契約書を偽造すると罪になる?私文書偽造罪の構成要件や法定刑、逮捕されたときに弁護士へ相談するメリットを解説

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契約書を偽造すると私文書偽造罪の容疑で逮捕されるリスクに晒されます。

たとえば、他人になりすまして借用書にサインをする行為、売買契約書の金額欄を書き換える行為などが挙げられます。これらの契約書偽造行為が発覚すると、刑事責任を問われるだけではなく、民事の賠償責任も追求されかねません

そこで、この記事では、過去に契約書を偽造してしまった人や、偽造した契約書を悪用して被害者に損害を与えてしまった人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。

  • 契約書の偽造に対して適用される罪状
  • 契約書の偽造が発覚したときの刑事手続きの流れ
  • 契約書の偽造を理由に逮捕されたときのデメリット
  • 契約書を偽造したときに弁護士に相談・依頼するメリット

目次

契約書を偽造したときに問われる犯罪類型と法定刑

まずは、契約書を偽造したときに問われる可能性がある犯罪類型について解説します。

私文書偽造罪

契約書を偽造したときに適用される可能性が高いのは私文書偽造罪です。

(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
一 他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為
二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為
2 他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書等又は他人が電磁的記録印章等を使用して作成した権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書等又は電磁的記録文書等を偽造し、又は変造した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

私文書偽造罪の構成要件

私文書偽造罪は、以下の行為に及んだときに成立する犯罪類型のことです。

  1. 行使する目的で、他人の印章などを使用して権利、義務もしくは事実証明に関する文書などを偽造する行為(有印私文書偽造)
  2. 行使する目的で、偽造した他人の印章などを使用して権利、義務もしくは事実証明に関する文書などを偽造する行為(有印私文書偽造)
  3. 行使する目的で、他人の電磁的記録印章などを使用して権利、義務もしくは事実証明に関する電磁的記録文書などを偽造する行為(有印私文書偽造)
  4. 行使する目的で、偽造した他人の電磁的記録印章などを使用して権利、義務もしくは事実証明に関する電磁的記録文書などを偽造する行為(有印私文書偽造)
  5. 権利、義務または事実証明に関する文書または電磁的記録文書などを偽造する行為(無印私文書偽造)
行使の目的

私文書偽造罪は、「行使の目的」を有して私文書を偽造したときに成立する目的犯です。無印私文書偽造罪については「行使の目的」が明文化されていませんが、無印私文書偽造罪においても「行使の目的」が必要だと考えられています。

行使とは、偽造した文書・図画を真正な文書・図画として、虚偽文書・図画を内容が真実である文書・図画として使用することです。

行使の方法・態様について決まりはありませんが、人に文書の内容を認識させたり、または、認識可能な状態に置いたりする必要があります(最大判昭和44年6月18日)。

たとえば、偽造した金銭消費貸借契約書を使って保証人からお金を騙し取る目的で契約書を作出したようなケースでは、行使の目的があると判断されるでしょう。これに対して、自分で保管する目的だけで何かしらの契約書を偽造しただけでは、私文書偽造罪に問われることはありません。

権利・義務に関する文書

権利・義務に関する文書とは、私法上・公法上の権利・義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書のことです。

たとえば、送金を依頼する電報頼信紙(大判大正11年9月29日)、借用証書(大判大正4年9月2日)、催告書(大判昭和14年2月15日)、無記名定期預金証書(最決昭和31年12月27日)などが挙げられます。

事実証明に関する文書

事実証明に関する文書とは、実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書のことです(大判大正9年12月24日)。

たとえば、郵便局への転居届(大判明治44年10月13日)、衆議院議員候補者の推薦状(大判大正6年10月23日)、寄付金の賛助員芳名簿(大判大正14年9月22日)、書画が真筆であることを証明する書画の箱書き(大判大正14年10月10日)、政党の機関紙に掲載された広告文(最決昭和33年9月16日)、運転免許の模造学科試験の答案、私立大学の成績原簿、自動車登録事項等証明書交付請求書、自動車登録事項等証明書交付請求書、私立大学の入学試験の答案、一般旅券発給申請書、履歴書などが挙げられます。

偽造

私文書偽造罪における実行行為は「偽造」です。有形偽造とも呼ばれます。

偽造とは、「権限なく他人名義の文書を作成すること(最判昭和51年5月6日)」「文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ること(最判昭和59年2月17日)」です。

たとえば、借用証書を紛失した債権者が、債務者に許可をとることなく、勝手に債務者名義の借用証書を作成した場合には、金銭消費貸借契約書の内容が正しいものであったとしても、有形偽造になると考えられます。

有印・無印について

私文書偽造罪は、有印・無印によって法定刑が異なる点に注意が必要です。

有印とは、作成名義人の印章・署名がある文書のことです。無印は、作成名義人の印章・署名がない文書を意味します。

実印や認め印、自署によるサイン、印刷された記名など、幅広いものが印章・署名に含まれます。

刑法上、有印私文書偽造罪と無印私文書偽造罪が区別されているのは、有印か無印かによって文書の信用性が異なるからです。印章・署名ありの有印私文書を偽造したときのほうが文書の信用性に大きな影響を与えると判断されるため、有印私文書偽造罪の法定刑が重く扱われています。

私文書偽造罪の法定刑

私文書偽造罪の法定刑は、以下のように定められています。

  • 有印私文書偽造罪:3ヶ月以上5年以下の拘禁刑
  • 無印私文書偽造罪:1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑

有印私文書偽造罪の法定刑には罰金刑が定められていません。

そのため、有印私文書偽造罪の容疑で起訴されたときには、実刑判決になるか執行猶予がつくかが争点になります。

実刑判決が確定すると刑期を満了するまで社会生活から隔離されて出所後の社会復帰が難しくなるので、執行猶予付き判決獲得を目指した防御活動を展開してください。

私文書偽造罪の公訴時効

刑事事件を起こしたとしても、いつまでも刑事責任を問われるわけではありません。

犯罪行為が終了してから一定期間が経過すると、公訴時効が完成して、刑事処罰されずに済みます。

公訴時効期間は各犯罪類型の法定刑によって異なります。

私文書偽造罪の公訴時効期間は、以下のとおりです(刑事訴訟法第250条第2項各号)。

  • 有印私文書偽造罪の公訴時効期間:5年
  • 無印私文書偽造罪の公訴時効期間:3年

私文書偽造罪関係の罪数処理

契約書を偽造し、偽造した契約書を行使して、さらに何かしらの犯行に及んだときには、偽造私文書行使罪や詐欺罪が成立する可能性があります。

まず、私文書偽造罪と偽造私文書行使罪は牽連犯の関係に立ちます(大判昭和7年7月20日)。

次に、偽造私文書行使罪と詐欺罪も牽連犯と扱うのが判例です(大判明治44年11月10日)。ただし、偽造私文書行使罪と詐欺罪については、観念的競合と理解する見解も有力です。

私文書変造罪

契約書に手を加えた場合、私文書変造罪が成立する可能性があります。

変造とは、真正に成立した文書に変更を加えることです。作成名義人でない者によっておこなわれる場合は「有形変造」、作成名義人によってなされる場合は「無形変造」と呼ばれます。

文書の本質的な部分に変更を加えて、既存文書とはまったく同一性を欠くに至った場合には、新たな文書を作出したと判断されて、変造ではなく偽造と扱われる可能性があります。たとえば、すでに存在する契約書の金額欄だけを変更したケースは変造と扱われますが、他人名義を勝手に使って契約書を作出したときには変造と扱われるでしょう。

有印私文書変造罪の法定刑は「3ヶ月以上5年以下の拘禁刑」、無印私文書変造罪の法定刑は「1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑」です。

偽造私文書等行使罪

偽造した契約書を行使した場合には、偽造私文書行使罪が成立します。

(偽造私文書等行使)
第百六十一条 前二条の文書等又は電磁的記録文書等を行使した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載若しくは記録をした者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

たとえば、売買契約書を偽造して、あたかも相手方が売買代金の支払い債務を負っているかのような外観を作出し、債務者に対して金銭の支払いを請求したようなケースが挙げられます。

偽造私文書行使罪の法定刑は、私文書を偽造した人と同じように扱われます。つまり、偽造有印私文書行使罪の法定刑は「3ヶ月以上5年以下の拘禁刑」、偽造無印私文書行使罪の法定刑は「1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑」ということです。

偽造私文書行使罪は未遂犯も処罰対象とされています。

電磁的記録不正作出罪・供用罪

私人間で交わした電子契約書を偽造した場合には私電磁的記録不正作出罪が、偽造した電子契約書を使った場合には私電磁的記録不正供用罪が成立する可能性があります。

(電磁的記録不正作出及び供用)
第百六十一条の二 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、十年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4 前項の罪の未遂は、罰する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

私電磁的記録不正作出罪及び供用罪の法定刑は「5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」です。供用罪についてのみ未遂犯も処罰対象とされています。

また、公電磁的記録不正作出罪及び供用罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑」まで引き上げられます。

電磁的記録

電磁的記録不正作出罪・供用罪の客体は、人の事務処理の用に供する権利、義務または事実証明に関する電磁的記録のことです。公務所または公務員により作られるべきものは「公電磁的記録」、それ以外のものは「私電磁的記録」と呼ばれます。

電磁的記録とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識できない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもののことです。

たとえば、銀行の預金元帳ファイルの残高記録、プリペイドカードの残高記録、自動改札機用定期券の磁気記録、顧客データベースファイルの記録、売掛金などの会計帳簿ファイルの記録、電子契約書などが挙げられます。

人の事務処理を誤らせる目的

電磁的記録不正作出罪・供用罪は目的犯です。人の事務処理を誤らせる目的でおこなう必要があります。

人の事務処理を誤らせる目的とは、不正に作られた電磁的記録を用いて他人の事務処理を誤らせることです。

自分の抱えている借金額を減らすために、貸金業者の内部の人と共謀して、返済計画書や契約書のデータ記録を改変するようなケースが挙げられます。

不正作出

不正作出とは、電磁的記録の作出権限なく、または、作出権限を濫用して記録媒体上に電磁的記録を存在するに至らしめることです。

たとえば、電磁的記録の作出過程に関与する権限がないのに勝手にシステムの設置運営主体の意図しない電磁的記録を作出する場合、電磁的記録の作出過程に関与する一定の権限を有する者がその権限を濫用して虚偽のデータなどを作出する場合などが挙げられます。

供用

電磁的記録供用罪の実行行為は、供用です。

供用とは、不正に作出された電磁的記録を、他人の事務処理のため、これに使用される電子計算機において用いうる状態に置くことです。

契約書を偽造して逮捕されたときの刑事手続きの流れ

契約書を偽造して逮捕されたときの刑事手続きの流れについて解説します。

  1. 警察に逮捕される
  2. 警察段階の取り調べが実施される
  3. 検察官に送致される
  4. 検察段階の取り調べが実施される
  5. 検察官が公訴提起するかどうかを判断する
  6. 公開の刑事裁判にかけられる

契約書の偽造を理由に警察に逮捕される

契約書の偽造が発覚すると、私文書偽造などの容疑で警察に通常逮捕されます。

通常逮捕とは、裁判官が事前に発付する逮捕状に基づく強制的な身柄拘束処分のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。

通常逮捕が実施される場合、平日早朝の自宅など、被疑者が在宅している可能性が高いタイミングを狙って捜査員がやってきて、その場で強制的に身柄が押さえられます。

通常逮捕が実施されるタイミングを選ぶことはできません。また、身柄拘束される前に家族や会社などに電話連絡を入れるのも禁止されます。

契約書の偽造がバレるきっかけ

契約書の偽造が発覚するきっかけはさまざまです。

たとえば、偽造された契約書を行使されて被害を受けた人から警察に通報される場合があります。

また、契約書を偽造する際に入手した器具などの購入歴を不審に感じた店舗からの通報SNSや匿名掲示板などの投稿に対するサイバーパトロールなども挙げられるでしょう。

契約書の偽造がバレたとしても常に逮捕されるわけではない

契約書の偽造が警察に発覚したとしても、常に通常逮捕されるわけではありません

というのも、逮捕状が発付されるのは以下2つの要件を満たしたときに限られるからです。

  1. 逮捕の相当性:被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
  2. 逮捕の必要性:逃亡または証拠隠滅のおそれがあること

つまり、契約書を偽造した事実を証明する客観的証拠が存在したとしても、逃亡または証拠隠滅のおそれがない(逮捕の必要性がない)と判断できる状況なら、通常逮捕によって身柄拘束されることはないということです。

ただし、通常逮捕を免れたとしても、在宅事件という形式で捜査活動が進められる点に注意をしなければいけません。そして、警察からの出頭要請を無視したり、任意の事情聴取で供述を拒否したり嘘をついたりすると、途中で逮捕状が発付されて強制的に身柄拘束されるリスクが高まります。

ですから、契約書の偽造について警察から出頭要請がかかったときには、「逮捕の必要性がない」と判断される状況を作り出すための防御活動が不可欠だといえるでしょう。

契約書の偽造について警察段階の取り調べが実施される

契約書の偽造がバレて私文書偽造罪などの容疑で警察に逮捕されたあとは、警察段階の取り調べが実施されます。

逮捕後に実施される警察段階の取り調べには「48時間以内」という制限時間が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。48時間以内の取り調べが終了すると、被疑者の身柄と関係書類が検察官に送致されます。

警察段階の取り調べでどのような供述をするかは自由ですが、取り調べ自体を拒否することはできません。また、取り調べ以外の時間帯は留置場に身柄をとどめられるので、帰宅したり会社に出勤したりするのは不可能です。さらに、スマートフォンなどの通信機器はすべて取り上げられるため、自分で外部と連絡をとることも許されません。

契約書の偽造を理由に送検される

契約書の偽造について警察段階の取り調べが終了すると、検察官に送致されます。

なお、一般論としては、検察官が事前に指定した極めて軽微な事件類型については「微罪処分」という形で警察段階で刑事手続きが終了する可能性がありますが、私文書偽造事件が微罪処分の対象になることは想定しにくいでしょう。

契約書の偽造について検察段階の取り調べが実施される

送検後は、契約書の偽造について検察段階の取り調べが実施されます。

検察段階の取り調べの制限時間は「24時間以内」です(刑事訴訟法第205条第1項)。警察段階と同じように、被疑者には取り調べへの受忍義務が課されています。

警察段階「48時間以内」と検察段階「24時間以内」の合計「72時間以内」の取り調べが終了した段階で、検察官が私文書偽造事件を公訴提起するか否か判断します。

私文書偽造罪の容疑で勾留請求されると身柄拘束期間が伸びる

原則的な72時間以内の捜査活動だけでは、契約書の偽造について起訴するかどうかを判断できる証拠を収集しきれない可能性があります。

そして、捜査活動上やむを得ない理由があるときには、検察官による勾留請求が認められています(刑事訴訟法第206条第1項)。

検察官の勾留請求を受けて裁判所が勾留状を発付すると、被疑者の身柄拘束期間は原則10日以内、勾留延長が認められるとさらに10日間以内(合計最長20日間)まで範囲で延長されます(刑事訴訟法第208条各項)。勾留期間中も逮捕段階と同じように被疑者の身体・行動の自由は大幅に制限されます。

勾留請求が認められる可能性が高いのは、以下のような事情が存在する場合です。

  • 契約書の偽造方法を判定するのに慎重な鑑定が必要な場合
  • 偽造された契約書がどのような方法で使用されたかを捜査するのに時間を要する場合
  • 被害者や関係者に対する参考人聴取に時間を要する場合
  • 被疑者が供述を拒んでいる場合、客観的証拠と反する供述をしている場合
  • 複数の契約書を偽造して余罪への関与が疑われる場合 など

以上を踏まえると、勾留請求が認められると、逮捕されてから公訴提起判断までの間に最長23日間の身柄拘束を強いられる可能性があると考えられます。

仮に不起訴処分の獲得に成功しても、これだけ長期間の身柄拘束はそれだけで被疑者の社会生活に大きなデメリットを及ぼすので、「逮捕されないこと」「逮捕されたとしても勾留されないこと」を防御目標に掲げるべきでしょう。

契約書の偽造を理由に公訴提起するか判断される

逮捕期限・勾留期限が到来するまでに、検察官が契約書の偽造について公訴提起するかどうか(起訴処分か不起訴処分か)を決定します。

起訴処分とは、私文書偽造などの容疑で公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為のことです。これに対して、不起訴処分は、私文書偽造事件を刑事裁判にかけることなく検察官の判断で手続きを終了させる旨の意思表示を意味します。

日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いです。そのため、刑事裁判にかけられることが確定した時点(検察官が起訴処分を下した時点)で有罪判決が事実上決まってしまいます。

したがって、「有罪になりたくない」「前科をつけたくない」と希望するなら、刑事裁判で無罪判決獲得を目指すのではなく、検察官から不起訴処分の判断を引き出すための防御活動を展開するべきだといえるでしょう。

契約書を偽造した疑いで刑事裁判にかけられる

検察官が起訴処分の判断を下すと、契約書の偽造について公開の刑事裁判にかけられます。

公開の刑事裁判が開かれるタイミングは、起訴処分から1ヶ月~2ヶ月頃が目安です。逃亡や証拠隠滅のおそれが継続するなどの事情がある場合には、刑事裁判まで起訴後勾留が継続する可能性があります。

公訴事実を争わない場合には、第1回公判期日で結審します。これに対して、否認事件では、複数回の公判期日を経て証拠調べや証人尋問などが実施されて判決が言い渡されます。

有印私文書偽造罪の法定刑には罰金刑が定められていないため、実刑判決が確定すると。刑期を満了するまで刑務所への服役を強いられます。刑務所に収監されると今後の社会復帰が難しくなるので、特に有印私文書偽造罪などの容疑で起訴されたときには、執行猶予付き判決獲得を目指した防御活動を展開してください。

契約書を偽造して逮捕されたときに生じるデメリット5つ

契約書の偽造が発覚して逮捕されたときに生じる可能性があるデメリットは以下の5つです。

  1. 民事の賠償責任を追求される
  2. 実名報道リスクに晒される
  3. 逮捕・勾留によって長期間身柄拘束される
  4. 会社や学校から処分を下される
  5. 前科がつく

契約書を偽造したために民事責任を追求される可能性が高い

偽造した契約書を行使した結果、被害者が誤って金銭や財産的価値のある財物を引き渡してしまったり、被害者の社会的信用が失われたりした場合には、民事責任を追求される可能性が高いです。

「偽造契約書によって騙し取った財産をそのまま返還すれば民事責任は問われないだろう」というのは間違いです。

たとえば、不法行為に基づく損害賠償請求権を行使された場合、被害者に生じた実損害に加えて、慰謝料遅延損害金などの賠償もしなければいけません。また、偽造契約書に基づいて不動産を移転させたような事案では、登記手続きの修正などの費用負担も強いられます。

契約書偽造事件が実名報道される可能性が高い

刑事事件を起こすと、テレビの報道番組やインターネットニュースで実名報道されるリスクに晒されます。

もちろん、すべての刑事事件が実名報道の対象になるわけではありません。

一般的に、刑事事件に以下のような特徴があると、実名報道されるリスクが高まるといわれています。

  • 被疑者が逮捕・起訴された場合
  • 被疑者が著名人だったり、社会的に高い地位、役職、職業についていたりする場合
  • 生じた被害が甚大な場合(殺人、放火、被害額が高額の横領や背任など)
  • 社会的関心が高いテーマに関する刑事事件の場合(特殊詐欺、性犯罪など)

たとえば、契約書を何十枚も偽造して相当数の被害者が存在するケース、偽造契約書の講師によって高額の被害が発生したケースなどでは、実名報道される可能性が高いです。

一度でも、実名報道されると、インターネット上に半永久的に私文書偽造事件を起こした事実が残りつづけるので、結婚や就職・転職などの妨げになりかねないでしょう。

契約書偽造を理由に長期間身柄拘束される可能性がある

契約書の偽造がバレて私文書偽造罪などの容疑で刑事訴追されると、最終的に刑事責任が確定するまでに、長期間身柄拘束される危険性が高いです。

  • 警察段階の取り調べ(逮捕段階):48時間以内
  • 検察段階の取り調べ(逮捕段階):24時間以内
  • 検察段階の取り調べ(勾留段階):最長20日間
  • 起訴後勾留:刑事裁判が終了するまで

これだけの身柄拘束期間が生じると、起訴猶予処分や執行猶予付き判決を獲得できたとしても、被疑者の社会生活には回復し難いデメリットが生じます。

たとえば、身柄拘束期間中はスマートフォンなどの所持品をすべて取り上げられるので、家族や会社、学校などと直接連絡をとり合うことができません。また、取り調べ以外の時間帯は留置場・拘置所に身柄を収容されるので、帰宅したり出社したりするのも困難です。すると、刑事事件を起こした事実を隠しとおすことができず、何かしらの処分を下される可能性が高まります。さらに、厳しい取り調べとプライバシーのない留置場生活のせいで、心身に相当のストレスを強いられかねないでしょう。

契約書偽造を理由に会社・学校から処分を下される可能性がある

契約書を偽造して逮捕されると、被疑者が所属している学校や会社に監禁事件を起こした事実を隠しとおすのは難しいです。すると、学校や会社から何かしらの処分が下されかねません。

まず、被疑者が会社員の場合、就業規則の懲戒規程に基づき、所定の懲戒処分が下されます。懲戒処分は、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇の7種類に分類されるのが一般的です。たとえば、契約書の偽造によって甚大な被害をもたらしたような事案では、会社をクビになるリスクもあると理解する必要があります。特に、実名報道よって会社の社会的信用を毀損してしまった場合には、懲戒解雇のリスクが高まります。

また、被疑者が学生の場合、学則・校則に基づき、退学・停学・訓告などの処分が下されます。退学や停学などの重い処分に付されると、今後の進学や就職活動にも大きな支障が出かねません。

契約書偽造が原因で有罪になると前科がつく

契約書を偽造した結果、私文書偽造罪などの容疑で有罪になると、刑事罰を科されるだけではなく、前科者になってしまいます。

前科とは、有罪判決を下された経歴のことです。実刑判決だけではなく、執行猶予付き判決や罰金刑が確定した場合にも、前科持ちと扱われます。

そして、前科がつくと、今後の社会生活に以下のデメリットが生じます。

  • 履歴書の賞罰欄への記載義務、採用面接で質問されたときの回答義務が生じるので、就職活動・転職活動の難易度が高くなる
  • 記載義務・回答義務に違反して前科の事実を申告せず内定を獲得したり就職を果たしたりすると、その後、前科の事実が発覚すると、経歴詐称を理由に内定が取り消されたり懲戒解雇処分が下されたりする
  • 前科を理由に就業が制限される資格・仕事がある(士業、警備員、金融業など)
  • 前科を理由に離婚を言い渡されたり結婚話がなくなったりしかねない
  • 前科があると、ビザやパスポートの発給制限を受ける場合がある(海外旅行、海外出張に支障が生じる)
  • 再犯時の刑事処分が重くなる可能性が高い など

日本の刑事裁判の有罪率は高いので、刑事裁判で無罪判決を獲得することで前科を回避するのは難しいでしょう。

ですから、どうしても前科がつくと困るのなら、検察官から起訴猶予処分の判断を引き出すための防御活動を展開するべきだと考えられます。

契約書を偽造したときに弁護士へ相談・依頼するメリット4つ

契約書を偽造してしまったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼をしてください。

刑事事件への対応が得意な弁護士の力を借りれば、以下4つのメリットを得られるでしょう。

  1. 被害者との間で示談交渉を進めてくれる
  2. 自首に関するサポートを期待できる
  3. 有利な刑事処分獲得を目指した防御活動を展開してくれる
  4. 日常生活に生じるデメリットの回避・軽減を目指してくれる

被害者との間で示談交渉を進めてくれる

示談とは、刑事事件の被害者・加害者との間で直接話し合いをおこない、民事的解決策について和解契約を締結することです。

示談が成立すれば、刑事手続きにおいて以下のメリットを得られます。

  • 被害者が警察に相談する前に示談が成立すれば、刑事事件化自体を回避できる
  • 示談成立によって被害届・告訴状の取り下げを期待できる
  • 示談成立によって起訴猶予処分や執行猶予付き判決獲得の可能性が高まる
  • 示談成立によって逃亡または証拠隠滅のおそれがないと判断されて在宅事件の対象になりやすくなる

契約書偽造事件の示談交渉を弁護士に任せるメリット

示談交渉は加害者本人や加害者家族が対応することも可能です。

しかし、スムーズな示談交渉を希望するなら、弁護士に話し合いを代理してもらうことを強くおすすめします。

というのも、契約書偽造事件の示談交渉を弁護士に依頼することで、以下のメリットを得られるからです。

  • 弁護士が代理人に就いたほうが捜査機関経由で被害者の連絡先を入手しやすくなる
  • 刑事手続きの各段階に間に合うように示談成立を目指してくれる
  • 弁護士が代理人に就任したほうが被害者側が冷静に話し合いに対応してくれやすくなる
  • 被害者側から不当な示談条件をつきつけられたとしても、相場どおりの示談条件で和解契約を締結してくれる
  • 宥恕条項や債務不存在条項など、示談書に盛り込むべき内容をしっかりと記載した示談書を作成してくれる

自首に関するサポートを期待できる

自首とは、犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前に犯人自身が捜査機関に犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示をすることです。

自首が有効に成立すれば、刑事裁判において自首減軽の恩恵を受けることができますし、起訴猶予処分・在宅事件処理という有利な刑事処分を獲得しやすくなります。

契約書を偽造した事実が警察にバレていない段階なら、自首が有効な防御策になるでしょう。

弁護士に相談・依頼をすれば、自首について以下のメリットを得られます。

  • 契約書偽造の経緯や行使の状況などを聴取したうえで、示談交渉を優先するべきか速やかに自首するべきかを判断してくれる
  • 自首後に実施される事情聴取における供述内容・供述方針を明確化してくれる
  • 自首をする際に警察署まで同行してくれる

有利な刑事処分獲得を目指してくれる

刑事事件への対応が得意な弁護士に相談・依頼すれば、契約書の偽造がバレて私文書偽造罪の容疑をかけられたとしても、有利な刑事処分獲得を期待できます

たとえば、弁護士は刑事手続きの各段階において、以下の防御目標を掲げて弁護活動を展開してくれるでしょう。

  • 任意の出頭要請がかけられてあ段階なら、事情聴取への対応方法についてアドバイスをしたうえで、在宅事件処理を目指してくれる
  • 逮捕されたとしても、準抗告や取り消し請求などの勾留阻止活動を展開してくれる
  • 検察官から起訴猶予処分の判断を引き出して刑事裁判の回避を目指してくれる
  • 起訴処分が下されたら速やかに保釈請求をして、日常生活に生じるデメリットの回避・軽減を目指してくれる
  • 刑事裁判にかけられたとしても、執行猶予付き判決や罰金刑の量刑判断を引き出して、実刑判決の回避を目指してくれる

特に重要なのが「検察官から起訴猶予処分の判断を引き出すことができるか」という点です。有罪や前科を回避できるかが社会復帰の難易度を大きく左右します。

「実際に契約書を偽造した事実を争う余地がない状況だから、有罪になるのは仕方ないだろう」と諦める必要はありません。というのも、実際に刑事事件をい起こした事実に間違いがなくても、起訴猶予処分によって検察段階で刑事手続きを終わらせることができるからです。

起訴猶予処分にするかどうかを決定するときには、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況が総合的に考慮されます(刑事訴訟法第248条)。刑事実務への対応に慣れた弁護士に依頼をすれば、起訴猶予処分の判断を引き出すために役立つ情状証拠などを用意してくれるでしょう。

日常生活に生じるデメリットの回避・軽減を目指してくれる

刑事事件への対応が得意な弁護士は、契約書の偽造が原因で生じうる日常生活へのデメリットの回避・軽減を目指します。

たとえば、実名報道や嫌がらせによってSNSや匿名掲示板で名誉毀損・誹謗中傷がおこなわれた場合、削除請求や発信者情報開示請求、慰謝料請求などの法的措置によって対抗してくれます。また、会社から下された懲戒処分の内容に不満がある場合には、労働審判や民事訴訟などの措置も検討してくれるでしょう。

契約書を偽造して罪に問われそうなときには弁護士へ相談しよう

契約書を偽造したり、偽造契約書を行使したりした場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼してください。

刑事事件の経験豊富な私選弁護人の協力を得ることで、逮捕・勾留といった身柄拘束処分のデメリットを回避しやすくなりますし、起訴猶予処分などの有利な刑事処分獲得の可能性が高まるでしょう。

刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、私文書偽造罪などの弁護活動が得意な法律事務所を多数紹介中です。弁護士に相談・依頼するタイミングが早いほど社会復帰しやすい状況を作り出しやすいので、速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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