催涙スプレーの使用は違法の可能性あり!正しい使用方法を詳しく解説

催涙スプレーの使用は違法の可能性あり!正しい使用方法を詳しく解説
催涙スプレーの使用は違法の可能性あり!正しい使用方法を詳しく解説

催涙スプレーの所持は、軽犯罪法という法律によって罰せられる可能性があります。万が一、同法に抵触した場合は、科料や拘留といった刑事罰を受ける可能性があるため、十分に注意しなければいけません。

この記事では、催涙スプレーの所持や使用によって適用される法律、違法・合法の基準や過去の判例などを詳しく解説しています。

これから、護身用として催涙スプレーの購入を検討されている人は、本記事で解説している内容をぜひ参考にしてください。誤った所持・使用をしていると思わぬトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。十分に注意してください。

催涙スプレーの所持・使用の罪状

催涙スプレーの所持や使用は、さまざまな法律によって規制されています。そのため、正当な理由なく持ち歩いたり使用したりすると逮捕されてしまう可能性があります。

まずは、催涙スプレーの所持や使用がどう言った法律に該当するのかについて見ていきましょう。

催涙スプレーの所持は「軽犯罪法違反」の可能性あり

催涙スプレーの所持は、軽犯罪法に抵触する可能性があります。軽犯罪法とは、身近で比較的軽微な違反行為を取り締まる法律です。

同法一条二項では、以下の通り明記されています。

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

引用:軽犯罪法|第一条第二項

催涙スプレーは「涙を催す」と書かれている通り、人の顔に吹きかけると涙が止まらないほど強烈な痛みに襲われます。そのため、軽犯罪法の「人の生命を害し、又は身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に該当します。

よって、正当な理由なく催涙スプレーを持ち歩いていた場合、軽犯罪法違反で拘留または科料の刑を科されてしまう可能性があるため注意しなければいけません。

ちなみに、詳しくは後述しますが「護身用として普段から持ち歩いている」という場合も違法です。たとえ、自分の身を守るためのものであっても、催涙スプレーの所持は軽犯罪法違反としてみなされます。

たとえば、護身用として十徳ナイフを所持していれば、「違法」と判断されるのは当然です。これは、「人の身体に害を加えられる器具」であるためです。よって、催涙スプレーであっても同様であると判断されます。

催涙スプレーの使用も違法の可能性あり

催涙スプレーを使用した場合、その使用環境によっては重大な犯罪に抵触してしまう可能性があります。

催涙スプレーを人に対して使用した場合、焼けるような激痛が伴います。そのため、不当に使用した場合は、傷害罪で逮捕されてしまう可能性もあるため注意しなければいけません。

そのため、催涙スプレーを使用する際は、使用可否を冷静に判断する必要があります。もし、「咄嗟の場合は判断できない可能性がある」と考えている人は、使用するべきではありません。

傷害罪の可能性

催涙スプレーを人に対して使用した場合、非常に強い刺激を与え、焼けるような激痛がややしばらく続きます。そのため、不当に使用した場合は使用した者が傷害罪で逮捕されてしまう可能性があります。

傷害罪については、刑法で以下のとおり明記されています。

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法|第204条

上記の通り、長期の懲役刑もあり得る犯罪行為です。そのため、催涙スプレーを使用する際は慎重に取り扱う必要があります。

過剰防衛になる可能性

護身用として催涙スプレーの使用を考えている人もいるでしょう。護身用と考えている人の中には、「正当防衛」の正当性を理解していない人も多いです。

実は、正当防衛の認識を誤り、無闇に催涙スプレーを使用してしまうと過剰防衛として、自分自身が処罰されてしまう可能性もあります。たとえば、「空き巣が入ってきたときに使用する」「知らない人が入ってきたときに使用する」と考えているかもしれません。

上記は、その事実のみで催涙スプレーを使用すると、過剰防衛と判断されてしまう可能性があります。つまり、「知らない人が家に入ってきた=催涙スプレーを使用して良い」とはなりません。

そのため、自分の行動が正当防衛の範囲内なのかどうかを正しく見極めた上で、使用しなければ過剰防衛となり罰せられる可能性があります。

正当防衛が認められる場合は罪に問われない

正当防衛が認められる場合は、その行為を罪に問うことはできません。刑法では、正当防衛について以下のとおり定めています。

急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

引用:刑法|第36条

さらに詳しく言うと、以下5つの要件を満たしている場合は正当防衛とみなされて罰せられることはありません。

  1. 不正の侵害であること
  2. 急迫性があること
  3. 防衛行為の正当性があること
  4. 防衛行為の相当性があること
  5. 防衛の意思があること

例を元に見てみましょう。

例1
女性が1人暮らししている1DKの狭い部屋に突然大柄な男が入ってきた。寝込みに襲われそうになった場合。

この場合はまず、「寝込みに襲われそうになった」という事実が1 不正の侵害に該当します。また、「襲われそうになった」の時点で、目の前に大柄な男がいてすぐにでも襲われそうな状態にあることが窺えます。そのため2 急迫性も認められるでしょう。

そして、「襲われそうになっている」この状況が、「防衛をしなければ襲われていた」ということになります。よって、防衛の正当性が認められます。また、「1DKの狭い部屋に大柄な男」の時点で、逃げることが困難であることが予想できるでしょう。

そのため、4 防衛行為の相当性も認められます。最後に、女性が自分を守るための意思を持って催涙スプレーを噴射しているのであれば、正当防衛が認められます。

例2
寝ているときに空き巣(いわゆる忍込み)が入ってきた。家主が気付き「誰?」と咄嗟に声をかけたとき、相手が盗もうとした物をそのままにして逃げようとしたため、催涙スプレーを吹きかけて警察を呼んだ。

上記の場合、自分の財産を盗まれそうになっているため1 不正の侵害があると認められます。しかし、犯人は家主に気付かれて逃げようとしているため、2 急迫性は認められません。

さらに、防衛行為の正当性や相当性も当然認められません。なぜなら、気付かれた犯人はその場から物を盗らずに逃げようとしているためです。また、家主はそのままにしておけば犯人は逃亡するため、自らを防衛する必要がありません。

よって、上記の場合は正当防衛は認められない可能性が高いです。過剰防衛となる可能性があるため、十分に注意しなければいけません。

催涙スプレーの使用に対して違法・合法と判断される基準

催涙スプレーの使用方法を誤ると、軽犯罪法違反や傷害罪などに抵触する可能性があります。しかし、護身用として販売されているのも事実であるため、どういった使い方であれば合法であり、どういった方法が違法なのかを知っておく必要があります。

催涙スプレーを適切に使用するために合法の使い方、違法の使い方についても見ていきましょう。

【違法】護身用として屋外へ持ち出していた場合

護身用として屋外へ持ち出していた場合は、軽犯罪法違反に抵触する可能性があります。本記事の始めでも解説した通り、軽犯罪法では以下のように明記されています。

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

引用:軽犯罪法|第一条第二項

催涙スプレーも当然、「人の身体に重大な害を与える器具」に該当するため、注意しなければいけません。たとえ、護身用であったとしても正当性は認められません。

【違法】特別な理由なく人体等を対象に催涙スプレーを使用

場所を問わず、特別な理由なく人体等を対象として催涙スプレーを使用した場合、相手の被害状況によって傷害罪が適用されます。また、物を対象として催涙スプレーを吹きかけた場合、器物損壊罪が適用されるでしょう。

催涙スプレーがどのような効果があるのか試しに使用してみたい、と考えているのであれば、周りに何もない誰もいない環境下で使用するべきです。人や物があった場合は、当然刑法等で罰せられるため注意してください。

【違法】急迫性ないときの使用

急迫性がない状態での使用は認められません。たとえば、先ほども解説した通り、過剰防衛に該当する場合は、違法な使用方法であると考えてください。

忍込み(空き巣)に入られた場合であっても、直ちに催涙スプレーの使用が許されるわけではありません。とくに、空き巣犯が盗もうとしたものをおいてその場から逃げようとしている場合に使用した場合、過剰防衛になり得ます。

ただし、家主に見つかった空き巣犯が家主に殺意を持って寄ってきたため、催涙スプレーを噴射した場合は、正当防衛が認められる可能性が高いです。あくまでも、正当防衛が認められる範囲か否かがポイントとなります。

【合法】護身用として自宅で保管している場合

護身用として自宅内で保管している場合は、合法です。軽犯罪法違反となるのは、「隠して携帯していた場合」です。よって、自宅内で保管している分には何ら問題ありません。

強盗に入られた際や自宅内で襲われそうになった際など、使用しなければいけない場面に遭遇した際のために、保管しておくと良いでしょう。

催涙スプレーは使用期限が設けられています。護身用として保管する場合は、使用期限ごとに買い替え等を検討してください。

【合法】野生動物対策としての屋外への持ち歩き

野生動物対策として屋外へ持ち歩く行為は「正当な理由」に該当するため、合法です。

催涙スプレーは、基本的には人を対象としていますが、クマやイノシシといった野生動物にも効果的です。そのため、山に入る際などに野生動物対策として持ち歩いても合法です。

【合法】正当防衛が認められる場面においての使用

正当防衛が認められる場合は、催涙スプレーを使用したとしても罪に罰せられることはありません。正当防衛が認められるためには、先ほども解説した通り以下の要件を満たしている必要があります。

  1. 不正の侵害であること
  2. 急迫性があること
  3. 防衛行為の正当性があること
  4. 防衛行為の相当性があること
  5. 防衛の意思があること

正当防衛が認められるか否かは、その事情によって個別に判断されます。仮に、過剰防衛となってしまった場合であっても、その事情等を考慮して罪が大幅に軽減されることもあります。

催涙スプレーの所持・使用が違法・合法とされた判例

催涙スプレーの所持が違法と判断された判例や合法(無罪)と認められた判例について、詳しく解説します。「どういった場合は、正当な理由に該当するのか?」について、ぜひ参考にしてください。

判例1:催涙スプレーを使用した強盗事件

罪状:強盗致傷・強盗予備
判決:被告人Aに対して懲役11年・被告人Bに対して懲役16年
事件番号:平成29(わ)1243
内容:
催涙スプレーを噴射して被害者を抵抗できない状態にした上、現金3億8,400万円を強奪した強盗致傷・強盗予備事件。参考:裁判例|平成29(わ)1243

本事件は、催涙スプレーを使用して強盗を行った事件です。催涙スプレーの適切な使用範囲を超えているため、当然違法です。また強盗を行う目的で催涙スプレーを使用しているため、本罪状は強盗致傷罪が適用されています。

本事件における被害者は、催涙スプレーの噴射によって、刺激物質性接触皮膚炎及び化学物質性急性気管炎の傷害を負わせられました。催涙スプレーをこのように使用すると、当然厳しい刑罰が下されます。

判例2:催涙スプレーの所持が「正当」と認められた事例

罪状:軽犯罪法違反
判決:無罪
事件番号:平成20(あ)1518
内容:
催涙スプレーを所持したまま路上を歩いており、第一審では軽犯罪法違反により9,000円の科料となった。しかし、第一審の判決を棄却し、逆転無罪判決となった事例。参考:裁判例|平成20(あ)1518

本事件は、催涙スプレーを所持したまま路上を歩き、一審判決では軽犯罪法違反として科料判決を受けたものです。しかし、最高裁では事件の内容を踏まえ、逆転無罪判決となりました。

本件でも催涙スプレーは、軽犯罪法に示す「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」であることは認めています。その上で、今回の事件の被告人が「正当な理由を持って所持をしていたかどうか」が争点となりました。

本来であれば、軽犯罪法違反でありますが以下のことがポイントとなり、「正当な理由であり、軽犯罪法違反になり得ない」という判決になりました。

  • 被告人は経理担当として勤務しており、度々、有価証券や多額の資金を持ち歩いて銀行へ行く機会があった
  • 普段はカバンの中に入れており、高額な有価証券や資金を持ち歩く際にカバンから取り出し、ポケットに入れて持ち歩いていた。また、その仕事が終了した後は元の場所(カバンの中)に戻していた
  • 被告人は健康上の理由により、医師からできるだけ歩いたり運動をしたりするように指導されていた

上記のことから、催涙スプレーの所持が「正当である」と認められました。

今回の判例を見ると「現金輸送担当者が警棒を持っている場合は、違法にならない」と同じような考え方ができます。

本事件の被告人は、仕事柄多額の資金を持ち歩く機会が多く、万が一襲われた場合に自衛する目的を持って所持していました。しかし、この事実だけであれば、「襲われないように自動車に乗って行動すれば良い」とも言えます。

本事件の被告人は、「健康上の理由で医師から指導を受けていた」ため、現金等を持って持ち歩く正当性が認められた形です。

催涙スプレーの使用に関するよくある質問

催涙スプレーの使用に関するよくある質問を紹介します。

Q.催涙スプレーの所持で逮捕される可能性はありますか?

A.軽犯罪法違反で処罰される可能性があります。

催涙スプレーの所持は、軽犯罪法違反に抵触します。よって、逮捕される可能性があります。しかし、護身用で所持しているだけであれば、注意で済む可能性が高く、逮捕まで至るケースは稀です。

とはいえ、何度も繰り返し注意を受けていると、悪質であると判断されて逮捕されてしまうケースがあるかもしれません。そのため、適切な方法で保管・使用するようにしてください。

Q.合法的に持ち歩き可能な防犯グッズはありますか?

A.防犯ブザーが適しています。

防犯グッズの中には、催涙スプレーや警棒、ナイフ、スタンガンなどさまざまな物があります。しかし、いずれも軽犯罪法に抵触してしまう物ばかりです。たとえ護身用であっても、日本の法律では「違法」と判断されてしまいます。

そのため、護身用グッズとしては弱いものの、法律に抵触しない防犯グッズとして適しているのは防犯ブザーです。大勢の人に危機を知らせるという意味で相当な効果を発揮します。

とはいえ、夜道に誰もいないところで襲われてしまえば何ら効果はありません。そのため、難しい問題ではあるものの、自分自身でできるその他の防衛対策を検討せざるを得ないでしょう。

たとえば、夜間は可能な限り明るい道を歩く、タクシーを利用する、自分自身で自衛能力を身に付けるなどの方法が有効です。

Q.催涙スプレーを使用すると身体にどのような影響を与えますか?

A.焼けるような、熱く刺激的な強烈な痛みが継続します。

催涙スプレーは焼けるような強烈な痛みが伴います。そのため、「涙を催す」という意味で催涙スプレーと呼ばれています。

催涙スプレーを使用することによって、どのような屈強な相手であっても必ず怯むため、その間に逃げることができるでしょう。どれだけ鍛え上げている人であっても、粘膜や皮膚を対象としているため、意味がありません。

また、催涙スプレーを使用しても効果は一時的であり、後遺症が残る心配もありません。そのため、もし何かあった場合には、思い切って使用しても何ら問題はないでしょう。

まとめ

今回は、催涙スプレーの違法性について解説しました。

催涙スプレーの所持自体に違法性はないものの、正当な理由なく持って屋外へ出てしまうと軽犯罪法違反となります。また、正当な理由なく使用してしまった場合は、傷害罪になり得る可能性があるため、使用を検討する際は十分に注意しなければいけません。

催涙スプレーは防犯グッズとしてとても有効な物です。しかし、日本の法律では所持をして持ち運ぶことが禁止されています。

また、軽犯罪法という法律自体が非常に曖昧であり、何を持って正当な理由とするかどうかが明確に定められていません。たとえば「女性が自分の身を守るために所持して歩く行為」は、一見正当な理由に見えます。しかし、現行法では「違法」と判断されてしまいます。

とても難しい問題ではあるものの、そのため、使用・所持する際は十分に注意しましょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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