「黙秘をすると不利になる」「本当に黙っていて大丈夫?」取り調べや裁判のニュースを見たときに、こんな疑問を抱いたことがある人も多いのではないでしょうか。刑事事件に関わる可能性は誰にでもあります。突然警察に呼ばれたり、思いがけないトラブルに巻き込まれたとき、冷静に自分の権利を行使できる人は少ないでしょう。
日本の憲法や刑事訴訟法は、自己に不利益な供述を強制されない「黙秘権」をしっかり保障しています。しかし、実際には「黙っていると余計に怪しまれるのではないか」「警察に逆らっていると思われるのでは」といった不安から、つい口を開いてしまう人が多いのも事実です。
とくに取り調べの場は心理的な圧力が大きく、曖昧な言葉でも調書に残れば、裁判で不利に使われてしまう危険があります。そこで大切なのは、「黙秘権は不利にならない」という正しい理解です。
もちろん、裁判官の心証や弁解の機会を失うといった側面はゼロではありませんが、法律上は黙秘を理由に有罪と推定されたり、処罰が重くなることはありません。むしろ不用意な供述で自分に不利な証拠を作られるリスクを避ける意味で、黙秘は強力な防御手段になるのです。
本記事では、黙秘権を行使することの意味とメリット・デメリット、そして実際にどのようなケースで黙秘が有効に働くのかを詳しく解説します。黙秘は単なる沈黙ではなく、「自分を守るための盾」だという理解をぜひ深めてください。
目次
取り調べにおける黙秘権とは
取り調べにおける黙秘権とは、取り調べや裁判において「言いたくないことは言わなくても良い」という権利のことを指します。黙秘をすることによって、良くも悪くもその後の処分や判決に影響を与える可能性があります。
まずは、取り調べにおける黙秘権とは何か?について、詳しく解説しますのでぜひ参考にしてください。
「言いたくないことは言わなくても良い」という権利
黙秘権は、「言いたくないことは言わなくても良い」という被疑者や被告人に認められている権利を指します。
被疑者とは、何らかの犯罪の容疑をかけられている人です。犯罪の疑いをかけられている人は、警察等からの取り調べを受けるため、これらに対して黙秘権が認められています。
被告人とは、警察等の取り調べの結果、罪を犯した可能性が高い、処罰する必要があると判断された場合に検察が「起訴」した人です。起訴された場合は、呼び名が被疑者から被告人に変わり、身柄拘束が継続する可能性もあります。
たとえば、事件について「この話をしてしまうと、刑事裁判で自分自身が不利になる可能性がある」と判断した場合、その話について自ら伝える必要はありません。これを黙秘権と言います。
他にも、実際に疑われている犯罪について、まったく心当たりがないにも関わらず、取り調べにおいて自白を強要されている場合です。「どのように罪を犯していないと伝えれば良いかわからない」という場合も黙秘権を行使するべきでしょう。
警察等の取り調べで、警察に聞かれたことに対して答えてしまい、その答えが原因で「自白証拠」として扱われてしまう可能性があるためです。黙秘権は被疑者や被告人すべての人に認められている権利であり、「言いたくないことは言わなくて良い権利」であることを覚えておきましょう。
日本国憲法で定められている権利
黙秘権は、日本国憲法で定められている権利です。憲法第38条では以下のとおり明記されています。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
引用元:日本国憲法|第38条
つまり、自分にとって不利となり得る供述はしなくても良い(強制されない)ということです。
日本国憲法は、日本の法律で最高法規です。そのため、他の法令すべてに勝る法律であるということです。今後、黙秘権に関する何らかの法律ができたとしても、その効力が認められないというほど強力な決まりごとであると思っておけば良いでしょう。
日本国憲法で決められている以上、何人も黙秘権の行使を邪魔することはできません。正当な権利であることを認識したうえで取り調べに応じましょう。
刑事訴訟法に基づいて告知義務がある
刑事訴訟法という法律では、被疑者や被告人に対して黙秘権の行使が可能である旨を告知する義務があります。
つまり、警察等から黙秘権に関する告知が行われていなかった場合は、違法であると判断されます。結果的に、告知義務を怠って得た取り調べ内容については証拠として扱えません。
実務上の取り扱いとしては、ほとんどのケースで証拠能力は有しないと判断されます。また、弁護側からも「黙秘権に関する告知義務を怠った」として、違法であり証拠能力は有しないと主張されます。
上記のことからも警察等は慎重に黙秘権について告知します。基本的に、「黙秘権の説明が行われない」といったことはあり得ません。もし、そのようなことがあった場合は、弁護人へ相談をしたうえで証拠の排除を検討しましょう。
取り調べで黙秘を続けたらどうなるのか
取り調べにおいては、黙秘権の行使が憲法によって認められています。しかし、黙秘権を行使し続けることが必ずしも良い影響を与えるとは限りません。実際起こり得ることとして考えられるのは、以下のとおりです。
- 自分にとって不利となる供述をせずに済む
- 良くも悪くも判決に影響を与える
次に、取り調べで黙秘を続けた場合、どうなるのか?について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
自分にとって不利となる供述をせずに済む
黙秘権を行使することによって、自分にとって不利となる供述をせずに済みます。たとえば、実際に罪を犯している状況で、自白以外の証拠がないとしましょう。
この場合、あなたが黙秘権を行使することによって、あなたを罪に問うための証拠がまったくない状況になり得ます。そのため、結果的に不起訴処分となったり無罪判決が言い渡される可能性が高まるでしょう。
このように、「何も言わない(黙秘権の行使)」を貫くことによって、自分にとって不利になる可能性を抑えられる点が良い点です。
良くも悪くも判決に影響を与える
黙秘権の行使は、良くも悪くも判決に影響を与える可能性があります。たとえば、先ほども紹介したとおり、自白証拠以外の証拠がない場合は罪を立件できずに不起訴処分や無罪判決を得られる可能性があります。
一方で、あなたの自白が取れなかったとしても、その他証拠で事件を立件し、罪を問うことができるのにも関わらず、黙秘権を行使していたとしましょう。この場合は、判決等に悪い影響を与える可能性があるため注意が必要です。
たとえば、殺人事件で凶器からあなたの指紋が出ている。目撃証言もあり、防犯カメラにも犯行状況が映像として残っている。この状況であれば、ほぼ確実にあなたの犯行であることが明らかです。
それにもかかわらず、黙秘権を行使する(事件に協力しない)となれば、心証としては「反省していない」「再犯の可能性が高い」と判断されやすくなるでしょう。結果的に、黙秘権を行使しなかった場合と比較して、重い判決が言い渡される可能性が高くなります。
そのため、黙秘権はすべての人に認められている権利ではあるものの、行使するかどうかは慎重に判断をする必要があります。まずは、担当弁護人とよく話し合いをしたうえで、方針を決定しましょう。
取り調べで黙秘を続けた場合のメリット・デメリット
取り調べにおける黙秘権の行使は、良くも悪くもさまざまな影響があります。黙秘権を行使し続けた場合のメリット、デメリットをそれぞれ詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
メリット1:不利な調書を防げる
黙秘権の行使は、単なる沈黙ではなく、自分を守るための強力な権利です。取り調べの場面では、警察官や検察官からさまざまな質問を受けます。たとえば、「あなたが〇〇(犯罪事実)をしたのでしょう?」「◯月◯日◯時頃、どこで何をしていた?」などと聞かれるでしょう。
そこであなたが「その日、その時間帯は自宅にいました」と答え、それを証明できる人がいなければ「アリバイがない証拠」として成立してしまいます。後になって不利な調書として裁判に使われてしまうことがあります。
しかし、黙秘権を行使すれば、そのような不用意な供述自体が記録されることを防げます。言い換えれば、「自分に不利になるかもしれない言葉」を相手に渡さずに済むでしょう。
メリット2:不起訴となる可能性がある
黙秘権を行使することによって、不起訴処分となる可能性があります。不起訴とは、検察官が「刑事裁判にかけない決定をすること」を指します。
あなたが罪を犯した可能性が非常に高いと判断されても、検察は「証拠」がなければ起訴しません。なぜならば、証拠がない状況で起訴をして刑事裁判を行ったとしても、裁判所は有罪判決を言い渡すことができないためです。
裁判所は、有罪である確固たる証拠がなければ、被告人に対して有罪判決を言い渡すことはできません。これは「疑わしきは罰せず」という原則に基づいています。どれだけ証拠が揃っていたとしても、罪を犯していない可能性が少しでもある場合は、有罪判決を言い渡すことはできません。
たとえば、状況からしてあなたが罪を犯したことが明らかであっても、黙秘権の行使によって自白証拠も得られない、その他証拠も揃っていない。という状況であれば、検察はあなたを不起訴処分とするでしょう。
「一度不起訴処分となった事件では、再度起訴されることはない」と見聞きしたことがある人がいるかもしれません。しかし、そのようなことはありません。ごく稀ではあるものの、新たな証拠が見つかった場合などは、再起(再度起訴すること)が可能です。ただし、時効は継続するため、時効の成立に伴って、再起できなくなります。
デメリット1:完全黙秘は精神的にキツイ
黙秘は、一部黙秘と完全黙秘があります。一部黙秘とは、たとえば「自分のことについては話すけど、事件については一切話しない」のように、一部のみを黙秘することを指します。完全黙秘は、「一切何も話さない」と、すべてのことについて黙秘することです。
完全黙秘をする場合は、相当な覚悟と忍耐力が必要となります。警察や検察等は、取り調べにおいてさまざまな質問をします。どうすれば、被疑者や被告人が話をしてくれるか?と考え、世間話をしてみたり、事件について関係のないことを話してみたりします。
そういったところから徐々に心を開かせて、事件について聞く流れに持っていこうとするでしょう。
しかし、一切話をしない(完全黙秘)を数十日間、毎日長時間にわたって行うことは相当な心理的負担となるでしょう。とはいえ、一部黙秘をしようとしても、多くの人は「事件に関係ないことだろう」と感じつつ話してしまった内容が、実は事件に関係していた。ということもあり得ます。
そのため、黙秘をする際は「〇〇については絶対話さない」もしくは「完全黙秘を貫く」といったことを決めて徹底することがとても大切です。
デメリット2:身柄拘束の可能性が高まる
黙秘をすることによって、身柄拘束の可能性が高まります。黙秘をするということは、「否認している(いわゆる否認事件)」として扱われます。
逮捕や身柄拘束をするためには、「証拠隠滅もしくは逃亡の恐れがあること」が条件です。否認事件である場合は、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断されやすくなるため、結果的に身柄拘束の可能性が高くなる点に注意が必要です。
とくに比較的軽微な事件である場合は、身柄拘束をせずに在宅捜査として扱われるケースも多いです。しかし、黙秘権の行使によって身柄拘束が発生する可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
デメリット3:裁判で不利になる可能性がある
あなたが実際に罪を犯しており、自白証拠以外の証拠が揃っていて、立件するに十分な証拠がある場合は黙秘権の行使が不利になる可能性があります。
たとえば、起訴をして有罪判決が言い渡されるほどの十分な証拠が揃っているとしましょう。この状況下で、黙秘権を行使する(事件に協力しない)ということは、一般的な心証として「罪を認めて反省しようとする姿勢がない」と判断されてしまいます。
とくに被害者がいる犯罪である場合は、被害者に対して謝罪もしていない、示談も成立していないこととなり、処罰感情が強くなります。結果的に、裁判では比較的重い刑罰が言い渡される可能性が高まるでしょう。
デメリット4:取り調べが厳しくなる可能性がある
取り調べで黙秘を継続することによって、取り調べが厳しくなる可能性があります。そもそも、警察や検察も限られた時間の中で可能な限り、自白証拠や事件の状況把握を行おうとします。
逮捕の場合は、逮捕から48時間以内、勾留された場合は20日以内に取り調べによる供述を得なければいけません。もし、自白以外の証拠がない、もしくは不足している場合はなんとかしてこの期限内に自白証拠を得ようとします。結果的に取り調べが厳しくなるでしょう。
検察としても、万が一にも勾留期間中に自白証拠を得られなければ、起訴できなくなる可能性も懸念しています。そのため、さまざまな視点や方法からなんとかして事件について話をしてもらおうとするでしょう。
取り調べで黙秘を続けたほうが良いケース
取り調べにおいて黙秘を続けたほうが良いケースは、以下に該当する場合です。
- 違法な取り調べを受けている場合
- 無実の罪で疑われている場合
- 弁護士に黙秘の継続を進められた場合
次に、取り調べで黙秘を続けたほうが良いケースについて詳しく解説します。
違法な取り調べを受けている場合
違法な取り調べはいかなる理由があったとしても認められていません。しかし、現実問題として、強圧的な態度を取られたり「認めないと帰れない」などと脅しに近い言葉を発せられたりするケースがあります。
このような状況下で不用意に答えてしまった場合、本来であれば認める必要のない事実まで「自白証拠」として扱われてしまう可能性があります。結果的に、裁判で不利になる可能性が高まるでしょう。
そのため、とくに違法な取り調べが行われている場合は、「黙秘権を行使します」や「その質問には答えられません」としっかりとした意思を示すことが大切です。こうすることで、不利な供述を調書(証拠)として残すことを防止できます。
無実の罪で疑われている場合
無実の罪で疑われている場合も不用意な発言は避けるべきでしょう。「やっていない」「知らない」などと伝えることは良いですが、誘導質問に乗っかるように答えてしまうと、無実の罪で有罪判決を受けてしまう可能性があります。
そもそも、警察や検察はあなたが犯人であるという前提のもとで話を進めてきます。そのため、不用意な発言が警察や検察の言葉に書き換えられ、ニュアンス的に「罪を認めた」という供述調書が作成されることがあるかもしれません。
弁護士に黙秘の継続を勧められた場合
弁護人から「黙秘を継続してください」と言われている場合は、その指示に従ったほうが良いでしょう。弁護人はこれまでにいくつもの刑事事件を担当しており、さまざまな戦い方を知っています。
そのうえで「黙秘を続けたほうが良い」と判断しているため、その方針を信頼したうえで黙秘をしたほうが良いです。警察や検察官には「弁護人から言われているため、何も話せません」と伝えるだけで良いです。
黙秘を続けるかどうかの判断基準
黙秘を続けるかどうかの判断基準は、以下のとおりです。
- 罪を犯した事実の有無
- 自白以外の証拠の有無
次に、黙秘を続けるべきかどうか?と悩んだ場合の判断基準について詳しく解説します。
罪を犯した事実の有無
初めに、罪を犯した事実があるのかどうかで黙秘権の行使有無を判断しましょう。本記事で何度もお伝えしているとおり、罪を犯している事実があるにも関わらず、黙秘権を行使した場合は刑事裁判で不利になる可能性があります。
なぜなら、「罪を犯したにも関わらず、事件について何も話さなかった。協力しなかった(反省していない)」と判断されるためです。
一方で、一切罪を犯していないのであれば、不用意な発言を避けるべきです。そのため、積極的に黙秘権を行使したほうが良いでしょう。
また、「直接的には関与していないけど、一部関与したかもしれない……」と悩まれている場合は、まずは弁護人に相談をしましょう。そのうえで方針を決定し、対応することが好ましいでしょう。
自白以外の証拠の有無
自白以外の証拠の有無についても判断するべきでしょう。たとえば、自白以外に証拠がない状況で黙秘権を行使した場合、検察側は一切の証拠がないこととなり、起訴できなくなる可能性が高まります。
一方で、事件について話すことで自白証拠のみならず、たとえば凶器の隠し場所や犯行の状況から見たその他の証拠が発見され、起訴されることになるでしょう。
仮に、自白証拠以外の証拠が揃っている場合は、素直に事件に協力したほうが良いです。理由は上記と同じです。事件について認めて反省している態度を示すことによって、量刑判断に良い影響を与えるためです。
取り調べで黙秘を続けるか悩んだ場合の対処法
取り調べにおいて、黙秘を続けるべきかどうか悩んだ場合は以下の対処法を検討しましょう。
- 弁護士と相談をする
- 供述に悩んだ場合は「弁護士と話してから話す」と伝える
次に、取り調べで黙秘を続けるか悩んだ場合の対処法について詳しく解説します。
弁護士と相談をする
初めに弁護士と相談をしましょう。弁護士は、あなたの味方であるため罪を犯したのであれば「罪を犯した」と伝えても良いです。そのうえで、どのように取り調べに応じるべきか?をよく話し合ったうえで方針決定していくことが好ましいです。
供述に悩んだ場合は「弁護士と話してから話す」と伝える
弁護士が取り調べに立ち会うことはできません。そのため、取り調べ中に「この質問に対して答えて良いのか?」と悩んだ場合は、「弁護士と話してから話します」と伝えれば良いです。
その後、弁護士と接見した際に「〇〇の質問にはどのように答えれば良いですか?」と聞き、その後の取り調べに反映させていけば良いでしょう。
取り調べの黙秘継続に関するよくある勘違い
取り調べにおいて黙秘を継続した場合、以下のことが起こるのではないか?といった勘違いをされている人が多くいます。
- 黙秘をし続けると不起訴になる
- 黙秘をすれば証拠は揃わない
- 黙秘をしても不利になることはない
次に、黙秘継続に関するよくある勘違いを解説します。これから黙秘を検討されている人は、自分の考えが勘違いではないか?といったことも含め、参考にしてください。
黙秘をし続けると不起訴となる
黙秘をし続けたとしても、かならず不起訴となるわけではありません。本記事で何度も解説しているとおり、取り調べにおける黙秘権のメリットは「供述(自白)証拠」を取られずに済むという点のみです。
自白証拠以外に証拠が揃っている場合は、当然起訴されて刑事裁判では有罪判決が言い渡されることになるため注意しましょう。
黙秘をすれば証拠は揃わない
黙秘をしても証拠が揃う可能性はあります。たとえば、殺人事件で凶器や遺体が発見されていない場合、被疑者や被告人の供述がなければ起訴することは難しいかもしれません。
しかし、凶器や遺体が発見され、実際にあなたが罪を犯したと疑うに足りる証拠が揃う可能性があります。たとえば、争った跡からあなたのDNAが検出された。凶器から指紋が検出され、凶器を購入した姿が店舗の防犯カメラに映っていた。
上記のように黙秘をしなくてもさまざまなところから証拠を得られる可能性があります。もちろん、黙秘をすることによって証拠を得にくくなるのも事実ではあるものの、「黙秘をすれば証拠は揃わない」といったことは勘違いです。
黙秘をしても不利になることはない
黙秘権の行使を理由に不利になることはありません。黙秘権は憲法で認められている権利であり、裁判所も「黙秘しているから怪しい……」のような心証を形成してはいけません。
しかし、黙秘権を行使することによって「反省していない」「被害者に謝罪をしていない」といった部分で不利に働く可能性がある点に注意が必要です。
黙秘権の行使による不利な扱いは、法律上は認められていません。ただし、裁判においては心証を悪くし、判決に影響を与える可能性があることは覚えておいたほうが良いでしょう。
よくある質問
取り調べにおいて黙秘権を行使し続ける際によくある質問を紹介します。
Q.取り調べで黙秘し続けたら釈放されにくいですか?
A.釈放されにくいと考えておいたほうが良いでしょう。
釈放とは、身柄拘束されている被疑者や被告人の身柄を解放することを指します。通常、逮捕や勾留をするためには「証拠隠滅の恐れ」や「逃亡の恐れ」がなければいけません。
黙秘権を行使することによって、「事件について否認している」と判断され、釈放されれば証拠隠滅や逃亡される可能性がある。という判断に至るケースが多いです。結果的に釈放は認められにくくなると思っておいたほうが良いでしょう。
Q.黙秘したら「反省していない」と判断されますか?
A.その可能性は高いです。
黙秘をするということは、罪を認めもしない、否認もしていない。という状況です。仮に、自白以外の証拠が揃っており、刑事裁判でもあなたが罪を犯したことが明らかであると判断された場合、事件に協力しなかった。反省の弁がなかった。という事実により、「反省していない」と判断される可能性が高まるでしょう。
とくに被害者のいる事件である場合、被害者の処罰感情も量刑判断に影響を与えます。黙秘をしている人は、被害者に対する謝罪や弁済を申し出ていないケースが多いです。このことにより、被害者の処罰感情が強まり、量刑が重くなるでしょう。
Q.一部だけ黙秘することはできますか?
A.もちろん可能です。
黙秘権は「言いたくないことは言わなくても良い」という権利です。つまり、何を話して何を話さないかは、自分自身で自由に決めて良いのです。「自分のことは話すけど、事件については話さない」といった黙秘の仕方でも問題ありません。
Q.弁護士がいない状態でも黙秘したほうがいいですか?
A.状況によりますが、基本的には弁護士と相談をしたうえで方針を決めたほうが良いです。
黙秘権は良くも悪くも今後の処分や判決に影響を与えます。そのため、基本的には弁護士と話し合ったうえで方針を決定して対応することが好ましいです。
もし、弁護士がまだ付いていないのであれば、本記事で解説した内容を踏まえて黙秘権を行使するかどうかを検討してみてください。
Q.黙秘を貫いた人はどんな結果になりやすいですか?
A.ケースバイケースであり、一概には言えません。
黙秘を貫いて不起訴処分になる人もいれば、刑事裁判で有罪判決が下される人もいます。事件ごとの状況によって異なるため、「黙秘権を行使した場合は〇〇になる」といったことは言えません。
まとめ
黙秘権の行使は、決して逃げや卑怯な態度ではありません。むしろ、自分を守るために法が認めた正当な権利です。取り調べの場では、無意識に口にした言葉が調書として残り、後から自分の意図と異なる形で有罪の証拠として使われることが少なくありません。
違法な取り調べや心理的な圧力の下では、事実でないことを「仕方なく認めてしまう」危険もあります。そのようなリスクを避けるためにも、黙秘権は非常に重要な役割を果たします。
法律上、黙秘を行使したこと自体が不利に評価されることはありません。ただし、裁判の場で弁解や説明を一切しない場合、結果的に「反論がなかった」と見られてしまう可能性はあります。
したがって、黙秘するかどうかは事件の内容や証拠の状況に応じて慎重に判断すべきであり、その際には必ず弁護士と相談することが望ましいでしょう。
要するに、黙秘は「万能の切り札」ではないものの、「不用意な供述を避けるための強力な盾」であることは間違いありません。とくに、違法な取り調べを受けている場合や、証拠の見通しが立っていない段階では、黙秘することが最善の選択肢になることも多いのです。
取り調べや裁判は、多くの人にとって一生に一度経験するかどうかの重大な場面です。だからこそ、黙秘権という基本的な権利を正しく理解し、いざというときに冷静に行使できるようにしておくことが大切です。