チケットの不正転売は犯罪であり、行った場合は罰金刑や懲役刑が科される可能性があります。また、不正転売を行った者のみならずチケットを購入した者も処罰対象となるため注意しなければいけません。
この記事では、チケットの不正転売で成立し得る犯罪の種類や、犯罪が成立してしまった場合のリスクや逮捕後の流れについて詳しく解説しています。
チケットの不正転売を行おうとしている人、不正転売によってチケットを購入してしまった人は本記事を参考にしてください。
目次
チケット転売で成立し得る犯罪
チケットを転売する行為自体に違法性はありません。しかし、定価よりも高額な金額で転売した場合や、反復継続的に転売を行っている場合等、何らかの条件を満たした場合に犯罪となる可能性があるため注意しなければいけません。
まずは、チケットの転売によって成立し得る犯罪の種類について詳しく解説します。
チケット不正転売防止法違反に問われる可能性
チケットの不正転売に関する法律として、令和元年6月1日に「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」が施行されました。同法では、特定興行入場券(チケット)の不正転売を禁止しています。
不正転売の定義としては「興行主の同意を得ずに反復継続の意思を持って行う有償譲渡であり、興行主の販売価格を超える高額転売」を指します。つまり、以下の要件を満たしているとチケット不正転売防止法違反に問われてしまうでしょう。
- 興行主の同意を得ていない
- 反復継続の意思を持っている
- 興行主の販売価格を超える高額転売
興行主とは、その興行を主催する者です。たとえば、アイドルグループのライブであれば、当該アイドルグループが所属する事務所が興行主になります。
最近では不正転売を防止する目的から、チケットを購入する際に「転売禁止」といった規約が記載されていることがあります。「転売禁止」と書かれているにもかかわらず、転売をした場合は、興行主の同意を得ていないことになるため一つ目の要件は満たしていることになるでしょう。
そして、チケットの転売を反復継続的に行おうと考えている場合も、不正転売の要件を満たしていることになり得ます。たとえば、いわゆる転売ヤーと呼ばれる人たちは、転売を一つの生業にしているでしょう。つまり、反復継続的に行っていると考えられます。
実際は、1回目の転売であっても「反復継続的に行おうとする意思」がある場合は、2つ目の要件を満たしていることになるため注意してください。
そして、最後に「興行主の販売価格を超える販売価格で転売」していることが要件です。たとえば、1万円のチケットを3万円で譲渡するような場合は、3つ目の要件を満たしていることになり、不正転売として認められます。
チケット不正転売防止法違反に問われた場合の法定刑は「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科」です。とても重い罪に問われてしまう可能性があるため注意しましょう。
【注意】
チケット不正転売による罰則は、不正転売を行った者(譲渡した者)のみならず、チケットを購入した者(譲り受けた者)も処罰対象です。
都道府県の定める迷惑防止条例違反
チケットの不正転売は、チケット不正転売防止法違反が施行されるまでは、主に都道府県の条例に定められている「ダフ屋行為」として規制されてきました。ダフ屋行為とは転売目的でチケット等を購入し、実際に転売して利益をあげる行為です。
迷惑防止条例に定められているダフ屋行為は「公共の場所もしくは公共の乗り物」でなければ成立しません。
最近では、インターネットやSNSを介してチケットの不正転売が行われていることから、ダフ屋行為による取り締まりが厳しいのが現実です。そのため、最近では迷惑防止条例違反ではなく、チケット不正転売防止法によって処罰されます。
刑法に定められている詐欺罪
転売目的でチケットを購入する行為が刑法に定められている「詐欺罪の成立要件を満たす」といった判決が下された事例もあるため注意しなければいけません。詐欺罪が成立するためには以下の要件を満たす必要があり、チケットの転売でも成立し得ます。
- 欺罔行為
- 錯誤
- 交付
- 財産移転
初めから高額転売をする目的でチケットを購入した場合、興行主に対する欺罔行為(騙す行為)が成立します。なぜなら「転売は禁止」と書かれているにもかかわらず、あたかも「自分がそのチケットを購入して興行に参加する」と見せかけている(騙している)ためです。
また、興行主は購入者に対して「興行を楽しみたいと考えている客」と認識している時点で錯誤が発生しています。さらに、チケットの交付が発生した時点で、3つ目の要件を満たしていることになります。
最後、高額転売が成立した時点で財産の移転も完了しているため、詐欺罪が成立する可能性があるのです。詐欺罪は、未遂で終わった場合であっても「10年以下の懲役」となる重罪です。くれぐれも注意してください。
古物営業法違反になる可能性もある
チケットを仕入れて転売する場合は、古物商営業許可を得なければいけません。古物商営業許可とは、古物営業を行うために必要となる許可であり、無許可で営業を行えば違反となるため要注意です。
古物営業とは、リサイクルショップのように古物を交換したり売買したり、あるいは売買を仲介するような営業方法が該当します。
チケットの転売であっても、他人から譲り受けたチケットを転売する場合や、知人から買い取ったチケットを転売する場合などは古物営業に該当します。
無許可で古物営業を行っていた場合は「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処されるため注意しましょう。
チケット転売は法に抵触すると逮捕される可能性がある
チケットの不正転売は、さまざまな法律によって規制されています。そのため、何らかの犯罪に抵触した場合は、逮捕されてしまう可能性もあるため注意しなければいけません。次に、チケットの転売で逮捕されてしまう可能性について詳しく解説します。
チケット転売はさまざまな法律によって禁止されている
チケットの転売は、これまで解説した通りさまざまな法律によって禁止もしくは規制されています。そのため、違反した場合は何らかの罰則を受ける可能性があるため注意しなければいけません。
たとえば、チケット不正転売防止法違反に問われた場合は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科です。他にも詐欺罪であれば10年以下の懲役、古物営業法違反であれば3年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
いずれのケースに該当した場合であっても懲役刑もしくは罰金刑となり、とても重い罪が科される可能性が高いため注意しましょう。
犯罪が立証できれば逮捕される可能性はある
チケットの不正転売は立派な犯罪であり、立証されれば逮捕されてしまう可能性があるため注意しなければいけません。
そもそも、逮捕とは犯罪を犯した人の身柄を拘束して取り調べ等を行う手続きです。そのため、逮捕されてしまうとその人はしばらくの間身柄を拘束されてしまうため、会社や学校へ行けない、自宅へ帰ることができないといったことになり得ます。
そのため、警察等は犯罪の事実があったとしても、逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れが少ない場合は、逮捕をせずに在宅事件として取り調べ等を行います。
一方で、証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合は、たとえチケットの不正転売であっても逮捕をして取り調べ等を行う可能性もあるため注意しなければいけません。逮捕をされると長期間にわたって身柄拘束を行われる可能性があり、社会生活にも多大な影響を与えるため、できるだけ逮捕を回避できるように行動することが大切です。
チケット転売で逮捕された場合の流れ
チケットの転売は犯罪行為であるため、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断された場合は、逮捕されて取り調べを受けることになるでしょう。そのため、万が一チケットの不正転売で逮捕されてしまった場合の流れについても把握しておいてください。
1.逮捕もしくは身柄拘束せずに取り調べ
チケットの不正転売が発生して警察が事件を認知した場合、初めに捜査を行い被疑者を特定します。その後、逮捕状を請求して逮捕もしくは、身柄を拘束せずに任意聴取を行う流れとなるのが一般的です。
他にも、不正転売が現行犯で行われた場合は、逮捕状を請求せずにその場で逮捕(現行犯逮捕)することも可能です。ただ、不正転売のケースでは被害が認知されることも少ないため、一般的には通常逮捕もしくは在宅事件としての取り扱いとなるでしょう。
2.事件を検察官へ送致
事件として扱われた案件については、すべて検察官へ送致しなければいけないと定められています。これを「全件送致主義」と言います。
逮捕された場合は、逮捕から48時間以内に検察官へ事件を送致しなければいけません。逮捕されていない場合は、期限に定めがないものの、一般的には2カ月〜3カ月程度で送致されるケースが多いです。
3.勾留の有無を判断
逮捕されている被疑者が送致された場合は、送致から24時間以内に引き続き被疑者の身柄を拘束するかどうかを判断しなければいけません。身柄拘束が必要であると判断した場合は、裁判所に対して勾留請求を行います。
勾留請求が行われた場合は、被疑者も裁判所へ出向き、勾留質問を経て裁判官が必要であると判断した場合に勾留が認められます。勾留が認められると初めに10日間の身柄拘束が行われますが、一般的にはさらに10日間の延長が認められるため、この時点で最長23日間です。
4.起訴・不起訴を判断
勾留請求が認められた被疑者については、検察官が勾留期間中に被疑者を起訴するか不起訴とするかを決定しなければいけません。起訴する場合は、正式起訴もしくは略式起訴の2択となります。
正式起訴とは、通常通り刑事裁判にかけて裁判官や裁判員が有罪か無罪かを判断し、有罪であればどの程度の量刑にするかを決定します。
略式起訴の場合は、刑事裁判を受けることなく略式命令が下される手続きです。刑事裁判を受ける必要がないため、早期に社会生活へ戻ることができる点はメリットですが、検察の言い分をすべて認める必要があり、弁解の余地がない点がデメリットです。
また、略式命令が下されるためには100万円以下の罰金もしくは過料である必要があるため、上記を超える判決の場合は正式起訴されてしまいます。
なお、在宅事件の場合は期間に定めがないものの、書類送検から2カ月程度で起訴・不起訴が判断されるケースが多いです。
5.正式起訴の場合は刑事裁判を行う
正式起訴された場合は刑事裁判を受けます。刑事裁判では、有罪か無罪かを判断し、有罪の場合はどの程度の量刑にするかを決定します。
6.判決に従って刑に服する
刑事裁判を受けて判決が確定した場合、その判決に従って刑に服します。懲役刑や禁固刑であれば刑務所に収容されます。罰金刑であれば、金銭を納付して終了します。
チケット不正転売で逮捕された場合のリスク
チケットの不正転売を行って逮捕されてしまった場合、さまざまなリスクが発生するため注意しなければいけません。
不正転売を行うことによって、一時的には高額なお金を手に入れられるかもしれません。しかし、お金以上に失うものが大きいため、リスクも把握したうえでチケットの不正転売を行うかどうかについてしっかり考え直したほうが良いでしょう。
長期間身柄拘束のリスク
チケットの不正転売で逮捕された場合、最長で23日間の23日間の身柄拘束が発生します。また、起訴されたあとも保釈請求が認められなかったり、保釈金の用意が難しければ、さらに長期間の身柄拘束が発生するでしょう。
さらに、懲役刑が確定した場合は数カ月〜数年程度の間、刑務所へ収容されてしまいます。
勾留中や刑務所収容中は会社や学校へ行けず、自宅へ戻ることもできません。もちろん、外部と連絡を取ることも難しいためさまざまな影響が発生し得ます。
有罪判決確定で前科が付いてしまう
有罪判決が確定すると前科が付いてしまいます。前科とは「過去に有罪判決を受けた」という事実を指します。前科は自分から言わなければ知られることではないものの、就職・転職活動を行う際の履歴書へ記載を求められる場合があり、影響が発生し得ます。
実名報道による影響が発生
チケットの不正転売は、興行主が有名であればあるほど話題性が高く、広く報道番組等で報道されてしまう可能性があります。一度、実名報道されてしまうと今のご時世的に、ネット上に一生涯名前が残り続けてしまいます。
今後の生活にも多大な影響を与える可能性が高いため注意しなければいけません。
今後、チケットの購入が制限される可能性がある
興行主の規制として、過去にチケットの不正転売を行った履歴がある人を対象に、新たな購入を制限する場合があります。いわゆる「ブラックリスト入り」を指し、今後、二度とそのチケットを購入できなくなる可能性もあるため注意しなければいけません。
チケット転売で逮捕される可能性についてよくある質問
チケットの不正転売でよくある質問を紹介します。
Q.ライブに行けなくなったため、知人にチケットを譲渡する場合も違法ですか?
A.不正転売には該当しません。
不正転売は、反復継続的な意思を持って定価よりも高額な価格で販売することを指します。そのため、何らかの事情で行けなくなり、知人に定価もしくは無償で提供した場合は、違法ではありません。
ただし、チケットの譲渡自体を規制している興行主もいるため、違反した場合は何らかのペナルティが科される可能性もあるため注意しましょう。
Q.なぜチケット転売が禁止されているのですか?
A.興行主を守るために禁止されています。
たとえば、定価1万円のチケットを転売ヤーが買い占め、5万円で売り出し、興行主に参加したい人が5万円を出して転売ヤーから購入したとしましょう。転売ヤーは4万円の利益がありますが、興行主には1万円しか入りません。
また、興行に参加する人は定価よりも4万円高く支払っているため、本来であれば、4万円分をグッズ購入費用等に充てることができました。そのため、間接的に興行主の利益取得を妨害しています。よって、興行主を守るために転売行為は禁止されています。
Q.チケットを定価もしくは定価プラス手数料程度で転売するのは違法ですか?
A.不正転売は「高額転売」を禁止しているため、違法にはなりません。
チケットの定価よりも高額な価格で転売した場合は、さまざまな法律によって禁止されています。
ただし、何らかの事情で興行に参加できなくなり、致し方なく譲渡する行為に違法性はありません。また、譲渡するにあたって手数料が発生する場合は、加算したとしても高額転売には該当せず、違法にはなりません。
Q.チケット以外でも「転売」が違法になることはありますか?
A.転売をする形態によっては古物商営業法違反になり得ます。
いわゆるせどりを行う場合は、古物商営業許可を取得しなければいけません。無許可で営業を行っている場合は、法律違反となり処罰対象となるため注意しましょう。
Q.チケット不正転売している人を私人逮捕するのは許されるのですか?
A.私人逮捕の成立要件を満たしている場合は許されます。
私人逮捕の成立要件は以下のとおりです。
- 現行犯もしくは準現行犯であること
その他「軽微な犯罪である場合は…」といった条件はありますが、チケットの不正転売によって成立する犯罪はいずれも、軽微な犯罪には該当しません。
つまり、現行犯もしくは準現行犯でチケットの不正転売を行っていた場合は、私人逮捕を行っても良いです。とはいえ、チケットの不正転売を現行犯として発見し、私人逮捕をするのは容易ではありません。
なぜなら、実際に不正転売をした事実が明らかである必要があるためです。たとえば、動画撮影を目的に自分が高額転売の被害者を装っていた場合は、そもそも犯罪として成立しないため私人逮捕自体成立しません。
よって、チケットの不正転売による私人逮捕は可能ではあるものの、現実的ではありません。
まとめ
今回は、チケットの不正転売について解説しました。
チケットの不正転売は、その興行を主催する人たちの利益を守るためにも絶対に行ってはいけません。とくに自分が応援しているグループや人であれば、なおさら行うべきではありません。
チケットの不正転売は、転売を行う者のみならず購入する者も処罰の対象となるため注意してください。
最近は、チケットの不正転売に関する規制もとても厳しくなってきており、興行主からのペナルティ発生の可能性もあります。さまざまなリスクがあるため、絶対に行わないようにしましょう。