裁判は、民事裁判と刑事裁判の大きく2つに分けられますが、いずれの場合も欠席は大きなリスクを伴います。民事裁判では、被告が出廷しなくても裁判は進行し、原告の主張がそのまま認められる欠席判決が下されることがあります。
たとえば、損害賠償請求や貸金返還請求の裁判で出廷せず答弁書も提出しなければ、裁判所は争う意思がないと判断し、原告の請求が全面的に認められてしまうのです。
一方、刑事裁判では被告人の出廷が原則として義務であり、正当な理由なく欠席すれば勾引状が発付され、強制的に裁判所へ連行される可能性があります。また、保釈中であれば保釈の取り消しや保証金没収のリスクも伴います。
さらに、証人として呼ばれた場合も、無断欠席は過料や勾引の対象となるなど、法的な不利益が生じます。裁判を欠席することは、単にその日の手続きに参加できないという問題に留まらず、最終的な判決や量刑、社会的信用にも影響を与える可能性があります。
そのため、欠席せざるを得ない場合には、事前に裁判所や弁護士に連絡し、正当な理由を明確に伝えることが重要です。本記事では、民事・刑事裁判における欠席のリスク、無断欠席の法的影響、やむを得ない場合の対応策まで、具体的に解説していきます。
目次
裁判を欠席するとどうなるのか
「裁判」は大きく分けると民事裁判と刑事裁判の2種類があります。それぞれ、欠席した場合の対応が異なります。いずれにせよ、裁判を欠席した場合は、不利な判決が下される可能性が高いです。
まずは、民事と刑事それぞれの違いや、欠席による法的リスクについて詳しく解説します。
民事裁判と刑事裁判での違い
初めに理解しておくべきことは「民事裁判」と「刑事裁判」では欠席の意味が異なる点です。民事裁判では、基本的に当事者が出席しなくても裁判は進行します。被告が欠席した場合、裁判所は原告の主張をそのまま認めて欠席判決を出すことがあり、事実上の「敗訴」となるケースが多いです。
たとえば、損害賠償請求を求める民事裁判があったとしましょう。原告側(訴えを起こした側)は、当然自分の主張を認めてもらうために裁判へ出廷するでしょう。一方、被告側(訴えられた側)が裁判を欠席した場合は、相手側(原告側)の主張が全面的に認められてしまいます。
つまり、損害賠償請求の民事裁判である場合は、原告側が主張する賠償金の支払いを命じる判決が下されるということです。
一方で、刑事裁判の場合は原則として被告人の出廷が義務です。被告人が正当な理由なく欠席すれば、裁判所が勾引(強制的に出廷させる手続)を命じることもあります。つまり、民事では「不利益を受ける」リスク、刑事では「強制的に出廷させられる」リスクがあるという違いがあります。
たとえば、保釈されている被告人が裁判期日に出廷しなかった場合は、強制的に裁判へ出廷させられるということです。
欠席による法的リスクと影響
民事裁判を欠席した場合のリスクは、主張や反論の機会を失うことです。相手の主張に異議を唱えなければ、裁判所は「争いがない」と判断し、原告の請求を全面的に認める判決を出す可能性があります。
先ほども解説したとおり、たとえば損害賠償を求める民事裁判である場合は、裁判に出廷しないことによって原告側の主張が全面的に認められます。
刑事裁判では、無断で欠席すると勾引の対象となるだけでなく、保釈中であれば保釈取消・保釈保証金の没収につながることもあります。
また、欠席を繰り返せば「反省のない態度」として量刑が重くなるおそれもあります。いずれの裁判でも、「欠席=裁判を軽視している」とみなされることが多く、法的・社会的に不利な立場に立たされる点には注意が必要です。
裁判を無断欠席した場合の扱い
裁判を無断で欠席すると、民事裁判では欠席判決が出ることがあります。その結果、通知を受ける頃にはすでに判決が確定しており、強制執行による差し押さえが行われることになるでしょう。
刑事裁判での無断欠席はさらに深刻で、勾引によって強制的に出廷させられる場合があります。とくに在宅事件や保釈中の被告人が出廷しない場合、警察が自宅などに出向くこともあります。
どうしても都合がつかない場合は、事前に裁判所へ連絡し、正当な理由(病気・事故・冠婚葬祭など)を伝えることが重要です。正当な理由が認められれば、期日変更や欠席の承認が得られることもあります。
民事裁判を欠席した場合
民事裁判を欠席した場合は、相手側の主張が全面的に認められるケースが大半です。なぜなら、裁判に出廷をして自分の意見を主張しなければ、「争いなし」と判断されてしまうためです。
争う内容がなければ、相手方の主張が全面的に認められ、たとえば賠償金の支払いを命じる判決等が確定する流れです。その後、支払いをしなければ、強制執行による差し押さえ等が行われる流れになるでしょう。
次に、民事裁判を欠席した場合、どのようなことが起こるのか?について詳しく解説します。
欠席裁判の仕組み
民事裁判では、被告(訴えられた側)が期日に出廷しなくても、裁判自体は進行します。裁判所は、訴状や証拠をもとに審理を行い、出廷していない当事者がいる場合でも「欠席裁判」として判決を下すことができます。
このとき、裁判所は必ずしも出廷しなかった側の主張を考慮するわけではありません。被告が反論をしないまま裁判が進むと、裁判所は「相手方(原告)の主張を争う意思がない」と判断し、原告の主張を全面的に認めることがあるため注意しましょう。
相手方の主張がそのまま認められるリスク
欠席した場合、裁判所は「相手の言い分が正しい」とみなして判断を下す可能性があります。たとえば、貸金請求や損害賠償請求などの民事訴訟では、あなたが出廷せず、答弁書なども提出していなければ、原告の請求金額がそのまま認められてしまう可能性が高くなります。
このように欠席裁判では、事実関係を争う機会を失うことになり、不利な判決を受けるリスクが高いです。
判決の取消し(再審・異議申立)の可否
欠席によって判決が出てしまった場合でも、一定の条件を満たせば判決を取り消す手続きが可能なケースがあります。たとえば、簡易裁判所で行われる少額訴訟では、欠席判決に対して異議申立てを行うことができます。
また、「やむを得ない理由で出廷できなかった」「裁判の呼出状が届かなかった」といった事情がある場合には、判決確定後でも再審を求められます。ただし、再審請求が認められるケースは非常に限られており、単なる「うっかり」「忘れていた」などでは原則として取り消すことはできません。
正当な理由がある場合
もし、病気や災害、事故などのやむを得ない理由で裁判を欠席せざるを得ない場合は、かならず事前に裁判所へ連絡を入れましょう。正当な理由があると認められれば、裁判所が期日を変更したり、代理人(弁護士)を通じて手続きを進めることも可能です。
一方で、連絡なしに欠席した場合は「正当な理由なし」と判断され、欠席裁判として進行してしまいます。出廷が難しいときは、できるだけ早く裁判所に事情を説明し、指示を仰ぐことが重要です。
刑事裁判を欠席した場合
刑事裁判では、民事裁判とは異なり「被告人が出廷しなければならない」という原則があります。欠席した場合、裁判が延期されたり、逮捕・勾留されるなど、重大な結果につながることもあるため注意しましょう。
次に、刑事裁判を欠席した場合に起こり得る法的扱いとリスクを詳しく解説します。
被告人が欠席できない場合
刑事裁判においては、被告人本人の出廷が原則として義務です。刑事訴訟法第286条では、被告人が出席しなければ審理を行うことができないと定められています。つまり、民事裁判のように「本人がいなくても判決が下される」という仕組みは基本的に認められていません。
ただし、例外的に「軽微な事件」であり、かつ被告人が出廷を辞退して弁護人のみによる弁論が認められた場合など、ごく限られた条件のもとで欠席裁判が可能になることもあります。しかし、重大事件や争点がある場合には、被告人の出席なしに審理を進めることは原則できません。
正当な理由なく欠席した場合
被告人が正当な理由もなく裁判を欠席した場合、裁判所は厳しい対応を取ります。
まず、欠席によって裁判は進行できないため、裁判所は次回期日を設定するとともに、勾引状を発して強制的に出廷させることがあります。「勾引」とは、警察などの執行機関によって被告人を拘束し、裁判所に連れてくる手続きのことです。
また、保釈中の被告人が無断欠席した場合は、保釈が取り消され、保釈保証金が没収されるおそれもあります。正当な理由のない欠席は、裁判所から「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」とみなされることもあり、以後の手続きで不利に扱われる可能性が高いです。
拘束中・保釈中の欠席リスク
被告人が勾留中の場合、出廷は当然ながら強制されます。拘置所などに勾留されている被告人は、裁判期日が来れば、刑務官の護送によって自動的に裁判所へ移送されるため、自ら欠席することはできません。
一方で、保釈中の被告人が「裁判に行きたくない」「仕事があるから休む」といった理由で欠席すると、重大な問題になります。保釈中は裁判に出頭することが保釈の条件のひとつであるため、無断欠席はその条件違反にあたります。
結果として、裁判所は保釈を取り消し、再び勾留することができます。さらに、欠席により「反省が見られない」「誠実に裁判に臨んでいない」と判断され、量刑にも悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
弁護士のみ出廷するケースの扱いとは
刑事裁判では原則として、被告人本人の出廷が必要ですが、軽微な事件や特別な事情がある場合には弁護士のみが出廷して手続きを行うことが認められる場合もあります。
たとえば、罰金刑程度の軽犯罪で、被告人が病気や高齢などの理由で出廷困難な場合です。ただし、弁護士が代理で出廷できるのはあくまでも、形式的な手続きや量刑に影響しない部分に限られます。
争点がある場合や、被告人の供述が重要となる場面では、弁護士だけでは審理を進めることができません。そのため、弁護士のみの出廷で済むケースは非常に限定的であり、「自分は行かなくてもいいだろう」と自己判断するのは避けるべきです。
証人・被害者として呼ばれた場合の欠席
裁判では、被告人や原告の他に証人や被害者といった立場で出廷するケースがあります。もし、証人や被害者として欠席した場合は、どのようなリスクがあるのでしょうか。
次に、証人や被害者として呼ばれた場合に裁判を欠席した場合のリスクについて詳しく解説します。
証人尋問を無断欠席した場合の法的リスク
裁判所から正式に証人尋問期日通知や召喚状が届いた場合、それは法的な出頭命令です。もしこれを無視して正当な理由なく欠席した場合、刑事訴訟法第150条〜152条に基づき、裁判所は「過料」や「勾引」の措置を取ることができます。
第百五十条 召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないときは、決定で、十万円以下の過料に処し、かつ、出頭しないために生じた費用の賠償を命ずることができる。
② 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第百五十一条 証人として召喚を受け正当な理由がなく出頭しない者は、一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
第百五十二条 裁判所は、証人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは、その証人を勾引することができる。
つまり、無断欠席を繰り返したり、裁判を軽視する態度を取ると、警察官などにより強制的に裁判所へ連れて行かれる可能性もあります。また、証人が出廷しないことで裁判の進行が遅れたり、他の関係者に迷惑がかかることもあり、社会的信用を失うおそれもあるため注意しましょう。
召喚を受けた証人とは、裁判所から正式に召喚状が発布された証人を指します。召喚された証人は、裁判に出廷して証言をする義務が発生するため、欠席をした場合は勾引や過料といった罰を受ける可能性があります。
過料とは金銭納付を命じる行政罰です。科料とは異なり、刑事罰ではないため前科は残りません。
証人尋問を拒否した場合は過料などの可能性
「出廷はしたけれど、話したくない」「証言を拒否したい」という場合にも注意が必要です。証人には原則として、真実を話す義務が課されています。正当な理由なく証言を拒んだ場合には、刑事訴訟法第160条に基づき過料に処されることがあります。
さらに、虚偽の証言をした場合は、偽証罪(刑法第169条)に問われ、3カ月以上10年以下の拘禁刑に処される可能性もあるため注意しましょう
ただし、証言によって自分や親族が刑事責任を問われるおそれがある場合には、「証言拒否権」(刑事訴訟法第147条)が認められています。このような場合は、弁護士や裁判所に相談し、正式な手続きを取ることが重要です。
やむを得ない事情で欠席する際の連絡方法
体調不良、身内の不幸、仕事上どうしても動かせない出張など、やむを得ない事情がある場合は、かならず事前に裁判所へ連絡しましょう。連絡を怠ると「無断欠席」とみなされ、過料や勾引の対象になるおそれがあります。
連絡方法としては、以下を検討しましょう。
- 裁判所から届いた「召喚状」に記載されている担当部署へ電話連絡する
- 証人尋問期日の変更願を提出する
- 医師の診断書など、欠席理由を証明できる書類を添付する
正当な理由が認められれば、期日を延期してもらえることがほとんどです。逆に、連絡もなく欠席してしまうと、法的措置だけでなく証人としての信頼性まで失ってしまう可能性があるため注意しましょう。
裁判欠席が社会的信用に与える影響
裁判を欠席することは、単に「その日の手続きに出なかった」というだけでは済まされません。欠席によって法的な不利益を受けるだけではなく、社会的な信用を失うリスクがあるため注意が必要です。
次に、民事裁判・刑事裁判それぞれでの影響に加え、会社や家族への影響についても解説します。
欠席判決による財産差押え・信用情報への影響
民事裁判を欠席すると、相手方の主張がそのまま認められ、欠席判決が下される可能性があります。たとえば、貸金返還請求や損害賠償請求などの裁判で出廷せず、答弁書も提出しない場合、裁判所は相手の言い分を全面的に採用して判決を出すことがあるため注意しましょう。
欠席判決が確定すると、以下のことが起こり得ます。
- 給与や銀行口座の差押え
- 自宅・車など財産の強制執行
- 信用情報機関への事故情報登録(いわゆるブラックリスト)
とくに金融機関との取引に関わる内容の裁判で欠席をした場合、信用情報に傷がつき、今後の借入れやクレジットカード審査に影響することもあります。
刑事裁判での量刑・情状への悪影響
刑事裁判で被告人が正当な理由なく欠席した場合、裁判所は「反省の意思がない」「逃亡の意思がある」と判断する可能性があり、量刑(刑の重さ)に不利な影響を及ぼします。
- 具体的には、以下の可能性があるでしょう。
- 執行猶予がつく可能性が下がる
- 罰金刑で済むはずが拘禁刑になる
また、刑事裁判を欠席すると、保釈が取り消されたり、勾留請求が行われたりすることもあります。裁判所は「裁判に出る意思のない被告」として扱うため、今後の弁護活動にも大きな支障をきたします。
欠席は、単に出廷を怠ったというレベルではなく、司法への軽視として扱われる行為であることを認識しておきましょう。
会社・家族・周囲への影響
裁判欠席は、法的な不利益だけでなく、社会的信用を失う原因にもなり得ます。とくに民事裁判で欠席判決が出たり、刑事裁判で勾留されるような事態になれば、以下のような可能性が起こり得るでしょう。
- 報道・通知による勤務先のイメージ悪化
- 家族や友人への社会的な影響
- 取引先や顧客との信頼関係の崩壊
たとえば、裁判の内容が報道やインターネット上に掲載された場合、SNSや掲示板で拡散されるリスクもあります。現代では「裁判を欠席した」という情報自体が社会的マイナスイメージを持ちやすく、たとえ無罪や和解で解決しても、一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。
家族や同僚の理解を得るためにも、欠席せずに誠実な対応を続けることが、結果的にリスクを抑える行動と言えるでしょう。
欠席してしまったあとの対応方法
裁判をうっかり欠席してしまった場合でも、すぐに正しい対応を取れば不利益を最小限に抑えられる可能性があります。次に、裁判を欠席してしまったあとの正しい対応方法についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
すぐに裁判所または弁護士に連絡する
まず行うべきは、裁判所または担当弁護士への連絡です。欠席の理由が「体調不良」「交通トラブル」「通知の見落とし」など、何らかの事情がある場合には、その旨をできるだけ早く伝えましょう。
民事裁判では、欠席によって判決が下される前であれば、裁判所が期日を再設定してくれることもあります。一方、刑事裁判の場合、被告人の無断欠席は厳しく扱われるため、速やかに弁護士に相談して出廷する意思を示すことが大切です。
保釈中の被告人が欠席した場合、保釈の取り消しや勾留につながる可能性があるため、早急な対応が求められます。また、連絡時には次の点を明確に伝えるとスムーズです。
- 欠席した裁判の日付・事件番号
- 欠席理由(病気・急用・通知未達など)
- 今後の出廷意思があること
これらを誠実に説明することで、裁判所側も「故意の欠席ではない」と判断しやすくなります。早期の連絡と真摯な対応が、信頼回復の第一歩となります。
異議申立て・再審請求の可能性
すでに裁判が終わり、欠席判決が出てしまった場合でも、一定の条件を満たせば「異議申立て」や「再審請求」によって救済されることがあります。
たとえば民事裁判で欠席判決が下されたときは、判決書を受け取った日から2週間以内に「異議申立て」を行うことで、改めて審理を求めることが可能です。
ただし、異議申立てが認められるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 欠席が正当な理由によるものであること
- 判決確定前に手続きを取ること
たとえば、急病で裁判に出廷することができなかった、などの事情がある場合は判決確定前(判決書を受け取ってから2週間以内)に申立てを行う必要があります。この期日を過ぎてしまうと、判決が確定してしまうため注意しましょう。
刑事裁判では、すでに判決が確定した後でも、「新たな証拠」や「重大な手続き上の瑕疵(違法性)」がある場合、再審請求を行うことができます。ただし、再審は限定的にしか認められず、欠席を理由とする再審はほとんどのケースで難しいといえます。
そのため、刑事事件で欠席してしまった場合は、判決確定前に迅速に弁護士へ相談し、上訴(控訴・上告)を検討するのが現実的な対応です。
正当な理由で欠席する場合の手続き
裁判をどうしても欠席しなければならない場合には、正当な理由を明確にし、速やかに裁判所へ連絡・証明することが重要です。無断欠席と異なり、きちんと手続きを取れば不利益な扱いを受けずに済むケースもあります。
次に、正当な理由で欠席する場合の手続きについて解説します。
病気や出張などやむを得ない事情とは
「正当な理由」として認められるのは、自分の意思ではどうにもならない事情に限られます。たとえば、以下のようなケースが代表的です。
- 高熱や入院など、体調不良・病気による欠席
- 出張や遠方への転勤など、物理的に出廷が困難な場合
- 身内の葬儀や家庭の急病など、社会通念上やむを得ない事情
- 交通機関のトラブル(大雪・台風・地震など)による遅延や移動不能
一方で、単なる「行きたくない」「仕事が忙しい」といった理由では、正当な欠席とはみなされません。また、上記例でも必ずしも欠席が認められるとは限りません。可能な限り裁判所へ出廷する努力をし、それでもなお難しい場合は、正当な理由として認められる可能性があります。
診断書・証明書など必要書類の提出
病気や事故などを理由に欠席する場合は、診断書や勤務証明書などの書類を提出することが原則です。これにより、「本当に出廷できない事情があった」ことを裏付けられます。
- 病気の場合:医師の診断書や入院証明書
- 出張の場合:勤務先発行の出張命令書や上司の証明
- 天災の場合:交通機関の運行停止証明 など
証明がないと、裁判所に正当な理由として認められない可能性があります。提出はできるだけ欠席前に行いましょう。
裁判所への連絡方法とタイミング
欠席の連絡は、欠席がわかった時点で早めに裁判所に連絡しましょう。民事裁判・刑事裁判を問わず、遅くとも開廷前には電話等で伝えましょう。
一般的な流れは以下のとおりです。
- 担当裁判所に電話で欠席理由を伝える
- 後日、書面や証明書類を郵送または提出
- 裁判所の判断を待つ(延期・日程変更などの可否)
とくに刑事裁判では、欠席を無断で行うと勾引状の発付など強制措置を取られることもあります。かならず連絡を怠らないようにしましょう。
弁護士を通じての欠席申請手続き
弁護士がついている場合は、弁護士を通して裁判所に欠席申請を行う方法が確実です。弁護士が欠席理由を法的観点から整理し、書面で提出してくれるため、裁判所の理解を得やすくなります。
とくに刑事事件では、被告人本人が出廷できない場合でも、弁護士のみの出廷で手続が進むケースもあります。ただし、事件の内容や手続の種類によっては、被告人本人の出廷が必須のこともあるため、事前に弁護士と相談しましょう。
欠席を繰り返した場合のリスク
正当な理由があって裁判を1度欠席しただけでは大きな不利益を受けることはありません。しかし、何度も欠席を繰り返すと、裁判の進行を妨げる行為とみなされ、重大な不利益を招くおそれがあります。
次に、欠席を繰り返した場合のリスクについて詳しく解説します。
刑事事件の場合
刑事事件では、被告人の出廷が原則として義務づけられています。そのため、正当な理由なく欠席を繰り返すと、裁判所が「出廷の意思がない」と判断し、強制的に連行(勾引)されることがあります。
とくに保釈中の被告人が繰り返し欠席すると、以下のことが起こり得るため注意しましょう。
- 保釈の取り消し
- 勾留の再開
また、欠席が続くと「反省が見られない」と判断され、量刑が重くなる可能性もあります。
民事事件の場合
民事裁判では、原告・被告どちらかが欠席しても裁判自体は進行します。ただし、欠席を繰り返すと次のような不利益を受ける可能性があります。
- 相手方の主張がそのまま認められる
- 反論や証拠提出の機会を失う
- 判決内容に異議申立てできないケースがある
たとえば、貸金請求訴訟で被告が何度も出廷せず、答弁書も提出しなければ、裁判所は相手の請求を全面的に認める判決を出すことがあります。つまり、実際に争いたい内容があっても、欠席を重ねると一方的に負けてしまうリスクがあるのです。
裁判官の心証に与える悪影響
欠席が続くと、裁判官に「裁判を軽視している」「誠意が感じられない」といった悪い印象を与えます。とくに刑事裁判では、被告人の反省態度や誠実な姿勢が量刑に反映されることが多いため、出廷態度が直接的に刑の重さに影響することもあります。
最終的な判決への影響
欠席を繰り返すと、最終的な判決内容に直接的な悪影響を及ぼします。刑事裁判では、反省が見られない態度として実刑判決が下されるリスクが高まり、民事裁判では一方的な敗訴につながることもあります。
裁判を欠席しないための対策
裁判の欠席は、場合によっては重大な不利益を招くおそれがあるため注意しましょう。民事裁判では不利な判決を受けたり、刑事裁判では勾引(強制的な出廷)を命じられたりすることもあります。
こうしたリスクを避けるためには、日頃から「出廷忘れを防ぐ仕組み」を意識しておくことが大切です。次に、裁判を欠席しないための対策についても解説します。
開廷通知や呼出状を見逃さない
裁判所から送られてくる「呼出状」や「期日通知書」は、裁判への出廷を命じる正式な書類です。郵送で届くことが多いため、自宅の郵便物をこまめに確認しておきましょう。とくに、転居直後や郵便転送の設定を忘れている場合、呼出状が届かずに欠席扱いとなるケースもあります。
また、呼出状には出廷日時・場所・事件番号などの重要な情報が記載されています。届いた時点で内容を確認し、スケジュール帳やスマートフォンのカレンダーに記録しておきましょう。
弁護士と事前に出廷スケジュールを確認
弁護士に依頼している場合は、期日ごとの出廷要否を事前に確認することが大切です。民事事件では、代理人(弁護士)のみが出廷すれば足りる場合もありますが、刑事事件では被告人本人の出廷が原則義務付けられています。
弁護士との間で「どの期日に本人が出る必要があるのか」「万が一予定が合わない場合どうすべきか」をあらかじめ確認しておけば、当日になって慌てることもありません。とくに複数回の期日が設定されている長期裁判では、スケジュール調整を早めに行うことが重要です。
やむを得ず欠席する場合の報告体制を整える
病気や事故、出張などやむを得ない事情で出廷できないときは、直ちに裁判所や弁護士に連絡しましょう。無断で欠席すると、裁判所は「正当な理由がない」と判断し、進行を止めずに審理を続ける場合があります。
会社員などの場合は、出張や勤務スケジュールを管理する部署と連携し、裁判日程を優先できるように調整してもらう体制を整えておきましょう。弁護士を通じて欠席理由を説明し、必要に応じて診断書や出張命令書などの証明書類を提出することで、裁判所に理解を得られる可能性が高まります。
弁護士に相談すべきタイミング
裁判を欠席すると、不利な判決や信用の失墜など、思わぬ不利益を招く可能性があります。そのため、「出廷できないかもしれない」とわかった段階で、すぐに弁護士へ相談しましょう。
弁護士は、代理出廷や期日の延期申請など、状況に応じた最善の対応を検討してくれます。次に、弁護士に相談すべき適切なタイミングについて解説します。
出廷できないと分かった時点で相談
出廷できない理由が発生したら、できるだけ早い段階で弁護士に相談してください。たとえば以下のようなケースが該当します。
- 体調不良や入院
- 出張や転勤、海外渡航
- 家族の急病・介護などの家庭事情
- 災害や交通トラブル
こうした事情がある場合、弁護士を通じて裁判所に連絡すれば、期日の変更(延期)や代理出廷の可否を検討してもらえます。連絡が遅れるほど対応が難しくなるため、「欠席するかもしれない」とわかった時点で相談してください。
代理出廷・延期申請の検討
民事事件では、弁護士が代理人として出廷できる場合があります。本人の出廷が不要な期日であれば、弁護士が手続きを進めてくれるため、本人が欠席しても大きな支障はありません。
一方、本人尋問や和解期日など、本人の出席が求められる場合には、弁護士を通じて期日延期の申立てを行うことが可能です。この際、欠席の理由を明確にし、診断書や出張命令書などの証明書類を添付することで、裁判所に事情を理解してもらいやすくなります。
弁護士は裁判所との連絡手段を熟知しており、適切な書面の提出方法や期限管理も任せられるため、トラブルを防ぐ上でも有効です。
欠席後の被害最小化のためにできること
すでに裁判を欠席してしまった場合でも、すぐに弁護士へ相談すれば、被害を最小限に抑える対応が可能です。たとえば民事裁判で欠席判決が出た場合、「異議申立て」によって救済を受けられることがあります。
また、刑事事件で正当な理由がある欠席だった場合も、弁護士が事情を説明することで心証悪化や勾引命令の回避につながることがあります。重要なのは、「欠席した=終わり」ではないということです。
よくある質問
裁判を欠席した場合によくある質問を紹介します。
Q.裁判を欠席したら強制的に逮捕されますか?
A.裁判を欠席したことを理由に逮捕されることはありません。
そもそも「逮捕」という行為は、罪を犯した疑いのある人の身柄を一時的に拘束するために行われる手続きを指します。そして、裁判を欠席したからといって、何らかの犯罪に抵触するわけではないため、逮捕されることはありません。
ただし、刑事裁判の被告人が裁判を欠席した場合は、保釈の取り消しによる身柄拘束が発生する可能性があるため注意しましょう。
Q.弁護士だけの出廷で問題ないですか?
A.問題がないケースもありますが、基本的には本人も出廷する必要があると思っておきましょう。
民事・刑事でそれぞれ扱いが異なります。民事である場合は、弁護士が代理人として出廷できるケースもあります。一方で、刑事裁判は被告人の出廷が原則であるため、出廷しなかった場合は勾引の可能性がある点に注意しましょう。
Q.呼出状を見逃して欠席してしまった場合はどうなりますか?
A.さまざまなリスクが発生し得ます。
民事の場合は、相手方の主張が全面的に認められることになるでしょう。刑事の場合は、保釈の取り消しの可能性があります。さまざまなリスクが考えられるため、見逃さないように注意すべきです。
Q.欠席したら判決を取り消すことはできますか?
A.裁判を欠席をしたからといって、判決が確定するわけではありません。
裁判を欠席したとしても、直ちに判決が確定するわけではありません。そのため、できるだけ早めに弁護士へ相談をしたうえで、今後の対応方法について検討すべきでしょう。
Q.どうしても出廷できない場合の正しい連絡方法を教えてください
A.裁判所もしくは弁護士へ相談してください。
何らかの事情で裁判へ出廷できない場合は、その事実がわかった時点でただちに裁判所もしくは弁護士へ相談をしてください。公判期日の変更等の対応ができる可能性があります。
まとめ
裁判を欠席することは、民事・刑事いずれの場合でも、法的・社会的に大きな影響を及ぼします。民事裁判では、被告が欠席すると相手方の主張がそのまま認められ、損害賠償や貸金返還の判決が確定する可能性があります。
判決が確定すれば、給与や財産の差押え、信用情報への登録といった不利益につながることもあります。一方、刑事裁判では、無断欠席により勾引や保釈取消、量刑への悪影響が生じる場合があり、反省の意思がないと判断されると刑罰が重くなることもあります。
さらに、証人としての欠席も過料や勾引の対象となり、社会的信用を損なうリスクがあります。しかし、やむを得ない事情がある場合には、事前に裁判所へ連絡し、必要書類を添えて正当な理由を示すことで、期日変更や欠席承認が得られる可能性があります。
欠席後であっても、速やかに裁判所や弁護士に連絡し、異議申立てや再審請求を検討することが、被害を最小限に抑えるうえで重要です。裁判への誠実な対応は、法的リスクの回避だけでなく、社会的信用の維持にも直結します。
欠席を繰り返したり無断で欠席したりすることは、最終的な判決や量刑に直接影響するため、出廷可能な場合は必ず期日通りに出席し、どうしても難しい場合は早めに正しい手続きを踏むことが肝心です。裁判に対する軽視は、思わぬ法的・社会的な不利益を招くことを常に意識しておきましょう。