MDMAの所持・使用は麻薬取締法違反です。
そのため、これらの違法薬物を理由に刑事訴追されると、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束されるだけではなく、初犯でも実刑判決が下される危険性に晒されます。
ですから、過去にMDMAなどに手を染めたりした経験があったり、現在警察などから出頭要請をかけられたりした場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士に問い合わせをして、適切な防御活動を展開する必要があるといえるでしょう。
そこで、この記事では、MDMAの所持・使用などを理由に刑事訴追のリスクに晒されている人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- MDMAの所持・使用が麻薬取締法違反になる理由
- MDMAの所持・使用を理由に逮捕されたときの刑事手続きの流れ
- MDMAの所持・使用が原因で刑事訴追されたときに生じるデメリット
- MDMAの所持・使用を理由に刑事訴追されたときに弁護士へ相談するメリット
目次
MDMAの所持・使用は麻薬取締法違反
まずは、MDMAがどのような薬物なのか、麻薬取締法でどのような規制が定められているのか、などについて解説します。
MDMAとは
MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン/methylenedioxymethamphetamine)は、アンフェタミンと類似した化学構造をもつ錠剤型の合成麻薬のことです。「エクスタシー」「バツ(×、罰)」「タマ」などの俗称で取引されています。
アメリカでは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法においてMDMAが使用されることがありますが、それ以外の国では、MDMAは違法薬物に指定されており、例外的に取り扱いが認められるのは研究などの場面に限られるのが実情です。
MDMAを使うとどうなるか
MDMAを摂取すると、ドーパミン・ノルエピネフリン・セロトニンといった脳内の化学物質の働きが活発になります。
1回の服用によって3時間〜6時間程度、高揚感、多幸感、親近感を感じることができますが、服用時の効果が減衰すると、以下のような症状や健康被害に襲われることが多いです。
- 吐き気
- 筋肉のけいれん
- 無意識での歯ぎしり
- 視力障害
- 悪寒
- 発汗
- 易怒性、衝動性、攻撃性
- 抑うつ状態
- 睡眠障害
- 不安症状
- 記憶、注意力の障害
- 肝不全、腎不全、心不全
- 食欲、性欲、性的快感の減退 など
MDMAの所持・使用に関する麻薬取締法の規定
MDMAは、麻薬及び向精神薬取締法における「麻薬」に該当します。
そのため、MDMAに関与した場合には、以下のような刑事罰を科される可能性が高いです。
行為類型 | 法定刑 |
---|---|
輸入・輸出・製造 | 1年以上10年以下の拘禁刑 |
輸入・輸出・製造(営利目的) | 1年以上の拘禁刑(情状により500万円以下の罰金刑の併科) |
所持・譲渡・譲受・使用 | 7年以下の拘禁刑 |
所持・譲渡・譲受・使用(営利目的) | 1年以上10年以下の拘禁刑(情状により300万円以下の罰金刑の併科) |
安易な考えでMDMAなどの薬物に手を染めてしまう人も少なくありませんが、ここで紹介したように、MDMAの所持や使用に対しては厳しい刑罰が定められています。
適切な防御活動を展開しなければ初犯でも実刑判決が下されかねないので、違法なMDMAを所持・使用してしまったときには、できるだけ早いタイミングで薬物事犯の刑事弁護を得意とする専門家までご相談ください。
MDMAの所持・使用がバレるきっかけ
MDMAの所持や使用が警察にバレるきっかけとして、以下のものが挙げられます。
- 繁華街で実施された職務質問の際に所持品検査が実施されて、所持していたMDMAが見つかる
- 万引きなどの犯罪に及んで捕まったときに挙動が不審で尿検査を実施されたところ、MDMAの陽性反応が出てしまった
- MDMAを使っていると知人に教えてしまったところ、通報されて警察が自宅にやってきた、家宅捜索が実施された など
MDMAの所持・使用などの容疑で逮捕されたときの刑事手続きの流れ
MDMAの所持・使用などがバレて逮捕されたときの刑事手続きの流れは以下のとおりです。
- 警察に逮捕される
- 警察段階の取り調べが実施される
- 検察官に送致される
- 検察段階の取り調べが実施される
- 検察官が公訴提起するかどうかを判断する
- 検察官が起訴処分を下すと刑事裁判にかけられる
警察に逮捕される
MDMAの所持・使用などが発覚すると、警察に逮捕されます。
逮捕されるシチュエーションは以下2つです。
- 現行犯逮捕:MDMAを所持しているところを現認されてその場で強制的に身柄拘束される。
- 通常逮捕:MDMAの所持・使用などについて裁判官の発付した逮捕状を根拠に、強制的に身柄拘束される。
逮捕処分が実行された時点で、被疑者の身体・行動の自由は大幅に制限されます。「仕事があるから警察署に連行する日程を別の日に調整してほしい」「警察署に連行される前に家族に電話をしたい」などの要望は一切受け入れられません。
警察段階の取り調べが実施される
警察に逮捕されると、警察署に連行されて、警察段階の取り調べが実施されます。逮捕後に実施される警察段階の取り調べには「48時間以内」の制限時間が設けられています。
この時間内に実施される取り調べを拒絶することはできません(どのような供述をするかは自由です)。また、取り調べ以外の時間帯は留置場に身柄を留められます。たとえば、出社したり、自宅に戻ったりすることは一切禁止されます。
検察官に送致される
警察段階の取り調べが終了すると、事件・身柄が送検されます。
なお、一定の極めて軽微な犯罪については、いわゆる「微罪処分」によって警察段階で刑事手続きが終了する場合があります。ただし、MDMAのような薬物事犯は微罪処分の対象からは外されているので、必ず検察官に送致されて公訴提起判断を受けなければいけません。
検察段階の取り調べが実施される
MDMAの所持・使用などを理由に逮捕されて送検されたあとは、検察段階の取り調べが実施されます。
検察段階の取り調べの制限時間は「24時間以内」が原則です。警察段階の48時間以内と検察段階の24時間以内、「合計72時間以内」で得られた証拠・供述などを前提に、検察官がケタミン事件を起訴するか否かを判断します。
ただし、MDMA事案の内容次第では、捜査機関が72時間の制限時間内だけで公訴提起判断のための十分な証拠を収集できない可能性があります。
たとえば、以下のような「やむを得ない理由」がある場合には、検察官による勾留請求がおこなわれ、裁判官が勾留状を発付した場合には、被疑者の身柄拘束期間の延長が認められます。
- 被害者が取り調べで黙秘・否認をしているために捜査機関が納得できる内容の供述を得られない場合
- MDMAの入手経路などの捜査活動に時間を要する場合
- 監視カメラの映像解析、削除されたSNSや匿名掲示板のメッセージ・投稿の復元などに時間を要する場合
- 密売人や事情を知る人たちの参考人聴取に時間を要する場合 など
勾留状が発付されると、被疑者の身柄拘束期間が10日間以内の範囲で延長されます。また、事案の状況次第では勾留の再延長請求が認められており、身柄拘束期間がさらに10日間(最長20日間)延長されます。
以上を踏まえると、MDMAの所持・使用などを理由に逮捕された場合には、検察官の起訴・不起訴判断までに、最長23日間の身柄拘束を強いられる可能性があると考えられます。
検察官が起訴・不起訴を決定する
逮捕期限・勾留期限が到来するまでに、検察官がMDMAの所持・使用などの事件を公訴提起するかどうかを判断します。
起訴処分とは、MDMAの所持・使用などの事件を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為のことです。これに対して、不起訴処分とは、MDMAの所持・使用などの事件を刑事裁判にかけることなく検察限りの判断で刑事手続きを終了させる旨の判断を意味します。
日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いので、検察官が起訴処分を下した時点で有罪・前科が決定的になります。
ですから、有罪や前科の回避を目指すなら、「検察官から不起訴処分の判断を引き出すこと」を防御目標に掲げるべきだと考えられます。
刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を下した場合、MDMAの所持・使用などについて、公開の刑事裁判が開廷されます。
公訴事実に争いがなければ、第1回の公判期日で刑事裁判は結審します。これに対して、公訴事実を争う事案では、複数の公判期日を経て証拠調べ手続きや弁論手続きがおこなわれます。
麻薬取締法違反の法定刑には拘禁刑しか定められていません。そのため、執行猶予が付かない限り、刑務所への服役を強いられます。
実刑判決を下されると厳しい刑務所生活を強いられるだけではなく、出所後の社会復帰が極めて難しくなるので、必ず刑事裁判の経験豊富な弁護士に依頼をして、執行猶予付き判決獲得を目指してもらうべきでしょう。
MDMAの所持・使用などの容疑で刑事訴追されたときのデメリット4つ
MDMAの所持・使用などを理由に刑事訴追されたときのデメリットは以下の4つです。
- 実名報道される危険性がある
- 逮捕・勾留によって一定期間身柄拘束される危険性がある
- 会社や学校から何かしらの処分が下される可能性が高い
- 有罪になると前科がつく
実名報道されるリスクに晒される
MDMAなどの違法薬物に手を出して刑事訴追されると、報道機関やネットニュースなどで実名報道されるリスクに晒されます。
そして、一度でも実名報道されると、半永久的にインターネット上に過去の犯罪歴の情報が残って簡単に検索される状態になるので、結婚や就職・転職に大きな支障が生じかねません。
刑事事件を起こしたとしても、すべての刑事事件が実名報道の対象になるわけではありませんが、一般的な報道傾向として、以下の要素を有する刑事事件は実名報道の対象になる可能性が高いです。
- 社会的関心が高い刑事事件(性犯罪、特殊詐欺、薬物犯罪など)
- 深刻な被害が発生した刑事事件(殺人事件、放火事件など)
- 被疑者が著名人・有名人の刑事事件
- 被疑者が逮捕・起訴された刑事事件 など
ですから、MDMAの所持などを理由に逮捕・起訴されると、実名報道のリスクが高いといえるでしょう。
逮捕・勾留によって一定期間身柄拘束されるリスクが生じる
MDMAなどの違法薬物の所持・使用などを理由に刑事訴追されると、刑事手続きにおいて一定期間強制的に身柄拘束されるリスクに晒されます。
想定される身柄拘束期間は以下のとおりです。
- 警察段階(逮捕された場合):48時間以内
- 検察段階(逮捕された場合):24時間以内
- 検察段階(勾留された場合):最長20日間
- 起訴後勾留:保釈請求が認められるまで
仮に、不起訴処分の獲得に成功したとしても、身柄拘束が生じるだけで社会生活に大きな支障が生じます。
たとえば、身柄拘束期間中は自分で会社に欠勤の連絡を入れることができないので、刑事事件を起こしたことなどがバレる可能性が高まります。そして、長期の欠勤が生じると、それだけで昇進・昇格が不利になったり、場合によっては、無断欠勤を理由に仕事をクビになってしまうでしょう。また、留置場生活は非常に厳しいものなので、心身に過度な負担を強いられます。
会社や学校などにバレて処分を下される可能性がある
MDMAの所持・使用などを理由に刑事訴追されたことが会社や学校にバレると、何かしらの処分を下される可能性が高いです。
たとえば、勤務先の企業が定める就業規則の懲戒規程に抵触すると、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇といった懲戒処分が下されます。昇進・昇格が妨げられるなど、今後のキャリア形成が難しくなるでしょう。また、MDMAの所持事件などを起こした被疑者が学生の場合には、所属している学校が定める校則・学則にしたがって退学・停学・出席停止・訓告などの処分が下されます。
有罪になると前科がつく
MDMAなどの違法薬物の所持・使用などを理由に有罪になると、前科によるデメリットにも悩まされつづけます。
前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。前科者になると、今後の社会生活に以下のデメリットが生じます。
- 企業側から前科の有無について確認されると申告義務が生じるので、就職活動・転職活動が成功しにくくなる
- 前科の申告義務に違反して内定を獲得しても、経歴詐称を理由に懲戒処分が下される可能性が高い
- 前科を理由に就業や効力が制限される仕事・資格がある(警備員、生命保険募集人、士業、金融業など)
- 前科は法定離婚事由に該当するので、配偶者から離婚を求められると拒否できない(慰謝料などの離婚条件も不利になる可能性が高い)
- 前科を理由にビザ・パスポートが発給されない可能性がある
- 再犯時の刑事処分が重くなる可能性が高い など
MDMAの所持・使用などの容疑をかけられたときに弁護士に相談するメリット4つ
MDMAなどの違法薬物の所持・使用などを理由に刑事訴追されたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。
というのも、刑事事件に強い弁護士の力を借りることで、以下4つのメリットを得られるからです。
- 強制的な身柄拘束によるデメリットの回避・軽減を目指してくれる
- 不起訴処分獲得を目指してくれる
- 執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
- 薬物依存克服に向けた現実的なサポートを期待できる
身柄拘束期間の短縮化、逮捕・勾留の回避を目指してくれる
MDMAの所持・使用などが発覚したからといって常に逮捕されるわけではありません。
というのも、①被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な客観的な証拠が存在すること、②逃亡または証拠隠滅のおそれがあること、という2つの要件を満たしたときにしか逮捕処分は実行されないからです。
つまり、MDMAを所持していることがバレたとしても、逃亡または証拠隠滅のおそれがないと判断されるような状況を作り出せば、逮捕・勾留されずに在宅事件として捜査活動が展開されるということです。
刑事事件を得意とする弁護士は、逮捕・勾留されずに在宅事件として処理されるような工夫を凝らしたり、逮捕・勾留されたとしても早期の身柄釈放を目指して準抗告や取り消し請求などをしたりして、身柄拘束処分によりデメリットの回避・軽減を目指してくれるでしょう。
起訴猶予処分獲得を目指してくれる
MDMAを所持・使用した事実に間違いがなくても、常に刑事裁判にかけられて有罪になるわけではありません。
というのも、検察官が下す不起訴処分は以下3種類に分類することができ、実際に罪を犯した事実に間違いがなくても、起訴猶予処分を獲得する余地は残されているからです。
- 嫌疑なし:MDMAの所持・使用などをした客観的証拠が存在しない冤罪の場合
- 嫌疑不十分:MDMAの所持・使用などをした客観的証拠が不足している場合
- 起訴猶予:MDMAの所持・使用などをした事実に間違いはないものの、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要性は低いと判断される場合
起訴猶予を下すかどうかを判断するときには、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況などの諸般の事情が総合的に考慮されます(刑事訴訟法第248条)。
刑事事件に強い弁護士に相談すれば、家族や支援団体のサポート体制を整えたり、取り調べに対応する姿勢についてアドバイスをしたりすることで、検察官から起訴猶予処分の判断を引き出すための防御活動を尽くしてくれるでしょう。
なお、窃盗罪や性犯罪とは異なり、薬物事犯は「被害者がいない犯罪類型」に分類されます。そのため、「被害者との間で示談を成立させること」を武器にすることができません。ですから、起訴猶予処分の判断を引き出すには、余計に捜査活動に対する適切な防御活動が必要だと考えられます。
執行猶予付き判決獲得を目指してくれる
MDMAの所持・使用などを理由に麻薬取締法違反の容疑で起訴されると、刑事裁判にかけられます。
そして、麻薬取締法違反の法定刑には「罰金刑のみ」というものが存在しないので、なんとしても執行猶予付き判決を獲得しなければいけません。仮に執行猶予が付かずに実刑判決が確定すると、刑期を満了するまで社会生活から完全に隔離されるので、出所後の社会復帰が極めて困難な状況に追い込まれます。
刑事裁判実務に詳しい弁護士は、薬物事犯において裁判官から執行猶予付き判決の判断を引き出すためのポイントを熟知しているので、個別の事案の状況や被告人の置かれた環境などを総合的に考慮したうえで、刑事裁判において適切な証拠などを提出してくれるでしょう。
薬物依存克服に向けた現実的なサポートを期待できる
MDMAの所持や使用などで刑事訴追された場合、刑事責任を果たすことだけではなく、薬物依存症などの疾患を克服するなどして再犯リスクを軽減することも重要です。
というのも、薬物依存症などの問題を克服しなければ、今回立件された刑事事件において軽い刑事処分を獲得したとしても、その後再犯に及び、厳しい刑事処罰を科される可能性が高いからです。
薬物事犯の刑事弁護に力を入れている弁護士は、精神科やカウンセラー、NPO法人などと提携しているので、これらの専門機関を紹介するなどして、被疑者・被告人が本当の意味で社会復帰できるようにサポートしてくれるでしょう。
MDMAの所持・使用などの容疑をかけられたときは弁護士に相談しよう
MDMAの所持・使用などを理由に捜査対象になったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談してください。
早期に薬物事犯に力を入れている弁護士の力を借りることで、不起訴処分や執行猶予付き判決獲得の可能性が高まりますし、逮捕・勾留によって身柄拘束されるリスクも大幅に軽減されるでしょう。
刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、MDMA事犯などの刑事弁護を得意とする弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど有利な状況を作り出しやすくなるので、速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。