わいせつ目的略取・誘拐罪は、わいせつな目的で被拐取者をその生活環境から不法に離脱させて実力的支配下に移したときに成立する犯罪類型です。
「1年以上10年以下の拘禁刑」という重い法定刑が定められているため、逮捕・起訴されると、初犯でも実刑判決が下されかねません。
そのため、わいせつ目的略取・誘拐事件を起こしたときには、速やかに刑事手続きの段階に応じた防御活動を展開して、少しでも軽い刑事処分獲得を目指す必要があると考えられます。
そこで、この記事では、わいせつ目的略取・誘拐事件を起こして刑事訴追のリスクに晒されている人や、家族が略取・誘拐事件を起こして逮捕された人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- わいせつ目的略取・誘拐事件を起こしたときに問われる可能性がある犯罪類型
- わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で逮捕されたときの刑事手続きの流れ
- わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事訴追されたときに生じるデメリット
- わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で逮捕されたときに弁護士に相談するメリット
目次
- 1 わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪とは
- 2 わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪で逮捕されたときの刑事手続きの流れ
- 3 わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪で刑事訴追されたときのデメリット4つ
- 4 わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の容疑をかけられたときに弁護士に相談するメリット5つ
- 5 わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の容疑で刑事訴追されたときには弁護士に相談しよう
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪とは
まずは、わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の構成要件や法的性質について解説します。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の構成要件
刑法第225条では、わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪について以下の定めを置いています。
第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
ここから、わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の構成要件として以下2つが導かれます。
- わいせつ目的
- 人を略取または誘拐する
わいせつ目的
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪が成立するには、略取行為・誘拐行為を「わいせつ目的」でおこなう必要があります。
わいせつ目的とは、姦淫など、被拐取者の性的な自由を侵害する目的のことです。被拐取者をわいせつ行為の客体にする場合だけではなく、被拐取者をわいせつ行為の主体にする場合も含まれます。
人を略取または誘拐する
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の実行行為は「略取・誘拐」です。
略取・誘拐とは、人をその生活環境から不法に離脱させて、自己または第三者の実力的支配下に移すことです。暴行または脅迫を手段としておこなう場合が「略取」、疑罔または誘惑を手段としておこなう場合が「誘拐」と区別されています(大判大正12年12月3日)。たとえば、ナイフを突きつけながら「言うことを聞かないとどうなるかわからないぞ」と脅して、被害者を自分の自動車に乗車させて鍵をかけたケースなどが挙げられます。
略取・誘拐の対象は被拐取者に限られません。被拐取者の監護者に対して略取・誘拐行為をおこない、その結果、被拐取者を自己または第三者の実力的支配下に移した場合にも、わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪は成立します。
また、本罪が成立するにあたって、被拐取者の場所的移転は必ずしも必要ではありません。たとえば、監護者の保護を排除することに成功すれば、本罪は成立すると考えられます。
さらに、略取・誘拐に成功したものの、その後のわいせつ行為に失敗したとしても、わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪は成立する点に注意が必要です。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の法定刑
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の法定刑は、「1年以上10年以下の拘禁刑」です。
法定刑に罰金刑が定められていないため、刑事裁判にかけられた場合には、執行猶予付き判決を獲得できるかがポイントになります。
そして、執行猶予付き判決を獲得するには、「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」という要件を満たさなければいけません。
ですから、不起訴処分の獲得に失敗して刑事裁判への対応を迫られたときには、刑事裁判の経験豊富な私選弁護人に依頼をして、酌量減軽を狙うなどの防御活動を展開してもらいましょう。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪は未遂犯も処罰される
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪は未遂犯も処罰対象です(刑法第228条)。
略取・誘拐の「実行の着手が認められた時点」、つまり、「既遂の具体的・客観的危険性が発生した時点」で、わいせつ目的略取未遂罪・わいせつ目的誘拐未遂罪が成立します。たとえば、わいせつ行為に及ぶ目的で被拐取者に凶器を突きつけたものの、被拐取者が犯人の隙を見つけて逃走に成功した場合などが挙げられます。
わいせつ目的略取未遂罪・わいせつ目的誘拐未遂罪の法定刑は、既遂犯と同じ「1年以上10年以下の拘禁刑」です。「未遂だから軽い量刑判断が下されるだろう」と油断していると初犯でも実刑判決が下されかねないので、適切な防御活動を展開するべきでしょう。
【参考】わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪と似た犯罪類型について
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪に関連する犯罪類型について解説します。
未成年者略取罪・未成年者誘拐罪
刑法第224条は、未成年者略取罪・未成年者誘拐罪について規定しています。
被拐取者が18歳未満の未成年者の場合、加害者がどのような目的を抱いていたとしても、略取または誘拐をした時点で本罪が成立します。また、被拐取者本人に対して暴行や誘惑をした場合だけではなく、監護者に対してこれらの行為を働いて未成年者を実力的支配下に移した場合にも、本罪は成立します。
未成年者略取罪・未成年者誘拐罪の法定刑は「3ヶ月以上7年以下の拘禁刑」です。未遂犯も処罰対象とされています(刑法第228条)。
なお、未成年者略取罪・未成年者誘拐罪、未成年者略取未遂罪・未成年者誘拐未遂罪は親告罪とされているので、告訴権者による刑事告訴がなければ、加害者の刑事責任が問われることはありません(刑法第229条)。本罪の告訴権者は、被拐取者本人、被拐取者の法定代理人などです(刑事訴訟法第230条など)。
ですから、未成年者を略取・誘拐した事案では、早期に示談交渉を成立させて被害者側に刑事告訴を取り消してもらえれば、刑事訴追のリスクをゼロにできると考えられます。
営利目的等略取罪・営利目的等誘拐罪
刑法第225条では、営利目的等略取罪・営利目的等誘拐罪について規定しています。
第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
本罪が成立するのは、「営利目的、わいせつ目的、結婚目的、生命もしくは身体に対する加害目的のいずれかで、被拐取者を略取・誘拐したとき」です。被拐取者の年齢は問われません。
- 営利目的:拐取行為によって財産状の利益を得ることを動機とする場合(最決昭和37年11月21日)
- わいせつ目的:省略
- 結婚目的:行為者または第三者と結婚させる目的(法律婚だけではなく事実婚も含む)
- 生命もしくは身体に対する加害目的:省略
営利目的等略取罪・営利目的等誘拐罪の法定刑は「1年以上10年以下の拘禁刑」です。未遂犯も処罰対象です。
身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪
刑法第225条の2第1項は、身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪について定めています。
第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
本罪は、行為者が「近親者その他略取・誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的」を有していたときに成立する目的犯です。
まず、「安否を憂慮する者」に該当するかどうかは、被拐取者との間の緊密な人的関係という「事実的要素」ではなく、安否を憂慮することが社会通念上当然であるという「規範的要素」から判断するというのが判例です。たとえば、近親者や事実上の保護関係にある者だけではなく、従業員が誘拐された場合の経営者や、企業の代表取締役が誘拐された事案における幹部なども、「安否を憂慮する者」に含まれると考えられています(最決昭和62年3月24日、東京地判平成4年6月19日など)。
次に、「憂慮に乗じて」とは、憂慮心痛を利用することです。
さらに、「憂慮する者の財物を交付すること」が目的とされていることから、被拐取者や第三者の財物を交付させる目的の場合には、身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪は成立しません(この場合には、強盗罪などの成否が問題になります)。また、交付の対象になるのは「財物」だけであり、「財産状の利益(債務の免除など)」は含まれません。
身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪の法定刑は、「無期または3年以上の拘禁刑」です。ただし、公訴が提起される前に、略取または誘拐された者を安全な場所に解放したときには、刑が減軽されます(刑法第228条の2)。
また、身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪は未遂犯も処罰対象とされています。さらに、身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪を犯す目的でその予備をしたときには、予備罪として「2年以下の拘禁刑」の範囲で刑事処罰されます。ただし、実行に着手する前に自首したときには、刑の減軽または免除が認められています(刑法第228条の3)。
身の代金要求罪
刑法第225条の2第2項では、身の代金要求罪が定められています。
第二百二十五条の二
2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪は「財物を交付させる目的で誘拐等をする行為」を対象としているのに対して、身の代金要求罪は「誘拐等をしたあとに身の代金を要求する行為」を処罰対象としています。たとえば、わいせつ目的で略取・誘拐をしたあとに、親権者などに対して身の代金を要求すると、身の代金要求罪が成立します。
身の代金要求罪の法定刑は、身の代金目的略取罪・身の代金目的誘拐罪と同じ「無期または3年以上の拘禁刑」です。公訴が提起される前に、略取または誘拐された者を安全な場所に解放したときには、刑が減軽されます(刑法第228条の2)。
身の代金要求罪は、「財物の交付を要求する行為」があれば既遂犯として処罰されます。つまり、要求の意思表示をすれば足りるのであって、その意思表示が相手方に到達することまでは必要ないということです。ですから、身の代金要求罪は構成要件のなかに未遂犯的な行為類型が含まれており、未遂犯の処罰規定は置かれていません(刑法第228条参照)。
所在国外移送目的略取罪・所在国外移送目的誘拐罪
刑法第226条は、所在国外移送目的略取罪・所在国外移送目的誘拐罪について定めています。
日本国外に移送する目的で略取・誘拐をしたときには、所在国外移送目的略取罪・所在国外移送目的誘拐罪が成立します。これは、日本国外への移送自体が被拐取者の自由及び安全を害すると考えられているからです。たとえば、オランダ国籍を有する犯人が、別居中の妻が監護養育をしていた2歳の長女をオランダに連れ去る目的で拉致した事案について、所在国外移送目的略取罪が成立するという判断を下した判例も存在します(最決平成15年3月18日)。
所在国外移送目的略取罪・所在国外移送目的誘拐罪の法定刑は、「2年以上の有期拘禁刑」です。本罪は未遂犯も処罰対象とされています。
人身売買罪
刑法第226条の2は、人身売買罪について規定しています。
第二百二十六条の二 人を買い受けた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
2 未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。
3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。
5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
たとえば、わいせつ目的で略取・誘拐をした場合にはわいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪が成立しますが、自ら略取・誘拐をしなかったとしても、わいせつ目的で人を買い受けた場合には、それだけで人身売買罪が適用されます。
人身売買罪は未遂犯も処罰対象です。
被略取者等所在国外移送罪
刑法第226条の3は、被略取者等所在国外移送罪について規定しています。
被略取者等所在国外移送罪の法定刑は「2年以上の有期拘禁刑」です。本罪は未遂犯も処罰されます。
被略取者引渡し等罪
刑法第227条では、被略取者引渡し等罪について定めています。
第二百二十七条 第二百二十四条、第二百二十五条又は前三条の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
2 第二百二十五条の二第一項の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
3 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿した者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。
4 第二百二十五条の二第一項の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、同様とする。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
たとえば、わいせつ目的で略取・誘拐された被拐取者を人に知られない状態に監禁などした場合には、第3項の被略取者蔵匿罪が成立するため、6ヶ月以上7年以下の拘禁刑の範囲で刑事罰が科されます。
なお、刑法第227条第1項、第2項、第3項、第4項前段の行為類型については、未遂犯も処罰対象です(第4項後段のみ未遂犯処罰規定なし)。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪
わいせつ目的で被拐取者を略取・誘拐したあと、実際に被拐取者に対してわいせつ行為に及んだ場合には不同意わいせつ罪が、性交等に及んだときには不同意性交等罪が成立します。
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
引用元:刑法|e-Gov法令検索
たとえば、略取・誘拐をして部屋に監禁したあと、被拐取者に無理矢理キスをしたり服の上から体を触ったりすると、不同意わいせつ罪が成立します。被拐取者がわいせつ行為に対して明示的に拒絶をしなかったとしても、略取・誘拐された状態の被拐取者はわいせつ行為等に対して同意しない意思を形成できる状態とは考えにくいので、同罪でも刑事訴追される可能性が高いでしょう。
不同意わいせつ罪の法定刑は「6ヶ月以上10年以下の拘禁刑」、不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」です。わいせつ目的略取・誘拐罪とは牽連犯として科刑上一罪として扱われるので、これらの犯罪が成立するときには、以下の法定刑の範囲で処断されます。
- わいせつ目的略取・誘拐罪と不同意わいせつ罪が成立する場合 → 1年以上10年以下の拘禁刑
- わいせつ目的略取・誘拐罪と不同意性交等罪が成立する場合 → 5年以上の有期拘禁刑
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪で逮捕されたときの刑事手続きの流れ
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の容疑で逮捕されたときの刑事手続きの流れについて解説します。
- 警察に逮捕される
- 警察段階の取り調べが実施される
- 検察官に送致される
- 検察段階の取り調べが実施される
- 検察官が公訴提起するかどうかを判断する
- 検察官が起訴処分を下すと刑事裁判にかけられる
警察に逮捕される
わいせ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事訴追されると、警察に逮捕される可能性が高いです。
- 通常逮捕:略取・誘拐の現場に居合わせた警察官にその場で身柄拘束されるパターン
- 現行犯逮捕:略取・誘拐について捜査活動が進められた結果、後日逮捕状が発付されて身柄拘束されるパターン
警察に逮捕されると、被疑者の身体・行動の自由はその時点で大幅に制約されて、そのまま警察署に連行されます。
たとえば、警察に連行されるタイミングを調整することはできません。また、会社や家族に電話連絡を入れることも禁止されます。
警察段階の取り調べが実施される
逮捕されたあとは、警察段階の取り調べが実施されます。逮捕後の警察段階の取り調べには「48時間以内」の制限時間が設けられています。
逮捕処分が下された状態でおこなわれる取り調べは拒絶することができません(取り調べでどのような供述をするかは自由です)。また、取り調べが実施される時間以外は留置場に身柄をとどめられます。
検察官に送致される
わいせつ目的略取・誘拐罪は、いわゆる「微罪処分」の対象ではありません。
ですから、警察段階の取り調べが終了すると、事件と身柄が検察官に送致されます。
検察段階の取り調べが実施される
警察段階の取り調べが終了すると、送検されたあと、検察段階の取り調べが実施されます。
検察段階の取り調べの制限時間は、「原則として24時間以内」です。
ですから、逮捕段階の48時間以内と検察段階の24時間以内、合計72時間以内は捜査機関に身柄拘束されて、取り調べを受けなければいけません。
ただし、以下のような捜査活動上のやむを得ない理由が原因で72時間以内の制限時間内では公訴提起するかどうかの十分な証拠を得られない場合には、検察官による勾留請求が認められています。
- 被拐取者や監護者、その他目撃者などの参考人聴取に時間を要する場合
- 被疑者が黙秘・否認をしている場合
- 略取・誘拐時やその後の移動経路を撮影した防犯カメラ映像などの解析に時間を要する場合
- 破壊・削除されたスマートフォンの音声記録やDMの履歴などを復元するのに時間を要する場合 など
検察官による勾留請求が認められて裁判所が勾留状を発付した場合、被疑者の身柄拘束期間は最長20日間延長されます。逮捕段階と同じように、勾留段階の被疑者も強制的に身柄を押さえられるので、会社や家族などの外部と電話連絡をとったり、外出したりすることができません。
以上を踏まえると、わいせつ目的略取・誘拐罪で逮捕・勾留されると、検察官による公訴提起判断までに最長23日間の身柄拘束期間が生じる可能性があるといえるでしょう。
検察官が起訴・不起訴を決定する
逮捕期限または勾留期限が到来するまでに、検察官がわいせつ目的略取・誘拐事件を公訴提起するかどうか(起訴か不起訴か)を決定します。
起訴処分とは、検察官が事件を刑事裁判にかける旨の判断のことです。これに対して、不起訴処分とは、刑事裁判にかけずに検察官段階で刑事手続きを終了させる旨の判断を意味します。
日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いので、検察官が起訴処分を下して刑事裁判にかけられることが決まった時点で、事実上、有罪になって前科がつくことが確定的になってしまいます。
ですから、「有罪になりたくない」「前科者として生きていくのは嫌だ」などと希望する場合には、不起訴処分獲得が重要な防御目標になるといえるでしょう。
刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を下した場合、わいせつ目的略取・誘拐事件が公開の刑事裁判にかけられます。
公開の刑事裁判が開廷されるタイミングは、起訴処分が下されてから1ヶ月後〜2ヶ月後が目安です。公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で決心しますが、公訴事実を争う場合には複数回の公判期日で弁論手続きや証拠調べ手続きをおこなう必要があります。
わいせつ目的略取・誘拐罪の法定刑には罰金刑が定められていないので、執行猶予が付かない限り、実刑判決が下されます。実刑判決が確定すると刑期を満了するまで刑務所への服役を強いられて社会復帰が困難になるので、不起訴処分の獲得に失敗した場合には、刑事裁判の経験豊富な弁護士に依頼をして執行う猶予付き判決獲得を目指した防御活動を展開してもらいましょう。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪で刑事訴追されたときのデメリット4つ
わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事訴追されたときに生じるデメリットを4つ解説します。
- 実名報道される危険性がある
- 一定期間強制的に身柄拘束されるリスクに晒される
- 会社や学校にバレると何かしらの処分を下される
- 有罪になると前科がつく
実名報道のリスクに晒される
刑事事件を起こすと、テレビの報道番組やネットニュースで実名報道される可能性があります。
そして、一度でも実名報道されると、刑事事件を起こした事実が半永久的にインターネット上などに残ってしまいます。たとえば、身近な人に刑事事件を起こした事実を知られやすくなりますし、結婚や転職・就職などの支障にもなりかねません。
ここで注意を要するのが、実名報道の対象になるかどうかは報道機関が独自に決定できるという点です。実名報道の基準は一切公開されていない以上、「実名報道される傾向が強い事件類型・刑事手続きの状況を理解したうえで、できるだけ実名報道のリスクを軽減すること」が重要になります。
一般的に、以下の要素がある刑事事件は実名報道のリスクが高いです。
- 社会的関心が高い刑事事件
- 被害が甚大な刑事事件
- 被疑者が逮捕・起訴されたとき
- 著名人・有名人が被疑者の場合 など
わいせつ目的略取・誘拐事件は、社会的関心が高い性犯罪としての側面があるので、実名報道のリスクを抱えていると考えられます。刑事事件を得意とする弁護士に相談・依頼をすれば、わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事訴追されたとしても、実名報道のリスクを最大限軽減してくれるでしょう。
逮捕・勾留によって一定期間身柄拘束されるリスクが生じる
わいせつ目的略取・誘拐事件を起こすと、捜査機関に逮捕・勾留される結果、一定期間強制的に身柄拘束されて、社会生活から断絶される期間が生じる可能性があります。
捜査段階で生じる可能性がある身柄拘束期間は以下のとおりです。
- 逮捕(警察段階):48時間以内
- 逮捕(検察段階):24時間以内
- 勾留:原則10日以内(勾留延長によりさらに10日以内)
つまり、逮捕・勾留されると、検察官が公訴提起するかどうかを判断するまでに、最長23日間の身柄拘束期間が生じる可能性があるということです。
この間、当然ながら学校や会社に通うことはできません。また、被疑者本人が会社に連絡することも許されないので、無断欠勤状態になるリスクにも晒されます(通常、無断欠勤が2週間以上になると、それだけで普通解雇の対象になります)。さらに、逮捕・勾留期間中は厳しい留置場生活を強いられるので、心身に過度なストレスを強いられかねません。
仮に、検察官から不起訴処分の判断を引き出したとしても、身柄拘束期間が生じるだけで社会生活への悪影響は相当なものです。ですから、わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事訴追されたときには、「逮捕処分を回避して在宅事件として扱われること」「逮捕されたとしても勾留を阻止すること」が重要な防御目標になるといえるでしょう。
会社や学校などにバレて処分を下される可能性がある
わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で逮捕されたり有罪になったりしたことが会社や学校にバレると、何かしらの処分を下される危険性があります。
たとえば、勤務先が規定する就業規則の懲戒規程に抵触すると、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の対象になります。昇進・昇級に支障が出るだけではなく、転職などのキャリアアップも望みにくい状態になるでしょう。
また、通っている学校の学則・校則の内容次第では、退学・停学・出席停止・訓告などの処分が下される可能性もあります。進級や単位取得に支障が出ると、希望どおりの学歴を取得できなかったり、就職活動に支障が生じたりしかねません。
有罪になると前科がつく
わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で有罪になると、判決で言い渡された刑事責任を強いられるだけではなく、前科がつく点にも注意が必要です。
前科とは、有罪判決を下された経歴のことです。前科者になると、今後の社会生活に以下の支障が生じます。
- 前科情報は履歴書の賞罰欄への記載義務が生じるので、就職活動や転職活動に支障が出る
- 前科を隠して内定を獲得しても、あとから前科が発覚すると、経歴詐称を理由に懲戒解雇される
- 前科を理由に就業が制限される資格・職業に就けない
- 前科は法定離婚事由に該当するので、配偶者から離婚を求められると拒絶できない(慰謝料、親権、面会交流などの離婚条件も不利になる可能性が高い)
- ビザやパスポートの発給が制限されると、海外旅行や海外出張に支障が生じる
- 再犯時の刑事処分が重くなる可能性が高い など
日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いので、前科を回避したいなら、「刑事裁判にかけられないこと=不起訴処分を獲得すること」が重要になります。
ですから、わいせつ目的略取・誘拐事件を起こして刑事訴追されたときには、できるだけ早いタイミングで刑事事件を得意とする弁護士までご相談ください。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の容疑をかけられたときに弁護士に相談するメリット5つ
わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑をかけられたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
というのも、刑事事件を得意とする弁護士に相談・依頼をすれば、以下のメリットを得られるからです。
- 強制的な身柄拘束によるデメリット回避を目指してくれる
- 起訴猶予処分獲得を目指してくれる
- 執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
- 被害者との間で早期に示談交渉を開始してくれる
- 性依存症克服などの現実的なサポートを期待できる
身柄拘束期間の短縮化、逮捕・勾留の回避を目指してくれる
わいせつ目的略取・誘拐事件が発覚すると、捜査機関に逮捕・勾留されて、一定期間社会生活から完全に隔離されてしまいます。たとえば、身柄拘束期間が生じるだけで会社に刑事事件を起こしたことがバレる可能性が高まりますし、厳しい留置場生活を強いられて心身に負担が生じます。
刑事事件に強い弁護士は、以下のような対応策をとることで、在宅事件化を実現したり、身柄拘束期間の短縮化を実現してくれたりするでしょう。
- 取り調べでの供述方針を明確化したり、提出するべき証拠を精査したりすることで、逃亡または証拠隠滅のおそれがないことを示し、在宅事件処理の可能性を高めてくれる
- 逃亡または証拠隠滅のおそれがない状態でおこなわれた逮捕・勾留に対して取り消し請求や準抗告などの法的措置をとったり、捜査機関に対して早期に身柄釈放するように働きかけたりしてくれる
- 起訴処分が下された場合には、速やかに保釈請求を実施して、身柄釈放を実現してくれる など
起訴猶予処分獲得を目指してくれる
わいせつ目的略取・誘拐事件を起こした事実に間違いがなかったとしても、不起訴処分を獲得することは可能です。
というのも、不起訴処分は以下3種類に分類され、実際に犯行に及んだ事実に間違いがなくても、起訴猶予処分を獲得する余地は残されているからです。
- 嫌疑なし:刑事事件を起こした客観的証拠が存在しない冤罪の場合
- 嫌疑不十分:刑事事件を起こした客観的証拠が不足している場合
- 起訴猶予:刑事事件を起こした事実に間違いはないものの、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要性は低いと判断される場合
起訴猶予を下すかどうかを判断するときには、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況などの諸般の事情が総合的に考慮されます(刑事訴訟法第248条)。
刑事事件への対応を得意とする弁護士に依頼すれば、起訴猶予の判断を引き出すために役立つ情状証拠や更生環境を整えてくれるでしょう。
執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で起訴されると、執行猶予が付かない限り、実刑判決が確定してしまいます。
ですから、わいせつ目的略取・誘拐罪の容疑で刑事裁判にかけられたときには、執行猶予付き判決の獲得が重要な防御目標になります。
そして、裁判官から執行猶予付き判決の判断を引き出すには、社会生活を送りながらの自力構成が可能であることを示す情状証拠を用意したり、再犯の恐れがない程度に反省をしていることを示したりしなければいけません。
刑事裁判の経験豊富な弁護士に依頼をすれば、自首減軽や酌量減軽などのテクニックを駆使しながら、執行猶予付き判決獲得を目指してくれるでしょう。
被害者との間でスピーディーに示談をまとめてくれる
わいせつ目的略取・誘拐事件を起こしたときには、できるだけ早いタイミングで被害者との間で示談契約を締結するのがポイントです。
というのも、被害者との間で示談が成立し、示談金を支払い終えることによって、刑事手続き上、以下のメリットを得られるからです。
- 捜査機関に発覚する前に示談が成立すれば、刑事事件化自体を回避できる
- 捜査機関に発覚してから示談交渉を開始しても、示談成立によって不起訴処分獲得の可能性が高まる
- 示談が成立すれば、刑事裁判で執行猶予が付く可能性が高まる
示談交渉を得意とする弁護士に依頼すれば、交渉ノウハウを活かして感情的な被害者との間でも冷静に話し合いを進めてくれますし、示談相場どおりの示談条件で和解契約を締結できる可能性が高まるでしょう。
性依存症などの疾患のケアに向けた現実的なサポートを期待できる
わいせつ目的略取・誘拐事件を起こした加害者のなかには、性依存症などの精神疾患を抱えている人が少なくありません。
今回立件された刑事事件で不起訴処分などの有利な判断を獲得できたとしても、根本原因である性依存症などを克服しない限り、再犯に及ぶリスクに晒されつづけてしまいます。
性犯罪弁護に力を入れている弁護士は、提携している医療機関やカウンセラー、NPO法人を紹介するなどして、加害者が本当の意味で更生できるようなサポートをしてくれるでしょう。
わいせつ目的略取罪・わいせつ目的誘拐罪の容疑で刑事訴追されたときには弁護士に相談しよう
わいせつ目的略取・誘拐事件を起こしたときには、できるだけ早いタイミングで刑事事件を得意とする私選弁護人に相談・依頼をしてください。
早期に弁護士の力を借りることで、身柄拘束処分によるデメリットを回避・軽減したり、不起訴処分などの有利な判断を引き出しやすくなったりするでしょう。
刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、略取・誘拐事件などの刑事弁護を得意とする弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど幅広い選択肢から適切な防御活動を選択できるので、刑事訴追のリスクを抱えている人は速やかに信頼できる専門家までお問い合わせください。