受け子は詐欺罪で逮捕される?不起訴や実刑回避を実現するコツと弁護士に相談するメリットを解説

受け子は詐欺罪で逮捕される?不起訴や実刑回避を実現するコツと弁護士に相談するメリットを解説
受け子は詐欺罪で逮捕される?不起訴や実刑回避を実現するコツと弁護士に相談するメリットを解説

特殊詐欺事件が頻発するなか、受け子出し子が逮捕される事案が増えています。

ただ、軽はずみな気持ちでSNSの闇バイト等に受け子として参加しただけでも、詐欺行為に加担した事実に変わりはありません

そこで今回は、受け子としてオレオレ詐欺などに関与して後日逮捕の不安を抱えている人や、お子さんが特殊詐欺の受け子として現行犯逮捕された方のために、以下4点について分かりやすく解説します。

  1. 特殊詐欺の受け子が逮捕されるときの犯罪類型と法定刑
  2. 受け子が逮捕されるときの刑事手続きの流れ
  3. 受け子が詐欺罪等で逮捕されたときに生じるデメリット
  4. 受け子として特殊詐欺事件に関与したときに弁護士へ相談するメリット

詐欺グループの末端構成員に過ぎない受け子でも、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束付き取調べを強いられるだけではなく、初犯でも実刑判決が下される可能性も否定できません。

できるだけ早い段階から優秀な私選弁護人を選任して刑事手続きを有利に進めること成功すれば、社会復帰・更生を目指しやすい環境が手に入るでしょう。

目次

特殊詐欺で逮捕される「受け子」とは

まずは、近年増加傾向にある特殊詐欺事件で主要な役割を担う「受け子」について解説します。

あわせて、「受け子」と同じように特殊詐欺事件に関与する「出し子」「かけ子」との違いも紹介します。

「受け子」とは

受け子」とは、「オレオレ詐欺などの特殊詐欺事件において、お金を騙し取る相手から直接現金等を受け取ったり、宅配便などで送られてきた現金入りの荷物を受け取ったりする役割を担う者」を指します。

通常、特殊詐欺事件の計画を担う主犯格とは違って、「お金を受け取るだけ」というように、詐欺事件の末端的な役割を果たすにとどまることが多いです。

このように、数万円程度の報酬で詐欺グループの下っ端として末端的な役割を果たすだけですが、実際に詐欺被害者と対面する必要があるため、詐欺グループの主犯格に比べて「受け子」の方が逮捕リスクに晒されていると言えるでしょう。

「受け子」と「出し子」「かけ子」との違い

特殊詐欺事件の登場人物として、「出し子」「かけ子」と呼ばれる者もいます。

出し子」とは、「振り込め詐欺やオレオレ詐欺などの特殊詐欺事件において、被害者から振り込まれたお金をATMから引き出す役割を担う者」を指すのが一般的です。「受け子」は直接被害者と対面する場面で使用されることが多い用語ですが、「出し子」はATMからお金を引き出す場面に限定して使われる傾向にあります。

かけ子」とは、「振り込め詐欺やオレオレ詐欺などの特殊詐欺事件において、被害者に電話をかけて騙し、現金をATMに振り込んだり、訪問者に預金通帳・印鑑を渡すように誘導する役割を担う者」のことです。つまり、「かけ子」は「受け子・出し子」が行う詐欺行為の前段階・準備段階を担う存在と言えるでしょう。

なお、「受け子・出し子・かけ子」は詐欺事件への関与方法が異なるだけで、詐欺行為に加担していることに違いはありません。どの役割で詐欺事件の一端を担ったとしても詐欺罪・窃盗罪の容疑をかけられる可能性が高い点に注意が必要です。

近年、特殊詐欺行為は複雑化しており、被害者だけではなく、特殊詐欺とは知らずに闇バイト募集に騙されて知らず知らずのうちに詐欺行為に加担してしまう”加害者”も増えています。代表的な特殊詐欺として以下のものが挙げられますが、これら以外にも高額バイトを装った詐欺事件は少なくないので、安易な考えでSNS等で募集されているバイトに応募するのはやめるべきでしょう。

  • オレオレ詐欺
  • 預貯金詐欺
  • キャッシュカード詐欺
  • 還付金詐欺
  • 架空料金請求詐欺
  • 融資保証金詐欺
  • 金融商品詐欺
  • ギャンブル詐欺
  • 交際斡旋詐欺

「受け子」が逮捕されるときの犯罪類型と法定刑

特殊詐欺事件に関与した「受け子」が逮捕されるときに問われる可能性が高い罪状は以下2つです。

  1. 詐欺罪
  2. 窃盗罪

詐欺罪

詐欺罪(1項詐欺罪)とは、「人を欺いて財物を交付させたとき」を処罰対象にする犯罪類型のことです(刑法第246条第1項)。

詐欺罪の構成要件

「受け子」が詐欺罪で逮捕されるには、以下5つの構成要件を満たす必要があります。

  1. 欺罔行為
  2. 錯誤
  3. 財物の交付行為
  4. ①②③に因果関係があること
  5. 故意
欺罔行為

詐欺罪の実行行為は「人を欺く行為=欺罔行為です。

詐欺罪の実行行為としての欺罔行為性が認められるためには、「単純に人を騙す」だけでは不十分で、以下の要素を満たす必要があると理解されています。

  • 人の錯誤を惹起する危険性があること
  • 人の交付行為に向けられたものであること
  • それがなければ交付行為をしなかったであろう重要な事実に関する欺罔行為であること

たとえば、「息子が交通事故を起こして示談のために数百万円を用意しなければいけない」というオレオレ詐欺で被害者宅に現金などを受け取るために訪問するケースでは、かけ子などの謀略によって正常な判断ができなくなった被害者に対して、「息子の知人や部下を装って訪問する行為それ自体」「実際に対面したときに金銭を受け渡すように会話を交わす行為」に欺罔行為性が認められると考えられます。

また、被害者との間で特別な会話・接触をすることなく「単にお金を受け取るだけ」の関与の仕方でも、オレオレ詐欺を計画した主犯の計画を遂行するために実行役を担当したことを理由に、詐欺罪の共犯として逮捕される可能性が高いでしょう。

「”受け子”は現金やキャッシュカードを受け取るだけだから逮捕されることはない」「詐欺行為の全体像を知らされていない”受け子”が詐欺罪で逮捕されるはずがない」というのは間違いです。闇バイトの勧誘では「現金を受け取るだけだから危険性はない」というのが常套句ですが、「受け子」自身が直接的な欺罔行為に及ばなくても詐欺計画全体を見れば明らかに実行行為の一部を担っていると考えられるので、詐欺罪の共犯の疑いを払拭することはできません。
錯誤

詐欺罪の容疑で逮捕されるには、「被害者が錯誤に陥った」という要件を満たす必要があります。

たとえば、「受け子」としてオレオレ詐欺事件の被害者の面前に表れた人物を「息子の知人・部下」と誤信して現金を渡したようなケースでは、被害者は錯誤状態に陥っていると言えるでしょう。

特殊詐欺事件では、かけ子から連絡があった時点で詐欺行為を見破って警察に通報し、警察からの指示に基づいて「騙されたふり作戦」が実施されることがあります。このケースでは、実行役である「受け子」が現金を受領した段階で現行犯逮捕されることが多いですが、被害者が「錯誤に陥った」とは言えず、無罪になるかのようにも思えます。しかし、「かけ子などの共犯者による欺罔行為が実施された後、騙されたふり作戦が開始されたことを認識しないまま共犯者らと共謀のうえ、詐欺を完遂するために欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与している以上、事情を知らず関与した”受け子”にも詐欺未遂罪の共同正犯が成立する」とするのが判例の考え方です(最決平成29年12月11日)。詐欺計画の全体像や捜査の進捗状況を知らなくても受け子として特殊詐欺事件に関与しただけで厳しい刑罰が科されるので、安易な考えで「受け子」の仕事を受けるのはやめましょう。
財物の交付行為

詐欺罪で逮捕されるには、「財物の交付行為」の要件を満たす必要があります。

具体的には、「欺罔行為によって錯誤状態に陥った被害者の”瑕疵ある意思表示”に基づく財物の交付行為」を意味します。

特殊詐欺事件について言えば、詐欺計画によって錯誤状態に陥った被害者が受け子に現金やキャッシュカードなどを手渡すことによって「交付行為」が認定されるでしょう。

因果関係(欺罔行為に基づく錯誤によって財物が交付されたこと)

詐欺罪で逮捕されるには、「欺罔行為・錯誤・財物の交付行為の間に因果関係が存在すること」という要件を満たす必要があります。

たとえば、「かけ子からの電話がかかってきた段階で特殊詐欺事件に気付いたが、警察の協力のもと騙されたふりをして、自宅にやってきた”受け子”に現金を交付したケース」では、「欺罔行為 → 錯誤 → 交付行為」の因果関係の一部が切れてしまっているので、詐欺既遂罪が成立することはありません。

ただし、一連の因果関係が切れているケースでも、欺罔行為に着手した時点で「詐欺未遂罪」の容疑で逮捕される点にご注意ください。

故意

詐欺罪で逮捕されるには、「故意」という主観的構成要件を満たす必要があります。

故意とは、「罪を犯す意思 = 犯罪事実に対する認識・認容」のことです(刑法第38条第1項)。詐欺罪のケースに当てはめると、「欺罔行為によって被害者を錯誤に陥らせて財物を交付させること」を認識している必要があります。

ところが、特殊詐欺事件に関与した「受け子」については、詐欺計画の全体像を知らされておらず、「お金を受け取りにいくだけ」という仕事内容だけを伝えられて金銭等の受領行為を遂行しているケースが少なくありません。とすると、特殊詐欺事件の受け子が詐欺計画の全体像を知らされていない場合には、詐欺罪の刑事責任を問われないようにも思えます。

しかし、詐欺罪の故意を認定するときには、「犯人が犯罪事実を知っていたかどうか」という”本当の意味での主観”だけが問われるのではなく、「”犯人が犯罪事実を知っていたこと”を裏付ける客観的事情が存在するかどうか」という観点で立証作業が行われるのが刑事実務です。

したがって、どれだけ受け子本人が「詐欺計画に関与したことは知らなかった」と主張しようとも、特殊詐欺計画の全体像を理解できて当然の客観的な状況が揃っている以上は「詐欺の故意がある」という判定を覆すのは難しいでしょう。

実際、主犯格からの指示によりマンションの空き室に赴いて詐欺被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受領したに過ぎない事案について、指示によってマンションの空室に赴いたこと、名宛人になりすまして荷物を受け取ったこと、回収役に荷物を手渡して報酬を受け取っていたこと、以上の行為を過去にも複数回繰り返していたこと等の事情に基づき、詐欺計画の全体像を具体的に認識していなかった「受け子」も犯罪行為への加担や詐欺行為の可能性を認識していたとして「詐欺罪の故意」を認定するのが判例です(最判平成30年12月11日)。特殊詐欺の受け子として逮捕された後に「詐欺の故意」を争うには「特殊詐欺事件の関与態様」などを個別具体的に主張立証する必要があるので、かならず刑事裁判経験豊富な弁護士までご相談ください

詐欺罪の法定刑

1項詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」です(刑法第246条第1項)。

つまり、詐欺罪の容疑で逮捕・起訴された場合、罰金刑が存在しないため、無罪もしくは執行猶予付き判決を獲得できない限りは刑事施設への服役を強いられるということです。

そして、特殊詐欺事件は詐欺被害額も高額になることが多いので、単なる受け子として特殊詐欺事件に関与しただけでも厳しい量刑が言い渡される可能性を否定できません。

したがって、受け子が詐欺罪で逮捕・起訴されたときには、刑事事件に強い弁護士に相談のうえ、執行猶予付き判決獲得を目指して防御活動を展開してもらいましょう

組織犯罪処罰法が適用されると「受け子」の法定刑が引き上げられる

特殊詐欺事件の受け子として詐欺行為に加担した場合には、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)」が適用される可能性も否定できません。

特殊詐欺事件に組織犯罪処罰法が適用されるのは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的または意思を実現する行為の全部または一部が組織的に反復して行われる団体によって詐欺行為が実行された場合」です。たとえば、暴力団、反社会的組織、特殊詐欺集団、地元の不良グループが組織的に特殊詐欺事件を繰り返して起こしていた場合には、同法の適用対象になります

そして、特殊詐欺事件の受け子が組織犯罪処罰法の容疑で逮捕された場合、法定刑が「1年以上の有期懲役刑」に引き上げられる点に注意が必要です(同法第3条第1項第13号)。刑法の詐欺罪で有罪になる場合には「1カ月以上10年未満」の範囲で処罰されるのと比較すると(刑法第12条第1項)、法定刑の下限が大幅に引き上げられていることが分かります。

たとえば、「地元の先輩にバイト感覚で誘われて受け子に関与しただけ」というケースでも、地元の先輩が組織的に犯罪行為に及んでいただけで組織犯罪処罰法が適用されるリスクに晒されるので、迂闊に怪しいバイトに手を出すのは絶対にやめましょう。

詐欺未遂罪

詐欺罪は未遂犯も処罰対象になる犯罪類型です(刑法第250条)。

受け子が詐欺未遂罪で逮捕されるのは、「詐欺罪の実行の着手があったとき」です(同法第43条本文)。

そして、「詐欺罪の実行の着手」とは、「詐欺被害を惹起する現実的な危険が発生したこと」を意味します(最決平成16年3月22日)。詐欺結果の具体的・現実的な危険が発生したか否かは個別ケースの事情を総合的に考慮して判断されます。

たとえば、以下のようなケースでは、受け子が詐欺未遂罪の容疑をかけられる可能性が高いでしょう。

  • 特殊詐欺事件の被害者宅に訪問をしたが被害者が約束の時間に在宅していなかったケース
  • 特殊詐欺の被害者が既に警察と通謀して「騙されたふり」をしていたケース
  • 特殊詐欺事件の被害者宅に訪問したタイミングで別の来客があったために現金を受け取らずに逃走したケース
詐欺未遂罪の法定刑

詐欺未遂罪の法定刑は「10年以下の懲役刑であり、詐欺既遂罪と同じです。また、詐欺未遂罪にも組織犯罪処罰法が適用される点に注意が必要です。

ただし、詐欺既遂罪と違って、詐欺未遂罪で逮捕・起訴されたケースでは、「未遂減軽」による刑罰の引き下げを期待できます。個別事案の詳細や反省の態度、示談交渉の成否などの事情次第では執行猶予付き判決を獲得しやすくなるので、刑事弁護に力を入れている弁護士までご相談ください

窃盗罪

特殊詐欺事件に受け子として関与した場合、「窃盗罪」の容疑で逮捕されることもあります。

窃盗罪とは、「他人の財物を窃取したとき」を処罰対象とする犯罪類型のことです(刑法第235条)。窃盗罪は未遂犯も処罰対象です(同法第243条)。

窃盗罪の構成要件

窃盗罪の構成要件は以下4点です。

  1. 他人の財物
  2. 窃取(他人が占有する財物を、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させること)
  3. 故意(「他人の財物を窃取すること」に対する認識・認容)
  4. 不法領得の意思(権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法にしたがって利用・処分する意思)

特殊詐欺事件の受け子の場合、被害者から奪ったキャッシュカードをそのまま上役に引き渡すため、「不法領得の意思(特に、利用処分意思)」が存在しないようにも思えるでしょう。

ただし、窃盗罪における「利用処分意思」は比較的幅広く理解されているので、すり替えたキャッシュカードをそのまま上役に引き渡すだけでも「不法領得の意思がある」と判断されるのが実務的運用です。

窃盗罪の法定刑

窃盗罪の法定刑は、「10年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑」です(刑法第235条)。

また、窃盗未遂罪の法定刑も窃盗既遂罪と同じですが、未遂減軽によって執行猶予付き判決・罰金刑を獲得しやすくなります。

受け子が窃盗罪・詐欺罪のどちらで逮捕されたとしても懲役刑の法定刑は変わりません。

むしろ、罰金刑の余地が残されているだけ窃盗罪の方が詐欺罪よりも軽い犯罪類型とも言えますが、特殊詐欺事件のような悪質な犯罪に関与した場合には、適切な防御活動を尽くさないと実刑判決が下される危険性があるので注意が必要です。

「受け子」が窃盗罪で逮捕されるケース

特殊詐欺事件のうち、いわゆる「キャッシュカードすり替え型」と呼ばれるケースに受け子として関与した場合には、詐欺罪ではなく窃盗罪の容疑で逮捕されます。なぜなら、被害者が気付かないところですり替え行為によって本当のキャッシュカードの占有を奪っているからです。

また、「キャッシュカード受け取り型」の特殊詐欺事件に受け子として関与した場合、被害者からキャッシュカードを騙し取った時点で「詐欺罪」、騙し取ったキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出した時点で「窃盗罪」が成立する点にも注意しなければいけません。

特に、キャッシュカード受け取り型において窃盗罪・詐欺罪の両罪で刑事訴追されると、最終的な刑事責任が重くなるだけでなく、再逮捕・再勾留によって身柄拘束期間が長期化するリスクに晒されます。

身柄拘束期間を短縮化・刑事責任の軽減を実現するには、罪を認めて詐欺グループの実態について自供するなどの工夫が不可欠です。刑事手続きの初期段階で防御方針を明確化できるかが今後の運命を左右するので、できるだけ早いタイミングで刑事事件に強い私選弁護人に相談することを強くおすすめします

「受け子」が逮捕されるときの刑事手続きの流れ

受け子として関与した特殊詐欺事件が立件された場合、以下の流れで刑事手続きが進められます。

  • 受け子として関与した特殊詐欺事件について警察から接触がある
  • 受け子が詐欺罪等で逮捕されると警察段階の取調べが実施される
  • 受け子の身柄と特殊詐欺事件が警察から検察官に送致される
  • 受け子として検察段階の取調べが実施される
  • 検察官が受け子を公訴提起するか否か判断する
  • 受け子が刑事裁判にかけられる

「受け子」として関与した詐欺事件について警察から接触がある

受け子として特殊詐欺事件に関与したことが警察に発覚すると、以下3つのいずれかのパターンで警察からアプローチがかけられます。

  • 過去の詐欺行為について後日通常逮捕される
  • 過去の詐欺行為について任意の出頭要請がかけられる
  • 受け子として詐欺行為に及んだところを現行犯逮捕される

通常逮捕

過去に特殊詐欺事件に受け子として関与したことが明らかになった場合、「通常逮捕」によって受け子の身柄が取り押さえられます。

通常逮捕は「後日逮捕」と表現されることもありますが、「通常逮捕」が正式な名称です。

通常逮捕の要件

通常逮捕とは、「裁判官の事前審査を経て発付された逮捕状に基づき、受け子の身柄を拘束する強制処分」のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。

通常逮捕によって受け子の身柄を押さえるには、裁判官の事前審査を経て発付される「逮捕令状」が必要とされています。これを「令状主義」と呼びます。

裁判官の事前審査によって逮捕状が発付されるのは、特殊詐欺事件に関与した受け子が以下2つの要件を満たすときです(犯罪捜査規範第122条第1項)。

  1. 逮捕の理由
  2. 逮捕の必要性

まず、逮捕の理由とは、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること」です。受け子とされる人物が詐欺行為を働いたこと、被害者を騙して特殊詐欺行為に加担したことなど、詐欺罪の構成要件を立証する証拠が揃っている場合に、「逮捕の理由」があると判断されます。

次に、逮捕の必要性とは、「受け子の身柄を強制的に留置する必要性があること(逃亡・証拠隠滅のおそれがあること)」を意味します。たとえば、以下のようなケースでは「逮捕の必要性がある」と判断されて、逮捕状が発付される可能性が高いでしょう。

  • 住所不定・無職・職業不詳で逃亡するおそれがある場合
  • 前科・前歴がある場合
  • 組織的な特殊詐欺事件への関与が疑われる場合
  • 共犯者と口裏を合わせる危険性が高い場合
  • 特殊詐欺事件による被害額が高額の場合
  • 別の特殊詐欺事件への関与が疑われる場合
  • 特殊詐欺事件の被害者の処罰感情が強い場合
  • 特殊詐欺事件について示談が成立していない場合

一般論として、警察が犯罪行為について捜査活動を実施して被疑者を特定したとしても、被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがない状況なら、通常逮捕手続きではなく任意捜査によって刑事手続きが進められるパターンもあり得ます。

しかし、特殊詐欺事件に受け子として関与した場合には、背後に黒幕が存在し、他にも特殊詐欺被害者が存在する可能性が極めて高いです。

したがって、受け子として特殊詐欺事件に関与したことがバレた時点で、原則として通常逮捕されることは覚悟しなければならず、「逮捕されないこと」ではなく、「逮捕期間を短くすること」「勾留を避けること」「不起訴処分を獲得すること」を目標に防御活動を展開することになるでしょう。

「受け子」として特殊詐欺事件に関与したことがバレる理由

そもそも、特殊詐欺事件では、実行役である「受け子」がもっとも逮捕リスクを抱えています

なぜなら、被害者と直接対面して現金やキャッシュカードを受け取ったり、郵送された被害品を受け取ったりする場面で、被害者などに顔を見られる可能性が高いからです。また、被害者からキャッシュカードを受け取った後にATMを操作すると、防犯カメラ映像などに顔や車両のナンバープレートが録画されるので、容易に身元を特定されるでしょう。

特殊詐欺事件では、「受け子」「かけ子」などの組織の末端構成員が逮捕された後、犯罪集団の主犯格まで捜査が及ぶかが焦点になることが多いです。「受け子」が逮捕されずに刑事事件が終わる可能性は極めてゼロに近いので、お金欲しさに特殊詐欺事件に関与してしまった場合には、警察が逮捕状をもってやってくる前に弁護士へ相談をして今後の防御方針について相談しておくことを強くおすすめします

「受け子」は公訴時効が完成するまで後日逮捕リスクを抱えたまま

特殊詐欺事件に「受け子」として関与した場合、公訴時効が完成するまでは常に後日逮捕リスクに晒されたままです。

公訴時効とは、「犯罪行為が終わってから一定期間が経過することをもって検察官の公訴権を消滅させる制度」のことです(刑事訴訟法第253条第1項)。なお、特殊詐欺事件のように共犯関係が問題になることが多い事件類型では、「共犯者による最終の行為が終わったとき」が公訴時効の起算点になります。

受け子に対して嫌疑がかけられる詐欺罪・窃盗罪の公訴時効期間は「7年」です(同法第250条第2項第4号)。受け子として関与した特殊詐欺事件が終了してから7年が経過して検察官による起訴処分のリスクがゼロになれば、警察によって逮捕されることもなくなるでしょう。

これに対して、公訴時効が完成しない限りは刑事裁判にかけられる可能性が残っているので、常に逮捕リスクに晒され続けます。たとえば、特殊詐欺事件に関与してから数年後に通常逮捕されることになると、「受け子」として特殊詐欺事件に関与してから逮捕されるまでの数年間に築いた社会的地位や家族関係が簡単に崩れ去ってしまいかねません。

したがって、過去に「受け子」として関与した特殊詐欺事件について警察から一切連絡がない状況でも、短絡的に「公訴時効完成による逃げ切り」を狙うのではなく、念のために弁護士へ相談をして捜査活動の進捗予想などについて検討してもらうべきでしょう。

任意の出頭要請

過去に受け子として関与した特殊詐欺事件が警察に発覚した場合、通常逮捕手続きではなく、任意の出頭要請・事情聴取という方法で刑事手続きが進められる可能性もゼロではありません。

任意の出頭要請・事情聴取(任意捜査)とは、「被疑者の協力のもと警察が実施する原則的な捜査活動」のことです(刑事訴訟法第197条第1項、同法第198条第1項)。あくまでも「任意」なので、「時間が合わないから」「捜査機関に協力したくないから」などの理由によって出頭を拒否することができます。また、逮捕状に基づく強制的な取調べではないので、取調べに応じたとしても自由に帰宅することも可能です。

ただし、警察からの出頭要請や事情聴取に応じなければ、「逃亡・証拠隠滅のおそれがある」と判断される点に注意しなければいけません。任意捜査に応じないことを理由に逮捕状が請求されて、強制的な身柄拘束処分を強いられるだけです。

また、そもそも事件の性質上、特殊詐欺事件は大規模な捜査活動が行われるので、末端構成員である「受け子」として事件に関与しただけでもいきなり通常逮捕手続きが実施されることが多いので、任意ベースの捜査活動はほとんど期待できないとご理解ください。

したがって、運良く過去の特殊詐欺事件について警察から出頭要請がかかった場合には、弁護士のアドバイスを参考にしながら、捜査機関の要請に素直に応じるべきでしょう。

現行犯逮捕

特殊詐欺事件の受け子は現行犯逮捕によって身柄が押さえられることが多いのも特徴的です。たとえば、「かけ子」から電話がかかってきた時点で詐欺行為がバレて警察に通報されて、騙されたふりをしている被害者宅に「受け子」がやってきたところを待ち受けていた警察官に現行犯逮捕されるケースが挙げられます。

現行犯逮捕とは、「現に罪を行い、または、罪を行い終わった者(現行犯人)に対する身柄拘束処分」のことです(刑事訴訟法第212条第1項)。通常逮捕とは異なり、犯行現場で身柄が押さえられるので、逮捕状は発付されません(令状主義の例外)。

また、捜査機関以外の誰でも現行犯逮捕権限が与えられている点にも注意が必要です(同法第213条)。たとえば、「受け子」が高齢の被害者宅に訪問したときに、たまたま居合わせた隣人や家族に取り押さえられると、その時点で「私人逮捕」が成立します。

なお、「受け子」が私人逮捕で身柄を押さえられた場合は、すみやかに地方検察庁・区検察庁の検察官や司法警察職員に身柄が引き渡されるので、自宅に戻ったり会社に連絡をしたりする隙間は与えられません(同法第214条)。

「受け子」は犯行現場から逃走しても現行犯逮捕される可能性がある

現行犯逮捕は、「現に罪を行い、または、罪を行い終わったとき」を対象とする逮捕処分です。たとえば、まさに被害者から現金やキャッシュカードを騙し取ったところを警察に取り押さえられるケースが典型例として挙げられます。

とすると、現金などを騙し取る場面から逃走すれば、少なくとも現行犯逮捕は回避できるようにも思えるでしょう(もっとも、後日身元特定されると、通常逮捕手続きが実施される可能性は高いです)。

ただし、「以下4つの要件のいずれかを満たす者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき(準現行犯人)」にも、犯人は現行犯人とみなされて無令状の逮捕処分の対象になります(刑事訴訟法第212条第2項)。

  • 詐欺事件の犯人として追呼されているとき
  • 贓物や明らかに詐欺行為の証拠物(被害品等)を所持しているとき
  • 身体や被服に特殊詐欺事件に関与した顕著な証跡があるとき
  • 「詐欺の犯人だ!」と誰何されて逃走しようとするとき

たとえば、被害者宅からの逃走に成功したもののすぐに通報されて周辺を警邏していた警察官に身柄を取り押さえられた場合、状況次第では、任意ではなく準現行犯逮捕処分が実施されて警察署に連行されることもあり得るでしょう。

受け子が逮捕されると警察段階の取調べが実施される

受け子が詐欺罪などの容疑で逮捕されると、警察段階の取調べが実施されます。

逮捕処分に基づく取調べには受忍義務があるので、取調べ自体を拒絶することはできません(取調べ中に黙秘することは可能です)。また、取調べが実施される時間以外は拘置所・留置場に身柄が留められるので、自宅に戻ることや家族などに電話を入れることも不可能です。さらに、そもそも逮捕段階は接見禁止処分が下されることが多いので、家族などと面会することも許されません

警察段階で実施される取調べには「48時間以内」という制限時間が設けられています(刑事訴訟法第203条第1項)。48時間以内に詐欺事件についての取調べやその他の捜査活動が実施されて、事件を検察官に送致するか微罪処分に付するかが決められます。

なお、特殊詐欺のような悪質な詐欺事件については、余程特別な事情がない限り、「受け子」としての関与でも微罪処分を獲得するのは不可能に近く、ほとんどのケースで送検後に検察官の判断を仰ぐことになるのが実情です。

「受け子」が送検されて検察段階の取調べが実施される

警察段階の取調べが終わった後は、特殊詐欺事件が検察官に送致されます。

事件・身柄を受け取った検察官は「24時間以内」の取調べを実施します(刑事訴訟法第205条第1項)。そして、警察段階48時間以内と検察段階24時間以内の合計72時間以内」に得られた供述・証拠を前提として、検察官が特殊詐欺事件に「受け子」として関与した被疑者を刑事裁判にかけるか判断するのが原則です。

ただし、特殊詐欺のような複雑な事件類型では、最大72時間の取調べだけでは必要な証拠を収集できないケースが少なくありません。

このような実情を踏まえて、やむを得ない理由によって捜査機関が72時間の時間制限を遵守できない場合には、勾留請求によって身柄拘束期間を「10日間~20日間」の範囲で延長できるとする例外措置が認められています(同法第206条第1項、同法第208条各項)。つまり、勾留請求された場合には、逮捕段階から合わせて最大23日間身柄拘束期間が継続するということです。

勾留請求が認められる「やむを得ない理由」として、以下のものが挙げられます。

  • 特殊詐欺事件の余罪への関与が疑われる場合
  • 特殊詐欺事件の被害者が多く、参考人聴取にかなりの時間を要する場合
  • 防犯カメラ映像やATMの出勤履歴、スマートフォンの通話履歴やデータ復元などに時間を要する場合
  • 「受け子」が特殊詐欺事件について否認・黙秘している場合
  • 特殊詐欺事件に関与した他の共犯者との供述内容に矛盾がある場合

なお、逮捕・勾留期間は「1つの刑事事件」単位でカウントする決まりになっています。つまり、複数の特殊詐欺事件に関与した場合、複数の詐欺事件が立件されるので、各事件について再逮捕・再勾留が繰り返される可能性があるということです。

場合によっては起訴・不起訴の判断までに数カ月に及ぶ身柄拘束期間が生じることもあるので、早期の身柄釈放を目指すなら刑事事件に強い私選弁護人のサポートは不可欠でしょう

検察官が「受け子」を公訴提起するか判断される

逮捕・勾留による身柄拘束期限が到来するまでに、それまでの捜査活動で得られた証拠を総合的に考慮して、検察官が「受け子」を起訴するか不起訴にするかを決定します。

起訴処分とは、「“受け子”を公開の刑事裁判にかける旨の訴訟行為」のことです。起訴処分が下されると被疑者は「被告人」と呼ばれるようになります。

これに対して、不起訴処分とは、「“受け子”を刑事裁判にかけることなく、検察官限りの判断で刑事手続きを終結させる旨の意思表示」を指します。不起訴処分が下された時点で”お咎めなし”が決まるので、有罪判決や前科のリスクはゼロになります。

なお、日本の刑事裁判の有罪率は約99%とも言われているので、刑事裁判にかけられた時点(=検察官が起訴処分を下した時点)で有罪になることがほぼ確定します。

したがって、後述のように、「受け子」として特殊詐欺事件に関与したこと自体に間違いがなくても不起訴処分を獲得できるケースはあるので、「懲役刑は嫌だ」「前科をつけたくない」と希望するなら、検察官の公訴提起判断までに防御活動を尽くす必要があると言えるでしょう。

「受け子」が公開の刑事裁判にかけられる

検察官が起訴処分を下した場合、「受け子」は公開の刑事裁判にかけられます。

刑事裁判が開廷されるタイミングは起訴処分から1カ月~2カ月後が一般的です。起訴処分が下された後すぐに保釈請求が通れば身柄拘束なしで刑事裁判を受けることができますが、保釈請求が通らなければ起訴後勾留が続くので、身柄拘束処分が継続した状態で刑事裁判を迎えなければいけません。

刑事裁判は、公訴事実に争いがなければ第1回公判期日で結審するのが通例です。これに対して、公訴事実に争いがあったり、詐欺罪の成否自体を争うようなケースでは、複数回の公判期日を経て弁論手続き・証拠調べ手続きが進められます。

最終的に、公判に提出された証拠を総合的に考慮して、裁判官が判決を言い渡します。刑務所への収監を回避するなら、公判で真摯に反省の態度を示すなどの防御活動を尽くして「執行猶予付き判決」の獲得を目指すべきでしょう

「受け子」として特殊詐欺事件に関与するデメリット5つ

「受け子」という立場で特殊詐欺事件に関与するだけでも、以下5点のリスクに晒されます。

  1. 軽はずみな気持ちで「受け子」アルバイトをしただけで実刑判決のリスクが生じる
  2. 特殊詐欺グループなどに個人情報を渡すと縁を切れなくなる
  3. 「受け子」の容疑で逮捕されると学校や会社にバレて処分対象になる
  4. 「受け子」として関与しただけでも報道されて社会的制裁を受ける
  5. 「受け子」の容疑で逮捕されると前科がつく可能性が高い

軽はずみな気持ちで「受け子」をしただけでも実刑判決があり得る

「お金や荷物を受け取るだけ」「受け取ったキャッシュカードを使ってATMを操作するだけ」など、軽はずみな気持ちで「受け子アルバイト」を引き受けただけでも、実刑判決のリスクに晒されます。

なぜなら、ただでさえ詐欺罪は重大な犯罪類型に位置付けられるものだからです。特に、特殊詐欺が社会問題化している実情を踏まえると、捜査機関や裁判所は特殊詐欺への関与者に対して厳しい処分を下す可能性が高いと考えられます。

上述のように、詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」だけなので、罰金刑はあり得ません。受け子が詐欺罪で逮捕・起訴されると「執行猶予付き判決が実刑判決か」の瀬戸際に追い込まれるため、防御活動に失敗すると初犯でも実刑判決を覚悟しなければいけません。

反社会的勢力に個人情報が渡るので違法行為から抜け出せない

SNSの闇バイトなどに安易に関わってしまうと、特殊詐欺グループに「氏名・携帯電話の番号・SNSのアカウント・住所・口座情報・勤務先・学校名」などの個人情報を奪われる可能性が高いです。

たとえば、「何回か”受け子”で報酬を貰ったけれども足を洗いたい」と希望したところで、「”受け子”として犯罪行為に関わったことをバラすぞ」などと脅されて繰り返し違法行為を強要されるリスクも生じかねません。

また、特殊詐欺グループに渡してしまった個人情報が転売されたり口座情報が悪用されたりすると、自分の知らないところで犯罪行為に関与させられてしまう危険性にも晒されます。

「受け子」で逮捕されると学校や会社にバレる可能性が高い

「受け子」として特殊詐欺事件に関与したことが学校や会社にバレると、ほぼ確実に勤務先や学校から厳しい処分が下されます。

そもそも、「受け子」が詐欺罪等で逮捕されると、多くのケースで逮捕・勾留によって長期間身柄拘束されるため、学校や会社に隠し通すのは不可能に近いでしょう(これに対して、運良く任意ベースで刑事手続きが進められた場合には、学校や会社に知られずに刑事手続き終結を目指しやすいです)。

まず、社会人の場合、会社の就業規則の規定にしたがって懲戒処分が下されます。懲戒処分の内容は「戒告、譴責、訓告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」などが定められることが多いですが、特殊詐欺事件への関与のような深刻なケースでは「懲戒解雇処分」を下されても文句は言えません。

次に、学生の場合、学則・校則にしたがって処分内容が決定されます。ただし、社会人の場合と同じように厳しい処分が予想されるので、注意や停学処分などの軽い処分ではなく「退学処分」の可能性が高いです。

以上を踏まえると、「受け子」という末端的な関与に過ぎなくても学歴やキャリアを棒に振ることになると言えるでしょう。

「受け子」で特殊詐欺事件に関与するだけで大々的に報道される

特殊詐欺事件は世間の関心が高い話題なので、「受け子」として関与しただけでも大々的に報道される可能性があります。

たとえば、顔写真付きで実名報道されると、被疑者本人だけでなく家族も社会的制裁が科されかねません。

さらに、特殊詐欺事件に関与した情報がインターネット上にいつまでも残り続けるので、「名前を検索しただけで過去の犯罪がバレる」という状態に陥ります。これでは、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できたとしても、社会復帰が困難になるでしょう。

「受け子」で逮捕・起訴されると前科がつく

「受け子」という立場で特殊詐欺事件に関与しただけでも、有罪になると「前科」がつきます。

前科とは、「有罪判決を受けた経歴」のことです。実刑判決だけではなく、執行猶予付き判決・罰金刑も前科に含まれます

前科が残ると、今後の社会生活に以下のデメリットが生じます。被疑者・被告人によって状況が異なるので一概には言えませんが、刑事責任を全うした後の社会復帰を困難にする可能性が高いでしょう。

  • 前科情報は履歴書の賞罰欄に記載しなければいけないので、就職活動・転職活動の書類審査にも通りにくくなる
  • 前科があるだけで制限される職種・資格がある(士業、警備員、金融関係など)
  • 前科を理由に離婚を言い渡されると基本的には拒絶できない(慰謝料、親権なども不利になる)
  • 前科を理由にパスポートやビザ発給が制限されることがある(海外旅行や海外出張できない)
  • 前科や逮捕歴があると判明すると結婚しにくくなる
  • 前科者が再犯に及ぶと刑事処分や判決内容が重くなる可能性が高い

特殊詐欺事件に「受け子」として関与したときに弁護士へ相談するメリット3つ

経緯や事情を問わず、「受け子」として特殊詐欺事件に関与してしまったときには、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。

なぜなら、刑事事件に力を入れている弁護士に相談することで、以下3点のメリットが得られるからです。

  1. 特殊詐欺事件の被害者との間で示談交渉を進めてくれる
  2. 少しでも軽い刑事処分獲得を目指して尽力してくれる
  3. 弁護士接見の機会を活用して被疑者・被告人を励ましてくれる

なお、「受け子」が逮捕された場合には誰でも「当番弁護士制度」を利用できますが、可能であれば「私選弁護人」と契約することをおすすめします。

なぜなら、当番弁護士制度では被疑者自ら弁護士を選べないので、「接見にやってくる弁護士に詐欺事件の経験があるのか、そもそも刑事事件に強いのか、熱意はあるのか」などが一切分からないからです。

特に、特殊詐欺事件のような「一発実刑」があり得る事件類型では、弁護士の経験やノウハウが被疑者の運命を左右すると言っても過言ではありません。費用はかかりますが軽い刑事処分獲得の可能性は大幅に高まるでしょう。

被害者との間で早期に示談交渉を開始してくれる

刑事事件に力を入れている弁護士に依頼すれば、特殊詐欺事件の被害者との間で早期に示談交渉を開始してくれます。

示談とは「特殊詐欺事件の当事者同士で示談条件について直接話し合いを行い、和解契約を締結すること」です。

一般的には、示談金を支払う代わりに、「被害申告をしないこと」「被害届や告訴状を取り下げること」「処罰感情がないことを捜査機関や裁判所に伝えること」などが約束されます

特殊詐欺事件のような組織的な犯行が疑われるケースでは「”受け子”だけ刑事事件化を回避する」のはかなり厳しいですが、示談成立済みであることを理由に軽い刑事処分(微罪処分・勾留回避・早期釈放・不起訴処分・執行猶予付き判決など)を獲得しやすくなるでしょう。

ただし、特殊詐欺事件では被害額が高額であったり、被害者の処罰感情が強かったりするので、示談交渉自体が難航し、示談条件について被害者側からの合意を引き出しにくいという問題が発生しかねません。

刑事事件や示談実績豊富な弁護士に相談をして、できるだけ早いタイミングでの示談成立を実現してもらいましょう。

特殊詐欺事件の「示談金」に相場はありません。「受け子」として関与した人物が被害額全額を支払うことで刑事責任の大幅な軽減・回避を目指すこともあれば、詐欺行為に加担した共犯者の頭数で割った金額が示談金として提示されることもあります。いずれにしても、示談成立には「被害者側の納得」が不可欠なので、冷静な交渉を得意とする弁護士の力を借りるべきでしょう。

軽い刑事処分獲得を目指して防御活動を尽くしてくれる

刑事事件に力を入れている私選弁護人の力を借りれば、刑事手続きの段階に応じて少しでも有利な処分獲得を目指して尽力してくれるでしょう。

ここからは、特殊詐欺事件に「受け子」として関与した被疑者が目指すべき防御目標について解説します。

自首

過去の特殊詐欺事件について警察から問い合わせや出頭要請がかかっていない段階なら「自首」が効果的な防御方法になります。

自首とは、「まだ捜査機関に発覚しない前に、犯人自ら進んで特殊詐欺事件に関与した事実を申告し、刑事処罰を求める意思表示」のことです(刑法第42条第1項)。自首をすることによって、「刑の任意的減軽」というメリットが得られます。

ただし、被害者が特殊詐欺事件について被害申告済みであったり、すでに警察が被疑者の身元を特定して内偵作業を進めていたりすると、「自首による刑の任意的減軽」という恩恵には与ることができません。また、関与した特殊詐欺事件の公訴時効完成間近なら、今さら自首によって自ら過去の犯罪行為を掘り返す必要性も低いと考えられます。

以上を踏まえると、特殊詐欺事件の経過次第で、自首をするべきか否かの判断は変わってきます。刑事事件の動向予測に慣れた弁護士に相談をして、現段階で自首をするべきか否かを冷静に判断してもらいましょう

微罪処分

微罪処分とは、「特殊詐欺事件を送検せずに、警察限りの判断で刑事手続きを終結させる事件処理類型」のことです(刑事訴訟法第246条但書、犯罪捜査規範第198条)。

「受け子」が詐欺罪の容疑で逮捕された場合や、任意ベースで捜査活動が進められている場合、微罪処分によって刑事事件の早期終結が実現されるので、身柄拘束期間長期化による実生活への悪影響を大幅に軽減できます。

ただし、微罪処分を獲得できるのは、容疑をかけられた事件が以下の要素を満たす場合に限られます。

  • 検察官があらかじめ指定する窃盗罪、単純横領罪などの軽微な罪状の嫌疑をかけられていること
  • 犯情が軽微であること(計画性がない、生活苦でやむを得ず犯行に及んだ等)
  • 被害額が少額であること(被害額2万円程度が目安)
  • 示談成立済みで被害弁償も済んでいること
  • 前科・前歴がないこと
  • 身元引受人がいて更生を目指す環境が整っていること

以上を踏まえると、特殊詐欺事件に「受け子」として関与したケースで微罪処分を獲得するには現実的にかなり厳しいと考えられます。

在宅事件処理

在宅事件とは、「逮捕・勾留という身柄拘束処分なしで刑事手続きが進められる事件処理類型」のことです。

たとえば、逮捕・勾留ではなく任意捜査で特殊詐欺事件の取調べが進められる場合、最初は逮捕されたものの途中で身柄拘束処分が解かれて途中から在宅事件に切り替わる場合が挙げられます。特殊詐欺事件への関与を疑われているケースでは、後者のパターンが多いです。

特殊詐欺事件の捜査が途中で在宅事件に切り替われば、身柄拘束期間が短縮化されるので、会社や学校にバレる可能性を大幅に軽減できるでしょう。

なお、このような在宅事件の恩恵に与るためには、「逮捕・勾留の必要性がないこと(逃亡・証拠隠滅のおそれがないこと)」を捜査機関にアピールしなければいけません。取調べへの対応方法や供述内容次第で早期釈放を実現できるので、刑事事件に強い私選弁護人のアドバイスを参考に防御方針を明確化してもらいましょう。

在宅事件は「身柄拘束をするか否か」という点でメリットが生じるだけで、不起訴処分や無罪が確約されるわけではない点に注意が必要です。たとえば、逮捕後すぐに釈放されて在宅事件に切り替わったとしても、その後の捜査活動によって容疑が固まった場合には「在宅起訴」されて刑事裁判にかけられるケースも少なくありません。したがって、在宅事件処理に移行しても不起訴処分・執行猶予付き判決獲得に向けた防御活動は不可欠なので、刑事手続きが終結するまで油断なく防御活動に尽力するべきでしょう。

勾留回避

特殊詐欺事件に「受け子」として関与したことを理由に逮捕された場合には、勾留回避」を目指すのが重要な防御活動になります。

なぜなら、勾留されずに起訴・不起訴の判断まで至れば「最大72時間」の身柄拘束だけで済むからです。不起訴処分を獲得できればその時点で刑事手続きは終結しますし、起訴処分が下されてもすぐに保釈請求手続きを履践することによって身柄拘束期間を短縮化できます。

特殊詐欺事件について勾留請求を回避するには、逮捕段階の72時間以内だけで「公訴提起判断に必要な証拠」を揃えさせる必要があります。自分が知っていることを素直に供述して真摯に反省の態度を示すなどの工夫が不可欠なので、取調べの状況を随時弁護士に報告しながら供述方針を練ってもらいましょう。

不起訴処分

特殊詐欺事件に「受け子」として関与したことを理由に逮捕・勾留された場合には「不起訴処分獲得」が最大の目標になります。

なぜなら、「不起訴処分」を獲得すれば刑事裁判・有罪・前科をすべて回避できるからです。その一方で、「起訴処分」が下されると高確率で有罪になってしまいます。

そして、「特殊詐欺事件に関与したこと自体は間違いないのだから、不起訴処分を獲得するのは無理だろう」と考える必要はありません。

なぜなら、不起訴処分の理由は以下3種類に分類されるので、「受け子」として特殊詐欺事件に関与したとしても、不起訴処分を獲得できる可能性は残されているからです。

  • 嫌疑なし:「受け子」として特殊詐欺事件に関与していない場合
  • 嫌疑不十分:「受け子」として特殊詐欺事件に関与した充分な証拠が存在しない場合
  • 起訴猶予:「受け子」として特殊詐欺事件に関与したことは間違いないが、諸般の事情を総合的に考慮すると、刑事裁判にかける必要がない場合

起訴猶予処分」を目指す場合には、「刑事裁判にかける必要がない」と検察官に判断させるための防御活動が重要になります。

被害者との示談交渉、取調べでの供述内容、反省の態度、社会更生を目指す現実的なプランの提示など、尽くすべき防御活動は数多くあるので、刑事事件や示談交渉に慣れた私選弁護人の力を借りてください

保釈請求

特殊詐欺事件への関与を理由に「受け子」が起訴された場合には、すみやかに「保釈請求手続き」を履践する必要があります。

なぜなら、検察官が起訴処分を下した後「起訴後勾留処分」が下されると、起訴処分から2カ月(1カ月ごとに更新)は刑事施設に収監されて刑事裁判を迎えなければいけないからです(刑事訴訟法第60条第1項、第2項)。

保釈請求手続きは以下3種類に分類されます。状況に応じて履践すべき手続きが異なるので、早期釈放を目指して弁護士に手続きを選択してもらいましょう。

  • 権利保釈(保釈除外事由に該当しない限り認められる保釈)
  • 裁量保釈(裁判官の裁量によって認められる保釈)
  • 義務的保釈(身柄拘束期間が不当に長期化している場合に認められる保釈)

執行猶予付き判決

特殊詐欺事件への関与を理由に「受け子」が刑事裁判にかけられる場合には、「執行猶予付き判決獲得」を目指す必要があります。

なぜなら、特殊詐欺事件は初犯でも一発実刑があり得るところ、実刑判決が確定すると刑期を満了するまで刑事施設に収容されるので、社会生活に甚大な悪影響が生じるからです。

これに対して、執行猶予付き判決を獲得できれば、刑事裁判が確定した時点で身柄が自由になりますし、執行猶予期間中何ごともなく過ごしきれば、懲役刑が科されることなく刑事責任を全うできます。

なお、執行猶予付き判決の対象になるには「3年以下の懲役刑・禁錮刑・50万円以下の罰金刑の言渡しを受けたとき」という要件を満たさなければいけません(刑法第25条第1項)。

詐欺罪及び窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役刑」なので、執行猶予付き判決の対象になるには、「継続的な示談交渉」「裁判官の面前で反省の態度を示す」などの防御活動が不可欠でしょう。

略式手続き

「受け子」にかけられた容疑が窃盗罪のケースでは「略式手続き」も効果的な防御方針になります。

略式手続き(略式裁判・略式起訴・略式命令)とは「簡易裁判所の管轄に属する刑事事件について100万円以下の罰金刑が想定される場合に、被疑者側の同意がある場合に限って、公開の刑事裁判を省略して簡易・簡便な形で罰金刑を確定させる裁判手続き」のことです(刑事訴訟法第461条)。たとえば、公訴提起段階で「検察官が刑事裁判で罰金刑を求刑すること」が確定的である場合、略式手続きを選択することによって即時に罰金刑が確定されるので、刑事裁判手続きを省略できます

ただし、略式手続きは「罰金刑」を対象にする手続きなので、法定刑に罰金刑が掲げられていない「詐欺罪」は対象外です。

弁護士接見を活用して状況に応じた適切なアドバイスを提供してくれる

「受け子」としての関与が原因で逮捕・勾留された場合、被疑者が自由に接見(面会)できるのは弁護人だけです。

熱心な私選弁護人を選任すれば、時々刻々と推移する捜査状況に対応するために適宜接見機会を作ってくれるので、防御方針や供述方針についてアドバイスを貰えるでしょう。

受け子で関与しただけでも実刑判決のリスクあり!早期に弁護士へ相談しよう

近年、安易な考えで特殊詐欺事件の「受け子アルバイト」に関与して逮捕されるケースが増加傾向にあります。

どのような事情があったとしても「詐欺事件」に関与したことに間違いはないので、初犯でも実刑判決が下される可能性を否定できません。

少しでも軽い刑事処分を獲得して社会復帰しやすい環境を手にするには、刑事手続きの初期段階から優秀な私選弁護人による支援が不可欠です。

警察から連絡がない段階でも取り組める防御活動は用意されているので、まずは刑事事件や詐欺事件に強い弁護士に相談をして、今後の防御方針を見定めてもらうべきでしょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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