通信傍受とは、警察や検察などの捜査機関が犯罪捜査の一環として、電話やメールなどの通信内容を秘密裏に取得する手続きです。しかし、他人の通信内容を無断で傍受することは本来違法であり、厳格なルールのもとでのみ認められています。
とくに、通信傍受が実施されるには、対象となる犯罪が限定されているほか、裁判所からの通信傍受令状の発付が必須です。また、傍受は通信事業者の協力を得て行われ、実施中の記録や監督体制も法律で細かく定められています。
上記のとおり通信傍受は、捜査の必要性や正当性が明確に認められた場合に限り、例外的に実施されるものです。今回は、通信傍受が実施される具体的な条件について詳しく解説します。
通信傍受とは
通信傍受とは警察や検察などの捜査機関が犯罪捜査のために電話やメールなどの通信内容を無断で受信・記録することを指します。本来であれば、相手に無断で通信を傍受する行為は違法行為に該当します。
しかし、警察等の捜査機関が正当に行う行為であり、裁判所から令状が発布されている場合は違法ではありません。まずは、通信傍受とは何か?通信傍受はどのようなケースで認められるのか?について詳しく解説します。
他人の同意を得ずに通信内容を傍受
通信傍受は、相手の同意を得ることなく電話やメールなどの通信内容を傍受することを指します。たとえば、薬物の密売組織が大々的に取引を行っていると疑われている場合、取引の内容や取引の場所を把握するために通信傍受することがあります。
万が一、通信傍受を行う相手に知られてしまった場合、当然対策されて検挙に結びつきません。そのため、相手に知られることなく、また、同意を得ることなく通信内容を傍受します。
犯罪捜査の目的で行われる
通信傍受は、犯罪捜査の目的で行われます。法律では「通信傍受法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)」で細かく規制、条件等が定められています。
通信傍受は、人の会話ややり取りを勝手に傍受する行為であるため、正当な理由がなければ行うことはできません。正当な理由に該当するかどうかは、すべて通信傍受法によって定められています。
なお、通信傍受はあくまでも捜査の一環として行われる行為です。どのような理由があっても、一般の人が勝手に通信傍受をしても良い理由はありませんのでくれぐれも注意してください。
通信傍受が実施される条件とは
通信傍受は他人の通信記録等を無断で傍受する行為です。そのため、無闇に通信傍受が実施されることはできません。さまざまな条件をクリアして初めて実施される行為であることを覚えておきましょう。
次に、通信傍受が実施される主な条件について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
対象犯罪に関連する通信が行われると疑うに足りる状況にあること
通信傍受が可能である犯罪は限定されています。通信傍受の対象となる犯罪は、以下のとおりです。
- 薬物関連
- 銃器関連
- 集団密航
- 組織的殺人
上記に該当する犯罪のやり取りが通信を介して行われていると疑うに足りる十分な証拠がある場合は、通信傍受を行うことができます。通信傍受の犯罪が限定的である理由は、犯行後の証拠集めや上層まで確実に検挙するためです。
末端のみを逮捕したとしても、首謀者等の検挙にまで至ることは困難であり、仮に検挙できても証拠がすべて処分されているケースが多いです。そのため、通信を傍受して確実な検挙を目指すために、上記犯罪の通信傍受を認めています。
裁判所が発付する令状が必須
通信傍受するためには、裁判所が発付する「通信傍受令状」が必要です。本令状がないままに通信傍受を行うことはできません。
通信傍受令状が発布されるためには、先ほど解説した「対象犯罪に関する通信が行われると疑うに足りる状況にあること」が条件です。
方法は通信事業者の協力の元で行う
通信傍受の方法は、通信事業者に依頼をしたうえで行うことが一般的です。まずは、裁判所に対して通信傍受の令状を請求し、発布され次第通信事業者を対象に協力を依頼し、通信状況を傍受します。
また、傍受している状況を記録・録画し、かならず監督間の立ち合いのもとで行わなければいけません。
なお、以下に該当する行為は違法行為であり、刑法犯に問われる可能性もあり得ます。
- 盗聴器を仕掛ける
- Wi-Fiを介したスマホの通信の盗聴
- 公共の無線LANを使用した傍受
- ハッキングによる通信内容の取得
捜査上必要であると認められた場合は、通信傍受を行うことができます。しかし、ルールは細かく決められており、違反した場合は傍受した内容を証拠として扱えないだけではなく、犯罪になる可能性があります。
通信傍受までの流れとは
実際に通信傍受が行われるまでの流れは以下のとおりです。
- 通信傍受の必要性を確認・承認を得る
- 令状を請求する
- 通信事業者に対して通信の傍受を命じる
次に、通信傍受が実施されるまでの流れについて詳しく解説します。
通信傍受の必要性を確認・承認を得る
まずは、通信傍受が認められる犯罪かどうかを確認する必要があります。先ほども解説したとおり、通信傍受が認められるためには、以下の犯罪に該当している必要があります。
- 薬物関連
- 銃器関連
- 集団密航
- 組織的殺人
次に、傍受をする必要性があることを確認しなければいけません。たとえば、通信を傍受しなければ、十分な証拠を得られないと判断された場合に通信傍受が可能となります。
令状を請求する
通信傍受が可能であると判断された場合は、裁判所に対して通信傍受令状の発布を請求します。裁判官は、通信傍受の対象犯罪であることを確認し、必要性や相当性を慎重に判断し、「通信傍受が必要である」と判断した場合は、令状を発付します。
通信事業者に対して通信の傍受を命じる
通信傍受令状が発布された場合は、通信事業者に対して傍受を実施します。通信傍受は、通信事業者の立ち会いのもとで行われます。傍受記録は厳格に管理され、適切に記録・保管・報告されなければいけません。
なお、傍受後は関係機関への報告義務があります。また、事件が終了した後に対象者に通知されるケースもあります。
通信傍受を実施される条件に関するよくある質問
通信傍受を実施される条件に関するよくある質問を紹介します。
Q.通信傍受は盗聴にならないのですか?
A.適切な手続きのもとで行われている場合は、盗聴にはなりません。
通信傍受は通称「通信傍受法」という法律に従って適切に行われます。そのため、通信傍受を行ったとしても何らかの法律に触れることはありません。
そもそも、日本の法律で盗聴行為を禁止する条文はありません。たとえば、盗聴をする目的で他人の家等に侵入した場合は、住居侵入罪等に問われる可能性があるだけです。「盗聴罪」といった犯罪は存在しないため、そもそも盗聴行為が違法となることはありません。
ただし、以下に該当する場合は通信傍受が違法となる可能性もあるため注意が必要です。
- 盗聴器を仕掛ける
- Wi-Fiを介したスマホの通信の盗聴
- 公共の無線LANを使用した傍受
- ハッキングによる通信内容の取得
通信傍受は捜査機関が行う捜査の一つであるため、基本的には上記のような不法行為による傍受行為は行われません。
Q.通信傍受でどの程度まで見られるのでしょうか?
A.やり取りの内容や相手、日時などのすべての通信履歴を確認できます。
通信傍受によって確認できる項目は、大きく分けると「やり取り内容」と「通信履歴」です。それぞれ確認できる具体的な内容は、以下のとおりです。
【やり取り内容】
- 電話での会話内容
- インターネット通話の音声データ
- メール本文やチャットメッセージの内容
【通信履歴】
- 通話した相手の電話番号、通話開始・終了時刻
- メールの送受信先アドレス、送信日時
とくに、犯罪の内容を話した場合はその部分が証拠として扱われます。たとえば、「◯月◯日◯時頃に〇〇と薬物売買に関する話をしていた」という事実があった場合は、その内容が証拠として扱われます。
Q.通信傍受を知る方法はありますか?
A.通信傍受を知る方法はありません。
通信傍受は対象者に知られずに行う必要があります。万が一、知られてしまった場合、対象者が証拠隠滅を図る可能性が高いためです。そのため、絶対に対象者には知られることなく手続きや傍受を進めなければいけません。
ただし、事件が終了した後などに対象者に対して通信傍受が行われていた事実を知らせる場合があります。通信傍受が実施されることを事前に伝えたり、何らかの方法で把握したりする方法はありません。
まとめ
今回は、通信傍受が実施される条件について解説しました。
通信傍受が認められるためには、対象犯罪であることや通信傍受が必要である正当な理由があることなどが条件です。すべての条件を満たして初めて、通信傍受令状が発付され、通信傍受が可能となります。
今回解説した内容を踏まえ、通信傍受に関する理解を深めてみてはいかがでしょうか。