保護責任者遺棄罪とは?事例をもとに成立要件や刑罰を詳しく解説

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保護責任者遺棄とは、保護されるべき者を保護する責任を有している者がその責任を果たさなかった場合に成立する犯罪です。また、保護されるべき者を死傷させてしまった場合は、保護責任者遺棄致死罪に問われる可能性もあるため注意しなければいけません。

この記事では、保護責任者遺棄罪の内容や罪に問われてしまった場合の流れ、過去に実際に発生した事例をもとにした判決傾向について詳しく解説しています。

目次

保護責任者遺棄罪とは

保護責任者遺棄罪とは、扶助を必要とする者を保護すべき人がその人の保護をせずに遺棄した場合に成立する犯罪です。わかりやすい例で言うと、たとえば小さい子どもの親が子供を放置して出かけた場合に成立します。

保護責任者遺棄罪は、刑法218条に定められている犯罪であり、違反した場合は刑事罰の対象になります。まずは、保護責任者遺棄罪の成立要件や違反した場合の法定刑について詳しく解説しますので、参考にしてください。

刑法218条に定められている罪

保護責任者遺棄罪は、刑法218条にて以下のとおり定められています。

(保護責任者遺棄等)
第二百十八条 老年者、幼年者、身体障がい者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。

引用元:刑法|第218条

本罪を要約すると、「老年者(高齢者)や幼年者(小さな子ども)、身体障がい者や病者」など保護すべき人の保護をする責任がある人が、遺棄した場合に成立する犯罪です。

たとえば、小さい子どもの保護責任者である親が、子どもを置いて外出した場合等に成立する犯罪です。小さい子どもの定義は難しく、時間帯や放置する時間によっても本罪が適用されるかどうかは異なります。

たとえば、0歳児の子どもを1人部屋において親が出かけるような状況であれば、時間帯や時間に関係なく保護責任者遺棄罪に問われるでしょう。

しかし、たとえば「5歳〜6歳の子どもを家に置いたままマンション一階にあるゴミステーションへゴミを捨てに行った」というシチュエーションであれば、罪に問われる可能性は低いです。

明確な基準は難しいものの、「保護されるべき人間の生命に危険を及ぼしたかどうか」で考えるとわかりやすいです。前者の場合は、たとえ数分であってもその場を離れることによって、生命の危機にさらされます。

一方で、後者の場合は健常者であればある程度知恵等もついているため、数分程度であれば直ちに生命の危機に晒されるわけではありません。そのため、保護責任者遺棄に問われる可能性は低いです。

しかし、上記例であってもゴミ捨てに行っている間にその子どもが何らかの形で生命の危機にさらされれば、保護責任者遺棄致死傷罪に問われる可能性があります。

保護する責任のある者が保護すべき者を遺棄した場合に成立する犯罪

保護責任者遺棄罪は、保護すべき責任がある人がその責任を果たさずに遺棄した場合に成立する犯罪です。そのため、たとえば子どもの場合であれば、必ずしも親が責任を追及されるわけではありません。

本来、子どもに対する責任を負うのは親です。しかし、365日24時間親が面倒を見続けている家庭は少ないです。働いている家庭であれば、保育園や幼稚園に子どもを預ける親もいるでしょう。時には、自分の両親等に面倒を見てもらうこともあるでしょう。

上記のように、「保護する責任のある者」は必ずしも普段からその人の保護をしている人ではありません。

実際、保育所に預けられている子どもが保育園の過失によって死亡し、保育園側が保護責任者遺棄致死に問われた事例もあります。その状況によって保護すべき者は変わることを覚えておきましょう。

また、もう一つ例を挙げるとすれば「酔っ払いの保護」です。たとえば、友人A・Bで飲酒をし、Aが過度な飲酒で自分で何もできない状況になり、Bが「面倒くさいから」と言って放置した場合、Bは保護責任者遺棄に問われる場合があります。

過度な飲酒は急性アルコール中毒や交通事故などさまざまなリスクが発生します。そのため、一緒にいたBに保護責任があると判断されるためです。

このように保護責任者遺棄罪によって保護されるべき人間は、必ずしも幼年者や老年者、障がい者や病者ではないことに注意しなければいけません。

法定刑は「3カ月以上5年以下の懲役」

保護責任者遺棄罪の法定刑は「3カ月以上5年以下の懲役」です。保護責任者遺棄罪は、あくまでも「遺棄した場合」に成立する犯罪です。遺棄された者が何らかの傷害を負ったり死亡したりした場合は、さらに重い罪に問われるため注意してください。

たとえば、「小さい子どもを残して自宅を離れた」という事実だけで罪に問われるのが、保護責任者遺棄罪です。上記の結果として、傷害もしくは死亡した場合は、保護責任者遺棄致死罪が成立します。

扶助を必要とする者が死亡もしくは傷害を負った場合は致死罪・致傷罪が適用される

本来保護されるべき人が、保護すべき人に遺棄された結果、傷害を負ったり死亡したりした場合は、保護責任者遺棄致死罪に問われます。

たとえば、「小さい子どもを残してパチンコに出かけた結果、残された子どもが熱中症になって死亡した」というケースです。また、死亡に至らなくても「熱中症により、十度の障害を負った」という事実でも遺棄致死傷罪が成立します。

あくまでも結果論ではあるものの、何語もなければ「保護責任者遺棄罪」に問われ、傷害もしくは死亡した場合は「保護責任者遺棄致死傷罪」に問われると言うことです。

保護責任者遺棄罪の成立要件

保護責任者遺棄罪が成立するためには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 扶助を必要とする者であること
  • 扶助を必要とする者を保護すべき責任者であること
  • 生存に必要となる保護をしていないこと

次に、保護責任者遺棄罪の成立要件について詳しく解説します。

被害者が扶助を必要とする者であること

前提として、被害者となる人物が扶助を必要とする者である前提がなければいけません。たとえば、小さな子どもであれば、親などの保護者の目が無ければ危ないことをして生命の危機にさらされてしまう可能性が高いです。

また、障がいを持っていることもあれば、日常生活を送るのが自分1人では難しい人もいるでしょう。たとえ、大人であっても、重度の認知症等を患っていれば誰かの保護がなければ、自分1人で生活を送るのは難しいです。

このように、誰かの手助けがなければ生活を送ることが難しい人(扶助を必要とする人)がの保護を遺棄した場合に、保護責任者遺棄罪が成立します。

たとえば、中学生の健常者を自宅に1人で置いておいても、自分の意思で買い物に行ったり食事を摂ったりすることは一般的には難しくありません。そのため、この場合は保護責任者遺棄罪は成立しません。

一方で、中学生であっても障がいを持っており、自分1人で日常生活を送るのが難しい子であれば保護責任者遺棄罪になり得ます。

つまり、本罪が適用されるためには「扶助を必要としているかどうか」を客観的に判断する必要があるということです。

扶助を必要とする者を保護する責任者であること

保護責任者遺棄罪の罪を犯す人は、扶助を必要とする人の保護責任者であることが条件です。

たとえば、「小さい子どもを自宅に……」という状況であれば、親が保護責任者遺棄罪に問われます。しかし、「小さい子どもを保育園に預けていたのにも関わらず、担当の保育士が……」という話であれば保育士が保護責任者遺棄罪に問われます。

このように「扶助されるべき者」が同じであっても、その状況に応じて保護責任者は異なります。その時々で保護責任者の責任を負うものがその責任を果たさなかった場合に罪に問われます。

そのため、「自分の子どもを実の両親に預けていた」という状況であれば、保護責任者は両親(子の祖父母)となります。この場合、保護責任者=親権者・監護者であるとは限らない点に注意してください。

他にも、介護が必要な老年者の場合、その状況に応じて保護すべき者は変わります。たとえば、施設に預けている場合は、施設の職員等が保護責任者です。

自宅で介護をしている場合であっても、介護士に一任している状況下で事件が発生すれば介護士の責任となります。そのため、本例でも必ずしも「同居家族=保護責任者」とはならない点に注意しましょう。

生存に必要となる保護をしていないこと

保護責任者遺棄罪が成立するためには、「生存に必要となる保護をしていないこと」が条件です。

たとえば、小さい子どもの場合は、目を離せば寝返りをうって窒息死する可能性があります。そのため、たとえ数分であってもその場を離れてすぐに対応できない状況を作り出した時点で、保護責任者遺棄罪に問われます。

「5歳の子どもを自宅に置いてゴミを捨てに行った。自宅へ戻るまで5分程度だった」このシチュエーションであれば、「生命に必要となる保護をしていない」とは言えません。よって、保護責任者遺棄罪に問われる可能性は低いです。

ただし、5歳児の発達状況等によって、生存に必要となる保護をしていないと判断されれば、罪に問われる可能性があります。たとえば、発達障害があるような子どもで自宅内事故のリスクがあるにも関わらず、目を離して1人にしたようなケースです。

保護責任者遺棄罪に問われた過去の事例

過去に実際に発生した保護責任者遺棄事件について解説します。

事例1:自分の子どもに食事を与えずに飢餓死させた事例

罪状:保護責任者遺棄致死
判決:懲役5年
概要:
被告人は自分の子どもに対して食事の量を減らしたり与えなかったりしていた。その子どもは重度の低栄養状態となっており、保護されるべき状態にあった。
しかし、被告人は十分な食事を与えることなく、その子どもを飢餓死させた。
参考:裁判例

本事件の被害者となった児童は5歳であり、ある程度自分で意思を持って行動できる年齢には達していました。

しかし、実の親である被告人からは十分に食事を与えられることはなく、自分の意思で食事を摂った際には、「罰」として食事を与えないなどの行為を繰り返していました。結果、重度の低栄養状態になってしまいます。

低栄養状態になっているにも関わらず、継続的に栄養のある食事を与えなかったことにより、保護責任者遺棄の成立要件を満たしたことになります。また、結果として死亡させてしまっているため、保護責任者遺棄致死にて懲役5年の実刑判決が下されました。

この判例から見てもわかるように、保護されるべき者が保護されなかった場合に初めて、保護責任者遺棄罪に問われます。結果として死亡した場合は致死罪となり、より重い罪に問われることになります。

事例2:車に子どもを放置して熱中症で死亡させた事例

罪状:保護責任者遺棄致死罪
判決:懲役6年
概要:
被告人は、当時6歳および3歳だった自分の子どもを車内に置いたまま、バーへ出かけ長時間放置し、同児童を熱中症により死亡させた事例。
9月初めで残暑厳しい状況下であり、生存に必要となる保護が必要であったことは言うまでもありません。必要な保護をせずに未来ある子どもの人生を奪ったことは重大であることから、上記の判決が下されました
。参考:裁判例

毎年のように車内放置による小さな子どもの死傷事故が発生しています。本事件も同じような事件です。本事件は9月の夜間ではあったものの、残暑厳しい暑い日の夜であり、エアコンもかけずに自動車内へ放置をすれば熱中症になる可能性は十分に考えられました。

本事件の被害者となった上の子は6歳であり、一般的に見れば自分の意思で行動をできるように思えるかもしれません。しかし、夜間であることを考えれば不安になる気持ちは当然です。

また、熱中症を発症すると軽度であっても判断能力が著しく低下してしまいます。6歳であることを考慮しても、当然に保護されるべきと考えるのが通常です。

本事件の判決は懲役6年の実刑判決が下されました。保護責任者遺棄致死罪は「傷害の罪と比較して重い処罰に処する」と書かれています。傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。そのため、特別重い処分が下されたわけではありません。

事例3:

罪状:保護責任者遺棄罪(認定罪名)
判決:懲役2年6カ月
概要:
本事件は、同居している自分の妻および自分の母親との間で発生した事件です。かねてより、自分の母親と妻の不仲に悩まされており、あるとき、自分の母親が階段の角に頭を強く打ち、出血していたにも関わらず救急隊を呼ぶなどの対応をせずに死亡させた事例。
本事件では、医師等による治療が必要な状態であることを認識していながら、「このまま死亡すれば、妻と母親の不仲に悩まされることも無くなるだろう」などと思い、救急隊を呼ばなかった事例であり、保護責任者遺棄罪が認められました。
参考:裁判例

先ほども簡単に解説しましたが、保護責任者遺棄致死の被害者となる人物は、必ずしも子どもや老年者、障がい者や病者のみではありません。上記のように、目の前に治療が必要である人物がいるにも関わらず、必要な処置を取らなかった場合も犯罪として成立します。

道端で倒れた人の救護を行わなかったとしても、何らかの罪に問われることはありません。あくまでも、保護責任者がその責任を果たさなかった場合に成立する犯罪です。

たとえば、酩酊状態にある友人をそのまま放置して帰った場合も、一緒に飲んでいた友人が保護責任者遺棄罪に問われる可能性もあります。このように、「保護されるべき者」と「保護すべき者」がいる状態で、その責任を果たさなかった場合は、犯罪になるため注意しなければいけません。

保護責任者遺棄罪に問われた場合の流れ

保護責任者遺棄罪に問われた場合、逮捕から長期間の身柄拘束、最終的に何らかの刑罰が下される流れとなります。次に、保護責任者遺棄罪に問われた場合の流れについて詳しく解説します。

逮捕による身柄拘束

逮捕とは犯罪を起こした疑いがある人の身柄を拘束し、取り調べを行うための手続きです。犯罪を起こすと必ず逮捕されると思っている人も多いですが、そのようなことはありません。

逮捕は、身柄を拘束する手続きであるため、「逃亡の恐れもしくは証拠隠滅の恐れ」がある場合に限って、逮捕という手段で身柄拘束を行います。

また、逮捕されて捜査を行う事件のことを「身柄事件」と呼び、逮捕せずに在宅で捜査を行うことを「在宅事件」と呼びます。いずれの場合もその後の手続きに大きな違いはなく、最終的には刑事裁判にて判決が言い渡される流れです。

なお、逮捕された場合は逮捕から48時間以内に事件を検察官に送致しなければいけません。その後、さらに24時間以内に勾留の有無を判断する流れとなります。

在宅事件の場合、送致までの期間に定めはありません。通常は、2カ月〜3カ月以内に送致されるのが一般的です。

勾留請求・勾留

送致された場合、引き続き身柄拘束を行う必要があるかどうかを判断します。必要があると判断された場合は、裁判所にて勾留質問を経て、最終的に裁判官が勾留するかどうかを決定します。

勾留が認められた場合、初めに10日間の身柄拘束が発生します。ただ、実務上は勾留延長が認められるケースが多く、実際はプラス10日間の合計20日間の身柄拘束が発生することになるでしょう。

この時点で最長23日間の身柄拘束が発生するため、日常生活にも大きな影響が発生し始めます。

起訴・不起訴の判断

身柄事件の場合は、勾留期間中に被疑者を起訴するか不起訴とするかを判断しなければいけません。在宅事件の場合は期限に定めがないものの、通常は2カ月〜3カ月程度の範囲で起訴・不起訴が判断されることになるでしょう。

身柄事件の場合、起訴された後は保釈請求が可能です。保釈請求が認められた場合は、保釈金を支払って一時的に社会に戻れます。ただし、判決が確定した時点でその判決に従って、身柄拘束が発生する場合もあるため注意しましょう。

不起訴処分が決定した場合は、その事件について何らかの処分が下されることはありません。

一方で、起訴された場合は、略式起訴もしくは正式起訴のいずれかになります。略式起訴とは、刑事裁判を行わずに略式命令(判決)の言い渡しによって終了する起訴方法を指します。

略式起訴の場合は、刑事裁判を行わないため比較的スムーズに事件が終了します。そのため、早期に釈放される点がメリットです。ただし、裁判が開かれないため、事件について弁解する機会を与えられません。検察等が取り調べた内容をすべて認めるしかありません。

さらに、略式起訴は100万円以下の罰金もしくは科料に対してのみ認められている制度です。そのため、保護責任者遺棄のように懲役刑しかない犯罪の場合、略式起訴は選択されません。

なお、正式起訴された場合は、そのまま刑事裁判を受ける流れです。

刑事裁判を受ける

刑事裁判では、取り調べた内容を元に、被告人が有罪か無罪かを初めに判断する必要があります。有罪の場合は、どの程度の刑罰に処するのが妥当かを判断し、最終的に判決を言い渡す流れです。

刑が確定・執行(もしくは執行猶予)

裁判によって下された判決が確定した場合、そのまま刑罰が執行されます。保護責任者遺棄罪は、6カ月以上5年以下の懲役であるため、この範囲内で刑罰が下されます。

また、3年以下の懲役については執行猶予を付けられるため、基本的には執行猶予付き判決を目指して弁護活動を行っていくことになるでしょう。

執行猶予付き判決とは、下された判決の刑罰を直ちに執行せずに、一定期間猶予することを指します。たとえば「懲役3年執行猶予5年」であれば、懲役3年という刑罰を直ちに執行せずに、5年間は猶予します。

執行猶予期間中に罰金刑以上の刑罰が下されることなく過ごすことができた場合は、「懲役3年」という刑罰は執行されません。

ただし、執行猶予期間中に執行猶予を取り消されてしまうようなことがあった場合は、新たに確定した判決に加え、執行を猶予されていた「懲役3年」の刑罰も執行されるため注意しましょう。

保護責任者遺棄罪に関するよくある質問

保護責任者遺棄罪に関するよくある質問を紹介します。

Q.子どもの場合、何歳まで責任を負いますか?

A.保護責任者遺棄の責任を負う子どもの年齢に明確な基準はありません。

あくまでも、「生存に必要となる保護を行わなかった場合」に成立する犯罪であり、「何歳以上は問題ない」などの基準はありません。

ただ、一般的には幼年者=7歳〜8歳までと言われています。とはいえ、過去の判例では14歳の子どもを放置したことにより、保護責任者遺棄に問われた事例もあるため一概にはいえません。

たとえば、「7歳〜8歳程度の子どもを置いてゴミ捨てに行った」という状況であれば、罪に問われる可能性は低いでしょう。しかし、14歳未満の子どもであっても親である保護責任者が長期間にわたって家を開けるような場合は罪に問われる可能性があります。

このように、保護責任者遺棄は必ずしも年齢のみで判断できるものではなく、その状況等を踏まえて判断されるものです。

Q.子どもを車に残して離れた場合、保護責任者遺棄罪に問われますか?また、エンジンをかけていれば良いですか?

A.生存に必要となる保護を行わなかった場合は、保護責任者遺棄罪に問われます。

本記事の事例でも解説したとおり、長時間車内に放置して子どもを死なせてしまった事件もあります。この事件では、最終的に保護責任者遺棄致死罪が適用され、懲役6年の実刑判決が言い渡されています。

上記事件のように幼年者を車内において長時間放置すれば、当然に保護責任者遺棄罪に問われる可能性があります。

ただ、エンジンをかけて涼しいもしくは暖かい状態で、一時的(数分〜数十分程度)であれば罪に問われにくいでしょう。なぜなら、直ちに生命の危険に晒される可能性は低いためです。

また、エンジンを切っている状態であっても、一時的であれば保護責任者遺棄とは認められません。たとえば、エンジンを切って車の給油をする場合や釣り銭機にお金を取りに行くとき、トイレや自動販売機に行く場合などは時間的にわずかであるため罪に問われる可能性は低いでしょう。

上記のように、「エンジンをかけていれば良い」などで判断するのではなく、子どもの年齢や保護すべき年齢や状態かどうかなどによって判断するものです。少しでも何らかの危険がある場合は、放置すべきではありません。

Q.酒に酔った友人を放置した場合、保護責任者遺棄罪に問われますか?

A.問われる可能性があるため注意しましょう。

一緒に飲酒していた仲間が泥酔し、自分1人では何もできない状態になった場合、その場に放置しておくのは非常に危険です。たとえば、道路上で寝てしまって車に轢かれるかもしれません。

もしかすると、嘔吐した物を誤嚥して窒息してしまう可能性もあるでしょう。そのため、誰の目から見ても明らかに1人にはさせられないような状況にある場合、そのまま放置をしてはいけません。

放置をすると、保護責任者遺棄罪や保護責任者遺棄致死罪に問われる可能性が高いため注意してください。

Q.保護責任者とは、具体的に誰を指しますか?

A.保護を必要とする人に対して、保護責任を持つ人を指します。特定の人を指して「あなたです」ということは難しく、その状況によって異なります。

たとえば、子どもの場合は親が保護責任者となるのが一般的です。しかし、たとえば自分の父母に預けている場合は、父母が保護責任者になります(子から見た祖父母)。また、保育園や幼稚園に預けていた場合、保育士や幼稚園教諭または、理事長等が保護責任者です。老年者の場合は、普段介護している人もしくは介護士等になります。

保護責任者は、必ずしも身近な人であるとは限りません。上記のようにその状況によって保護責任者は変わります。

また、必ずしも親族や保護すべき職業にある人が責任を負うとも限りません。たとえば、友人であっても泥酔している場合や怪我をしている場合で放置することによって生命の危機に関わるような場合等は、保護責任者になる場合があります。

Q.死んでしまう可能性を理解しながら放置した場合、殺人罪にはならないのですか?

A.殺意や死んでしまう可能性を理解していた場合は、殺人罪に問われる可能性があります。

殺人罪は必ずしも自分自身で手を加える必要はありません。たとえば、殺意を持って泥酔者を放置したような場合は、殺人罪や殺人未遂罪が成立する場合があります。ただし、上記ケースで殺人罪が認められるためには、殺意を証明しなければいけません。

また、殺人罪は「このままでは死ぬかもしれない」と考えるだけでも足ります。たとえば、自宅内で転んで頭を打ち、意識がない状態であり「このままでは死ぬかもしれない……」と認識しているにも関わらず、必要な保護を行わなかった場合です。

ただ、保護責任者遺棄となり得る事件で、現実的に人の思いを証明するのはとても困難です。そのため、実際に殺人罪が認められるケースは少ないのが現実です。

たとえば、「子どもを真夏の車内に放置をすれば死亡する」ということは、ある程度の年齢にある人であれば理解できます。しかし、子どもを放置したからといって、殺人罪に問うのは難しいのが現実です。

なぜなら、「真夏の炎天下の車内が危険である」という認識と「放置すれば死んでしまうかもしれない」という認識をしていたことの証明が難しいためです。

まとめ

今回は、保護責任者遺棄罪について解説しました。

保護責任者遺棄罪は、保護されるべき者を保護責任を負う者がその責任を果たさなかった場合に成立する犯罪です。また、死傷させた場合は、保護責任者遺棄致死罪としてより重い罪に問われる可能性がある犯罪であり、注意しなければいけません。

保護責任者遺棄は、とくに親と子どもの間柄で発生するケースが多いです。幼い子どもを放置して出かけた、あるいは介護が必要な高齢の親をおいて出かけた、などのようなケースです。

保護責任者遺棄罪は、立派な犯罪です。「短時間なら大丈夫」と思うかもしれませんが、非常に危険な行為であり、犯罪行為であることを再認識して絶対に行わないようにしましょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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