「過去の犯罪行為について自首したい」と考えるのは正しいことです。
なぜなら、有効な自首には「刑の任意的減軽」という効果があるので、自首した結果、逮捕・起訴されたとしても、科される刑罰の大幅な軽減を期待できるからです。また、公訴時効完成による逃げ切りを狙うのは現実的ではなく、逃亡生活中に生じるさまざまなストレス・負担を天秤にかけると、刑事責任を全うして罪を償った方がその後の社会復帰・更生にも資すると考えられます。
ただし、自首をするにはタイミングや方法に注意をしなければいけません。また、犯罪の内容や罪状次第では、自首をする前に示談交渉などの防御活動を尽くした方が効果的な場合もあります。
そこで今回は、過去の犯罪行為について反省をして「自首したい」と考えている方のために、以下5点についてわかりやすく解説します。
- 自首したいときの方法
- 自首をするメリット
- 自首をした後の刑事手続きの流れ
- 自首をしたいときの注意点
- 自首をしたいときに弁護士へ相談するメリット
自首をしたいときには、いきなり警察署に出頭するのではなく、先に弁護士へ相談をした方がスムーズです。
「自首をするべきか否か」「自首をした後にどのような刑事手続き、刑事処分が待っているか」「自首をしたときの供述内容」などについて事前に理解を深めたうえで、自首による恩恵の最大化を目指しましょう。
目次
自首とは?自首の要件と自首したいときの方法について
まずは、自首の内容・要件・方法について解説します。
自首の成立要件5つ
自首とは「まだ捜査機関に発覚しない前に、犯人自ら進んで犯罪事実を申告し、刑事処罰を求める意思表示」のことです(刑法第42条第1項)。書面または口頭で検察官または司法警察員に対して自首する旨を伝えることによっておこなわれます(刑事訴訟法第245条、同法第241条第1項)。
ここから、自首の要件として以下5点が導かれます。
- 自分自身で自発的に犯罪事実を申告すること
- 自分自身の刑事処罰を求めること
- 捜査機関(検察官または司法警察員)に対して申告すること
- 犯罪事実または犯人が発覚する前に申告すること
- 口頭または書面によっておこなうこと
第1に、自首は「犯人自身が自発的に犯罪事実を申告するもの」でなければいけません。たとえば、自首が当該事件について他に存在する真犯人を隠すためにおこなわれた場合や、自首者が自己が犯した他の犯罪を隠蔽する目的で殊更に当該事件について自首をした場合には、「自発的な犯罪事実の申告」とは言えないので、自首の成立要件は満たさないと考えられます(犯罪捜査規範第68条第2号、第3号)。
第2に、告訴・告発と違って、自首は「犯人自身が自らの刑事処罰を求める」という点に特徴があります。
第3に、捜査機関と無関係な第三者に犯罪事実の申告をしたとしても自首は成立せず、「捜査機関に対して申告をした場合」に限って自首は有効なものと扱われます。出頭先の警察署が事件の管轄区域内であるかどうかは問われず、どこの警察署・派出所に出頭自首をしても受理されます(犯罪捜査規範第63条第1項)。また、自首をした警察官が司法巡査であったとしても、直ちに司法警察員に移送されるため、有効な自首手続きを期待できるでしょう(犯罪捜査規範第63条第2項)。
第4に、自首は「犯罪事実または犯人が発覚する前に」捜査機関に申告する必要があります。たとえば、「犯罪が発覚する前」「犯罪は発覚したが犯人は未だ不明の場合」にした自首は有効なものと扱われるでしょう。これに対して、「犯罪及び犯人が捜査機関にバレている段階(最判昭和24年5月14日)」「警察からの任意出頭要請に応じて警察署に赴いた場合」は、「刑の任意的減軽」という効果をもたらす法律上の自首には該当しません(自ら犯行を自供する態度が好意的に受け取られて「反省の態度あり」という理由で事実上軽い刑事処分獲得の可能性が高まることはあるでしょう)。
第5に、自首は「口頭または書面」によっておこなう必要があります。刑事訴訟法上は「口頭による自首」の場合に限って自首調書が作成されるとされていますが(刑事訴訟法第245条、同法第241条第2項)、犯罪捜査規範に基づいて、口頭・書面いずれの方法で自首があったとしても常に自首調書を作成するという運用が採られているのが実情です(犯罪捜査規範第64条第1項)。
以上を踏まえると、有効な自首が成立するには自首の要件・タイミングに留意する必要があるので、犯人自らの判断だけで警察署に出頭するのではなく、先に弁護士へ相談をしたうえで自首するべきか否かを判断してもらうべきだと考えられます。
自首したいときの方法4つ
自首する方法は以下4つに分類されます。
- 犯人自身が自ら警察署に出頭する
- 警察に電話で自首したい旨を伝える
- 他人を介して自首する旨を伝える
- 弁護士同行のもと警察署に出頭する
一人で警察署に出頭して自首する
自首したいときには、犯人自身が自ら警察署などに出頭する方法によっておこなうのが一般的です。警察の管轄や捜査官の階級などを気にする必要はありません。自分だけで出頭するのが不安なら、家族や友人などに同行してもらうことも可能です。
警察署に出頭する際には、取調べの結果、その場で逮捕された場合に備えて、現金・着替えなどの最低限の用意をしていくことをおすすめします(後述の通り、自首をしたからといって逮捕回避が確約されるわけではないからです)。
また、犯行に至った経緯や動機、犯行時の様子など、記憶していることや説明したいことのメモを作成しておくと、自首をした後に実施される自首調書の作成がスムーズです。
さらに、凶器やスマートフォン、犯行時の衣服など、犯罪の証拠物も持参するべきでしょう。
警察に電話で自首したい旨を伝える
自首したいときには、警察に電話を入れる方法も選択可能です。
最寄りや管轄の警察署の電話番号を調べて連絡をいれても良いですし、110番通報で犯罪事実を申告しても差し支えありません。
ただし、電話による自首が有効なものと扱われるには、電話口での警察の指示に従う必要がある点に注意が必要です。
たとえば、「捜査員が迎えに行くまで自宅にいるように」「今すぐ〇〇警察署△△課まで出頭しなさい」などの指示を受けた場合、これに背いて逃亡してしまうと有効な自首が成立しているとは評価されません。
なお、電話で自首したい旨を伝えるときには、氏名・住所・電話番号・犯行の状況(日時・場所・内容・被害者の氏名など)を明確に伝えるように意識してください。「申し訳ないことをしてしまった」「私を捕まえてください」というように抽象的なことしか申告せず、かけつけた警察官による事情聴取のなかで犯罪内容が明確になったとしても、有効な自首と扱われないリスクが生じるからです。
他人を介して自首する旨を伝える
他人を介して自首をすることも可能です(最判昭和23年2月18日)。
ただし、他人を介して自首する旨を警察に伝えたとしても、そのまま逃走をしてはいけません。そのため、他人を介した自首が有効なものとして成立するには、犯人本人が警察署の近くまで同行している場合、犯人本人は自宅で捜査員がやってくるのをおとなしく待っている場合など、捜査機関の支配内に入る姿勢が整っている場合に限られます。
自首をするために弁護士に同行してもらう
自首をしたいときには、警察署まで弁護士に同行してもらうことを強くおすすめします。
なぜなら、弁護士の動向によって、以下5点のメリットを得られるからです。
- 現段階で自首することが本当に効果的かを事前に慎重に検討してくれる
- 自首をする前に供述方針などを明確化できる
- 弁護士同行で自首することで不利な自首調書の作成を予防できる
- 出頭後に実施される事情聴取前に弁護士が警察官に事情を伝えてくれる
- 事情聴取中に不明点が発生しても、都度待期している弁護士に質問できる
弁護士に依頼するには着手金・成功報酬などの費用が発生しますが、有効な自首によってもたらされるメリットと比べると、捻出する価値は大きいと考えられます。
なお、法律事務所によって専門分野は異なるので、かならず刑事事件や示談交渉などを得意とする弁護士までご依頼ください。
自首をするメリット7つ
自首には以下7点のメリットが存在します。
- 刑の任意的減軽
- 逮捕・勾留という身柄拘束処分を回避しやすくなる
- 被害者との示談交渉を進めやすくなる
- 実名報道のリスクを回避しやすくなる
- 犯罪行為に及んだことが会社や学校にバレにくくなる
- 有利な刑事処分(微罪処分・不起訴処分など)を獲得できる可能性が高まる
- 公訴時効が完成まで続くはずだった逃亡生活を回避できる
確かに、過去の罪を悔やんで自首をしたいと考える犯人がいる一方で、「自分からわざわざ自首をするなんて馬鹿馬鹿しい」などと自首に対して否定的な見方をする人も少なくないはずです。しかし、現段階で自首することによって刑事責任を果たすタイミングを前倒しできる(しかも、逃走中に逮捕されるときよりも軽い刑事責任で済む可能性が高い)点を忘れてはいけません。
刑事責任を全うする時期を前倒しするということは、本格的な社会復帰を目指す時期も早めることができるということです。「逃げ続けること」と「今素直に罪を認めて刑事責任を果たすこと」のどちらが合理的な判断かは言うまでもないでしょう。
刑の任意的減軽を受けられる
自首のメリットとして「任意的減軽」が挙げられます。具体的には、捜査機関に対して有効な自首をおこなったときには、「その刑を減軽することができる」と定められています(刑法第42条第1項)。
具体的な減軽の内容・ルールは以下の通りです(刑法第68条)。
- 死刑を減軽するときは「無期懲役・無期禁錮、または、10年以上の懲役・10年以上の禁錮」
- 無期の懲役または禁錮を減軽するときは「7年以上の有期懲役・7年以上の有期禁錮」
- 有期の懲役または禁錮を減軽するときは「その長期及び短期の1/2を減ずる」
- 罰金を減軽するときは「その多額及び寡額の1/2を減ずる」
- 拘留を減軽するときは「その長期の1/2を減ずる」
- 科料を減軽するときは「その多額の1/2を減ずる」
ただし、自首による減軽はあくまでも裁判官の「任意的判断」に基づくものなので、犯行の重大性・悪質性や反省の態度などの諸般の事情が総合的に考慮された結果、自首をしたとしても刑が減軽されない可能性も否定できません。
逮捕・勾留という身柄拘束処分を回避しやすくなる
自首することによって「逮捕・勾留を回避しやすくなる」というメリットを得られます。
そもそも、逮捕・勾留とは、「被疑者の身体・行動の自由を奪う強制処分」のことです。逮捕・勾留されると「72時間~23日間」の範囲で捜査機関に身柄を押さえられるので、その間は厳しい取調べを受け続ける必要がありますし、取調べがない時間でも自宅に戻ることは許されず、留置場・拘置所で過ごさなければいけません。また、スマートフォンなどの所持品もすべて没収されるので、家族や会社に電話連絡を入れることも不可能です。
ただし、逮捕・勾留という身柄拘束処分が実行されるのは、「被疑者の身柄を強制的に押さえてまで取調べを実施する必要性があるとき」だけです。
そして、自首によって素直に犯行を自供して捜査活動に協力的な姿勢を見せている被疑者については、「逃亡や証拠隠滅のおそれがない」と判断される可能性が高いので、逮捕状や勾留状が発付請求されず、「任意」を前提に捜査活動が展開されやすくなります(これを「在宅事件」と呼びます)。
在宅事件として捜査活動が実施された場合、警察や裁判所から出頭要請がかかると指定された日時に事情聴取を受けなければいけませんが、呼び出しがかかったとき以外は普段通りの社会生活を送ることができます。その結果、逮捕・勾留という身柄拘束処分によって生じる日常生活への悪影響が最大限回避・軽減されるでしょう。
被害者との示談成立を目指しやすくなる
自首をすることによって「被害者との示談交渉の難易度が下がる」というメリットを得られます。
そもそも、示談とは「刑事事件の当事者同士で解決策(金銭賠償)について直接話し合いを行い和解契約を締結すること」です。本来、民事責任に関する示談交渉と刑事責任とは全くの別物ですが、「被害者との間で示談が成立している(被害者の赦しを得ている)」という事情があることによって刑事処分や判決内容が軽くなるのが刑事実務の運用です。たとえば、不同意性交等罪の容疑で逮捕されたとしても、早期に被害者との間で示談が成立することによって、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得しやすくなります。
そして、自首が示談交渉に役立つのは、自首によって被害者の連絡先を入手しやすくなるからです。また、「加害者が自首した」という事実が警察から被害者側に伝わることによって、怒りや不安が強い被害者も示談交渉に応じてくれやすくなるでしょう。
実名報道のリスクを避けやすくなる
自首のメリットとして「実名報道のリスクを回避できる」という点が挙げられます。
そもそも、どのような刑事事件をニュースで報道するかを決めるのは報道機関です。殺人事件などの重大性・悪質性が高いもの、特殊詐欺事件や闇バイト事件などの社会的関心の高いもの、その他、話題性を集める特殊な事件などは特に報道される可能性が高いですが、このような事情がなくても常に報道リスクに晒されます。
ただし、刑事事件が報道されるのは、例外的なケースを除いて「被疑者が逮捕されたとき」が一般的です。つまり、自首すれば逮捕リスクも大幅に軽減されるため、その結果、実名報道のリスクも回避できるということです。
一度でも事件が報道されると、インターネット上に氏名・事件態様のことが一生残り続けてしまいます。これでは、就職活動や転職活動などに支障が生じるため、被疑者の社会復帰の可能性が大きく減殺されかねません。もちろん、弁護士に依頼をすればプライバシー侵害・名誉棄損などのネット記事に対して削除請求をすることは可能ですが、Web上のすべての情報を抹消しきるのは不可能に近いでしょう。
したがって、実名報道を避けるには、「自首によって逮捕を回避し、逮捕を回避することで実名報道のリスクを軽減させる」という戦略がもっとも効果的だと考えられます。
会社や学校にバレるリスクを軽減できる
刑事事件を起こしたことが現在の勤務先や学校にバレると、何かしらの内部的な処分が下される可能性が高いです。たとえば、会社にバレた場合には懲戒処分(戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇)、学校に発覚した場合には校則の規定に沿った処分(退学処分、停学処分、出席停止、厳重注意など)が下されるでしょう。
そして、会社や学校にバレる主な原因が「逮捕・勾留による長期間に及ぶ身柄拘束」です。なぜなら、逮捕・勾留期間中は被疑者本人の口で欠勤・欠席理由を伝えることができないからです。
つまり、自首によって逮捕・勾留という身柄拘束処分を回避できると、会社や学校に刑事事件を起こしたことがバレる心配もなくなるということです。
ただし、自首によって在宅事件として捜査活動が実施されることになったとしても、捜査機関や裁判所から呼び出された期日には出頭しなければいけないので、単発的にですが会社や学校を休まざるを得ません。会社バレや学校バレを防ぐには、その都度上手く言い訳をしましょう。
有利な刑事処分を獲得できる可能性が高まる
自首をすれば、「有利な刑事処分を獲得できる可能性が高まる」というメリットを得られます。
刑事手続きの段階によって目指すべき処分内容は異なりますが、一般的には、自首によって以下の処分獲得の可能性が高まると言われています。
- 警察での取調べ~送検まで:微罪処分
- 送検後~公訴提起判断まで:不起訴処分(起訴猶予処分)
- 起訴後~公開の刑事裁判:執行猶予付き判決
微罪処分
微罪処分とは「捜査活動を開始した刑事事件を送検せず、警察限りの判断で刑事手続きを終結させる事件処理類型」のことです(刑事訴訟法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。
微罪処分になれば検察官送致後の手続きに対応する必要がないので、早期に社会復帰を目指すことができます。また、「起訴されてしまうのではないか」という不安感も払拭できるでしょう。
微罪処分を獲得できる可能性があるのは以下のケースです。
- 検察官があらかじめ指定した軽微な犯罪類型に該当すること(窃盗罪、占有離脱物横領罪、暴行罪、傷害罪、詐欺罪、賭博罪、軽犯罪法違反など)
- 犯情が軽微であること(計画性がない、衝動的・やむを得ない事情で犯行に及んだなど)
- 被害が僅少であること(被害額2万円以下、全治1週間以内の怪我が目安)
- 被害者との間で示談成立済みで被害弁償も終わっていること
- 素行不良者ではないこと(前科・前歴のない完全な初犯)
- 家族・親族・上司などの身元引受人がいること
不起訴処分(起訴猶予処分)
不起訴処分とは、「刑事事件を公開裁判にかけずに、検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の訴訟行為」のことです。
嫌疑がない場合、嫌疑が不十分な場合だけではなく、「犯人の性格・年齢・境遇・犯罪の軽重や情状・犯罪後の情況などを総合的に考慮した結果、わざわざ刑事裁判にかける必要はない」と検察官が判断した場合(起訴猶予処分)にも、検察段階で刑事手続きが終結します(刑事訴訟法第248条)。
不起訴処分(起訴猶予処分)になれば、刑事裁判に対応する労力・時間・費用を節約できるだけでなく、有罪判決が下される心配も消滅します。さらに、前科がつかないので、今後の社会生活が営みにくくなるデメリット(就職・結婚・就業制限・海外渡航など)も生じません。
自首をした時点で反省の態度は充分に示すことができているので、示談交渉やその他情状要素を丁寧に主張立証することによって、不起訴処分獲得を目指しましょう。
執行猶予付き判決
執行猶予とは、「被告人の犯情や事件の諸般の事情を考慮して刑の執行を一定期間猶予できる制度」のことです。執行猶予期間中は拘禁刑などが執行されることなく今まで通りの生活を送ることができますし、無事に執行猶予期間を満了することで刑が執行されることもなくなります。「実刑判決による刑務所への収監を回避できる」という点で、被疑者・被告人の更生に資すると言えるでしょう。
ただし、執行猶予付き判決を獲得するには、「3年以下の懲役刑・禁錮刑・50万円以下の罰金刑の言渡しを受けたとき」という要件を満たす必要があります(刑法第25条第1項)。たとえば、詐欺罪(10年以下の懲役刑)・殺人未遂罪(死刑、無期懲役刑、5年以上の有期懲役刑)のような重大犯罪については、そもそも執行猶予付き判決の対象にならない可能性も否定できません。
自首の効果である「刑の任意的減軽」によって量刑範囲の大幅引き下げに成功すれば、これらの重大犯罪の容疑で逮捕・起訴されたとしても執行猶予付き判決獲得の余地を見出すことができるでしょう。
公訴時効が完成するまで続くはずだった逃亡生活を回避できる
自首をしなかった場合、公訴時効が完成するまでは常に逮捕リスクに晒されたままなので、法定刑・犯罪類型ごとに定められた以下の公訴時効期間が経過するまでは逃亡生活が続きます(刑事訴訟法第250条各項)。
【人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たる罪】
法定刑の上限 | 公訴時効期間 | 具体例 |
---|---|---|
死刑 | なし | 殺人罪、強盗殺人罪など |
無期の懲役刑または禁錮刑 | 30年 | 不同意わいせつ致死罪、不同意性交等致死罪など |
長期20年の懲役刑または禁錮刑 | 20年 | 傷害致死罪、危険運転致死罪など |
上記以外 | 10年 | 業務上過失致死罪、自動車運転過失致死罪など |
【人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪】
法定刑の上限 | 公訴時効期間 | 具体例 |
---|---|---|
死刑 | 25年 | 現住建造物等放火罪、殺人未遂罪など |
長期15年以上の懲役刑または禁錮刑 | 15年 | 強盗罪、傷害罪など |
長期15年未満の懲役刑または禁錮刑 | 7年 | 窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、業務上横領罪など |
長期10年未満の懲役刑または禁錮刑 | 5年 | 未成年者略取誘拐罪、横領罪など |
長期5年未満の懲役刑もしくは禁錮刑または罰金刑 | 3年 | 暴行罪、侮辱罪、名誉毀損罪、器物損壊罪など |
拘留または科料 | 1年 | 軽犯罪法違反など |
無期の懲役刑または禁錮刑 | 20年 | 不同意わいせつ致傷罪、不同意性交等致傷罪 |
長期15年以上の懲役刑または禁錮刑 | 15年 | 不同意性交等罪、監護者性交等罪 |
長期15年未満の懲役刑または禁錮刑 | 12年 | 不同意わいせつ罪、監護者わいせつ罪、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為のみ) |
数年~数十年に及ぶ逃亡生活を続けると、常に逮捕リスクと隣り合わせなので、建設的な人生プランを歩むのは簡単ではありません。
現段階で自首をして”比較的軽減された刑事責任”を全うすることで人生再スタートのタイミングを前倒しできるので、すみやかに弁護士にご相談のうえ、自首の可否やメリットについて丁寧に解説をしてもらいましょう。
自首をしたときの刑事手続きの流れ
自首をしたときの一般的な刑事手続きの流れは以下の通りです。
- 自首するために警察署へ出頭して取調べを受ける
- 検察官から取調べを受ける
- 起訴された場合には公開の刑事裁判を受ける
自首するために警察署へ出頭して取調べを受ける
自首したいときは、先ほど紹介したような方法で、本人だけもしくは弁護士同行で警察署に出頭します。
警察署に出頭した後は、自首した事件について事情聴取がおこなわれて「自首調書」が作成されます。
たとえば、万引き事件などの比較的軽微な犯罪であれば、在宅事件として任意で捜査が継続することになるので、事情聴取が終了すると帰宅できるでしょう。その後、必要なタイミングで警察から任意での出頭要請をかけられて、指定された期日に警察署で取調べを受けることになります。
これに対して、殺人事件・強盗事件・不同意性交等事件などの場合には、自首をして素直に犯行を認めていたとしても、被疑事実の重大性・悪質性に鑑みて、そのまま逮捕手続きに移行して身柄拘束付きの取調べが実施される可能性を否定できません。
なお、逮捕状が発付された場合に実施される警察段階の取調べの制限時間は「48時間以内」です(刑事訴訟法第203条第1項)。48時間以内の取調べで得られた証拠や被疑者の態度を前提に、自首事件を微罪処分に付するか送検するかが判断されます(これに対して、在宅事件として扱われる場合には、警察段階の取調べに制限時間は設けられていません)。
検察官から取調べを受ける
微罪処分の対象にならない場合、自首事件が警察から検察官に送致されます(刑事訴訟法第246条本文)。
まず、自首事件について逮捕状が請求された場合、検察段階で実施される取調べの制限時間は「24時間以内」が原則です(同法第205条第1項)。ただし、やむを得ない事情によってこの時間制限を遵守できないときには、勾留請求によって検察段階の取調べ期間が「10日間~20日間」の範囲で延長される可能性があります(同法第206条第1項、同法第208条各項)。そして、逮捕期限または勾留期限が到来するまでに、検察官が自首事件を公訴提起するか否か判断します。
次に、自首事件が在宅事件として処理される場合、検察段階で実施される取調べにも制限時間が設けられていません。検察官から呼び出しがかかった期日に検察庁に出頭して取調べを受けます。そして、「在宅起訴」するか否かを判断できるだけの証拠・供述がそろったタイミングで起訴・不起訴が決定します。
このように、自首しても逮捕・勾留・起訴されるリスクはゼロにできないので、少しでも有利に刑事手続きを進行させるには、自首をした後の供述方針や防御活動も重要になると考えられます。刑事事件の実績豊富な弁護士の力を借りて、早期の示談成立などを目指しましょう。
公開の刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を下した場合、自首事件が公開の刑事裁判にかけられます。判決で実刑判決が言い渡されると刑務所への服役を強いられるため、刑事裁判に移行した場合には「執行猶予付き判決」の獲得を目指すことになります。
第1回の公判期日は「起訴処分が下されてから1カ月~2カ月後」が目安です。自首事件のように公訴事実に争いがないケースでは第1回の公判期日で結審し、後日判決が言い渡されるのが通例です(自首をした後、新たな争点が発生したような特殊なケースでは、複数の公判期日を経て弁論手続き・証拠調べ手続きがおこなわれます)。
自首したいときの注意点4つ
犯人自ら警察に出頭すれば常に自首の恩恵を受けられるわけではありません。
自首したいときは以下4つの注意点を踏まえて、自首のメリットの最大化を目指しましょう。
- 自首の要件を満たさなければ「刑の任意的減軽」の対象にならない
- 自首したからといって不起訴・無罪が確約されるわけではない
- 自首する前に示談を検討すべきケースは少なくない
- 自首したいときは弁護士への相談が最優先
自首の要件を満たさなければメリットを得られない
先ほど紹介したように、自首には厳格な要件・手続きが定められています。
そのため、以下のような状況では自首をしたとは認められず、自首のメリットを享受できません。
- すでに被害届・告訴状が提出済みで捜査機関が犯罪事実・犯人を把握している場合
- 捜査機関が犯人の居所だけを掴めていない場合
- 全国に指名手配された後で警察署に出頭した場合
- 任意の事情聴取や職務質問の際に犯行を自供した場合
- 自首をしたときに正確かつ冷静に犯罪事実の説明ができなかった場合
自首をしたからと言って不起訴・無罪になるとは限らない
「自首すれば逮捕回避・勾留回避・起訴回避・実刑回避の”可能性が高まる”」のは事実ですが、自首をしたところで逮捕・勾留・起訴・実刑のリスクをゼロにできるわけではありません。
そもそも、自首事件について刑を減軽するかどうかは「裁判所の任意」です。自首をしたとしても、多数の前科前歴があったり、事件が重大かつ悪質で被害者の処罰感情が強いケースでは、一切減軽されずに実刑判決などの重い判決が言い渡される可能性が高いです。
また、確かに自首をすることで「逃亡・証拠隠滅のおそれが低いこと」を示すことができますが、その一方で、逮捕するか否か、勾留請求するか否か、起訴するか否かの判断をするときには、示談の成否や被害の大きさなどが総合的に考慮されるため、自首をしたとしても逮捕・勾留・起訴されるケースは少なくありません。
自首よりも先に被害者との間で示談交渉を進めた方が効果的なこともある
自首は有効な防御活動のひとつですが、犯人側で被害者を特定できている状況なら、自首する前に被害者との間で示談交渉を進めた方が効果的なことがあります。
たとえば、被害届・告訴状の提出前に示談が成立すれば「被害申告自体を回避」できます。わざわざ警察に自首をしなくても民事レベルでの円満解決を優先することによって刑事事件化自体を防ぐことができるでしょう(前科・前歴のどちらも残りません)。
また、すでに被害届・告訴状が提出されていたとしても、早期の示談交渉によって「被害届・告訴状の取り下げ」も期待可能です。器物損壊罪や名誉毀損罪などの親告罪であれば、告訴の取り下げによって逮捕・起訴を回避できますし、非親告罪の容疑をかけられているケースでも、被害者の処罰感情が低くなったことを理由に軽い刑事処分の可能性が高まります。
したがって、過去の犯罪を悔やんでいたり刑事訴追に怯えているときには、「まず自首」と決め付けるのではなく、「現段階で自首する有効性」「自首以外の防御活動について先手を打っておくべきか」を冷静に判断するべきでしょう。
自首したいときにはまず弁護士に相談する
自首したいときには、いきなり警察署に出頭するのではなく、刑事事件を専門に扱っている弁護士に相談してください。
なぜなら、自首前に弁護士へ相談することで以下7点のメリットを得られるからです。
- そもそも犯罪行為に該当するのかを判断してくれる(刑事訴追に怯える必要がないケースを指摘してくれる)
- どのような犯罪類型に該当するかを判断してくれる
- 自首後に想定される刑事手続きの展望を教えてくれる(在宅事件になる可能性や、起訴・有罪の見込みなど)
- 被害者との示談交渉を優先すべきか検討してくれる
- 丁寧に示談交渉を進めて常識的な示談条件で被害者の赦しを得てくれる
- 自首後に実施される取調べでの供述方針を事前に明確化してくれる
- 自首後に逮捕・勾留されたとしても早期の身柄釈放を目指して捜査機関に働きかけてくれる
自首をしたいなら弁護士へ相談を!専門家のサポートで円満解決を目指そう
そもそも、「自首をしたから軽い刑事処分を期待できる」というのは間違いです。自首後の供述方針や示談の成否、更生のための環境整備など、刑事処分を決する際には諸般の事情が総合的に考慮されるからです。
したがって、自首したいときには、何よりも最優先で弁護士までご相談ください。「現段階で自首するべきか」「自首した後どうなるか」「自首をすることで日常生活にどのような支障が生じるか」などについて、専門的知見に基づく見通しを立ててくれるでしょう。