従業員の逮捕時に会社が取るべき対応とは|不当解雇を防ぐ判断基準と実務対応

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従業員が逮捕された場合、企業はどのように対応すべきか悩むケースは少なくありません。突然の事態に直面すると、事実関係が不明確なまま感情的な判断をしてしまいがちですが、その対応次第では不当解雇や名誉毀損などの重大な法的リスクを招くおそれがあります。

とくに「逮捕=有罪」という誤解に基づく処分は、労働契約法上も認められない可能性が高く、慎重な判断が不可欠です。本記事では、従業員が逮捕された場合に会社が取るべき初動対応をはじめ、解雇の可否や判断基準、懲戒処分の範囲、給与・勤怠の取り扱いなどを体系的に解説します。

また、企業がやってはいけないNG対応や、トラブルを未然に防ぐための事前対策についても具体的に紹介します。突発的な不祥事にも冷静かつ適切に対応できるよう、企業として押さえておくべきポイントを整理して理解しておきましょう。

目次

従業員が逮捕された場合に会社が最初に取るべき対応

従業員が逮捕された場合、会社は感情的な判断を避ける必要があります。初動対応を誤ると、不当解雇や名誉毀損のリスクが生じます。まずは、会社が最初に取るべき対応を法的観点から解説します。

逮捕の事実確認と情報収集(警察・家族・報道)

まずは、逮捕の事実と内容を正確に把握することが重要です。不確かな情報で判断すると、違法対応につながるおそれがあります。確認すべき主な事項は以下のとおりです。

  • 逮捕の有無と日時
  • 容疑の内容(罪名・事案の概要)
  • 拘束されている警察署・留置施設
  • 報道の有無(実名報道か否か)

情報源としては、家族からの連絡や報道が中心であり、警察が会社へ直接連絡するケースは限定的です。なお、逮捕は有罪を意味しません。不起訴や無罪となる可能性もあるため、慎重な対応が求められます。

本人と連絡が取れない場合の対応(最大23日間の拘束)

逮捕後は、本人と直接連絡を取ることができません。基本的には、家族や担当弁護人を介して本人からの伝言を聞いたり、本人に伝言を伝えたりする必要があります。なお、逮捕後は最長23日の身柄拘束が行われます。

段階 期間 内容
逮捕 最大48時間 警察による身柄拘束
送致後勾留 最大20日間 検察官の請求により勾留

この間、接見禁止が付されると家族でも面会できません。弁護士以外との接触が制限されるためです。会社としては、本人の復帰を前提とせず、業務体制を再構築します。長期不在を想定した対応が不可欠です。

逮捕から23日以内に起訴・不起訴の判断がなされます。起訴された場合は、引き続き身柄拘束が続く可能性があり、拘束期間が長期化する可能性もあるため注意しましょう。

社内共有の範囲と注意点(有罪前提の扱い禁止)

社内共有は、必要最小限にとどめる必要があります。過度な情報共有は、プライバシー侵害のリスクがあります。共有時のポイントは以下のとおりです。

  • 関係部署のみに限定する
  • 事実のみを伝え、推測を含めない
  • 「容疑段階」であることを明示する

とくに重要なのが「有罪前提で扱わない」点です。刑事手続では無罪推定の原則が適用されます。この原則に反する扱いは、労務トラブルの原因となります。

【推定無罪の原則とは】
推定無罪の原則とは、刑事裁判で有罪判決を受けるまでは推定無罪であるという前提の扱いを受けなければいけない。という原則です。

業務引き継ぎと事業継続の確保

逮捕により業務が停止する場合、迅速な引き継ぎが必要です。事業継続を優先し、実務対応を進めます。具体的な対応は以下のとおりです。

  • 担当業務の棚卸しと可視化
  • 代替担当者の選任
  • 顧客・取引先への影響確認
  • 緊急対応案件の優先処理

顧客対応が必要な場合は、説明内容にも注意が必要です。個人情報や事件内容を過度に開示してはいけません。あくまで業務上必要な範囲で説明を行うことが重要です。

逮捕だけで解雇できるか【結論:原則できない】

結論として、従業員が逮捕されたという事実のみで解雇することは、原則として認められません。これは刑事法と労働法の双方の観点から導かれる重要なルールです。とくに企業側は、「逮捕=有罪」という誤解に基づく対応を避ける必要があります。次に、法的根拠をもとに逮捕だけで解雇できない理由を解説します。

無罪推定の原則と労務管理への影響

刑事手続では「無罪推定の原則」が採用されています。これは、有罪判決が確定するまでは無罪として扱うという原則です。したがって、逮捕は単なる捜査の一段階にすぎません。不起訴や無罪となる可能性も十分にあります。そのため、逮捕のみを理由に不利益処分を行うと、違法となる可能性があります。

企業としては、以下の点を意識する必要があります。

  • 逮捕=有罪ではないと理解する
  • 事実関係が確定するまで判断を保留する
  • 評価や処分を慎重に行う

無罪推定を無視した対応は、後に損害賠償責任を負うリスクがあります。

労働契約法16条(解雇権濫用法理)の基本

解雇の可否は、労働契約法16条により厳しく制限されています。労働契約法では、以下のとおり定められています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法|第16条

この条文から、解雇には以下の2要件が必要です。

  • 客観的合理性(合理的な理由があること)
  • 社会通念上の相当性(処分として妥当であること)

これらを満たさない解雇は無効となります。つまり、単に逮捕されたという事実だけでは、これらの要件を満たしません。

逮捕のみで解雇が違法となる理由

逮捕のみで解雇が認められない理由は、主に以下のとおりです。

  • 有罪が確定していないため、事実が不確定である
  • 私生活上の行為は原則として業務と無関係である
  • 会社への具体的な損害が不明確である

とくに重要なのは、「企業への影響」が具体的に認められるかです。たとえば、以下のような事情がなければ解雇は困難です。

  • 企業の信用を著しく失墜させた
  • 業務遂行が不可能になった
  • 職務と犯罪行為に関連性がある

逆に、これらが認められない場合は解雇無効となる可能性が高いです。企業としては、逮捕の事実だけで判断するのではなく、「会社への影響」と「合理性」を慎重に検討する必要があります。

たとえば、「会社のお金を横領した」などの業務上横領罪やドライバーとして働く者が「職務中に飲酒運転をして、事故を起こした」といった場合は、解雇が認められやすくなります。なぜなら、「企業の信用を著しく失墜させた」「業務遂行が不可能になった」「職務と犯罪行為に関連性がある」のいずれかを満たしているためです。

解雇が認められるケースと判断基準

従業員の逮捕のみでは解雇は原則認められません。しかし、一定の条件を満たす場合には例外的に解雇が有効となります。その判断は、労働契約法16条の基準に基づいて行われます。ここでは、具体的な判断要素を整理します。

「客観的合理性」と「社会通念上相当性」とは

解雇の有効性は、次の2要件により判断されます。

  • 客観的合理性:解雇に合理的な理由があること
  • 社会通念上の相当性:処分として妥当であること

これらは以下の条文に基づきます。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用元:労働契約法|第16条

たとえば、軽微な犯罪にもかかわらず懲戒解雇とする場合は、社会通念上相当性を欠くとして無効となる可能性があります。

会社への影響(信用失墜・業務支障)の考慮要素

解雇が認められるかは、会社への影響が重要な判断要素となります。主な考慮要素は以下のとおりです。

  • 企業の社会的信用への影響の程度
  • 取引先・顧客への影響
  • 業務の継続に対する支障の有無
  • 報道の有無や拡散状況

とくに、実名報道がなされている場合は影響が大きくなります。企業イメージの低下が具体的に認められる場合、解雇の合理性が認められる可能性があります。

職種・地位・業務内容による判断の違い

同じ犯罪であっても、職種や地位によって判断は異なります。

  • 管理職:企業の信用に与える影響が大きい
  • 営業職:対外的影響が重視される
  • 一般職:影響が限定的な場合もある

たとえば、経営層や管理職の場合は、企業の対外的信用に直結するため厳しく判断されます。一方で、業務との関連性が低い場合は、解雇が無効とされる可能性が高まります。

私生活上の犯罪と解雇の関係

私生活上の犯罪は、原則として業務と無関係です。そのため、直ちに解雇理由とはなりません。ただし、以下のような場合は例外です。

  • 企業の信用を著しく失墜させた場合
  • 業務遂行に重大な支障が生じた場合
  • 職務内容と犯罪に関連性がある場合

たとえば、飲酒運転で逮捕されたドライバー職の場合、業務との関連性が高く、解雇が認められる可能性があります。このように、私生活上の行為であっても、企業への影響次第で解雇の可否が判断されます。

懲戒処分はどこまで可能か

従業員が逮捕された場合でも、直ちに重い処分ができるわけではありません。懲戒処分は、労働契約や就業規則に基づき慎重に判断する必要があります。とくに、処分の種類や根拠、タイミングを誤ると無効となるリスクがあります。以下では、懲戒処分の範囲と判断基準を詳しく解説します。

懲戒処分の種類(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇)

企業が行う懲戒処分には、一般的に以下の種類があります。

  • 戒告・譴責:口頭または書面による注意
  • 減給:賃金の一部を減額する処分
  • 出勤停止:一定期間の就労禁止
  • 懲戒解雇:もっとも重い処分

このうち減給については、労働基準法により制限があります。

使用者は、労働者に対して制裁として減給をする場合においては、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の十分の一を超えてはならない。

引用元:労働基準法|第91条

このように、懲戒処分は自由に行えるものではなく、法令上の制約を受ける点に注意が必要です。

就業規則の根拠が必要となる理由

懲戒処分を有効に行うためには、就業規則の定めが不可欠です。これは、労働契約法および判例により確立されたルールです。就業規則に根拠がない処分は、原則として無効と判断されます。

また、就業規則は労働基準法に基づき作成・周知される必要があります。

使用者は、就業規則を作成し、又は変更したときは、これを各事業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法により、労働者に周知させなければならない。

引用元:労働基準法第|106条

つまり、以下の条件を満たす必要があります。

  • 懲戒事由が就業規則に明記されている
  • 処分内容が具体的に定められている
  • 従業員に適切に周知されている

これらを欠く場合、懲戒処分は無効となる可能性が高いです。

起訴前・有罪確定前に処分できるか

逮捕や起訴の段階では、まだ有罪は確定していません。そのため、重い懲戒処分は慎重に判断する必要があります。無罪推定の原則に照らすと、有罪確定前に懲戒解雇を行うことはリスクが高いです。もっとも、以下の事情がある場合は例外的に処分が可能です。

  • 事実関係が客観的証拠で明らかな場合
  • 業務への重大な支障が発生している場合
  • 企業の信用が著しく毀損されている場合

実務上は、以下のような段階的対応が推奨されます。

段階 推奨対応
逮捕直後 出勤停止・自宅待機
起訴後 休職処分の検討
有罪確定後 懲戒解雇の検討

このように、刑事手続の進行に応じた対応が重要です。

私生活上の犯罪に対する懲戒の可否

私生活上の犯罪は、原則として懲戒処分の対象外です。労働契約は業務に関する関係であるためです。しかし、以下の場合は例外的に処分が認められます。

  • 企業の信用を著しく損なった場合
  • 職務と犯罪行為に関連性がある場合
  • 業務遂行が困難となった場合

たとえば、以下のようなケースです。

  • 営業職が詐欺で逮捕された場合
  • 運転手が飲酒運転で逮捕された場合
  • 管理職が重大犯罪で報道された場合

これらは企業の対外的信用に直結するため、懲戒処分が認められる可能性が高くなります。一方で、軽微な私生活上のトラブルであれば、処分が無効とされる可能性も十分にあります。

したがって、私生活上の犯罪については、「企業への影響の程度」を中心に慎重な判断が求められます。

逮捕された従業員の給与・勤怠の取り扱い

従業員が逮捕された場合、給与や勤怠の取り扱いは実務上重要です。誤った処理を行うと、賃金トラブルや法的紛争につながります。次に、法的根拠に基づき、適切な対応方法を解説します。

ノーワーク・ノーペイの原則

労働契約では、労務提供と賃金支払いは対価関係にあります。そのため、労務の提供がなければ賃金は発生しません。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。従業員が逮捕され就労できない場合、原則として賃金の支払い義務はありません。

これは、欠勤の原因が労働者側にあると評価されるためです。

もっとも、会社都合で就労できない場合は例外です。労働基準法では、休業手当の支払い義務が定められています。

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に対し、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

引用元:労働基準法|第26条

逮捕は通常、労働者側の事情と評価されるため、この休業手当の対象にはなりません。

欠勤・休職・出勤停止の違いと使い分け

逮捕時の勤怠処理は、主に以下の3類型があります。

区分 内容 主な特徴
欠勤 無断または自己都合による不就労 原則無給・シンプルな処理
休職 会社制度による長期離脱 復職前提・就業規則が必要
出勤停止 懲戒処分としての就労禁止 制裁的措置・規定が必要

実務上は、逮捕直後は欠勤または自宅待機とし、長期化する場合は休職へ移行するケースが多いです。懲戒としての出勤停止を選択する場合は、就業規則の根拠が必要となるため注意が必要です。

有給休暇の取得は認められるか

有給休暇は、労働基準法により労働者に認められた権利です。そのため、形式上は逮捕中でも取得は可能です。ただし、実務上は以下の点に注意が必要です。

  • 本人からの申請が困難な場合が多い
  • 接見禁止により意思確認ができない場合がある
  • 事後申請の可否は就業規則による

また、会社には「時季変更権」があります。事業運営に支障がある場合は取得時期を変更できます。したがって、逮捕時の有給取得は個別判断となります。

起訴休職制度の実務運用

逮捕後に起訴された場合、拘束が長期化する可能性があります。この場合に活用されるのが「起訴休職制度」です。起訴休職とは、刑事事件で起訴された従業員を、一定期間就労から外す制度です。

主な運用ポイントは以下のとおりです。

  • 就業規則に起訴休職の規定を設ける
  • 休職期間の上限を明確にする
  • 無給または一定条件での支給とする
  • 有罪・無罪による復職判断を定める

とくに重要なのは、休職期間満了時の対応です。

  • 有罪確定→懲戒解雇の検討
  • 無罪・不起訴→復職を原則とする

起訴休職は、解雇リスクを回避しつつ、企業秩序を維持するための有効な手段といえます。ただし、制度設計を誤ると無効となる可能性もあるため、就業規則の整備と慎重な運用が不可欠です。

会社がやってはいけないNG対応

従業員が逮捕された場合、企業の初動対応は極めて重要です。対応を誤ると、不当解雇や損害賠償請求のリスクが生じます。次に、従業員が逮捕された場合に会社側がやってはいけない行動について解説します。

逮捕のみで即解雇するリスク

逮捕されたという事実だけで解雇することは、原則として認められません。前述のとおり、解雇は労働契約法16条の要件を満たす必要があります。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法|第16条

逮捕は有罪確定ではなく、事実関係も未確定の段階です。この段階での解雇は、合理性・相当性を欠くと判断されやすいです。結果として、不当解雇として無効とされる可能性があります。さらに、未払い賃金や慰謝料の請求に発展するリスクもあります。

社内外に過度な情報開示をするリスク

逮捕に関する情報は、個人情報として厳重に取り扱う必要があります。社内外への過度な開示は、法的リスクを伴います。主なリスクは以下のとおりです。

  • 名誉毀損(社会的評価の低下)
  • プライバシー侵害
  • 個人情報保護法違反

とくに、実名や容疑内容を不用意に共有する行為は危険です。有罪が確定していない段階では、なおさら慎重な対応が求められます。社内共有は必要最小限にとどめ、業務上必要な範囲に限定することが重要です。

本人に弁明機会を与えない処分

懲戒処分を行う際は、本人に弁明の機会を与える必要があります。これを欠く場合、処分は無効となる可能性があります。これは、適正手続(デュープロセス)の観点から重要です。

仮に重大な非違行為が疑われる場合でも、一方的な判断で処分を決定することは許されません。具体的には、以下の対応が求められます。

  • 事実関係の確認
  • 本人からの事情聴取
  • 弁明の機会の付与

逮捕中で直接の聴取が難しい場合でも、弁護士を通じた確認など代替手段を検討すべきです。

有罪前提での処分・評価

逮捕された従業員を有罪前提で扱うことは重大な問題です。刑事手続では無罪推定の原則が採用されているためです。有罪確定前に「犯罪者」として扱うと、違法な人事評価や名誉毀損につながる可能性があります。

たとえば、以下のような対応は問題となります。

  • 有罪を前提とした社内通知
  • 懲戒処分の即時決定
  • 昇進・評価の一方的な引下げ

これらは後に無罪となった場合、企業側の責任が問われる可能性が高いです。企業としては、「容疑段階」であることを前提に、慎重かつ中立的な対応を徹底する必要があります。

トラブルを防ぐための事前対策(企業法務視点)

従業員の逮捕は、企業にとって突発的かつ重大なリスクです。事後対応だけでなく、事前対策の有無がリスクの大きさを左右します。企業法務の観点では、平時からの制度整備が不可欠です。以下では、実務上重要な対策を具体的に解説します。

就業規則の整備(懲戒事由・犯罪規定)

懲戒処分を有効に行うためには、就業規則の整備が前提となります。とくに、犯罪行為に関する規定は明確に定めておく必要があります。就業規則には、以下の内容を盛り込むことが重要です。

  • 懲戒事由の具体的列挙(刑事事件・不祥事など)
  • 懲戒処分の種類と適用基準
  • 起訴・逮捕時の取扱い(休職規定など)

また、就業規則は労働者への周知が必要です。

使用者は、就業規則を作成し、又は変更したときは、これを各事業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法により、労働者に周知させなければならない。
引用:労働基準法|第106条

周知されていない規則は、効力が否定される可能性があります。そのため、社内ポータルや書面配布などで確実に周知しましょう。

不祥事対応マニュアルの作成

従業員の逮捕時には迅速な初動対応が求められます。対応が遅れると、風評被害や業務混乱が拡大します。そのため、事前に対応マニュアルを整備することが重要です。マニュアルには、以下の内容を盛り込んでおきましょう。

  • 初動対応フロー(事実確認・報告経路)
  • 社内共有の範囲と方法
  • 懲戒処分の検討手順
  • 外部対応(報道・取引先)の方針

とくに重要なのは、判断の属人化を防ぐ点です。マニュアルにより、誰が対応しても一定の水準を維持できます。

広報・取引先対応ルールの整備

逮捕事案は、企業の信用に直結する問題です。対応を誤ると、取引停止やブランド毀損につながります。そのため、広報・対外対応のルール整備が不可欠です。具体的には、以下の点を定めておきます。

  • 対外発表の有無と判断基準
  • 公表内容の範囲(事実のみ・推測排除)
  • 取引先への説明方法とタイミング
  • 問い合わせ窓口の一本化

不用意な発言や情報開示は、名誉毀損のリスクがあります。かならず事実に基づいた慎重な対応を徹底する必要があります。

弁護士に相談すべきタイミング

従業員の逮捕が発覚した時点で、弁護士への相談を検討すべきです。初動段階での対応が、その後の法的リスクを大きく左右します。とくに、以下の場面では早期相談が重要です。

  • 懲戒処分や解雇を検討する場合
  • 報道対応や公表を検討する場合
  • 社内トラブルや労使紛争が懸念される場合

弁護士は、法的リスクを踏まえた対応方針を提示できます。結果として、違法対応や紛争拡大を未然に防ぐことが可能です。企業としては、「問題が起きてから」ではなく、「起きた直後」に相談することが重要です。

よくある質問

従業員が逮捕された場合によくある質問を紹介します。

Q.従業員が逮捕されたら会社は警察に連絡すべきですか?

A.原則として、会社から警察へ連絡する義務はありません。

警察は独自に捜査を行うため、企業側の通報は通常不要です。ただし、以下の場合は例外的に相談を検討すべきです。

  • 会社の資産や機密情報に関係する犯罪の場合
  • 社内で追加の犯罪行為が疑われる場合
  • 被害者としての対応が必要な場合

また、警察から任意で事情聴取を求められる場合もあります。その際は、事実に基づき適切に対応することが重要です。

Q.不起訴になった場合でも解雇できますか?

A.不起訴となった場合、解雇は原則として困難です。

有罪が確定していないため、合理的理由を欠くためです。解雇の有効性は、労働契約法16条により判断されます。ただし、不起訴であっても以下の場合は例外があります。

  • 企業の信用が著しく毀損されている場合
  • 業務遂行が困難となっている場合
  • 就業規則に該当する重大な非違行為がある場合

つまり、個別事情に応じた慎重な判断が必要です。

Q.逮捕中も社会保険料は支払う必要がありますか?

A.逮捕中であっても、社会保険の加入資格は原則として維持されます。

逮捕中であっても社会保険の加入資格は維持されるため、会社と従業員の双方に保険料負担が発生します。賃金が支払われない場合でも、保険料は免除されません。

実務上は、以下の対応が取られます。

  • 会社が一時的に立替払いを行う
  • 復職後に従業員へ精算する

長期化する場合は、休職制度との連動も検討されます。

Q.実名報道された場合、会社は公表すべきですか?

A.実名報道があっても、会社が必ず公表すべき義務はありません。

不用意な公表は法的リスクを伴います。主なリスクは以下のとおりです。

  • 名誉毀損
  • プライバシー侵害
  • 風評被害の拡大

公表の要否は、以下の観点で判断します。

  • 企業の社会的影響の大きさ
  • 取引先・顧客への影響
  • 事実関係の確定度

基本的には、必要最小限の情報開示にとどめるべきです。判断に迷う場合は、弁護士への相談が推奨されます。

まとめ

従業員が逮捕された場合であっても、企業は直ちに解雇や重い懲戒処分を行えるわけではありません。刑事手続においては無罪推定の原則が適用されるため、有罪が確定するまでは慎重な対応が求められます。

解雇の可否は、労働契約法16条に基づく「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」を満たすかどうかで判断され、単なる逮捕の事実だけでは原則として不十分です。実務上は、事実確認と情報収集を徹底しつつ、業務引き継ぎや社内共有を最小限に行い、段階的に処分を検討することが重要です。

また、給与についてはノーワーク・ノーペイの原則が適用され、勤怠処理や社会保険の取り扱いにも注意が必要です。さらに、不用意な情報開示や有罪前提の対応は法的リスクを高めるため避けなければなりません。

こうしたトラブルを防ぐためには、就業規則や対応マニュアルの整備、弁護士への早期相談など、平時からの準備が不可欠です。適切な知識と体制を整えることで、企業はリスクを最小限に抑えることができます。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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