テレビやニュースを見聞きしていると「書類送検」という言葉を見たり聞いたりした経験がある人もいるでしょう。「書類送検=悪いこと」といった認識はあるものの、前科とは何が違うのか、はたまた書類送検=前科なのか?といった疑問を抱えている人も多いのではないでしょうか。
今回は、書類送検とは何か前科は付いてしまうのか?について解説するとともに、逮捕との違いや書類送検のリスクなどについても詳しく紹介します。
書類送検とは
書類送検とは、実際に存在している法律用語ではありません。実は、報道等で一般の人にもわかるように作られた言葉です。そのため、「書類送検」といった法律用語は存在せず、書類送検されたからどうなる、といったこともありません。
まずは、書類送検とは何かどういった意味を指すのかについて詳しく解説します。
「書類送検」は報道で使用される用語
ニュース等を見ていると「書類送検されました」といった言葉をよく見聞きする機会があります。実は、「書類送検」という言葉は法律的な言葉ではなく、報道で民衆向けに作られた言葉なのです。
そのため、書類送検をされたからといって法律的に何らかの影響が発生することはありません。もちろん、書類送検されたからといって、前科がつくこともありません。
書類送検とは身柄拘束されていない被疑者の事件を検察へ送致すること
報道等で使用される「書類送検」とは、法律的に見ると「身柄拘束をされていない被疑者の事件を検察へ送致すること」です。
まず、犯罪が発覚すると逮捕をして取り調べを行う場合と、逮捕をせずに取り調べを行う場合があります。前者の場合は、逮捕後に身柄を拘束して48時間以内に検察官へ事件を送致します。
上記の場合は「身柄拘束されている被疑者を検察官へ送致すること」であるため、一般的には書類送検とは言いません。一方で、犯罪が発覚してから逮捕(身柄拘束をせずに)に取り調べ等を行い、最終的に検察官へ事件を送致することを「書類送検」と言います。
つまり、逮捕と書類送検の違いは「身柄の拘束が行われているかどうか」です。逮捕後も書類送検もいずれも「検察官への事件送致」が行われるものの、身柄を拘束されているかどうかといった違いがあります。
また、検察官への事件送致が行われなかった場合は、書類送検されていることにはなりません。たとえば、微罪処分で終了した場合などが該当します。
書類送検の事実だけで「前科」が付くことはない
書類送検とは、「身柄拘束をされていない人が検察官へ送致されること」を指すということでした。検察官へ事件を送致されただけで前科が付くわけではありません。
書類送検までの流れは、事件発覚→捜査・被疑者取り調べ→検察官への送致(この時点)です。警察官は事件を捜査して取りまとめて検察官へ渡すまでが主な仕事です。
一方の検察官は、警察官から送致されてきた事件を刑事罰にかけるかどうか、刑罰はどの程度が妥当かどうかを判断します。
また、書類送検された時点ではまだ「被疑者」と呼びます。被疑者は、犯罪を犯している可能性がある状態であり確信を得ている状況ではないため、前科が付いてしまうことはありません。
一方、検察官が犯罪を犯した確固たる証拠がある場合は、被疑者を起訴します。この場合は、呼び名が「被告人」となり、有罪判決確定後に前科が付きます。
前科が付くのは起訴されたとき
前科が付くタイミングは書類送検のときではなく、起訴されて有罪判決が確定したときです。有罪確定までの大まかな流れは、以下の通りです。
- 犯罪行為の発覚
- 逮捕
- 事件送致
- 勾留請求の有無を判断
- 起訴・不起訴の判断
- 刑事裁判
- 判決・判決の確定
逮捕された場合は上記の流れで起訴・不起訴が判断されます。
起訴とは、検察官等が裁判所へ裁判の開廷を提起することを指します。つまり、犯罪を行っているという確固たる証拠があるため、刑事事件にかけるために裁判を提起することを「起訴する」と言い、その後に有罪判決が下された場合に前科が付くのです。
また、検察官の判断で裁判所への裁判開廷提起(起訴)をせずに、略式起訴で済ませる場合があります。この場合も、前科が付くため注意が必要です。
ちなみに、略式起訴とは裁判を提起せずに事件を終結させることを言います。事件に対する意義を唱えることができないというデメリットはありますが、早期に事件を終結させられる点がメリットです。
書類送検後に起訴されて前科が付くこともある
書類送検される事件は身柄の拘束が行われていないため、比較的軽微な犯罪であるケースが多いです。そのため、中には「起訴されたり前科が付いたりすることなく、事件が終結するのではないか」と考えている人がいるかもしれません。
しかし、書類送検されたあとに起訴されて有罪判決を受けて、前科が付くケースはあります。十分に注意してください。
書類送検前後に起こり得ること
書類送検は身柄を拘束せずに事件を送致することである、ということは何度もお伝えしている通りです。では、実際に事件が発生してからどういった流れで書類送検が行われるのか、また、書類送検後にどのようなことが起こり得るのかについて解説します。
1.犯罪が発覚
初めに、犯罪行為が発覚します。犯罪行為の事実がなければ、当然ながら前科や書類送検といった概念は発生しません。そして、犯罪が発覚した時点で捜査機関が捜査を開始します。
捜査の結果、被疑者を特定して逮捕状等を請求しますが、逮捕をせずに捜査や取り調べを行うケースもあります。
逮捕は、身柄拘束が伴う法的手続きである一方、逮捕をせずに捜査や取り調べを行うことを「在宅捜査」と言います。そして、先ほども解説した通り、書類送検は「身柄拘束が伴わない」ため、基本的には在宅捜査であると考えて良いでしょう。
2.警察からの出頭要請・取り調べ
とある事件の被疑者になったあなたは、警察から出頭要請を行います。出頭要請は、電話やハガキ等で行われることが多く、あくまでも「任意」で行われます。
逮捕されているわけではないため、行くも行かないも自由であり、身柄の拘束もありません。ただ、犯罪の被疑者となっていることに変わりはなく、出頭要請を「任意だから」といって行かずにいると逮捕されて身柄を拘束されてしまう可能性があるため注意してください。
警察が逮捕状を請求せずに在宅捜査として事件を進めていく理由は、身柄拘束は社会的な影響を大きいためです。逮捕をして身柄を拘束されてしまうと、最大23日間もの間拘束され続けます。
身柄拘束されている期間は、当然、社会生活に戻ることができず、さまざまな影響が発生するでしょう。
そのため、一定の条件を満たしている人については逮捕をせずに、在宅捜査で社会生活を送りながら捜査に協力してもらおうと考えます。在宅捜査になるためには、大前提として「逃亡の恐れがないこと」です。
そして、他にも以下のような条件があります。
- 比較的軽微な犯罪であること
- 証拠隠滅の可能性がないこと
- 身柄を拘束する必要がないこと
たとえば、連続殺人のような重罪を犯した人は、身柄を拘束せずに在宅捜査をするわけにはいきません。なぜなら、逃亡や証拠隠滅の可能性が高く、さらに被害者が増える可能性もあるためです。
そのため、軽微な犯罪であることや逃亡の恐れがないことなどを条件を満たしている人に限っては、在宅捜査になり得るということです。
3.書類送検
ある程度の捜査が終了すると、検察官へ事件を送致しなければいけません。この送致を「書類送検」と言います。この時点ではまだ前科は付いていません。
4.検察からの出頭要請・取り調べ
事件が送致された時点で、検察から出頭要請があります。出頭要請は、警察と同じです。あくまでも任意であるため出頭する義務はありません。
しかし、出頭せずにいると逮捕されて身柄を拘束され、強制的に取り調べを受けることになるため注意が必要です。
5.起訴・不起訴の判断
検察官は、警察から受け取った事件の内容や自分たちで捜査した内容を精査した上で、起訴するか不起訴とするかを判断します。当然ながら、不起訴となった場合は前科が付きません。
仮に、犯罪を行った事実があったとしても、不起訴処分となった場合は前科は付かないため安心してください。
そして、起訴された場合は99.9%の確率で有罪判決が下されるため、この時点でほぼ確実に前科が付くことが確定します。ただ、刑事裁判にて無罪となった場合は、前科は付きません。
6.起訴された場合は刑事裁判を受ける
起訴された場合は、そのまま刑事裁判を受けることになります。刑事裁判では、有罪か無罪かを判断し、有罪の場合はどの程度の量刑にするかを決定します。
たとえ軽微な刑罰であったとしても、有罪判決が下された時点で前科は付いてしまうため注意してください。
7.刑罰に従って刑に服する
刑事裁判を受けて判決が下されると、その刑罰に従って刑に服することとなります。科料や拘留といったとても軽い刑罰であったとしても、前科であることに変わりはありません。社会生活にも少なからず影響を与えるため十分に注意してください。
科料とは1,000円以上1万円未満の金銭支払いを命じる刑罰です。罰金刑と似ていますが、罰金刑は1万円以上の金銭支払いを命じる刑罰であり、金額に違いがあります。
拘留とは、1日以上30日未満の期間を刑事施設へ収容する刑罰です。「勾留」と読み方は同じですが、法律上はまったく異なる点に注意が必要です。
逮捕と書類送検の違いとは
逮捕とは一般的に「身柄拘束が伴う法的行為」です。一方、書類送検は法律用語等ではなく、報道等で使用される用語であるということでした。
次に、逮捕と書類送検はそもそもどういった違いがあるのかについて、詳しく紹介します。
捜査機関が被疑者の身柄拘束を行うのが「逮捕」
逮捕とは、捜査機関が被疑者の身柄を拘束するために行う法的手続きです。逮捕後は勾留期間や送致までの時間など細かく定められているのが特徴です。なお、逮捕には以下3つの種類があります。
- 通常逮捕
- 現行犯逮捕
- 緊急逮捕
通常逮捕はもっとも一般的な逮捕です。警察等が逮捕状を請求して逮捕を行います。現行犯逮捕とは、現行犯の場合に限って逮捕できることを言い、逮捕状の必要はありません。
緊急逮捕は、指名手配犯を発見したときなど緊急を要する場合に行える逮捕であり、逮捕後に遅滞なく逮捕状の請求を行う必要があります。
上記の通り逮捕には3つの種類がありますが、いずれの場合も「逮捕」であることに変わりはありません。逮捕は被疑者の身柄を拘束し、48時間以内に検察官へ事件を送致(書類送検と同じこと)する必要があり、その後24時間以内に勾留請求の有無を判断…のようにさまざまな時間的制約があります。
捜査機関が身柄拘束を行わずに送検することを「書類送検」
逮捕と書類送検の大きな違いは、「捜査機関が身柄拘束を行うかどうか」です。書類送検とは、身柄の拘束(逮捕)をすることなく検察官へ事件を送致します。
逮捕はされないため、被疑者にとってみると日常生活を送ることができるため、メリットが大きいです。捜査機関としても、時間的な制約がないためじっくりと捜査をできる点がメリットです。
一方で、「逃げようと思えば逃げれる」という状況であるため、在宅捜査(書類送検)となるケースは軽微な犯罪等に限られます。
また、有名人が逮捕された際に「書類送検」と聞く機会が多いのは、有名人であり逃亡の可能性が一般人と比べて低いためです。
何らかの犯罪を犯した事実が発覚した時点で社会的な制裁も大きく受けており、真摯に向き合う人が多いため、犯罪の内容次第では逮捕せずに書類送検をするケースが多いです。
逮捕と書類送検の区別とは
犯罪を犯した場合、逮捕するか在宅捜査にて書類送検をするかはさまざまな事情を考慮して判断されます。その判断材料となる内容は、主に以下の通りです。
- 犯罪の種類
- 被疑者の状況
- 否認事件か否か
それぞれどういった場合に逮捕されるのか、書類送検(在宅捜査)となるのかについて詳しく解説します。
なお、逮捕と書類送検(在宅捜査)の区別は、明確に区別されているわけではありません。さまざまな事情を考慮した上で決定される点に注意してください。
犯罪の種類による
逮捕されるか否かは、犯罪の種類によって大きく変わります。たとえば、大規模な詐欺グループを摘発するような場合は、逮捕をして身柄を拘束したほうが良いでしょう。なぜなら、証拠隠滅や口裏合わせ、逃亡の可能性がとても高いためです。
一方で、万引き犯のように比較的軽微な犯罪であり、法定刑も科料や罰金程度の場合は、あえて身柄を拘束する必要はありません。
なぜなら、逮捕をしてしまうとその人の自由を奪うことになるためです。働いている人であれば会社へ行くことができず、最悪の場合は解雇処分になってしまうかもしれません。比較的軽微な犯罪を犯してしまったことによる社会的制裁としてはとても大きいです。
そのため、犯罪の形態や種類によって、逮捕するか否かを判断する必要があるのです。
被疑者の状況による
次に、被疑者の状況によっても判断が分かれます。たとえば、万引きを犯した人であっても、これまでに何度も万引きを繰り返しており、悪質性が高い場合は逮捕をしたほうが良いという判断になることもあります。
また、定まった住所がない人や連絡先を持たない人などの場合は、逃亡の可能性は低くても連絡をとったり出頭要請をしたりすることが難しいです。この場合は、身柄を拘束して捜査を行ったほうが良い、という判断になるのも当然です。
一方で、これまで会社員として普通に生活をしていた人が、何らかの犯罪を犯してしまったとしましょう。この場合は、これまでの社会生活を鑑みても、身柄を拘束する必要はないと判断されやすいです。
なぜなら、ある程度社会的地位があるため、日常生活をこれからも送る可能性が高く、逃亡の恐れが低いためです。そのため、被疑者のさまざまな事情も考慮した上で、身柄を拘束する必要があるかどうかを判断します。
否認事件は逮捕の可能性が高い
さまざまな事件の中でも否認されている事件の場合は、逮捕されてしまう可能性が高いです。なぜなら、否認事件は実際に犯罪を行っていたとしてもやっていないということが前提になるからです。
簡単に言えば「嘘をついている状態」であり、今後、証拠隠滅や逃亡の可能性がとても高いと判断されやすくなります。結果的に、逮捕をする必要があると判断されてしまい、実際に逮捕されてしまうことになるかもしれません。
とはいえ、本当に犯罪を犯していないのであれば、正直に「やっていない」と伝えることは正しいことです。ただ、捜査機関としては、被疑者であると特定して捜査を行っているため、あなたに対して「嘘をついている」と考え、そういった前提で動くのは仕方のないことです。
書類送検に関するよくある質問
書類送検に関するよくある質問を紹介します。
Q.書類送検の場合は刑罰が軽くなりますか?
A.書類送検であることを理由に刑罰が軽くなることはありません。
何度も解説している通り、「書類送検」という法律用語は存在しません。あくまでも、身柄の拘束を行わずに送致することを書類送検と言います。
警察等の捜査機関や裁判所は、事件の性質や被疑者の態様などさまざまな事情を考慮した上で、逮捕する必要があるかどうかを判断します。そのため、「書類送検だったから罪が軽くなる」や「逮捕されたから罪が重くなる」といったことはありません。
当然ながら、逮捕されても不起訴となったり無罪、あるいは罰金刑で住んだりするケースがあります。一方で、在宅捜査で書類送検された後に実刑判決が下されるケースもあります。このように、一概に「〇〇だから大丈夫」といったことはありません。
ただし、書類送検の対象となる事件は、比較的軽微な犯罪が多いです。このことを考慮すると、罪の重さは比較的軽い(刑罰が軽い)というのも間違いではありません。
ただ、たとえば窃盗の罪で「逮捕された場合は確実に実刑判決だけど、在宅捜査の場合は罰金刑で済む」といったことはないため、注意してください。
Q.逮捕を回避するためにはどうすれば良いですか?
A.逮捕を回避するためには、できるだけ早めに弁護士へ相談をすることです。
逮捕されるような事件を起こしてしまった場合、すぐにでも弁護士へ相談をしたほうが良いでしょう。弁護士に相談をして早期に動いてもらうことで、逮捕の必要性がないことを説明したり交渉したりしてくれます。
また、被害者がいる事件の場合は被害者との示談交渉を進めることによって、早期の釈放を目指します。
万が一、現行犯で逮捕されてしまった場合であっても、早期に弁護士へ相談をすることですぐに釈放を目指せる可能性が高くなります。とにかく、早め早めに動くことがとても大切です。
Q.書類送検後に逮捕される可能性はありますか?
A.書類送検の結果、逮捕の必要性があると判断された場合は逮捕されることがあります。
書類送検は身柄の拘束を受けていない人の事件を検察官へ送致することを言います。検察官が事件の詳細を確認した上で、身柄の拘束を行う必要があると判断した場合は、逮捕状を請求して逮捕を行うことがあります。
意外と知られていないですが、実は警察官ではない検察官であっても逮捕状を請求して逮捕を行うことができるのです。
なお、検察官が逮捕をした場合は、以下の流れでことが進んでいきます。
1.逮捕
2.48時間以内に勾留請求の有無を判断
3.最大20日以内(原則10日の勾留後に10日間の延長可能)に起訴・不起訴を判断
警察官の逮捕の場合は、逮捕から48時間以内に検察官へ事件を送致し、さらに24時間以内に勾留請求の有無を判断する必要があります。しかし、検察官が逮捕した場合は、事件の送致(書類送検)が完了しているため、その分の時間が短縮されます。
まとめ
今回は、書類送検で前科がつくのか?について解説しました。
書類送検は「身柄の拘束を行うことなく、事件を送致すること」であり、この時点ではまだ前科は付きません。前科が付くタイミングは、書類送検後に起訴されて有罪判決が下された場合です。
前科が付いてしまうと社会生活にもある程度の影響を及ぼす可能性があります。そのため、できることであれば前科は付いてほしくない、と考えるのは当然でしょう。
前科を付けないためには、有罪判決が下されないように動くことがとても大切です。書類送検されてしまったあとでもまだ間に合うため、すぐにでも弁護士へ相談をしましょう。