被害届とは「被害にあった事実を申告すること」であり、とくに法的効力のあるものではありません。そのため、被害届が取り下げられたからといって、何らかの法的効力が生じることもありません。
とはいえ、被害届が取り下げられることによって被害者の処罰感情が気薄化していることが明らかとなり、処分や刑罰に影響を与える可能性が考えられます。
上記のことからも、「どうにかして被害届を取り下げてほしい」と考えている人が多いかもしれません。この記事では、そもそも被害届とは何か?取り下げてもらうためにはどうすれば良いのか?について詳しく解説します。
目次
被害届とは
被害届とは、被害者が被害に遭った事実を申告するための書類です。被害届を提出・受理されることによって、警察等の捜査機関は被害のは性を認知し、捜査等を行うことになります。その後、事件性があると判断された場合は事件化され、被疑者を処罰する流れです。
また、被害者は被害届を取り下げることも可能です。そのため、罪を犯した側からすると「被害届を取り下げて欲しい」と考えるでしょう。原則可能ではあるものの、被害者の処罰感情次第であるため、必ずしも取り下げてもらえるとは限りません。
まずは、被害届とは何か?について、詳しく解説します。被害届が提出・受理された場合の効力についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
犯罪被害に遭ったことを申告するもの
被害届とは、犯罪被害が発生したことを警察等の捜査機関に申告することを指します。通常は、被害が発生した場所を管轄する警察署もしくは交番に被害届を提出することとなります。
被害届が提出されたからといって、必ずしも捜査が開始されるとは限りません。捜査を開始するかどうかは、警察官の判断に委ねられています。
たとえば、騒音トラブルや借金問題など刑事事件として扱うことのできない場合は、事件化することができないためそもそも捜査対象にはなりません。他にも、公訴時効がすぎている場合も捜査対象にはなりません。
公訴時効とは、犯罪ごとに決められている公訴できる期限を指します。公訴時効を迎えると公訴できなくなるため、そもそも捜査が行われません。
被害届を提出することによって、警察が事件を認知し、捜査のきっかけになります。しかし、それ以上でもそれ以下でもありません。あくまでも、「犯罪被害を申告書類」であることを覚えておきましょう。
被害届は原則受理される
被害届は、原則受理されます。被害届は、管轄区域の事件であるかどうかを問わず、原則受理しなければいけません。原則というのは、明らかに虚偽の被害届である場合などは、受理されないケースもあるためです。ただ、ほとんどのケースで被害届は受理されることを覚えておきましょう。
側から見れば「被害届を出すほどのことなのだろうか?」と思われる事案であっても、被害者の処罰感情が厳しければ厳しいほど、被害届を提出される可能性が高まります。被害届は、被害者が「提出する」と決めれば、原則受理されてしまうものです。
そのため、自分自身が「さほど悪いことをしていない」と思っていても、被害届が受理されてしまう可能性があることに注意しましょう。
被害届と告訴は異なる
被害届は「犯罪被害に遭ったことを申告するための書類」です。一方で、告訴は「犯罪被害を申告して犯人に処罰を求めること」です。それぞれの違いは、「犯人に対して処罰を求めているかどうか」です。
被害届の場合は、あくまでも「私はこういった被害に遭いました」と申告する行為を指します。一方で、告訴は「私は、〇〇から被害を受けました。〇〇に対して処罰を求めます」という意思表示をすることです。
刑法の中には「親告罪」というものがあります。親告罪は、被害者からの告訴がなければ処罰することができません。そのため、被害届と告訴は似て非なるものであることを覚えておきましょう。
被害届を取り下げてもらう方法
被害届を取り下げてもらうためには、被害者自ら警察署等に行って被害届取り下げの書面を記入してもらう必要があります。相手の処罰感情が厳しい場合は、被害届を取り下げてもらうことはとても難しいでしょう。
とはいえ、以下のことを行うことによって、被害届を取り下げてもらえる可能性があるでしょう。
- 反省している態度を示す
- 示談交渉を成立させる
- 被害者自身から書面で取り下げてもらう
次に、被害届を取り下げてもらう方法について解説します。ただし、これから解説する方法は100%の方法ではありません。あくまでも、被害者の処罰感情によるものであるため、その点には注意してください。
反省している態度を示し、しっかり謝罪する
初めに、反省している態度を示して被害者に対してしっかり謝罪することが大切です。自分の犯した罪を素直に認めたうえで謝罪をしましょう。
謝罪をしたからといって、被害者の処罰感情が薄れるとは限りません。しかし、謝罪の思いがあるのであれば、その旨を伝えることによって処罰感情が気薄化する可能性もゼロではないでしょう。まずは、誠心誠意謝罪することから始めましょう。
被害者と示談交渉を成立させる
可能であれば、被害者と示談交渉を成立させておきましょう。示談交渉とは、加害者側が被害者に対して謝罪し、被害弁済や慰謝料を支払う代わりに許してほしいとお願いをする交渉です。お願いが成立すれば、「和解」として示談成立となります。
示談が成立した場合は、被害者側から検察官や裁判官に対して「嘆願書」というものが提出されます。嘆願書は「私は加害者である〇〇と和解しているため、処罰を望みません」といった書面です。
告訴罪の場合は、告訴の取り下げの時点で罪に問われることはなくなります。しかし、告訴罪以外の場合は、嘆願書が提出されたからといって必ずしも罪に問われなくなるとは限りません。そもそも、嘆願書には法的拘束力がないためです。
とはいえ、嘆願書が提出されたことによって、被害者の処罰感情がなくなっていることは明らかです。そのため、処分や刑罰に影響を与える可能性は高いです。また、被害者の処罰感情がなくなったことが明らかとなるため、被害者は被害届を取り下げることとなるでしょう。
被害者自身から書面で取り下げを行う
もし、示談交渉等が成立し、被害者自身の処罰感情がなくなった場合は、被害者自ら被害届を取り下げる必要があります。取り下げの方法は、基本的には警察署に行って「被害届を取り下げたいです」と伝えて書面を記載すれば良いです。
なお、示談交渉時に「示談成立に伴い、被害届を取り下げる」などの一文を作成しておく必要があります。そのため、必ず弁護士に相談をしたうえで示談交渉を進めるようにしましょう。
示談交渉とは
示談交渉とは、「被害者との和解交渉」のことを指します。あくまでも交渉であるため、必ずしも成立するとは限りません。しかし、和解が成立した場合は、被害届を取り下げてもらえることとなるため、被疑者にとっては大きなメリットになり得ます。
次に、そもそも示談交渉とは何か?について詳しく解説します。
被害者との和解交渉
示談交渉は、被害者と「和解」をするための交渉です。和解とは、簡単に言えば「仲直りすること」です。被害者は被害を受けている以上、加害者に対して厳しい処罰感情を抱いていることでしょう。
しかし、何らかのことをきっかけに「加害者のことを許そう」と思えることがあるかもしれません。お互いに、「許してほしい」という気持ちと「許してあげよう」という気持ちが一致したときに「和解」となります。
ただし、法律上の和解は口約束ではなく、書面によって書き記す必要があります。これが「示談書」です。
示談書は、加害者側の弁護人が作成して被害者に署名や押印をもらうことによって成立します。一般的には、示談をするにあたって以下のような内容のことを記載し、被害者が納得した場合に成立します。
- 事件の内容
- 謝罪の意
- 示談条件
示談書でもっとも重要な部分は「示談条件」です。加害者側は、被害者に対して金銭等を支払います。その代わり、嘆願書もしくは被害届の取り下げをする、といった条件が記載されます。
そのため、示談交渉が成立することによって、被害者に金銭を支払わなければいけません。一方で、被害届の取り下げ等、加害者にとっても大きなメリットが発生します。
基本的に弁護士への相談・介入が必須
示談交渉を行う場合は、基本的に弁護士へ相談をしたうえで介入してもらうことが必要です。そもそも、法律上の「交渉」は弁護士もしくは当事者同士しか行うことができません。
当事者同士で示談交渉を行うことはできるものの、基本的にはおすすめできません。その理由は「有利な条件で交渉を進めるため」です。
法律知識のない人同士が交渉を行うことによって、自分にとって不利な条件で示談交渉が成立してしまう恐れがあります。また、被害者目線で見ると、犯罪の内容によっては「加害者が怖い」と感じているケースもあります。
怖い人から示談交渉を直接依頼された場合、「応じなければ何をされるかわからない……」と不安な気持ちになってしまう恐れもあるでしょう。このことから、第三者であり法律の専門家である弁護士に介入してもらったうえで示談交渉を行うことが好ましいです。
示談金の相場は事件の内容次第
示談する場合は、加害者が被害者に対して金銭を支払います。これを「示談金」と呼びますが、示談金の相場は事件の内容や被害者の処罰感情等によって異なるため、一概には言えません。
ただ、一般的には「被害弁済額+慰謝料」が相場です。被害弁済額とは、犯罪被害による損失部分を指します。たとえば、窃盗の場合は窃盗品相当額が被害弁済額になります。他にも、窃盗被害に遭ったことによって発生した損害額等を慰謝料に含み、示談金として支払わなければいけません。
【注意】必ず示談が成立するとは限らない
示談交渉をしたからといって、必ずしも成立するとは限りません。示談交渉は、あくまでも被害者の処罰感情次第です。被害者が「絶対に許せない」という気持ちがあれば、示談を提案しても応じてもらえないため注意しましょう。
示談は、被害者の気持ち次第であることを念頭に置き、無理やり交渉するようなことは絶対にないようにしなければいけません。なお、示談交渉に応じないほど処罰感情が厳しい場合は、被害届の取り下げも厳しいでしょう。他の方針を弁護人と話したほうが良いです。
被害届を取り下げてもらった場合のメリット
もし、示談交渉等によって被害届を取り下げてもらえた場合、以下のようなメリットが発生します。
- 事件化されない可能性がある
- 不起訴となる可能性がある
次に、被害届を取り下げてもらえた場合のメリットについて詳しく解説します。
事件化されない可能性
事件化されないとは、警察が事件として認知をしていても正式に事件として扱わないことを指します。事件として扱われなければ、当然刑事罰を受けたり何らかの処分を受けたりすることはありません。
また、事件化されなければ、警察等から取り調べを受けることもありません。もっと言うと、「前歴」が付くこともありません。
前歴とは、「犯罪の嫌疑をかけられ、捜査の対象となったこと」です。前科とは異なり、日常生活に影響を与えることはありませんが、警察内部で「前歴あり」と記録され、今後犯罪を犯した場合に影響が出る可能性があります。
ただし、被害届を提出された時点で事件化として進められてしまう可能性があります。そのため、できるだけ早めに被害者の示談交渉を進め、早期に被害届の取り下げを依頼する必要があるため注意しましょう。
不起訴となる可能性
被害届の取り下げによって、不起訴処分となる可能性があります。刑事事件において、警察が事件化した場合は、原則すべての事件を検察へ送致しなければいけません。これを「全件送致の原則」と言います。
送致された後に検察官が被疑者を起訴するか不起訴とするかを決定し、起訴された場合は刑事裁判を受けます。最終的に有罪判決が下されれば、下された判決に従って刑罰を受けなければいけません。
ただし、被害届を取り下げられた場合は、不起訴処分となる可能性があるのです。不起訴処分の種類はさまざまですが、結果はすべて同じであり、「この事件について刑罰を科さない」という決定であると考えれば良いです。
たとえば、「起訴猶予」という不起訴処分を得られた場合は、「罪を犯した事実はあるものの、起訴して刑罰を科すほどではない」と判断されたことになります。起訴をされた場合は、99%の確率で有罪判決となると言われているため、罪を犯した加害者にとってみると、大きなメリットになるでしょう。
被害届を取り下げてもらう際の注意事項
被害届を取り下げてもらう際は、以下のことに注意しましょう。
- 被害届の取り下げ=事件化・不起訴とは限らない
- 被害者を脅すのは絶対にNG
- 被害届の取り下げは、被害者の処罰感情による
次に、被害届を取り下げてもらう際の注意事項について解説しますので、参考にしてください。
被害届の取り下げ=事件化・不起訴とは限らない
被害届が取り下げられたからといって、必ずしも事件化されない、不起訴処分となるとは限りません。そもそも、被害届と告訴の違いは、先ほど解説したとおりです。告訴の場合、「親告罪」であれば告訴の取り下げと同時に罪に問われなくなります。
しかし、被害届の場合は告訴とは異なるため、親告罪であっても告訴を取り下げてもらえなければ処罰対象となります。
そして、親告罪以外である場合は、被害届の取り下げに伴って「被害者の処罰感情が気薄化した」という事実にしかすぎません。もちろん、刑事事件においては被害者の処罰感情が処分や刑罰に影響を与えるのは事実です。
だからといって、必ずしも刑事罰等を免れるわけではありません。常習性や事件の態様等を考慮したうえで、検察官や裁判官が判断することであるため、被害届の取り下げに過度の期待を持たないようにしましょう。
被害者を脅すのは絶対にNG
被害届を取り下げてほしい一心で、被害者を脅すのは絶対にやめましょう。被害者を脅すことによって、被害者が恐怖心を感じて被害届を取り下げるかもしれません。しかし、加害者自身が強要罪や脅迫罪といった罪に問われる恐れもあります。
警察としても「なぜ被害届を取り下げるのか?」「被害者が脅されているのではないか?」といった点を心配して確認をすることもあります。そのため、結果的に脅していたことが発覚し、さらに厳しい刑事罰が科される恐れもあるため絶対にやめましょう。
被害届の取り下げは、被害者の処罰感情による
被害届の取り下げは、前提として「被害者の処罰感情」によります。処罰感情が非常に厳しい被害者の場合は、「絶対に被害届を取り下げません」という姿勢の人がいるかもしれません。
加害者は、あくまでも被害者にお願いをする立場であることを忘れずに、しっかりと謝罪をしたうえで被害届の取り下げを依頼しましょう。
被害届を取り下げてもらえなかった場合のリスク
被害者の処罰感情が厳しく、被害届を取り下げてもらえなかった場合は、以下のようなリスクが発生するため注意しましょう。
- 逮捕の可能性
- 起訴される可能性
- 刑罰を受ける可能性
- その他さまざまな可能性
次に、被害届を取り下げてもらうことができなかった場合のリスクについても解説します。
逮捕の可能性
被害届が提出された場合、逮捕されてしまう可能性があります。逮捕とは、「罪を犯した疑いのある人の身柄を強制的に拘束すること」です。逮捕によって効力の発生する期間は最長で48時間です。
つまり、逮捕された場合は最長で48時間にわたって身柄拘束をされてしまうことになるのです。この間は、留置所と呼ばれる場所に収容されるため、自宅へ帰ることはできず、会社や学校へ行くこともできません。
また、逮捕後は検察官へ事件を送致され、勾留請求された場合はさらに20日間の身柄拘束が可能となります。そのため、逮捕〜勾留までで最長23日間の身柄拘束となる点に注意しましょう。
なお、被害届を提出したら逮捕される。あるいは、被害届を取り下げられたから逮捕されない。といった決まりはありません。被害届を提出された場合であっても、逮捕せずに捜査するケースもあれば、そもそも事件化せずに終了するケースもあります。
起訴される可能性
被害届が出されているということは、被害者の処罰感情もある程度強いことを意味します。そのため、起訴されてしまう可能性があるため注意しましょう。「起訴」とは、裁判所に対して訴訟を提起することです。
起訴された場合は、原則刑事裁判を行ってあなたの犯した罪について審理し、有罪か無罪かを決定します。有罪である場合は、どの程度の刑罰に処するかを決定し、判決として言い渡します。
刑罰を受ける可能性
起訴された場合は、何らかの刑罰を受ける可能性が非常に高いです。犯した罪の内容によっても異なりますが、罰金刑や科料といった財産刑、懲役刑や禁錮、あるいは勾留といった自由刑、死刑(生命刑)のいずれかの刑罰が下されることになるでしょう。
その他さまざまな可能性
その他発生し得るリスクとして考えられるのは、社会的なリスクでしょう。たとえば、逮捕、勾留されることによって、長期間にわたって自宅へ帰ることができなくなります。
結果的に、退学処分となったり解雇処分となったりし、社会復帰が難しくなってしまうこともあります。そのため、可能であれば早期に被害者と示談交渉を進めるなどして、被害届の取り下げを目指していくべきでしょう。
被害届を取り下げられなかった場合の流れ
被害届を取り下げてもらえなかった場合、先ほども解説したとおり逮捕されたり起訴されたりする可能性があります。もし、逮捕や起訴された場合は、どのような流れで事件は進んでいくのでしょうか。
次に、逮捕〜判決確定までの大まかな流れについても解説します。なお、本記事で何度もお伝えしているとおり、被害届を取り下げられたとしても、これから解説する流れに従って処罰される可能性もあるため注意しましょう。
逮捕
被害届の取り下げの有無に関わらず、罪を犯した事実がある場合は逮捕される可能性があります。逮捕は、「罪を犯した疑いのある人の身柄を拘束し、取り調べを行うための行為」です。
つまり、逮捕されるということは、強制的に身柄を拘束されるということです。身柄拘束をしたうえで、事件について取り調べを行います。
ただし、罪を犯したからといって、必ずしも逮捕されるわけではありません。逮捕という行為は、人の身柄を強制的に拘束する行為であるため、「逃亡の恐れ」や「証拠隠滅の恐れ」がなければ、原則逮捕することはできません。
もし、罪を犯した事実はあるものの、上記のような恐れがない場合は在宅捜査として捜査が進められます。在宅捜査の場合は、自宅へ帰ることはできるものの、警察や検察等からの呼び出しがあった場合は応じなければいけません。
そして、逮捕によって生じる効力の期限は「逮捕から48時間以内」です。つまり、1回の逮捕によって身柄拘束が発生するのは最長でも48時間ということです。この間で、再逮捕された場合はさらに延長されていくことになるため注意しましょう。
その後、取り調べが完了次第検察官へ事件を送致します。これを「身柄付送致」と言います。在宅捜査の場合は、期限に定めはなく送致することを「書類送検」と呼ぶことを覚えておくと良いでしょう。
勾留請求
事件を引き継いだ検察官は、被疑者を引き続き勾留する必要があるかどうかを判断します。勾留に必要となる条件は、逮捕時同様に「証拠隠滅の恐れ」や「逃亡の恐れがあるか」などで判断されます。
検察官が勾留の必要性を判断する期限は24時間以内です。この時間内に「勾留の必要がある」と判断された場合は、裁判官に対して勾留請求を行います。裁判官が勾留を認めれば、さらに最長で20日間の身柄拘束が可能となります。
そのため、逮捕から勾留まで最長23日間の身柄拘束が発生する可能性があることを覚えておきましょう。
起訴・不起訴の判断
検察官は、勾留期間中(20日以内)に被疑者(罪を犯した疑いをかけられている人)のことを起訴するか不起訴とするかを判断します。被害者と示談交渉が成立している場合や、被害届が取り下げられている場合などは、不起訴となる可能性もあるでしょう。
他にも、証拠が揃っていない場合や刑罰を処するほどでもないと判断された場合なども、不起訴処分となる可能性があります。
起訴された場合は、「正式起訴」もしくは「略式起訴」のいずれかが選択されます。正式起訴は一般的な起訴方法であり、刑事裁判を行って最終的に判決を言い渡すまでが一連の流れです。
略式起訴は、刑事裁判を開かずに略式命令を言い渡して事件が終了します。刑事裁判が開かれない分、早期に事件を終了させられる点が大きなメリットです。しかし、略式起訴は100万円以下の罰金にしか選択されることはありません。
そのうえ、刑事裁判が開かれないため弁解する機会を与えられない点が大きなデメリットです。自分の主張を伝えることができず、一方的に判決(略式命令)が言い渡される点は、被告人(起訴された人)にとってはデメリットになり得るでしょう。
なお、略式起訴は断ることもできるため、弁護人と話し合ったうえでその後の対応方法について検討すると良いでしょう。
刑事裁判を受ける
正式起訴された場合は、刑事裁判が開かれます。刑事裁判では、あなたの犯した罪について審理し、有罪か無罪かを決定します。その後、判決として刑罰を言い渡すまでが流れです。
罪を犯した事実がある以上、無罪となる可能性はゼロに近いです。そのため、有罪判決を前提としたうえで、いかにして刑罰を軽くするかについて努力する必要があります。このとき、被害者の処罰感情の強さも影響するため、被害届の取り下げ有無は刑罰に影響を与えます。
判決に従って刑に服する
最終的に判決が言い渡された場合は、その判決に従って刑に服します。日本の刑罰は、大きく分けると「財産刑」「自由刑」「生命刑」の3種類があります。
財産刑であれば金銭納付をして事件は終了しますが、支払えなければ労役場留置となるため注意しましょう。自由刑であれば、一定期間刑務所に収容されます。生命刑であれば、自分の死をもって罪を償わなければいけません。
被害届の取り下げに関するよくある質問
被害届の取り下げに関するよくある質問を紹介します。
Q.被害届を出されているか知る方法はありますか?
A.知る方法はありません。
被害届を提出されているかどうかを知る方法はありません。警察へ連絡をしても教えてもらうことはできません。
もし、被害者が知り合いである場合は、被害者から「〇〇について被害届を提出しました」などと言われることがあるかもしれません。唯一知れる方法は、被害者に聞く方法しかないでしょう。
なお、被害届を提出されたからといって被害者に対して被害届を取り下げるよう脅すのは絶対に避けましょう。むしろ、厳しい刑罰が下される可能性があるためです。
Q.被害届が一度取り下げられた後、再提出の可能性はありますか?
A.再提出の可能性はゼロではありませんが、可能性としては限りなく低いでしょう。
そもそも、被害届とは「被害に遭ったことを申告する書類」でしかなく、何ら法的効力のあるものではありません。そのため、そもそも「被害届が取り消される」ということはありません。
被害届を取り下げることによって、「処罰感情がなくなった」という意思表示を行うに過ぎず、「取り消す」というものではありません。よって、新たに被害届を提出しようとすると、重複していることとなるため基本的に受理されないということです。なお、被害届の再提出を禁止するような法律はありません。
Q.被害届を取り下げないことによる、加害者からの接触が怖いです。どうすれば良いですか?
A.警察へ相談をしてください。
被害届の取り下げを行わないことによって、実害が発生している場合は警察へ相談をしてください。実害が発生していない場合であっても、相談に乗ってくれるため、まずは被害届を提出した警察署へ相談されることをおすすめします。
Q.非親告罪の場合は、被害届の取り下げがどのように影響しますか?
A.被害届の取り下げが法的な効力を与えることはありません。
非親告罪なのか親告罪なのかに関係なく、そもそも被害届の取り下げによる法的効力はありません。よって、法律的には「影響しない」と考えるべきでしょう。
ただし、被害届が取り下げられることによって、被害者であるあなたの処罰感情がなくなっていることが明らかとなります。このことにより、刑罰や処分に影響を与える可能性は十分にあるでしょう。
なぜなら、刑事事件においては被害者の処罰感情が刑罰や処分に大きな影響を与えるためです。一概には言えませんが、処罰感情が厳しければ厳しいほど、厳しい判決が言い渡されますし、気薄化していれば比較的軽い処分等が下される傾向です。
Q.被害届の取り下げはどのように交渉すれば良いですか?
A.基本的には、弁護士を介して示談交渉という形で交渉を進めます。
被害届の取り下げに関する交渉は、当事者同士でも行えますが、基本的には弁護士を通して行います。当事者同士で示談交渉を行おうとすると、書面にミスがあったりお互いにとって不利な条件で和解となる可能性があるためです。
「絶対に弁護士へ相談をしなければいけない」といった決まりはないものの、弁護士へ相談をしたほうがスムーズな交渉が可能となるでしょう。
Q.加害者本人が被害者と直接交渉しても良いのですか?
A.良いですが、おすすめはできません。
犯罪の内容次第では、被害者が加害者に対して「怖い」といった感情を抱いている可能性もあります。このような状況で示談交渉を行った場合、加害者にそのつもりがなくても、被害者が「怖い」「断ったら何されるかわからない」など、脅されているような気持ちになってしまうかもしれません。
上記のような状況下で成立した示談交渉は、後に不利となる可能性があります。たとえば、後から「本当は示談に応じたくなかったのですが、怖かったので応じるしかありませんでした」と言われる可能性があります。
この場合、せっかく示談交渉が成立したにも関わらず「被害者の処罰感情が強い」という状況になり、結果的に加害者にとって不利になる恐れがあるのです。そのため、弁護士などの第三者を介して交渉を行い、お互いに納得して和解するのが理想的です。
まとめ
今回は、被害届の取り下げについて解説しました。
そもそも被害届は、「犯罪の事実を申告すること」に過ぎず、法的効力はありません。そのため、取り下げられたからといって、何らかの法的効力が発生するものでもありません。
とはいえ、「被害者の処罰感情がなくなった」ということが明らかになる点で、加害者にとっては大きなメリットになります。
被害届の取り下げは、被害者の処罰感情によるものであるため、必ずしも成功するとは限りません。しかしまずは、弁護士へ相談をしたうえで示談交渉を行い、被害届の取り下げについても交渉をしてみると良いでしょう。