非弁行為とは、弁護士にしか認められていない行為を弁護士資格を有していない人が行うことを指します。弁護士にしか認められていない行為とは、法律行為全般です。
安易に弁護士以外の者が法律に介入してしまうことによって、依頼者の不利益や法律秩序の乱れが懸念されるため禁止されています。
この記事では、非弁行為とは何か?違反した場合はどのような罪に問われるのか?について詳しく解説しています。非弁行為について詳しく知りたい人は、本記事をぜひ参考にしてください。
目次
非弁行為とは
非弁行為とは、弁護士にしか認められていない行為を弁護士資格を有しない者が行うことを指します。弁護士になるためには、司法試験に合格したうえで司法修習を修了しなければいけません。
上記条件を満たした場合に初めて「弁護士」と名乗ることができます。もし、弁護士資格を有しない人が、弁護士のみしか認められていない行為を行えば、「非弁行為」に該当します。主に、以下のような行為が非弁行為に該当し、処罰対象です。
- 報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を行うこと
- 報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を周旋すること
上記に該当した場合は非弁行為となり、処罰されるため注意しましょう。まずは、非弁行為とは何か?について詳しく解説します。
弁護士にしか認められていない行為を弁護士資格を有しない者が行うこと
非弁行為を簡単に言うと「弁護士もしくは弁護士法人にしか認められていない行為を弁護士資格を有しない者が行うこと」です。弁護士になるための資格は国家資格であり、独占業務を数多く認められています。
たとえば、報酬を得る目的で法律相談を受ける行為は、弁護士の独占業務です。そのため、弁護士資格を有しない者が行った場合は、非弁行為となります。
弁護士は法律の専門家であるため、不用意に素人が介入することによって、当事者や関係者の利益を損害する恐れがあるために非弁行為を禁止されているのです。もし、非弁行為を行ってしまった場合は、弁護士法に抵触し、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」に処されます。
報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を行うこと
非弁行為に該当する行為として「弁護士もしくは弁護士法人以外の者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を行うこと」という例が挙げられます。
法律事件に関する法律事務とは、法律相談や代理人としての活動、契約書等の作成等が該当します。また、前提として「報酬を得る目的で」という言葉が含まれます。つまり、無償で法律相談等を行った場合は、非弁行為には該当しません。
たとえば、家族に法学部の学生がおり、その人に法律に関して世間話の流れで相談をしたとしましょう。この場合は、非弁行為に該当しません。
ただし、報酬には金銭だけではなくさまざまな物も含みます。たとえば、法律相談のお礼に食事に連れて行ってもらったり、何らかの品物をもらったりした場合は、非弁行為に該当してしまうため注意が必要です。
報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を周旋すること
報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を「周旋」することも、非弁行為に該当します。周旋とは「紹介」のことを指します。つまり、弁護士もしくは弁護士法人ではない人が、弁護士を含む第三者に紹介した場合も非弁行為となるのです。
弁護士を紹介すること自体に問題はありませんが、「報酬を得る目的で」弁護士を紹介した場合は、非弁行為となるため注意しなければいけません。
非弁行為には例外がある
非弁行為は「弁護士もしくは弁護士法人以外の者が、弁護士にしか認められていない業務を行うこと」を指します。しかし、例外もあります。それは、司法書士もしくは行政書士に認められている行為です。
司法書士や行政書士もいわゆる「法律の専門家」であり、一部例外的に法律業務を認めています。これを「非弁行為の例外」と言います。
非弁行為の要件
非弁行為は以下の要件を満たしている場合に成立します。
- 弁護士または弁護士法人ではない
- 報酬を得る目的がある
- 訴訟など一般の法律事件に関すること
- 法律事務の取り扱いまたはその周旋を業としている
- 法律によって認められた行為でないこと
次に、非弁行為に該当するための要件について詳しく解説します。
弁護士または弁護士法人でない
非弁行為は、弁護士または弁護士法人ではないことが前提です。そもそも、非弁行為とは「弁護士もしくは弁護士法人以外の者が」という前提があります。これらのものが、弁護士の独占業務を行うことによって成立するためです。
弁護士が弁護士の独占業務を行っても、当然有資格者であるため何ら違法性はありません。そのため、非弁行為に該当するためには、「弁護士もしくは弁護士法人以外の者」であることが要件です。
なお、弁護士法人とは弁護士を社員とする法人のことを指します。つまり、弁護士法人=弁護士が業務を行っていることになるため、非弁行為には該当しません。
報酬を得る目的がある
非弁行為が該当するためには、報酬を得る目的があることが要件です。報酬とは、金銭の他に品物や接待を受けることによっても成立するため注意が必要です。
たとえば、弁護士資格を有していないものの、法律に詳しい知人Aさんに法律相談を行い、金品を支払ったとしましょう。この場合、Aさんは非弁行為として罪に問われてしまいます。
一方で、弁護士資格を有しない知人Aさんに無償で法律相談をした場合は、報酬を得ておらず、得る目的もないため非弁行為には該当しません。ただし、非弁行為に該当しないとはいえ、弁護士資格を有していない一般の人の法律を鵜呑みにしてしまうと、思わぬトラブルに発展する恐れもあるため注意してください。
訴訟など一般の法律事件に関すること
報酬を得る目的で、訴訟や法律事務などに関することを行った場合に非弁行為となります。たとえば、本人訴訟と言って弁護士の資格を有していない人が自ら訴訟を提起することができます。
しかし、「知人のAさんは法律に詳しいから依頼しよう」と言って金品を支払って訴訟準備を依頼したとしましょう。この場合は、非弁行為に該当してしまいます。一方で、無償であれば非弁行為には該当しません。
そして、たとえば「相続に関することを金融の専門家であるファイナンシャルプランナーに有償で相談をした」という場合です。相続も一見すると法律に関連することのように思われますが、これは非弁行為には該当しません。なぜなら、訴訟や法律事件に関することではないためです。
ただし、相続の申請は税理士の独占業務であり、相続登記は司法書士の独占業務、調停を行う場合の代理人は弁護士となるため注意しましょう。
法律事務の取り扱いまたはその周旋を業としている
法律事務の取り扱いまたは、その周旋を業として行っている場合に非弁行為が該当します。法律事務とは訴訟や法律相談などのことを指します。これらの行為を行って報酬を得た場合に非弁行為が該当します。
また、有償で弁護士を含む第三者を周旋(紹介)した場合に非弁行為が成立します。弁護士を紹介すること自体に問題はありませんが、有償で行ってしまうと、非弁行為に該当するため注意しましょう。
法律によって認められた行為でないこと
法律によって認められていない行為ではないことをした場合に、非弁行為となります。非弁行為に該当する行為については、後ほど詳しく解説しますが以下のようなものが該当します。
- 鑑定行為
- 代理行為
- 仲裁行為
- 和解行為
- その他法律行為
逆にいえば、上記に該当しない行為であれば、弁護士法に抵触しないため非弁行為にはあたらないと考えて良いです。
非弁行為に該当する行為
非弁行為に該当する行為は以下のとおりです。
- 鑑定行為
- 代理行為
- 仲裁行為
- 和解行為
- その他法律行為
次に、非弁行為に該当する行為について詳しく解説します。
鑑定行為
弁護士が行う鑑定行為は、弁護士の独占業務であるため、無資格の者が行った場合は非弁行為となります。鑑定行為とは、具体的には法律の専門家としての知見や意見を述べたり示したりすることを指します。
弁護士は法律の専門家であり、その信ぴょう性のもとで成り立っています。もし、弁護士資格を有していない人がその知見を述べたり示したりしてしまえば、思わぬトラブルを起こしかねません。
たとえば、まったく法律の知識がない人が「私は弁護士です」と名乗り、適当なことを述べてしまえば、混乱を招くことは容易に想像できます。そのため、鑑定行為は弁護士の独占業務として認められており、有資格者以外が行えば非弁行為になります。
代理行為
弁護士が行う代理行為も弁護士の独占業務であり、無資格者が行った場合は非弁行為となります。弁護士が行う代理行為とは、さまざまな場面での代理人となることです。
たとえば、刑事事件を例に見ると被疑者や被告人の代理人として弁護活動をします。また、被害者がいる事件である場合は、代理人として被害者と示談交渉等を進めます。上記のように誰かの代理人となって交渉等を行う場合は、弁護士の独占業務であり、無資格者が行えば非弁行為になるため注意しましょう。
なお、自動車事故の場合、保険会社が代理人となって当事者の保険会社の担当者同士が話し合うことがあります。これは、「示談代行」と呼ばれる行為であり、一見すると弁護士の独占業務に該当するように思われるでしょう。しかし、弁護士が行う代理業務には該当しません。
そもそも、示談交渉は当然に弁護士が行う業務であり、独占業務であることに間違いはありません。昔は、示談代行は弁護士の独占業務であり、非弁行為であるとされてきました。
しかし、保険会社と日弁連の間で何度も話し合いが行われ、現在では原則示談代行が非弁行為に該当しないとされています。とはいえ、事故の内容次第では非弁行為に該当し、弁護士を介さなければいけないこともあるため注意しましょう。
仲裁行為
弁護士が行う仲裁行為も独占業務であるため、無資格者が行うと非弁行為に該当します。弁護士が行う仲裁行為とは、当事者間の争いで解決をできない場合に間に入り、解決を目指すことです。
では、紛争解決を目的とした調停を行う際、調停委員は全員弁護士なのか?といえば、そういうわけではありません。調停も「第三者が間に入って解決を目指す」という点では、弁護士の独占業務のように思えるでしょう。
しかし、調停委員は法務大臣から認証を得ているため、非弁行為には該当しません。つまり、調停委員であっても法務大臣からの認証がない場合であって、報酬を得て調停に参加した場合は非弁行為に該当します。
和解行為
弁護士が行う和解行為も弁護士の独占業務となるため、無資格者が行った場合は非弁行為に該当します。和解行為とは、民事訴訟や刑事事件、慰謝料請求などあらゆる場面で折り合いを付け、和解を目指すことです。
もちろん、「有償で行った場合」に非弁行為となるため、無償で行う場合は非弁行為には該当しません。また、当事者同士で和解を目指す行為も非弁行為には該当しません。
その他法律行為
その他法律行為に該当する場合は、非弁行為としてみなされる可能性があります。たとえば、弁護士を語って有償で法律相談を受けたり、有償でのリーガルチェックなどが非弁行為に該当します。
本記事で何度もお伝えしているとおり、あくまでも「有償」である場合に非弁行為となることを覚えておきましょう。家族や友人等に世間話の中で法律的な知見を話たり示したりすることに違法性はありません。
非弁行為によって問われる罪
非弁行為によって成立する犯罪は「弁護士法違反」です。次に、弁護士法違反の内容や非弁行為の成立要件、法定刑について詳しく解説します。
弁護士法違反
非弁行為は弁護士法によって禁止されています。具体的には、弁護士法第77条・第74条にて禁止されており、主に以下のことについて明記されています。
【弁護士法第74条 非弁護士の虚偽標示等の禁止】
弁護士法第74条で禁止されている「非弁護士の虚偽標示等の禁止」とは、弁護士法人もしくは弁護士ではない者が、弁護士法人もしくは弁護士を表示や記載をした場合に成立します。
【弁護士法第77条 非弁護士との提携等の罪】
弁護士法人第77条で禁止されている「非弁護士との連携等の罪」とは、以下のような行為が該当します。
- 周旋(紹介)
- 係争権利の譲り受け
- 弁護士等ではない者が弁護士にしか認められていない行為を行うこと
- 譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止
弁護士法第77条で禁止されている行為は、先ほど解説した非弁行為に該当する行為であると考えておけば良いです。つまり、先ほど解説した非弁行為はすべて、弁護士法によって禁止されている行為であると考えれば良いです。
非弁行為の成立要件
非弁行為は、弁護士法第77条もしくは第74条に明記されています。弁護士法第74条では、弁護士や弁護士法人ではないものが、「自分は弁護士である」などと名乗る行為を禁止しています。
つまり、弁護士ではない者が「私は弁護士です」と記載したり表示したりした時点で成立要件を満たしていることとなるため注意しましょう。
弁護士法第77条では、非弁行為について明記しています。非弁行為については、先ほども解説したとおり以下の場合に成立要件を満たします。
- 弁護士または弁護士法人ではない
- 報酬を得る目的がある
- 訴訟など一般の法律事件に関すること
- 法律事務の取り扱いまたはその周旋を業としている
- 法律によって認められた行為でないこと
弁護士や弁護士法人以外の者が上記に該当する行為を行った場合は、弁護士法違反となるため注意しましょう。
非弁行為の法定刑
弁護士法第74条に抵触した場合は、100万円以下の罰金が科されます。弁護士法第77条に抵触した場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
弁護士ではない者が「私は弁護士です」と虚偽の記載や表示をしただけでも最大100万円の罰金刑となるため注意が必要です。また、非弁行為を行った場合は、懲役刑もあり得るため、絶対にやめましょう。
非弁行為に該当するケース・しないケース
現在、日本国内ではさまざまなサービスが多くあります。中には、弁護士しかできない業務ではないか?と思われるような行為もあるでしょう。
そこで、よくある法律行為について、非弁行為に該当するのか?非弁行為に該当しないのか?について、事例をもとに詳しく解説します。
無報酬での法律相談は非弁行為?
無報酬での法律相談は非弁行為に該当しません。たとえば、あなたが弁護士を目指していたとしましょう。そして、現時点で弁護士資格を有していません。しかし、あなたは弁護士を目指していることから、法律に詳しい人であり、その事実を友人や家族等が認識していると仮定します。
ある日、知人がトラブルに遭い、法律に詳しいあなたに対して何らかの相談をしてきたとしましょう。そしてあなたは自分の知見に基づいてアドバイスをしました。この行為自体に違法性はありません。
あなたが法律に詳しい人であり、あくまでも自分の知見をもとに無償でアドバイスをしただけであるためです。
では、上記の例であなたが相談料を受け取ったとしましょう。この場合は、非弁行為に該当してしまいます。仮に、相談料ではなくても、相談者が「法律相談に乗ってくれたお礼に食事をご馳走する」と言われ、応じた場合も非弁行為に該当するため注意が必要です。
非弁行為における「有償」の定義は、広義で使われる点に注意しましょう。必ずしも金銭のみではなく、食事や品物であっても非弁行為に該当するため注意が必要です。あなたの気持ちで無償で法律相談に応じた場合は、非弁行為には該当しません。
また、自称法律に詳しい人であって、無償で法律相談に応じたとしましょう。もし、自称法律に詳しい人の見解が間違っていたとしても違法性はありません。
退職代行は非弁行為?
現在は、退職代行は非弁行為に該当しないという見方が強いです。そもそも、退職代行とは、労働者の代わりに勤務先に対して退職の意思を伝え、退職のサポートを行うサービスを指します。
退職は労働者の権利ではあるものの、「なかなか退職させてもらえない」「退職を告げることができない」と悩まれている労働者が多いです。そういった人たちをサポートするためにあるのが退職代行サービスです。
退職代行は、当然営利目的で行われているため、労働者側から料金を受け取ります。一方で、提供しているサービスは、一見すると「交渉」のように思われるため、非弁行為に該当するのではないか?といった見方もあります。
実際、現在は多くの退職代行サービスがあり、中には非弁行為に該当している会社もあるかもしれません。そのため、退職代行サービスを利用する際は、前提として「弁護士監修」もしくは「弁護士運営」であるところが安全でしょう。
そして、退職代行の違法性について考えるためには、退職代行が行っているサービスごとに考える必要があります。主なサービス内容は以下のとおりです。
- 退職の意思を伝える
- 退職届の提出
- 会社と労働者の間に入り、窓口となる
- 未払い賃金等の請求
- 条件に関する交渉
まず、退職の意思を伝える行為は、労働者本人の意思を伝えているに過ぎないため、非弁行為に該当しません。極端なことを言うと、労働者の親が勤務先へ連絡をして退職の意思を伝えても違法性はないのと同じです。
そして、退職届の提出は一見すると「代理行為」に該当するように思われるかもしれません。しかし、親や配偶者等が代理人として退職届を提出しても違法性はないように、退職代行サービスが代理して提出しても違法性はありません。つまり、非弁行為には該当しません。
退職代行サービスは、労働者と勤務先が直接やり取りをせずに済むように間に入り、お互いの窓口となります。この行為は、程度によって非弁行為となる可能性はあるものの、退職の意思を伝えたり、勤務先側の伝言を伝える程度であれば非弁行為に該当しないと考えられています。
そして、未払い賃金等の請求については、原則弁護士が行わなければいけません。ただし、言い方の問題であって「本人(労働者)から未払い金があり、〇〇までに指定口座にお振込いただくよう、伝言を受けています」のように、あくまでも伝言を伝える形であれば、非弁行為には該当しません。
注意すべき点は、未払い賃金を請求したり交渉したりした場合は、非弁行為に該当する可能性が高いということです。
条件に関する交渉についても、非弁行為に該当する可能性は高いです。ただし、あくまでも「労働者からの伝言を伝えている」という形であれば、違法性はなく、非弁行為には該当しません。
退職代行は法律的な部分も多く、非弁行為に該当してしまうケースも珍しくはありません。そのため、利用する際は「弁護士監修」もしくは「弁護士運営」のサービスを利用すると安心でしょう。
債権回収は非弁行為?
債権回収は、基本的に非弁行為に該当しません。まったくの一般人が債権回収業者として行う場合は非弁行為になりますが、「債権回収業者」として債権回収を行っている場合は、非弁行為には該当しません。
そもそも、弁護士法では「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と明記されています。つまり、弁護士以外であっても法律によって認められた業者であれば、非弁行為には該当しないというものです。
債権回収業者は「サービサー」と呼ばれており、「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」という法律に従って運営されています。本法律では、債権回収業者(サービサー)およびファクタリング会社の債権回収を認めています。
よって、債権回収が直ちに非弁行為に該当するとは言えないということになります。
争いの仲裁行為は非弁行為?
争いの仲裁行為が直ちに非弁行為に該当するとは言えないものの、非弁行為に該当する可能性もあるため注意が必要です。非弁行為に該当するかどうかについては、争いごとの仲裁行為が法律行為に該当するかどうかで考える必要があります。
たとえば、「AさんとBさんが路上で口論をしていたため、通りすがりのCさんが仲裁に入った」という事例であれば、法律行為には該当しません。つまり、非弁行為には該当しません。
一方で、たとえば「賃貸人と賃借人の間で敷金返還に関する争いがあり、仲裁に入る」という場合は、法律行為に該当します。よって、報酬を得る目的で仲裁に入った場合は、非弁行為に該当するため注意が必要です。
このように、そもそも法律行為に該当するかどうか、報酬を得ているかどうかによって非弁行為かどうかの基準が異なります。
離婚カウンセラーは非弁行為?
離婚カウンセラーは、直ちに非弁行為には該当しません。ただし、離婚カウンセラーの業務を超えた場合は、非弁行為に該当するため注意が必要です。
そもそも、離婚カウンセラーとは、夫婦問題の専門家である人問題を抱えている夫婦の間に入り、お互いにとって良い結果を見出すためのアドバイス等を行う人です。この行為自体に違法性はないため、非弁行為には該当しません。夫婦関係を修復するためにお互いの話を聞き、打開案などを提案するだけであるためです。
しかし、法律問題や交渉等を行い、報酬を得た場合は非弁行為に該当するため注意が必要です。法律相談とは、たとえば「相手の不貞行為により慰謝料を請求したいから、その手続きをしてほしい」や「法律に関する相談に乗ってほしい」といった場合です。
無償であれば問題はないものの、離婚カウンセラー自体、営利目的であり、当然に報酬が発生します。よって、非弁行為に該当します。
立退交渉は非弁行為?
報酬を得る目的で立ち退き交渉を行った場合は、非弁行為に該当します。立ち退き交渉とは、賃借人に立ち退きをしてもらうために交渉を行うことです。報酬を得る目的で立ち退き交渉を行った場合は、非弁行為に該当するため注意が必要です。
たとえば、再開発に伴い建物を取り壊すことになっていたとしましょう。現物件オーナーは、物件の売却を承諾しているものの、賃借人が立ち退きを拒否していると仮定します。
このとき、物件オーナーが直接賃借人と交渉を行う場合は非弁行為に該当しません。なぜなら、報酬を得ているわけではなく、報酬を得る目的もないためです。オーナー自身は、早くその物件を売却して売却によるお金を得たいと考えているためです。
一方で、たとえば弁護士資格を有していない人に報酬を支払う約束をして、立ち退き交渉をした場合は非弁行為に該当します。なぜなら、報酬を得て弁護士にしか認められていない行為を行ったためです。
弁護士紹介は非弁行為?
有償で弁護士を紹介する行為は、「周旋」に該当するため非弁行為に該当します。たとえば、知人に「誰か知り合いの弁護士はいない?」と聞かれ、「前にお世話になったことのある弁護士の先生を紹介するね」というのは問題ありません。
しかし、「紹介する代わりに紹介料もらうね!」などと言い、実際に報酬を得た場合は非弁行為に該当します。なお、報酬の定義は広義であり、たとえば「食事に連れて行ってもらう」というだけでも成立してしまうためくれぐれも注意しましょう。
保険会社の示談交渉は非弁行為?
保険会社が示談交渉を行った場合は、非弁行為に該当します。保険会社が示談を行う行為は、「示談交渉」ではなく、「示談代行」と呼ばれます。示談代行については、原則、非弁行為には該当しないと解釈されるのが一般的です。
交通事故等における「示談交渉」は弁護士にしか認められていない行為であり、弁護士以外の者が有償で行った場合は非弁行為に該当します。保険会社は、保険料を受け取っているため、示談交渉を行えば非弁行為に該当するため、交渉は行いません。
保険会社が行うのは、あくまでも「示談代行」であり、保険加入している被保険者に代わって代行をするというものです。かつては、保険会社が保険代行を行うこと自体非弁行為であると解釈されており、違法であるとの見方がありました。
しかし現在は、加害者が任意保険に加入している場合は、保険会社同士の話し合いとなるため、加害者と同様に示談代行を行える立場にあると解釈されています。
ただし、保険会社が示談代行をできないケースもあるため注意が必要です。たとえば、加害者もしくは被害者に過失がない場合です。この場合に示談代行を行ってしまうと、非弁行為となるため認められていません。
非弁行為が禁止されている理由
非弁行為が禁止されている主な理由は以下のとおりです。
- 依頼者に不利益を与える可能性
- 法律秩序の乱れの恐れ
次に、非弁行為が禁止されている理由について詳しく解説します。
依頼者に不利益を与える可能性
弁護士資格のない人が法律に介入することによって、依頼者に不利益を与える可能性があります。そもそも、弁護士は司法試験に合格したうえで司法修習を修了しして初めて与えられる資格です。
一定の法律知識に加え、実務的な経験もしたうえで与えられる資格であり、無資格者と比較すると法律知識には大きな差があります。
たとえば、自分で勉強をしてある程度法律に詳しくなれたとしても、弁護士資格を有している人と比較すれば劣るのは当然です。そのため、知識の乏しい人が不用意に法律に介入してしまうことによって、依頼者に対して不利益を与えてしまう恐れがあるでしょう。
法律は、交渉や代理、訴訟などさまざまな場面で活躍します。そのため、依頼者にとって人生を左右させるような判決が下されることも珍しくはありません。弁護士としての資格を有し、信頼できる人に任せたいと考えるのは当然であり、不利益を与えるような行為は禁止されています。
法律秩序の乱れの恐れ
弁護士資格を有しない人が、不用意に法律に介入してしまうことによって、法律秩序が大きく乱れてしまう恐れがあります。弁護士は弁護士法という法律に従ってその職務を全うしています。
その職務の誠実適正な遂行のために、必要な規律に服すべきものとされるなど、非常に厳しく規制されている法律・資格でもあります。そのため、これらの法律知識を持たない、意識もない一般の人が介入してしまうことによって、法律秩序が大きく乱れてしまう恐れがあるのです。
上記のことから、弁護士資格を有しない人の法律行為等は、厳しく規制されているのです。
非弁行為で逮捕された場合の流れ
非弁行為は弁護士法違反であり、罰則規定もあるため逮捕されてしまう可能性があります。万が一、非弁行為によって逮捕されてしまった場合は、どのような流れで事件が進んでいくのでしょうか。
次に、逮捕された場合の流れについて詳しく解説します。非弁行為を行ってしまった経験がある人、非弁行為に該当する行為をしようとしている人は、今後、自分に起こる可能性がある事実として参考にしてください。
逮捕
逮捕とは、罪を犯した疑いのある人の身柄を拘束するための手続きです。そのため、非弁行為(犯罪)を行った場合は、逮捕されてしまう可能性があります。
ただし、罪を犯したからと言って必ずしも逮捕されるとは限りません。逮捕をするためには、逃亡の恐れがある場合や証拠隠滅の恐れがあるなど、一定の条件を満たしている必要があるためです。
そのため、非弁行為が認められたからといって、必ずしも逮捕されるわけではないことを覚えておきましょう。とはいえ、罪を犯したことは事実であるため、可能性はゼロではありません。
万が一、逮捕されてしまった場合は、最大で48時間の身柄拘束が可能となります。この間は、留置所と呼ばれる場所に収容され、原則1日8時間を超えない範囲で取り調べを受けることになります。
当然、逮捕されて身柄を拘束されている身であるため、自宅へ帰ることができず、学校へ行けなかったり会社へ行けなかったりすることによるさまざまな弊害が考えられるでしょう。
また、逮捕されなかったからといって、罪に問われないわけではありません。あくまでも「在宅事件」として捜査されるに過ぎません。在宅捜査の場合は、自宅に帰ることはできるものの、警察等から呼び出しを受けた場合は応じなければいけません。
呼び出し等に応じなければ、逮捕されてしまう恐れもあるため注意しましょう。
事件の送致
逮捕された場合、警察官は逮捕から48時間以内に事件を検察官へ送致しなければいけません。これを「身柄付送致」と呼びます。逮捕されていない被疑者を送致する場合は、期限に定めがなく、「書類送検」と呼びます。
身柄付送致された場合、検察官は引き続き被疑者の身柄を拘束する必要があるか?について検討しなければいけません。身柄拘束の必要があると判断された場合は、勾留請求を行う流れです。
なお、事件はすべて原則検察官へ送致しなければいけず、これを「全検送致」と言います。ただし、例外があり「微罪処分」というものがあります。
微罪処分は、警察官の判断で検察官へ事件を送致せずに終了させることです。非弁行為の場合は、比較的軽微な犯罪であることから、程度によっては微罪処分となる可能性もあるでしょう。
勾留請求の判断
検察官が「引き続き身柄拘束の必要がある」と判断された場合は送致から24時間以内に、裁判官に対して勾留請求を行います。その後、被疑者を裁判所へ連れて行って、裁判官が勾留質問を行い、最終的に裁判官が勾留の有無を判断する流れです。
勾留が認められた場合は、初めに10日間の身柄拘束が可能となります。その後、勾留延長されるケースが大半であり、さらに10日間の身柄拘束となる可能性があり、最長で20日間もの間勾留されてしまいます。
そのため、逮捕から勾留期間を合わせると23日間もの間、身柄拘束されてしまうことになるため、社会的影響も大きくなるでしょう。
上記のことから、「勾留の必要がない」という主張をしていく必要があります。勾留も逮捕時同様に逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れがなければできません。
起訴・不起訴の判断
勾留された被疑者の場合、勾留期間中に被疑者を起訴するか不起訴とするかを判断しなければいけません。身柄拘束されていない被疑者の場合は、期限に定めがありません。
不起訴となった場合はその事件については終了します。しかし、不起訴になったからといって、必ずしも無罪であるとは限りません。たとえ罪を犯した事実があっても、あえて起訴しないこともあります。とくに比較的軽微な非弁行為に該当する場合は、あえて起訴せずに不起訴処分とするケースもあります。
起訴された場合は、正式起訴と略式起訴のいずれかの方法が選択されることになるでしょう。正式起訴とは、通常通り刑事裁判を行うための起訴方法です。
略式起訴とは、刑事裁判を開かずに略式命令を下して事件を終了させる起訴方法です。略式起訴が選択された場合は、早期に事件が解決し、釈放される点がメリットであると言えます。
一方で、刑事裁判を開かれない分、弁解する機会を与えられない点がデメリットです。自分の犯した罪について、弁解したい場合はデメリットとなることを覚えておきましょう。なお、検察から略式起訴を提案された場合は、断ることもできます。
刑事裁判
正式起訴された場合は、刑事裁判を受けます。刑事裁判では、あなたの犯した罪について審理し、有罪か無罪かを判断します。非弁行為を行った事実がある以上、無罪となることはありません。
有罪である場合は、どの程度の刑罰に処するべきかを審理し、最終的に判決として言い渡します。
刑罰に従って刑に服する
言い渡された判決が確定した場合、その刑罰に従って刑に服します。懲役刑であれば一定期間刑務所に収監されます。罰金刑であれば、罰金を納めて事件は終了します。
非弁行為で罪に問われた場合のリスク
非弁行為で罪に問われた場合、以下のようなリスクが発生します。
- 長期勾留のリスク
- 社会的なリスク
- 経済的なリスク
次に、非弁行為によって発生し得るさまざまなリスクについて詳しく解説します。
長期勾留のリスク
非弁行為が認められた場合、長期間にわたる勾留リスクが発生するため注意しましょう。まず、可能性として考えられるのは逮捕(最長48時間)です。悪質な場合は、身柄を拘束したうえで取り調べを行います。
その後、検察官へ送致(最長24時間)され、勾留請求が認められれば最長で20日間の身柄拘束が可能です。このときまでで最長23日間もの間、身柄を拘束され続けてしまいます。
さらに、起訴された場合は刑事裁判で判決が確定するまでは拘束が続きます。起訴された場合は、保釈請求を行うこともできますが、経済的な余裕がなければ保釈金を支払うことができず、結果的に長期間の勾留となるでしょう。
最終的に、判決が言い渡されて懲役の実刑判決が下された場合は、数年単位で刑務所に収監されることになります。合計、最長で2年程度の懲役となる可能性があり、未決勾留日数を参入されたとしても、2年間は社会に戻ることができません。
裁判で刑罰が確定するまでの間に、犯罪の疑いをかけられて身柄を拘束されている期間を指します。逮捕や勾留、刑事裁判を受けるまでの勾留期間が該当し、この期間を裁判所の判断で刑期に算入することができます。
社会的なリスク
非弁行為によって逮捕・勾留・実刑判決を受けることによって、さまざまな社会的リスクが発生し得る可能性があります。まず、逮捕された時点で身柄を拘束されてしまうため、学校や会社へいくことができません。
連絡がなければ無断欠勤扱いとなり、社会的な影響が出るでしょう。仮に、連絡を入れたとしても、逮捕された事実によって社会的な信用を失ってしまう恐れがあります。
逮捕されたからといって、必ずしも退学処分になったり解雇処分になったりすることはありません。しかし、その可能性はゼロではないため、非弁行為によって職を雨しなてしまう可能性があることを覚えておきましょう。
また、仮に罰金刑で済んだとしても、有罪判決を受けた事実は変わりません。結果的に前科が残ります。前科が残ることによって、就職活動に影響を与える可能性もあるため、非弁行為による社会的リスクは大きいものであると言えるでしょう。
経済的なリスク
非弁行為を行うことによって、経済的なリスクが発生します。まず、罰金刑で済んだ場合、数十万円〜数百万円程度の罰金を支払わなければいけません。仮に、罰金を支払うことができなければ、労役場留置となり、身柄を拘束したうえで労働を強いられます。
仮に、罰金を支払えたとしても、逮捕〜判決までの間で身柄を拘束された場合は、働くことができないため経済的な損失となり得るでしょう。
非弁行為による逮捕に関するよくある質問
非弁行為に関するよくある質問を紹介します。
Q.結局、無償であれば問題ないのですか?
A.基本的には「無償であれば問題ない」と考えていて良いです。
基本的に、非弁行為は「報酬を得る目的」であることが前提です。そのため、無償であれば罪に問われることはありません。
しかし、あなたが法律相談をする側だとすると、注意すべき点があります。それは、「慈善事業でやっている」「報酬はもらっていない」などと声をかけてくる人の大半は、非弁行為を行っている悪質な者であるケースが多い点です。
たとえば、交通事故に遭った際に近くにいた人が「何かあったら相談に乗るよ」と声をかけてきたとしましょう。「示談交渉等を無料でやりますよ!」などと言ってきた場合は注意が必要です。
これらは、いわゆる「示談屋」「事件屋」と呼ばれる人たちであり、「慈善事業でやっている」などと言葉巧みに勧誘します。しかし、最終的には法外な報酬を請求してくるケースが大半です。
また、法律知識を有していない者が法律行為を行うことによって、あなた自身も不利益を受ける可能性があります。そのため、「無償であるから」といって信用はしないようにしましょう。
なお、本記事で何度もお伝えしている通り、たとえば仲間内の世間話で「〇〇の場合どうなの?」のように、簡単な相談をする場合は非弁行為に該当しません。それこそ、無償であれば問題ない行為であると言えます。
Q.たとえば、家族間で法律にちょっと詳しい人がアドバイスをするのは非弁行為ですか?
A.無償であれば問題ありません。
身近な法律に詳しい人に相談をする分には違法性はありません。もちろん、「無償であれば」という前提のもとです。何度もお伝えしている通り、非弁行為は有償である場合に成立する犯罪です。
有償の定義は広義であり、たとえ「相談に乗ってくれたからお小遣いをあげる」と言われて受け取ったとしても非弁行為に該当します。バレるかバレないか、の問題で言えばバレる可能性は低いかもしれません。
しかし、「法律に詳しい者」として行うべきではないことは言うまでもありません。絶対に報酬を得ることはやめましょう。
Q.マッチングアプリ等で「私は弁護士です」と嘘を付くのは非弁行為になりますか?
A.非弁行為に該当する可能性があります。
弁護士法では、弁護士や弁護士法人ではない者が弁護士や弁護士法人を表示したり記載したりする行為を禁止しています。そのため、当然これらの行為も非弁行為に該当します。ただし、法定刑は100万円以下の罰金であり、刑罰は比較的軽いです。
なお、弁護士ではない者が弁護士を名乗って交際を行ったり金銭を詐取した場合は、詐欺罪に該当するため注意してください。
Q.親族の相続放棄手続きを代理するのは非弁行為ですか?
A.有償で行った場合は非弁行為に該当する可能性があります。
相続放棄の手続きは司法書士もしくは弁護士にのみ認められている代理行為です。銀行も一部行為は認められているものの、法規手続きの代理は認められていません。よって、非弁行為に該当します。
ただし、親族間であって無償で行う場合は非弁行為には該当しません。なぜなら、非弁行為は「報酬を得る目的で」という前提があるためです。なお、何度もお伝えしているとおり、報酬の定義は広義であり、接待や品物を受け取ることも認められていません。
あくまでも「無償」であれば、非弁行為に該当しないということを覚えておきましょう。
Q.弁護士事務所に所属する事務員が行う法律行為は非弁行為ですか?
A.非弁行為に該当します。
弁護士事務所に所属する事務員は「弁護士」ではないため、法律行為を行うと非弁行為に該当します。所属している弁護士のサポートを行う場合は非弁行為には該当しないものの、法律行為を行うと非弁行為に該当するため絶対にやめましょう。
まとめ
今回は、非弁行為について解説しました。非弁行為は、弁護士や弁護士法人にしか認められていない行為を行うことであり、弁護士法によって禁止されています。
非弁行為を行った場合は、罰金刑のみならず懲役刑の可能性もあり、最悪の場合は長期勾留のリスクもあるため絶対に避けなければいけません。
非弁行為は「有償」で行うことが前提となっています。そのため、無償で人にアドバイスをすることは禁じられていないため、その点は安心してください。本記事を参考にしていただいたうえで、非弁行為を行わないようにくれぐれも注意しましょう。