「DVは家庭内のトラブルだから逮捕されない」というのは間違いです。DV加害者の行為が犯罪を構成する以上、刑事責任の追及は免れられません。傷害罪や暴行罪等の容疑で逮捕されると、場合によっては前科がつき、社会生活に甚大な悪影響を及ぼします。
特に近年は、DVによってもたらされる深刻な被害を救済しようという動きが強く、また、「DV厳罰化」の傾向も高まっているので、「DVは家庭の問題」「DVはバレない」という安易な考えは通用しないでしょう。
そこで今回は、配偶者や交際相手によってDVを理由とする被害届を提出された人や、日常的なDV行為によって逮捕されるのではないかと不安を抱えている人のために、以下6点について分かりやすく解説します。
- DVで逮捕されるときの犯罪類型・法定刑
- どのような行為がDVで逮捕される原因となるのか
- DVで逮捕されるときの刑事手続きの流れ
- DVが警察に発覚するきっかけ、タイミング
- DVを理由に逮捕されたときに生じるデメリット
- DVで逮捕されるか不安なときやDVを理由に離婚を求められたときに弁護士へ相談するメリット
DV事件を起こして逮捕された場合、逮捕・勾留等の刑事手続きを少しでも有利にするための防御活動だけではなく、離婚の申し出や慰謝料請求等の民事的な問題にも同時に向き合う必要に迫られます。
DV問題に強い弁護士に相談すれば「刑事事件化を予防すること」「できるだけ穏便な民事的解決を実現すること」の両輪で迅速な防御活動が期待できるので、できるだけ早いタイミングでDV問題に力を入れている弁護士までお問い合わせください。
目次
- 1 DVで逮捕されるときの犯罪類型
- 2 DVで逮捕されるときの刑事手続きの流れ
- 3 DVで逮捕されたときに生じるデメリット5つ
- 4 DVで逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット5つ
- 5 「DVで逮捕されない」は間違い!早期に弁護士へ相談しよう
DVで逮捕されるときの犯罪類型
DV加害者が逮捕されるときに問われ得る代表的な罪名は以下の通りです。
- 暴行罪
- 傷害罪
- 殺人未遂罪
- 殺人罪・傷害致死罪
- 脅迫罪
- 強要罪
- 逮捕・監禁罪
- 侮辱罪
- 器物損壊罪
- 建造物等侵入罪・不退去罪
- 強制性交等罪・強制わいせつ罪
- 暴力行為等処罰法違反
- DV防止法保護命令違反
なお、①~⑫は「DV事案にも適用され得るが、DV以外の場面でも適用される一般的な犯罪類型」であるのに対して、⑬だけは「DV事案に特化した犯罪類型」という違いがあります。
ここからは、各犯罪類型に該当するDV事件の特徴について、それぞれ具体的に解説します。
暴行罪
DVが警察に発覚すると「暴行罪」で逮捕される可能性があります。
暴行罪の構成要件と法定刑
暴行罪とは、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第208条)。暴力を加えた相手が怪我をしたときには、後述の傷害罪が成立します。
暴行罪の法定刑は、「2年以下の懲役刑もしくは30万円以下の罰金刑または拘留もしくは科料」です。拘留とは「1日以上30日未満の範囲で刑事施設に拘置される刑罰」(同法第16条)、科料とは「1000円以上1万円未満の金銭納付を命じる刑罰」(同法第17条)を意味します。
暴行罪の実行行為である「暴行」とは、「人に対する物理力の行使」を意味します。人の身体に対する不法な一切の攻撃が含まれ(いわゆる「暴力」だけではなく、音・光・熱・冷気などによる作用)、傷害の結果を惹起するほどのものでなくても「暴行」に該当するとするのが判例です(大判昭和8年4月15日)。また、物理力が人の身体に接触することも不要です。
これに対して、言葉による攻撃は、暴行罪における「暴行」には該当しません。
DVが暴行罪で逮捕される具体例
DV加害者が暴行罪で逮捕される代表例は以下のようなケースです。
- 相手の身体を殴る
- 着衣をつかんで引っ張る
- 相手の髪の毛をハサミで切る
- 塩を振りかける
- 相手の近くに向かってモノを投げつける
- 包丁をつきつける
傷害罪
DVが警察に発覚すると「傷害罪」で逮捕される可能性があります。
傷害罪の構成要件と法定刑
傷害罪とは、「人の身体を傷害したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第204条)。
傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。
傷害罪の実行行為である「傷害」とは、「生活機能の毀損、健康状態の不良変更」を意味するとするのが判例実務です(大判明治45年6月20日)。また、直接的な暴力行為によって傷害結果が生じるパターンが傷害罪の典型例ですが、「暴行によらない傷害」によって被害者の生活機能に毀損が生じた場合にも傷害罪は成立します。
DVが傷害罪で逮捕される具体例
DV加害者が傷害罪で逮捕される代表例は以下のようなケースです。
- 暴力をふるう、モノを投げつけるなどの行為によって相手を怪我させる
- 暴行によって相手を失神させる
- 度重なるモラハラや暴言によって「不安・抑うつ症」「PTSD」を引き起こす
- 性行為によって梅毒などの感染症を意図的に感染させる
殺人未遂罪
DVが警察に発覚すると「殺人未遂罪」で逮捕される可能性があります。
殺人未遂罪の構成要件と法定刑
殺人未遂罪は、「殺人罪に該当する行為(=人を殺す行為)の『実行の着手』があったとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第199条、第203条)。
殺人未遂罪の法定刑は、「死刑または無期懲役、5年以上の懲役刑」です。ただし、未遂犯は事案の個別事情によって刑が減軽される場合があるので(同法第43条本文、第68条第3号)、丁寧に情状証拠等を主張立証すれば、殺人未遂罪で逮捕・起訴されても執行猶予付き判決獲得の余地が残されています。
実行の着手とは、「既遂の具体的・客観的危険を惹起したこと」を意味します。DV事件に当てはめると、暴行行為などの性質・態様・程度・回数などの個別事情を総合的に考慮した結果、「被害者の生命が侵害される危険性が生じた」と客観的に評価できる場合に、殺人未遂罪で逮捕されることになるでしょう(これに対して、生命侵害の客観的危険性が生じていない場合には、傷害罪・暴行罪で逮捕されるにとどまります)。
DVが殺人未遂罪で逮捕される具体例
DV加害者が殺人未遂罪で逮捕される代表例は以下のようなケースです。
- 包丁で相手を刺す
- ロープで相手の首を絞める
- 水をはった浴槽に何度も相手を沈めて息をできなくする
- 自宅の階段から相手を突き落とす
殺人罪・傷害致死罪
DV事件で被害者が死に至ることがあれば「殺人罪・傷害致死罪」で逮捕される可能性があります。
殺人罪とは、「人を殺したとき」に成立する犯罪類型のことです。殺人罪の法定刑は、「死刑または無期懲役、5年以上の懲役刑」と定められています(刑法第199条)。
傷害致死罪とは、「身体を傷害して、それによって人を死亡させたとき」に成立する犯罪類型のことです。傷害致死罪の法定刑は、「3年以上の有期懲役刑」です(刑法第205条)。
殺人罪・傷害致死罪で逮捕されるのは、DV行為によって被害者を死亡させてしまった場合です。殺人罪と傷害致死罪のどちらで立件されるかは「DV加害者の故意の内容」によって異なります。
たとえば、「DV被害者に対する明確な殺意があった場合」「DV被害者が死んでも構わないと考えていた場合」「DV被害者が死ぬかもしれないと思っていた場合」には殺人罪の故意が認定される可能性が高いでしょう。これに対して、「激しい暴行をしたことは間違いないが、殺すつもりはなかった」「この程度の暴行でDV被害者が死ぬとは思わなかった」などの場合には傷害致死罪で逮捕されることになります。
脅迫罪
DVが警察に発覚した場合「脅迫罪」で逮捕される可能性があります。
脅迫罪とは、「生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫したとき」「親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫したとき」に成立する犯罪類型のことです。脅迫罪の法定刑は、「2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑」と定められています(刑法第222条)。
脅迫罪の実行行為である「脅迫」とは、「一般的に人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知」のことです(大判明治43年11月15日)。告知の方法には、口頭・文書だけでなく、黙示的な態度で相手を威圧する場合も含まれます。また、告知がDV被害者に到達して認識されることは必要ですが、これによって実際にDV被害者が畏怖したか否かは本罪の成否に影響しません。
DV加害者が脅迫罪で逮捕される具体例として、「殺すぞ」「殴るぞ」「連れ子がどうなってもいいのか?」などという言葉を投げかけた場合、包丁やバットをもったままDV被害者を脅すかのように長時間睨み続けた場合などが挙げられます。
強要罪
DV事件の態様次第では「強要罪」で逮捕される可能性があります。
強要罪とは、「被害者本人または親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨を告知して脅迫したり、被害者本人に暴行を用いたりすることによって、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりするとき」に成立する犯罪類型のことです。強要罪の法定刑は、「3年以下の懲役刑」と定められています。強要罪は未遂犯も処罰対象です(刑法第223条各項)。
DV加害者が強要罪で逮捕される具体例として、配偶者を脅迫して水入りバケツを数時間にわたって所持させ続けた場合、暴行を加えて同居恋人を何時間も正座させた場合、配偶者を脅して理由もないのに反省文を書かせた場合、「警察に話したらどうなるか分からないぞ」と脅して110番通報や被害届の提出を中止させた場合などが挙げられます。
逮捕・監禁罪
DV事件を起こすと「逮捕・監禁罪」で逮捕される可能性が生じます。
逮捕・監禁罪とは、「不法に人を逮捕し、または、監禁したとき」に成立する犯罪類型のことです。逮捕・監禁罪の法定刑は、「3年以上7年以下の懲役刑」と定められています(刑法第220条)。また、逮捕監禁行為によって人を死傷させてしまった場合には「逮捕監禁致死傷罪」が成立し、傷害罪・傷害致死罪と比べて重い方の刑罰で処断されます(同法第221条)。
逮捕・監禁罪の実行行為である「逮捕」とは、「人に暴力などの直接的な強制作用を加えて、場所的移動の自由を奪うこと」です。また、「監禁」とは、「一定の場所からの脱出を困難にして、移動の自由を奪うこと」を意味します。
DV加害者が逮捕・監禁罪で逮捕される具体例として、ロープで配偶者を柱などにくくりつけた場合、居室に鍵をかけて閉じ込めた場合、「出てきたら殺すぞ」と声かけしながらドアを蹴り続けて被害者をトイレ・浴室から出てこれなくした場合などが挙げられます。
侮辱罪
DV事件の態様次第では「侮辱罪」で逮捕される可能性もあります。
侮辱罪とは、「事実を摘示せずに、公然と人を侮辱したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第231条)。侮辱罪の法定刑は、「1年以下の懲役刑・禁錮刑もしくは30万円以下の罰金刑または拘留もしくは科料」と定められています。また、侮辱罪は親告罪なので、被害者本人等による告訴がなければ処罰されません(同法第232条第1項)。
まず、侮辱罪の実行行為である「侮辱」とは、「事実を摘示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示すること」です(大判大正15年7月5日)。被害者の名誉感情は直接的に保護されるわけではなく、侮辱罪では「人の外部的名誉」が保護対象です。
次に、侮辱罪の構成要件のひとつである「公然」とは、「摘示された事実を、不特定または多数の人が認識しうる状態」を指します(最判昭和36年10月13日)。「DV事件が公然と行われるわけがない」と思われるかもしれませんが、摘示された事実を直接的に受け取るのは特定少数人であったとしても、その特定少数人を通じて不特定多数人へと伝播する場合には、侮辱罪における「公然性」が認められると考えられます(最判昭和34年5月7日)。
DV加害者が侮辱罪で逮捕される具体例として、人前で配偶者の悪口を言う場合、動画配信サービスのなかで同居恋人に暴言を吐く場合などが挙げられます。
器物損壊罪
DV事件のなかには「器物損壊罪」で逮捕されるケースもあります。
器物損壊罪とは、「他人の物を損壊し、または、傷害したとき」に成立する犯罪類型のことです。器物損壊罪の法定刑は、「3年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料」と定められています(刑法第261条)。器物損壊罪は親告罪なので、DV被害者等による刑事告訴がなければ逮捕されることはありません(同法第264条)。
DV加害者が器物損壊罪で逮捕される具体例として、配偶者が大切にしていた家具等を壊した場合、同居恋人の飼っていたペットに怪我をさせた場合、配偶者の所持する学生アルバムに落書きをしたり放尿したりする場合などが挙げられます。
建造物等侵入罪・不退去罪
DV事件の態様次第では「建造物等侵入罪・不退去罪」で逮捕される可能性もあります。
建造物等侵入罪とは、「正当な理由がないのに、人の住居や人の看守する邸宅等に侵入したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第130条前段)。そして、不退去罪とは、「正当な理由がないのに、人の住居等から退去しなかったとき」に成立する犯罪類型を指します(同法第130条後段)。建造物等侵入罪及び不退去罪の法定刑は、「3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑」です。
たとえば、同棲していた元交際相手の自宅に合鍵を使って許可なく勝手に侵入した場合には「住居侵入罪」で逮捕されるでしょう。また、再三再四「帰って欲しい」旨を告げられたのに元配偶者の自宅に居座り続けた場合には「不退去罪」で刑事処罰されます。
強制性交等罪・強制わいせつ罪
DV加害者は「強制性交等罪・強制わいせつ罪」の性犯罪で逮捕される可能性があります。
強制性交等罪とは、「13歳以上の者に対して、暴行または脅迫を用いて、性交・肛門性交・口腔性交をしたとき」に成立する犯罪類型のことです。強制性交等罪の法定刑は、「5年以上の有期懲役刑」と定められています(刑法第177条)。
強制わいせつ罪とは、「13歳以上の者に対して、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をしたとき」に成立する犯罪類型のことです。強制わいせつ罪の法定刑は、「6カ月以上10年以下の懲役刑」と定められています(同法第176条)。
強制わいせつ罪及び強制性交等罪はいずれも未遂犯も処罰対象です(同法第180条)。また、これらの行為によってDV被害者に死傷結果を生ぜしめた場合には、それぞれ致死傷罪が成立します(同法第181条)。
そもそも、「結婚しているから無理矢理性交をして良い」「付き合っているから多少暴力をふるってわいせつな行為をしても問題ない」というのは間違いです。なぜなら、結婚していようがいまいが、各人は性的自由・性的決定権を有しているからです。
パートナーの意に反して性行為等を強要すると非常に厳しい刑事罰が科されるので、DV事件が性犯罪として立件された場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談をして示談交渉等の防御活動に尽力してもらうべきでしょう。
暴力行為等処罰法違反
悪質なDV被害が存在するケースは「暴力行為等処罰法違反」の容疑で逮捕される可能性があります。
「暴力行為等処罰ニ関スル法律」は、元々、暴力団関係者や過激化する学生運動、暴力事件等に発展するストライキなどを念頭に置いて規定された法律です。ただ、現在では、悪質ないじめ事件やDV事犯などにも適用場面が拡大されています。
DV加害者が暴力行為等処罰法違反で逮捕される可能性があるのは以下3つのパターンです。
- 兇器を示して暴行・脅迫・器物損壊等を行った場合(3年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑)
- 常習的に暴行・傷害・脅迫・器物損壊等の罪を犯す者が人を傷害した場合(1年以上15年以下の懲役刑)
- 常習的に暴行・傷害・脅迫・器物損壊等の罪を犯す者が脅迫・器物損壊等に及んだ場合(3カ月以上5年以下の懲役刑)
いずれの場合も、通常の刑法犯として逮捕されるときに比べて法定刑が大幅に引き上げられているのが特徴です。暴力行為等処罰法違反の容疑をかけられると刑事手続き自体も厳しい過程を辿る可能性が高いので、できるだけ早いタイミングで弁護士の助力を得ながら示談交渉等を進めてもらうべきでしょう。
DV防止法保護命令違反
DV事件に特化して制定された法律として「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(通称「DV防止法」)」が挙げられます。
DV事件を起こした場合、DV防止法に規定する「保護命令違反」を理由に逮捕される可能性があります。
DVとは
一般的に、DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、「配偶者・恋人・元交際相手など、現在一定の親密な関係にある人物または過去にそのような関係性にあった人物から振るわれる暴力」を意味するとされています。
「配偶者等から振るわれる暴力」には、物理的な暴力だけではなく、以下のような形態のものが幅広く含まれると理解されています。
- 身体的暴力
- 精神的・心理的暴力
- 性的暴力
- 経済的暴力
- 社会的隔離に追い込む
- 子どもを使って家庭内孤立に追い込む
DV防止法の保護対象になる「DV」とは
昨今、さまざまな形態のハラスメント等が「DV」のなかに取り込まれるようになっていますが、これらすべての言動等がDV防止法の適用を受けるわけではありません。
DV防止法が保護命令等の手続きの対象にするDVとは、「婚姻関係・事実婚関係・同棲中の交際関係(離婚や破局によってこれらの関係が解消された場合も含む)にある配偶者から『身体に対する暴力』または『生命等に対する脅迫』が行われた場合」に限られます。
つまり、同棲していない交際相手からのDV(デートDV)や、身体や生命以外を脅かす暴力・脅迫については、DV防止法の処罰範囲外だということです(これらについては、民事上の損害賠償の対象になるか、上述の刑事責任を問われるに過ぎません)。
DV防止法における「保護命令」とは
「DV防止法の保護命令違反」で逮捕される前段階として、DV被害者からの申立てを前提として、裁判所による保護命令が下されます。
個別事案によって保護命令の内容は異なりますが、概ね以下の内容のものがDV加害者に命じられます。
- 接近禁止命令(住居や勤務先などDV被害者が通常所在する場所をつきまとったり徘徊したりしてはいけない)
- 退去命令(被害者とともに生活を共にしている住居から退去したうえで、付近を徘徊してはいけない)
- 面会要求の禁止
- 行動を監視していると思わせるような事項を告げることの禁止
- 著しく粗野で乱暴な言動をすることの禁止
- 無言電話や連続した電話、連続したメール等の送信行為の禁止
- 午後10時~午前6時の早朝深夜帯に電話やメール送信等をすることの禁止
- 汚物や動物の死体等、著しく不快感や嫌悪感を抱かせる物を送付することの禁止
- 名誉を害する事項を告げることの禁止
- 性的羞恥心等を毀損する行為の禁止
- 子ども・被害者の親族等に対する接近禁止命令
DV防止法違反で逮捕される具体例
裁判所が発令した保護命令に違反した場合、「1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑」が科されます(DV防止法第29条)。
たとえば、接近禁止命令に違反して配偶者の自宅周辺の徘徊したり、退去命令に違反して同棲相手の自宅に居座ったりした場合には、通常の刑事手続きと同じ流れで刑事訴追されることになります。
DVで逮捕されるときの刑事手続きの流れ
DVで逮捕されるときの刑事手続きの流れは以下の経過をたどるのが一般的です。
- DV事件について警察から接触がある
- DVの容疑で警察に逮捕されると48時間以内の取調べが実施される
- DV事件が送検されて検察段階で原則24時間以内の取調べが実施される
- DV事件について公訴提起するか否かを検察官が判断する
- DV事件が公開の刑事裁判にかけられる
DV事件という犯罪の性質上、警察に家庭内のトラブルが発覚する前に適切な対処法に踏み出せば、刑事事件化自体を回避できる可能性も少なくありません。
「家庭内暴力を外部の人に相談するのは恥ずかしい」「DV程度で逮捕されるわけがない」と高を括らずに、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください。
DV事件について警察から接触がある
DV事件に対して捜査活動がスタートすると、以下3パターンのいずれかの形で警察と接触することになります。
- 過去のDV行為を理由として通常逮捕手続きが実行される
- 過去のDV行為に対して任意の事情聴取が行われる
- DV行為をしている最中に通報されると現行犯逮捕される
深刻なDV事件なら後日逮捕される
DV事件が警察に発覚した場合、傷害罪や暴行罪などの刑法犯として通常逮捕される可能性があります。
通常逮捕とは、「裁判官が事前に発付する逮捕状に基づき、被疑者の身柄を拘束する強制処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。
自宅等にやってきた捜査員に逮捕状を呈示された時点で、被害者の身体の自由・行動の自由は大幅に制限されます。たとえば、「別の日に出頭したい」「連行される前に会社へ欠勤の連絡を入れたい」などの要望は一切聞き入れてもらえません。そのまま警察署へ連行されて、取調べ以外の時間は留置所・拘置所に留置されます。
DV事件が警察に発覚したときに通常逮捕手続きが選択されるケース
過去のDV事件について逮捕状を請求するか任意ベースで出頭要請をかけるかは、警察側が自由に決定できます。
警察側がDV事件について通常逮捕手続きを選択する可能性が高いのは、DV事件が以下のような特徴を有する場合です。
- 保護命令への違反など、DV被害者の生命・身体に対して今後更なる危害が及ぶ可能性が高い場合
- DV被害者に生じた被害の程度が深刻な場合(重傷を負っている、高額のモノが壊されたなど)
- DV加害者について逃亡・証拠隠滅のおそれがある場合(職業不明・無職など)
- 暴行や傷害など、何かしらの前科・前歴がある場合
- DV行為について一切の反省が見られない場合
- DV事件の当事者間で示談が成立していない場合
- DV事件に関する任意の出頭要請に応じない場合
- DV事件に関する任意の出頭要請に応じているが、黙秘・否認を貫いたり、供述内容に明らかな嘘がある場合
DVの容疑で逮捕される前に任意の出頭要請をかけられる場合もあり得る
DV事件が捜査機関に発覚した場合、いきなり通常逮捕手続きに踏み出されるのではなく、任意の出頭要請・事情聴取が行われるケースも少なくありません。
任意の出頭要請・任意の事情聴取とは、「『DV事件について捜査する必要がある』と警察が判断したときに実施される任意捜査」のことです(刑事訴訟法第197条第1項本文、第198条第1項本文)。捜査機関が必要と判断したときに捜査対象者に電話をかけて出頭要請を求めたり、警察署に来訪してもらった捜査対象者から話をきいたりします。
ただし、任意の出頭要請・任意の事情聴取は、「『捜査対象者が応じる限り』実施できる」という留保がつく点に注意が必要です。なぜなら、任意捜査は裁判所の発付する令状とは無関係に捜査機関限りの判断で自由に実施できるものである以上、捜査機関の勝手な判断で対象者を強制的に拘束することは許されないからです。
つまり、裏を返せば、DV事件について任意の出頭要請をかけられたとしても拒否できますし、任意の事情聴取を途中で切り上げて帰宅することも可能だということです。拒否をしたこと自体に対してペナルティが科されることはありませんし、「警察にDVの話をするのは嫌だから」「会社が忙しいから」「早く帰宅したいから」など、どのような理由で拒否をしても差し支えありません。
DV事件が警察に発覚したときに任意の事情聴取が選択されるケース
DVは個別事案ごとに詳細が異なるので一概には言えませんが、以下のような特徴を有するDV事件については、任意捜査ベースで刑事手続きがスタートする可能性が高いでしょう。
- 保護命令違反がないなど、DV被害について継続的な危険性が逼迫していない
- DV加害者に前科・前歴がない
- DV被害者に生じた損害が比較的軽微(軽傷、モノの破壊のみ等)
- DV被害者との間で示談成立済みで、示談金の支払いも済んでいる
- DV行為について反省の態度を真摯に示している
- DV事件に関する任意の出頭要請に誠実に対応している、嘘・矛盾点なく供述している
- 住所や職業が判明しており、逃亡や証拠隠滅のおそれが少ない
DV中に通報されると現行犯逮捕される
DV事件を起こした場合、現行犯逮捕される可能性もあります。
現行犯逮捕とは、「裁判所の発する逮捕状なしで『現行犯人(現に罪を行い、または、現に罪を行い終わった者)』に対して実施される逮捕処分」のことです(刑事訴訟法第212条第1項)。裁判官の発付する逮捕状なしでは実施できない通常逮捕と違って、現行犯逮捕は犯罪の客観的な証拠が目の前にある状況で誤認逮捕・冤罪の可能性が極めて低いため、「令状主義の例外」に位置付けられています。
たとえば、夫が妻に対して自宅で暴力を振るっている際に悲鳴をききつけた隣家の住民が110番通報し、現場にかけつけた警察官が暴行や傷害、器物損壊などの犯罪行為を現認した場合、逮捕状なしで被疑者の身柄が取り押さえられ、そのまま逮捕手続きに移行するでしょう。
なお、現行犯逮捕は警察官だけではなく誰でも行うことができるので(私人逮捕)、DV被害者の求めに応じて助けに入った第三者に身柄が押さえられる場合もあり得ます(同法第213条)。
- DVの犯人として追呼されているとき
- 贓物や明らかにDVに使ったと思われる兇器などの証拠物(ナイフなど)を所持しているとき
- 身体や被服にDV事件の顕著な証跡があるとき(血痕や抵抗された跡など)
- 「DV犯人だ」と誰何されて逃走しようとするとき
つまり、配偶者に暴力を振るって怪我をさせたがその場で110番通報され、怖くなって自宅から逃走したとしても、暴行罪・傷害罪の犯行時から時間的・場所的密接性が認められる限りにおいて、(準)現行犯逮捕の対象になるということです。犯行現場から逃走せずにかけつけた警察との間で冷静に話し合いをすれば任意ベースでの事情聴取の可能性も見込めるので、思わずDVをしてしまったとしてもその場から逃走するのは避けるべきでしょう。
「DVで逮捕されない」は間違い
「DVはただの夫婦喧嘩に過ぎない」「『民事不介入の原則』があるのだから家庭内のDVに警察が関与することはない」というのは間違いです。
確かに、DVには家庭内トラブルの側面があるのは事実です。しかし、DVが刑法犯に該当するようなケースにおいて「民事不介入の原則」を理由に刑事責任が免責されることはありません。むしろ、捜査機関がDV事案を認知した場合には、被害届や告訴状の提出がなくても逮捕等の刑事手続きが進められるでしょう。
特に、将来的に想定される離婚調停・離婚訴訟などの民事的紛争で当事者間に争いが生じると、相手方が「DV被害」「DVに関する被害届の提出」と武器として交渉等を有利に進めようとするケースも少なくありません。現段階で過去のDV事件について一応の決着をつけておくためにも、心当たりがある方は、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください。
DV事案が警察に発覚するきっかけ
「家庭内のいざこざや暴力行為が警察にバレるわけがない」と思われるかもしれませんが、これは間違いです。
なぜなら、DV事件は以下のようなきっかけで簡単に捜査機関に発覚するからです。
- 被害者本人や目撃者・近隣住民による110番通報
- 被害者本人がDV事件の後日警察に相談にいき、被害届・告訴状を提出する
- 被害者が通院した医師がDV事件を疑い、警察・配偶者暴力相談支援センター・婦人相談所などへの相談へと誘導する
- DV被害を告発する動画などがSNS等に流出して捜査機関に発覚する
DV厳罰化の流れにあって、DV行為を家庭内の問題だけで隠し通すのは不可能に近いのが現状です。
捜査機関に発覚してから防御活動をスタートしても手遅れになるので、警察からの問い合わせがあるか否かにかかわらず、できるだけ早いタイミングで弁護士までご相談ください。
DVの容疑で逮捕されると警察段階の取調べが実施される
DVについて暴行罪・傷害罪等の容疑で逮捕された場合、警察署に連行されて取調べを受ける必要があります。
逮捕処分に基づいて実施される警察段階の取調べは「48時間以内」という制限時間が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。身柄拘束中の取調べが無制限に行われると、被疑者の身体の自由・行動の自由が過度に侵害されることになるからです。
「48時間」という身柄拘束のタイムリミットが到来する前に、警察はDV事件を検察官に送致するか、微罪処分に付するかを決定します。DV事件が暴行罪・器物損壊罪などの比較的軽微な犯罪類型で立件された場合なら、送検を回避して微罪処分獲得を目指しやすいでしょう。
なお、警察段階で実施される取調べ期間中は、外部と一切連絡をとることができません。また、選任した弁護人や当番弁護士以外の第三者と面会することも原則不可能です。たとえば、会社に電話連絡を入れて自分の口で欠勤理由を説明することも許されません。
DV事件が警察から検察官に送致される
警察段階の取調べが終了すると、被疑者の身柄がDV事件の証拠物・書類と合わせて検察官に送致されます(これを「送検」と呼びます)(刑事訴訟法第246条本文)。
送検後、検察段階で実施される取調べには「24時間以内」という制限時間が設けられています(刑事訴訟法第205条第1項)。「警察段階48時間+検察段階24時間の合計72時間」の取調べで得られた証拠物・供述内容等を総合的に考慮したうえで、タイムリミットが到来するまでに公訴提起するか否かを検察官が判断します。
ただし、DV事件の詳細次第では、検察段階の24時間だけでは公訴提起の判断をするために充分な証拠が得られるとは限りません。被疑者が完全に否認していたり、供述内容に不明点があったりすると、更なる取調べを要することも少なくはないでしょう。
そこで、やむを得ない事情によって捜査段階の時間制限を遵守できない場合には、検察官による勾留請求が認められています(同法第206条第1項)。そして、勾留請求が裁判所に許可されると、身柄拘束期間(勾留期間)が10日間~20日間の範囲で延長されます(第208条各項)。つまり、DV事件を起こして警察に逮捕された場合、「警察段階48時間+検察段階24時間+勾留段階20日間の合計23日間」外部と連絡を取れない状態に追い込まれるということです。
なお、これらの時間制限は事件単位でカウントされる点に注意が必要です。たとえば、元配偶者の自宅に勝手に侵入したうえで帰宅した当人に対して暴力を振るって怪我をさせた場合には建造物等侵入罪と傷害罪が成立しますが、「建造物等侵入罪の容疑」で逮捕・勾留された後、身柄拘束期間が満了する前に「傷害罪の容疑」で再逮捕・再勾留されると、身柄拘束期間は数カ月にも及ぶ可能性もゼロではありません。留置される期間が長期化するほど社会生活への悪影響が大きくなり、社会復帰が難しくなるので、DV事件の示談実績豊富な弁護士の力を借りて早期の身柄釈放を目指すべきでしょう。
DV事件について公訴提起するか検察官が判断する
DV加害者の身柄拘束期限が到来するまでに、検察官がDV事件を刑事裁判にかけるか最終判断を下します。
起訴処分とは、「DV事件を刑事裁判にかける旨の訴訟行為」のことです。これに対して、不起訴処分とは、「DV事件を刑事裁判にかけずに検察限りの判断で刑事手続きを終了させる旨の意思表示」を意味します。起訴処分・不起訴処分のどちらを下すか判断する際には、個別事案の客観的状況だけではなく、DV加害者の反省の程度や、示談交渉の成否などの事情も総合的に考慮されます。
なお、日本の刑事裁判の有罪率は約99%とも言われているので、検察官によって起訴処分が下された時点で有罪判決がほぼ確定することを意味します。つまり、有罪判決や前科がつくことを避けたいなら、「検察段階で不起訴処分を獲得すること」が大きな目標になるということです。
DV事件が刑事裁判にかけられる
DV事件について検察官が起訴処分を下した場合、DV事件が公開の刑事裁判にかけられます。
刑事裁判が開廷されるタイミングは起訴処分から1カ月~2カ月後の時期が目安です。公訴事実に争いがなければ、第1回口頭弁論期日で結審し、後日判決が言い渡されます。これに対して、「相手が先に殴ってきたから殴り返しただけ」「そもそも暴力など振るっていない」「元配偶者が不安症を患ったのは自分のDVではなく仕事のストレスが原因だ」など、公訴事実を争う場合には、複数の口頭弁論期日を経ながら弁論手続き・証拠調べ手続きが進められます。
以下のように、DV事件に対してどのような嫌疑がかけられるかで判決内容は変わってきますが、実刑判決が下されると刑期を満了するまで服役しなければいけません。刑事事件の実績豊富な弁護士に相談をして、最低でも執行猶予付き判決を獲得できるように情状証拠を積み上げてもらいましょう。
犯罪類型 | 法定刑 |
---|---|
暴行罪 | 2年以下の懲役刑もしくは30万円以下の罰金刑または拘留もしくは科料 |
傷害罪 | 15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑 |
殺人罪・殺人未遂罪 | 死刑または無期懲役、5年以上の懲役刑 |
傷害致死罪 | 3年以上の有期懲役刑 |
脅迫罪 | 2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑 |
強要罪 | 3年以下の懲役刑 |
逮捕・監禁罪 | 3年以上7年以下の懲役刑 |
侮辱罪 | 1年以下の懲役刑・禁錮刑もしくは30万円以下の罰金刑または拘留もしくは科料 |
器物損壊罪 | 3年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料 |
建造物等侵入罪・不退去罪 | 3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑 |
強制性交等罪 | 5年以上の有期懲役刑 |
強制わいせつ罪 | 6カ月以上10年以下の懲役刑 |
DV防止法保護命令違反 | 1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑 |
DVで逮捕されたときに生じるデメリット5つ
DV事件が警察に発覚して逮捕されると、最低でも数日、勾留された場合には数週間にわたって強制的に身柄が拘束されます。
すると、DV加害者は以下5点のリスクに晒されるでしょう。
- DVで逮捕されたことが原因で家族関係・交友関係が破綻する
- DVで逮捕されたことが会社にバレると懲戒処分の対象になりかねない
- DVで逮捕されたことが学校にバレると退学処分等の対象になりかねない
- DV事件が実名報道されるなどすると社会的信用が失墜する
- DV事件が原因で前科がつくと今後の社会生活にさまざまな支障が生じる
DVが原因で家族関係や交友関係が破綻する
DV事件を起こしたとなると、家族関係・交友関係の破綻は避けられません。
たとえば、配偶者に対して暴力等を振るってしまうと、しかも警察沙汰に発展するまでの事態に陥ると、今後婚姻関係を継続するのは事実上不可能です。子どもがいる状態で離婚問題が生じると、DV加害者側が親権を獲得するのも難しいですし、子どもと面会交流する機会も失われかねません。
また、学生が同棲中の交際相手に対してDV行為に及んだ場合には、相手方との関係性が崩れるだけではなく、交際関係を軸に形成してきた交友関係にも溝が生まれるでしょう。場合によっては、学生生活だけでなく、サークル活動・部活動の継続も難しくなります。
会社にDV事件がバレると懲戒処分のリスクに晒される
DV事件を理由として逮捕されると長期間の身柄拘束を避けられないので、会社に逮捕されたことや傷害罪等で有罪になったことがバレてしまいます。たとえば、社会人は1日の無断欠勤だけでも会社が不信感を抱くものですし、何日にもわたって欠勤するのに本人の口から説明ひとつない状況だと、何かしらのトラブルに巻き込まれたことが容易に想像されるものです。
そして、DVが原因で逮捕・有罪になった場合には、会社から何かしらの懲戒処分が下される可能性が高いです。
懲戒処分の内容は、各社が定める就業規則の「懲戒処分事由」に基づいて決定されます。たとえば、「戒告・譴責・減給」という比較的軽い懲戒処分が下されることもあれば、「出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇」などの厳しい処分に付されることもあり得るでしょう。
特に、近年ではハラスメント等に対する厳しい考え方を有する企業が増えていることを踏まえると、家庭内でDV事件を引き起こすタイプの従業員に対して甘い処分を下すことは考えにくいのが実情です。
学校にDV事件がバレると退学処分等のリスクに晒される
学生が同棲中の交際相手に暴力等をふるってDV事件を起こした場合、逮捕されたことが学校にバレると何かしらの処分が下される可能性が高いです。
学校から下される処分内容は、学則・校則の規定内容や経営陣の考え方によって変わってきます。たとえば、DV事件が極めて軽微な器物損壊罪だけで逮捕されたものの早期に示談が成立し、結果として微罪処分・不起訴処分を獲得できたようなケースなら、何の処分も下されない可能性もゼロではありません。
これに対して、DV被害者に重篤な後遺障害を生じさせたり、殺人未遂罪やDV防止法保護命令違反などの重い犯罪類型で逮捕・有罪になった場合には、「譴責・注意・停学処分・退学処分」などのペナルティが科されることもあり得るでしょう。
DV事件がニュース報道されたり動画拡散されたりすると社会的信用が失墜する
DV行為に対する社会からの風当たりが厳しくなっている現状を踏まえると、DV行為に及んで逮捕された場合には、テレビ番組やネットニュースなどで報道されるリスクに晒されます。また、DV事件の様子や音声を記録したものがSNS等にアップロードされると、話題性の高さから幅広い範囲で拡散されて身元が特定されることもあり得るでしょう。
つまり、悪質で注目を集めやすいDV事件を起こした場合、DV事件の詳細や個人情報が半永久的にインターネット上に残り続けるため、刑事責任とは別に、甚大な社会的非難を浴びる危険性が高いということです。
DV事件がきっかけで前科がつくと今後の社会生活に支障が出る
DV事件が原因で逮捕された場合、最終的には刑事裁判で有罪判決が下されると、「前科」がつきます。
前科とは、「過去に有罪判決を受けた経歴」のことです。前科者になってしまうと、その後の社会生活において以下のようなデメリットに晒されます。
- 履歴書の賞罰欄に前科情報を記載しなければいけない(就職活動・転職活動が困難になる)
- 前科があるだけで就業できない職種や制限される資格がある(金融業・警備員・士業など)
- 前科や有罪判決の内容次第ではパスポートや旅券の発給が制限されるので海外渡航に支障が生じる
- 将来的に何かしらの犯罪行為に及んだ場合、前科があるだけで刑事処分や判決内容が厳しくなる
DVで逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット5つ
「DV事件が原因で逮捕されたとき」「DV事件について警察から事情聴取の要請がかかったとき」「過去のDV事件について後日逮捕されるか不安なとき」には、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら、DV加害者の刑事弁護実績豊富な専門家に相談すれば、以下5点のメリットが得られるからです。
- DV被害者との間で早期に示談交渉を進めてくれる
- DV事件に関連して発生する法律問題にも対応してくれる
- 軽い刑事処分や刑の減軽、刑事手続きの負担軽減を目指してくれる
- DV癖が抜けず悩んでいる加害者へのケアを怠らない
- DVに関する誤認逮捕にも徹底して対応してくれる
個別のDV事件によって採り得る防御活動の選択肢は異なりますが、どのようなDV事件でも弁護士に相談するタイミングが早い方が選択肢の幅が広がるのは間違いありません。
ただし、弁護士によって専門分野が異なるので、刑事弁護に力を入れている専門家に依頼するようにご注意ください。
弁護士はDV被害者との間で早期の示談成立を目指してくれる
弁護士は、DV被害者との間で早期の示談成立を目指します。
示談とは、「DV加害者とDV被害者との間で締結する和解契約」のことです。「DV加害者からDV被害者に対して一定額の示談金(治療費・損害賠償・慰謝料等)を支払うことによって、『捜査機関に被害申告しない』『すでに被害届・告訴状提出済みならこれらを取り下げる』『処罰感情がない旨を捜査機関に伝える』旨の確約を貰える」というメリットが得られます。
本来、刑事事件では当事者の意思に関係なく刑事処分・判決内容が決定されるのが原則です。しかし、DV事件のように当事者間に一定の密接した関係性がある場合には、「当事者の間で民事的な解決が済んでいるか否か」が刑事処分や判決内容を左右するのが実務的運用です。
たとえば、DV事件が捜査機関に発覚する前に示談交渉をスタートすれば、DV事件が刑事事件化すること自体も回避できます。また、すでに任意の事情聴取や逮捕・勾留手続きに移行していたとしても、刑事手続きの途中で示談が成立すれば、微罪処分・不起訴処分を獲得するのも不可能ではありません。さらに、起訴処分が下された後でも、示談が成立することによって執行猶予付き判決等の軽い刑事処分獲得の期待が高まるでしょう。
ただし、DV事件の場合、DV被害者が感情的になっていたり、怒りや恐怖心で話し合いが円滑に進むとは限りません。刑事弁護や示談交渉の経験豊富な弁護士なら、これまで蓄積したノウハウを総動員して早期の示談成立を実現できるでしょう。
弁護士は離婚などの民事的トラブルやその他の法律問題も並行して対処してくれる
DV事件を起こして逮捕された場合、刑事責任以外の法律問題への対処に迫られることが少なくありません。刑事事件に慣れた弁護士に相談すれば、刑事手続き以外のトラブルにも同時並行的に対処して、DV事件全体の早期解決を実現してくれるでしょう。
DV事件に関連して起こり得る法律問題の代表例として以下のものが挙げられます。
- 離婚をめぐるトラブル(財産分与・親権・養育費など)
- 会社・学校から下された処分内容に関する争訟(処分内容が重過ぎるなど)
- 会社や学校にバレずに刑事手続きを遂行する現実的な工夫
- WEB上に残る名誉棄損情報に対する削除請求
弁護士はできるだけ軽い刑事処分獲得を目指して尽力してくれる
DV事件について弁護士に相談すれば、刑事手続き遂行の負担軽減や刑の減軽等を目指して、刑事手続きのステージに応じた防御活動を期待できます。
身柄拘束自体を回避するなら「在宅事件」を目指す
DV事件が「在宅事件」として処理されると、逮捕・勾留による長期の身柄拘束自体を回避できます。これによって、学校や会社にバレるなどの心配はなくなるでしょう。
在宅事件とは、「身柄拘束処分なしで捜査手続き・裁判手続きが進められる事件書類類型」のことです。警察や検察官から事情聴取の要請がかけられたタイミングや裁判所から公判期日の呼び出しがあったときに出頭しなければいけませんが、日常生活を送りながら刑事手続きを進めることができる点がメリットとして挙げられます。
DV事件が在宅事件扱いを受けるには、「任意の事情聴取に誠実に対応していること」「逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと」「被疑事実が比較的軽い犯罪類型に該当すること」などの諸要素を満たす必要があります。弁護士に適宜アドバイスをもらいながら、取調べ等には素直に従ってください。
ただし、在宅事件扱いを受けたとしても、不起訴処分や無罪が確約されるわけではありません。場合によっては、「任意の事情聴取→在宅起訴→有罪判決」という流れによって前科がつくパターンも考えられるので、不起訴処分や前科回避を目指すなら別途情状証拠などを丁寧に主張立証するべきでしょう。
刑事手続きの短期終了を目指すなら「微罪処分」を目指す
微罪処分とは、「DV事件を送検せずに警察限りの判断で刑事手続きを終結させる事件処理類型」のことです。
そもそも、警察が捜査活動を実施したDV事件はすべて送検されて検察官の最終的な判断を受けるのが原則です(刑事訴訟法第246条本文)。ただし、刑事事務処理の効率化の観点から、以下の要素を満たすDV事件については、送検を要さずに警察限りの判断で無罪放免をして良いとされています(同法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。
- DV被害者との間で示談成立済み
- DV加害者が反省の態度を示し、再犯しない旨を誓っている
- DV被害者に生じた被害・損害が軽微
- 犯情に斟酌の余地がある(計画的な犯行ではない)
- 一定の軽微な犯罪類型に該当するDV事件であること(暴行・傷害・器物損壊等)
- DV加害者に前科・前歴がないこと
警察段階で刑事手続きが終了するということは、勾留請求による長期の身柄拘束や前科を完全に回避できるということです。したがって、DV事件について被害申告された場合には、「微罪処分獲得」が最優先の目標になると考えられます。
前科回避を目指すなら「不起訴処分」を目指す
「DV事件を起こした以上、刑事裁判にかけられるのは仕方がない」と諦める必要はありません。
なぜなら、検察官による不起訴処分は以下3類型に分類されるので、DV事件を起こした場合でも不起訴処分獲得によって前科回避を目指す余地は残されているからです。
- 嫌疑なし:DV事件をした証拠がない
- 嫌疑不十分:DV事件について公判を維持できるほどの証拠が揃っていない
- 起訴猶予:DV事件を起こしたことは間違いないが、反省の態度・示談成立・被害の程度などを総合的に考慮すると、不起訴処分が相当
したがって、DV事件を起こしたこと自体に間違いなく送検された場合には、「検察官による不起訴処分」獲得によって前科回避を目指すのが防御活動の目標になると考えられます。
裁判手続き回避を目指すなら「略式手続き」を選択する
略式手続き(略式起訴・略式命令)とは、「100万円以下の罰金刑が下される簡易裁判所管轄のDV事件について、検察官の提出した書面のみによって審理を行う裁判手続」のことです(刑事訴訟法第461条)。略式手続きを選択すれば公開の刑事裁判手続きが簡略化されるので、社会復帰を目指すタイミングを前倒しできます。
たとえば、DV事件が強要罪や強制性交等罪などで刑事訴追された場合には罰金刑はあり得ませんが、傷害罪・暴行罪などであれば罰金刑の対象になる可能性があるので、略式手続きによる簡易・簡便な事件終結を実現できるでしょう。
ただし、略式手続きを選択した場合には、検察官の主張する公訴事実を全面的に認めることになります。「そもそもDVはしていない」などの主張を裁判官の面前で行う機会が失われる点にご注意ください(つまり、略式手続きは「罰金刑を落としどころにする」という意味合いが強くなります)。
刑務所への服役を回避したいなら「刑の減軽」を目指す
DV事件で逮捕・起訴された場合に適切な防御活動を展開しなければ初犯でも実刑判決が下される危険性に晒されます。実刑判決が下されると刑期を満了するまで刑務所に収監されるので、これまで築いたキャリアが断絶し、社会復帰の可能性が大幅に減少します。
弁護士へ相談すれば、「執行猶予付き判決」「罰金刑」獲得を目指して、被害者との示談交渉や情状証拠の主張立証に尽力してくれるでしょう。
弁護士はDV癖で悩みを抱えている人のケアも怠らない
DV加害者のなかには、自己愛性人格障害・境界性人格障害などの精神疾患などを抱えている人が一定数存在します。また、疾患には至らないとしても、自己肯定感の低さやストレスを溜め込む性質が原因でDV行為に及んでしまう場合もあります。
そして、これらの根本的な原因を解決しない限り、今後常にDV行為に及んでしまうリスクに晒され続ける点に注意が必要です。これでは、再犯時に重い刑事処罰が科される可能性が高まるので、今回立件されたDV事件について防御活動に尽力した意味が失われかねません。
刑事事件に特化した弁護士は、加害者の悩みを丁寧に聞き取ったり、専門のカウンセリング施設や治療機関を紹介するなどして、DV加害者が根本的に抱えている問題へのケアにも配慮してくれるでしょう。
弁護士はDVの冤罪事件に対して徹底した防御活動を展開してくれる
DV事件のなかには、DV行為をでっちあげられたケースも少なくありません。
たとえば、離婚問題が先行して存在する場合に、離婚条件についての交渉が難航した結果、相手方から身に覚えのない暴力行為等について被害届を提出されたりします。また、普段はDVを受けている側なのに、たまたま抵抗したときに相手に怪我を負わせてしまっただけで「DV加害者」の烙印を押されるケースもあり得ます。
DV事件に強い弁護士は、DV事件が起きたときの証言や物証、診断書等の客観的な証拠などをフル活用しながら、冤罪や正当防衛などの主張を展開してくれるでしょう。
「DVで逮捕されない」は間違い!早期に弁護士へ相談しよう
DVは「家庭内の問題」だけでは済みません。配偶者や恋人が被害申告をすれば捜査活動が進められますし、場合によっては逮捕・勾留等の厳しい措置が講じられ、前科がつくリスクにも晒されます。
したがって、DV行為について心当たりがある方や、DV事件について警察から出頭要請がかけられた方は、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することを強くおすすめします。早期にDV被害者との間で示談交渉をスタートすれば、刑事事件化自体を回避したり、軽い刑事処分獲得を実現できるでしょう。