インターネットの普及に伴い、SNSや掲示板を通じて他人の個人情報を無断で公開する「住所晒し」の被害が増えています。「住所を晒された」とは、自分の居住地や生活拠点が本人の許可なく公開され、不特定多数の目に触れる状態を指します。
一見すると単なる嫌がらせに思えるかもしれませんが、住所晒しはプライバシーの侵害にとどまりません。ストーカーや押しかけ被害、重大な犯罪へと発展する危険を孕んでいる深刻な問題です。
たとえば、煽り運転の加害者と誤認された人物の住所が公開され、無関係の一般人が被害を受けた事例もあります。住所は重要な個人情報であり、公開されることで生活に大きな支障をきたす可能性があります。
本記事では、「住所を晒された場合に起こり得るリスク」「住所晒し行為の違法性」「実際に被害に遭ったときの対処法や法的手段」「未然に防ぐためのポイント」まで徹底解説します。
もし「自分の住所が晒されてしまったらどうすればいいのか?」と不安を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
「住所を晒された」の定義とは
住所を晒すとは、自分の住んでいる居住地等を「晒された」という状況を指します。ここで言う「晒す」とは、「多くの人の目に触れる場所に公開される」という意味合いです。
たとえば、学校の掲示板に掲示された、SNSで投稿されたという場合は「晒された」と言って良いでしょう。まずは、「住所を晒された」とはどういった状況を指すのか?について詳しく解説します。
個人情報を無断で公開する行為
住所を晒すという行為は、個人情報(住所)を無断で公開してしまう行為を指します。住所の公開を許可している場合を除いて、無断で公開する行為は違法となる可能性が高いです。
住所の公開を許可しているケースとしては、たとえば事業を行っている人が事業所の所在地として公開しているケースが挙げられます。この場合は、第三者が住所等を公開しても違法になることはありません。
あくまでも「住所(個人情報)を無断で公開する行為」が、いわゆる住所の晒し行為であり、違法性がある行為であることを覚えておきましょう。
SNSや掲示板での住所晒しが典型的に見られる
SNSや掲示板等で住所の晒し行為が行われるケースが多いです。たとえば、SNSで拡散された動画に映っている知らない人をいわゆるネット民が特定し、住所等を晒してしまうケースが多いです。
住所を晒している本人は、面白半分で行っているケースが多いです。また、当初拡散された動画に写っている人を陥れようという目的で住所を特定し、晒してしまうケースもよくある事例です。
たとえば、過去にあった事例では、煽り運転の様子がSNSで投稿され、動画に写っていた加害者側の住所を特定してネット上に晒す行為がありました。また、過去には実際に投稿された動画と関係のない同姓同名の一般人の住所が公開された事例もあり、問題視されています。
プライバシーの侵害にあたる
他人の住所を晒す行為は、「プライバシーの侵害」に当たる可能性があるため注意しなければいけません。プライバシーの侵害とは、個人の私生活や情報が本人の意に反して他人等に公開されてしまう状況を指します。
住所は、本来であれば他人に知られたくない情報です。知らない人に知られてしまうことによって、イタズラや犯罪の可能性が高まるためです。また、住所は一般的に「個人情報」として扱われる情報であるため、取り扱いには注意しなければいけません。
上記のことから、他人の住所を晒す行為はプライバシーの侵害に当たる行為となります。
ただ、プライバシーの侵害は刑法犯ではありません。つまり、刑事罰の対象にならないため、住所を晒した加害者がプライバシーの侵害で何らかの刑事罰を受けることはありません。あくまでも、民事的な扱い・処分を受けるにとどまります。
犯罪に発展する可能性がある
住所を晒された場合、犯罪に発展する可能性が高いです。たとえば、女性に押しかけられて性被害にあったり、空き巣被害にあったりする可能性があります。他にも、イタズラ(軽犯罪法違反)に該当する行為が行われることもあるでしょう。
とくに身体的・物理的な被害が発生しなかったとしても、何らかの欲求を満たす目的で住居侵入等罪を犯す者がいるかもしれません。住所とそこに住んでいる人がわかっている以上、さまざまな犯罪行為が行われる可能性が懸念されます。
住所を晒されたらどんな危険がある?
住所を晒されることによって、以下のような危険が発生します。
- ストーカー被害に繋がりやすい
- 悪質な訪問や押しかけ被害を招く
- ネット詐欺やなりすましに悪用される
- 精神的ダメージや生活の支障をもたらす
次に、住所を晒されることによって起こり得る危険について詳しく解説します。
ストーカー被害につながりやすい
住所を晒されることによって、居住者と住所が明らかになります。結果的にストーカー被害が発生する可能性が高まります。
ストーカー被害は、盗聴器や隠しカメラの設置、付き纏いや嫌がらせ等々さまざまなことが起こり得ます。本人が気付かないうちにストーカー被害に遭っているケースもあるため注意が必要です。
悪質な訪問や押しかけ被害を招く
嫌がらせとして、悪質な訪問や押しかけ被害が発生するケースもあります。たとえば、ピンポンダッシュをしたり、勝手にデリバリーの注文を取られたりなどさまざまな被害が考えられるでしょう。
また、悪質なDM(ダイレクトメール)が送付されるケースも多数報告されています。いわゆるピンクビラや闇金業者からのDM等が届くこともあるため注意が必要です。
ネット詐欺やなりすましに悪用される
住所を晒されることによって、ネット詐欺やなりすましに悪用されるケースもあります。ネット詐欺で利用されるケースとして、公開された住所や氏名等を元にネット上での契約等を行う行為です。
なりすましも同様で、住所を晒された本人になりすまして何らかの行為を行うことを指します。当然、請求等は住所の人宛に届くため、身に覚えのない請求が届くことになるでしょう。
精神的ダメージや生活の支障をもたらす
住所を晒されることによって、イタズラ等がたくさん起こり得ます。イタズラによる精神的ダメージや、「住所を晒されている」という事実に対するストレスから、日常生活にも影響を与える可能性があるでしょう。
住所を晒す行為の違法性とは
住所を晒す行為は、基本的に「プライバシーの侵害」となります。刑法犯ではないものの、民法の規定に違反している行為となるため、賠償請求等の対象となり得ます。
他にも、脅迫罪や強要罪などの刑法犯、ストーカー規制法違反や条例違反に問われる可能性もあるため注意が必要です。次に、住所を晒す行為の違法性について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
プライバシーの侵害として違法となる
住所を晒す行為は、プライバシーの侵害にあたります。プライバシーとは、「個人の秘密にしておきたい情報」です。住所は、自分が住んでいる場所を指すため、基本的には「知られたくない」と考えるのが通常です。
そのため、当然、住所もプライバシーの範囲内であると考えられています。プライバシーは、何人も勝手に侵害されて良いものではありません。民法では以下のとおり規定されています。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。引用元:民法|709条
プライバシーの侵害は、刑法犯ではないため違反したとしても刑事罰には問われません。しかし、民法条の不法行為(違法行為)に該当するため、住所を晒された者は賠償請求を行うことができます。
脅迫罪や強要罪に発展することがある
「住所を晒す」もしくは「住所を晒した」ことによる脅迫や強要を行った場合は、刑法犯の脅迫罪や強要罪が成立します。たとえば、「お前の住所を晒して反社の人に向かわせる」と言った場合は、脅迫罪が成立し得ます。
「住所を晒したけど、消してほしければ〇〇しろ」と言った場合は、強要罪が成立するでしょう。
このように、発言した内容によって成立する犯罪は異なるものの、住所を晒したり晒そうとして相手を脅したり、義務のないことを行わせるのは違法です。刑法犯となり、罰金刑もしくは拘禁刑の対象となるため注意しましょう。
ストーカー規制法や条例違反に該当する
基本的に、「住所を晒す」という行為自体がストーカー規制法に該当することはありません。しかし、晒された住所をもとにその人の家に押しかけたり、イタズラをしたりなど、ストーカー規制法によって規制されている行為を行った場合は、処罰対象となります。
また、各都道府県の条例では、付き纏い行為等を規制しています。晒された住所をもとに付き纏い行為等を行っていた場合は、条例違反にもなり得るため注意しましょう。
住所を晒されたときの対処法
住所を晒されてしまったときの対処法は、以下のとおりです。
- 証拠を確保しておく
- 運営もとに削除依頼を行う
- 警察に相談をする
- 弁護士へ相談をして法的措置を検討する
次に、住所を晒されてしまった際の対処法についても解説します。
証拠を確保して被害を記録することが大切
住所を晒された場合は、可能な限りの証拠を集めておきましょう。住所が晒されている状況のスクリーンショットや、被害が発生している場合はその被害状況の写真を撮影するなど、可能な限りの証拠を集めておきましょう。
プライバシーの侵害のみでは、刑法犯に問うことはできません。しかし、実際に被害が発生している場合は、さまざまな犯罪として成立する可能性が高いです。そのため、一つでも多くの証拠を集めておくことがとても大切です。
SNSや掲示板の運営に削除依頼を行うべき
住所を晒されているSNSや掲示板の運営に対して、削除依頼を行いましょう。住所は、通常プライバシーで守られるべき個人情報であるため、基本的には削除依頼をした時点で即時対応してくれます。
ただし、削除依頼をしてから実際に削除されるまでにタイムラグが発生することが多いため注意しましょう。
警察に相談して被害届を出すことが有効
「住所を晒された」という事実のみである場合、プライバシーの侵害にしかならず、刑法犯ではないため警察は動けません。しかし、嫌がらせやストーカー等、何らかの犯罪の疑いがある可能性もあるため、警察への相談を検討してみても良いでしょう。
弁護士に相談して法的措置を検討するのが安全
弁護士へ相談をしたうえで、法的措置を検討しても良いでしょう。法的措置として、たとえば住所を晒した人の特定や賠償請求、住所の投稿削除などさまざまな対応が可能です。
住所を晒された場合に取れる法的手段とは
住所を晒された場合は、以下の法的手段の対応が可能です。
- 加害者の特定
- 損害賠償請求
- 刑事告訴
- 仮処分の申立て
次に、住所を晒された場合に検討すべき法的手段について詳しく解説します。
発信者情報開示請求で加害者を特定できる
発信者情報開示請求を行うことによって、住所を晒した人を特定できます。加害者を特定することで、その人に対して損害賠償請求を行うことができます。
発信者情報開示請求は、弁護士以外の個人で行うこともできますが、手続きが複雑であるため専門家である弁護士への相談を検討しましょう。
損害賠償請求によって慰謝料を請求できる
住所を晒されたことによって、何らかの被害が発生している場合は、加害者に対して慰謝料を請求できます。精神的苦痛に対する慰謝料や、実害が発生している場合は実害に対する賠償金の請求も可能です。
個人での賠償請求も可能ですが、法律の専門家である弁護士へ相談をしたほうがスムーズに手続きを進められます。
刑事告訴で加害者を処罰することが可能
住所を晒す行為自体が直ちに刑法犯になることはないものの、刑法の何らかの犯罪に抵触している場合は、加害者を処罰できる可能性があります。そのため、まずは犯罪として成立するかどうかを判断し、成立する場合は刑事告訴の検討をしましょう。
仮処分を申立てて迅速に削除を実現できる
削除の仮処分申立ても検討しましょう。削除の仮処分申立ては、インターネット上にある違法な投稿を裁判所を通じて削除してもらうための申立てです。
個人で運営に対して削除を依頼しても気付かれなかったり、無視されたりなどでなかなか削除されないケースもあります。そのため、仮処分の申立てを行い、即時削除してもらえるよう動くことも大切です。
住所を晒されたときに注意すべきこととは
住所を晒されてしまった際は、以下のことに注意が必要です。
- 冷静に対応する
- 加害者に直接連絡を取らない
- 自ら情報の拡散をしない
- 専門家への相談が後手に回らないようにする
次に、住所を晒されてしまった際の対処法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
冷静に対応して感情的にならないことが重要
住所を晒されている事実がわかった際、つい感情的になってしまうでしょう。しかし、冷静に判断をすることがとても大切です。感情的にならず、冷静に物事を判断したうえで今後の対応方法を検討していくべきです。
感情的になってしまうと、冷静な判断をできずに対応を誤ってしまったり、遅れてしまったりする恐れがあるためです。
加害者に直接連絡しないことが安全
加害者が特定できていたとしても、すぐに直接連絡を取る行為は避けましょう。まずは証拠を集めて、加害者が確定次第、弁護士を介して損害賠償請求等を行う流れが好ましいです。
先に直接連絡をしてしまうことによって、証拠隠滅等の可能性が高まります。そのため、まずは冷静になり、加害者への直接連絡を避けるよう心がけましょう。
自ら情報を拡散しないことが被害拡大防止につながる
自ら情報を拡散しないことが、被害拡大防止につながります。たとえば、住所が晒されている事実を自分自身がSNS等を通じて発信してしまう行為は避けるべきでしょう。面白半分、興味本位であなたの住所を探したりイタズラをしたりする人が出てくるかもしれません。
そのため、まずは住所を晒されている掲示板やSNSの運営元に対して削除を依頼したり、弁護士等の専門家へ相談をしたりなどの対応方法を検討しましょう。
専門家に早期相談することが解決の近道になる
弁護士への相談は早ければ早いほど、被害拡大防止につながります。住所を晒された時点で、自分自身でできることもたくさんあります。
それでもなお、専門家に任せたほうがスムーズに投稿等を削除できる可能性もあるため、検討したほうが良いです。たとえば、仮処分の申立ては、専門家へ相談をしたほうがスムーズに進みます。
対応が遅れれば遅れるほど、晒された住所の内容が拡散されてしまう可能性があります。そのため、1日でも早く専門家へ相談をするよう意識しておきましょう。
住所晒しを防ぐためにできること
住所晒しを防止する方法として、以下のことが挙げられます。
- 個人情報公開を最小限にしておく
- 住所が特定できる投稿を避ける
- ネットトラブルに要注意
次に、住所晒しを防止するためにできることについて詳しく解説します。
SNSでの個人情報公開を最小限に抑えることが有効
SNSは世界中の人が閲覧できるツールであるため、公開する情報には最新の注意が必要です。とくに個人情報を掲載してしまうと、どこから情報が漏れ出すかわかりません。
個人情報に該当する内容の公開は避ける、投稿前に確認するなどの対応が有効です。
住所が特定できる写真や投稿を控えるべき
住所が特定できるような写真や投稿は控えたほうが良いでしょう。誰かが本気で特定をしようとした場合、写った写真の一部、瞳に映っている写真の状況等から住所を特定できてしまいます。自宅内での撮影や自宅が映るような場所での撮影、投稿は避けたほうが良いでしょう。
ネットトラブルを避ける意識が必要
ネット上でのトラブルが原因で特定されるケースが多くあります。たとえば、「〇〇のようなことがあった!」とSNS等で何気なく投稿した内容が炎上してしまい、住所等を特定する人もいます。
炎上騒ぎが発生してしまうと、面白半分で住所やその他の個人情報を特定しようと動く人が大勢います。住所を晒された結果、さまざまなイタズラ被害が発生するケースもあるため、「そもそもトラブルを発生させない」ということを意識しておくと良いでしょう。
住所を晒された際によくある質問
住所を晒された際によくある質問を紹介します。
Q.住所を晒されたら必ず犯罪になりますか?
A.住所を晒されても犯罪にはなりません。
「住所を晒された(晒した)」という行為が必ずしも刑法犯に該当するわけではありません。プライバシー侵害は、刑法で定められている犯罪に抵触しないためです。
ただし、住所を晒した結果、何らかの犯罪が成立するケースもあるため、まずは弁護士などの専門家へ相談を検討しましょう。そのうえで、成立する犯罪がある場合は、警察への相談を検討すると良いです。
Q.晒した相手を訴えることはできますか?
A.民事上の訴えを起こすことは可能です。
本記事で解説しているとおり、住所を晒すという行為が直ちに刑法犯になることはありません。よって、刑事罰を科すために訴える(告訴する)ことはできません。
ただし、民事上の不法行為に該当するため、損害賠償請求が可能です。実際に被った被害額や慰謝料等の請求が可能です。金額は実際に被った損失によって異なるため、まずは弁護士等への相談を検討してください。
Q.削除依頼をしても消えない場合はどうすればいいですか?
A.削除仮処分の申立てを行いましょう。
削除仮処分の申立ては、裁判所を通して削除依頼をする方法です。仮処分が認められれば、強制力が発生するため、運営元は削除をしなければいけません。もし、運営元が削除をしない場合は、強制執行による削除が可能です。
Q.晒されたことで引っ越した場合、費用を請求できますか?
A.当然費用を請求できます。
住所を晒されたことによって、引っ越しを余儀なくされた場合は、その費用を相手方に請求できます。ただし、相手が必ずしも応じるとは限らないため、民事訴訟の提起を検討したほうが良いでしょう。
Q.未成年が住所を晒された場合は特別な対応が必要ですか?
A.特別な対応は必要ありません。
未成年か成人かによって手続きに違いはありません。ただし、民事訴訟等の法的手続きを検討する場合は、法定代理人(通常は親権者)が代わりに訴訟を起こす必要があります。
なお、弁護士への相談自体は未成年でも可能であるため、まずは弁護士への相談を検討されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
住所晒しは、SNSや掲示板を中心に頻発している深刻なネットトラブルです。プライバシー侵害や精神的苦痛にとどまらず、ストーカー行為や詐欺被害といった犯罪へと発展する可能性もあります。
住所を晒された場合は、感情的にならず証拠を確保し、運営元への削除依頼や警察・弁護士への相談といった冷静かつ適切な対応が重要です。加害者を特定して損害賠償請求や刑事告訴を行うことも可能であり、迅速に動くことで被害拡大を防げるケースも多くあります。
また、そもそも被害に遭わないためには、SNSでの個人情報公開を最小限に抑える、住所が特定できる投稿を避けるなど日頃からの情報管理も欠かせません。ネット上での情報発信は便利である一方、リスクも伴います。
万が一、自分の住所が晒されてしまった場合には、本記事で紹介した対処法や法的手段を参考に、早期に適切な行動をとるようにしましょう。被害を放置すればするほど状況は悪化しかねません。大切なプライバシーと安心できる生活を守るためにも、今のうちから「住所晒し」の危険性と対策を理解しておくことが何よりも重要です。