「警察が万引きを捜査しない」というのは間違いです。
確かに、万引き犯は「現行犯逮捕」のイメージが強いですし、実態として万引きの現場を押さえられて逮捕されるのが一般的でしょう。しかし、被害店舗が警察に被害届を提出して本格的な捜査活動が行われると、防犯カメラ映像などの証拠を駆使して後から捕まる場合もあります。
そして、万引きが現行犯以外で逮捕された場合も、警察に連行されて厳しい取調べが実施されます。さらに、万引きの犯歴があったり、被害額が高額だったりすると、窃盗罪で起訴されて有罪判決が下される可能性も否定できません。
そこで今回は、過去の万引きが警察に捜査されるか不安な人、万引きで後から逮捕されるとどうなるか疑問を抱いている人のために、以下6点について分かりやすく解説します。
- 「現行犯以外で警察は万引きを捜査しない」と噂される理由
- 万引き犯が現行犯以外でも後から逮捕される理由
- 万引き事案の状況次第では窃盗罪以外の罪責にも問われ得る
- 万引き犯が後から捕まるときの流れ
- 万引きで警察に逮捕されたときに生じるデメリット
- 万引きで後から捕まるか不安なときに弁護士に相談するメリット
「たかが万引き」と思われるかもしれませんが、万引きは窃盗罪に該当するれっきとした犯罪です。油断して適切な防御活動を怠ると想像以上のデメリットが生じかねないので、まだ逮捕されていなくても、少しでも不安があるなら躊躇なく弁護士までご相談ください。
目次
「警察が万引きを捜査しない」は間違い
「警察は万引きを捜査しない」「万引きは現行犯以外でなぜ捕まらないのか」などと言われることも多いですが、これは間違いです。
報道バラエティ番組や万引き犯に対する先入観が先行して「万引きは店舗でバレなければ後から捕まることはない」という誤解が広まっているだけでしょう。
万引きは捕まる確率が高い犯罪
まず、万引きは検挙率が高い犯罪類型であることを押さえておきましょう。
平成29年~令和3年の万引き犯の検挙率は以下のように推移しています(「令和3年の刑法犯に関する統計資料」警察庁)。
年度 | 認知件数 | 検挙件数 | 検挙人数 | 検挙率 |
---|---|---|---|---|
平成29年 | 108,009件 | 75,257件 | 66,154人 | 69.7% |
平成30年 | 99,692件 | 71,330件 | 61,061人 | 71.6% |
令和元年 | 93,812件 | 65,814件 | 55,337人 | 70.2% |
令和2年 | 87,280件 | 62,609件 | 51,622人 | 71.7% |
令和3年 | 86,237件 | 63,493件 | 50,369人 | 73.6% |
ここから分かるように、万引きの検挙率は約70%なので、被害届の提出などによって捜査機関が万引き事案を認知した場合には、現行犯逮捕以外の方法で後から捕まることも充分考えられます。
万引きは現行犯逮捕以外でも後から捕まる
万引き犯が現行犯逮捕以外で後から捕まる場合は、通常逮捕の方法で手続きが進められます。
まず、警察官は、万引き事犯を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある者について、裁判官に対して逮捕状の発付を請求します(刑事訴訟法第199条第2項本文、刑事訴訟法規則第299条)。そして、明らかに逮捕の必要がないと認められるようなケースを除き、逮捕状は発付されます(同法第199条第2項但書)。
そして、逮捕状の発付を受けた警察官は、対象者に逮捕状を呈示して通常逮捕手続きに着手します(同法第199条第1項)。
万引き犯が警察に通常逮捕された後は身柄拘束付きの取調べを受けなければいけません。
警察が万引きを後日逮捕しないと言われるのは捜査が難しいから
警察が現行犯以外の場面で万引きを捜査しないと言われるのは、万引きという犯罪の特殊性が原因です。
つまり、万引き事件には以下の性質があるため、警察が現行犯以外での捜査に”踏み出しにくい”ということです。
- 万引きは被害額が少額の事件が多いので、捜査コストのバランスが取れない
- 犯行現場を捉えた監視カメラ映像等がなければ逮捕状が発付されにくい
- 商品の欠品に気付いたとしても、万引きの犯行がいつ行われたかを具体的に特定するのが難しい
もちろん、数百円の惣菜を盗んだ場合でも窃盗罪に該当するのは間違いないので、本来万引きの事実があるなら、犯人を特定して刑事処分を下すのが筋です。
しかし、捜査機関が抱えている刑事事件は膨大な量ですし、配置できる人員数も限られています。となると、どうしても軽微な万引き事犯は後回しになってしまうので、犯行日時の特定・犯人の追跡調査などに時間を要する万引き事案が捜査されにくいのも仕方ないでしょう。
万引きが後からでも捕まる3つの理由
万引きは現行犯逮捕が典型例ですし、現行犯以外での捜査は難しいのが実情です。
とはいえ、万引きは現行犯以外でも逮捕される可能性があります。なぜなら、以下3つの理由から、事後的でも逮捕状を発付請求が認められるほどに万引き事犯の客観的証拠は収集されるからです。
- 万引き犯行時の映像が監視カメラに記録されているから
- 各所の防犯カメラや会員情報などを照合すれば万引き犯の身元を特定できるから
- 万引き犯をいつ逮捕するかは捜査機関の裁量に委ねられているから
万引きは監視カメラをチェックすれば警察に犯行がバレる
万引き事件について逮捕状を請求するには、窃盗罪の構成要件該当性が認められる程度の証拠が必要です。捜査機関は、最低でも「犯行の日時・時間帯・犯行の場所・犯行の詳細などの事実関係」は特定しなければいけません。
過去の万引きについて犯行の詳細を特定するのはいっけん難しいようにも思えますが、店舗内に設置された監視カメラに万引き現場が録画されているなら特定は至極容易です。
特に、近年では防犯意識の高まりから建物内の各所に監視カメラが設置されている店舗が多いので、逆に、防犯カメラの映像に映らず万引きを完遂する方が難しいです。
したがって、警察が本格的に万引き捜査に着手すると、複数の捜査員が動員されて監視カメラの録画記録が隈なくチェックされるので、万引きの容疑で後から捕まるでしょう。
防犯カメラを確認すれば万引き犯の身元特定は意外と簡単
万引きの犯行自体が明らかになったとしても、警察が逮捕状を請求するには、万引き犯がどこに住んでいる誰かを特定しなければいけません。
ただ、万引き犯の身元を特定するのは意外と簡単な捜査です。
たとえば、店舗敷地内の防犯カメラ映像に万引き犯の乗用車が映っているなら、ナンバープレートから所有者を特定できます。また、万引き犯が店の常連客で、会員カードを作っていたり、過去に何度もクレジットカード決済・電子マネー決済などをしていたりするなら、これらの登録情報から身元を割り出せるでしょう。さらに、万引き犯が徒歩や自転車で店舗まで来ていたとしても、周辺の防犯カメラやトライブレコーダー等の記録を駆使すれば万引き犯を見つけるのは難しくはありません。
万引き犯が後から捕まるときの捜査期間の目安
そもそも、公訴時効が完成しない限り、「どのタイミングで万引き事件の捜査をスタートして逮捕手続きを目指すか」は捜査機関の裁量によって決められます。
つまり、「万引き=窃盗罪」の公訴時効は7年であることを踏まえると、万引きの犯行時から7年が経過するまでは、警察による捜査が開始されて後から逮捕される危険性に怯え続けなければいけないということです(刑事訴訟法第250条第2項第4号)。
ただし、店舗や商業施設に設置されている防犯カメラの映像記録は、1週間~数カ月程度でデータベースから自動抹消されるものが多いです。
したがって、万引き犯を後から逮捕するには、監視カメラ・防犯カメラのデータ照会が必須である現状を踏まえると、万引きをしてから数カ月~1年程度が経過しても警察から何の連絡もない場合には、万引きで後日逮捕されるリスクはほぼ消滅していると考えられます。
万引きが後から捕まるときの犯罪類型と法定刑
警察の捜査によって万引き犯が後から捕まるとき、以下3つの罪状のうちのいずれかで通常逮捕手続きが進められます。
- 窃盗罪
- 常習累犯窃盗罪
- 事後強盗罪
万引き事件の状況次第では、窃盗罪以上に厳しい刑事処罰が下される可能性があるのがご注意ください。
それでは、万引きで後から捕まる場合に問われ得る犯罪について、それぞれ具体的に見ていきましょう。
窃盗罪
万引きが警察に捜査された後は、「窃盗罪」で逮捕されるのが一般的です。
窃盗罪とは、他人の財物を窃取したときに成立する犯罪です(刑法第235条)。
窃盗罪の構成要件
窃盗罪の構成要件は以下4点です。
- 他人の財物
- 窃取
- 故意
- 不法領得の意思
まず、窃盗罪の客体は「他人の財物」です。万引き事件では財物性が問題になるケースは少ないでしょう。ただし、万引きした商品がかなり廉価なものの場合、「刑罰を与えるほどの可罰的違法性がない」と主張して窃盗未遂罪(刑法第243条)を目標とする余地は残されています(大阪高判昭和43年3月4日、東京高判昭和54年3月29日など)。
次に、窃盗罪の実行行為は「窃取」です。窃取とは、他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自分や第三者の占有に移転させる行為を意味します。たとえば、万引きのケースでは商品をポケットや買い物袋のなかに隠し入れた段階で窃取行為が完了すると扱われるのが一般的です。
窃盗罪の構成要件で注意を要するのは、窃盗罪の主観的構成要件として「故意」「不法領得の意思」の2つが必要とされる点です。不法領得の意思は、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法にしたがって利用・処分する意思」のことを意味するとされ、「権利者排除意思」「利用処分意思」の2つの要素で構成されます(最判昭和26年7月13日)。たとえば、万引きした商品を一時的に利用して返却する予定だった場合、万引きした商品を捨てるつもりで店舗から持ち出した場合には、不法領得の意思が存在しないので、窃盗罪は不成立です。
窃盗罪の法定刑
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。
もちろん、窃盗罪に該当する犯罪行為にもかなり幅があります。たとえば、万引き初犯で被害額が多くなければ、いきなり懲役刑が求刑・言い渡される可能性は低いでしょう。厳しい処分が下されるとしても罰金刑、基本的には、警察署で叱られて微罪処分で捜査が終結することが多いです。
これに対して、不良仲間同士で普段から万引き行為を繰り返していたり、万引き行為に対する依存度が高まって犯行がエスカレートしていたりする場合には、万引き初犯でも、いきなり懲役刑が下される可能性を否定できません。執行猶予が付かずに実刑判決が確定すると服役しなければいけないので、「たかが万引き」と安易に考えるべきではないでしょう。
常習累犯窃盗罪
万引き常習犯で過去に逮捕歴がある場合には、「常習累犯窃盗罪」の容疑で後から捕まる可能性があります。
常習累犯窃盗罪の構成要件
常習累犯窃盗罪は、上述の窃盗罪の加重類型です。
過去10年以内に、「窃盗既遂罪」「窃盗未遂罪」「窃盗罪と他罪との併合罪」で6カ月以上の懲役刑の執行を3回以上受けて刑務所に収監された経歴がある人物が刑法第235条(窃盗罪)を犯したときに同罪で処断されます(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第3条)。
つまり、クレプトマニア(盗症・盗癖)のように、窃盗罪などで何度逮捕・有罪判決を下されても万引きをやめることができない場合には、6カ月以上の懲役刑の執行歴が3回以上あると、厳しい刑事処罰を科されるということです。
とある万引き行為が発覚して警察の捜査がスタートした後、捜査線上に浮かびあがった被疑者の前科・前歴情報はすぐに調査されます。被疑者に同種前科があることはすぐに判明するので、任意取調べの段階を飛び越していきなり逮捕手続きに着手される可能性が高まるでしょう。
常習累犯窃盗罪の法定刑
常習累犯窃盗罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」です。窃盗罪の法定刑が「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」であることと比べると、常習累犯窃盗罪の法定刑は下限が大幅に引き上げられている点に特徴があります。
単純窃盗罪で懲役刑が下される場合、懲役刑は「1カ月以上10年以下」の範囲で言い渡されます(刑法第12条第1項)。これに対して、常習累犯窃盗罪は、どれだけ犯行に至った経緯に同情するべき理由があったとしても、懲役刑の下限は3年です。
そして、執行猶予付き判決を獲得するには「判決で3年以下の懲役の言い渡しを受けること」が要件に掲げられているので、常習累犯窃盗罪で逮捕・起訴された場合には、かなり力を入れて防御活動を展開しなければ実刑判決を言い渡される可能性が高いでしょう(刑法第25条)。
事後強盗罪
万引き事件の状況次第では、「事後強盗罪」の容疑で後から逮捕される場合があります。
たとえば、万引きをして店舗から退出するときに店員に声をかけられて、逃走を図る際に暴力をふるってしまったようなケースが、万引き犯が事後強盗罪で検挙される典型例です。
「万引き後に暴力・脅迫をすること」と、「暴行・脅迫によって他人の財物を奪取すること」の可罰的違法性は同レベルと評価されるので、窃盗罪の範囲を超えて厳しい刑事処罰が下されます。
事後強盗罪の構成要件
事後強盗罪とは、財物を取り返されることを防ぐため、逮捕を免れるため、罪跡を隠滅するために、窃盗犯が暴行または脅迫をしたときに成立する犯罪類型のことです(刑法第238条)。
事後強盗罪の構成要件は以下3点です。
- 窃盗犯
- 目的(財物取り返し回避・逮捕回避・罪跡隠滅)
- 暴行または脅迫
万引き犯が事後強盗罪で後から逮捕されるときにもっとも争いになるポイントが「暴行または脅迫」です。
まず、事後強盗罪における「暴行または脅迫」は、強盗罪における「暴行または脅迫」と同程度のものであることが求められるので、「相手方の反抗を抑圧すべき程度」のものが必要です。たとえば、追いかけてきた店員に肩を掴まれて手を振り払った程度であれば、客観的に「反抗を抑圧する程度」とは言えないので、事後強盗罪で逮捕された後でも成否を争う余地が残されています。
次に、事後強盗罪における「暴行または脅迫」は、窃盗の犯行現場や、窃盗の機会の継続中に行われなければいけません。つまり、暴行または脅迫は、窃盗行為と時間的・場所的に接着した機会であり、被害者などによる財物の取り返しや、犯人逮捕の可能性が存在する状況においてなされる必要があるということです。たとえば、万引きで店舗から逃走した後、店から数キロ離れた場所でたまたま遭遇した店員と揉み合いになって暴力をふるってしまったようなケースでは、「窃盗機会の継続中に行われた暴行・脅迫ではない」として事後強盗罪の成否を争うことも可能でしょう。
さらに、事後強盗罪の既遂・未遂は、先行する窃盗罪が既遂か未遂かによって決定されます(最判昭和24年7月9日)。つまり、暴行・脅迫が充分に行われなかったとしても、万引きに成功した以上は、かならず事後強盗既遂罪が成立するということです。
事後強盗罪の法定刑
事後強盗罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」です(刑法第236条第1項)。
また、事後強盗罪は一般的な強盗犯と同様の扱いを受けるので、人を負傷させたときには「事後強盗致傷罪」が、人を死亡させたときには「事後強盗致死罪」が成立します。事後強盗致傷罪の法定刑は「無期または6年以上の懲役刑」、事後強盗致死罪の法定刑は「死刑または無期懲役」です(刑法第240条)。
万引き犯が建造物侵入罪で逮捕されるのはレアケース
なお、万引きをする目的で店舗などに侵入した場合には、「正当な理由がないのに、施設管理権者の意思に反して店舗内に侵入した」と言えるので「建造物侵入罪(刑法第130条)」も成立しますが、万引き犯が建造物侵入罪の容疑で逮捕されるケースは稀です。
これは、窃盗罪と建造物侵入罪が「牽連犯」の関係にあるからです。
牽連犯とは、一連の犯罪行為が2個以上の罪責に触れる場合に、その犯罪が「手段と目的」の関係にあるものを指します。そして、牽連犯はその最も重い法定刑で処断されるのがルールです(同法第54条第1項)。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。これに対して、建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑」と規定されています。窃盗罪と建造物侵入罪を比較すると、懲役刑・罰金刑のいずれも窃盗罪の方が重いことが分かります。
したがって、万引き事件では窃盗罪の法定刑の範囲で処断されるのが確定的であり、窃盗罪と合わせて建造物侵入罪でも立件する実益は乏しいと考えられますので、実務的には、万引き犯は窃盗罪のみで逮捕されることになります。
ただし、万引き行為を日常的に繰り返していたり、窃盗集団による組織的な犯行の疑いがあったりすると、被疑者を長期間身柄拘束付きで取り調べる必要があると判断される場合があります。すると、「建造物侵入罪で逮捕・勾留された後、勾留期間が満了する前に窃盗罪で再逮捕・再勾留する」という捜査方針が採用される可能性も否定できません。
万引きで後から逮捕されるときの流れ
ここからは、万引きが警察にバレて後から捕まるときの一般的な流れについて解説します。
- 警察による任意出頭要請
- 警察による逮捕
- 検察官による捜査
- 検察官による起訴・不起訴の決定
- 刑事裁判
万引き犯が何の対策もしないと「逮捕→勾留→起訴→公開裁判」という厳しいルートに乗せられる危険性が生じます。
その一方で、一般的な万引き犯はあくまでも「軽微な窃盗犯」でしかないので、刑事手続きのステージに対応した適切な防御活動を展開すれば、手続き負担を大幅に軽減・回避することも可能です。
したがって、ただ運を天に任せて警察の言いなりになるのではなく、できるだけ早期に弁護士へ相談して逮捕や前科回避を目指して尽力してもらいましょう。
万引き犯は警察から任意出頭を要請されるのが一般的
警察が万引き事件を捜査して犯人の身元が明らかになった場合、警察から呼び出しがあるのが一般的です。
警察からの呼び出し方法は事案によって異なります。たとえば、自宅固定電話や携帯電話への連絡という手段が採られることもあれば、捜査員が自宅にやってくることもあり得ます。
警察が逮捕状をもっていない限り、出頭要請に応じるか否かは任意です。「都合が悪い」「気が向かない」「警察に行きたくない」など、どのような理由でも任意出頭は拒絶できます。
ただし、警察から出頭要請がかかったにもかかわらずこれに応じないと、通常逮捕手続きに移行する可能性が高まるので注意が必要です。
警察から万引き事件についての問い合わせや出頭要請がかかった時点で弁護士に相談をして今後の方針についてアドバイスをもらうのが理想的な対応方法でしょう。
警察の任意出頭を無視すると万引きでも後から逮捕される
万引き事件は警察に対して任意出頭すれば事件の早期解決を実現できることが多いですが、以下のような事情があると後から捕まる可能性が高いです。
- 警察からの任意出頭要請に応じない場合
- 容疑がかかっている事実以外にも複数の万引き行為をした疑いがある場合
- 万引きした商品を転売して不正にお金を稼いでいる場合
- 万引き事件の被害店舗の周辺地域でも同種犯罪の被害届が出されている場合
- 組織的・集団的に万引き行為を働いている可能性がある場合
- 万引きによって店舗に与えた損害額が大きい場合
- 万引きについて一切反省の姿勢が見られない場合
- 窃盗罪や強盗罪・詐欺罪などの財産犯での前科がある場合
- 被害者の処罰感情が強く、被害弁償が済んでいない場合
要は、「万引きをしたのは間違いないが、わざわざ逮捕して取調べをする必要はない」と警察に思わせるのがポイントだということです。
「丁寧に反省の姿勢を示す」「被害者との話し合いを早期にまとめる」「取調べには嘘をつかずに誠実に対応する」などの対策を徹底すれば、通常逮捕手続きを回避できますし、逮捕されたとしても早期釈放を実現できるでしょう。
万引きで後から逮捕されると警察署で48時間以外の取調べ
警察の捜査により万引きの容疑で後から逮捕されると、警察署で身柄拘束付きの取調べを受けることになります。
警察段階における取調べの時間制限は48時間です(刑事訴訟法第203条第1項)。更なる捜査の必要があると判断されると48時間以内に検察官に身柄が引き渡されます。
なお、通常逮捕後の取調べ期間中は、被疑者は弁護士以外の第三者と直接連絡を取ることができません。家族や会社などへの言伝や、取調べへの対応方法を相談するには、信頼できる弁護士への依頼が不可欠でしょう。
捜査の必要性が高いときには万引きでも10日間勾留される
警察から万引き事件を送致された検察官は、原則24時間以内の取調べを実施します(刑事訴訟法第205条第1項)。
ただし、24時間以内に証拠調べなどの捜査が終わらない場合には、例外措置として勾留請求が認められています(同法第208条各項)。検察官による勾留請求が認められると、原則10日間、最大で20日間、勾留期間が延長されます。
つまり、逮捕段階からカウントすると、万引きで逮捕された場合には、起訴処分・不起訴処分が下されるまで最大23日間身柄拘束されて外部と遮断される期間が生じるということです。これでは、長期間の身体拘束で心身が疲弊するだけではなく、外部と直接連絡が取れないことによって会社生活・学校生活にも支障が生じかねません。
したがって、任意出頭の段階で万引き事件を終結させられなかった場合には、身柄拘束期間を短縮化するために、逮捕勾留段階の取調べに対して誠実に向き合って、早期に「留置の必要がない」と判断させるのがポイントになると考えられます。
検察官の捜査が終わったら万引きについて起訴・不起訴が決定される
万引き事件を引き取った検察官は、身柄拘束の期限が満了するまでに、公訴を提起するか否か(起訴処分か不起訴処分か)を判断します。
起訴処分とは、万引き事件を公開の刑事裁判にかける旨の意思表示のことです。日本の刑事裁判は有罪率99%とも言われているので、検察官によって起訴処分が下された時点で有罪になることはほぼ確定します。もちろん、刑事裁判で万引き事件自体を否認することも可能ですが、基本的には、処断される量刑を争うために防御活動を尽くすことになるでしょう。
不起訴処分とは、万引き事件を公開の刑事裁判にかけずに手続きを終了させる意思表示のことです。不起訴処分を獲得できれば前科はつきません。
不起訴処分は、「万引きの嫌疑なし」「万引きの嫌疑が不十分」というケースだけではなく、「万引きをしたのま間違いないが、事案を総合的に考慮すると起訴を猶予しても良い場合」にも下されます。万引きをした客観的証拠が集められても不起訴処分獲得の余地は残されているので、身柄が送検されたとしても諦めずに防御活動を尽くすべきでしょう。
万引きで起訴されると刑事裁判にかけられる
万引き事件について起訴処分が下されると公開の刑事裁判手続きに移行します。
刑事裁判の期日は、起訴処分が下されてから1カ月~2カ月後に指定されるのが一般的です。公訴事実に争いがなければ公判期日は1回で終結しますが、万引きの事実自体を争う場合などでは、複数回の口頭弁論期日で弁論手続き・証拠調べ手続きが丁寧に進められます。
そして、得られた証拠等を総合的に考慮して、裁判官によって判決が言い渡されます。
万引きで罰金刑になるケースでは略式手続きでの捜査終結もあり得る
万引き犯が窃盗罪に問われているケースでは、「刑事裁判によって罰金刑が言い渡されること」を早期に見込める場合も少なくありません。というのも、刑事裁判で言い渡される判決内容は検察官の求刑内容が前提にされるので、検察官が当初から罰金刑を想定しているなら、裁判所で言い渡される判決内容も罰金刑になる可能性が極めて高いからです。
このように、万引き事犯について送検段階で罰金刑が予測される場合には、検察官は、被疑者の同意がある場合に限って、略式裁判手続き(略式起訴・略式命令)によって事件を終結させることができます(刑事訴訟法第461条)。略式手続きを選択すると公開の裁判で万引き事件について争う機会は失われますが、略式起訴された時点で刑事手続きが終了するので、早期の社会復帰を目指しやすくなります。
そもそも、万引きが警察にバレて後から逮捕される場合には、犯行などについて争う余地が少ないケースがほどんどです。公開の裁判で防御活動を展開する必要性がないのに、わざわざ刑事手続きを長引かせる実益は見出しにくいでしょう。
社会生活への影響や更生の難易度という観点からは、「検察段階でしっかり情状をアピールして略式手続きで罰金刑を確定させる」という手法も賢い選択肢だと考えられます。
万引きで警察に後から捕まったときに生じるデメリット4つ
万引きが警察にバレて後から捕まると、以下4点のデメリットに晒されます。
- 万引きで捕まると前科リスクが高まる
- 万引きで捕まるだけで会社にバレる可能性が高まる
- 万引きで捕まるだけで学校にバレる可能性が高まる
- 万引きで捕まったことが家族・知人に知られると信用を失う
万引き事件のような比較的軽微な犯罪は、「通常逮捕されるか否か」「勾留請求されるか否か」「起訴処分が下されるか否か」が重要な分岐点になります。刑事手続きの早いステージで防御活動を展開した方がこれらのデメリットを回避できる可能性が高まるので、少しでも警察に後から捕まる不安があるなら、早期に弁護士までお問い合わせください。
万引きで後から捕まると前科がつく可能性がある
警察の任意出頭要請段階で万引き事件を終結させられず、後日捜査に基づく通常逮捕段階まで移行してしまうと、前科がつく危険性が高まります。
前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。
前科情報は、警察・検察が管理するデータベースと市区町村が作成する犯罪人名簿にしか記録されないので、基本的に無関係な第三者にバレる心配はありません。
ただ、前科がついていると、今後の人生のなかで以下のようなデメリットに晒される可能性が生まれます。
- 前科は履歴書の賞罰欄に記載する義務がある
- 前科があるだけで就職活動・転職活動の難易度が高くなる
- 前科を隠して入社しても経歴詐称を理由に懲戒処分が下される
- 士業・金融業・警備員など、前科があると就業できない仕事が多い
- 海外渡航に制限が加わる国がある
- 再犯時の刑事処分・判決内容が厳しくなる可能性が高い
また、軽微な万引き事件では考えにくいですが、万引き事件の態様が悪質であればローカルニュースなどで報道されかねません。今では地域ニュースもインターネット報道されることが多いので、万引きなどで捕まった事実がWeb上に残り続けてしまいます。
もちろん、ネット上の記事は削除申請などの方法で消すことができますが、そのためにはさまざまなコストが発生する点にご注意ください。
万引きで捕まったことが会社にバレると懲戒処分対象になり得る
万引きで後日逮捕されると、一定期間身柄拘束付きの取調べを受けなければいけません。
最低でも数日、勾留請求されると数週間、会社に直接連絡できずに欠勤せざるを得ないので、万引きで逮捕されたことを隠し通すのは難しいでしょう。
そして、万引きで逮捕されたことや、万引きが理由で前科がついたことが会社にバレると、就業規則の規定内容にしたがって懲戒処分が下されます。
たとえば、逮捕後会社に連絡できずに長期の無断欠勤が続くと、それだけで何かしらの処分が下される可能性があります。また、前科がつくことが就業規則の解雇事由に掲げられている場合には、罰金刑で済んだとしても懲戒解雇処分を下されかねません。仮に、懲戒処分を回避できたとしても、会社における信用は失墜するので、昇進・昇格の道は閉ざされるでしょう。
万引きで捕まったことが学校にバレると退学処分等の対象になり得る
万引きで逮捕されると学校を欠席せざるを得ないので、学校にバレる可能性が高いです。また、捜査活動の一環として、捜査機関から学校に事情聴取などを兼ねて問い合わせがされる場合もあります。
万引きで後から捕まったことが学校に知られると、学則・校則の規定にしたがって処分が下されます。厳しい経営方針の学校の場合、退学処分が下される可能性もありますが、更生可能性を鑑みて、一定期間の停学処分などで済むケースもあり得るでしょう。
万引きで捕まったことが家族にバレると関係性が崩れかねない
家族や知人に万引きで捕まったことが知られると、これまでの関係性が崩れる可能性が高いです。
たとえば、万引きで逮捕されて前科がつくと、それだけを理由に離婚されかねません。前科がついたことは法定離婚事由に相当するので、パートナーが離婚を望めば拒絶するのは難しいでしょう(民法第770条第1項第5号)。離婚原因がどちらにあるかは言うまでもないので、慰謝料請求にも対応する必要があります。
また、万引きで逮捕されたり前科がついたことが恋人にバレると、結婚予定がなくなる危険性もあります。結婚直前の破談は慰謝料の対象になる点にも注意が必要です。
さらに、過去に万引きでの逮捕歴があるのに再び捕まったようなケースでは、更生に向けてサポートしてくれていた家族は裏切られた気持ちになるでしょう。万引き常習犯が更生するには家族の支援が不可欠ですが、家族に見限られると安定した環境での社会復帰が難しくなります。
万引きで警察に後から捕まるか不安なときに弁護士に相談するメリット3つ
過去に起こした万引き事件で後から捕まるか不安なときは、警察から連絡がある前に弁護士に相談するのがおすすめです。
なぜなら、刑事事件を専門に取り扱っている弁護士への相談によって、以下3点のメリットが得られるからです。
- 警察に捕まる前から万引き被害者との間で示談交渉を進めてくれる
- 警察に後から捕まる前に自首すべきか否かを判断してくれる
- 万引き事件について警察から連絡があった後も刑事手続きの段階に応じた防御策を展開してくれる
万引き被害者との間で示談交渉を進めてくれる
弁護士に相談すれば、警察の捜査が及ぶ前の段階で被害店舗に連絡をして示談交渉を進めてくれます。
示談交渉の進め方と被害店舗の考え方次第ですが、店舗に生じた被害額に慰謝料を加算した金額が示談金の相場です。
万引き被害を受けた店舗との間で示談が成立すれば、仮に警察が万引き事件を立件しようとしても、民事的解決が済んでいることを理由として逮捕されることはなくなるでしょう。
また、示談交渉を進めている途中で万が一逮捕されることになったとしても、弁護士に依頼しておけば、被疑者に代理して示談交渉を継続することができます。
逮捕後の取調べが継続している途中で和解契約が成立すれば、その時点で捜査打ち切りが期待できるので、弁護士への早期依頼はリスクヘッジとしても役立つでしょう。
警察に後から捕まる前に自首する道を提案してくれる
警察による捜査が及ぶ前に弁護士へ相談すれば、警察に自首するべきか否かを冷静に判断してくれます。
そもそも、警察に犯罪がバレる前に自首すれば、刑事処分や刑罰の内容を有利にできます(刑法第42条第1項)。「バレるはずもない万引きについて自ら警察に出頭するのは馬鹿らしい」と思われるかもしれませんが、自首をした方が反省の態度を明らかにできるので、軽い刑事処分獲得には有効です。
とはいえ、万引き事件の内容が軽微なものとは言えず、自首をしたとしても逮捕・起訴される可能性がゼロではないパターンもあり得ます。この場合には、「ひとまず被害店舗との間で示談を成立させたうえで、警察から問い合わせがくるまでしばらく様子を見る」という柔軟な対応が適切でしょう。
このように、万引き事件の場合には、自首した方が適切な場合と自首が不利になる場合の両者が存在します。万引き事件の実績豊富な弁護士なら警察の考え方や捜査方針を熟知しているので、どの選択肢を採用すれば有利な状況を作り出せるかを結論立ててくれるでしょう。
万引きで警察に後から捕まっても軽い処分獲得を目指して尽力してくれる
警察の捜査が及ぶ前に弁護士に相談しておけば、その後通常逮捕された場合にもスムーズに防御活動へ移行できます。
たとえば、逮捕後の取調べ期間は48時間が上限であることを踏まえると、万引き事件について検察官送致を回避するには、48時間以内に示談交渉・被害弁償・情状の説明をする必要があるということです。逮捕されてから弁護士に依頼しても、送検されるまでにすべてのタスクをこなすのは簡単ではないでしょう。
したがって、万引きで逮捕された後のことを考えるなら、逮捕前の段階で弁護士に事情を話して、最低でも民事的解決は済ませておくのが理想だと言えるでしょう。弁護士には守秘義務が科されているので、警察に通報される心配もありません。
警察は後からでも万引きを捜査するので不安があるなら早期に弁護士へ相談しよう
万引きは現行犯以外でも逮捕される可能性がある犯罪類型です。
ですから、警察の捜査によって後から逮捕されるリスクを回避するなら、出来るだけ早いタイミングで被害者との間で示談交渉を進める必要があります。
被害者との間で民事的解決が済んでいる状況なら、警察が万引き事件を認知しても刑事手続きが進められる可能性は低いです。
まずは、万引き事件の取扱い経験豊富な弁護士に相談して、今後逮捕される可能性や現段階でできる防御策についてアドバイスをもらいましょう。