パワハラで逮捕されるケースとは?適用される罪状や法定刑、早期の示談交渉の重要性について解説

NO IMAGE

パワハラ事件が発生すると、被害者や会社が警察に相談することがあります。

もちろん、刑法などにおいて「パワハラ罪」という犯罪が直接規定されているわけではありません。しかし、職場などでのパワハラ行為が傷害罪や侮辱罪などの構成要件を満たす場合には、パワハラを理由に逮捕されかねません

パワハラで逮捕されると、逮捕・勾留によって一定期間身柄拘束されるだけではなく、執行猶予付き判決や罰金刑が確定したとしても前科によるデメリットに悩まされつづけます。

ですから、パワハラが問題視されたときには、できるだけ早いタイミングで被害者と示談交渉を開始して警察への相談を防ぐこと、仮に刑事事件化したとしても早期の防御活動によって微罪処分や起訴猶予処分獲得を目指すことが重要だと考えられます。

そこで、この記事では、パワハラ事件を起こして逮捕されるのではないかと不安を抱えている人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。

  • パワハラで逮捕される可能性はあるのか
  • パワハラで逮捕されるケースに適用される可能性がある罪状・法定刑
  • パワハラで逮捕されたときの刑事手続きの流れ
  • パワハラで逮捕されたときに生じる可能性があるデメリット
  • パワハラで逮捕されそうなときに弁護士へ相談・依頼するメリット

目次

パワハラで逮捕される可能性はあるのか

まずは、パワハラで逮捕される可能性はあるのかパワハラで逮捕される場合にはどのような罪状で逮捕状が発付されるのかについて解説します。

パワハラ罪は存在しない

まず、「パワハラ罪」という犯罪類型が刑法などで定められているわけではありません

パワハラが犯罪の構成要件を満たすと刑事責任を問われる可能性がある

パワハラ行為が刑法などに規定される犯罪類型に該当するときには、刑事事件として立件される可能性があります。

どのような態様のパワハラ行為がおこなわれるかにもよりますが、後述するように、傷害罪や暴行罪、名誉毀損罪などが適用されるでしょう。

パワハラで逮捕されるのは通常逮捕の要件を満たしたとき

パワハラ行為に対して暴行罪や傷害罪などが適用される場合でも、常に逮捕されるわけではありません

というのも、通常逮捕されるのは(逮捕状が発付されるのは)、以下2つの要件を満たしたときに限られるからです。

  1. 逮捕の理由があること:被疑者が犯行に及んだという相当の理由があること
  2. 逮捕の必要性があること:逃亡または証拠隠滅のおそれがあること

つまり、刑事責任を問われるようなパワハラ行為に及んだとしても、逃亡または証拠隠滅のおそれがないと判断されるような状況であれば、通常逮捕されずに済むということです。

逮捕状が発付されて強制的に身柄拘束されると、それだけで被疑者の日常生活にはさまざまなデメリットが生じるので、パワハラ行為に及んでしまったときには、早期に被害者との間で示談交渉を開始するなどして、逮捕の回避を目指した防御活動を展開するべきでしょう。

パワハラで逮捕されずに済んでも任意で事情聴取を受ける

通常逮捕されずに済んでも、刑事責任を一切問われないというわけではありません。

というのも、被害届や告訴状が提出された結果、パワハラ行為が刑事事件化した場合には、通常逮捕されなかったとしても、任意で捜査活動が進められるからです。このような事件処理類型は「在宅事件」と呼ばれます。

任意で捜査活動が進められる場合、警察から呼び出しがあったタイミングで出頭をし、パワハラについて事情聴取を受けなければいけません。ただし、どの日に警察に出頭するかについては事前に捜査機関側と相談できます。また、出頭した当日は、数時間程度の事情聴取を受ければ帰宅可能です。

もっとも、正当な理由がないのに出頭要請を拒否したり、事情聴取で黙秘・否認をしたりすると、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると判断されて、逮捕手続きに移行するリスクに晒されます。

パワハラの定義と具体的内容

厚生労働省は、パワハラを「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。

「上司から部下へのパワハラ」が典型例としてイメージされることが多いですが、先輩・後輩間、同僚間、部下から上司に対しておこなわれるものも含まれます。

また、労働者が通常就業している事業所などの場所以外であったとしても、職場でのパワハラに含まれるケースが少なくありません。たとえば、社員寮や通勤途中、出張先、業務中に使用する営業車内、取引先との打ち合わせ場所などが挙げられます。

パワハラの代表例は以下のとおりです。

  • 暴行、傷害、物を投げつけるなどの「身体的な攻撃」
  • 脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などの「精神的な攻撃」
  • 隔離、仲間外し、無視などの「人間関係からの切り離し」
  • 業務上明らかに不要なこと・遂行不可能なことの強要、仕事の妨害などの「過大な要求」
  • 業務上の合理性がないにもかかわらず、能力や経験をかけ離れた程度の低い仕事を命じたり仕事を与えなかったりするなどの「過小な要求」
  • プライベートなことに過度に立ち入るといった「個の侵害」
  • 私物を壊す など

パワハラへの該当性と刑事責任の有無は直接的に関係しない

パワハラは、職場という組織内でおこなわれるいじめ・嫌がらせなどの現象を指す用語です。

つまり、パワハラへの該当性が肯定されたからといって、それだけで加害者の法的責任(民事責任・刑事責任)が確定されるわけではありません

言い換えれば、いわゆるパワハラへの該当性が確実に肯定されるわけではない状況であったとしても、不法行為に基づく賠償責任の要件を満たすときには民事責任が発生しますし、各犯罪類型の構成要件を満たすなら逮捕されて刑事責任と問われうるということです。

ですから、パワハラを理由に刑事訴追された場合、「パワハラをしていない」という反論は刑事手続きにおいて重要な反論にはならないと考えられます。速やかに刑事事件への対応が得意な弁護士に相談・依頼をして、民事責任・刑事責任双方に対する弁護活動を展開してもらいましょう。

パワハラに対して適用される犯罪類型

パワハラに対して適用される可能性がある犯罪類型と法定刑について解説します。

  • 暴行罪
  • 傷害罪
  • 名誉毀損罪
  • 侮辱罪
  • 脅迫罪
  • 強要罪
  • 器物損壊罪

暴行罪

暴行罪とは、暴行を加えたものの被害者に傷害結果が生じなかったときに成立する犯罪類型のことです。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

暴行とは、人に対する物理力の行使のことです。暴行には人の身体に対する不法な一切の攻撃方法が含まれ、性質上傷害結果を惹起するものである必要はありません。

たとえば、職場で後輩の頬をビンタする行為、書類などで頭を叩く行為、制服などをつかんで引っ張る行為、被害者に向かって備品などを投げつける行為などが挙げられます。

暴行罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または、拘留もしくは科料」です。

傷害罪

傷害罪とは、人の身体を傷害したときに成立する犯罪類型のことです。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

傷害とは、生活機能の毀損、健康状態の不良変更のことです(大判明治45年6月20日)。暴行によって傷害が生じた場合が典型例ですが、暴行ではない手段によって傷害が生じた場合も含まれます。

たとえば、被害者の顔面を殴打して打撲をさせた場合、エレベーターから突き落として怪我をさせた場合などだけではなく、怒号などの嫌がらせや集団的ないじめによってうつ病などの精神疾患を発症させた場合などが挙げられます。

傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」です。

名誉毀損罪

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示することで人の名誉を毀損したときに成立する犯罪類型のことです。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

まず、「公然と」とは、不特定または多数の人が認識し得る状態のことです。事実摘示の相手方が特定少数人であったとしても、その特定少数人を通じて不特定または多数人に伝播する場合には、公然性が認められます(最判昭和34年5月7日)。たとえば、多くの職員がいるオフィスで部下に暴言をはいた場合だけではなく、少人数しか参加していない会議やメーリングリストで社会的評価を下げる発言をした場合にも、名誉毀損罪が成立する可能性があるでしょう。

次に、「事実の摘示」とは、人の社会的評価を低下させるような具体的事実を示すことです。プライバシーに関する事実や公知の事実、虚偽の事実であったとしても、社会的評価を低下させるような内容であれば、名誉毀損罪が成立します。たとえば、「⚪︎⚪︎は親が前科者だから仕事ができない」「⚪︎⚪︎は会社の備品を盗んでる」といったの発言などが挙げられます。

名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」です。

侮辱罪

侮辱罪とは、公然と人を侮辱したときに成立する犯罪類型のことです。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

侮辱とは、事実を摘示せずに人に対する侮辱的価値判断を示すことです。たとえば、バカ、アホ、ブスなどの発言をオフィスなどで繰り返した場合には、侮辱罪が成立すると考えられます。

侮辱罪の法定刑は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または、拘留もしくは科料」です。

脅迫罪

パワハラをすると、脅迫罪が適用される可能性があります。

(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
引用:刑法|e-Gov法令検索

たとえば、「さっさと辞表を出さないと家族に迷惑をかけるぞ」「⚪︎⚪︎日までにノルマを達成しないと給料で損失を支払わせる」などの発言をすると、脅迫罪が成立する可能性があります。

脅迫罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑」です。

強要罪

パワハラ行為の内容によっては、強要罪が適用される可能性もあります。

(強要)
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

たとえば、「気に食わないから」などの理由で無理やり土下座をさせた場合、暴力で逆らえないようにしたうえでトイレ掃除を強要しつづけたりした場合、パワハラ被害について警察に相談しようとすることを無理やり中止させた場合などが挙げられます。

強要罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑」です。

器物損壊罪

パワハラの際に、被害者の私物を壊したり隠したりした場合には、器物損壊罪の容疑をかけられる可能性があります。

(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用:刑法|e-Gov法令検索

器物損壊罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料」です。

パワハラで逮捕されたときの刑事手続きの流れ

パワハラで逮捕されたときの刑事手続きの流れについて解説します。

  1. 警察に後日逮捕される
  2. 警察段階の取り調べが実施される
  3. 送検される
  4. 検察段階の取り調べが実施される
  5. 検察官が公訴提起するかどうかを判断する
  6. 刑事裁判にかけられる

パワハラの容疑で警察に通常逮捕される

パワハラが刑事事件化すると、傷害罪などの容疑で通常逮捕される可能性があります。

先ほど説明したとおり、逮捕状が発付されるのは「逮捕の理由があること」「逮捕の必要性があること」の2つの要件を満たしたときです。

パワハラについて傷害罪などの容疑で逮捕状が発付されると、平日早朝の自宅など、被疑者が所在している可能性が高い場所・タイミングを見計らって捜査員がやってきて、逮捕状が執行され、身柄を拘束された状態で警察署に連行されます。

たとえば、仕事や用事があったとしても、警察署に連行される日時などを調整することはできません。また、警察署に連行される前に家族や会社に電話連絡を入れることも許されないのが実情です。

パワハラが刑事事件化するきっかけ

パワハラが刑事事件として立件されるきっかけとして以下のものが挙げられます。

  • パワハラ被害について会社側との話し合いがまとまらず被害者が警察に相談したケース
  • 被害者がパワハラ被害についてSNSなどで実名告発した結果、多くの通報が寄せられて警察が捜査を開始したケース
  • 被害者が会社に対して不信感を抱いて、いきなり警察に通報をしたケース
  • パワハラについて事態を重く捉えた会社側が、今後の対応について警察側に相談したケース など

パワハラについて逮捕の理由があると判断されるケース

パワハラを理由に逮捕状が発付されるのは、被疑者が犯罪類型に該当するような行為態様でパワハラに及んだ事実を示す客観的証拠があり、かつ、「逃亡または証拠隠滅のおそれがあるとき」です。

たとえば、以下のような事実関係があると、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると判断されやすいでしょう。

  • 正当な理由がないのに警察からの任意の出頭要請を無視・拒否したケース
  • 任意の事情聴取においてパワハラに関する客観的証拠と反する供述をしたケース
  • 任意の事情聴取で明らかな嘘をついたり黙秘・否認をしたケース
  • パワハラの被害者に警察に相談しないように働きかけをしたケース
  • パワハラに関する証拠などを隠滅したケース など

言い換えれば、パワハラ事件について警察から任意の出頭要請がかけられて、これに対して誠実な対応をすれば、逮捕されずに在宅事件として処理されて、強制的な身柄拘束を回避できるということです。

パワハラの容疑で警察段階の取り調べが実施される

パワハラ事件を起こして傷害罪などのの容疑で警察に逮捕されたあとは、警察段階の取り調べが実施されます。

逮捕後に実施される警察段階の取り調べには「48時間以内」という制限時間が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。48時間以内の取り調べが終了すると、被疑者の身柄と関係書類が検察官に送致されます。

逮捕処分に基づいて実施される警察段階の取り調べは拒否できません。また、取り調べ以外の時間帯は留置場に身柄をとどめられるので、帰宅したり会社に出勤したりするのは不可能です。さらに、スマートフォンなどの通信機器はすべて取り上げられるため、自分で外部と連絡をとることも許されません。

パワハラの容疑で検察官に送致される

パワハラ事件に関する警察段階の取り調べが終了すると、原則として警察から検察官に送致されます。

捜査活動に対する最終的な処分権限を有するのは検察官だからです(刑事訴訟法第246条本文)。

一定の事情があればパワハラ事件を起こしても微罪処分を獲得できる

捜査活動の人的資源には限界があります。すべての刑事事件を送検すると、検察庁の業務がひっ迫し、各刑事事件に対して適切な判断を下すのが難しくなってしまうでしょう。

そこで、以下の要素を満たす刑事事件については、警察限りの判断で微罪処分に付される可能性があります(刑事訴訟法第246条但書)。

微罪処分とは、以下のような事情を有する極めて軽微な刑事事件に対して、検察官に送致せずに警察限りの判断で刑事手続きを終了させる旨の判断のことです。

  • 遡行不良者ではないこと:前科・前歴のない完全な初犯など
  • 身元引受人・監督者がいること(家族、会社の上司、親族、知人など)
  • 検察官があらかじめ指定した極めて軽微な犯罪類型に該当すること
  • 犯情が軽微であること
  • 反省していること
  • 被害が少ないこと
  • 被害者との間で示談が成立していること

微罪処分の対象になれば、逮捕されていたとしてもすぐに身柄が釈放されて刑事手続きが終わりますし、起訴・有罪・前科のリスクに悩まされることもなくなります。

ただし、これらの事情をすべて満たしたからといって、常に微罪処分の対象になるとは限りません。微罪処分に付するかどうかは、あくまでも警察の裁量事項です。

パワハラの容疑で検察段階の取り調べが実施される

パワハラ事件を起こして検察官に送致されると、検察段階の取り調べが実施されます。

送検後に実施される検察段階の取り調べには「24時間以内」の制限時間が定められています(刑事訴訟法第205条第1項)。

警察段階の48時間以内と検察段階の24時間以内、「合計72時間以内」の取り調べが終わると、検察官が監禁事件を起訴するかどうかを決定します。

警察段階の取り調べと同じように、検察段階の取り調べ中も、被疑者の行動・身体の自由は大幅に制限されたままです。

パワハラ事件を起こして逮捕されると勾留請求のリスクに晒される

原則的な72時間以内の取り調べだけでは公訴提起判断に必要な証拠を収集できないケースは少なくありません。

たとえば、以下のような捜査活動上のやむを得ない理由があるケースでは、検察官による勾留請求がおこなわれる可能性が高いです(刑事訴訟法第206条第1項)。

  • 警察段階・検察段階の取り調べでパワハラについて黙秘・否認をしたケース
  • 長期間パワハラ行為がおこなわれているなど、事件の全体像を把握するのに時間を要するケース
  • 被害者や目撃者に対する参考人聴取に時間を要するケース
  • 削除されたメッセージの復元などに時間を要するケース など

勾留とは、裁判官が発付する勾留状に基づいて実施される強制処分のことです。

勾留状が発付されると、逮捕処分と同じように、被疑者の身体・行動の自由は大幅に制限された状態がつづきます。検察官による勾留請求が認められて、裁判官が勾留状を発付すると、被疑者の身柄拘束期間は最長20日間延長されます(刑事訴訟法第208条各項)。

以上を踏まえると、パワハラ事件を起こして傷害罪などの容疑で逮捕・勾留されると、検察官が起訴・不起訴を判断するまでに最長23日間の身柄拘束期間を強いられる可能性があると考えられます。身柄拘束期間が数週間に及ぶと、仮に不起訴処分の獲得に成功したとしても日常生活に甚大なデメリットが生じるので、できるだけ早いタイミングで刑事事件への対応が得意な弁護士に相談・依頼をするべきでしょう。

パワハラの容疑で検察官が公訴提起するかどうかを判断する

パワハラ事件について捜査活動が終了すると、検察官が公訴提起するかどうか(起訴か不起訴か)を決定します。

起訴処分とは、パワハラ事件を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為のことです。これに対して、不起訴処分は、パワハラ事件を刑事裁判にかけることなく検察官の判断で手続きを終了させる旨の意思表示を意味します。

日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いです。そのため、検察官が起訴処分を下して刑事裁判にかけられることが確定した時点で、有罪判決が事実上決まってしまいます

したがって、「有罪になりたくない」「前科をつけたくない」と希望するなら、刑事裁判で無罪判決獲得を目指すのではなく、検察官から不起訴処分の判断を引き出すための防御活動を展開するべきだといえるでしょう。

パワハラの容疑で刑事裁判にかけられる

パワハラ事件を起こして起訴されると、公開の刑事裁判にかけられます。

公開の刑事裁判が開かれるタイミングは、起訴処分から1ヶ月~2ヶ月頃が目安です。起訴後も逃亡や証拠隠滅のおそれが継続するなどの事情があるケースでは、刑事裁判まで起訴後勾留が継続する可能性があるので注意が必要です。

公訴事実を争わずに全面的に受け入れる場合には、第1回公判期日で結審します。これに対して、否認事件では、複数回の公判期日を経て証拠調べや証人尋問などが実施されて判決が言い渡されます。

実刑判決が確定すると刑期を満了するまで刑務所への服役を強いられて社会復帰が難しくなるので、パワハラ事件を起こして起訴されたケースについては、罰金刑や執行猶予付き判決獲得を目指して実刑回避を目指した防御活動が重要になるでしょう。

パワハラ事件は略式手続きの対象になる可能性がある

略式手続き(略式裁判/略式命令/略式起訴)とは、公判の刑事裁判手続きを省略して、検察官の請求に基づき簡易裁判所が書面審査のみで100万円以下の罰金刑または科料を確定させる裁判手続きのことです(刑事訴訟法第461条以下)。

検察官が刑事裁判で100万円以下の罰金刑などを求刑する予定の刑事事件では、略式手続きに同意をするかの判断を求められます。略式手続きに同意をすれば公開の刑事裁判への対応を回避できるので、時間・労力を節約した状態で社会復帰を目指せます。また、罰金刑が確定するため、実刑判決を下されるリスクも回避可能です。

ただし、略式手続きに同意をすると、公開の刑事裁判で反論をしたり、無罪判決獲得を目指したりするチャンスは失われます。つまり、略式手続きを選択した場合には、有罪判決及び前科が確定するということです。

略式手続きに同意するべきかどうかは、パワハラ事件の内容や捜査活動の進捗状況によって異なります。必ず刑事裁判経験豊富な弁護士に相談・依頼をして、略式手続きに同意するかどうかについてアドバイスを求めてください

パワハラの容疑で逮捕されるケースで覚悟するべきデメリット5つ

パワハラ事件を起こして逮捕されるケースで覚悟するべきデメリットを5つ紹介します。

  1. 実名報道のリスクに晒される
  2. 長期間身柄拘束される危険性がある
  3. 会社から何かしらの処分が下される可能性がある
  4. 被害者から民事の賠償責任を追求される可能性が高い
  5. 前科がつく危険性がある

パワハラ事件の事実が実名報道されるリスクがある

刑事事件を起こすと、テレビ番組やネットニュースなどで実名報道される危険性があります。

一度でも実名報道の対象になると、半永久的にインターネット上に、パワハラ事件を起こした事実や逮捕された事実が残りつづけてしまいます。たとえば、就職活動や転職活動、結婚や交際、交友関係などに悪影響が生じる可能性が高いでしょう。

どの刑事事件が実名報道の対象になるかについて一定の基準は設けられていません。ただし、一般的には、以下のような事情があると実名報道されやすいと言われています。

  • 深刻な被害が発生したケース(パワハラによって身体・生命に重大な侵害が生じたケース、高額の被害額が発生したケースなど)
  • 被疑者の社会的地位が高いケース(著名な企業で深刻なパワハラが発生したケース、被疑者・被害者などが著名なケースなど)
  • 被疑者が逮捕・逮捕されたケース
  • 社会的関心が高いケース

パワハラが刑事事件に発展するようなケースでは、実名報道リスクが高いと考えられます。少しでも実名報道リスクを減らすには、刑事事件化するまでに示談交渉をまとめること、逮捕・起訴されないことが重要だと考えられるので、パワハラ行為が問題になったときにはできるだけ早いタイミングで刑事事件への対応が得意な弁護士に相談・依頼をしてください。

パワハラの容疑で刑事訴追されると長期間身柄拘束される可能性がある

パワハラが刑事事件化すると、長期間身柄拘束されるリスクに晒されます。

刑事手続きにおいて想定される身柄拘束期間は以下のとおりです。

  • 警察段階の取り調べ(逮捕段階):48時間以内
  • 検察段階の取り調べ(逮捕段階):24時間以内
  • 検察段階の取り調べ(勾留段階):最長20日間
  • 起訴後勾留:刑事裁判が終了するまで

たとえば、在宅事件として処理されると、捜査機関に強制的に身柄を拘束される事態を回避できるので、刑事訴追された事実を家族や知人などに隠しやすくなります。また、厳しい留置場生活を強いられることなく、普段どおりの生活を送りながら刑事手続きに対応することも可能です。

これに対して、逮捕・勾留・起訴後勾留によって長期間身柄拘束されると、社会生活から断絶された状態を強いられるので、家族や知人、会社の人たちにパワハラ事件を起こした事実がバレますし、社会復帰も難しくなるでしょう。

パワハラ行為を理由に会社から懲戒処分を下される可能性が高い

パワハラ事件を起こすと、勤務先から懲戒処分を下される可能性が高いです。

一般的に、懲戒処分の内容・種類は、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇の7種類に分類されます。勤務先が定める就業規則の内容次第では、刑事手続きの流れや実名報道の有無、パワハラ行為の内容次第では、会社をクビになるリスクもあると覚悟しておきましょう。

パワハラ被害者から民事の賠償責任を追求される可能性が高い

パワハラ事件を起こすと、民事の賠償責任を追及される可能性が高いです。パワハラは民法上の不法行為に該当するからです。

たとえば、パワハラの際に暴行行為に及んで怪我をさせたようなケースでは、治療費、慰謝料、休業損害などを支払わなければいけません。また、パワハラの際に物を壊したケースでは、被害弁償も強いられます。損害賠償額・慰謝料額は事案によって異なりますが、数百万円以上の支払いを求められるケースも少なくありません。

被害者側から不法行為に基づく損害賠償請求・慰謝料請求をされると民事裁判への対応を強いられかねませんし、判決が確定したにもかかわらず任意で判決を履行しなければ、預貯金や給料、不動産などが差し押さえられるリスクにも晒されます。

パワハラ事件を起こして有罪になると前科がつく

パワハラ事件を起こして傷害罪などの容疑で有罪になると、刑事罰を科されるだけではなく、前科によるデメリットも発生します。

前科とは、有罪判決を下された経歴のことです。実刑判決だけではなく、執行猶予付き判決や罰金刑が下された場合にも前科持ちと扱われます。

そして、前科者になると、今後の社会生活に以下のデメリットが生じます。

  • 履歴書の賞罰欄への記載義務、採用面接で質問されたときの回答義務が生じるので、就職活動・転職活動の難易度が高くなる
  • 記載義務・回答義務に違反して前科の事実を申告せず内定を獲得したり就職を果たしたりすると、その後、前科の事実が発覚すると、経歴詐称を理由に内定が取り消されたり懲戒解雇処分が下されたりする
  • 前科を理由に就業が制限される資格・仕事がある(士業、警備員、金融業など)
  • 前科を理由に離婚を言い渡されたり結婚話がなくなったりしかねない
  • 前科があると、ビザやパスポートの発給制限を受ける場合がある(海外旅行、海外出張に支障が生じる)
  • 再犯時の刑事処分が重くなる可能性が高い など

日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いので、刑事裁判で無罪判決を獲得するという方法で前科の回避を目指すのは簡単ではありません。

ですから、前科によるデメリットを回避したいなら、早期にパワハラ被害者との間で示談交渉を開始して刑事事件化自体を回避するか、刑事手続きの初期段階から適切な防御活動を展開して微罪処分や不起訴処分の獲得を目指すべきだと考えられます。

パワハラで逮捕されたときに弁護士に相談・依頼するメリット5つ

パワハラ事件を起こしたときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。

というのも、刑事事件への対応が得意な弁護士の力を借りることで、以下5つのメリットを得られるからです。

  1. 被害者との間で示談交渉を進めてくれる
  2. 会社からの事情聴取への対応方法についてアドバイスを期待できる
  3. 自首するべきかどうかを判断してくれる
  4. 軽い刑事処分獲得を目指した防御活動を展開してくれる
  5. 日常生活に生じるデメリットの回避・軽減を目指してくれる

パワハラ被害者との間で示談交渉を進めてくれる

示談交渉とは、被害者・加害者がパワハラ事件の民事的解決方法について話し合いをおこなうことです。当事者間の話し合いによって各種示談条件について合意が形成された場合には、示談契約(和解契約)を締結します。

たとえば、パワハラについて示談が成立すれば、加害者は被害者に対して所定の示談金を支払う必要がありますが、その代わりに、以下のメリットを得ることができます。

  • パワハラ被害者が警察に相談する前に示談が成立すれば、刑事事件化自体を防げるので、逮捕されるリスクがゼロになる
  • パワハラ被害者が警察に相談したあとでも、早期の示談成立によって被害届・告訴状を取り下げてもらえるので、微罪処分・起訴猶予処分を獲得しやすくなる
  • 被害者との間で示談交渉が進んでいれば、逮捕・勾留といった強制処分を回避し、在宅事件の対象になりやすくなる
  • 起訴されたとしても、判決が言い渡されるまでに示談が成立すれば、有利な量刑判断を引き出しやすくなる

このように、パワハラ事件の示談交渉は刑事手続きに大きなメリットを与えるものですが、示談交渉の効果をより発揮したいなら、示談交渉自体を弁護士に依頼するのがおすすめです。

というのも、パワハラ事件の被害者相手の示談交渉を弁護士に任せると以下のメリットを得られるからです。

  • 怒りや不安を抱いているパワハラ被害者も、弁護士が交渉相手であれば、話し合いに応じてくれやすくなる
  • パワハラ被害者が無茶な示談条件を提示してきても、粛々とした示談交渉により、相場どおりでの和解契約締結を実現してくれる
  • 刑事手続きの各段階に応じてスピーディーな示談成立を目指してくれる
  • 宥恕条項、清算条項など、示談書に盛り込むべき内容を記載した示談書を作成してくれる
  • 話し合い自体を代理してくれるので、パワハラ加害者本人は通常どおりの社会生活を営むことができる など

会社からの事情聴取への対応方法についてもアドバイスをくれる

パワハラ事件を起こすと、会社側から事情聴取がおこなわれます。会社側からの聞き取り調査においてパワハラに至った経緯や内容などが聴取されて、懲戒処分を下すかどうかや懲戒処分の内容が判断されます。

弁護士に相談・依頼をすれば、会社が実施する事情聴取への対応方法などについてアドバイスをもらえるので、あなただけが理不尽に責任を問われるリスクを大幅に軽減できるでしょう。

自首するべきかどうかを判断してくれる

パワハラ事件が刑事事件化していない段階なら、自首が有効な防御活動の選択肢になります。

自首とは、犯罪事実や犯人が捜査機関に発覚する前に犯人自身が捜査機関に犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示をすることです。

自首が有効に成立すれば、刑事裁判において自首減軽の恩恵を受けることができますし、微罪処分・起訴猶予処分や在宅事件処理という有利な刑事処分を獲得しやすくなります

たとえば、パワハラ被害者との示談交渉を進めた結果、被害者側の怒りが強く、近い将来刑事告訴されそうなときには、被害申告に先立って自首をすれば、刑事手続き上の恩恵を受けることができるでしょう。

弁護士に相談・依頼をすれば、自首について以下のメリットを得られます。

  • パワハラ事件の内容を精査したうえで、現段階で自首をする実益があるかどうかを判断してくれる
  • 自首をした際に実施される事情聴取への対応方法についてのアドバイスを期待できる
  • 自首をする際に警察署に同行してくれる

軽い刑事処分獲得を目指した防御活動を展開してくれる

弁護士に相談・依頼をすれば、パワハラ事件に関する刑事手続きの進捗状況を意識しながら、少しでも有利な刑事処分獲得を目指した防御活動を期待できます

たとえば、警察から任意の事情聴取を受けている段階なら、逮捕・勾留されずに在宅事件として処理されることや、微罪処分・起訴猶予処分を獲得することを目指した防御活動を展開してくれます。

また、パワハラ事件が起訴されたケースでは、執行猶予付き判決や罰金刑を獲得することで実刑判決回避を目指してくれます。

日常生活に生じるデメリットの回避・軽減を目指してくれる

弁護士に相談・依頼をすれば、パワハラ事件がきっかけで生じる日常生活へのデメリットに対策をしてくれます。

たとえば、パワハラ事件を起こした事実がSNSや匿名掲示板で炎上した場合には、名誉毀損や誹謗中傷の投稿・記事に対する削除請求を実施して、個人情報などの拡散の防止を目指してくれます。また、場合によっては、発信者情報開示請求や慰謝料請求を通じて、投稿者の法的責任も追及してくれるでしょう。

また、パワハラを理由とする懲戒処分が重すぎると判断されるケースでは、会社を相手どって示談交渉や労働審判なども検討してくれます。

パワハラで逮捕されるか不安なときは弁護士に相談しよう

パワハラ行為に及ぶと、会社から懲戒処分を下されたり被害者から民事責任を追及されたりするだけではなく、刑事事件化して逮捕されるケースが存在します。

逮捕されて刑事責任を追及されると、強制的な身柄拘束によるデメリットを強いられますし、刑事罰や前科のリスクにも晒されかねません。つまり、パワハラ事件を起こした場合には、早期に示談交渉を開始して、刑事事件化する前にパワハラ事件の終結を目指すのが重要だということです。

刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、パワハラなどの刑事事件・民事事件への対応が得意な弁護士を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど逮捕を回避しやすくなるので、できるだけ早いタイミングで信頼できる弁護士までお問い合わせください。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

刑事事件コラムカテゴリの最新記事

PAGE TOP