未成年者誘拐罪とは?詳しい成立要件やケース別の成立有無を解説

未成年者誘拐罪とは?詳しい成立要件やケース別の成立有無を解説
未成年者誘拐罪とは?詳しい成立要件やケース別の成立有無を解説

未成年者を誘拐したり略取したりした場合は、未成年者略取・誘拐罪に問われてしまう可能性があります。たとえ自分の子どもであっても、成立要件を満たしている場合は、犯罪となってしまうため注意しなければいけません。

この記事では、未成年者誘拐罪の成立要件やさまざまな事例を元に、犯罪が成立するのか否かについて解説しています。未成年者誘拐罪について疑問や不安を抱えている人は、ぜひ参考にしてください。

未成年者誘拐罪とは

未成年者誘拐罪とは、未成年者を誘拐した場合に成立する犯罪です。また、未成年者誘拐罪は刑法にて「未成年者略取及び誘拐」と明記されており、この名の通り略取についても罰せられる犯罪です。

まずは、未成年者誘拐罪や未成年者略取がどういった犯罪になるのかについて解説します。

未成年者を誘拐すると成立する犯罪

未成年者誘拐罪は、未成年者を誘拐した場合に成立する犯罪です。未成年者とは18歳未満の物を指し、誘拐とは「欺罔・誘惑を手段として生活環境から不当に離脱させて、自分や第三者の実行的支配下におくこと」です。

たとえば、よくある例として離婚して母親方に付いた未成年の子ども(実子)を騙したり誘惑をしたりして、自分の支配下に置いた場合に未成年者誘拐罪が成立します。たとえ自分の実子であったとしても、親権がないにも関わらず連れ去った場合は、誘拐罪になり得ます。

「未成年者略取罪」という犯罪もある

未成年者誘拐罪の正式な罪状は「未成年者略取及び誘拐」です。つまり、未成年者を誘拐した場合のみならず、略取した場合も罪に問われる可能性があります。

略取とは「暴行や脅迫を用いて生活環境から不当に離脱させて、自分や第三者の実行的支配下におくこと」を指します。誘拐は「欺罔や誘拐」を前提としているのに対し、略取は「暴行や脅迫」を用いている場合に成立するということです。

たとえば、離婚して母親方に付いた未成年の自分の子どもを無理やり連れ去った場合や脅迫をして連れ去った場合などは、未成年者略取となります。

未成年者誘拐罪以外に抵触する可能性がある犯罪行為

未成年者誘拐罪は未成年者を誘拐したり略取したりした場合に成立する犯罪行為です。

純粋に未成年者を誘拐した場合は「未成年者略取及び誘拐」の成立で済みますが、何らかの目的を持っている場合はその他の法律が適用される可能性があるため注意が必要です。ちなみに、未成年者略取及び誘拐の法定刑は3カ月以上7年以下の懲役です。

何らかの目的を持って誘拐や略取をした場合は、その他の法律によって裁かれることとなり、より重い罪に問われる可能性があります。

身代金目的誘拐罪

身代金目的で人を誘拐した場合は、「身代金目的誘拐罪」が適用されます。この犯罪は、被害者が未成年かどうかは問われません。成立要件は以下の通りです。

  • 誘拐・略取していること
  • 誘拐された者の安否を心配する近親者に対して、その不安に乗じて財物等を交付させた者もしくは交付を要求した場合

つまり、相手が誰であれ身代金目的で人を誘拐したり略取したりした場合であって、金銭を交付させたりさせようとした場合に成立します。身代金目的誘拐罪は無期または3年以上の懲役となります。とても重い罪に問われる可能性があるため、注意してください。

なお、身代金目的誘拐罪は、その準備をした時点で犯罪行為としてみなされて処罰対象になり得ます。

(身の代金目的略取等予備)
第二百二十八条の三 第二百二十五条の二第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

引用元:刑法|第228条の3

身代金目的の誘拐等を行おうとする準備をした場合は、2年以下の懲役に処されます。ただ、実行する前に自首した場合は減刑されたり免除されたりするということです。仮に実行した場合は、3年以上または無期懲役でありとても重い罪に問われます。

営利目的等誘拐罪

営利目的等で誘拐を行った場合は、「営利目的等誘拐罪」という法律によって処罰されます。法定刑は1年以上10年以下の懲役となります。

「営利目的等」とは、その名の通り営利目的で誘拐を行った場合に成立する犯罪です。たとえば、わいせつなことを行わせる目的で誘拐をした場合などに成立します。この犯罪は「営利目的」があるだけで成立要件を満たします。

つまり、目的を持って誘拐し、実際にその目的を果たした場合はその他の法律にも抵触することになります。たとえば、人身売買を目的として誘拐した場合は、営利目的等誘拐罪が適用されます。さらに、人身売買罪にも問われることになります。

なお、営利目的等には「営利、わいせつ、結婚、身体に対して加害を加える目的」などが含まれているため注意してください。

所在国外移送目的拐取罪

所在国外移送を目的とした誘拐は、「所在国外移送目的誘拐罪」の成立要件を満たすことになります。所在国外移送目的誘拐罪とは、たとえば日本に所在している人であれば日本以外の国に移送することを目的に誘拐した場合に成立します。

この犯罪の法定刑は2年位以上の有期刑です。つまり、必ず実刑判決が下されることになるため注意してください。

人身売買罪

誘拐した人を人身売買した場合は、売った人も買った人も罰せられます。法定刑は人身売買の対象となった人の年齢や目的によって異なります。

(人身売買)
第二百二十六条の二 人を買い受けた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。
5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期懲役に処する。

引用元:刑法|第226条の2

内容や法定刑については上記の通りです。

未成年者誘拐罪の成立要件

未成年者誘拐罪の成立要件は以下の通りです。

  • 対象が未成年であること
  • 欺罔・誘惑を用いて生活環境から離脱させていること
  • 故意があること
  • 刑事告訴があること

次に、未成年者誘拐罪の成立要件について詳しく解説します。

対象が未成年であること

未成年者誘拐罪はその名の通り、対象は18歳未満の未成年であることが前提です。18歳以上の人を誘拐した場合は、単純な誘拐罪が成立しません。

身代金を要求したり営利目的であったりなど、何らかの目的を持って誘拐した場合に限って、その他の犯罪が成立します。また、誘拐罪ではなく逮捕監禁罪等に問われる可能性もあるでしょう。

未成年者誘拐罪は、あくまでも「対象が未成年である場合」であると覚えておくと良いです。

欺罔・誘惑を用いて生活環境から離脱させること

欺罔や誘惑を用いて、生活環境から離脱させていることも条件です。欺罔とは、騙すことを指します。誘惑とは、心を迷わせて誘い込むことを意味します。

たとえば、「私に付いてきたらお金をあげるよ」と誘惑をしたり、「あなたのお母さんが事故に遭って病院に運ばれたから付いてきて!」と騙したりする行為が該当します。また、暴行や脅迫を用いて誘拐した場合も未成年者略取が成立するため注意してください。

故意があること

未成年者誘拐罪が成立するためには、「故意があること」が前提となります。故意とは、「未成年者を誘拐しよう」と考える意思のことです。

たとえば、未成年者を連れて遊んでいた人が未成年者誘拐罪に問われたとしましょう。このとき、犯罪が成立するためには18歳未満であることを知っていることが前提となります。

つまり、対象者が「私は18歳です」と伝えていた場合であって、本人もそれを信じて出かけていた場合は、故意がないため未成年者誘拐罪は成立しません。しかし、「私は18歳です」と言っていても、明らかに18歳未満の未成年者であることがわかる場合は、故意があるとみなされてしまうこともあるため注意が必要です。

また、未成年者誘拐罪は「誘拐をしよう」とする意思は問われません。そのため、18歳未満の未成年者を連れて歩いていた場合は、その時点で未成年者誘拐罪が成立する可能性があるため注意しなければいけません。

未成年者誘拐罪は親告罪であるため本人・親の刑事告訴がなければ処罰されない

未成年者誘拐罪は、親告罪であるため本人もしくは親からの刑事告訴がなければ処罰されることはありません。つまり、親や本人からの親告が遭って初めて処罰対象となり得る犯罪であることを覚えておいてください。

【状況別】この場合は未成年者誘拐罪に該当する?

未成年者誘拐罪は、未成年者を誘拐した場合に成立する犯罪です。では、実際にどういった行為が「誘拐」とみなされてしまうのでしょうか。

次に、さまざまな状況を仮定した上で未成年者誘拐罪が成立するのか否かについて、詳しく解説します。

ケース1.未成年の家出少年・少女に頼まれて自宅に泊めた場合

未成年の家で少年や少女に頼まれて自宅へ連れ込んで泊めた場合は、未成年者誘拐罪が成立します。

今回のケースでポイントとなるのは、大きく2つです。1つ目は、あなた自身が相手が未成年であることを認識しているという点です。この場合は、当然ながら未成年者誘拐の故意があったとみなされます。

2つ目は、本人に同意があったかどうかです。今回のケースでは、「少年や少女に頼まれている」ことが前提となります。あなた自身は善意で自宅へ宿泊させたかもしれませんが、未成年の場合は「親の同意」が必要です。

今回のケースでは家でしていることから、親の同意はなかったと推察できます。よって、未成年者誘拐罪が成立する可能性が高いです。

ケース2.未成年とは知らずに自宅へ泊めた場合

未成年とは知らずに自宅へ止めた場合は、未成年者誘拐罪は成立しません。なぜなら、未成年者誘拐罪が成立するためには「故意があること」が前提となるためです。今回のケースでは、「未成年とは知らずに自宅へ泊めている」ため、故意はないものとしてみなされます。

ただし、未成年であることが明らかな場合は、たとえ「知らなかった」といっても通用しません。たとえば、中学校や高校の制服を着ているような場合は、誰が見ても学生であることが明らかです。この場合は「知らなかった」は通用せず、未成年者誘拐罪が成立するため注意が必要です。

ケース3.自分の子どもを連れ去った場合

自分の子どもであっても勝手に連れ去った場合は、未成年者略取に該当するため注意しなければいけません。

たとえば、離婚して母親方についた子どもを連れ去るような事件は、度々発生しています。父親としては、純粋に「自分の子どもだから…」と思うかもしれませんが、普段生活している環境から無理に離脱させてしまう行為は立派な犯罪です。十分に注意しましょう。

ケース4.家庭内で暴行を受けていた甥っ子・姪っ子・孫を守るために連れ去った場合

家庭内で暴行を受けていた子どもたちを守る目的で連れ去った場合であっても、状況次第では未成年者誘拐に該当する可能性があります。

本ケースはとても難しく、一概に判断をするのが難しいです。なぜなら、未成年者誘拐罪は、あくまでも「欺罔・誘惑を用いていること」が前提となるためです。そのため、成立要件を満たさないという見方もできます。

しかし、その状況次第では未成年者誘拐罪に該当する可能性も否定できないため、十分に注意しなければいけません。

もし、家庭内暴力を受けているような場合は、自ら保護をするのではなく警察や児童相談所といった機関へ相談をしたほうが間違い無いでしょう。

ケース5.未成年者本人の同意があったため、連れ去った場合

未成年者本人の同意があった場合であっても、未成年者であることを知りながら連れ去った場合は、未成年者誘拐罪になり得ます。

未成年者誘拐罪は本人の同意有無は関係ありません。仮に同意を得ていたとしても、欺罔や誘惑があって結果的に誘拐をしている場合は、立派な犯罪としてみなされてしまうため注意してください。

未成年者誘拐罪に関するよくある質問

未成年者誘拐罪に関するよくある質問を紹介します。

Q.被害者を解放した場合は罪が軽減されますか?

A.被害者を安全な場所に開放した場合は、減刑されます。

実は、法律によって被害者を開放した場合は罪が減刑されると明記されています。具体的には、「公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する」と書かれています。

控訴の提起とは、検察官が刑事裁判にかけるための手続きを指します。つまり、起訴される前に安全な場所に開放したときは、その刑が軽くなるということです。

Q.本人に懇願されて保護しただけでも罪に問われますか?

A.未成年者略取際の成立要件を満たしている場合は、罪に問われます。

未成年者略取罪は「欺罔・誘惑を用いて…」という成立要件があるため、この要件を満たしている場合は罪に問われます。ただ、その状況や未成年者との関係性等、さまざまな状況を考慮した上で判断されるため、一概には言えません。

Q.どうすれば罪は軽くなりますか?

A.被害者を安全な場所に開放したり、何ら危害を加えることなく開放したりすることです。

罪を軽くするためには、先ほども解説した通り安全な場所への開放が条件です。また、法律的には自首をすることで減刑が認められます。自首とは、犯罪事実や犯人が特定されていない状況で名乗り出ることを言います。

なお、危害を加えることなく安全に開放することも大切です。何らかの危害を加えてしまうと、未成年者誘拐罪以外の犯罪も成立し、厳しく処罰されるため注意してください。

まとめ

今回は、未成年者略取について解説しました。

未成年者略取罪とは、未成年者を対象に誘拐したり略取したりした場合に成立する犯罪です。たとえ自分の子どもであっても、成立要件を満たしている場合は、罪に問われるため注意が必要です。

また、何らかの目的を持って誘拐等を行った場合は、さらに重たい罪に問われる可能性があるため注意しなければいけません。

未成年者誘拐罪について不安や疑問がある人は、本記事で紹介した内容を今一度確認されてみてはいかがでしょうか。誤って自分が犯罪者にならないよう、十分に注意してください。

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