痴漢は犯行現場で現行犯逮捕されることが多い犯罪類型ですが、現行犯逮捕以外の方法で警察から追及されることも少なくありません。
たとえば、防犯カメラ映像や目撃者の証言、交通系ICカードの利用履歴などから痴漢犯人の身元は簡単に特定されるので、被害届や告訴状が受理された場合には、過去の痴漢行為について後日逮捕されるでしょう。
そこで今回は、過去の痴漢行為について後日逮捕されるか不安を抱えている人や、ご家族が痴漢で現行犯逮捕された方のために、以下6点について分かりやすく解説します。
- 痴漢が逮捕されるときの犯罪類型
- 痴漢が現行犯逮捕されるときの要件
- 痴漢が現行犯逮捕以外の方法で刑事訴追される要件
- 痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕された後の刑事手続きの流れ
- 痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕されたときに生じるデメリット
- 痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット
痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕されたまま捜査機関主導で刑事手続きが進められてしまうと、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束されるだけではなく、有罪判決によって今後の社会生活にさまざまな悪影響が生じるリスクに晒されます。
できるだけ早いタイミングで刑事事件に強い弁護士にご相談のうえ、被害者との示談交渉や身柄拘束短縮化に向けた弁護活動に尽力してもらいましょう。
目次
痴漢が現行犯逮捕・通常逮捕されるときの犯罪類型
痴漢は、以下の犯罪類型に該当することを理由に現行犯逮捕・後日逮捕されます。
- 迷惑防止条例違反
- 強制わいせつ罪
- 痴漢が逮捕されるときに問われ得るその他の犯罪類型
迷惑防止条例違反
痴漢は各自治体が定める迷惑防止条例違反を理由に現行犯逮捕・通常逮捕されることが多いです。
東京都の迷惑防止条例では、「正当な理由なく人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為であって、公共の場所・公共の乗り物において、直接または衣服その他の身に着ける物の上から人の身体に触れること」を処罰対象にしています(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条第1項第1号)。
たとえば、迷惑防止条例違反で逮捕される痴漢の行為類型は以下の通りです。
- 電車・バスや駅のホームですれ違う際などに衣服の上から胸・尻・太ももなどを触る
- 満員の車内などで過度に密着する、下半身を押し付ける
- 電車・バスなどの車内で衣服のボタン・下着のホックを外す
東京都の迷惑防止条例では、痴漢行為に対する法定刑は「6カ月以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」と定められています(同法第8条第1項第2号)。ただし、自治体ごとに迷惑防止条例の内容・法定刑は異なるので、詳しくは弁護士までご相談ください。
強制わいせつ罪
悪質な痴漢行為に及んだ場合には、強制わいせつ罪で逮捕される可能性も生じます。
強制わいせつ罪とは、「13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をしたとき」「13未満の者に対してわいせつな行為をしたとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第176条)。強制わいせつ罪の法定刑は「6カ月以上10年以下の懲役刑」と定められており、未遂犯も処罰されます(同法第180条)。
迷惑防止条例違反で逮捕されるケースとは異なり、痴漢が強制わいせつ罪に該当するのは以下のような悪質な行為に及んだ場合が想定されています。
- 痴漢被害者の意に反して無理矢理衣服を脱がせる
- 痴漢被害者の意に反して無理矢理キスをする
- 衣服や下着のなかに手を滑り込ませて直接乳房や陰部に触れる
- 痴漢被害者の手を掴んで自分の陰部に触れさせる
【注意!】痴漢行為は態様次第でさまざまな犯罪類型の容疑をかけられる
痴漢行為の態様や経緯によっては、迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪以外の犯罪類型で現行犯逮捕・通常逮捕される可能性も生じます。
痴漢が器物損壊罪で現行犯逮捕・通常逮捕されるケース
器物損壊罪とは、「他人の物を損壊・傷害したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第261条)。器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑もしくは科料」と定められています。
たとえば、痴漢行為に及んだ際に、被害者の衣服をハサミで切ってしまったり、被害者の衣服や所持品に体液をかけたりした場合には、迷惑防止条例違反とは別に器物損壊罪の容疑でも現行犯逮捕・通常逮捕され得るでしょう。
なお、器物損壊罪は親告罪なので、被害者の告訴がなければ公訴提起されません(同法第264条)。したがって、痴漢行為が器物損壊罪でも立件されそうな場合には、被害者との早期の示談成立が重要な意味を有すると言えるでしょう。
痴漢がストーカー規制法違反で現行犯逮捕・通常逮捕されるケース
特定人物をつけ狙って痴漢行為に及んでいる場合には、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」違反で逮捕されるリスクも生じます。
ストーカー規制法違反で逮捕される行為類型及び法定刑は以下の通りです。
- ストーカー行為をした場合(つきまといや待ち伏せを反復して行う場合):1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑
- 禁止命令に違反してストーカー行為等をした場合:2年以下の懲役刑または200万円以下の罰金刑
- 禁止命令等に違反した場合:6カ月以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑
痴漢が盗撮行為について現行犯逮捕・通常逮捕されるケース
痴漢行為時に被害者の身体に触れるだけではなく撮影行為にも及んでいた場合には、各自治体が定める迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反で逮捕されます。
また、痴漢行為時に児童の裸・半裸の様子を記録していたり、自宅にこれらのデータを所持していたりする場合には、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ規制法)に抵触する可能性も否定できません。
性犯罪厳罰化の流れにあって常習性を疑わせるような事情が認められるとかなり厳しい刑事処罰が下される可能性が高いので、現行犯逮捕された場合や後日逮捕の不安に晒されている場合には、できるだけ早いタイミングで性犯罪弁護に強い専門家に相談することをおすすめします。
痴漢が建造物等侵入罪で現行犯逮捕・通常逮捕されるケース
痴漢をする目的で駅構内やショッピングモールなどに侵入した場合、建造物等侵入罪で逮捕される可能性も生じます。
建造物等侵入罪とは、「正当な理由がないのに、人の住居や看守する邸宅、建造物などに侵入したとき」に成立する犯罪類型のことです(刑法第130条前段)。建造物等侵入罪の法定刑は、「3年以下の懲役刑または10万円以下の罰金刑」と定められています。
たとえば、駅構内は電車利用客が立ち入ることは認められていますが、痴漢目的での侵入は明らかに駅の管理権者の意思に反する行為です。そのため、実際に痴漢行為に及ばなくても、痴漢目的で駅構内に立ち入った時点で建造物等侵入罪は既遂に達すると考えられます。
痴漢が現行犯逮捕されるときの要件とポイント
現行犯逮捕とは、文字通り「現行犯人」に対する逮捕処分のことです。
まずは、痴漢が現行犯逮捕される場面について解説します。
現行犯人であること
現行犯逮捕の対象は、「現行犯人」です。
現行犯人とは、「現に罪を行い、または、現に罪を行い終わった者」のことを意味します(刑事訴訟法第212条第1項)。
たとえば、電車内で衣服の上から被害者の臀部を撫でまわしている最中に「痴漢です!」と手を掴まれたケースでは、「現に迷惑防止条例違反に該当する痴漢行為を行っている」ことを理由に、現行犯逮捕の対象になるでしょう。
準現行犯人であること
現行犯逮捕の対象は、「準現行犯人」にまで拡張されています。つまり、「現行犯人」の要件を満たさなくても「準現行犯人」への該当性が認められる場合には、現行犯逮捕処分の対象になるということです。
準現行犯人とは、「現に罪を行い終わってから間がないと明らかに認められ、かつ、以下4つのいずれかの要素を満たす者」のことを意味します(刑事訴訟法第212条第2項)。
- 痴漢の犯人として追呼されているとき
- 贓物や痴漢行為に使用したと思われる兇器などの証拠品等を所持しているとき
- 身体や被服に痴漢行為に及んだ顕著な証跡があるとき
- 痴漢の犯人だと誰何されて逃走しようとするとき
たとえば、電車内で痴漢行為に及んでいた犯人が駅に停車してドアが開いたタイミングで逃走を図ったが、「痴漢です!誰か捕まえてください!」と被害者や目撃者に追跡され続けて、犯行現場から数十メートル離れた駅構内で駅員に身柄を確保されたようなケースでは、「準現行犯人」に該当することを理由に現行犯逮捕されるでしょう。
現行犯逮捕は令状主義の例外
現行犯逮捕は「逮捕状なし」で実施できます(刑事訴訟法第213条)。
そもそも、逮捕処分は被疑者の身体の自由・行動の自由を大きく制限する「強制処分」に該当します。そのため、捜査機関が逮捕行為を行うには、原則として裁判所の事前審査を受けて逮捕状の発付を受けなければいけません(日本国憲法第33条)。これは「令状主義」と呼ばれます。令状主義とは、「逮捕・差押えなどの最も人権侵害の危険性を有する強制処分について、捜査機関の判断だけでこれらの処分ができるのではなく、原則として、裁判官の事前判断を要求する制度」のことです。
ただし、現行犯逮捕は令状主義の例外に位置付けられている点に注意が必要です。なぜなら、現行犯逮捕はまさに捜査機関などの逮捕行為者の目の前で違法行為が行われている状況で実施されるものなので、裁判官の事前審査を要求する時間的な余裕もなければ、冤罪のリスクも存在しないからです。
したがって、令状主義の例外に位置付けられる現行犯逮捕は、逮捕状なしで実施できるとされています。
現行犯逮捕は誰でもできる
通常逮捕や緊急逮捕とは異なり、現行犯逮捕は誰でも実施できます(刑事訴訟法第213条)。
たとえば、検察官・検察事務官・司法警察職員・司法巡査だけではなく、痴漢被害者本人や痴漢現場の目撃者、誰何されて逃走中の痴漢と対峙することになった第三者など、一般私人にも現行犯逮捕の権限が与えられています。
なお、検察官・検察事務官・司法警察職員以外の人物が痴漢を現行犯逮捕した場合には、直ちに犯人を地方検察庁・区検察庁の検察官または司法警察職員に引き渡さなければいけません(同法第214条)。
痴漢が現行犯以外に通常逮捕されるときの要件とポイント
痴漢の犯行現場を押さえられると現行犯逮捕をきっかけに刑事手続きがスタートしますが、痴漢の現場から無事に逃走したとしても、過去の痴漢行為が捜査機関に発覚して通常逮捕(後日逮捕)されるケースも少なくありません。
通常逮捕とは、「裁判所が事前に発付する逮捕状に基づいて実施される逮捕処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。
ここからは痴漢が通常逮捕される場面について解説します。
通常逮捕の要件
通常逮捕の要件は以下2点です(刑事訴訟規則第143条)。
- 逮捕の理由
- 逮捕の必要性
まず、裁判官が逮捕状を発付するのは「被害者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)」があるときに限られます。捜査機関が逮捕状を請求する段階で、過去の痴漢行為を証明する資料(痴漢行為を録画した動画、目撃者の証言等)が裁判所に提出されるのが一般的です。
次に、通常逮捕の2つ目の要件は「逮捕の必要性」です。「逮捕の必要性」とは、「逃亡及び証拠隠滅のおそれ」を意味します。たとえば、痴漢犯人が住所不定・無職の場合、痴漢行為時の動画等を自宅PCに保管している場合などでは、逮捕の必要性は高いと判断されるでしょう。
なお、逮捕の理由・逮捕の必要性があるときでも、30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合、または、正当な理由がなく任意の出頭要請に応じない場合にしか逮捕状は発付されません(刑事訴訟法第199条第1項但書)。
「痴漢は現行犯以外逮捕されない」と言われる理由
痴漢は通常逮捕でも検挙されますが、そのような現実があるにもかかわらず、「痴漢は現行犯以外では捕まらない」という間違った認識が強いです。
なぜなら、痴漢を現行犯で逮捕する場面が報道番組やYouTubeチャンネル・SNS等で注目を集める機会が多く、その反面、捜査員が逮捕状を持参して痴漢犯人の自宅まで検挙に行く様子が話題になることは少ないからです。
このように、痴漢が現行犯逮捕される場面に触れる機会が世間一般に晒される機会が圧倒的に多いため、「痴漢は現行犯逮捕だけで後日逮捕されることはない」という誤解が広がっていると考えられます。
痴漢が後日逮捕される理由
とはいえ、公共の場所で多数人が行き交う状況で及んだ過去の痴漢行為が今さら捜査対象になることに疑問を抱く人も少なくはないでしょう。
しかし、以下の理由によって、過去の痴漢行為は簡単に警察にバレますし、痴漢犯人として身元が特定されるのも時間の問題です。
- 痴漢の被害者が被害届・告訴状を提出して警察に痴漢行為が発覚する
- 駅や街中に設置された防犯カメラ映像に痴漢行為や逃走中の姿が記録されている
- 改札やバスの乗降時に使用した交通系ICカードの登録情報から痴漢犯人の身元が特定される
- 痴漢行為を目撃した第三者による供述で似顔絵等が作成される
- 痴漢行為時や逃走中の姿がスマホ動画で撮影されてSNSで拡散される
痴漢は公訴時効完成までいつ後日逮捕されるか分からない
過去の痴漢行為は公訴時効が完成するまで常に通常逮捕されるリスクを抱えたままです。
公訴時効とは、犯罪行為が終わったときから一定期間が経過することによって検察官の公訴提起権を消滅させる制度のことです(刑事訴訟法第253条第1項)。
ただし、公訴時効が完成するまでの期間は、以下のように犯罪類型ごとに異なります(同法第250条第2項各号)。
痴漢が問われる犯罪類型 | 法定刑 |
---|---|
迷惑防止条例違反 | 3年 |
強制わいせつ罪 | 7年 |
器物損壊罪 | 3年 |
建造物等侵入罪 | 3年 |
警察が過去の痴漢行為についてどのようなタイミングで通常逮捕手続きに移行するかは捜査活動の進捗次第です。たとえば、身元特定までの捜査が順調に進めば犯行から数日~数週間程度で逮捕状が発付されることもありますし、その一方で、半年後・1年後になってある日いきなり警察が自宅にやってくることもあるでしょう。
逃亡や証拠隠滅のおそれがなければ任意の出頭要請をかけられる
過去の痴漢行為が警察に発覚したとき、逃亡または証拠隠滅のおそれ(逮捕の必要性)がある場合には逮捕状が請求されて通常逮捕が実施されますが、逃亡または証拠隠滅のおそれがない場合には任意の出頭要請・事情聴取によって刑事手続きがスタートします。
そもそも、警察は痴漢の捜査に必要がある場合には、いつでも被疑者に出頭を求めて取調べを実施することができます(刑事訴訟法第197条第1項、同法第198条第1項)。ある日いきなり警察から電話がかかってきたり、自宅に捜査員がやってきて同行を求められたりします。
また、現行犯逮捕・通常逮捕ではなく、過去の痴漢について任意ベースの出頭要請・事情聴取で刑事手続きが進められている場合には、在宅事件処理も期待できる点がメリットです。在宅事件とは、「捜査段階や刑事裁判の手続きが身柄拘束なしで進められる事件処理類型」のことを意味します。在宅事件になったからと言って不起訴処分や無罪が確定するわけではありませんが、身柄拘束がないので日常生活への悪影響を大幅に軽減できるでしょう。
さらに、逮捕状に基づく通常逮捕とは違って、任意の出頭要請・事情聴取には被疑者を従わせる強制力が存在しません。つまり、警察からの任意の出頭要請を拒絶することや、出頭する日時についてスケジュール調整をすること、取調べを途中で切り上げて好きなタイミングで帰宅することはすべて可能だということです。
痴漢が現行犯逮捕や通常逮捕された後の刑事手続きの流れ
痴漢の容疑で現行犯逮捕や通常逮捕された後の刑事手続きの流れは以下の通りです。
- 容疑がかかっている痴漢行為について警察段階の48時間以内の取調べが実施される
- 痴漢事件が警察から検察に送致される
- 痴漢事件について検察段階の24時間以内の取調べが実施される
- 検察官が痴漢事件について公訴提起するか否かを判断する
- 痴漢事件が公開の刑事裁判にかけられる
痴漢行為について警察段階の取調べが実施される
痴漢の容疑で現行犯逮捕・通常逮捕された後は、警察段階の取調べが実施されます。
警察段階で実施される取調べの時間制限は「48時間以内」です(刑事訴訟法第203条第1項)。タイムリミットが到来するまでは拘置施設に身柄が拘束された状態で強制的に取調べが実施されます。また、警察段階の取調べ中は、自宅に戻ることも、弁護士以外の第三者と面会することもできません。
痴漢事件が送検される
痴漢行為について警察段階の取調べが実施された後は、供述調書や証拠物と合わせて身柄が検察官に送致されます(刑事訴訟法第246条本文)。
なお、一定の軽微な犯罪類型については「微罪処分」によって警察段階で刑事手続き終結を目指せますが、痴漢に関する迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪は微罪処分の対象外です。
痴漢事件について検察段階の取調べが実施される
警察から送検された痴漢事件について、検察段階の取調べが実施されます。
検察段階の取調べの制限時間は「原則24時間以内」です(刑事訴訟法第205条第1項)。警察段階の48時間と合わせて合計72時間以内に、検察官が痴漢事件を刑事裁判にかけるか判断します。
ただし、痴漢事件が以下の要素を有する場合には、検察官による勾留請求によって身柄拘束期間が10日間~20日間の範囲で延長される場合があります(刑事訴訟法第208条各項)。
- 警察段階と検察段階の合計72時間の取調べで痴漢行為について黙秘、否認を貫いている
- 痴漢行為に関する供述内容に矛盾点があったり反省の態度が見られない
- 立件された痴漢事件と同種の犯行について多数の被害届が提出されている
- 痴漢行為だけではなく児童ポルノ製造等の性犯罪関連の余罪の疑いがある
以上を踏まえると、痴漢事件を起こして現行犯逮捕・通常逮捕された場合には、逮捕時点から最長で23日間身柄拘束される可能性があるということです。
身柄拘束期間が長くなるほど社会生活に生じるデメリットは大きくなるので、できるだけ早いタイミングで性犯罪弁護に強い専門家に相談をして、被害者との示談交渉を進めてもらったり、接見機会をフル活用して取調べへの供述方針を固めてもらいましょう。
検察官が痴漢事件を刑事裁判にかけるか判断する
現行犯逮捕・通常逮捕・勾留された被疑者の身柄拘束期限が到来するまでに、検察官が痴漢事件に対する処遇を決定します。検察官が下す処分内容は、起訴処分と不起訴処分に大別されます。
起訴処分とは、「痴漢事件を刑事裁判にかける旨の訴訟行為」のことです。日本の刑事裁判の有罪率は約99%とも言われているので、検察官が起訴処分を下して裁判官の判断を仰ぐことが決まった時点でほぼ有罪が確定します。
これに対して、不起訴処分とは、「痴漢事件を刑事裁判にかけることなく検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の意思表示」のことです。痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕されたとしても前科がつかずに済みます。
なお、痴漢事件を起こして起訴処分が下される場合でも、「100万円以下の罰金刑」が公判で求刑される公算が大きいケースでは、「略式起訴(略式裁判・略式命令・略式手続き)」を利用できます(刑事訴訟法第461条)。公開の刑事裁判を経ずに罰金刑が確定するので、刑事裁判に要するコストが節約されて、社会復帰を目指すタイミングを前倒しできます。
ただし、痴漢事件が強制わいせつ罪で立件された場合は略式手続きの対象外ですし、略式手続きを選択すると裁判官の面前で反論する機会が失われる点に注意が必要です。略式手続きを利用するべきか否かについては、痴漢事件の態様や捜査活動の推移を踏まえたうえで、弁護士に判断してもらうべきでしょう。
痴漢事件が刑事裁判にかけられる
検察官が起訴処分を選択した場合、痴漢事件が公開の刑事裁判にかけられます。
事案の詳細によって異なりますが、刑事裁判の公判期日は起訴処分の1カ月~2カ月後頃に指定されるのが一般的です。公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で結審しますが、冤罪による無罪主張をする場合や錯誤等の法的主張を展開する場合には、複数の公判期日のなかで弁論手続き・証拠調べ手続きが進められます。
痴漢事件が刑事裁判にかけられて有罪判決が下される場合、実刑判決・執行猶予付き判決・罰金刑のいずれかが選択されるのが一般的です。実刑判決が下されると刑期を満了するまで服役しなければいけないので、執行猶予付き判決や罰金刑獲得を目指した防御活動が基本になるでしょう。
痴漢で現行犯逮捕や通常逮捕されたときに弁護士へ相談するメリット6つ
ご家族が痴漢をして現行犯逮捕されてしまった場合や、過去の痴漢行為が原因で通常逮捕されるのではないかと不安を抱えている場合には、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談することを強くおすすめします。
なぜなら、刑事事件や性犯罪弁護を専門に取り扱っている弁護士に相談すれば、以下6点のメリットが得られるからです。
- 弁護士は痴漢被害者との間で示談成立を目指してくれる
- 弁護士は現行犯逮捕・通常逮捕後の身柄拘束期間短縮化を目指してくれる
- 弁護士は痴漢事件の刑事処分を可能な限り軽減するように尽力してくれる
- 弁護士は痴漢で通常逮捕される前に自首するべきか否かを判断してくれる
- 弁護士は痴漢で逮捕された後の刑事責任以外のさまざまなリスクもケアしてくれる
- 弁護士は痴漢犯人が抱える性嗜好障害・強迫的性行動症などにも配慮してくれる
弁護士は痴漢被害者との間で示談交渉を進めてくれる
依頼を受けた弁護士は、痴漢に遭った被害者との間で直ちに示談交渉をスタートし、早期の和解契約締結を目指してくれます。
示談とは、「痴漢の加害者・被害者同士での話し合いによって痴漢事件の解決方法について一定の和解契約を締結すること」です。一般的な示談では、痴漢加害者が被害者に対して一定の示談金(被害弁済及び慰謝料)を支払う代わりに、被害者側は「被害届や告訴状を取り下げること」「捜査機関や裁判所に対して『処罰感情がない』と示すこと」が約束されます。
痴漢事件の当事者間で示談が成立すれば、刑事手続きに以下のようなメリットが生じます。
- 犯人自ら罪を認めて民事的解決を済ませているため、逮捕・勾留による身柄拘束が解かれて在宅事件に切り替わる
- 不起訴処分を獲得しやすくなる
- 執行猶予付き判決や罰金刑を獲得しやすくなる(実刑判決を回避しやすくなる)
ただし、痴漢のような性犯罪の場合、犯人本人や加害者家族が直接話し合いを進めようにも、恐怖心や怒りを抱く被害者がまともに向き合ってくれる可能性は低いです。また、仮に交渉のテーブルを設けることに成功したとしても、示談金を高額に釣り上げられるなどの理不尽を強いられるリスクも否定できません。さらに、性犯罪のようなデリケートな事件では、警察から被害者の連絡先を教えてもらえない可能性が高いでしょう。
したがって、痴漢事件を起こした後、できるだけ早いタイミングで示談交渉をスタートするなら、刑事事件を専門に取り扱っている弁護士の支援は不可欠だと考えられます。弁護士が代理人に就いていれば被害者の連絡先を入手しやすいですし、ノウハウを活かした交渉で相場通りの示談条件で合意に至りやすいでしょう。
弁護士は身柄拘束期間短縮化を目指して尽力してくれる
弁護士は、逮捕・勾留による身柄拘束期間の短縮化を目指して尽力してくれます。
そもそも、痴漢で現行犯逮捕・通常逮捕された場合、最短3日~最長23日の身柄拘束期間を覚悟する必要があります。また、痴漢の余罪が発覚した場合や、器物損壊罪・児童ポルノ製造罪などの容疑で再逮捕・再勾留された場合には、身柄拘束期間が数カ月に及ぶ可能性も否定できません。さらに、検察官が公訴提起した後も起訴後勾留されると、判決確定まで留置所生活が継続します。
仮に不起訴処分や執行猶予付き判決等の有利な刑事処分を獲得できたとしても、身柄拘束期間が長期化するほど社会生活に生じる悪影響は大きくなるので、更生の難易度はかなり高くなってしまいます。
刑事実務に慣れた弁護士なら、以下の防御活動を駆使して身柄拘束期間短縮化を目指し、日常生活に生じる支障を軽減してくれるでしょう。
- 逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを理由に逮捕・勾留処分が不適切だと主張してくれる
- 供述内容にアドバイスを提供して、在宅事件処理されるように工夫してくれる
- 起訴後すみやかに保釈手続きに着手して早期の釈放を実現してくれる
弁護士はできるだけ軽い刑事処分獲得を目指して尽力してくれる
刑事事件の実績豊富な弁護士に相談すれば、以下のように、刑事手続きのステージに応じてできるだけ軽い刑事処分獲得を目指してくれます。
- 痴漢の容疑で逮捕された後は「勾留回避」が目標
- 痴漢の容疑で逮捕・勾留された後は「身柄拘束処分から在宅事件への切り替え」が目標
- 痴漢の容疑で送検された後は「不起訴処分獲得」が目標
- 痴漢の容疑で起訴処分が下された後は「執行猶予付き判決や罰金刑獲得」が目標
これらの目標を達成するには、被害者との間で示談交渉を進めるだけでは足りません。取調べで捜査機関の納得を得られるような供述方針を明確にしたり、「酔っ払ったうえでの犯行で計画性はないこと」「性犯罪の再犯防止のためにカウンセリングを受講する予定であること」「親や家族などの支援を受けながら社会復帰を目指す体制が整っていること」「今後は電車などの公共交通機関を利用しないと誓約すること」などの情状要素を的確に説明する必要があります。
刑事事件の経験豊富な弁護士なら各痴漢事件や被疑者が抱える特性を踏まえた弁護活動を期待できるので、現行犯逮捕された場合や後日逮捕リスクに晒されている状況ならすみやかにご連絡ください。
- 前科情報は履歴書の賞罰欄への記載義務が生じるので就職活動や転職活動が難しくなる
- 前科によって就業制限が生じる職種・資格があるので、痴漢犯人の状況次第では仕事が奪われる(士業、金融業等)
- 前科は法定離婚事由に該当するので、配偶者からの離婚申し出を最終的に拒絶できない
- 前科の内容次第ではパスポートやビザ発給が制限されるので海外渡航できなくなる
- 痴漢行為等の再犯に及んでしまった場合、前科を理由に刑事処分や判決内容が重くなる
不起訴処分を獲得するには、警察・検察段階の取調べに対していかに上手く対応できるかがポイントになります。弁護士は接見交通権をフル活用して供述方針についてアドバイスをくれるので、かならず刑事弁護や性犯罪弁護に慣れた専門家にご相談ください。
弁護士は痴漢が後日逮捕されるときに備えて自首するべきか否かを検討してくれる
過去の痴漢行為について後日通常逮捕されるのではないかと不安を抱えている場合には、警察が痴漢事件の捜査を開始する前に自首するのが効果的な防御活動となります。
自首とは、「罪を犯したが捜査機関に発覚する前に、犯人自ら進んで犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示」のことです。「過去の痴漢行為がバレていないのにわざわざ自分から名乗り出るなんて馬鹿げている」と思われるかもしれませんが、自ら犯罪事実を申告した点が評価されて「刑事処分や判決内容の任意的減軽を期待できる」というメリットを得られます(刑法第42条第1項)。
ただし、1~2年前に出来心で1回だけ行ってしまった痴漢行為のように、おそらく今さら警察が本格的な捜査活動を開始するとは思えないケースも少なからず存在するのも事実です。このような事案においてわざわざ自首をするメリットは大きくなく、むしろ3年の公訴時効完成を狙う方が合理的な判断と言えます。
刑事事件を専門に取り扱っている弁護士は捜査活動の実態を的確に判断できるので、現段階で自首するべきか否かを検討してくれるでしょう。
弁護士は痴漢の刑事責任以外の法律トラブル等にも配慮してくれる
刑事事件を専門に取り扱っている弁護士は、被疑者が刑事手続きに巻き込まれたときにさまざまなトラブルが派生的に生じることを理解しています。そのため、被疑者の置かれた状況を踏まえながら、以下のような場面にも丁寧に配慮してくれるでしょう。
- 身柄拘束期間短縮化を実現して学校や会社にバレるリスクを軽減してくれる
- 勤務先から不相当な懲戒処分を下された場合の労使交渉を代理してくれる
- SNSやWeb上に拡散された個人情報や名誉棄損投稿に対して削除要請等を粛々と進めてくれる
- 痴漢で逮捕されたことが配偶者にバレて離婚問題に発展した場合の交渉等を代理してくれる
弁護士は性犯罪加害者が抱える問題にも目を向けてくれる
痴漢や下着泥棒・盗撮などの性犯罪は再犯率が高い犯罪類型に分類されます。なぜなら、犯人自身が性嗜好障害・強迫的性行動症(性依存)などの疾患を抱えていることが多いからです。
つまり、現行犯逮捕・通常逮捕された痴漢事件について防御活動に専念して軽い刑事処分を獲得できたとしても、根本的な精神疾患を改善・療養しなければ、いつの日かまた痴漢行為に及んで「再犯」として重い刑事処罰が科される危険性が高いということです。
刑事事件や性犯罪弁護を専門に取り扱っている弁護士は、被疑者・被告人が抱えている個人的な問題があることを理解しています。提携しているカウンセリング施設や医療機関も適宜紹介してくれるので、本当の意味で更生の道を歩めるでしょう。
痴漢は現行犯逮捕以外でも検挙される!捜査が及ぶ前に弁護士へ相談しよう
痴漢は現行犯逮捕で立件されることもあれば、現行犯以外の方法で通常逮捕されたり任意の出頭要請をかけられたりすることも少なくありません。
痴漢がバレて現行犯逮捕・通常逮捕された場合には、早期の示談成立によって軽い刑事処分獲得を目指せます。また、過去の痴漢行為について後日逮捕されるか不安を抱えているなら、現段階で自首をするべきか否かを検討するのが重要です。
刑事事件に強い弁護士に相談すれば、痴漢犯人が置かれた状況を踏まえて適切な防御活動を展開してくれます。刑事責任を軽くするだけではなく社会生活への影響も最大限軽減できるので、すみやかにご相談ください。