煽り運転で通報されたらどうなる?逮捕されるデメリットと弁護士に事前相談するメリットを解説

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煽り運転で通報されたら早期に適切な防御策を講じる必要があります。なぜなら、令和2年6月に道路交通法が改正されて、煽り運転に対する厳罰化が推し進められているからです。

煽り運転は「妨害運転罪」として処罰対象になるので、ドラレコなどの証拠映像付きで通報されると、現行犯以外の方法で後日通常逮捕されかねません。早期に策を講じなければ、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束付きの取調べを強いられるだけではなく、前科がついて今後の社会生活にさまざまな支障が生じてしまいます

そこで今回は、カッとなって煽り運転をしてしまったものの、冷静になると逮捕されるか不安が押し寄せてきたという方のために、以下6点について解説します。

  1. 煽り運転罪(妨害運転罪)の構成要件と法定刑
  2. 煽り運転罪(妨害運転罪)の処罰対象になる運転行為一覧
  3. 煽り運転罪(妨害運転罪)で後日逮捕される可能性
  4. 煽り運転罪(妨害運転罪)で逮捕された後の刑事手続きの流れ
  5. 煽り運転罪(妨害運転罪)で逮捕されたときに生じるデメリット
  6. 煽り運転罪(妨害運転罪)で逮捕されるか不安なときに弁護士へ相談するメリット

運転中のタイミングや道路交通事情などによっては、煽り運転をしたつもりがなくても、相手方が「煽られた」と感じ取ってしまうケースも多いです。ただ、煽り運転はSNSなどの炎上を招きやすいトピックになっているので、早期に”被害者”の誤解を解いて逆恨みを回避しなければ、想像以上のデメリットが生じかねません。

弁護士に相談すれば、警察への対応方法をアドバイスしてくれるだけではなく、SNSで拡散された動画などにも厳粛に対応してくれます。煽り運転加害者になってしまった自覚があるなら、できるだけ早いタイミングで専門家までご相談ください。

目次

煽り運転を処罰する妨害運転罪とは

煽り運転は「妨害運転罪」に該当する犯罪類型なので、通報されたら後からでも逮捕されます。

まずは、煽り運転が構成する「妨害運転罪」の構成要件や、煽り運転をしたときに発生する法的責任について具体的に見ていきましょう。

妨害運転罪(煽り運転罪)の構成要件

妨害運転罪は、他の車両等の通行を妨害する目的で、以下の行為が、他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのあるときに成立する犯罪類型です(道路交通法117条の2の2第1項第8号)。

ここから、妨害運転罪の構成要件として、以下3点が挙げられます。

  1. 「他の車両等の通行を妨害する目的」を有すること
  2. 「道路交通法第117条の2の2第8号に列挙される運転行為」に該当すること
  3. ②の運転行為に「他の車両等に道路上の交通の危険を生じさせるおそれ」があること

要件1.他の車両等の通行を妨害する目的

妨害運転罪が成立するには、「他の車両等の通行を妨害する目的」が必要です。

たとえば、後述の通り、急ブレーキは禁止される運転行為のひとつですが、運転操作のミスで急ブレーキを踏んで他の車両に迷惑をかけたとしても、「他の車両等の通行を妨害する目的」はない以上、妨害運転罪の容疑で逮捕されることはありません。

「他の車両等の通行を妨害する目的」があったか否かは、運転者の供述内容だけではなく、道路状況や運転方法などの客観的事情も含めて総合的に判定されるものです。したがって、ドライブレコーダーの証拠映像で明らかに危険な煽り運転をしていることがはっきりしている状況において、「他の自動車に迷惑をかけるつもりはなかった」などと供述しても、妨害運転罪の嫌疑を晴らすことはできません

要件2.道路交通法第117条の2の2第8号に列挙される運転行為

妨害運転罪の対象行為は以下10つに限定されています。

  1. 通行区分規定に違反する運転行為(第17条第4項)
  2. 急ブレーキ禁止規定に違反する運転行為(第24条)
  3. 車間距離保持規定に違反する運転行為(第26条)
  4. 進路変更の禁止規定に違反する運転行為(第26条の2第2項)
  5. 追越し方法のルールに違反する運転行為(第28条第1項、第4項)
  6. 車両等の灯火の規定に違反する運転行為(第52条第2項)
  7. 警音器の使用のルールに違反する運転行為(第54条第2項)
  8. 安全運転の義務に関するルールに違反する運転行為(第70条)
  9. 最低速度の規定に違反する運転行為(第75条の4)
  10. 停車や駐車のルールに違反する運転行為(第75条の8第1項)
通行区分規定に違反する運転行為(イ)

車両は道路の左側を走行するのが原則で、幅員に余裕がないときなどの例外的な場面でしか道路の右側区分を走ってはいけません(道路交通法第17条第4項)。

したがって、蛇行運転などをしながら反対車線に意図的にはみ出すなどの運転行為は、通行区分規定違反として妨害運転罪に該当する可能性があるでしょう。

急ブレーキ禁止規定に違反する運転行為(ロ)

車両等を運転中は、危険を防止するなどのやむを得ない場合でなければ、急な停止・減速をすることになる急ブレーキをかけてはいけません(道路交通法第24条)。

したがって、後方を走行している他の車両を威嚇するなどの目的で急ブレーキをかけて追突を誘因するような運転行為は、急ブレーキ禁止規定違反として妨害運転罪に該当する可能性があるでしょう。

車間距離保持規定に違反する運転行為(ハ)

同一の進路を走行している他の車両等の直後を進行するときには、直前を走行中の車両が急に停止した場合に追突を避けることができるだけの必要な車間距離を保たなければいけません(道路交通法第26条)。

したがって、前方を走行する車両等の直後に自己の運転する自動車をつけて車間距離を著しく短く保つような運転行為は、車間距離保持義務違反として妨害運転罪に該当する可能性があるでしょう。

進路変更の禁止規定に違反する運転行為(ニ)

進路変更をすると後方から進行してくる車両等が速度・進路を急に変更しなければいけないような状況にあるときには、進路変更をしてはいけません(道路交通法第26条の2第2項)。

したがって、追い抜きを図ろうとしている他の車両の前にわざと車線変更をして追突を煽るような運転行為は、進路変更の禁止規定に違反することを理由に妨害運転罪に該当する可能性が高いでしょう。

追越し方法のルールに違反する運転行為(ホ)

前方を走行している車両を追い越すときには、右側の車線を通行しなければいけません(道路交通法第28条第1項)。また、追越しをしようとする場合には、反対車線や後方を走っている他の車両にも注意しながら、できるだけ安全な速度・方法で行う必要があります(同法第28条第4項)。

したがって、前方の自動車を左側から無理に追い抜く運転行為や、反対車線が混雑している状況で無理矢理中央線をはみ出して前車を追い抜こうとする運転行為は、追越し方法のルールに違反するので妨害運転罪に該当する可能性が高いでしょう。

車両等の灯火規定に違反する運転行為(ヘ)

夜間やトンネルの中、濃霧がかかつている場所などにおいて灯火をしなければいけない状況において、灯火をしたままでは行き違う他の車両や前方の自動車の交通を妨げるおそれがある場合には、灯火を消したり、灯火の光度を減ずるなどの操作をしなければいけません(道路交通法第52条第2項、道路交通法施行令第19条、第20条)。

したがって、前方を走行する自動車に対してむやみやたらにパッシングしたり、ハイビームを照射し続ける運転行為は、車両等の灯火規定に違反することを理由に妨害運転罪として処断される可能性が高いでしょう。

警音器の使用のルールに違反する運転行為(ト)

危険を防止するためにやむを得ない場合や、法令の規定によって警音器を鳴らさなければいけない場合を除いて、車両等を運転している途中に警音器を鳴らしてはいけません(道路交通法第54条第2項)。

したがって、特に何のトラブルもない状況において他の自動車に対してクラクションを鳴らし続ける運転行為は、警音器の使用についての規則に違反することを理由に妨害運転罪の容疑で逮捕されるでしょう。

安全運転の義務に関するルールに違反する運転行為(チ)

車両等を運転するときは、ハンドル・ブレーキなどの装置を確実に操作して、時々の道路や交通事情を把握しながら他人に危害を及ぼさない速度と方法で運転しなければいけません(道路交通法第70条)。

したがって、蛇行運転、加速・減速を繰り返す運転、指示器を使わずに車線変更する運転行為は、運転手に課されている安全運転の義務に違反することを理由に妨害運転罪の容疑で逮捕される可能性が高いでしょう。

最低速度の規定に違反する運転行為(リ)

自動車が高速自動車国道の本線車道を走行する場合には、最低速度に達しない速度で進行してはいけません(道路交通法第75条の4)。

したがって、高速道路において時速50キロメートル以下で低速走行する運転行為は、最低速度規定への違反を理由に妨害運転罪の嫌疑で逮捕される可能性が高いでしょう。

停車や駐車のルールに違反する運転行為(ヌ)

自動車が高速道路などを走行する場合には、故障したときや料金所を通過するとき、危険を防止する必要があるときなどを除いて、停車・駐車してはいけません(道路交通法第75条の8第1項)。

したがって、高速道路走行中に道路上で他の車両の前でいきなり停車するような運転行為は、停車・駐車のルールに違反することを理由として妨害運転罪の疑いで逮捕される可能性があるでしょう。

要件3.運転行為に「他の車両等に道路上の交通の危険を生じさせるおそれ」があること

煽り運転が妨害運転罪として処罰されるのは、道路交通法第117条の2の2第8号に列挙される運転行為が「他の車両等に道路上の交通の危険を生じさせるおそれのある方法」で行われる必要があります。

たとえば、他に自動車が走行していない状況で過度なパッシング・ハイビームを繰り返したとしても、「他の車両等に道路上の危険を生じさせるおそれ」は存在しないと考えられるので、妨害運転罪で逮捕されることはありません(ただし、パッシングやハイビームはそれ自体が車両等の灯火規定に違反する場合があるので、妨害運転の罪で処断されなくても、5万円の罰金刑に処せられます(道路交通法第120条第1項第6号))。

妨害運転罪(煽り運転罪)の法定刑

妨害運転罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です。

ただし、道路交通法第117条の2の2第8号に列挙される運転行為によって、高速自動車国道等において他の自動車を停止させて、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた場合には、「5年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑」に法定刑が引き上げられます(道路交通法第117条の2第1項第4号)。

煽り運転をしたときの違反点数(行政処分)

煽り運転をして妨害運転罪で逮捕された場合の違反点数は25点です。つまり、他の累積違反点数の有無にかかわらず、一発で免許取消し処分が下されます。免許取消し後2年間は、免許の再取得も認められません

また、煽り運転による妨害運転の罪によって高速道路上の他の自動車を停止させて、その他道路における著しい交通の危険を生ぜしめた場合、違反点数は35点です。運転免許の再取得は3年間許されません。

煽り運転をしたときの民事責任

煽り運転をした場合には、刑事責任行政処分を下されるだけではなく、被害者に対する民事責任も生じる可能性があります。

たとえば、煽り運転によって被害車両が物損事故を起こした場合には、車両などの修理費用を賠償する必要があります。また、煽り運転の態様次第では、事故を起こしていなくても、被害車両の運転手から慰謝料請求される可能性も否定できません。

事故なしの単純な煽り運転だけでどこまでの慰謝料請求が認められるかはケースバイケースですが、煽り運転に対する厳罰化の流れを汲むと、今後は民事上の賠償責任額も増える危険性があると理解しておきましょう。

【注意!】煽り運転で人を負傷・死亡させると罪が重くなる

煽り運転の態様が以下に該当し、それによって人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪に問われます自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条)。

  • 制御するのが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  • 人や車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入したり、人や自動車に著しく接近したり、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 車の通行を妨害する目的で、走行中の車両の前方で停止したり、著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
  • 高速自動車国道・自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の車両の前方で停止したり、著しく接近することとなる方法で自動車を運転することによって、走行中の自動車に停止・徐行をさせる行為
  • 赤信号などを殊更に無視しながら、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 通行禁止道路を進行しながら、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

これらの煽り運転(危険運転)によって人を負傷させた場合の法定刑は「15年以下の懲役刑」です。また、人を死亡させた場合には「1年以上の有期懲役刑」で処断されます。

衝動的な感情で煽り運転をしてしまうドライバーは少なくありませんが、それによって交通事故が引き起こされた途端、「罰金刑なしの危険運転致死傷罪」で逮捕されることになります。

執行猶予判決を得られなければ実刑判決が下されるので、「煽り運転は絶対にしないこと」「煽り運転をしてしまった場合には弁護士に相談して対応を急ぐ必要があること」を覚えておきましょう

煽り運転で通報されたらどうなる?刑事手続きの流れ

「煽り運転をしてもすぐに現場を離れると捕まらない」というのは間違いです。

なぜなら、被害車両や周辺を走行していた車両のドライブレコーダー映像や、運転手・同乗者・目撃者の供述などによって煽り運転の容疑が固まると、後日通常逮捕される可能性があるからです。妨害運転罪は現行犯以外の方法でも逮捕されます。

煽り運転で通報された後の刑事手続きの流れは以下の通りです。

  1. 警察が煽り運転をした運転手に接触する(任意出頭要請、通常逮捕)
  2. 妨害運転罪で逮捕されると警察で取調べを受ける
  3. 必要があるときは警察が検察官に身柄・事件を送致する
  4. 煽り運転の罪について検察官が起訴・不起訴を判断する
  5. 煽り運転の罪について刑事裁判にかけられる
刑事手続きの基本的な流れは上述の5ステップですが、煽り運転初犯で被害者に謝罪が済んでいるなどの事情があれば、警察からの問い合わせがあったとしても逮捕移行の手続きを回避することは可能です。警察からの連絡がくる前に策を講じているか否かが刑事手続きの流れを左右すると言っても過言ではないので、少しでも不安があるなら煽り運転弁護の経験がある弁護士までご相談ください

警察による接触

煽り運転の被害者に通報されたら、警察は独自に捜査活動を開始します。

近年では、多くの車両にドライブレコーダーが搭載されているので、煽り運転をした加害車両のナンバープレートから、煽り運転加害者を特定するのは難しくありません。また、煽り運転が発生した当時の様子を、現場に居合わせた他の車両のドラレコや周辺の防犯カメラが記録していた場合には、捜査機関は容易に煽り運転行為の実態について把握するでしょう。

このような経緯で警察が煽り運転事件を認知すると、以下2つのパターンで警察から加害者に連絡がいくことになります。

  1. 任意での出頭要請
  2. 通常逮捕

後日警察から任意出頭を要請される

警察が煽り運転の加害者を特定すると、電話連絡や自宅訪問の方法によって任意での出頭要請をするのが一般的です(刑事訴訟法第198条第1項)。

任意での出頭要請は、「煽り運転の事件について事情を聴きたいから警察署に来て欲しい」という程度のものです。強制処分である通常逮捕とは違って、任意での出頭要請に応じる義務はありません。

ただ、警察から電話がきた時点で、捜査機関は煽り運転事件を立件できるだけの情報を収集し終わっているのが実情です。にもかかわらず、任意での事情聴取を拒絶すると、躊躇なく逮捕状が請求されて通常逮捕手続きに移行する危険性が高いでしょう。

したがって、煽り運転をした後日、警察から接触があった場合には、素直に出頭要請に応じて事件について丁寧に説明するべきだと考えられます。

ただし、事前準備を一切せずに警察に出頭してしまうと、供述内容次第ではその場で通常逮捕されるリスクもあるので、煽り運転の嫌疑をかけられて警察から電話連絡が来た場合には、任意出頭する前に弁護士に相談をしておくのが無難でしょう

警察がいきなり自宅にやってきて妨害運転罪の容疑で通常逮捕される

シンプルな煽り運転事件の場合には、警察による任意出頭要請によって手続きがスタートするのが一般的ですが、以下のような場合には、任意での事情聴取のステップを飛ばして、いきなり通常逮捕手続きが進められる可能性があります。

  • 煽り運転の態様が決して軽微とは言えない場合
  • 妨害運転罪の前科・前歴がある場合
  • 煽り運転によって交通事故が発生した場合
  • 飲酒運転や薬物事犯などの前科・前歴がある場合

妨害運転罪などの容疑で通常逮捕手続きが進められる場合、ある日いきなり警察が自宅にやってきて逮捕状をつきつけられます(刑事訴訟法第199条第1項)。

逮捕状が発付されている以上、「今から会社に出勤しなければいけない」などの事情は一切考慮してもらえず、その時点から警察に身柄が拘束されます。

通常逮捕手続きがとられると、警察署で「48時間を上限とする取調べ」を受ける必要があります(同法第203条第1項)。その間は、会社や家族などの外部と一切連絡を取れません。

ただし、逮捕状による身柄拘束が行われるのは「留置の必要があるとき」だけです。被疑者の身元がはっきりしており、証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断されたなら、その時点で身柄を釈放してもらえるので、弁護士のアドバイスを参考にしつつ取調べには誠実に対応しましょう。

「罪を認めると重い処分が下される」というイメージを抱く人が多いですが、むしろ逆です。自ら犯行を認めて真摯に反省の態度を示した方が「再犯の可能性が低い」と判断されるので、刑事処分の内容は軽くなります。もちろん、状況次第では「そもそも煽り運転をしていない」と否認することも可能ですし、否認するべき事件も存在するのは事実ですが、捜査に対して真向勝負を挑むと身柄拘束期間は長期化する危険性があります。早期に自供した方が良いのか自分の主張を貫き通した方が良いのかは事件によって判断が分かれるので、かならず弁護士に相談のうえ防御方針を一貫させてください。

煽り運転から数年経過しても逮捕される可能性がある

煽り運転をしてから何日後に警察から連絡がくるかはケースバイケースです。

ただ、通常、煽り運転で通報されたら、数日~数週間以内に警察から連絡がくるのが一般的です。ドラレコの映像を解析して加害者を特定するのは簡単なので、逮捕されるか否かはさておき、警察が捜査に着手すると比較的短期間で問い合わせがくるでしょう。

ただし、煽り運転をしてから数週間が経過しても警察から連絡が来ないからといって、「警察は逮捕しないつもりだ」「煽り運転がバレずに済んだ」と油断するのは危険です。なぜなら、公訴時効が完成しない限りは、妨害運転罪でいつ逮捕されるか分からないものだからです。

道路交通法第117条の2の2第8号の妨害運転罪の公訴時効は3年です。また、道路交通法第117条の2第1項第4号が適用される妨害運転罪の公訴時効は5年です(刑事訴訟法第250条第2項)。つまり、煽り運転から3年~5年が経過してようやく逮捕リスクがゼロになるということです。

後述するように、捜査機関が煽り運転を認知するのは被害者からの通報だけに限られません。妨害運転罪は親告罪ではないので、被害者からの通報がなくても逮捕の必要性があると判断すれば、公訴時効が成立していない限りにおいて刑事処罰の対象とされかねません。

したがって、過去の煽り運転で逮捕されるか不安なら、念のために弁護士に相談しておくことをおすすめします。捜査機関にバレるリスクなどを総合的に考慮して今後の方針を決定してくれるでしょう。

煽り運転の被害者に通報されなくても警察から連絡がくることもある

煽り運転は現行犯以外でも逮捕される可能性がありますが、捜査の端緒は「被害者による通報」だけではありません。

たとえば、近年煽り運転が社会問題化しており、TwitterなどのSNSやYouTubeなどの動画投稿サイトに煽り運転の動画がリアルタイムで投稿されています。

そして、動画が炎上して第三者に通報されたりサイバーパトロールで捜査機関が事件のことを知るに至ると、被害車両や動画投稿者からの通報がなくても捜査活動がスタートすることもあるでしょう。

被害者との話し合いが済んでいても、また、煽り運転をした当時からある程度期間が経過していても、煽り運転をした以上は、いつ警察から問い合わせがくるか分かりません。念のために、弁護士との間で警察から問い合わせがきたときの対処法を話し合っておくべきでしょう。

「相手が先に嫌がらせをしてきたから」という言い訳は煽り運転では通用しない

煽り運転をしてしまった人のなかには、「相手に無理矢理割り込まれたから感情的になってしまった」「先に相手が自分を威嚇めいた運転をしてきたから反応してしまった」というように、煽り運転の被害者にも一定の過失があると主張する人もいるでしょう。

確かに、「煽り運転をされる方にも問題がある」という意見があるのは事実です。

しかし、どのような経緯があったとしても、煽り運転をしたことの違法性が阻却されることはありません。なぜなら、すべての運転手には道路交通法上のルールを遵守する義務が課されているのであり、煽り運転をした以上、「道路交通法上の義務に違反した」という事実は消えないからです。仮にどれだけ悪質な態様で先に嫌がらせをされたとしても、「先行して違法行為をされたから煽り運転で反撃しても良い」ということにはなりません。

したがって、警察からの問い合わせに対して「自分は悪くない、相手が先に危ない運転をしたからだ」などと供述するのは厳禁です。丁寧に事情や経緯を説明するのは大切なことですが、被害者を責める供述をすると「反省していない」と受け取られないのでご注意ください

妨害運転罪で逮捕された後は検察官に送致される

煽り運転事件が警察限りの捜査で終了しない場合には、検察官に身柄が送致されます。

警察から事件を引き受けた検察官は、原則24時間の範囲で取調べを実施します(刑事訴訟法第205条第1項)。24時間以内にすべての証拠を収集し終えると、起訴・不起訴の判断に移ります。

その一方で、24時間だけでは充分に証拠を収集できない場合には、例外的に勾留請求が行われて、10日間~20日間の範囲で身柄拘束期間が延長されます。たとえば、煽り運転自体を否認している場合、煽り運転についての余罪が想定される場合、重罪である危険運転致死傷罪の疑いがある場合では、勾留請求される可能性が高いでしょう。

煽り運転事件について勾留請求されると、外部と連絡を取れない期間が長引くので、学校や会社に隠しきるのが難しくなります。社会生活への悪影響をできるだけ回避したいなら、勾留請求されないように防御活動を展開するべきです。事件の状況によって対応方法は異なるので、かならず担当弁護士に供述方針をご相談ください。

妨害運転罪の容疑で送検された後は起訴・不起訴が決定される

煽り運転事件が送検されると、期限が満了するまでに、検察官が事件についての最終判断を下します。検察官が下す処分は、起訴処分と不起訴処分の2種類のいずれかです。

起訴処分とは、煽り運転にかかる事件(妨害運転罪や危険運転致死傷罪)について刑事裁判にかける旨の意思表示のことです。日本の刑事裁判の有罪率は99%とも言われているので、検察官による起訴処分(公訴提起)が下された時点で、かなりの確率で有罪判決が下されることになります。

これに対して、不起訴処分とは、煽り運転についての刑事手続きを裁判にかけずに終了させる旨の意思表示のことです。検察官による不起訴処分が下された事件で刑事手続きは終了するので、有罪判決が下されることはありません。つまり、不起訴処分を獲得すれば、前科を回避できるということです。

不起訴処分が下されるパターンは、以下3種類に分類されます。

  1. 嫌疑なし(煽り運転の容疑がない事件)
  2. 嫌疑不十分(煽り運転をしたという証拠が充分に揃っていない事件)
  3. 起訴猶予(煽り運転をしたことは間違いないが、諸般の事情を総合的に考慮して、起訴処分を見送るのが相当な事件)

つまり、煽り運転をしたことが明白であったとしても、煽り運転の態様・反省の態度の有無・被害者との示談交渉の状況などを総合的に考慮した結果、不起訴処分を獲得できるケースがあり得るということです。

送検されても前科回避を目指す余地は残されているので、逮捕・勾留されたからといって諦めずに丁寧に防御活動を展開するべきでしょう。

妨害運転罪で起訴されると刑事裁判にかけられる

妨害運転罪について起訴処分が下されると、公開の刑事裁判における審理を経た結果、判決が下されます。

第1回口頭弁論期日は起訴処分が下された1カ月~2カ月後に指定されるのが一般的です。煽り運転などについての反論がなければ、初回の口頭弁論期日で結審し、後日判決が言い渡されます。これに対して、煽り運転の成否自体を争う場合には、弁論手続き・証拠調べ手続きを経て、裁判官が心証を形成し、最終的な判決を下すに至ります。

煽り運転で刑事裁判にかけられた場合、初犯なら罰金刑もしくは執行猶予付き判決が下されるのが一般的です。その一方で、過去に同種前科があるようなケースでは、実刑判決が下される可能性も否定できません。

なお、検察官が起訴処分を下す際に、刑事裁判で罰金刑を求刑すると決めている場合には、略式裁判手続き(略式起訴・略式命令)という事件処理を選択することも可能です(刑事訴訟法第461条)。略式裁判手続きを選択すると公開の刑事裁判で反論する機会を失いますが、起訴処分を下す段階で刑事手続きが即時終結するので、早期の社会復帰を実現できます。たとえば、煽り運転をしたことを争うつもりがないのなら、わざわざ数カ月かけて刑事裁判を待つのではなく、略式手続きで早期に罰金刑を確定させてしまうのも選択肢のひとつでしょう。

煽り運転で通報されたときに生じるデメリット4つ

煽り運転をして通報されると警察に逮捕される危険性が生じます。

その結果、煽り運転加害者は以下4点のデメリットに晒されます。

  1. 煽り運転で有罪になると前科がつく
  2. 煽り運転で逮捕されたことが会社にバレると懲戒処分の対象になる
  3. 煽り運転で逮捕されたことが学校にバレると退学リスクに晒される
  4. 煽り運転をした情報が拡散されると社会的制裁を受ける

前科がつく

煽り運転で逮捕されて有罪判決が下されると、前科がつきます。

「実刑判決なら前科になるが、罰金刑や執行猶予付き判決なら前科はつかない」と言われることもありますが、これは間違いです。実刑判決・執行猶予付き判決・罰金刑のいずれも有罪であることには変わりないので、どの内容の判決でも前科がつきます。

そして、煽り運転が原因で前科がついてしまうと、日常生活に以下のような支障が生じます。

  • 就職活動・転職活動の履歴書の賞罰欄に前科歴の記載を求められる(隠蔽すると「経歴詐称」)
  • 前科を理由に恋人との結婚がダメになったり、配偶者から離婚を言い渡される
  • 前科があると就けない職業がある(士業や金融業など)
  • 前科を理由に入国を拒絶される場合がある
  • 再犯時に刑事処分が重くなる可能性が高い

たとえば、煽り運転で逮捕・有罪になったことが理由で会社をクビになった場合、仕事を探す必要に迫られるでしょう。

しかし、賞罰欄に前科の記載を求められるので、かならず転職希望先の企業に前科があることがバレてしまいます。前科者を快く受け入れてくれる企業はそう多くはないでしょうし、社会復帰が難航する可能性が高いです。また、仮に賞罰欄に前科歴を記載せずに採用されたとしても、入社後に前科があることがバレてしまうと、経歴詐称や就業規則違反で懲戒処分を下されかねません。

このように、突発的・衝動的にやってしまう煽り運転ですが、通報されて逮捕・有罪に至ってしまうと、今後の人生を台無しにするほどのリスクを孕むものです。

このような事態を避けるには、煽り運転の容疑で警察から連絡がきたとしても、いかに誠実に対応して逮捕・起訴を回避できるかがポイントになります。煽り運転をした経験があって逮捕されるのではないかと不安を抱えているのなら、警察から問い合わせが入る前に弁護士までご相談ください。

会社にバレて懲戒処分を下される

煽り運転をしたことが警察にバレると、逮捕段階で48時間、送検後勾留されると最大で20日間、社会生活から完全に隔離されてしまいます。自分の口で会社に連絡を入れることもできないので、煽り運転で逮捕されたことを勤務先に隠しきるのは難しいでしょう。

そして、勤務先の就業規則の規定内容次第ですが、何かしらの懲戒処分が下される可能性が高いです。懲戒処分は、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇に分類されますが、最悪の場合には懲戒解雇処分の対象にもなりかねません

また、懲戒解雇を免れて勤務先に所属し続けられたとしても、煽り運転をしたことや前科がついたことが勤務先にバレるだけで社会的信用は失墜します。昇進・昇格のチャンスは失われますし、普段の業務もやりにくくなってしまうでしょう。

学校にバレて処分を下される

煽り運転をしたことが学校にバレると、学則・校則にしたがって何かしらの処分が下される可能性が高いでしょう。

譴責や停学で済めばマシですが、学校側の対応が厳しければ退学処分もあり得ます

なお、社会人とは違って、大学生や専門学生なら、1~2週間程度学校を無断で休んだとしても、後から何かしらの言い訳をするだけで通用するでしょう。また、弁護士に依頼をしておけば、学校に連絡しないように警察に申し入れることも可能です。

実名報道やネット炎上によって社会的制裁を受ける

近年、煽り運転は話題性の高いトピックなので、逮捕される前にSNSで動画が拡散されて個人が特定されたり、顔写真付きで実名報道されたりする可能性も否定できません。

このような形で煽り運転をしたことが広く知られるようになると、逮捕されるか否かとは関係なく厳しい社会的制裁が科されます

たとえば、自宅に嫌がらせの電話がかかってきたり、近隣住民から厳しい目を向けられたりするでしょう。また、逮捕されたり前科がついたりしたわけでもないのに、学校や勤務先にバレてしまうので、学校や勤務先の名誉を著しく毀損したことを理由に退学・解雇処分を下される可能性も生まれます。さらに、インターネット上の情報は今後も残り続けるので、氏名を検索されるだけで過去の煽り運転事件の情報がヒットしてしまい、社会復帰の道が困難になってしまいます。

したがって、煽り運転で通報された可能性が少しでもあるなら、社会的に大ごとになる前に被害者との間で話し合いをまとめてしまうのが重要です。弁護士に相談すれば被害者との間の話し合いもスムーズに進むので、今後の人生のリスクを軽減するために、念のために煽り運転問題に詳しい弁護士まで相談することを強くおすすめします。

煽り運転で通報されたときの対処法3つ

煽り運転で通報された可能性があるときには、以下3つの対処法をご検討ください。

  1. 煽り運転の被害車両の運転手に連絡をして謝罪する
  2. 警察から連絡がきてしまった段階なら可能な限り誠実に対応する
  3. 煽り運転で通報されたか不安なら早期に弁護士へ相談する

すぐに被害者に連絡をして謝罪する

煽り運転の被害者が判明しているなら、すぐに連絡をとって丁寧に謝罪する方法が選択肢のひとつとして挙げられます。

その場で謝罪をすれば通報せずに済ませてもらえるかもしれませんし、煽り運転のつもりがないのなら誤解を解くチャンスにもなるはずです。

なお、煽り運転の被害者が分からなくても、車両ナンバー7桁が判明しているなら、陸運支局・自動車検査登録事務所で登録事項等証明書を取得すれば被害車両の所有者を特定することができます(道路運送車両法第22条)。ただし、個人情報保護の観点から、現在登記事項等証明書の取得手続きは若干面倒になっているので、個人でわざわざ陸運局などに足を運ぶ手間を考えると、最初から弁護士に一任してしまった方がスムーズでしょう。

警察からの連絡には誠実に対応する

警察から連絡が来た場合には、煽り運転について被害者に通報された可能性が高いです。

この場合には、警察からの問い合わせには誠実に対応して、反省の態度を示すのが重要です。また、「被害者に謝罪したいので連絡先を教えて欲しい」と申し出れば、被害者側の承諾を得られる限りにおいて、連絡先を教えてもらえます。

「警察からの電話は怖いので無視する」「煽り運転で逮捕されるのが嫌だから任意出頭には応じない」「煽り運転をしたのは相手が挑発してきたからだ」などの対応をとると、通常逮捕手続きに移行して前科がつくリスクが高まります。

煽り運転自体を否認するのなら別ですが、煽り運転をしたこと自体は間違いないのであれば、任意の取調べ段階で誠実に対応するのがおすすめです。

弁護士に相談して通報への対策を相談する

「煽り運転で通報されるか不安だ」「過去の煽り運転について警察から『事情を聴きたい』と連絡があった」という場合には、刑事事件の実績豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。

なぜなら、煽り運転などの交通トラブルに関する弁護実績豊富な専門家に相談することで、以下7点のメリットが得られるからです。

  1. 煽り運転の被害者を特定して早期に示談交渉を進めてくれる
  2. 警察から連絡がくる前に自首するべきか否かを判断してくれる
  3. 警察から連絡が来た後の対処法や供述内容のアドバイスをくれる
  4. 微罪処分獲得や勾留回避、不起訴処分獲得に向けて防御活動を展開してくれる
  5. 逮捕勾留中は家族・学校・会社への連絡も代理・ケアしてくれる
  6. 逮捕勾留中も積極的に接見機会を作ってくれて被疑者を励ましてくれる
  7. ネットに拡散した名誉棄損情報に対して削除請求などの措置をとってくれる

煽り運転の嫌疑をかけられた場合、刑事手続きの処分を軽くすることと同時に、社会復帰や更正の難易度を下げることにも配慮しなければいけません。

刑事事件のノウハウを有する弁護士なら、俯瞰的な見地から依頼人の利益最大化に向けた弁護活動を実施してくれるでしょう。

煽り運転で通報されたら早期の対策が運命を左右する

計画性をもって煽り運転をするケースは皆無です。ほとんどの加害者が「衝動的に煽ってしまった」という状況で、冷静になった今、後悔の念に苛まれていることでしょう。

ただ、感情的な犯行だとしても煽り運転は妨害運転罪に該当する犯罪であることは間違いなく、警察に通報されると厳しい刑事処罰が下される可能性があるものです。煽り運転が警察にバレないことを祈っているだけでは、対応が後手に回って社会生活にさまざまな支障が生じかねません。

したがって、煽り運転をして通報されたおそれが少しでもあるなら、すぐに弁護士に連絡をして現状分析と今後の方針を練ってもらうのがおすすめです。早期に被害者との示談を成立させておけば、仮に通報されても厳しい刑事処分を回避できるでしょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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