保釈金は、保釈制度を利用する際に支払わなければいけないお金です。保釈金は被告人が逃走したり証拠隠滅を図ったりしないように「担保」や「抑止力」といった意味合いで科されるものです。
担保であるため、何事もなければ返金されるお金であるため、逃走する気持ちがないのであれば支払っても何ら問題はないでしょう。しかし、中にはそもそも保釈金を支払えずに保釈が認められない人も存在します。
すべての人が平等に権利を行使できる制度ではないため、中には「お金を持っていない人には不利な制度である」と感じてしまうかもしれません。とはいえ、お金がない人でも保釈金を用意できる制度はあります。
この記事では、保釈制度や保釈金の概要について詳しく解説しています。保釈制度や保釈金について知りたい人は、ぜひ本記事を参考にしてください。
保釈制度の概要
保釈制度とは、起訴された被告人の身柄を一時的に解放するための制度です。主に逃亡や証拠隠滅の恐れがないなど、一定の条件を満たしている被告人に対して認める制度です。
まずは、保釈制度の概要や保釈金について詳しく解説します。保釈制度や保釈金について知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
「保釈」とは起訴された人を一時的に身柄を解放する制度
保釈制度は起訴された被告人の身柄を一時的に解放する制度であり、このことを「保釈」と言います。保釈が認められるためには、逃亡や証拠隠滅の恐れがないこと、重大な事件ではないこと(殺人や放火等)、犯罪を繰り返し行っていないことなどの条件を満たしている必要があります。
保釈制度は、罪を犯した人の身柄を一時的に解放するための制度であるため、被告人にとってはメリットのほうが大きい制度です。保釈制度が認められている理由は、被告人が受ける不利益を最小限に抑えるためです。
日本の刑事裁判においては「推定無罪の原則」があります。推定無罪の原則とは、たとえ罪を犯した人であっても、裁判によって有罪判決が下されるまでは、無罪の人と同等に扱わなければいけないという原則です。
起訴されただけでは有罪判決が確定しているわけではないため、必要以上に身柄の拘束を行うべきではありません。そのため、保釈制度というものがあります。
とはいえ、起訴されている以上、検察官が犯罪の証拠を集めて罪を犯した事実について推定している状況です。そのため、すべての人を対象に保釈を認めるわけにはいきません。
たとえば、連続殺人鬼が起訴され、保釈請求を行って認められた場合、保釈中に再度殺人を犯す可能性も否定はできません。そのため、引き続き身柄を拘束しておく必要があると判断され、保釈請求は認められないでしょう。
また、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるなど、刑事裁判に出廷しない可能性がある被告人や影響を与える可能性のある被告人もやはり、保釈すべきではありません。そのため、保釈請求を行ったところですべての人が保釈されることはないため注意してください。
起訴された人は保釈請求が可能
保釈請求を行えるのは「起訴された人」です。刑事事件における「起訴」とは、主に検察官が裁判所に訴訟を提起することです。身柄事件の場合、逮捕〜勾留を経て勾留期間中に検察官が起訴・不起訴の判断をします。
不起訴の場合は、当然、即時身柄を解放されて社会生活に戻れます。しかし、起訴された場合は引き続き身柄の拘束を続けなければいけません。
とはいえ、日本の法律では「推定無罪の原則」があるため、必要以上に身柄を拘束することはできません。そのため、起訴された人に限っては、保釈請求を認めて保釈しても大丈夫かどうかについて判断をします。
なぜ「起訴された人」に限定するかというと、「起訴=証拠が揃って訴訟を提起している状態」であるためです。起訴される前に解放してしまうと、揃っていない証拠を隠滅されてしまったり逃亡されてしまったりする可能性が高いためです。
とはいえ、事件発生〜捜査の間で「身柄を拘束する必要がない」と判断された場合は、在宅事件として捜査を行う場合もあります。在宅事件となった場合は、逮捕されなかったり勾留が行われなかったりするため、社会生活を送りながら刑事裁判を待つことになります。
保釈を認めるかどうかは裁判官が判断
被告人が保釈請求を行った場合、検察官が意見書を裁判官へ提出し、最終的に裁判官が保釈を認めるかどうかについて決定します。流れとしては以下のとおりです。
- 弁護人が保釈申請書を提出
- 裁判官が検察官から意見を受け、弁護人と面談をする
- 裁判官が意見や面談の結果を踏まえ、保釈の可否を検討する
- 保釈を認める場合は、条件等について決定する
- 保釈金を納付して保釈
上記のとおり、初めに被告人の代理人である弁護人が裁判所に対して保釈申請書を提出します。その後、検察官が意見をしたり弁護人が逃亡や証拠隠滅の恐れがないことなどを主張し、双方の意見を聞いたうえで最終的に裁判官が保釈を認めるかどうかについて決定します。
なお、推定無罪の原則に従い、保釈請求があった場合は以下の場合を除いて原則保釈を認めなければいけません。
- 死刑・無期懲役・1年以上の禁錮もしくは懲役の法定刑が定められている場合
- 被告人が過去に死刑・無期懲役10年以上の禁錮もしくは懲役の有罪判決を受けている
- 常習的に懲役3年以上の罪を犯した場合
- 被告人が証拠隠滅をすると疑うに足りる相当な事情があるとき
- 被告人の氏名・居住状況がわからないとき
- 被害者に接触をして脅迫をしたり危害を加えたりする可能性があるとき
上記に該当する場合を除いて、原則保釈請求を認めなければいけません。また、上記に該当する場合であっても、裁判官の職権で被告人を保釈することも可能です。
保釈金は担保の役割を担う
保釈請求を行い、保釈が認められるためには保釈金を納めなければいけません。保釈金は、いわゆる担保のような役割を担っています。
たとえば、あなたの資金力が300万円程度である場合、保釈金として300万円を支払う代わりに身柄を解放します。という制度です。保釈金は後から返還されるものの、あなたが証拠隠滅をしたり逃亡したりした場合、300万円は没収されてしまいます。
つまり、お金を担保に入れて逃げられないような状況を作っていると考えれば良いです。あなたは、300万円を失うくらいなのであれば、呼び出しには素直に応じて公判にもしっかり出廷したいと考えるでしょう。
中には、「自分の資金を失っても良いため、逃亡をしたい」と考える人がいるかもしれません。そういった人は、基本的には保釈請求は認められません。
なお、保釈金は保釈の担保の役割を担っているため、被告人にとって失うと痛手になる程度の金額でなければいけません。総資産10億円の人に対して保釈金100万円程度であれば、中には「100万円くらいであれば失っても良い」と考え、逃亡や証拠隠滅をする人が出てくるかもしれません。
上記のことから、保釈金の相場はあるものの、基本的には被告人の資力等を考慮したうえで決定します。
保釈金は原則返還される
保釈金は返還されます。保釈金は、あくまでも担保の役割であるため、没収されてしまっては意味がありません。万が一没収されてしまう仕組みであれば、保釈制度を利用して逃亡したり証拠隠滅を図ったりする人が増えるでしょう。
そのため、「呼び出しや後半に出廷すればしっかり返金しますよ」といった仕組みであることが大切です。
ちなみに保釈金は裁判が終了した数日後には返金されます。ただ、逃亡したり証拠隠滅を図ったり、保釈条件を無視したりした場合は没収されてしまうため注意してください。
保釈金の決まり方・相場
保釈金は保釈制度の担保の役割を担っています。そのため、万が一没収された場合に被告人にとって打撃となる程度である必要があります。
たとえば、有名人や大きな事件の被告人の場合、保釈金は高額になるケースが多いです。食肉偽装事件の被告人となったハンナン元会長である浅田満氏の保釈金は20億円だったと言われています。
また、日産の元会長カルロス・ゴーン氏は15億円の保釈金を支払い、保釈されたものの、逃亡したことによりすべて没収されています。一方で、覚せい剤取締法違反で逮捕された有名人を例に挙げると、清原和博氏が500万円の保釈金で保釈されました。
このように保釈金に上限や下限はなく、その人の犯罪の内容や資産状況によって大きく変動します。
次に、保釈金の決まり方と相場についても詳しく解説します。保釈金の決まり方について興味のある人はぜひ参考にしてください。
保釈金は被告人の状況によって決定
保釈金は被告人の以下の状況によって判断されます。
- 被告人の収入額・経済状況
- 被告人の家族構成
- 罪の種類
- 前科の有無
保釈金は保釈時の抑止力とならなければいけません。そのため、高収入の人に対してわずかな保釈金を設定していても、抑止力にはなりません。上記のことから、保釈金は被告人のさまざまな事情を考慮したうえで最終的に決定します。
なお、無収入の人や収入が少ないからといって、数千円や数万円程度の保釈金で保釈されることはありません。たとえば人によって10万円の価値や考え方は異なります。
しかし、一般的に見てどれだけ経済力のない人であっても、保釈金として10万円であれば保釈制度の抑止力としては弱いです。そのため、最低でも100万円以上の保釈金が設定されるケースが多いです。
保釈金の相場は150万円〜300万円
保釈金は被告人の状況によって大幅に変動します。しかし、一般的な相場で見ると150万円〜300万円程度となるケースが多いです。万が一、保釈金を支払えなければ、保釈されることはありません。
また、経済力がないからといって数万円程度の保釈金で保釈されることはありません。そのため、そもそも保釈制度とは、ある程度資力のある人のみが利用できる制度であることを理解しておきましょう。
保釈金が払えない場合
保釈金が支払えなければ、保釈は認められません。また、保釈金は分割払いも不可能であり、一括払いしか認められていません。もし、保釈金が支払えない場合は、準抗告もしくは抗告によって保釈保証金の減額請求を行えます。
次に、保釈金を支払えないとどうなるのか?について詳しく解説します。
保釈金が払えなければ保釈は認められない
保釈金が払えなければ、保釈は認められません。保釈金は、保釈をするための条件であり、逃亡や証拠隠滅を抑止するためのものです。
何ら担保もなしに保釈してしまっては、逃亡や証拠隠滅等のリスクしかありません。そのため、「そもそも保釈金を支払えなければ、保釈はされない」ということを覚えておきましょう。
保釈金は一括支払いのみ
保釈金は一括払いのみで原則現金による納付しか認められていません。そのため、「分割であれば支払えるのに……」と言っても認められません。
どうしても分割で納付したい場合は、友人や知人もしくは家族にまずは保釈金の立替を依頼し、保釈後もしくは刑罰を受けてから分割で返済をしていく方法を検討しましょう。
なお、保釈金の支払いは原則現金のみですが、現金以外で認められるケースもあります。たとえば有価証券や被告人以外の者の保釈保証書を提出する方法です。いずれかの方法で保釈金を用意できた場合は、保釈される可能性もあります。まずは、担当弁護人に相談をされてみてはいかがでしょうか。
準抗告によって保釈金の減額請求は可能
保釈金が支払えない場合は、準抗告によって減額されることもあります。準抗告とは、裁判官が下した決定に納得ができない場合に行えるものです。必ずしも減額されるとは限らないものの、準抗告によって保釈金が減額され、結果的に保釈金を支払える可能性もあるでしょう。
なお、保釈金に下限や上限は設けられていません。ただ、一般的に見て150万円未満の保釈金が決定することはほぼありません。そのため、最低でも150万円以上の保釈金が決定すると思っておきましょう。
保釈金を払えない場合の対処法
保釈金を支払えない場合の対処法は以下のとおりです。
- 友人・家族に相談をする
- 立替制度の利用を検討
- 保釈保証制度の利用を検討
- 有価証券等の財産を用意
次に、保釈金を支払えない場合の対処法について詳しく解説します。
友人・家族等に相談をする
保釈金を支払えない場合、初めに家族や友人等に相談をしてみましょう。保釈金は裁判終了後に返金されるため、「裁判終了後に返すから一時的にお金を貸して欲しい」と相談をすることで相手方のハードルも下がります。
ただし、勾留中は友人等と連絡を取ることができないため、弁護人経由もしくは家族経由で相談をすることになります。
日本保釈支援協会の立て替え制度の利用を検討
日本保釈支援協会では500万円を上限に保釈金の立替制度を行っています。立て替えに伴い審査は行われるものの、保釈金を用意できる可能性は高いため、検討してみる価値は十分にあるでしょう。
なお、日本保釈支援協会の立て替え制度を利用するためには、身分証明書(運転免許証・マイナンバーカード・住民票の写し+写真・国民健康保険被保険証+写真のいずれか)と印鑑(ゴム印・シャチハタ不可)の用意が必要です。
また、立て替え制度を利用するにあたって、手数料が発生します。手数料は、借入する金額によっても異なるため事前に必ず確認をしてください。
全国弁護士協同組合連合会の保釈保証制度を利用を検討
全国弁護士協同組合連合会の保釈保証制度とは、保釈保証書を発行する制度です。保釈保証書は保釈金に変わる書類であり、保釈金を支払えなくても保釈が認められます。
全国弁護士協同組合連合会の保釈保証制度を利用するためには必ず審査が行われるため、視力の調査などを行ったうえで発行が可能かどうかを判断します。そのため、必ず保釈保証書が発行されるとは限らない点に注意が必要です。
「有価証券」等の財産を用意
保釈金は、原則現金による納付が必要です。しかし、現金での用意が難しい場合は、有価証券による保証金の支払いが許可されるケースもあります。これを「代用有価証券」と言います。
株式や債券などの時価に対して掛け目をかけた金額が保釈金として充当され、過不足なく納付できた場合は保釈金が支払われたものとして保釈されます。
保釈金が払えない場合によくある質問
保釈金が払えない場合によくある質問を紹介します。
Q.保釈制度はお金がある人だけ有利ではないですか?
A.保釈金は被告人の逃亡や証拠隠滅等を抑止するための制度です。
保釈金は最低でも150万円程度の費用が必要となり、資力がない人から見ると「お金がある人にだけ有利ではないか?」と感じるかもしれません。しかし、資力がないからといって数万円や数十万円程度の保釈金で保釈を認めてしまえばリスクしかありません。
なぜなら、数万円や数十万円程度であれば簡単に用意できる金額であり、仮に没収されてもすぐにお金を稼ぐことができます。そのため、保釈金の性質である担保・抑止力といった意味合いで見るとあまり意味がありません。
仮にお金がなかったとしても、保釈保証制度や立て替え制度があります。そういった制度を利用することですべての被告人が平等に保釈請求を行えるため、決して「お金を持っている人だけが有利」なわけではありません。
Q.保釈請求を行えば必ず身柄を解放してもらえるのですか?
A.必ず身柄を解放してもらえるとは限りません。
保釈請求は起訴された被告人すべてに与えられている権利です。推定無罪の原則に従えば、基本的にはすべての人が保釈を認められるべきです。
しかし、保釈請求を認めることによって逃亡・証拠隠滅されたり、新たな被害者が生まれたりしてしまえば保釈制度そのものの意義が問われます。たとえば、連続殺人鬼であっても保釈請求をしたからといって認めていれば、新たな被害者が生まれるかもしれません。
そのため、検察官や弁護人が意見を出したうえで最終的に裁判官が保釈請求を認めるかどうかについて判断をします。
Q.保釈金を払える人は誰ですか?
A.保釈金を支払う人は誰でも構いません。
保釈金の出所は問われません。友人や知人、家族等が用意したお金であっても定められた保釈金が支払われれば保釈されます。
また、保釈金の支払い方法は電子納付もしくは裁判所への直接納付です。知らない人が突然お金を持って「〇〇の保釈金です」といって渡しても構いませんが、基本的には弁護人を介して支払われるのが一般的です。
Q.保釈制度はお金を支払って外に出してもらう制度ですか?
A.その通りです。
保釈制度は、保釈金を支払って一時的に外に出させてもらえる権利です。外に出ている間は、刑事裁判に向けて準備を進めたり今後の刑罰を覚悟して準備を進めたりする時間に当てると良いでしょう。
なお、保釈制度は起訴〜判決確定までの間身柄を解放される制度です。そのため、裁判が確定して懲役等の実刑判決が下された場合は、刑務所に収監されることになります。
Q.保釈金は必ず支払える金額内で決定するのですか?
A.必ず支払える金額内であるとは限りません。
保釈金の相場は150万円〜300万円程度です。下限や上限はないものの、最低でも150万円以上となるケースが多いです。150万円の資力がない人も多くいるでしょう。そういった人でも150万円の保釈金が決定するケースもあります。
もちろん、保釈金を決定するうえで被告人の資力を調査します。しかし、調査をしたからといって、必ずしも支払える金額内で決定するとは限りません。
たとえば、全財産が10万円程度の人であっても、150万円程度の保釈金で決定するでしょう。支払えなければ、友人や知人もしくは家族に相談をしたり、保釈保証制度もしくは保釈金立て替え制度の利用を検討することになります。
Q.保釈中に逃走したらどうなりますか?
A.保釈金を没収されるだけではなく、保釈が取り消されます。
保釈中に逃走した場合、保釈金は返金されずに没収されます。さらに、保釈は取り消され、指名手配されることになるでしょう。また、その後に行われる刑事裁判において、逃走したことが悪影響を与える可能性もあるため絶対にやめましょう。
なお、逃走をして時効を目指そうとする人がいるかもしれませんが、起訴された時点で時効は停止されています。よって、時効が成立することはなく、一生涯逃亡生活を送らなければいけなくなるため、絶対にやめましょう。
まとめ
今回は、保釈金が支払えない場合について解説しました。
保釈金は、保釈する被告人が逃亡したり証拠隠滅をしたりしないよう抑止するためのお金です。万が一、約束を破った場合は保釈金を没収するだけではなく、保釈が取り消されたり裁判で悪影響を与えたりなどさまざまな影響があります。
多くの人は、保釈されても逃走する気持ちはないでしょう。しかし、ごく一部の人が逃走を企てるケースもあります。また、刑事裁判を受ける身である者がまったくの無担保で釈放されてしまえば、何ら痛手を追うことなく逃走できてしまいます。
保釈制度や保釈金はすべて意味のあることです。今回解説した内容を踏まえ、保釈金に関する理解を深めてみてはいかがでしょうか。