われば、刑法または各都道府県の迷惑防止条例などが適用される可能性があります。この場合、「警察が介入して逮捕・起訴」という段階に発展することがあります。
実際、警察・地域警察署の資料でも「近隣トラブルを原因とした迷惑防止条例違反」や「つきまとい・待ち伏せ」などによる検挙事例が報告されています。つまり、隣人とのトラブルだから「刑事にはならない」と安心するのは誤りで、行為の態様・反復性・被害の程度・証拠の有無で状況が大きく変わるのです。
逮捕の可否は「反復性」「悪質性」「証拠」の3つで決まる
警察が介入して逮捕・捜査に至るかどうかは、主に次の3つの観点が鍵となります。
- 反復性
- 悪質性
- 証拠
まず「反復性」です。たとえば一度貼り紙をされた程度なら警察は警告や指導に留めることが多いです。しかし、貼り紙を何度も何日にもわたって行ったり、夜間に待ち伏せしたり、継続して嫌がらせを繰り返したりしていたとしましょう。この場合は、「通常の近隣トラブル」から「継続的な嫌がらせ行為・犯罪性のある行為」へと判断されやすくなります。
次に「悪質性」です。言葉の暴言・罵倒・脅迫・暴行・物理的侵入など、相手の身体・生命・自由・名誉を侵害する可能性が明らかな行為がある場合です。この場合は、刑事罰の対象となる可能性が高まるでしょう。
実際に、隣人に対して「殺すぞ」「出てこい」「いつかやるからな」などの脅迫的言動を繰り返したケースでは、常習的な脅迫行為として脅迫罪が成立した例があります。
そして「証拠」です。警察が動くためには、録音・録画・日時・場所・回数・証言など、嫌がらせの態様を裏付ける具体的な証拠があることが重要です。迷惑防止条例でも、被害届・録画・監視カメラ映像など「明確な証拠があれば逮捕されやすい」とされています。
以上の3要素が揃えば、隣人トラブルであっても「単なる話し合い」では済まされず、警察が逮捕・起訴を視野に捜査を開始するレベルの事件とな可能性があるのです。
小さな行為でも侮辱・暴行・脅迫・不法侵入で逮捕例あり
「隣人に嫌がらせをしただけ」「貼り紙をしただけ」「ちょっとドアをノックしただけ」といった軽い行為でも、実態と態様によっては犯罪成立とされる事例が少なくありません。たとえば、夜中に大きな音を出したり、何度も無言電話をかけたり、ドアを蹴ったり、勝手に隣家の敷地に入ったりする行為が、暴行罪や脅迫罪に該当し得るのです。
また、貼り紙や大声での罵倒が「侮辱罪」や「名誉毀損罪」につながった例もあります。このように、「隣人だから例外」というわけではなく、行為の種類・反復状況・被害者の被害感・証拠の有無が揃えば、刑事責任が問われるということを強く認識すべきです。
【ケース別】隣人トラブルで逮捕に繋がりやすい行為
「ついカッとなって」「嫌がらせのつもりでやっただけ」など、隣人とのトラブルのなかで、感情の限界を超えて行動してしまった結果、逮捕に繋がるケースが多くあります。
とくに、日常生活の中で発生しやすい「騒音」「ゴミ」「駐車スペース」などの問題は、我慢が積み重なり、ある日突然刑事事件へと発展することも少なくありません。次に、隣人トラブルの中でも実際に逮捕に至った行為や、警察が動きやすい典型的なパターンを以下のとおり詳しく解説します。
- 騒音トラブル(殴り込み・暴行・器物損壊)
- ゴミ問題(嫌がらせ・不法投棄・器物損壊)
- 駐車場・駐輪場(傷つける・封鎖するなど)
- 暴言・怒鳴り込み(脅迫罪・暴行罪)
- 監視・動画撮影(ストーカー規制法違反・迷惑防止条例)
- 勝手な侵入(住居侵入罪)
- ベランダ越しの嫌がらせ(水かけ・ゴミ投げ)
- ポストからの郵便物抜き取り(窃盗)
それぞれ詳しく解説します。
騒音トラブル(殴り込み・暴行・器物損壊)
夜も眠れない騒音に耐えきれず「直接注意しよう」と構えた結果、殴り込みや物を壊してしまえば暴行・器物損壊として刑事事件に発展します。被害者の苦痛の裏に「不眠」「精神的な追い詰められ感」があるからこそ、警察は耐え抜き限界に至った行為として強く介入することがあります。
ご近所のトラブルが隣人同士の揉め事を超えたとき、あなたも加害者になり得るという事実を、理解しておきましょう。
騒音トラブルが発生した際は、警察へ通報をすることで注意してくれます。注意を受けても何度も繰り返し、騒音(嫌がらせ)が行われる場合は刑事事件として扱われる可能性もあります。直接、対応するのではなくかならず警察へ相談をしましょう。
ゴミ問題(嫌がらせ・不法投棄・器物損壊)
「ゴミを投げ入れられた」「不法投棄された」などの悩みは多くあります。しかし、自分の持ち物を勝手に投げ返したり相手の資産を壊したりすると、器物損壊罪として逮捕対象になります。
嫌がらせつもりの行為も、被害者が何度も記録を取り通報していると反復的・計画的行為と見なされ、警察の捜査対象となることが実際に起きています。あなたの「もう黙っていられない」という気持ちが、法律的には耐え得る範囲を超えた行為になってしまうことがあるため注意しましょう。
駐車場・駐輪場(傷つける・封鎖するなど)
無断駐輪を放置された怒りから、車輪止めを設置したり車体を傷つけたりする行為は、被害者が証拠を残していると器物損壊や交通妨害に該当する可能性があります。「これ以上迷惑をかけるな」という思いが強くなるほど、行為はエスカレートしやすく、じつは被害者側だったはずの人が逮捕されるケースも珍しくありません。
駐車トラブルもちょっとしたイライラで終わらせるのではなく、冷静な対話と記録による対応が前提となります。また、警察へ通報することで車の使用者に連絡を取ってくれるケースがあります。
そのため、迷惑駐車が発生している場合は、自分で対応するのではなく管理会社や警察への通報を検討したほうが良いでしょう。
暴言・怒鳴り込み(脅迫罪・暴行罪)
繰り返しの怒鳴り込みや「もう我慢ならない」「今度やるからな」といった発言は、脅迫罪・暴行罪として処罰される可能性があります。夜間の突然の訪問、窓ガラスをノックするなどの行為が、被害者に不安や恐怖を与えたと認められれば、刑事事件に直結する可能性があります。
「言わずにはいられない」という感情が、法律的には威圧目的の接触として扱われることを覚えておいてください。
隣人トラブルは、とにかく管理会社や警察など第三者を介入させることが適切な対処方法です。自分自身で対応しようとすると、思わぬトラブルに発展したり、自身が何らかの犯罪に抵触してしまったりする可能性があるため注意しましょう。
監視・動画撮影(ストーカー規制法違反・迷惑防止条例)
隣人の出入りを長期間動画で撮影したり、ベランダから望遠カメラを向け続けたりする行為は、ストーカー規制法や迷惑防止条例の対象となることがあります。とくに被害者が「追われている」「見られている」と感じて警察に相談している場合、捜査の焦点が被害者の平穏な日常を乱した行為に移行します。
「ただ気になって…」という軽い動機でも、長期化・執拗化した監視行為は重大な罪として扱われるのです。
勝手な侵入(住居侵入罪)
鍵の閉まった住宅や敷地に、明確な許可なく侵入した場合は住居侵入罪が成立する可能性があります。「少し様子を見たかった」「つい中を見たら空き家風だったから」という言い訳が通らないのが、侵入の罰則の厳しさです。
隣人の庭先や敷地、建物内という境界を自ら越えた瞬間に、あなたはトラブルを超えて犯罪側の立場に変わるかもしれません。
「隣人に迷惑行為を指摘するために行った」という場合であっても、必ずしも「正当な理由」「明確な許可」を得ていたとはなりません。そのため、トラブルが発生した場合は、管理会社や警察への通報をしたうえで対応してもらうことが好ましいです。
ベランダ越しの嫌がらせ(水かけ・ゴミ投げ)
ベランダ越しに水をかけたりゴミを投げ入れたりする行為は、相手の身体や財産に実害を及ぼす威力行為として器物損壊や暴行罪に発展する可能性があります。さらに、これを繰り返すことで計画的嫌がらせとして評価され、量刑が重くなるリスクがあります。
「ただムカついたから」という感情の行き場が、思わぬ刑事責任を伴ってしまうことに注意しましょう。仮に、相手の住宅の敷地内に侵入していなかったとしても、嫌がらせ行為が何らかの犯罪に抵触する可能性もあります。
ポストからの郵便物抜き取り(窃盗)
隣人の郵便ポストから請求書や手紙を抜き取る行為は、たとえ「中を見ただけ」「ちゃんと返した」でも窃盗罪(刑法235条)に問われる可能性があります。窃取した郵便物を使って嫌がらせをしたり、情報を漏らしたりすると、名誉毀損・プライバシー侵害の観点も加わり、刑・民での責任が多重化します。
ほんの一瞬のかすみのある行動が、隣人トラブルを「刑事」「民事」両面の重大事件に変えてしまうのです。「誰が住んでいるのか知りたかった」という事情であっても、重大な犯罪となるため、絶対にやめましょう。
逮捕された場合の流れ
隣人トラブルは、単なる民事上のトラブルのみならず刑事事件に発展するケースもあります。万が一、刑事事件に発展してしまった場合、逮捕されてしまう可能性もあるため注意しなければいけません。
次に、逮捕された場合はどのような流れで事件は進んでいくのか?について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
逮捕
隣人トラブルであっても、最悪の場合は逮捕される可能性があるため注意しましょう。逮捕とは、罪を犯した疑いのある人の身柄を一時的に拘束するために行われる手続きを指します。
逮捕された場合は、初めに48時間以内の身柄拘束が可能となります。逮捕から48時間は、警察署内にある留置所と呼ばれる場所で生活をし、一日8時間を超えない範囲で取り調べが行われる流れです。
その後、検察官へ事件が送致され、さらに24時間以内に検察官が「引き続き身柄を拘束する必要があるかどうか」について判断をします。引き続き身柄拘束をする必要があると判断された場合は、裁判所に対して勾留請求を行います。
なお、逮捕や勾留をするためには以下の要件を満たしている必要があります。
- 被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な証拠があること
- 証拠隠滅の恐れもしくは、逃亡の恐れがあること
つまり、「罪を犯したからかならず逮捕される」というわけではありません。上記の条件を満たした場合に限って、逮捕が認められるのです。
勾留請求
検察官が、勾留をする必要があると判断した場合は、勾留請求が行われます。その後、裁判所で勾留質問が行われ、裁判官が勾留を認めれば引き続き身柄拘束が継続します。
勾留による身柄拘束は、基本的には10日間ですが、勾留延長されるケースが一般的でありプラス10日間の合計20日間身柄拘束されるケースが多いです。つまり、逮捕と勾留で合計23日間(最長)の身柄拘束となる可能性に注意が必要です。
なお、勾留が認められなければ即時釈放され、在宅捜査に切り替わります。この場合、身柄拘束は発生しないものの、通常通り事件は進んでいくため、拘禁刑の実刑が確定すれば、刑務所に収監されるため注意しましょう。
拘禁刑とは、2025年6月1日に開始された新しい刑罰です。これまで、刑務作業が義務付けられている「懲役刑」と刑務作業が義務付けられていない「禁錮刑」がありましたが、拘禁刑に一本化されました。拘禁刑は、受刑者それぞれの状況に応じてさまざまな教育プログラムが実施されます。
起訴・不起訴の判断
勾留が認められた被疑者については、勾留期間中に起訴もしくは不起訴が決定されます。起訴には「正式起訴」と「略式起訴」の2種類があります。
正式起訴の場合は、刑事裁判を行って最終的に判決が言い渡され、刑に服する流れです。略式起訴は、100万円以下の罰金に対してのみ可能な起訴方法です。略式起訴された場合は、刑事裁判を行わずに略式命令が言い渡され、罰金を支払って事件が終了します。罰金を支払えなければ、1日5,000円で労役場留置となるため注意しましょう。
そして、不起訴処分となった場合は、何らかの刑事罰が下されることはありません。もちろん、前科も残ることはありません。しかし、前歴として記録が残ってしまうため、今後同じような隣人トラブル等を起こした場合は、厳しい処罰が下される可能性もあるため注意しましょう。
刑事裁判を受ける
正式起訴された場合は、刑事裁判を受けます。刑事裁判では、有罪無罪を判断し、有罪である場合はどの程度の刑罰に処するのが妥当かを判断して、判決として言い渡します。
拘禁刑であれば、一定期間刑務所等に収監されてプログラムを受講する流れです。罰金刑であれば、罰金を納めて終了しますが、罰金を支払えなければ労役場留置となるため注意しましょう。
判決に従って刑に服する
刑事裁判で拘禁刑の実刑判決が下された場合は、一定期間刑務所に収監されます。ただし、執行猶予付きの判決が下された場合は、この限りではありません。
執行猶予とは、刑の執行を猶予することを言います。たとえば、拘禁刑1年執行猶予3年の刑罰が言い渡された場合、拘禁刑の刑罰を直ちに執行せず、3年間猶予します。執行猶予期間中に、他の犯罪で罰金刑以上の刑罰が執行されなければ、執行を猶予されていた拘禁刑が執行されることはありません。
隣人トラブルで逮捕・警察沙汰を避けるための対策
あなたが今、隣人との関係に疲れ、いらだちや不安を抱えているなら、それが「ただの我慢」で終わらず、さらなるトラブルに発展する前に冷静な備えをすることが重要です。
隣人トラブルだからといって警察や裁判所から何も言われないと考えるのは危険です。日常生活の延長線上にある振る舞いが、ある時点で「犯罪」や「逮捕」の対象となるケースも実際に起きています。
次に、隣人トラブル時の対策について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
感情的に対応しないことの重要性
隣人の騒音、ゴミ出し、駐車スペースの占有など、身近な問題に対して「許せない」「もう我慢できない」と感情が先走ることもあるでしょう。その結果、つい相手に強く出てしまったり、自ら行動を起こしてしまったりします。
ところが感情的な言い方や暴力的な対応は、警察が介入する決め手になりやすいのです。冷静に、「自分がどう困っているのか」「いつ・どんな状況か」を整理し、落ち着いて事実を伝えられるようにすることが大切です。怒りの勢いで「やり返す」前に、一呼吸置いて、第三者に相談しましょう。
第三者(管理会社・自治会)を挟むべき理由
マンションやアパートであれば管理会社、住居ならば自治会や町内会といった中立的な第三者を入れると、隣人トラブルが一方的な対立から協議の場に変わる可能性があります。管理会社を通して「苦情が来ています」という形で注意喚起が行われることで、トラブルの加害側も自分の行為が他人に影響を与えているという認識を持ちやすくなります。
これは、あなた自身が直接相手に話しかけることで生まれがちな感情のヒートアップや恨みを買うリスクを低減します。とくに、繰り返し苦情を受けている隣人に対して、あなた一人でアプローチすると逆に巻き込まれの原因になり得ます。そのため、早期に第三者を巻き込むことは、警察沙汰を避けるための有効な戦略です。
証拠化(動画・録音・日時記録)の方法
将来もし、警察や裁判に発展した際にあなた自身を守るためには「証拠の蓄積」が不可欠です。たとえば、騒音が続いた日時をノートに記録する、スマホで音や映像を撮る、複数回の通報履歴を残すなどが有効です。
こうしたデータがあれば、警察や自治体に「ただのクレーム」ではなく「継続的な被害」として認識してもらいやすく、対話の土台になります。ただし、撮影や録音にあたってはプライバシー権や個人情報保護の観点もあるため、注意が必要です。
「故意の隠し録音」や「他人の許可なき撮影」が別のトラブルになる恐れもあります。法律専門家のアドバイスを得ながら、安全かつ有効な方法で記録を残すことをおすすめします。
暴力を受けた場合の即時通報
隣人から身体的な暴力を受けた、あるいは明確に脅迫された場合は「ただの苦情」ではなく刑事事件の可能性が高まります。ドアを蹴られた・殴られた・窓ガラスが割られたといった直接的な被害があれば、迷わず110番通報または最寄りの警察署に通報しましょう。
通報をためらうと、さらに事態がエスカレートしたり、被害を黙っていたという状況が逆にあなたの立場を弱める証拠となることもあります。通報後は被害届を提出する方向で検討し、病院の診断書や損壊された物品の写真・修理見積もりなどを押さえておくことで、将来的な民事・刑事対応に備えられます。
警察ではなく弁護士に相談すべきケース
隣人トラブルが「ただのモメ事」から「法律問題」に変わるケースもあります。その境界線を知ることで、警察対応を待つだけでなく、あなた自身が先手を打つことができます。とくに、刑事告訴・賠償請求・示談のいずれかが視野に入った場合、専門の法律相談は早期に行うべきです。
感情や日常的な不満から生まれたものでも、記録や証拠が整うと法的争いへと発展しかねません。次に、とくに弁護士へ相談を検討すべき3つの場面を解説します。
刑事告訴が視野に入る場合
隣人から殴られた、待ち伏せされた、メールや貼り紙で何度も脅された。このような場合、あなたが被害者として「刑事告訴を視野に入れなければならない」状況に該当します。
上記の場合、警察に通報することも重要ですが、その前後で加害者との対応・証拠整理・被害届の提出などが重要になります。そのため、弁護士に相談してから行動を起こすことで、あなたの立場が明確になり、刑事・民事ともに有利な展開へと繋がりやすくなるでしょう。
一般的な話し合いでは済まない「身体・生命・自由の侵害」が含まれている場合は、すぐに専門家の支援を得るべきです。
民事の損害賠償請求が可能な例
騒音やゴミ出しなどの生活環境の悪化が原因で、通院や仕事に支障が出た場合、損害賠償を請求できる可能性があります。弁護士は「被害の因果関係」「どの範囲が法律上保護されるか(受忍限度)」「証拠の価値」を整理し、近隣トラブルを民事訴訟・和解交渉の場へと持ち込む手助けをします。
被害感覚だけでは「我慢すべき限度」を超えるとは認められないため、法律的にどこまで救済されるかを見極めるには、専門家の分析が不可欠です。
示談での解決を目指す場合
隣人との関係を完全に断絶したくない、早期に解決して新たな生活を始めたいという意向があるなら、示談による解決を弁護士と検討するのが賢明です。示談交渉では、再発防止策の合意文書化、解決金・謝罪文・行動制限の約束などを含めて内容を厳密に作成することが重要です。
弁護士が介在することで「感情的な言い分のみ」ではなく、文書に基づく合意が可能になり、後日のトラブル防止にもつながります。結果として、警察沙汰・裁判という最悪の展開を回避できることも多々あります。
よくある質問
隣人トラブルに関するよくある質問を紹介します。
Q.騒音で警察は逮捕しますか?
A.騒音で直ちに逮捕される可能性は低いです。
騒音を発生させたからといって、直ちに何らかの法律に抵触する可能性は低いです。初めに、注意等を行います。ただし、それでも改善されない場合は軽犯罪法違反として逮捕、処罰の可能性が発生するため注意しましょう。
Q.「出てこいよ」と言うだけで脅迫ですか?
A.状況次第では、脅迫になる可能性があります。
「出てこいよ」といった時点で直ちに脅迫罪が成立するとは限りません。そもそも、脅迫罪は「被害者本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉、または財産に対し害を加える旨を告知し、相手を畏怖させる(怖がらせる)ことで成立する犯罪」です。
そのため、たとえば「出てこいよ。殴ってやる!」などと発言した場合は、当然に脅迫罪が成立する可能性があると思っておいたほうが良いでしょう。
Q.物証がなくても警察は動いてくれますか?
A.物証がなくても警察が動く可能性はあります。
物証がなくても、目撃証言や状況証拠等をもとに捜査を開始し、事件性があると判断されれば、逮捕や処罰される可能性もあります。ただし、基本的には物証があったほうが動いてくれやすくなるため、隣人トラブルに遭っている証拠を揃えておいたほうが良いでしょう。
Q.防犯カメラを相手に向けるのは違法ですか?
A.違法ではありません。
防犯を目的としたカメラの設置であれば、違法性はありません。ただし、隣人等を「監視」する目的で設置した場合は、プライバシー侵害や軽犯罪法違反といった犯罪に抵触してしまう恐れがあります。
たとえば、「防犯目的で玄関前に向けてカメラを設置している」という状況であれば、違法性はありません。一方で、「隣人を監視するために、隣家に向けて防犯カメラを設置している」という状況であれば、違法となる可能性があるため注意しましょう。
Q.管理会社と警察、どっちが先ですか?
A.トラブル内容にもよりますが、基本的には初めに管理会社へ相談してみましょう。
アパートやマンション等に住んでいる場合は、初めに管理会社へ相談をすべきです。絶対に、「直接注意しに行く」といった行動はやめてください。思わぬトラブルに発展する可能性があるためです。管理会社へ相談をすることで、張り紙や隣人への注意等の対応をしてくれます。
ただし、緊急性が高い場合は迷わず110番通報しましょう。たとえば、「隣人が怒鳴り声をあげて玄関前まで来ている」「大きな声や怒鳴り声が聞こえる」「嫌がらせをされている」といった場合です。
また、警察へ相談をして良いのか悩んだ場合は「♯9110」へ電話をかけて相談をしてみましょう。
まとめ
隣人トラブルは、本来であれば話し合いや管理会社・自治会の調整など、民事的な枠組みで解決されることが望ましい問題です。しかし、実際には「反復性」「悪質性」「証拠」の3つが揃うことで、刑事事件へと発展し、逮捕に至るケースが多く存在します。「ちょっとした仕返し」のつもりでも、法的には十分犯罪となり得る可能性もあるため注意が必要です。
また、逮捕されてしまった場合、逮捕や勾留、起訴後に拘禁刑や罰金といった刑事手続きが進み、前科や長期間の身柄拘束といった重大な不利益を負う可能性があります。トラブルをこじらせないためには、まず感情的な対応を避け、第三者(管理会社・自治会・警察相談窓口)を早期に介入させることが大切です。また、同時に騒音や嫌がらせの実態を冷静に記録・証拠化しておくことが重要です。
暴力や明確な脅しを受けた場合は迷わず110番通報し、被害届や診断書の取得も検討すべきでしょう。さらに、刑事告訴や損害賠償請求、示談による解決など、法的な一歩を踏み出すべき場面では、早い段階で弁護士に相談することが、自分と家族の生活を守る近道です。隣人だからこそ「これくらい大丈夫」と軽く考えず、日常の一挙手一投足が刑事責任に繋がり得ることを理解し、冷静で法的に適切な対応を選択していきましょう。