誰かを好きになって恋愛的なアプローチをするときには、「どこからがストーカーになるのか」という線引きを忘れてはいけません。
なぜなら、行き過ぎた恋愛的なアプローチが原因でさまざまなトラブルに発展している現状を踏まえて、好意や怨恨によってもたらされる一定の積極的過ぎる行為は「ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称「ストーカー規制法」)」で禁止されているからです。
どこからがストーカーに該当するか理解していなければ、知らないうちに同法の規制対象になる行為に及んでしまうこともあるでしょう。そして、悪質なストーカー行為であると行政・司法に判断されると、場合によっては逮捕・勾留などの厳しい刑事手続きを強いられるだけではなく、「罰金刑や懲役刑」が下される可能性も否定できません。さらに、ストーカー行為が原因で前科がつくと、今後の社会生活にさまざまな悪影響が生じてしまいます。
そこで今回は、「どこからがストーカー認定されるか分からないので恋愛的アプローチに積極的になれずに困っている」「自分は恋愛的アプローチをしていたつもりだが、相手から『ストーカーまがいの行動をやめてください』と言われて困惑している」など、不安や疑問を抱いている方のために、以下5点について分かりやすく解説します。
- ストーカー規制法で禁止される行為一覧
- ストーカー規制法に違反したときに科される罰則やペナルティ
- ストーカーまがいの行動と恋愛的アプローチの区別の方法
- ストーカー規制法違反で逮捕されたときに生じるデメリット
- ストーカー規制法違反を指摘されたときに弁護士へ相談するメリット
冷静さを失って恋慕の感情に我を忘れると、相手の立場や気持ちを尊重できずに不適切な行動に及んでしまう危険性があります。
ストーカー規制法の内容を適切に理解したうえで、自分の普段の行いを冷静に省みて、必要であれば弁護士に相談のうえ、行政処分や禁止処分に対して適切な防御活動を展開してもらいましょう。
目次
どこからがストーカー?ストーカー規制法の内容を整理しよう
どこからがストーカーか分からない場合には、ストーカー規制法を参照すれば明確になります。
まずは、ストーカー規制法の禁止行為、成立要件、違反時のペナルティについて、それぞれ具体的に見ていきましょう。
ストーカー規制法で禁止される行為一覧
ストーカー規制法で禁止される行為は、以下3つの概念に分類されます。
- つきまとい等
- 位置情報無承諾取得等
- ストーカー行為
なお、ストーカー規制法では、③ストーカー行為と「①②の行為によって相手方の身体の安全・住居などの平穏や名誉を侵害し、または、相手方の行動の自由が著しく害される不安を覚えさせる行為」を総称して「ストーカー行為等」と呼びます(同法第6条)。
「つきまとい等」とは
つきまとい等とは、「①『特定の者に対する好意の感情(恋愛感情など)・好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的』で、②『特定の者及び当該人物と社会生活において密接な関係を有する者(配偶者・家族・パートナーなど)』に対して、③『本条において規定されるいずれかに該当する行為』をすること」を指します(ストーカー規制法第2条第1項)。
つまり、ストーカー規制法上の「つきまとい等」は、目的・対象者・行為類型の3つの要件で明確に定義されているということです。
たとえば、「距離感が近過ぎてつきまとわれている気がする」などという対象者の曖昧な主観だけでストーカー規制法の処罰対象になるわけではありません。恋愛感情の縺れによって引き起こされるストーカーですが、あくまでも客観的な証拠に基づく主張・立証が重要です。
①「つきまとい等」の目的
「つきまとい等」としてストーカー規制法の処罰対象になる行為は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」によって行われる必要があります。
したがって、恋愛とは無関係な嫌がらせ目的・悪意の目的によるつきまとい等は、ストーカー規制法の処罰対象外と扱われます。
ただし、ストーカー規制法の対象外だからと言って不可罰になるというわけではない点に注意が必要です。たとえば、「他人の進路に立ちふさがる、その身辺に群がって立ち退こうとしない、不安や迷惑を覚えさせるような方法で他人につきまとう(追随等の罪)」ような行為類型に該当すると「拘留または科料(併科あり)」の対象として処罰されることがありますし(軽犯罪法第1条第28号)、各都道府県が制定する迷惑防止条例違反として取り締まり対象になる可能性も否定できません。
②「つきまとい等」の対象
「つきまとい等」の対象者には、「恋愛感情などが向けられる特定の者・その配偶者・直系もしくは同居の親族・その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者」が幅広く含まれます。
「ストーカー」「つきまとい」などの言葉を耳にすると、好きな人に執拗に連絡を取り続けたり尾行をしたりする行動を思い浮かべる人が多いでしょう。確かに、ストーカーやつきまといの対象者の典型例は、「恋愛感情などを向けられる特定の者」です。
しかし、「恋愛感情などを向けられる特定の者以外」に対するつきまとい等であったとしても、「特定の者」に対して効果的に恐怖心などを与えることは可能なのが実情です。たとえば、配偶者や恋人、子どもなど、「特定の者」との関係性が深い人物に対する嫌がらせ行為が挙げられます。このような本人以外の人物に対するつきまとい等をストーカー規制法の処罰対象から外す合理的な理由は存在しないでしょう。
したがって、恋愛感情を向ける人物以外に対する「つきまとい等」であったとしても、当該人物との間に密接な関係性が存在する場合には、ストーカー規制法による厳しい処分の対象として扱われると考えられます。
③「つきまとい等」の行為一覧
つきまとい等に該当する行為類型及び具体例は以下の通りです(ストーカー規制法第2条第1項各号)。
- つきまとう、待ち伏せる、立ちふさがる、見張りをする、押し掛ける、住居等の付近をうろつく
- 監視していると告げる、監視されていることを知り得る状態にする
- 面会や交際、その他義務のないことを要求する(復縁要求、プレゼントの受け取り強要など)
- 著しく粗野または乱暴な言動をする(暴言を吐く、自宅の前で執拗にクラクションを鳴らすなど)
- 無言電話、拒絶されたのに連続で電話・FAX・電子メール・SNSメッセージ・文書などを送信する
- 汚物や動物の死体など、著しく不快で嫌悪感を抱くようなものを送りつける
- 名誉毀損や誹謗中傷に該当する事項を告げる(メール・文書・SNSの投稿など)
- 性的羞恥心を侵害する(わいせつな写真や動画の送信、文書やメールなどで卑猥な発言を行うなど)
「位置情報無承諾取得等」とは
位置情報無承諾取得等とは、「①『特定の者に対する好意の感情(恋愛感情など)・好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的』で、②『特定の者及び当該人物と社会生活において密接な関係を有する者(配偶者・家族・パートナーなど)』に対して、③『本条において規定されるいずれかに該当する行為』をすること」を指します(ストーカー規制法第2条第3項)。
目的(①)及び対象者(②)の意味するところは「つきまとい等」と同じなので上記をご参照ください。
そして、③に該当する行為一覧は以下の通りです。
- 承諾を得ずに、GPS機器やスマホアプリケーション等を利用して位置情報を取得する
- 承諾を得ずにGPS機器を取り付ける、位置情報を取得できる物を手渡す
たとえば、対象者の鞄のなかにGPS機器を忍び入れたり、対象者のスマホを勝手に操作して位置情報を入手できるアプリをインストールする行為などが挙げられます。
「ストーカー行為」とは
ストーカー行為とは、「同一の者に対して、『つきまとい等』または『位置情報無承諾取得等』を反復してすること」です(ストーカー規制法第2条第4項)。
ただし、ストーカー行為の対象となる「つきまとい等」のうち、待ち伏せ・監視・面会強要・粗暴な言動・電子メールの送信については、身体の安全・住居等の平穏や名誉が侵害されたり、行動の自由が著しく害されたりする不安を覚えさせる方法によって行われるものに限られます。
ストーカー行為に該当するには、「つきまとい等」が同一人物に対して反復して行われることが必要とされます。つまり、1回限りのつきまとい等だけでは「ストーカー行為」としての処罰を受けることはないということです。たとえば、振られた恋人と話し合いの機会を作るために1回だけ自宅前で帰宅を待っていたようなケースは「ストーカー行為」ではありません。
ストーカー行為をしたときの罰則
まず、ストーカー行為をした場合には、「1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑」が下されます(ストーカー規制法第18条)。
次に、後述の禁止命令等に違反してストーカー行為に及んだ場合、禁止命令等に違反してつきまとい等・位置情報無承諾取得等をすることによってストーカー行為をした場合には、「2年以下の懲役刑または200万円以下の罰金刑」という法定刑が設定されています(同法第19条)。
さらに、禁止命令等に違反しただけでも、「6カ月以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」の処罰対象です(同法第20条)。
2016年の法改正によって、これらはすべて非親告罪として扱われます。つまり、ストーカー被害者からの刑事告訴がなくても、警察がストーカー事件を認知した場合には、それだけで逮捕されるリスクに晒されるということです。
ただし、非親告罪になったからといって、被害者の処罰感情が一切刑事処分の内容に反映されないというわけではありません。被害者との間で示談が成立していれば、有利な情状要素として扱われるのは間違いないので、警察の捜査が及んだ場合でも、弁護士に依頼をして被害者との間で話し合いを進めるべきでしょう。
ストーカー行為をしたときに問われ得るその他の法的責任
ストーカー行為の態様次第では、ストーカー規制法違反以外のさまざまな法的責任を問われる可能性があります。
たとえば、ストーカー対象者のSNSアカウントのパスワード等を取得して乗っ取りをすると、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」違反に問われる可能性があります。不正アクセス罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑」です(同法第3条、第11条)。また、実際にアカウントにログインしなくても、パスワード等の識別符号を取得・保管しただけで「1年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」が科されます(同法第4条、第6条、第12条)。
他にも、ストーカー行為に及んだ際に相手の所有物を壊した場合には「器物損壊罪(3年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料)」、度重なるストーカー行為で相手をPTSDに追い込んでしまった場合や暴力をふるって怪我をさせてしまった場合には「傷害罪(15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑)」、対象者の自宅に勝手に忍び入ってしまった場合には「住居侵入罪(3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑)」など、刑法犯として処罰される可能性も否定できません。
忘れてはいけないのが、ストーカー被害者に対する民事責任です。ストーカー行為の態様次第ですが、30万円~200万円程度の幅で慰謝料を支払う必要に迫られるでしょう。
どこからがストーカー行為?恋愛的アプローチの違い
ストーカー規制法の処罰対象になるか否かは事案の状況を考慮して個別具体的に判断されます。
そこで、ここからは、ストーカーまがいの行動として処罰対象になる危険行為と合法的な恋愛的アプローチの境界線について、状況別に解説します。
どこからが社内ストーカー?
ストーカー行為の大前提として挙げられるポイントが「相手が嫌がっているか否か」という点です。同僚や部下から「やめて欲しい」「迷惑に感じている」などの拒絶反応を示している場合、その気持ちを無視してさらに当該行為に及んだ時点でストーカー行為と認定される可能性が高まるでしょう。
たとえば、仕事中・勤務時間外問わず、執拗にメールや社内チャットで個別メッセージを送りつける行為を相手が迷惑に感じているのなら、それは立派な「社内ストーカー」です。
また、不必要なボディータッチは、セクハラ・パワハラ行為として社内規則違反・民事責任の対象になるだけではなく、状況次第ではストーカー行為として刑事処罰の対象になることもあり得ます。
さらに、出社・退社のタイミングで待ち伏せをする、わざと同じ電車・バスに乗り合わせる、ターゲットの最寄り駅を相手に分かるように徘徊する、社内のデータベースから個人情報を勝手に流用するなどの行為も、相手方が拒絶反応を示した時点で明確なストーカー行為として認定されるでしょう。
したがって、同僚と距離を縮めたい一心で積極的なアプローチを繰り返している場合でも、相手が嫌がっている素振りを見せた段階で自重するべきだと考えられます。
どこからがネットストーカー?
SNSの普及によって「ネットストーカー」の被害も深刻化しているのが実情です。インターネットサービスを利用して直接的なストーキングに及ぶ場合だけではなく、SNS上だけで嫌がらせ行為を繰り返すだけでも、ストーカー規制法の処罰対象になる可能性があります。
たとえば、相手が拒絶しているのにしつこくダイレクトメッセージやリプライを送り続ける行為はまさにストーカー行為です。
また、相手からアカウントをブロックされているにもかかわらず、わざわざ別のアカウントから接触を試みる行為も悪質なストーカーだと評価されるでしょう。
さらに、SNSでターゲットの名誉棄損・誹謗中傷を繰り返す、個人情報を暴露する、なりすましをする、ターゲットの交友関係に接触する、SNSから住所・勤務先を割り出して実際に接触を図るなど、幅広い行為がネットストーカーに位置付けられます。
多くの人がSNSを利用する昨今では、「ネット上で悪ふざけをしているだけ」という認識でも相手の尊厳をおおいに傷つける可能性が否定できません。WEB上での過剰で悪質な行為はストーカー規制法違反として刑罰の対象になり得るハイリスクの行為なので、ユーザーが嫌な気持ちにならないようなネットの使い方を意識するべきでしょう。
どこからが元交際相手・配偶者のストーカー?
元々恋愛関係にあった人物による行為がエスカレートしてストーカーに発展するケースも少なくありません。
たとえば、破局したのに合鍵を使って勝手に自宅に入り込む、告げられてもいない引越し先で待ち伏せをする、養育費などの関係でブロックできない状況を悪用してラインを送り続ける、ターゲットの新しい恋人に対して嫌がらせをするなどの行為は、すべてストーカー行為として刑事罰の対象です。
特に、過去に密接な関係性にあった場合には、破局後のストーカー行為が悪質化しやすい傾向にあります。付き合っていたときの思い出を美化してしまう、別れ話がこじれた、破局後の生活がうまくいかないなど、いろいろな事情はあるかと思いますが、双方が建設的な人生を歩むためにも、過去の関係性に対して執着を続けるのは避けるべきでしょう。
ストーカーが逮捕されるまでの流れ
ストーカー被害者が警察に被害を申告した場合には、以下の流れで処分・処罰が下されるのが一般的です。
- 警告
- 禁止命令
- 逮捕
- 検察官送致
- 起訴・不起訴の決定
- 刑事裁判
ストーカー規制法違反の行為が認められる場合でも、いきなり逮捕される可能性は高くありません。警告・禁止命令の手順を踏んでから、それでもストーカー行為が止まないときに逮捕手続きに移行するのが一般的な流れです。
ただし、ストーカーの行為が極めて悪質で、警告・禁止命令の手順を踏んでいる余裕がないと判断されると、いきなり逮捕手続きに移行する可能性も否定できません。
ストーカー規制法違反で逮捕されたときのデメリットを踏まえると、被害者が嫌な素振りを見せた段階や、警告・禁止命令が下された段階で、自分の行為を省みて被害者との間で示談成立を目指すのがポイントです。「警告・禁止命令なら大きなペナルティがないから大丈夫」と安易に考えるのではなく、すみやかに弁護士に相談のうえ、逮捕回避に向けて適切な防御方法を展開してもらいましょう。
警告
①「つきまとい等・位置情報無承諾取得等を止めさせるために警告を出して欲しい」とストーカー被害者から申し出があった場合において、②つきまとい等・位置情報無承諾取得等によって、被害者の身体の安全・住居等の平穏・名誉が侵害されたり、行動の自由が著しく害されるのではないかと不安を覚えるような違反状況があり、かつ、③つきまとい等の行為が反復して行われる危険性があると認められるときには、警察によって警告が行われます(ストーカー規制法第4条第1項)。
警察が警告を行うときには「警告書」が交付されるのが一般的ですが、被害状況などを総合的に考慮して書面を用意する時間がないときには口頭で実施されることもあります(ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則第2条)。警告書には、警告の内容・警告の理由が細かく記載されます。
警告自体に法的拘束力は存在しませんが、この時点で警察がストーカー行為・犯行を認知しているのは事実です。警告が行われたタイミングでストーカー行為をやめなければ禁止命令・逮捕手続きへと移行する可能性が高まるので、どのような事情・経緯があったとしても、警告時点で弁護士に相談をして民事的解決を目指すべきでしょう。
禁止命令
つきまとい等や位置情報無承諾取得等によって被害者にさまざまな生活上の不安を与えた者が、今後更に反復して当該行為をするおそれがあると認められるときには、公安委員会によって禁止命令が下されます(ストーカー規制法第5条第1項)。
禁止命令はストーカー被害者からの申し出によって行われるのが一般的ですが、被害者からの申立てがなくても職権で実施されることもあります。
禁止命令が下される前に、ストーカー行為をした疑いがある人物に対して聴聞・弁明の機会が付与されるのが原則ですが(同法第5条第2項)、ストーカー被害者の身体の安全が害されることを防止するために緊急の必要があると認められるときには、先に禁止命令が下されて聴聞・弁明の機会は事後的に付与されるというパターンも多いです(同法第5条第3項)。
禁止命令に伴う聴聞・弁明の機会を通じて、ストーカー行為の疑いをかけられている行為がなぜ駄目なのか、今後はどのような対応をするべきかなどが伝えられます。禁止命令に対する違反は刑事処罰の対象になるので、重い刑事処罰に発展するのを回避したいなら、禁止命令の内容は絶対に遵守するべきでしょう。
逮捕
ストーカー行為や禁止命令違反などのストーカー規制法違反が存在する場合や、ストーカー行為に伴って器物損壊罪・傷害罪などの容疑が固まった場合には、警察によって逮捕されることもあります。ストーカー規制法違反の場合には逮捕手続きの前段階として警告・禁止処分がはさまるのが一般的ですが、ストーカー行為が悪質で切迫した被害のおそれがあるときにはいきなり逮捕手続きに移行する可能性も否定できません。
ストーカー行為を理由として逮捕されるときには、以下3つのパターンで警察に身柄が押さえられることが多いです。
- ストーカー行為の証拠に基づく通常逮捕
- ストーカー行為等の現場で現行犯逮捕
- 任意の出頭要請を経た後、通常逮捕手続きに移行
ストーカー規制法違反等を理由として警察に逮捕されると、警察署において48時間を上限とする取調べが実施されます(刑事訴訟法第203条第1項)。
罪証隠滅や逃亡のおそれがないと判断されると「留置の必要がない」として身柄が解放されるのが原則です。しかし、ストーカー規制法違反で逮捕された場合には、「警告・禁止命令を下された経緯があるのにこれに違反してストーカー行為に及んでいる」という悪質性が認められるため、微罪処分や在宅事件として扱われる可能性は低いでしょう。
したがって、身柄拘束の長期化を避けたいなら、逮捕される前にストーカー行為をやめて逮捕自体を回避するか、逮捕された後すぐに被害者との間で示談交渉をスタートして被害届を取り下げてもらうしかないと考えられます。弁護士に相談すれば身柄拘束中の被疑者に代わって被害者との間で話し合いを進めてくれるでしょう。
検察官送致
ストーカー規制法違反等で警察に逮捕された後は、事件についての最終的な判断を求めるために、警察から検察に身柄が送致されます。
検察段階で実施される取調べは24時間以内が原則ですが(刑事訴訟法第205条第1項)、取調べの必要があると判断されるケースでは、勾留請求によって例外的に10日間~20日間身柄拘束期間が延長されます(同法第208条)。
たとえば、ストーカー行為について否認している場合、捜査機関に露見していない複数のストーキング行為をしている可能性がある場合などでは、被疑者からストーカー事件について供述を引き出す必要があるので勾留請求される可能性が高いでしょう。
身柄拘束期間が長期化すると日常生活に生じる悪影響がどんどん大きくなるので、弁護士との間で相談をして、取調べへの向き合い方や供述方針を早期に決定するべきだと考えられます。
起訴・不起訴の決定
ストーカー事件を送致された検察官は、身柄拘束期限が到来するまでに起訴処分・不起訴処分を決定します。
起訴処分とは、ストーカー事件について刑事裁判にかける旨の意思表示のことです。これに対して、不起訴処分とは、ストーカー事件についての刑事手続きを裁判にかけずに終了させる旨の意思表示を指します。
ストーカー規制法違反で逮捕されるようなケースでは、すでに警告・禁止命令に違反している状況です。本来であれば、反省の態度を丁寧に示すなどの工夫を凝らして起訴猶予処分を目指すべきところですが、ストーカー規制法違反で送検された時点で不起訴処分を獲得するのは難しいのが実情です。
そのため、ストーカー規制法違反の容疑で逮捕・勾留された場合には、起訴処分が下されることを覚悟したうえで、できるだけ身柄拘束期間を短縮化することを第一目標として防御活動を展開するべきでしょう。
刑事裁判
ストーカー事件に対して起訴処分が下された場合には、公開の刑事裁判にかけられるのが原則です。ただし、検察官が罰金刑を求刑するつもりで、最終的に罰金刑が確定する公算が大きいケースでは、略式手続きを選択することで公開の刑事裁判を回避できます。
日本の刑事裁判の有罪率は99%とも言われているので、刑事裁判にかけられた時点(検察官による起訴処分が下された時点)で前科がつくことが確定します。つまり、ストーカー規制法違反の容疑をかけられているケースで前科を回避したいなら、警告・禁止処分の段階でストーカー行為をやめて被害者との間で示談をまとめるのが必須だということです。
したがって、起訴処分が下されて刑事裁判にかけられた場合には、実刑判決を回避すること(執行猶予付き判決や罰金刑を獲得すること)を目標として防御活動を展開するべきだと考えられます。弁護士に相談すれば、ストーカー行為に及んだ経緯や動機、具体的な再犯防止策などを主張立証してくれるでしょう。
ストーカーで逮捕されたときに生じるデメリット4つ
ストーカー規制法違反などで逮捕されたときには、以下4つのデメリットが生じる可能性が高いです。
- 前科がつくことで今後の生活にさまざまな悪影響が生じる
- 実名報道などが原因で社会的信用を失う
- 現在の勤務先から何かしらの懲戒処分を下される
- 在籍中の学校から何かしらの処分を下される
前科がつく
ストーカー規制法違反で逮捕されると、起訴処分が下されて、結果として「前科」がつく可能性が高いです。
そして、前科がつくと、以下のようなデメリットが日常生活に生じます。
- 履歴書の賞罰欄に記載する必要があるので就職活動・転職活動が難しくなる
- 逮捕歴や前科は法定離婚事由に該当するので婚姻関係が破綻する(民法第770条第1項第5号)
- 士業、金融業、公務員など、仕事によっては就業が制限される職種がある
- パスポートやビザ発給が制限されるので海外渡航できなくなる
- 前科があるだけで再犯時に刑事処分が重くなる可能性が高い
たとえば、ストーカー規制法違反で逮捕・勾留されると身柄拘束期間が長期化するので、現在の勤務先に逮捕された事実がバレる可能性が高いです。過去の懲戒処分歴や勤務態度などを総合的に考慮された結果、懲戒解雇処分が下されると、これからの生活のために再就職活動をスタートする必要に迫られます。しかし、前科があることを秘匿したまま就職活動をすることは経歴詐称になるので、就職活動・転職活動はかなり難航しかねません。
このように、前科がつくと、その後の人生の長期にわたってさまざまなリスクに晒されることになります。したがって、ストーカー規制法の疑いをかけられたときには、「逮捕されないような防御活動」を弁護士に展開してもらいましょう。
社会的信用を失う
ストーカー規制法違反は話題性のある事件なので、事件態様が深刻だと実名報道される可能性があります。そして、実名報道されるとテレビだけではなくネットニュースにも載ることになるので、未来永劫Web上にデータが残り続けます。たとえば、会社の同僚や知人に氏名を検索されるだけで、過去のストーカー事件が明るみに出るでしょう。
また、社内ストーカーのような事件では、仮に逮捕を免れたとしても職場での評判が落ちるのは避けられません。当事者間で話し合いが済んでいたとしても人事評価が落ちるのはやむを得ないので、昇進・昇格は期待できないでしょう。仕事をやりにくくなる結果、自主退職を迫られることもあるはずです。
会社から処分を下される
ストーカー規制法違反で逮捕された場合、現在の勤務先に逮捕された事実や有罪判決が下された事実がバレる可能性が高いです。
たとえば、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束されると、欠勤理由を自分の口で説明できないまま会社を休まざるを得ません。また、社内ストーカー事件の場合には、職場に警察がやってきて事情聴取や捜索・差押えが実施される可能性もあります。
このような経緯でストーカー事件が会社にバレると、就業規則にしたがって懲戒処分が下されるでしょう。ストーカー規制法違反は殺人罪などと比較すると軽微な犯罪類型に位置付けられるかもしれませんが、コンプライアンス意識が高まっている昨今においてストーカーのような性犯罪に対しては厳しい目が向けられることが多いので、減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇などの重い処分もあり得ます。
学校から処分を下される
ストーカー規制法違反で逮捕されたことが学校にバレると、学則・校則にしたがって何かしらの処分が下される可能性が高いです。
たとえば、厳しい学校であれば犯罪の種別を問わず退学処分が下されることもあり得ますし、反省の態度や被害者との示談が成立していることを考慮して訓告処分・停学処分に留まることもあるでしょう。
なお、警告や禁止処分が下された段階や、警察に逮捕されてすぐの時点で弁護士に相談すれば、警察から学校に連絡しない旨の申し入れをすることも可能です。もちろん、校内ストーカーのようなケースでは学校への連絡は避けて通れませんが、状況次第では学校にバレずに刑事手続き終結を目指せる場合もあるので、学校生活への悪影響を避けたいならかならず弁護士までご相談ください。
ストーカー行為で警察から連絡があったときに弁護士に相談するメリット3つ
つきまとい等やストーカー行為などが原因で警察から呼び出しがかかったり、好意を寄せている人から明示的な拒絶反応を示されたりして困惑しているときには、弁護士に相談するのがおすすめです。
なぜなら、刑事弁護やストーカー事件の実績豊富な弁護士に相談することで以下3点のメリットが得られるからです。
- ストーカー被害者との間で早期に示談を成立させてくれる
- 恋愛のつもりでもどこからがストーカー規制法違反になるかを教えてくれる
- ストーカーの冤罪をかけられたときは法律論を駆使して守ってくれる
ストーカー被害者との間で示談交渉を進めてくれる
弁護士に相談すれば、ストーカー事件について刑事手続きがどこまで進んでいたとしても、すみやかに被害者との間で示談交渉を開始して軽い処分獲得に向けて尽力してくれます。
そもそも、ストーカー事案のようなセンシティブな事件では、ストーカー加害者本人が被害者と直接話し合いの場を設けるのは現実的ではありません。なぜなら、被害者側は相当の恐怖心や怒りを抱いていることが多いため、加害者本人が直接示談交渉を申し出ても拒絶される可能性が高いですし、仮に示談交渉自体は受け入れてくれたとしても、話し合っている途中でヒートアップして交渉が決裂するのが目に見えているからです。
これに対して、刑事事件の実績豊富な弁護士が示談交渉を担当すれば、頑なに示談交渉を拒否している被害者にも丁寧かつ粘り強くアプローチを続けて、冷静な話し合いをベースに現実的なラインで示談を成立させてくれるでしょう。
そして、ストーカー被害者との間で民事的な解決が済んでいれば、刑事処分の回避・軽減を期待できます。たとえば、警告や禁止命令の申し出をやめてもらえれば捜査機関に「前歴」が残ることもありません。また、被害届の取り下げによって逮捕・勾留による身柄拘束が解かれる可能性も高まるでしょう。さらに、不起訴処分や執行猶予付き判決獲得に向けて前進することになります。
これらの現実的なメリットを前提に考えると、ストーカーの嫌疑をかけられた場合には、警察から連絡が来る前(警告や禁止命令が下される前)の段階で弁護士に相談しておくのが理想的な防御活動だと考えられます。弁護士に相談するタイミングが早いほど防御活動の選択肢も多いですし、ストーカー被害の状況も相対的に軽微なので相手方との合意を形成しやすいでしょう。
ストーカーまがいの行動がどこからダメなのかを教えてくれる
弁護士に相談すれば、「どこまでが恋愛的アプローチとして合法で、どこからがストーカー行為として処罰対象になるのか」を、実際の状況に当てはめながら解説してくれます。
たとえば、弁護士に相談すれば、実際のラインやTwitterでのやり取りの様子などをチェックしてもらって、自分の行為がストーカーに該当するのか否かを判断してもらえます。被害者がどのようなポイントを嫌がっているのかを具体的に指摘したうえで、刑事処罰の対象行為がある場合には丁寧に諫めてくれるので、今後の接し方や対応方法の指針作りにも役立つでしょう。
そもそも、「執拗なメッセージの送信はストーカー規制法に抵触する」「相手が拒絶反応を示していたら刑事訴追されるリスクがある」というルールを理解したとしても、冷静さを欠いてストーカーまがいの行動をとってしまっている人自身では自分の行為を客観視できず、「自分の行為は恋愛的アプローチとして許容されるものだ」と誤解をしてストーカー行為をエスカレートさせてしまうこともあるでしょう。
そして、「ストーカーをしているつもりはなかった」という言い訳はストーカー規制法違反の言い訳として通用しないので、検挙される前に自分の行動を改めるのがポイントです。弁護士のアドバイスを参考に、警告や禁止命令が下される前に自制心を働かせて、「一方的な恋愛感情で身を滅ぼす」という結果を回避してください。
ストーカーが冤罪のときには依頼者をしっかりと守ってくれる
恋愛感情や怨恨感情などのプライベートな関係性が前提にあるストーカー事件では、冤罪が疑われる可能性が高い事案も少なくありません。
たとえば、交際中に恋人に貸していたお金の返済を求めて繰り返し連絡を入れていたところ、借金を踏み倒したいと考える相手方が事実を捻じ曲げてあなたをストーカーとして警察に刑事告訴するようなケースが考えられます。
このような一方当事者からすると明らかに冤罪のケースでも、相手方が証拠や証言を捏造して警察にストーカー被害を申告した場合には、被害者側の申し出を全面的に信じたうえで警告・禁止命令が下されることも充分あり得ます。理不尽な形で前歴・前科がつくのを回避するには、借用書や金銭消費貸借を示すメールのやり取り、預貯金口座の通帳などを証拠として提出しなければいけません。
弁護士は依頼人の利益を最大化することを職責としているので、「ストーカーの言いがかりをつけられて困っている」という状況の依頼者にも手を差し伸べてくれます。ストーカーの難癖をつけられて泣き寝入りを強いられるような理不尽は弁護士に相談すれば回避できるでしょう。
ストーカーまがいの行動で逮捕されるか不安なときは早期に弁護士へ相談しよう
「どこからがストーカーになるのか分からない」「好きな人に積極的にアプローチしたらストーカー呼ばわりされた」などの不安・疑問を抱えているときには弁護士に相談するとスムーズです。
弁護士に相談するだけでストーカー行為への該当性が分かるので、人間関係に亀裂が入ったり刑事訴追されたりするリスクを事前に回避できるでしょう。
ストーカー行為によって重大犯罪が引き起こされた昨今の情勢を踏まえると、今後、捜査機関はストーカー行為に対して積極的に介入する可能性が高いと考えられます。ラインを少し超えただけのアプローチでも前科がつく危険性が生じるので、実生活への悪影響に対するリスクヘッジのために弁護士を有効活用してください。