就職・転職の面接で「前科はありますか?」「犯罪歴はありますか?」と聞かれたとき、多くの人が「正直に言わないと違法?」「答えないと内定に響く?」と不安になります。結論から言えば、犯罪歴について一般的な法的申告義務は原則ありません。
前科・前歴はプライバシー性の高い情報であり、無制限に開示を求められるものではないからです。一方で、質問への対応を誤ると、採用後に「経歴詐称」と評価されたり、内定取消し・解雇トラブルに発展したりする可能性もあります。
とくに、履歴書の賞罰欄、職務上の信用性・安全性が強く求められる業界(金融、警備、運送、福祉など)では、犯罪歴と職務の関連性が問題になりやすい点に注意が必要です。また、面接での回答は「言う・言わない」の二択ではなく、質問の意図確認や回答を控えるという選択肢もあります。
大切なのは、感情的に反応するのではなく、職務関連性とリスクを整理したうえで、安全な対応を選ぶことです。本記事では、犯罪歴を聞かれた場合の回答義務の考え方から、違法性のポイント、基本対応、内容別の答え方、不採用・内定取消しとの関係までを分かりやすく解説します。
目次
犯罪歴を聞かれた場合の回答義務とは
就職・転職の面接で「過去に犯罪歴はありますか」「前科はありますか」と質問された場合、多くの人が「正直に答えなければ違法になるのではないか」と不安になります。しかし、結論から言えば、犯罪歴について一般的な法的申告義務は原則として存在しません。
ただし、状況によっては回答内容が後に問題となるケースもあるため、注意が必要です。まずは、犯罪歴を聞かれた場合の回答義務について詳しく解説します。
法的な申告義務は原則存在しない
日本の法律では、民間企業の採用面接において、「求職者が自ら犯罪歴を申告しなければならない」という一般的な義務は定められていません。前科や前歴は極めてプライバシー性の高い情報であり、無制限に開示を求められるものではないと考えられています。
そのため、企業側が面接で犯罪歴を質問したとしても、求職者がそれに答えなかったからといって、直ちに違法行為や契約違反になるわけではありません。また、「犯罪歴があること」を理由に一律に採用を拒否することも、職種や業務内容によっては問題となる可能性があります。
重要なのは、犯罪歴は原則として「言わなければならない情報」ではないという点です。とくに、すでに刑の執行が終わり、社会復帰を目指している段階では、過去の犯罪歴を当然に開示すべきとする法的根拠はありません。
虚偽回答が問題になるケースもある
犯罪歴は、原則として申告する義務はありません。しかし、どのような場合でも「事実と異なる回答をして良い」というわけではありません。虚偽回答が問題になる代表例が、履歴書やエントリーシートに「賞罰欄」が設けられている場合です。
賞罰欄がある場合、企業側は「業務上重要な経歴として確認したい」という意思を明確に示していると評価されることがあります。この場合、重大な犯罪歴や現在も資格制限に影響する前科があるにもかかわらず、意図的に虚偽の記載をしたと判断されると、採用後であっても「経歴詐称」を理由に懲戒処分や内定取消しが問題になる可能性があります。
とくに以下の点に注意が必要です。
- 業務上、資格や信用性が重視される職種
- 法令遵守が強く求められる職場
- 犯罪歴が業務遂行に直接影響する場合
つまり、「すべて答えなくて良い」のではなく、質問の趣旨と業務内容との関係性が重要になります。
回答拒否という選択肢もある
犯罪歴を聞かれた場合、必ずしも「はい・いいえ」で答える必要はありません。実務上は、「回答を控える」「差し支えがあるためお答えできない」といった、いわゆる回答拒否という選択肢も現実的に存在します。
このような回答は、即座に不利になるとは限りません。むしろ、無理に虚偽の回答をするよりも、プライバシーへの配慮を理由に丁寧に回答を控えるほうが、後のトラブルを防げる場合もあります。企業側も、質問の内容がセンシティブであることを理解しているケースは少なくありません。
ただし、回答拒否を選ぶ場合でも、感情的になったり、企業を非難するような態度を取ったりするのは逆効果です。「業務に支障がない範囲で誠実に対応する姿勢」を示すことが重要になります。
犯罪歴を面接で聞かれることはある
結論として、犯罪歴を面接で聞かれる場面は現実に存在します。ただし、それはすべての業界・職種で一般的に行われているわけではなく、一定の条件や背景があります。重要なのは、「聞かれた=違法」「聞かれた=必ず答える義務がある」と短絡的に判断しないことです。
次に、犯罪歴を面接で聞かれることはあるのか?について詳しく解説します。
【結論】一部の業界・職種では聞かれることがある
犯罪歴についての質問は、特定の業界や職種に限って行われることが多いのが実情です。たとえば、以下のような分野では、面接や書類選考の過程で犯罪歴に関する確認が行われることがあります。
- 金融機関や保険会社など、高度な信用性が求められる業界
- 警備業、運送業、介護・福祉分野など、利用者の安全を直接扱う職種
- 公金や個人情報を扱う職務
- 法令遵守やコンプライアンスが厳格に求められる企業
これらの分野では、「人物の信頼性」「再発リスク」「業務への影響」を確認する目的で質問されるケースがあります。逆に、一般的な事務職や販売職などでは、犯罪歴を聞かれること自体が少数派です。
たとえば、金融機関や保険会社などはお客さまのお金を預かったり、高額なお金を扱ったりするケースが多いです。そのため、過去の犯罪歴を確認する必要があります。建設業や運送業、介護等の福祉分野でも交通違反に関する事情を聞かれたり、人に対する犯罪歴等を把握する必要があるため、犯罪歴を確認するケースが多いです。
上記のとおり、就業するにあたって、企業のコンプライアンスやトラブル回避のために犯罪歴を確認する必要があると考えておきましょう。
法的に一律禁止されているわけではない
「犯罪歴を聞くことは違法なのではないか」と考える人も多いですが、日本の法律では、面接で犯罪歴を質問すること自体が一律に禁止されているわけではありません。民間企業の採用活動においては、一定の範囲で応募者の適性やリスクを確認する自由が認められています。
ただし、だからといって無制限に聞いてよいわけではありません。犯罪歴は極めてセンシティブな個人情報であり、質問の必要性や業務との関連性がなければ、問題視される可能性があります。
重要なのは、「聞いて良いか」ではなく「聞く合理的理由があるか」という視点です。業務内容と無関係な犯罪歴を執拗に質問する行為は、プライバシー侵害としてトラブルに発展することもあります。
聞く側にも一定の制限と配慮義務がある
企業側には、応募者のプライバシーを尊重し、必要最小限の範囲で質問を行う配慮義務があります。とくに、過去の犯罪歴については、以下のような点が問題になりやすいとされています。
- 業務と無関係な犯罪歴を詳細に聞く
- 回答を強要する
- 答えなかったことを理由に一方的に不利な扱いをする
- 質問内容が人格否定や差別につながる
実務上も、企業の人事担当者は「聞き方」や「聞く範囲」に慎重になっているケースが多いです。そのため、形式的に「前科はありますか」とストレートに聞くよりも、「業務上支障となる事情はありますか」といった間接的な聞き方が選ばれることもあります。
「業務上支障となる事情はありますか」と尋ねられたからといって、必ずしも過去の犯罪歴を申告する必要はありません。しかし、明らかに関係があるにも関わらず、申告をしなかった場合は、経歴詐称による解雇処分等になる可能性があります。
たとえば、過去に重大な交通事故を起こし、交通刑務所に収監されていた過去があったとしましょう。その後、改めて運転免許を取得して運送業に就職しようとした際に、「業務上支障となる事情はありますか」と尋ねられたとします。
その際、「とくにありません」と伝えて、後から過去の犯罪歴(事故で刑務所に収監されていた過去)が発覚した場合は、経歴詐称に問われる可能性があります。つまり、このように、客観的に見て明らかに関連性のある内容があり、尋ねられた場合は答える必要があると考えておきましょう。
聞かれる背景はリスク管理目的が多い
犯罪歴を質問する背景には、企業側のリスク管理という現実的な理由があります。万が一、採用後に不祥事が発覚した場合、企業は社会的信用を失い、場合によっては損害賠償や行政指導の対象になることもあります。
そのため、以下の事実を事前に確認しておきたいという企業側の思惑があります。
- 再犯リスクが高いと評価される事案
- 業務上の安全配慮義務に直結する職種
ただし、これは「犯罪歴がある人を排除する」ことが目的ではなく、業務に支障が出ないか、適切な配置が可能かを判断するためである場合が多い点は押さえておくべきです。
犯罪歴を聞くこと自体に違法性はない
面接で犯罪歴を質問された場合、「それ自体が違法ではないのか」と疑問に思う方は多いでしょう。結論から言えば、犯罪歴を聞く行為そのものが直ちに違法になるわけではありません。ただし、質問の内容や目的、扱い方次第では、プライバシー侵害や差別的取扱いとして問題になる可能性があります。
次に、犯罪歴を聞くことの違法性について、企業目線・求職者目線で詳しく解説します。
原則違法ではないがプライバシー侵害になり得る
日本の法制度上、民間企業が採用面接で犯罪歴を質問することを一律に禁止する法律は存在しません。そのため、「聞いた」という事実だけで直ちに違法と評価されることは通常ありません。
しかし、犯罪歴は極めてセンシティブな個人情報であり、憲法上保障されるプライバシー権との関係が問題になります。とくに、質問が過度に詳細であったり、執拗に回答を迫ったりする場合、応募者の人格的利益を侵害すると評価される余地があります。
また、犯罪の内容や時期、すでに社会復帰している事実を無視して一律に不利益な評価をすることも、プライバシー侵害としてトラブルに発展しやすいポイントです。つまり、違法ではないが、慎重な配慮が不可欠という位置づけになります。
職務関連性がない場合は問題になりやすい
犯罪歴を聞く行為が問題視されやすいのは、業務内容との関連性が乏しい場合です。たとえば、業務と無関係な軽微な前科について詳細な説明を求めたり、それを理由に一律で不採用としたりした場合、「合理的理由のない不利益取扱い」と評価される可能性があります。
実務上は、以下の点が重要視されます。
- その犯罪が業務遂行に直接影響するか
- 安全配慮義務や信用維持と結び付くか
- 再発リスクが具体的に想定されるか
職務関連性が説明できない質問は、「知る必要がない情報を聞いた」と判断されやすく、後に紛争の火種になるため、企業側にもリスクがあります。
厚労省ガイドラインでは配慮が求められている
厚生労働省が示す採用・選考に関する指針やガイドラインでは、応募者の人権やプライバシーに配慮することが明確に求められています。その中では、犯罪歴や思想信条、病歴など、本人の責任に帰さない事項や私生活に深く関わる情報については、原則として収集すべきでないとされています。
これは法的拘束力を持つ禁止規定ではないものの、行政指針として企業実務では重視されます。ガイドラインに反する選考を行った場合、労働局からの指導や、社会的評価の低下につながる可能性も否定できません。つまり、「違法ではないが、推奨されない」という位置づけである点が重要です。
差別的取扱いは禁止されている
犯罪歴を理由とした取扱いが、差別的であると評価される場合は、法的問題が生じ得ます。とくに、犯罪の内容や経過、現在の状況を一切考慮せず、機械的に排除するような対応は、合理性を欠くと判断されるリスクがあります。
また、犯罪歴を必要以上に公表したり、社内で不当に共有したりする行為は、名誉侵害やプライバシー侵害として責任を問われる可能性もあります。企業側は、「確認すること」と「どう扱うか」を明確に分け、不当な差別につながらない運用を行う必要があります。
面接で犯罪歴を聞かれたときの基本対応方法
犯罪歴を質問された瞬間、多くの人は強い不安や動揺を覚えます。しかし、その場の感情で即答してしまうと、後から取り返しのつかない不利益を招くことがあります。重要なのは、質問の意図と自分の立場を冷静に整理し、リスクの低い対応を選ぶことです。
次に、面接で犯罪歴を尋ねられた場合の基本対応方法について、詳しく解説します。
質問の意図を確認してから答える
犯罪歴を聞かれた場合、いきなり事実関係を説明する必要はありません。まず重要なのは「なぜその質問をしているのか」という質問の意図を確認することです。企業側が本当に知りたいのは、過去そのものではなく、以下のことです。
- 業務に支障が出る可能性があるか
- 信用や安全に関わるリスクがあるか
そのため、「差し支えなければ、質問の趣旨を教えていただけますか」「業務上のどの点に関係するご質問でしょうか」といった形で確認しましょう。失礼にあたったり、違法性を問われたりすることはありません。
上記を確認することによって、以下を見極めることができます。
- 職務関連性がある質問なのか
- 単なる形式的確認なのか
意図が不明確なまま詳細に話してしまうことが、リスクの高い対応になってしまうため注意しましょう。
職務と無関係なら回答を控える判断も合理的
質問の内容が、応募している職務と明らかに無関係である場合、回答を控えるという判断は十分に合理的です。前科や前歴はプライバシー性が極めて高く、法的にも「当然に開示すべき情報」ではありません。
この場合、「業務に直接関係しない事項のため、お答えは控えさせてください」「業務に支障がある点については正直にお伝えしますが、詳細な私的事項については差し控えます」といった丁寧で冷静な表現が有効です。
無理に嘘をつくよりも、回答を控えるほうが後のトラブルを防げるケースは少なくありません。重要なのは、感情的に拒否するのではなく、合理性と誠実さを示す姿勢です。企業側も、配慮が必要な質問であることは理解している場合が多いのが実情です。
答える場合は簡潔・事実のみ・反省と更生を示す
職務との関連性があり、回答したほうが適切だと判断した場合でも、話し方には明確な原則があります。
- 事実のみを簡潔に述べる
- 余計な背景説明をしない
- 現在は問題が解消していることを示す
たとえば、「◯年前に〇〇で処分を受けましたが、すでに刑は終了しており、再発防止のために〇〇に取り組んでいます」といった形で、過去→現在→再発防止を短くまとめるのが理想です。
反省や更生の姿勢を示すことは重要ですが、感情を強く出しすぎる必要はありません。企業側が評価するのは「安定して働けるか」「リスクが管理されているか」という点です。
詳細説明や感情的な弁明は避ける
避けるべきなのが、自分から詳細な説明を始めてしまうことです。犯罪の経緯、被害者との関係、捜査の不満などを語り始めると、以下のリスクが高まります。
- 話が長くなる
- 印象が不安定になる
- 新たな疑念を招く
また、「本当は悪くなかった」「誤解だった」といった感情的な弁明も、採用の場では逆効果になりがちです。面接は裁判や弁明の場ではありません。必要以上に語ることは、自分に不利な情報を増やすだけになりかねません。
原則として、聞かれた範囲にだけ答え、深掘りされたら慎重に判断する。この姿勢がリスクの低い対応方法です。
犯罪歴の内容別の答え方の例
面接での回答は、「正直かどうか」ではなく、職務との関係性・法的評価・将来リスクをどう整理して伝えるかが重要です。次に、現実的かつ安全な考え方を解説します。
軽微な前科・罰金刑の場合の対応
軽微な前科や罰金刑(交通違反を除く刑事罰)がある場合、業務との関連性が最大の判断基準になります。たとえば、業務と無関係な軽微事件で、すでに相当期間が経過し、再発のおそれが低い場合は、積極的に詳細説明する必要はありません。
ただし、履歴書に賞罰欄があり、かつ業務上の信用性が重視される職種では、「◯年前に罰金刑を受けましたが、すでに刑は終了しており、その後同様の問題は一切ありません」といった簡潔かつ事実ベースの説明が無難です。
重要なのは、以下の点です。
- 言い訳をしない
- 経緯を長々と語らない
- 現在の行動が安定している点を示す
軽微な前科であっても、説明の仕方を誤ると印象を悪化させる点に注意が必要です。
不起訴・嫌疑不十分の場合の説明方法
不起訴や嫌疑不十分は、前科ではありません。法的には有罪が確定していないため、原則として申告義務はなく、積極的に話す必要はありません。面接で質問された場合でも、「刑事処分を受けた事実はありません」という表現にとどめることが多くのケースで合理的です。
もし、具体的な経緯を問われた場合でも、「捜査を受けたことはありましたが、起訴されずに終了しています」と評価を交えず事実だけを述べるのが安全です。とはいえ、刑事罰を受けたわけではないため、「申告をする義務はない」と考えておけば良いでしょう。
ここでやってはいけない、言ってはいけない言葉は以下のとおりです。
- 「無実だった」「冤罪だった」と感情的に強調する
- 捜査機関への不満を語る
面接は真実認定の場ではなく、安定して働けるかを判断する場であることを忘れてはいけません。事実のみを伝え、必要以上に話をする必要はありません。自分自身が不利になる可能性もあるため注意しましょう。
執行猶予・実刑の場合の説明ポイント
執行猶予や実刑がある場合は、慎重な対応が必要です。このケースでは、「過去」よりも「現在と将来」に焦点を当てた説明が不可欠になります。
答える場合の基本構成は、以下のとおりです。
- 事実を簡潔に述べる
- 刑がすでに終了していることを明確にする
- 再発防止のために何をしてきたかを示す
たとえば、「◯年前に〇〇で有罪判決を受けましたが、刑はすでに終了しています。その後は再発防止のために生活環境を見直し、安定した就労を続けています」といった形が現実的です。
過度な反省アピールや感情的な謝罪は不要で、安定性・継続性・再発リスクの低さを冷静に示すことが重要です。
少年事件歴がある場合の注意点
少年事件は、原則として前科とは異なる扱いを受けます。また、少年法の趣旨から、過去の非行歴が無制限に問題視されるべきではありません。すでに成人し、長期間問題なく社会生活を送っている場合、少年事件歴を自ら開示する必要は基本的にありません。
仮に質問された場合でも、「未成年時の出来事であり、その後は同様の問題は一切ありません」と簡潔に述べるにとどめるのが安全です。ここで注意すべきなのは、以下の点です。
- 当時の環境や他人の責任に話を広げない
- 「若かったから仕方ない」と正当化しない
あくまでも、現在の安定した状態を示すことが重要になります。そもそも、少年時代の前歴については、伝える必要がありません。少年時代に刑事罰を受け「前科」として残っている場合は、賞罰欄に記載をする必要はありますが、聞かれていないことに大して回答する義務はありません。
犯罪歴を理由に不採用・内定取消される可能性
犯罪歴がある場合、「それだけで落とされるのではないか」「後から内定を取り消されるのではないか」と不安に感じるのは自然なことです。実務上、企業には一定の採用裁量が認められている一方で、その裁量は無制限ではありません。不採用や内定取消しが常に正当化されるわけではなく、判断の根拠や方法によっては違法となる可能性もあります。
次に、犯罪歴を理由に不採用や内定取消される可能性について詳しく解説します。
原則企業の裁量だが無制限ではない
採用・不採用の判断について、企業には原則として広い裁量が認められています。これは、どのような人材を雇用するかは企業活動の自由に属するためです。そのため、犯罪歴があること自体を理由に不採用とする判断が、直ちに違法になるわけではありません。
しかし、この裁量は無制限ではありません。とくに、すでに内定を出した後の「内定取消し」は、単なる選考段階とは異なり、解雇に近い厳格な判断基準が求められます。犯罪歴の存在だけを理由に、十分な説明や合理的根拠なく内定を取り消した場合、違法と評価されるリスクが高まります。
重要なのは、「企業がどう思ったか」ではなく、客観的に見て合理性があるかどうかです。
差別的・不合理な判断は違法になる可能性
犯罪歴を理由とする判断であっても、差別的・不合理と評価される場合は違法となる可能性があります。たとえば、以下のようなケースは問題になりやすいとされています。
- 業務内容と全く関係のない過去の軽微な犯罪を理由に一律排除する
- 不起訴や嫌疑不十分で終了した事案を「前科がある」と誤認して扱う
- 犯罪の内容や経過年数、現在の状況を一切考慮しない
- 同様の事情を持つ他の応募者と不合理に異なる扱いをする
上記のような判断は、「合理的理由のない不利益取扱い」として、違法または不当と評価される余地があります。とくに、犯罪歴がすでに社会生活に影響を与えていないにもかかわらず、形式的に排除する判断は問題になりやすい点に注意が必要です。
職務関連性が重要な判断基準
犯罪歴を理由とする不採用や内定取消しが許されるかどうかを判断するうえで、重要なのが「職務関連性」です。具体的には、以下の点が考慮されるべきです。
- その犯罪が業務内容に直接影響するか
- 安全配慮義務や信用維持と結び付くか
- 再発した場合に企業や第三者に重大な影響が出るか
たとえば、金銭管理を行う職務で過去に横領事件がある場合と、全く無関係な業務で軽微な違反があった場合とでは、評価は大きく異なります。企業側が「業務遂行上の具体的リスク」を説明できるかどうかが、判断の正当性を左右します。
逆に言えば、職務関連性を説明できない判断は、後に不当と評価される可能性が高いということです。
不当と感じた場合の相談先
犯罪歴を理由に不採用や内定取消しを受け、「不当ではないか」と感じた場合、一人で抱え込む必要はありません。状況に応じて、以下のような相談先があります。
- 労働局や総合労働相談コーナー
- ハローワーク
- 労働問題に詳しい弁護士
- 法テラスなどの公的相談窓口
とくに内定取消しの場合は、取消しの理由や経緯を記録として残すことが重要です。メールや書面での説明を求めることで、後の相談や対応がしやすくなります。早い段階で専門家に相談することで、不要なトラブルや不利益を回避できる可能性が高まります。
よくある質問
面接で犯罪歴を尋ねられた場合のよくある質問について解説します。
Q.前科があると就職できませんか?
A.前科がある=就職できない、ということはありません。
日本の法制度上、前科があること自体を理由に一律に就労を禁止する仕組みは存在しません。実際、前科を持ちながら社会復帰し、継続的に就労している人は数多くいます。
前科や前歴よりも重要なのは、以下の点です。
- 前科の内容
- 経過年数
- 再発リスク
- 職務との関連性
業務と無関係な過去の前科であれば、それだけを理由に排除する合理性は乏しいと判断されることもあります。「前科があるから無理」と決めつけるのではなく、どのように評価されるかは個別事情次第だと理解することが重要です。
Q.不起訴でも伝えるべきですか?
A.伝える必要はありません。
不起訴処分(嫌疑不十分・嫌疑なし・起訴猶予など)は、前科ではありません。そのため、原則として自ら進んで伝える法的義務はありません。面接で「前科はありますか」「有罪判決を受けたことはありますか」と聞かれた場合、不起訴であれば「刑事処分を受けた事実はありません」と答えること自体は虚偽ではありません。
ただし、質問が「捜査を受けたことがあるか」といった広い内容の場合は、回答を控える、または事実のみを簡潔に述べる判断が必要になることもあります。不起訴=かならず伝える必要がある情報ではないという点を押さえておきましょう。
Q.嘘をついたらバレますか?
A.バレる可能性もあるでしょう。
「嘘をついたら必ずバレる」というわけではありませんが、バレたときのリスクは非常に大きいのが現実です。とくに、履歴書の賞罰欄や、明確に申告を求められている事項について虚偽記載をした場合、採用後であっても「経歴詐称」として問題になる可能性があります。
企業が独自に前科照会を行うことは原則できませんが、以下のことがきっかけに発覚するケースもあるでしょう。
- 業界特有の確認
- 後日のトラブルからの発覚
- 第三者からの情報
もっともリスクが高いのは、嘘をついたこと自体が信頼性を大きく損なう点です。無理に嘘をつくよりも、回答を控える、あるいは事実を簡潔に述べる方が安全な場合が多いです。
Q.少年時代のことも言う必要がありますか?
A.前科かどうかによって異なります。
原則として、少年事件歴を自ら申告する必要はありません。少年法の趣旨は更生であり、過去の非行が無期限に不利益として扱われるべきではないとされています。すでに成人し、長期間問題なく社会生活を送っている場合、少年時代の出来事を積極的に開示する必要性は低いと考えられます。
仮に質問された場合でも、「未成年時の出来事であり、その後は同様の問題はありません」といった簡潔な説明にとどめるのが現実的です。少年事件を詳細に語ることは、必要以上にリスクを広げる結果になりかねない点に注意が必要です。
なお、少年事件であっても刑事事件に発展し、刑事罰を受けた場合は「前科」として残ります。よって、賞罰欄への記載や申告義務が発生する可能性もあるでしょう。
Q.公務員試験ではどうなりますか?
A.前科について尋ねられる可能性があり、採用に影響を与えることがあるでしょう。
公務員の場合、民間企業と比べて一定の制限が明確に設けられている職種があります。とくに、以下に該当する場合は注意が必要です。
- 欠格事由が法律で定められている職種
- 一定期間、公務員になれないとされている犯罪
ただし、すべての前科が一律に公務員就職を妨げるわけではありません。犯罪の種類、刑の内容、経過年数によって扱いは大きく異なります。また、公務員試験では、申告義務が明示されている事項について虚偽申告をすると、試験取消しや採用取消しのリスクが高くなります。
民間よりも「正確な申告」が強く求められる分野であるため、判断に迷う場合は事前に専門家へ相談することが安全です。
まとめ
犯罪歴を面接で聞かれた場合でも、求職者に犯罪歴を申告しなければならない一般的な法的義務は原則ありません。企業が質問すること自体も一律に違法ではない一方、犯罪歴はセンシティブな個人情報であるため、企業側には必要最小限の範囲にとどめる配慮が求められます。質問の目的や扱い方によってはプライバシー侵害や差別的取扱いとして問題になり得ます。
求職者側は、聞かれた瞬間に即答せず、まず質問の趣旨(業務上のどのリスク確認か)を確認するのが安全です。職務と無関係なら、丁寧に回答を控える判断も合理的です。他方で、賞罰欄がある、資格・信用が重要な職種、事故歴が業務に直結するケースなどでは、虚偽回答が後に経歴詐称と評価されるリスクがあります。
答える必要がある場面でも、基本は「簡潔・事実のみ・現在の安定と再発防止」で、詳細説明や感情的な弁明は避けましょう。犯罪歴を理由に不採用・内定取消しとなる可能性はありますが、企業の裁量は無制限ではなく、職務関連性や判断の合理性が重要になります。不当だと感じた場合は、労働局の相談窓口や弁護士など専門家への相談も有効です。