生活保護は「健康で最低限度の生活」を保障するための制度です。何らかの事情で働くことができない人働けるけど、収入が少なく健康で最低限度の生活を送れない人に対し、お金等を支給して自立を促すためにあります。
中には、生活保護制度を悪用して不正受給を企てている人も多く、実際に不正受給をしている人も多くいます。生活保護費は、国民が納めた税金から支給されているため、不正受給が許されてはいけません。
この記事では、生活保護で不正受給に該当する行為とは何か?不正受給をするとどうなるのか?について詳しく解説します。生活保護の不正受給について詳しく知りたい人は、本記事を参考にしてください。
目次
生活保護制度の概要と意義
生活保護とは、憲法で保障されている「健康で最低限度の生活」を保障するための制度です。何らかの事情で働くことが難しい人や、経済的に困窮したいる人などを対象に、最低限度の生活を送るために必要な資金を支給することにより、健康的な生活を送ってもらうことを目的にしています。
ままずは、生活保護の制度の意義や概要について詳しく解説します。生活保護の本質を理解していただき、不正受給がないようにしなければいけません。
生活保護は「最低生活の保障」
生活保護制度は、働けない人や働いているものの、経済的に困窮している人などを対象に困窮の程度に応じて保護をするための制度です。生活保護によって受けられるのは「最低生活の保障」です。
お住まいの地域や家族構成によって、最低限度必要となる生活費は異なります。不足する分を国で保障し、健康な生活を送っていただき、最終的には自立を目指す制度です。
人は、さまざまな事情で経済的に困窮してしまうことがあります。たとえば、事故や病気で働けなくなり、お金を稼ぐことが難しくなる人もいるでしょう。また、中には働けるものの、フルタイムで働くことが難しく、最低限の生活費を得ることが難しい人もいます。
上記のような人たちを対象に国が生活費の一部または全部を支給します。
生活保護は「最低生活の保障」を目的としている制度であるため、自分が持っている財産等はすべて生活費に充てなければいけません。それでもなお、生活費が不足する場合に初めて生活保護費が支給されます。
生活困窮者の「自立の助長」を目的としている
生活保護は、最終的に生活保護受給者の自立を目指しています。まずは、生活を安定させて病気や怪我を治して、もう一度働いて自立を目指そうというのが生活保護制度の概要です。
生活保護を受給している人は、医療費等も発生しません。そのため、病気や怪我等で働くことが難しい人は、生活保護受給中に病気や怪我を治し、再度社会に出て働いて自立をしてもらおうという制度です。
生活保護の受給を開始すると、最低限度の生活は保障されています。逆に言えば、最低限度の生活しか保障されていないため、自立をして自分の好きなものを買ったり自分の好きな生活を送ったりしたいと考えるのが普通です。そういった意識を持ってもらい、しっかりと健康になったうえで自立を促しています。
生活保護の不正受給に該当する行為
生活保護は国が生活困窮者の生活を保障するための制度です。また、生活保護費の出所は税金であり、国が75%地方自治体が25%の割合で負担をしています。多くの国民が働いて納税したお金の一部を生活保護費として充てています。
そのため、先ほども解説したとおり、本来であれば「今の生活を抜け出すために、働けない原因を治し、自立を促す」のが生活保護制度です。その後、自立してからしっかり納税し、国に返していこうと考えるのが本質でしょう。
しかし中には、生活保護制度を悪用して不正受給をする人も少なくはありません。実際、以下のような行為が生活保護の不正受給に該当し、違法行為となるため注意してください。
- 保護費以外に収入があるのに申告しなかった
- 資産保有をしているのに申告しなかった
- 届出ている世帯者以外の者と同居している場合
- 暴力団員が生活保護を受給した場合
次に、生活保護費の不正受給となる行為について詳しく解説します。
保護費以外に収入があるのに申告しなかった場合
生活保護受給者が生活保護費以外に収入があるにも関わらず、申告をしなかった場合は不正受給になります。
生活保護は「最低限度の生活」を送るためにお金が支給されます。金額は地域や世帯人数等に応じて決定し、その金額の範囲内で生活をしなければいけません。
たとえば、生活保護費(最低限度の生活費)が15万円であり、満額支給されている生活保護世帯があったとしましょう。この世帯では「最低限度の生活を送るための費用は15万円」と決められています。よって、他に収入がある場合は差し引きをしなければいけません。
上記例で言うと仮に5万円の収入があった場合、生活保護費として支給されるお金は10万円です。保護費の10万円と自分で得た収入の5万円を足して15万円となります。これが最低限度の生活を送るために必要となる金額であるためです。
しかし、もし申告をしなかった場合、生活保護費15万円+自分の収入5万円=20万円の収入となり、最低限度の生活を送るために必要なお金以上の費用を得ていることになります。これは、生活保護世帯としては絶対にあってはいけないことです。
そもそも生活保護費は働いている人たちが収める税金で支払われています。最低限度の生活を送り、自立を促すための制度であり、不正に収入を得て裕福な生活を送ることは許されません。
たとえば、宝くじを購入して当選したお金や子どもが親戚からもらったお年玉、お祝い金等であってもすべて申告をしなければいけません。そのお金を生活費に充てるかどうかは自由ですが、生活保護費からは引かなければいけないお金です。
資産保有をしているにも関わらず申告しなかった場合
生活保護を受給している人は、原則資産保有を許されていません。何度もお伝えしている通り、生活保護は「最低限度の生活を送るための保障制度」であるためです。自分の資産がある場合は、そのお金をまずは生活費に充当しなければいけません。
万が一、資産を保有しているにも関わらず申告せずに生活保護費を受給していた場合は、不正受給として処罰されたり返還請求されたりするため注意してください。
届出ている世帯者以外のものと同居している場合
生活保護を受給している人は、同居している人をすべて申告しなければいけません。同居空いている人の収入額等に応じて生活保護費が決定するためです。
そのため、届出ている人以外のものと同居しているにも関わらず、申告をしなかった場合は生活保護の不正受給となります。
よくあるケースが母子家庭で生活保護を受給している人が、彼氏や内縁の夫と同居をしているパターンです。この場合、男性側に十分な収入があるケースが多く、生活保護を受給する必要がないことが多いです。
また、生活保護を受給されている人は、家賃補助も受けられます。家賃補助も当然税金であるため、税金で支払っている賃貸マンション等に届出のない人が住んでいることも問題です。
暴力団員が生活保護を受給した場合
暴力団員はたとえ生活に困窮していたとしても、生活保護を受給することはできません。暴力団員が生活保護を受給することによって、反社会的勢力に資金が流れる可能性があるためです。
また、暴力団員は銀行口座等を所有できないことから、資産状況の把握がわからなかったり活動状況がわからなかったりなどするため、受給はできません。万が一、暴力団員であることを隠して生活保護を受給した場合は、不正受給と見なされます。
生活保護を不正受給した場合に起こること
生活保護の不正受給が発覚した場合に起こることは以下のとおりです。
- 保護費の返還
- 4割増の徴収
- 生活保護の指導・変更・停止・廃止
次に、生活保護を不正受給した場合に起こり得ることについて解説します。
保護費の返還
生活保護を不正受給した場合、不正受給と認められた金額をすべて返還請求されます。たとえば、毎月収入があるにも関わらず、申告せずにいた場合、その差額を返還請求されます。
仮に、毎月15万円の生活保護費を受給していながら毎月5万円の収入を得ていて、この生活を1年間生活していた場合、差額の60万円を返還しなければいけません。そもそも、最低限度の生活に必要となる費用が15万円であるにも関わらず、合計20万円の収入を得ていたためです。
なお、不正受給が発覚したあとも継続的に生活保護を受給する場合は、生活保護費から毎月差額分が差し引かれて支給されます。
そして、そもそも生活保護を受給すべきではなかった人(暴力団員等)の場合は、これまでに支払われた生活保護費を全額返還しなければいけません。
4割増の徴収
生活保護費の返還を求める際、都道府県もしくは市区町村の長は最大で4割増で返還請求を行うことができます。たとえば、100万円の不正受給があった場合は、最大で140万円の返還請求が可能です。4割増はとくに悪質な不正受給の場合に行われるものです。
生活保護の指導・変更・停止・廃止
生活保護の不正受給が発覚した場合、その状況に応じて指導・変更・停止・廃止のいずれかの処分が下される可能性があります。
指導とは、生活保護の返還に加えて今後同じことがないように指導をする処分です。生活保護の処分の中ではもっとも軽い処分となります。
変更とは、生活保護支給額の変更やその他生活保護費にまつわる何らかの事項が変更となる処分です。収入額に応じて変更を受ける可能性もあるため注意しましょう。
停止とは、生活保護費の支給を一時的に停止する処分です。たとえば、生活を送るうえで十分な収入があると認められる場合や、働き始めた場合などに下されます。停止であるため、たとえば仕事をやめてしまったり収入が減ったりすると改めて手続きを行わずに支給が再開されます。
廃止とは、不正受給の内容が悪質だった場合に下される可能性のある処分です。生活保護の支給を完全に停止し、廃止する方法です。
生活保護の不正受給によって問われる可能性のある犯罪
生活保護の不正受給をしていた場合、以下いずれかの犯罪に抵触する可能性があります。
- 生活保護法違反
- 詐欺罪
次に、生活保護費の不正受給によって成立し得る犯罪についても解説します。悪質な場合は刑事罰を受ける可能性もあるため、不正受給は絶対にやめましょう。
生活保護法違反
生活保護に関するさまざまなことを明記している生活保護法では、「不実の申請」もしくは「不正な手段で生活保護を受給した場合」について罰則規定を設けています。
不実の申請とは、生活保護申請時に嘘の内容を申告した場合です。たとえば、収入があるにも関わらずないように見せかけて申請をした場合や、資産を隠して生活保護費の請求をした場合などです。
不正な手段で生活保護を受給した場合とは、提出書類を偽装したり世帯人数が変わっているにも関わらず申告をしなかった場合など、さまざまなケースが該当します。
上記いずれかに該当した場合は、不正受給として見なされて生活保護法違反の処罰を受けます。生活保護法違反では、「3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」に処される可能性があるため注意しなければいけません。
実際、過去に有罪判決が下されている事例は多数あります。生活保護申請時や受給中は、誠意を持ってルールを守り、適切に対応しましょう。
詐欺罪
生活保護の不正受給は、刑法の定めによる詐欺罪が成立する可能性があります。たとえば、暴力団員が自分の身分を隠して生活保護を申請したり受給したりした場合に成立します。
刑法の詐欺罪が成立するためには以下の4要件を満たしていなければいけません。
- 欺罔
- 錯誤
- 交付
- 財産の移転
欺罔(きもう)行為とは、相手を騙そうとする意思です。上記例で言うと、暴力団員であることを隠している時点で欺罔行為が認められます。そして、役所職員が申請者の申請内容を信じることで錯誤が成立します。
その後、生活保護費が支給されることによって交付・財産の移転があったものとして、詐欺罪となります。実際に生活保護費の支給がなかったとしても、詐欺未遂罪が成立するため注意しなければいけません。
詐欺罪および詐欺未遂罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。非常に厳しい罰則規定が定められているため、くれぐれも注意しましょう。
生活保護の不正受給が発覚した場合は弁護士に相談
生活保護の不正受給が発覚した場合、直ちに弁護士へ相談をしましょう。弁護士へ相談をすることによって、刑事告訴を免れたりさまざまなサポートを行ってもらえます。
生活保護の不正受給は、刑事告訴のリスクがあるうえに返還請求の可能性もあります。少しでも自分にとって有利に働くようにするためには、弁護士のような法律の専門家に相談をしたほうが良いです。
次に、生活保護の不正受給が発覚してしまった場合に弁護士へ相談をするメリットについて詳しく解説します。
刑事告訴を免れるための弁護活動を行う
生活保護の不正受給に関して弁護士へ相談をすることによって、刑事告訴を免れるための弁護活動を行ってくれます。
そもそも、生活保護を不正受給していたからといって、直ちに刑事告訴されるわけではありません。刑事告訴されるケースとしてあげられるのは、相当悪質だった場合です。
そのため、弁護士に相談をすることによって、悪質性がない旨を主張していくことが大切です。真摯に反省し、生活保護費の返還も行う旨を主張していくことによって、刑事告訴を回避できる可能性が高まるでしょう。
さまざまなサポートを行う
弁護士へ相談をすることによって、刑事罰を回避できる可能性が高まるだけでなく、さまざまなサポートを行ってくれます。たとえば、生活保護費の自主返還手続きを代理してくれます。
自主的に返還する意思を見せることによって、刑事罰を回避できる可能性が高まるため、できるだけ早めに弁護士へ相談をしておいたほうが良いでしょう。
生活保護受給者は法テラスの利用を検討
弁護士へ依頼をする場合は、当然弁護報酬を支払わなければいけません。弁護士報酬は、依頼内容によっても異なりますが、生活保護を受給している人は、支払えない人が大半でしょう。この場合、法テラスの制度を利用できる可能性があります。
法テラスとは、経済的に余裕がない人であっても安心して法律の相談をしたり弁護士等のサポートを受けられるための制度です。
法テラスでは、法律相談は無料で行えます。その後、弁護士等に依頼をする場合は「民事法律扶助制度」というものを利用できます。この制度は、弁護士費用を立て替えるための制度です。
あくまでも「立て替え制度」であるため、返済をしなければいけません。しかし、返済方法や金額、返済期間については柔軟に対応してもらえます。まずは、不正受給によって得た保護費の返済に注力し、余裕のある範囲で法テラスへの返済を行っていけば良いでしょう。
生活保護の不正受給に関するよくある質問
生活保護の不正受給に関するよくある質問を紹介します。
Q.不正受給はなぜ発覚するのですか?
A.ケースワーカーの生活調査や定期訪問、課税調査によって発覚するケースが多いです。
生活保護を受給している人は、ケースワーカーと呼ばれる人に定期的に自宅訪問を受けたり生活調査に対応する必要があります。ケースワーカーは、生活困窮者の相談役や社会福祉のサポートを行う役割を担っています。
生活保護は「自立を目指す制度」であるため、現在の生活状況はどうか、悩みがあるかどうかなどについて把握する必要があります。そのため、定期的に訪問して現在の状況を確認します。
ケースワーカーは原則自宅に来られるため、生活保護受給者とは思えないほど裕福な生活をしている場合などは、不正受給を疑って調査を行う場合もあるでしょう。調査の結果、不正受給が発覚するケースが多いです。
また、働いているにも関わらず申告しなかった場合は、税金関連で発覚するケースが多いです。勤務先が適切に税務申告を行っている場合、収入等がわかるため、不正受給が発覚します。
他にも、身内からの連絡によって発覚するケースもあります。たとえば、近しい人から役所に連絡が入り、「生活保護を受給している〇〇が働いている」などの報告を受けて調査を開始するケースもあるため注意してください。
Q.不正受給で保護廃止となった場合、一生生活保護を受給することはできないですか?
A.生活保護の廃止となった場合も再度申請することが可能です。
生活保護の廃止となった場合であっても、再度申請をすることは可能です。ただし、再調査をしたうえで支給の可否が決定するため、必ずしも受給できるとは限りません。
たとえば、働いて収入を得ていることを隠し、生活保護費を不正に受給していたとしましょう。この場合、再調査の結果で継続的に働いていることが発覚し、給与も十分に得ている場合は当然生活保護の再受給は難しいでしょう。
一方で、廃止となったあとに何らかの状況で収入が減ってしまい、生活保護に頼らざるを得ない場合は、再度受給できる可能性があります。生活保護の本質は「経済的に困窮している人の生活を保障する制度」であるため、基本的にはどのような人であっても、審査をしたうえで支給を検討します。
Q.居住地を変えれば再度、生活保護を受給できますか?
A.居住地を変更してもしなくても生活保護の受給は可能です。
生活保護の申請・受給をできるのはお住まいの地域です。そのため、お住まいの地域以外では申請をすることができません。仮に、生活保護の不正受給で廃止された場合であっても同じ地域で再度申請できますし、他の地域に引っ越している場合は他の地域で再申請することができます。
ただし、再申請する際は改めて審査が行われます。収入の有無や資産状況等によって生活保護の受給ができないこともあるため注意してください。
Q.生活保護の返還金を支払えない場合、どうすれば良いですか?
A.分割払い等で支払わなければいけません。
生活保護費を不正受給した場合は、必ず返還しなければいけません。すぐに返還できない場合は、分割等で支払える金額を返還していくことになります。
生活保護の不正受給によって得た収入を「返還できません」というのは絶対に許されません。何らかの形で必ず返済をすることになるため注意してください。
Q.刑事告訴される可能性のある基準は何ですか?
A.明確な基準はありませんが、悪質かどうかが一つの基準になるでしょう。
不正受給といってもさまざまであり、中には悪意なく結果的に不正受給をしてしまった人もいるでしょう。たとえば、「たまたま購入したスクラッチくじで1万円当選して、申告しなかった」というケースであれば、悪質性は低いと判断されるでしょう。
一方で、働いて毎月安定的かつ十分な収入があるにも関わらず、申告せずに何年も繰り返し生活保護を不正受給していた場合は悪質性が高いです。また、過去に何度も指導を受けているにも関わらず、同じことを繰り返している場合も同様です。
上記のように悪質性が高いと判断された場合は、刑事告訴されて生活保護法違反や詐欺罪といった罪に問われて刑事罰を受けることになるでしょう。
まとめ
今回は、生活保護の不正受給について解説しました。
生活保護は「経済的に困窮している人に対して健康で最低限度の生活保障を行い、自立を促すための制度」です。保護費は国民が支払った税金から賄われており、不正受給は絶対に許されるべきではありません。
万が一、生活保護の不正受給をした場合は、返還を求められるだけではなく刑事罰を受ける可能性もあります。不正受給は犯罪である自覚を持ち、絶対に行わないようにしましょう。