公務員の職務は公正におこなわれなければいけませんし、「公務員の職務は公正なものである」という社会一般の信頼も保障される必要があります。そのため、公務員が賄賂を受け取る行為だけではなく、公務員に対して賄賂を贈る行為も犯罪として処罰対象と扱われます。
そこで今回は、公務員に対して賄賂を贈ってしまった方や、ご家族が贈賄罪の容疑で逮捕された方のために、以下4つの事項について分かりやすく解説します。
- 贈収賄罪の仕組みや構成要件、法定刑
- 贈賄罪で逮捕されるときの刑事手続きの流れ
- 贈賄罪で逮捕されたときに生じるデメリット
- 贈賄罪で逮捕されたときや容疑をかけられたときに弁護士へ相談するメリット
贈賄罪の容疑で刑事訴追されると、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束される危険性に晒されます。また、贈賄の金額次第では、初犯でも高額の罰金刑や実刑判決が下される可能性も否定できません。
特に、贈賄罪のような国家や社会の利益を侵害するような犯罪では示談による防御活動は不可能です。
少しでも軽い刑事処分や判決内容を獲得するには刑事事件や贈収賄事件の経験豊富な私選弁護人のサポートが不可欠なので、できるだけ早いタイミングで当サイト掲載中の法律事務所までお問い合わせください。
目次
賄賂罪の基本的な仕組みと犯罪類型
賄賂罪(わいろざい)は、「収賄罪(しゅうわいざい)」「贈賄罪(ぞうわいざい)」に区別されます。
収賄罪は「賄賂を受け取った公務員」を処罰対象とするものです。これに対して、贈賄罪は「賄賂を贈った側」を立件するための罪状です。
まずは、収賄罪及び贈賄罪それぞれの構成要件・法定刑について解説します。
収賄罪
収賄罪は行為態様によって以下7類型に分類されます。
- 単純収賄罪
- 受託収賄罪
- 事前収賄罪
- 第三者供賄罪
- 加重収賄罪
- 事後収賄罪
- あっせん収賄罪
単純収賄罪
単純収賄罪とは、「公務員が、その職務に関して、賄賂を収受したり、または、賄賂の要求もしくは約束をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条第1項前段)。
単純収賄罪の法定刑は、「5年以下の懲役刑」と定められています。
収賄罪の構成要件は以下の通りです。
- 公務員
- 公務員の職務と賄賂が対価関係に立つこと
- 賄賂の収受、賄賂の要求、賄賂の約束
- 賄賂性の認識
①について、収賄罪の主体は「公務員」に限られます(刑法第7条第1項)。なお、公務員ではない者であっても、公務員に加功することによって「公務の公正」という保護法益を侵害した場合には、収賄罪の共犯として処罰対象に含まれます(刑法第65条第1項)。
②について、収賄罪が成立するには、「職務に関して賄賂を収受等すること=公務員の職務と賄賂が対価関係に立つこと」が必要です。まず、「公務員の職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務が含まれます(最判昭和28年10月27日)。また、「公務員の職務」には、それ自体正当なものばかりではなく、不正な職務も本罪の対象です(最決昭和59年5月30日)。さらに、当該公務員が具体的に担当している事務ではなくても、その一般的職務権限に属する範囲の業務であれば、収賄罪が成立し得ます(最判昭和37年5月29日)。これに加えて、公務員の本来の職務行為だけではなく、職務と密接に関連する行為(職務密接関連行為)も、「公務員の職務」に含まれます。
③について、収賄罪の実行行為は「賄賂の収受、賄賂の要求、賄賂の約束」の3類型です。要求・約束・収受が一連の行為としておこなわれた場合には、包括一罪として罪数処理されます(大判昭和10年10月23日)。
④について、賄賂罪は故意犯なので、「収受等した賄賂が職務行為と対価関係に立つものであること」の認識が必要です。
受託収賄罪
受託収賄罪とは、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、または、要求・約束をした場合において、請託を受けたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条第1項後段)。受託収賄罪の法定刑は、「7年以下の懲役刑」と定められています。
本罪は、職務行為が請託に基づく場合についての収賄罪の加重類型です。職務行為に対する請託が存在することによって、賄賂と職務行為との間の対価関係がより明白になり、職務行為が賄賂の影響下により強く置かれた状態におちいります。
なお、請託とは、「公務員に対し、職務に関して一定の行為をおこなうことを依頼すること」を意味し、不正な職務行為の依頼か、正当な職務行為の依頼かは問われません(最判昭和27年7月22日)。
事前収賄罪
事前収賄罪とは、「公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関して、請託を受けて、賄賂を収受・賄賂を要求・賄賂を約束したときにおいて、公務員になった場合」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条第2項)。事前収賄罪の法定刑は、「5年以下の懲役刑」と定められています。
事前収賄罪は将来の職務に関する収賄罪ですが、公務員になろうとする者が就任前において賄賂の収受等をおこなうことを処罰対象とすることで、将来的に公務が歪められることを禁止するものです。
なお、公務員への就任前に、担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂の要求・約束をおこない、就任後に賄賂を収受したケースでは、受託収賄罪が成立し、事前収賄罪はこれに吸収されます。
第三者供賄罪
第三者供賄罪とは、「公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させたり、その供与の要求・約束をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条の2)。第三者供賄罪の法定刑は、「5年以下の懲役刑」と定められています。
第三者供賄罪は、賄賂を公務員以外の者に供与等させる場合を捕捉することによって、収賄罪による処罰範囲を拡張することが目的です。
本罪における「第三者」とは、「贈与者及び職務行為をなすべき公務員以外の者」のことです。ただし、賄賂の受供与者が形式的には第三者であっても、実質的には公務員が賄賂を収受したとみることができる場合には、第三者供賄罪ではなく、受託収賄罪が成立します。
加重収賄罪
加重収賄罪とは、「①公務員が収賄罪、受託収賄罪、事後収賄罪、第三者供賄罪を犯し、よって不正な行為をし、または、相当の行為をしなかった場合(刑法第197条の3第1項)、②公務員が、その職務上不正な行為をしたこと、または、相当の行為をしなかったことに関して、賄賂を収受・賄賂の要求・賄賂の約束をし、または、第三者にこれを供与させ、もしくは、その供与の要求・約束をした場合(同法第197条の3第2項)」に成立する犯罪類型のことです。
加重収賄罪の法定刑は、「1年以上の有期懲役刑」と定められています。
加重収賄罪は、職務行為と対価関係に立つ賄賂が授受等されて、職務行為が賄賂の影響下に置かれたのみならず、不正な行為が現実になされたことによって、職務の公正の侵害が惹起されたことを理由として、加重処罰するものです。
事後収賄罪
事後収賄罪とは、「公務員であった者が、その在職中に請託を受けた職務上不正な行為をしたこと、または、相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・賄賂の要求・賄賂の約束をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条の3第3項)。
事後収賄罪の法定刑は、「5年以下の懲役刑」と定められています。
なお、在職中に賄賂の要求・約束があり、退職後に賄賂の収受がなされたときには、事後収賄罪は加重収賄罪に吸収されます。
あっせん収賄罪
あっせん収賄罪とは、「公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、または、相当の行為をさせないようにあっせんをすること、または、したことの報酬として、賄賂を収受・賄賂の要求・賄賂の約束をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第197条の4)。
あっせん収賄罪の法定刑は、「5年以下の懲役刑」と定められています。
あっせん収賄罪は、公務員が他の公務員の職務行為についてあっせんをおこない、職務上不正な行為をおこなわせようとする場合を処罰対象とするものです。被あっせん公務員の職務の公正を間接的に害する点が処罰根拠とされています。
贈賄罪
贈賄罪とは、「収賄罪処罰規定に定められた賄賂を供与し、または、その申込み・約束をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第198条)。収賄罪が細分化されているのと違って、贈賄罪は単一の規程で処罰されます。
贈賄罪の法定刑は、「3年以下の懲役刑または250万円以下の罰金刑」と定められています。
“賄賂の供与”とは、「賄賂を公務員に収受させること」です。賄賂が提供されても、収受されなければ、賄賂申込罪が成立するに過ぎません。
“賄賂の申込み”とは、「公務員に賄賂の収受を促す行為」のことです。申込みは一方的行為であり、申込みが拒絶されたとしても、賄賂申込罪は成立します(大判昭和3年10月29日)。また、相手方である公務員に賄賂性の認識が欠けるために収賄罪が成立しない場合でも、申込みをした時点で既遂に達っするとするのが判例です(最判昭和37年4月13日)。
“賄賂の約束”とは、「賄賂を許与し、これを収受すること」について、贈賄者と収賄者との間で合意をすることです。
賄賂の申込み・約束・供与が一連の行為としてなされたときには、包括一罪として罪数処理されます。
贈賄罪の容疑で逮捕されるときの刑事手続きの流れ
贈賄罪の容疑で立件されるときの刑事手続きの流れは以下の通りです。
- 贈賄罪の容疑で警察に逮捕される
- 贈賄罪について警察段階の取り調べが実施される
- 贈賄事件が検察官に送致される
- 贈賄罪について検察段階の取り調べが実施される
- 検察官が贈賄事件について起訴・不起訴を決定する
- 贈賄事件が公開の刑事裁判にかけられる
贈賄罪の容疑で警察に逮捕される
贈賄行為が捜査機関に発覚すると、贈賄罪の容疑で通常逮捕(後日逮捕)されます。
通常逮捕とは、「裁判官の事前審査を経て発付される逮捕令状に基づいて実施される身柄拘束処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。
通常逮捕は裁判官の発付する逮捕状を根拠に実施されます。逮捕状を呈示されると、被疑者の身体・行動の自由は大幅に制約されます(令状主義)。
例えば、逮捕状を持参した警察官は被疑者が在宅している可能性が高い平日早朝などにいきなり自宅にやってくることが多いですが、逮捕状が執行されると、その時点で被疑者の身柄は拘束されて警察に連行されます。「今日は仕事があるから別の日に警察に出頭したい」「手錠をかける前に家族・会社に電話連絡をいれたい」などの要望は一切聞き入れられません。
贈賄罪で通常逮捕される具体例
贈賄罪について逮捕状が発付されるのは、以下2つの要件を満たしたときです(犯罪捜査規範第118条、同規則第122条)。
- 逮捕の理由:被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
- 逮捕の必要性:留置の必要性(被疑者の身柄を強制的に拘束した状態での取調べを実施する必要性)があること、証拠隠滅または逃亡のおそれがあること
以上を踏まえると、贈賄事件に対して逮捕状が発付されるのは以下のケースといえるでしょう。
- 住所不定・無職・職業不詳で逃亡するおそれがある場合
- 前科・前歴がある場合
- 他の贈収賄事件への関与も疑われる場合
- 高額の現金や高価な金品を公務員に贈った場合
- 贈賄行為を裏付ける証拠(メール、メモ、送金履歴、預貯金通帳、着信履歴など)を隠滅するおそれがある場合
- 金品を受け取った公務員本人や他の共犯者と口裏を合わせるおそれがある場合
- 贈賄事件についての任意の出頭要請を拒絶した場合
- 贈賄事件に関する任意の事情聴取で黙秘・否認した場合、供述内容に矛盾点が存在する場合
贈賄罪が警察にバレる理由
賄賂を贈った人物と公務員側が黙っている限り、贈賄事件は捜査機関に発覚しないように思えます。
しかし、実際には以下の端緒がきっかけで贈賄事件は警察にバレることが多いです。
- 監査役や税務調査の指摘で使途不明金の存在や脱税が発覚する
- 公務員サイドの同僚が刑事告発をする
- 競合他社からのリークで贈賄疑惑が発覚する
- 賄賂を受け取った公務員が採った行為に正当性が存在しないことに報道機関から疑惑の目が向けられる
特に、税務署は細かく資金の移動を追跡するので、現金や商品券、貴金属のように公務員に対して直接振り込み履歴が残らないような形の授受であったとしても、バレる可能性が高いです。
以上を踏まえると、過去の贈賄行為が現段階で発覚していないとしても、すみやかに弁護士へ相談をして自主減軽などの防御活動を検討してもらうべきでしょう。
過去の贈賄行為は公訴時効が完成するまで通常逮捕される可能性がある
過去に贈賄行為に及んだとしても未来永劫刑事訴追のリスクを抱えているわけではありません。
なぜなら、他の犯罪類型と同じように、贈賄罪にも公訴時効制度が適用されるからです。
公訴時効とは、「犯罪ごとに規程された公訴時効期間を経過することで検察官の公訴提起権が消滅する制度」のことです。検察官が起訴処分を下すことができなくなる結果、警察に逮捕される可能性もなくなります。
贈賄罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または250万円以下の罰金刑」なので、贈賄罪の公訴時効期間は「賄賂を贈ったときから3年」と導かれます(刑事訴訟法第250条第2項第6号、同法第253条第1項)。
注意を要するのは、税務署の臨検監督では過去数年分の帳簿書類等がまとめて確認される点です。つまり、過去3年以内の贈賄行為に関する証拠が存在する状況ならいつ税務署経由で刑事事件化してもおかしくないということを意味します。
以上を踏まえると、過去に贈賄行為に及んだときには、安易に「時効逃げ切り」を狙うのは賢い選択とはいえない可能性が高いです。過去の贈賄事件について警察から問い合わせがない状況でも、念のために弁護士へ相談のうえ、現段階で自主をするべきか否かについて判断してもらいましょう。
贈賄罪について警察段階の取調べが実施される
贈賄罪の容疑で通常逮捕されると、強制的に警察署に連行されて、警察段階の取調べが実施されます。取調べ自体に対してどのような態度をとるかは自由です。しかし、取調べ自体を拒絶することはできません。
警察段階で身柄が押さえられている間、取調室で尋問等が行われる以外の時間は留置場・拘置所で過ごす必要があります。取調べ以外のタイミングで自宅に戻ったり買い物に行ったりすることは禁止されます。また、逮捕された段階でスマートフォンなどの所持品がすべて取り上げられるので、家族や会社に連絡することも不可能です。
なお、警察段階で実施される取調べには「48時間以内」という時間制限が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。これは、「身体・行動の自由」に対する過度の制約を伴う逮捕処分が無制限に行われることを禁止する趣旨に基づくものです。
しかし、たった2日とはいえ、外部と一切連絡を取れない状況はかなり厳しいです。また、逮捕後の警察対応次第で送検後の処遇が左右されると言っても過言ではありません。警察に逮捕されてすぐに弁護士へ依頼することで有利な刑事処分を獲得できる可能性が高まるので、すみやかに当サイト掲載中の法律事務所までお問い合わせください。
贈賄事件が検察官に送致される
贈賄事件について警察段階の取調べが終了すると、身柄・事件・証拠物がすべて検察官に送致(送検)されます(刑事訴訟法第246条本文)。
捜査活動が実施された事件に関する処遇の決定権は検察官が握っているからです。
なお、極めて軽微な贈賄事件については「微罪処分」獲得によって送検を回避できる可能性があります(同法第246条但書)。
贈賄罪について検察段階の取調べが実施される
贈賄事件が送検された後は、検察庁に身柄が移されて取調べが実施されます。
警察段階及び検察段階の取調べによって得られた証拠を前提に、検察官が贈賄事件を起訴するか否かを判断します。
検察段階の取調べは原則24時間以内
検察段階で実施される取調べの制限時間は「原則24時間以内」です(刑事訴訟法第205条第1項)。
したがって、贈賄罪の容疑で逮捕されたときには、公訴提起判断に至るまで「合計72時間以内(警察段階48時間と検察段階24時間)」の身柄拘束期間が生じることになります。
勾留請求されると例外的に身柄拘束期間が延長される
贈賄罪の経緯や実態次第では、72時間の原則的な制限時間だけでは公訴提起判断に必要な証拠が足りないことがあります。
そこで、「やむを得ない理由」によって原則的な取調べの時間制限を遵守できない場合には、検察官による勾留請求が認められています(刑事訴訟法第206条第1項)。
担当裁判官が勾留請求を認めた場合には、被疑者の身柄拘束期間が「10日間~20日間」の範囲で延長されます(同法第208条各項)。
つまり、贈賄罪で逮捕・勾留されると、最長23日間の身柄拘束期間が生じる可能性があるということです。
検察官の勾留請求が予想される「やむを得ない理由」の具体例として、以下のものが挙げられます。
- 中長期的な贈賄行為への関与が疑われて事件の全体像を調査するのに時間を要する場合
- 賄賂を受け取った公務員や関係者の参考人聴取に時間を要する場合
- 賄賂受け渡し時の記録などの精査に時間を要する場合
- 贈賄事件について被疑者が黙秘・否認している場合
- 贈賄事件に関する供述内容に矛盾点・疑問が残る場合
なお、ここまで紹介した身柄拘束期間の制限時間は事件単位でカウントされるものです。例えば、複数の贈賄事件に関与したことを理由に再逮捕・再勾留が繰り返されると、身柄拘束期間は数カ月に及ぶ危険性もあります。
身柄拘束期間を短縮化するには、贈賄事件が立件されてすぐにどれだけ供述方針を明確化できるかがポイントです。すみやかに贈賄事件の実績豊富な弁護士へ相談のうえ、適切な防御活動を展開してもらいましょう。
贈賄事件について検察官が公訴提起するか否かを判断する
贈賄事件に関する捜査活動が終了すると、検察官が贈賄事件を公訴提起するか否か(起訴処分か不起訴処分か)を決定します。
起訴処分とは、「贈賄事件を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為」のことです。日本の刑事裁判の有罪率は約99%なので、起訴処分が下された時点で有罪になることが事実上確定します。
不起訴処分とは、「贈賄事件を公開の刑事裁判にかけず、検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の意思表示」のことです。不起訴処分によって有罪・前科のリスクをゼロにできるので、贈賄罪の容疑で逮捕された場合には「不起訴処分を獲得すること」が最大の防御目標になります。
贈賄事件が公開の刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を下すと、贈賄事件が公開の刑事裁判にかけられます。
公開の刑事裁判が開廷される時期は、起訴処分から1カ月~2カ月後が目安です。そして、公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で結審して後日判決が言い渡されますが、否認事件の場合には複数の公判期日をかけて弁論手続き・証拠調べ手続きが行われて判決言い渡しに至ります。
高額の賄賂を贈った事案や、長期間の癒着によって公務が歪められた事案では、初犯でも実刑判決が下される可能性を否定できません。社会生活への影響を軽減するには「罰金刑・執行猶予付き判決の獲得」が不可欠なので、かならず刑事裁判経験豊富な弁護士までご依頼ください。
贈賄罪の容疑で逮捕されたときに生じるデメリット4つ
贈賄罪の容疑で逮捕されたときに生じるデメリットは以下4点です。
- 贈賄罪の容疑で逮捕されると実名報道される危険性が高い
- 贈賄罪の容疑で逮捕されると長期間身柄拘束されるリスクに晒される
- 贈賄罪の容疑で逮捕されたことが会社にバレると懲戒処分を下される
- 贈賄罪の容疑で逮捕・起訴されると前科によるデメリットに悩まされる
実名報道されるリスクが生じる
贈賄罪の容疑で逮捕されると、実名報道リスクに晒されます。
そもそも、どのような刑事事件を配信するかは報道機関側の裁量次第です。重大犯罪や社会的関心を集めるトピックについては報道される傾向にあります。
そして、贈収賄事件は社会的な影響が大きいので、少なくともローカルニュースでは報道される可能性が高いでしょう。
一度でも実名報道されるとインターネット上に半永久的に情報が残り続けます。身近な人に刑事事件への関与を知られるだけではなく、今後の再就職活動や結婚などのライフステージにも悪影響が生じかねません。
実名報道のリスクを軽減するには「逮捕されないこと」が重要です。警察からアクションがあった段階で弁護士の協力を得ることで在宅事件処理を目指しやすくなるので、贈収賄事件へ関与した記憶がある方は、すみやかに当サイト掲載中の法律事務所までご相談ください。
長期間身柄拘束される可能性が高い
贈賄罪の容疑で逮捕されると、長期間身柄拘束される危険性が生じます。
まず、逮捕された時点で「72時間以内(警察段階48時間と検察段階24時間)」を覚悟しなければいけません。
次に、逮捕後に勾留請求されると「10日間~20日間」の範囲で身柄拘束期間が延長されます(この時点で、身柄拘束期間は最長23日間に及びます)。
さらに、起訴後勾留が継続すると、刑事裁判が終了するまでの数カ月にわたって拘置所生活から抜け出すことができません。
「軽い刑事処分を獲得すること」と「身柄拘束期間を短縮化すること」は別問題として考える必要があります。軽い刑事処分を獲得できたとしても身柄拘束期間が長期化すると社会生活に生じるデメリットは大きくなるので、警察から接触があった時点で刑事事件を得意とする弁護士の力を借りて、早期の身柄釈放に向けて尽力してもらいましょう。
勤務先にバレると懲戒処分を下される可能性が高い
贈賄事件を起こしたことが勤務先に発覚すると、懲戒処分を下される可能性が高いです。
懲戒処分の内容は、各社が定める就業規則の懲戒規程に基づいて決定されます。
一般的な懲戒処分の種類は「戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」です。
例えば、極めて悪質な贈賄事件を起こして大々的に報道されたような事案では、懲戒解雇処分が下されかねません。これに対して、微罪処分や不起訴処分で済んだようなケースや、報道されずに罰金刑で済んだようなケースでは、戒告・譴責などの軽い処分で済む可能性があります。
刑事事件に強い弁護士は、会社から下された懲戒処分の内容に不満があるときの交渉や労働審判などにも対応してくれるでしょう。
前科が付く可能性がある
贈賄罪の容疑で逮捕・起訴されると、前科によるデメリットに苛まれ続ける可能性が高いです。
前科とは、「有罪判決を受けた経歴」のことです。実刑判決だけではなく、執行猶予付き判決や罰金刑が確定した場合にも、前科として扱われます。
そして、前科者になると、今後の社会生活に以下のデメリットが生じ続けます。
- 前科情報は履歴書の賞罰欄への記載義務が生じるので、就職活動・転職活動が困難になる
- 前科を理由に制限される職種・資格が存在する(士業、警備員、金融業など)
- 逮捕歴や前科は法定離婚事由に該当するので、配偶者から離婚を求められると拒絶できない(慰謝料や親権判断などでも不利な扱いを受ける)
- 前科を理由にビザ・パスポートの発給が制限されると、自由に海外旅行・海外出張できなくなる
- 前科者が再犯に及ぶと、刑事処分が重くなる可能性が高い
前科によるデメリットを避けるには「不起訴処分の獲得」が不可欠です。
不起訴処分を獲得するには、警察段階・検察段階での取調べへの対応方法に工夫を凝らす必要があるので、かならず贈収賄事件の経験豊富な私選弁護人までご依頼ください。
【注意!】賄賂を受け取った側は没収・追徴の可能性がある
贈収賄事件では、賄賂を受け取った側(犯人または情を知った第三者)が収受した賄賂の没収や賄賂相当額の追徴というペナルティが定められています(刑法第197条の5)。
なお、いったん収受された賄賂が贈賄者に返還された場合、贈賄者が没収・追徴の責任を負わなければいけません(最決昭和29年7月5日)。
贈賄罪で逮捕されるか不安なときに弁護士へ相談するメリット
贈賄罪の容疑で逮捕されたときや、警察から出頭要請がかかって逮捕されるか不安を抱えているときには、弁護士に相談することを強くおすすめします。
ここからは、弁護士に相談するメリットや弁護士に依頼するときの注意点について解説します。
少しでも軽い刑事処分獲得を目指してくれる
弁護士は、刑事手続きの段階に応じて少しでも軽い刑事処分獲得を目指してくれます。
自首
過去に起こした贈賄事件について警察から直接問い合わせがない状況なら、「自首」という選択肢を検討するべきでしょう。
自首とは、「まだ捜査機関に発覚しない前に、犯人自ら進んで贈賄行為に及んだ事実を申告し、刑事処罰を求める意思表示」のことです(刑法第42条第1項)。
自首が有効に成立した場合には「刑の任意的減軽」というメリットを得られます。例えば、自首減軽が認められると、罰金刑や執行猶予付き判決を獲得しやすくなるでしょう。
ただし、贈賄行為から数年が経過して公訴時効完成直前なのに警察から一切コンタクトがないような状況であれば、わざわざ自首をする実益は乏しいとも考えられます。
したがって、念のために贈賄事件の弁護実績豊富な専門家に相談をして、現段階で自首をするべきか否かについて判断をしてもらうことを強くおすすめします。
在宅事件
在宅事件とは、「逮捕・勾留という身柄拘束処分を受けることなく、贈賄事件に関する捜査手続き・裁判手続きが進められる事件処理類型」のことです。
在宅事件として扱われた場合、捜査機関や裁判所からの出頭要請に対応するだけで済みます。留置場に身柄が拘束されることもなく好きなタイミングで自宅に戻ることができるので、社会生活に生じるデメリットが大幅に軽減されます。
贈賄事件が在宅事件の対象になる可能性が高いのは以下のようなケースです。
- 氏名・住所・職業が明らかで逃亡のおそれがない場合
- 贈賄行為について犯行を自供して真摯に反省の態度を示している場合
- 容疑がかかっている贈賄事件以外の余罪への関与の疑いがない場合
- 贈賄事件で動いた金額が少額の場合
- 贈賄事件の証拠物を隠滅するおそれがない場合
- 賄賂を受け取った公務員や共犯者と口裏を合わせるおそれがない場合
- 前科前歴のない完全初犯
- 任意の出頭要請や事情聴取に素直に応じている場合
ただし、最初は在宅事件として扱われたのに、任意の出頭要請に応じなかったり、事情聴取で黙秘をしたりすると、途中で逮捕手続きに移行する可能性が否定できません。
また、在宅事件はあくまでも任意捜査の一環としておこなわれるものなので、逮捕・勾留処分と違って捜査活動が長期間に及ぶこともあります。
微罪処分
微罪処分とは、「贈賄事件を送検せずに、警察限りの判断で刑事手続きを終結させる事件処理類型」のことです(刑事訴訟法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。
微罪処分なら送検以降のすべてのステップを回避できるので、身柄拘束期間の短縮化を実現できます。また、「起訴されるのではないか」という不安や、有罪・前科のリスクが消滅するのもメリットとして挙げられるでしょう。
ただし、どのような贈賄事件を微罪処分に付するかは警察の判断次第です。一般的には、以下のような要素を有するかどうかが微罪処分の対象になるかの判断に影響を与えるとされています。
- 検察官があらかじめ指定した軽微な犯罪類型に該当すること
- 犯情が極めて軽微であること(計画性の有無、動機に同情の余地があるか否か)
- 賄賂額が少額であること、単発的な贈賄事件であること
- 素行不良者ではないこと(前科・前歴がないこと)
- 家族や上司など、身元引受人がいること
警察から厳重注意を受けるだけで済ませるには、警察で実施される事情聴取の初期段階から供述方針を明確化する必要があります。事前に弁護士へ相談することで微罪処分獲得の可能性を高めることができるでしょう。
勾留阻止活動
贈賄罪の容疑で逮捕された後の防御目標は「勾留阻止」です。
検察官による勾留請求を回避できれば、逮捕~公訴提起判断までの身柄拘束期間が72時間以内まで短縮されます。身柄拘束期間が短いほど日常生活への悪影響を回避・軽減しやすくなります。
刑事事件に強い弁護士は以下の施策によって勾留阻止を目指してくれるでしょう。
- 一貫した漏れの無い供述によって捜査機関側から納得感を引き出す
- 余計な証拠隠滅などはせずに刑事手続き初期段階から捜査活動に協力的な姿勢を見せる
- 不当な勾留請求に対しては勾留取消請求や準抗告などの法的措置で対抗してくれる
不起訴処分
贈賄罪の容疑で逮捕された後は、「不起訴処分を獲得できるか」が今後の社会復帰の可能性を大きく左右します。
日本の刑事裁判の実態を踏まえると、検察官の起訴処分によって刑事裁判にかけられることが確定した段階で「有罪・前科」がほぼ確定します。そのため、「有罪・前科」の回避を目指すなら何としても不起訴処分を獲得しなければいけません。
贈賄行為に及んだ被疑者の中には、「公務員に賄賂を贈った以上、刑事裁判は避けて通れないのではないか」とお考えの方も少なくないでしょう。
しかし、不起訴処分は以下3種類に分類されるので、実際に贈賄事件を起こしたことに間違いはなくても不起訴処分を獲得することは可能です。
- 嫌疑なし:贈賄事件を起こしていない誤認逮捕、冤罪のケース
- 嫌疑不十分:贈賄事件を立証する証拠が不足しているケース
- 起訴猶予:贈賄事件を立証する証拠は揃っているが、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要はないケース
起訴猶予処分を下すかどうかを決定するときには、「犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況」などの諸般の事情が総合的に考慮されます(刑事訴訟法第248条)。
刑事事件に強い弁護士は、警察段階及び検察段階の事情聴取での供述方針を工夫したり、不起訴処分獲得に役立つ情状証拠などを収集してくれたりするでしょう。
保釈請求
贈賄罪の容疑で逮捕・起訴された場合、すみやかに保釈請求をする必要があります。
なぜなら、起訴後勾留が認められると、最低でも2カ月(以後1カ月ごとに延長)身柄拘束期間が継続するからです(刑事訴訟法第60条第2項)。
起訴された後も勾留措置が継続するのは、住居不定の場合や逃亡・証拠隠滅のおそれがある場合に限られます(同法第60条第1項)。
以下の保釈請求手続きから適切なものを選択してもらったうえで、起訴後すみやかな身柄釈放を目指しましょう。
- 権利保釈(保釈除外事由に該当しない限り認められる保釈)
- 裁量保釈(裁判官の裁量によって認められる保釈)
- 義務的保釈(身柄拘束期間が不当に長期化している場合に認められる保釈)
略式手続き
贈賄罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または250万円以下の罰金刑」と定められています。そのため、贈賄事件の状況次第では「略式手続き」による早期の刑事手続き終結を期待できます。
略式手続き(略式起訴・略式命令・略式裁判)とは、「簡易裁判所の管轄に属する刑事事件について100万円以下の罰金刑が想定される場合に、被疑者側の同意がある場合に限って、公開の刑事裁判を省略して簡易・簡便な形で罰金刑を確定させる裁判手続き」のことです(刑事訴訟法第461条)。
略式手続きに同意をすれば、公開の刑事裁判手続きに対応する負担を節約し、社会復帰を目指すタイミングを前倒しできます。
例えば、公訴提起判断の段階で検察官が100万円以下の罰金刑を求刑することが確定しているような状況なら、略式手続きに同意をして罰金刑を落としどころにすることも有効な選択肢のひとつでしょう(刑事裁判にかけられた以上、有罪判決を避けるのは難しいからです)。
ただし、略式手続きに同意をすると、公開の刑事裁判で反論する機会を放棄する必要がある点に注意が必要です。贈賄行為自体を否認したり無罪を主張したいケースでは、略式手続きを選択してはいけません。
刑事裁判経験豊富な弁護士のアドバイスを参考に、略式手続きに同意をするべきか刑事裁判で戦い続けるべきかを判断してもらいましょう。
執行猶予付き判決
贈賄罪の容疑で逮捕・起訴されたときには「執行猶予付き判決を獲得できるか」が焦点になります。
というのも、実刑判決が確定すると刑期を満了するまで服役を強いられるので、社会生活への復帰が困難になるからです。
執行猶予とは、「被告人の犯情や事件の諸般の事情を考慮して刑の執行を一定期間猶予できる制度」のことです。執行猶予期間中は今まで通りの日常生活を送ることができますし、何のトラブルもなく執行猶予期間が経過すれば実刑判決の執行リスクもゼロになります。
執行猶予付き判決の要件は、「3年以下の懲役刑・禁錮刑・50万円以下の罰金刑の言渡しを受けたとき」です(刑法第25条第1項)。贈賄罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または250万円以下の罰金刑」なので、常に執行猶予付き判決の対象になるかのように思えます。
しかし、判決に執行猶予が付されるかは個別事案の状況によって異なります。例えば、長期間にわたって高額の賄賂を贈り続けていたにもかかわらず被告人に一切反省の態度が見受けられないような状況では、初犯でも実刑判決が下される可能性が否定できません。
したがって、贈賄罪の容疑で逮捕・起訴されたときには、執行猶予付き判決獲得に向けた防御活動が不可欠だと考えられます。刑事裁判経験豊富な弁護士は、法廷での陳述内容の決定や情状証拠収集などのポイントを押さえた防御活動を展開してくれるでしょう。
接見機会を活用して身柄拘束中の被疑者にさまざまなメリットをもたらしてくれる
逮捕・勾留段階の被疑者には接見禁止処分が下されることが多く、家族や親族、知人、会社の上司などとの面会は一切許されません。
ただし、被疑者には接見交通権が保障されているので、弁護士とはいつでも立会人なしで面会し、書類や物の受け渡しをすることができます(刑事訴訟法第39条第1項)。
弁護士は接見機会をフル活用して、被疑者に以下のようなメリットをもたらしてくれるでしょう。
- 事情聴取に向けてブレのない供述方針を明確化してくれる
- 今後の刑事手続きの流れを判断して被疑者の不安感を払拭してくれる
- 被疑者ノートを差し入れて違法捜査を予防してくれる
- 家族や会社への連絡を代理してくれる
【注意!】贈賄罪で逮捕されたときは私選弁護人がおすすめ
逮捕された被疑者が利用できる弁護士は、当番弁護士と私選弁護人に分類されます。
当番弁護士制度は、逮捕後身柄拘束中の被疑者が誰でも初回無料で弁護士と接見機会をもつことができる制度のことです。弁護士費用の不安を抱えることなく被疑者が抱える不安を相談できるのがメリットです。
ただし、当番弁護士制度を利用しても、贈収賄事件の弁護経験がある弁護士がやってくるとは限りません。また、弁護士の年齢・性別・キャリア・相性などを選別できないのも難点として挙げられます。
したがって、贈賄罪の容疑で逮捕された後、罪状に応じた適切な防御活動を期待するのなら、被疑者自身の責任で選任する私選弁護人の力を借りるのが適切だと考えられます。当番弁護士よりも高い費用負担は避けられませんが、軽い刑事処分によって社会復帰しやすい環境を整えてくれるでしょう。
【注意!】贈賄罪は示談交渉の余地がない
殺人罪や窃盗罪、強盗罪などの“被害者がいる犯罪類型”では、示談が重要かつ効果的な防御活動になります。
しかし、贈賄罪や薬物犯罪などの“被害者がいない犯罪類型”については、被害者との間で示談交渉する余地は存在しません。そのため、示談によって軽い刑事処分を獲得するのは不可能です。
だからこそ、贈賄事件のような被害者のいないタイプの容疑で立件されたときには、刑事事件の経験豊富な弁護士のサポートが不可欠だと考えられます。警察から連絡がくる前に当サイト掲載中の法律事務所までお問い合わせください。
贈賄罪で逮捕されたときには早期に弁護士へ相談しよう
贈賄罪は公務を歪める悪質な犯罪です。また、賄賂を受け取った側が立件されたり組織的に贈賄行為がおこなわれることも多いため、刑事手続きが複雑化する傾向にあります。
そのため、少しでも身柄拘束期間を短縮化して軽い刑事処分を獲得するには、刑事手続きの初期段階から弁護士のノウハウを頼るべきでしょう。
当サイトでは、贈収賄事件の経験豊富な弁護士を多数掲載しているので、できるだけ早いタイミングでお問い合わせください。