証拠がなくても訴えることは可能です。しかし、訴える場合は証拠がなければ自分の主張を裏付けることができないため、不利な判決を受ける可能性があります。
また、民事紛争における争いを解決するための「訴える」と刑事事件における「訴える」は手続きや要件が異なります。この記事では、そもそも「訴えるとは何か?」や訴えるための要件、証拠は必要なのか?について詳しく解説しています。
何らかの被害に遭い、訴えたい場合は本記事をぜひ参考にしてください。
訴えるとは
証拠がなくても訴えることは可能です。しかし、訴えるとはどのような行為を指すのかによってもさまざまな条件があるため注意しなければいけません。
一般的に「訴える」というのは、「訴訟提起」のことを指します。他にも、「警察へ訴える」という言葉を使う人もいます。警察へ訴えを起こすことはできず、「告訴する」もしくは「告発する」と言うのが一般的です。
まずは、訴えるとはどのような行為を指すのか?について詳しく解説します。
訴える=訴訟提起
一般的に「訴える」と言うのは、訴訟提起することを指します。訴訟提起とは、裁判所に対して訴状を提出して裁判を起こすことです。
訴状とは、原告(訴えを起こす人)が訴える内容等を記載して裁判所に提出する書類です。具体的には、訴える内容や理由、証拠等を添付して提出しなければいけません。
そのため、基本的には証拠となるものがなければ訴訟を提起することは可能です。しかし、訴訟提起にあたっては証拠の程度は定められていないため、訴訟提起段階ではとくに証拠がなくても可能です。
ただし、訴訟提起して裁判を行っていく過程で、証明をしなければいけません。証明をするためには、必ず証拠が必要となるため、訴えることは可能であっても裁判として成立するか、裁判に勝てるかと言う観点で見ると現実的ではありません。
たとえば、「別れた恋人に貸していたお金を返して欲しい」と言う訴訟を提起することもできます。しかし、お金を貸していた証明をしなければいけず、そのうえでお金が返ってきていないことを証明しなければいけません。
証拠提示は原告側に求められることであるため、基本的に証拠がなければ裁判では勝てません。なお、一般人が行う訴訟提起は民事訴訟です。民事的な争いごとについて訴える行為を「訴訟提起」と言います。
刑事事件の場合は「告訴・告発する」と言う
刑事事件において「訴える」という行為は、「告訴する」もしくは「告発する」という意味合いで使用されます。
先ほども解説したとおり、「訴える=訴訟提起」であることを考えると、刑事事件において訴える人は検察官です。検察官は、事件を進めていく過程で被疑者(罪を犯した人)を起訴することがあります。起訴するということは、訴訟を提起することと同じです。
つまり、何らかの犯罪被害に遭った人が「訴える」と言うのは、告訴もしくは告発すると言うことです。
「告訴する」とは、犯罪被害者もしくは法定代理人が捜査機関に対して、犯罪被害を申告して処罰の意思表示をすることです。刑法犯の中には、「親告罪」という犯罪があります。親告罪は、被害者もしくは法定代理人からの告訴がなければ罪に問うことができません。
一方で、「告発する」とは被害者もしくは法定代理人以外の第三者が犯罪について申告し、処罰を求めることです。告訴と告発の大きな違いは、「告訴・告発をできる人」です。
告訴は、犯罪被害者もしくは法定代理人であるのに対し、告発は誰でも行うことができます。たとえば、「同僚が会社のお金を横領している」というのは告発です。なぜなら、あなたが直接的な被害者ではないためです。
訴訟提起の要件
一般人が訴える(訴訟提起)するためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 被告の氏名・住所を把握
- 裁判所に対して訴訟を提起
次に、訴える(訴訟提起)ための要件について詳しく解説します。
被告の氏名・住所を把握
訴えを起こす場合は、被告の氏名及び住所を把握している必要があります。被告とは、「訴えを起こされた人」のことを指します。訴えを起こした人のことを「原告」と呼ぶことも合わせておきましょう。
被告の氏名及び住所を知っていなければ、訴えることはできません。しかし、相手の氏名は知っていても住所がわからないという人も多いのではないでしょうか。
一般的に訴えを起こす場合は弁護士へ相談をします。弁護士は、業務上必要である場合は、相手の住所を調査することができます。つまり、現状で相手の住所を把握していなくても、弁護士へ相談をすることによって訴えを起こすことは可能です。
裁判所に対して訴訟を提起
訴状の準備が出来次第、被告の普通裁判籍の所在地の裁判所に対して訴訟を提起します。普通裁判籍とは、民事訴訟上、事件の管轄を定める場所のことです。
日本国内では、各市区町村に裁判所があるわけではありません。そのため、被告が住んでいる場所を管轄する裁判所に訴訟を提起すると考えておけば良いでしょう。訴訟を提起する場所は「被告側」であり、「原告側」ではない点に注意してください。
告訴・告発の要件
刑事事件における「訴える」は、告訴もしくは告発のことを指します。告訴もしくは告発をするためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 犯罪事実の申告
- 犯人に対して処罰を求めている
- 告発人・告訴人が実在している
次に、告訴もしくは告発の要件について詳しく解説します。
犯罪事実の申告
大前提として、告訴もしくは告発をする場合は「犯罪事実の申告」である必要があります。犯罪事実の申告とは、犯罪があった事実を申告することを指します。当然ながら、嘘の告訴や告発は認められません。
もし、嘘の告訴・告発をした場合は「虚偽告訴罪」という犯罪が成立するため注意しなければいけません。
とはいえ、犯罪と思われる行為があった場合に警察へ通報する行為は「告訴」や「告発」には該当しません。たとえ、通報した後に実は犯罪ではなかったような場合であっても、虚偽告訴罪には該当しないため安心してください。
たとえば、相手を陥れる目的で虚偽の告訴・告発をしたような場合は、虚偽告訴罪という犯罪が成立するというだけです。もし、自分が犯罪被害に遭った場合は、その旨を警察等の捜査機関へ告訴すれば良いです。この場合は、一つ目の要件を満たしていることになります。
犯人に対して処罰を求めている
告訴・告発はいずれも犯人に対して処罰を求めていることが要件です。たとえば、犯罪被害に遭った人が「私は〇〇の被害に遭いました。相手に対して処罰を求めます」と伝えることによって告訴もしくは告発が成立します。
ただ「〇〇で被害にあっています」「〇〇で犯罪が行われています」というだけでは、告訴もしくは告発にはなりません。いわゆる、「訴える」という行為には該当しないということです。上記は、あくまでも捜査機関への通報に過ぎません。
告発人・告訴人が実在している
告訴をした人もしくは告発した人が実在していなければいけません。「告訴」を例に見ると犯罪被害者もしくは犯罪被害者の法定代理人のように、実在している人でなければ告訴は成立しません。これは、告発も同様です。
証拠がなくても訴えること(訴訟提起)は可能
証拠がなくて訴えることは可能です。しかし、訴訟提起においては裁判を進められない、刑事上であれば受理されないといったことが起こり得ます。
次に、証拠がなくても訴えることは可能なのか?について詳しく解説します。
証拠がなくても「訴訟提起」は可能
証拠がなくても「訴える(訴訟提起)」することは可能です。そもそも、訴訟提起するためには、「裁判所へ訴状を提出すること」のみです。
裁判所へ訴状を提出して受理されれば、それで訴えたことになります。ただし、「訴訟要件」を満たしていなければいけません。
訴訟要件は主に「当事者に関する訴訟要件」「訴訟対象に関する訴訟要件」「裁判所に関する訴訟要件」の3種類があります。いずれの場合も必ずしも証拠が求められるわけではないため、訴訟提起を行ううえで「証拠」は必ずしも必要ありません。
裁判上では「証拠」が必要不可欠
訴状を提出した場合、裁判が開始されます。裁判では、原告および被告それぞれの主張を言い合い、最終的に判決を言い渡すのが一般的な流れです。
しかし、裁判を進めていくうえで自分が主張する内容を裏付ける証拠がなければ、主張が認められません。
たとえば、「Aさんに貸したお金1,000万円を返してほしい」という訴訟を提起したとしましょう。この場合、原告であるあなたがAさんにお金を貸した事実、返ってこない事実等を主張することになるでしょう。しかし、この主張を裏付ける証拠がなければ主張は認められません。
ただし、民事紛争に関しては必ずしも訴える(訴訟提起)のみで解決を目指す必要はありません。「調停」という方法もあります。調停の場合は基本的に、調停委員が間に入って当事者同士で話し合いを行って和解を目指す方法です。
調停の場合は、必ずしも証拠が必要ではありません。そのため、訴える前にまずは弁護士へ相談をしたうえで、解決方法を検討してみると良いでしょう。
証拠がなくても「告訴・告発」は可能
刑事事件の場合は、「告訴」もしくは「告発」と言います。証拠がなくても告訴もしくは告発することは可能です。
たとえば、「〇〇でひったくりに遭った」という被害があった場合、証拠と呼べるものは何もないでしょう。しかし、警察へ告訴・告発をすることができます。
証拠がなければ受理されない可能性がある
証拠がなくても告訴や告発は可能です。基本的には被害申告のみで告訴や告発は受理されます。ただし、犯罪の内容次第では証拠がなければ受理されない可能性もあるため注意しなければいけません。
たとえば「知らない人に突然殴られた」という主張をしたとしても、殴られた事実を客観的に証明することができなければ受理されない可能性があります。殴られた事実は、見た目(腫れや赤みなど)で判断することができます。また、病院を受信して診断書を受け取ることで証拠になるでしょう。
しかし、上記のような証拠が一切なく、初動捜査を進めても被害にあった事実を認めることができない場合は、告訴・告発が受理されないケースもあります。基本的には被害申告のみで告訴・告発は可能ですが、可能な限り証拠を集めておいたほうが良いでしょう。
証拠がない場合の対処法
証拠がない場合は、以下の対処法を検討しましょう。
- 弁護士へ相談をする
- 証拠となり得る些細な物も集めておく
次に証拠がない場合の対処法について詳しく解説します。
弁護士へ相談をする
訴訟提起や告訴・告発は一個人であっても行えます。しかし、証拠がない場合は弁護士へ相談をしたほうが良いでしょう。些細な物であっても証拠能力を有している場合があり、弁護士に相談をすることによって証拠を最大限有効に活用してもらえる可能性があります。
たとえば、金銭賃借によるトラブルであれば、LINEやメールに残っている内容でも証拠として扱うことが可能です。弁護士へ相談をすることによって、相手に対して圧力をかけ、訴える前に返金してもらえるケースもあるでしょう。
さまざまなケースを考慮しても、初めに弁護士へ相談をしておくことをおすすめします。
証拠となり得る些細な物も集めておく
些細な物であっても証拠となり得るものは集めておくと良いでしょう。証拠になる物は事件の内容によって異なります。金銭貸借であればLINEやメールに残されている会話の内容が証拠になります。
その他の事件であれば、周囲の人の証言や映像等が証拠となる可能性があるため、たとえ些細な物であっても残しておきましょう。
また、記録しておくことでその内容が証拠として扱われることもあります。事件当時の記憶を忘れてしまう前に記録しておくなど、できる限りのことをしておくと良いでしょう。
証拠がなくても訴えることは可能?に関するよくある質問
証拠がなくても訴えることは可能?についてよくある質問を紹介します。
Q.証拠はないのですが、弁護士へ相談をすれば訴えることはできますか?
A.訴えることは可能です。
本記事で解説したとおり、弁護士へ相談をしなくても訴えることは可能です。また、証拠がなくても訴えることは可能です。
しかし、自身の主張をしていくうえで証拠能力は必要不可欠です。そのため、少なからず証拠を揃えておいたほうが良いです。もし、現状で証拠と呼べるものがないのであれば、まずは弁護士へ相談をしたうえで証拠を集めるのもひとつの手段でしょう。
また、刑事事件でない限り、訴訟以外でも相手に対して何らかの行為を要求したり和解を目指したりすることは可能です。このことから、まずは弁護士への相談を検討してみると良いでしょう。
Q.どのようなことが証拠となりますか?
A.事件の内容によって異なるため、一概にはいえません。
どのようなものが証拠になるかは、それぞれの事件によって大きく異なります。刑事事件であれば、被害に遭った事実を証明できるものが証拠となり得るでしょう。些細なものであっても集めておくことで証拠能力を有する場合があります。
たとえば、被害に遭った状況をメモしていたり日記にしていたりすることによって、被害者がどれほど苦しんでいたかを客観的に証明することができます。
民事紛争であれば、メールやLINE等の連絡ツールの記録、書面、証言等が証拠になると考えられます。一概には言えないものの、事件に関係のありそうなものはすべて集めておくと有利に訴訟を進められるでしょう。
Q.被害申告だけでは罰することはできないのですか?
A.疑わしきは罰せずの原則に従っているためです。
犯罪を犯した人が罰を受けるためには、刑事訴訟を行って有罪判決を受ける必要があります。訴訟では、お互いの主張を裏付ける証拠がなければいけません。
たとえば、「人を殴って怪我をさせた」という傷害事件の場合、その事実を裏付ける証拠がなければ被告人を罪に問うことができません。これは、「疑わしきは罰せず」の原則に従っているためです。
疑わしきは罰せずとは、罪を犯したと疑われる人に対して、罪を犯したと疑うに足りる十分な証拠がなければ罪に問うことはできないという原則です。つまり、証拠能力が十分であり、罪を犯したと疑われている人が罪を犯したと言い切れる100%の証拠がなければ罪に問うことはできないのです。
1%でも無罪の可能性があるのであれば、罪に問うことはできません。そのため、警察や検察は100%罪を犯したと疑われるに足りる十分な証拠を集めることが求められています。
Q.病院からの診断書は証拠になり得ますか?
A.証拠になり得ます。
たとえば、暴行罪や傷害罪といった人に怪我をさせるような事件の場合、被害者自身が病院を受信して診断書を受け取ることによって、証拠として扱うことができます。
他にも、民事紛争で「職場でのパワハラが原因でうつ病を発症した」というような場合でも、うつ病になった事実の証明として、診断書が必要となります。いずれにせよ、何らかの被害に遭った場合は、診断書をもらっておいたほうが良いでしょう。
Q.証拠を提示するのは訴えた側ですか?訴えられた側ですか?
A.原告と被告双方が証拠を提示する必要があります。
民事訴訟は紛争を解決するために行われる裁判手続きです。被告側の主張に対して原告側も主張がある場合は、双方が証拠を提示しなければいけません。
たとえば、金銭の「借りた・返した(借りていない)」という争いがあったとしましょう。そして、「お金を貸した(返金されていない)」と主張する側が原告だとします。
上記の場合、お金を貸したもしくは返金されていないという主張を裏付けるための証拠を原告側が、行わなければいけません。一方で、原告側の主張を否定する場合は、「お金を返した」もしくは「借りていない」という主張を被告側が主張しなければいけません。
たとえば、原告側が「お金を貸して返ってきていない」という主張をして証拠を提出したとします。一方で、原告側が「お金を借りたが、全額返した」という主張のみをしたとしましょう。
上記の場合は、原告側の主張が認められる可能性が高くなります。なぜなら、原告側は証拠がある一方で、被告側は証拠がないためです。
つまり、上記のことからそれぞれの主張がある場合は、その主張を裏付ける証拠を提示しなければいけません。必ずしも証拠が必要ではないものの、なければ裁判で不利になります。
まとめ
今回は、証拠がなくても訴えることができるのか?について解説しました。
「訴える」というのは、民事なのか刑事なのかによってもその手続きは異なります。民事の場合は、訴訟提起を行います。刑事の場合は、告訴もしくは告発と言います。
いずれの場合も、証拠がなくても可能です。しかし、裁判まで発展した場合は、自分の主張を裏付けるための証拠がなければ意味がありません。お互いに主張が対立する場合は、より信ぴょう性の高い証拠を提示したものが有利になります。
仮に、対立していない争いであっても証拠があればあるほど、自分にとって有利な判決を受けられる可能性が高まります。告訴・告発の場合は、必ずしも証拠が必要ではないものの、受理されない可能性を考慮すると可能な限り証拠を用意しておいたほうが良いでしょう。
不安な場合は、弁護士へ相談をしたうえで訴訟等を検討してください。