独占禁止法違反で逮捕される事例とは?公正取引委員会対応を弁護士に任せるメリットを解説

独占禁止法違反で逮捕される事例とは?公正取引委員会対応を弁護士に任せるメリットを解説
独占禁止法違反で逮捕される事例とは?公正取引委員会対応を弁護士に任せるメリットを解説

独占禁止法違反が公正取引委員会に発覚すると、企業に対して課徴金などの金銭的なペナルティが課されるだけではなく、関係当事者が独占禁止法違反の容疑で逮捕される可能性が生じます。

刑法に規定されるさまざまな犯罪と同じように、独占禁止法違反の容疑で逮捕されると、長期間身柄拘束されたり、実刑判決が下されたりしかねません。できるだけ早いタイミングで独占禁止法や企業法務の経験が強い専門家のサポートを受けるべきでしょう。

そこで今回は、公正取引委員会から問い合わせがあった企業経営者や、企業活動の法令・コンプライアンス遵守の確度を高めたいとお考えの方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。

  • 独占禁止法違反の各行為類型
  • 独占禁止法違反が生じたときに課されるペナルティ
  • 独占禁止法違反が問題視されるときに弁護士へ相談するメリット

当サイトでは、独占禁止法違反事件などの専門性の高い事件の弁護実績豊富な法律事務所を多数掲載中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど企業側に生じるデメリットを軽減しやすくなるので、お近くの信頼できる法律事務所までお問い合わせください。

目次

独占禁止法違反の容疑で逮捕される行為類型

独占禁止法は、「一般の経済市場における公正かつ自由な競争を促して各事業者が自由に経済活動を営める状態を創出し、一般消費者の利益確保・国民経済の健全な発展を促進すること」を目的とする法律です(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)。

本来、企業は各社創意工夫のうえで良質な商品・サービスを生み出すものです。ライバル企業同士が顧客獲得に向けて切磋琢磨することで市場原理が働き、消費者はより良い商品を手にすることができます。そして、競争を勝ち抜いた企業が消費者が今以上にニーズに適した商品・サービスを提供するために、製品開発・設備投資・技術革新に力を入れるようになっていきます。この好循環によって市場経済が活性化し、消費者がさらに良い商品・サービスを市場から選ぶことが可能になるでしょう。

しかし、不正な手段によって公正な市場原理が働かない状態が発生すると、企業がどれだけ経営努力を尽くしても意味がない状況に追い込まれ、「競争を勝ち抜いたわけではない商品・サービス」が市場に溢れてしまいかねません。競争がない状態では良い商品は生まれませんし、消費者が良いモノに触れる機会も失われます。開発などに前向きな企業が市場から排除されるため、経済的にも不健全です。

そこで、このような市場の閉塞・停滞を回避する目的から、独占禁止法では以下の行為類型を禁止しています。

  • 私的独占
  • 不当な取引制限
  • 事業者団体による競争制限行為
  • 企業結合
  • 独占的状態
  • 不公正な取引方法

私的独占

事業者は「私的独占」をしてはいけないと定められています(独占禁止法第3条)。

私的独占とは、「事業者が、単独に、または他の事業者と結合し、もしくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することによって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」です(同法第2条第5項)。たとえば、不相当な低価格販売によってライバル企業が顧客を集客できないような状況を作り出すと、私的独占に該当することを理由にペナルティが課される可能性があります。

私的独占に該当する要件は以下3点です。

  1. 行為者の要件
  2. 行為形態の要件
  3. 対市場効果の要件

行為者の要件

私的独占の主体は「事業者」です。

事業者とは、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定義されています(独占禁止法第2条第1項)。

「その他の事業」には「なんらかの経済的利益の供給に対して反対給付を反復継続して受ける経済活動」が幅広く含まれます(最判平元12月14日)。商法上の商人概念のように営利性は要件とされません。また、自然人・法人・公法人などを問わず、事業者性は認められます。

その一方で、一方的な給付のみだけで反対給付を受けない純粋な社会福祉事業・慈善事業の事業者性は否定されます。

行為形態の要件

私的独占の行為形態は「排除」「支配」です。

排除

排除とは、「他の事業者の事業活動を継続困難にし、または、新規参入を困難にする行為」を意味します。排除に該当する典型例として、以下のものが挙げられます。

  • 低価格販売:「商品を供給しなければ発生しない費用さえ回収できない対価」を設定してモノ・サービスを売却する行為
  • 排他的取引:取引の相手方に対して、「自己の競争者からの取引を禁止し、または、制限すること」を取引の条件とする行為
  • 抱き合わせ:取引の相手方に対して、ある商品(主たる商品)の供給に合わせて他の商品(従たる商品)を購入・供給させる行為
  • 取引拒絶・差別行為:川上市場の事業者が、川下市場の事業者に対して、川下市場で事業活動を展開するために必要な商品を、合理的な範囲を超えて、供給拒絶・供給に係る商品の数量・内容の制限・供給条件等について差別的な取り扱いをすること

私的独占の「排除」に該当する事例として、パラマウントベッド事件が挙げられます。本件では、東京都が発注する医療用ベッドについて、Xが実用新案権を有するベッドのみが納入可能になるように東京都の発注担当者に働きかけをして、Xの競争事業者がベッドの納入をできないようにしたため、Xの競争事業者を排除するものとされました(勧告審決平成10年3月31日)。

支配

支配とは、「他の事業者についてその事業活動に関する意思決定を拘束し、自己の意思に従わせること」です。支配に該当する典型例として、以下のものが挙げられます。

  • 株式保有、役員兼任等の会社組織上の手段による支配
  • 取引上の優先的な地位を利用することによる支配

私的独占の「支配」に該当する事例として、野田醤油事件が挙げられます。本件は、醤油の製造販売において圧倒的な地位を有するXが、醤油の出荷価格を引き上げると同時に、販売業者に対して再販売価格の拘束をおこなった事例です。Xは競争事業者に対して直接的な働きかけをおこなっていませんでしたが、「競争事業者がXと同一価格にしないと醤油の格付けを維持できない」という客観的な条件が存在したため、競争事業者の価格決定に関する意思決定を支配したと判断されました(審判審決昭和30年12月27日)。

対市場効果の要件

私的独占が成立するには、「排除または支配に該当する行為がおこなわれたこと」だけでは足りず、「排除または支配に該当する行為によって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が必要です。

まず、「一定の取引分野」とは、「排除行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲」のことです。個別事案の具体的な行為や、取引の対象・地域・態様等の諸般の事情によって取引分野が確定されます。

次に、「競争の実質的制限」は、「市場支配力の形成・維持・強化」を意味します。具体的には、「『競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格・品質・数量などの諸条件を左右することによって、市場を支配することができる状態』を形成・維持・強化すること」です。

一定の取引分野における競争の実質的制限があったか否かを判断するときには、以下の事情が総合的に考慮されます。

  • 行為者の地位及び競争者の状況(行為者の市場シェア、順位、市場における競争の状況、競争者の状況など)
  • 潜在的競争圧力(法令上の参入障壁の程度、実態面での参入障壁の程度、参入者の商品と行為者の商品との代替性の程度など)
  • 需要者の対抗的な交渉力
  • 効率性
  • 消費者利益の確保に関する特段の事情

たとえば、市場シェア率が50%を超えるような状況でライバル企業の株式を取得したような事案では、私的独占の疑いをかけられる可能性が高いでしょう。

不当な取引制限

事業者は不当な取引制限をしてはいけないと定められています(独占禁止法第3条)。

不当な取引制限とは、「事業者が、契約、協定その他何らかの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定・維持・引き上げ、または、数量・技術・製品・設備や取引の相手方を制限するなど、相互にその事業活動を拘束または遂行することによって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」です(独占禁止法第2条第6項)。いわゆる「カルテル規制」に位置付けられます。

不当な取引制限に該当する要件は以下3点です。

  1. 事業者が
  2. 他の事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し、または、遂行することによって
  3. 公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限する

事業者

不当な取引制限の主体は「事業者」です。事業者の詳細については私的独占の項をご参照ください。

なお、カルテル規制である以上、不当な取引制限の当事者としての事業者はかならず複数でなければいけません

共同行為による相互拘束・共同遂行

不当な取引制限は、「他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、または、遂行するとき」に成立します。

共同行為による相互拘束・共同遂行と認められるには、「複数の事業者間で、何らかの反競争効果をもたらすための”意思の連絡”」が必要です。また、この意思を通じて互いの行動を調整し合う関係が全体として成立していなければいけません。

意思の連絡とは、「複数事業者間で相互に同内容または同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があること」です。「相互に他の事業者の対価の引き上げを認識して、暗黙のうちに認容すること」で足ります。一方の対価引き上げを他方が単に認識・認容するだけでは足りませんが、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは要求されません。

公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限する

詳細については私的独占の項をご参照ください。

【注意!】カルテルの種類

不当な取引制限に該当するカルテルには多種多様なものが含まれます。

競争の実質的制限の程度を判断するときには、カルテルの類型や個別具体的な事情が総合的に考慮されます。

横のカルテルと縦のカルテル

カルテルは、不当な取引制限の当事者の関係性によって、「横のカルテル」「縦のカルテル」に分類されます。

横のカルテルとは、互いに競争関係にある者の間で事業活動の制限が課される不当な取引制限のことです。「水平的制限」と呼ばれることもあります。たとえば、ライバル企業同士が歩調をそろえて商品価格を調整するようなケースが挙げられます。

縦のカルテルとは、互いに取引関係にある者の間で事業活動の制限が課される不当な取引制限を指します。「垂直的制限」と称されることもあります。たとえば、メーカーと卸売業者との間で協調するケースが挙げられます。

一般的に、”横のカルテル”の方が”縦のカルテル”よりも競争を制限する危険性が高いと考えられています。

ハードコア・カルテルと非ハードコア・カルテル

ハードコア・カルテルとは、「競争の実質的制限のみを目的とするカルテルや、客観的に反競争効果が明白で競争促進効果が一切存在しないカルテル」のことです。

ハードコア・カルテルの典型例として、以下のものが挙げられます。

  • 価格カルテル:価格の引き上げ幅、標準価格の決定、再販売価格の決定、リベートや割り戻しに関する密約など
  • 数量制限カルテル:共同して生産量・販売量を制限するカルテル
  • 取引先制限カルテル・市場分割カルテル:顧客争奪の禁止、取引先の専属登録制、市場分割など
  • 入札談合:入札に係る取引において、あらかじめ受注者を競争者間で決定すること

    非ハードコア・カルテルとは、「行為の外形上の特徴のみから競争の実質的制限のみを目的とするとは判断しにくく、個別具体的な事情を精査する必要があるカルテル」のことです。社会的に望ましい効果をもつ経済活動でも、状況次第ではカルテル規制の対象になりかねません。

    非ハードコア・カルテルとして不当な取引制限の可能性が問題になるケースとして以下のものが挙げられます。

    • 共同研究開発
    • 規格化・標準化
    • 共同生産・共同販売・共同購入
    • 情報交換活動
    • 社会的目的の共同行為

    企業結合

    企業結合とは、株式保有、役員兼任、合併など、会社組織の継続的一体性をもたらす会社法上の手段のことです。

    ハードコア・カルテルとは異なり、企業結合行為自体には競争制限効果は存在しません。

    そのため、企業結合規制では、以下の「独占禁止法第9条~18条に規定される各行為が市場に対してどのような競争制限効果を与えるか」が個別具体的に判断されます。

    • 株式の保有
    • 役員の兼任
    • 合併
    • 分割
    • 株式移転
    • 事業の譲受け

    独占的状態

    すでに市場に「独占的状態」があるときには、公正取引委員会から事業者に対して、当該商品・役務について競争を回復させるために必要な措置(事業の一部譲り渡しなど)が命じられます(独占禁止法第8条の4)。

    独占的状態とは、「同種の商品並びにこれとその機能及び効用が著しく類似している他の商品で国内において供給されたものの価額の政令で定める最近の1年間における合計額が1,000億円を超える場合における当該一定の商品または役務に係る一定の事業分野において、市場構造や市場競争に問題がある場合」のことです(同法第2条第7項)。

    不公正な取引方法

    事業者は、「不公正な取引方法」をしてはいけないと定められています(独占禁止法第19条)。

    不公正な取引方法とは、以下の独占禁止法第2条第9項各号に規定される行為類型のことです。

    種類 内容
    不当な差別的取り扱い 不当な取引拒絶、差別対価・取引条件等の差別的取り扱い
    不当対価取引 不当廉売、不当対価購入
    事業活動の不当拘束 再販売価格の拘束、不当な排他的条件付取引など
    優越的地位の濫用 優越的な地位を利用して他社の事業活動に悪影響を生じることなど
    不当な顧客誘引・取引強制 ぎまん的顧客誘引、不当な利益による顧客誘引、不当な取引強制など
    不当な取引妨害・内部干渉 威圧・脅迫、誹謗中傷、物理的妨害、供給遅延、並行輸入阻害など

    なお、行為それ自体が違法と扱われる場合もありますが、個別具体的な「公正競争阻害性(市場における自由競争を阻害したか否か)」が判断され得る点に注意が必要です。

    事業者団体による競争制限行為

    事業者団体は、以下に該当する行為を禁止されています(独占禁止法第8条)。

    • 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること
    • 不当な取引制限または不公正な取引制限に該当する国際的協定・国際的契約を締結すること
    • 一定の事業分野における現在または将来の事業者の数を制限すること
    • 構成事業者の機能または活動を不当に制限すること
    • 事業者に不公正な取引制限に該当する行為をさせようとすること

    事業者団体とは、「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体またはその連合体」のことです(同法第2条第2項)。

    独占禁止法違反が発覚したときに起こること

    独占禁止法違反の行為に対してはさまざまなペナルティが課されます。

    まず、独占禁止法では、違反行為に対する措置として、行政上の措置を中心に、悪質性の高いものには刑事上の措置を設けています。また、違反行為に対する被害者救済のために民事上の措置も用意しています。

    刑事罰や過料を科される

    一定の独占禁止法違反の行為に対しては刑事罰が定められています

    たとえば、私的独占や不当な取引制限をしたときの法定刑は「5年以下の懲役刑または500万円以下の罰金刑」です(独占禁止法第89条第1項第1号)。

    刑事罰の対象になる事案では、独占禁止法違反行為に関与した人物や会社代表者が逮捕・勾留される可能性もあります。もちろん、在宅事件として処理されることも多いですが、場合によっては数日~数週間の身柄拘束期間が生じかねません。

    また、独占禁止法違反事件が刑事事件化した場合には、初犯でも実刑判決が下されるリスクに晒されます。

    適切な防御活動を展開して丁寧に用意すれば不起訴処分・執行猶予付き判決・罰金刑の獲得も不可能ではないので、かならず独占禁止法や企業法務に強い弁護士までご相談ください。

    独占禁止法違反事件では、違反行為をした者に加えて、法人に対しても罰金刑が科される場合があります(両罰規定)。たとえば、私的独占や不当な取引制限については「5億円以下の罰金刑」が定められています(同法第95条第1項第1号)。

    行政上のペナルティが課される

    独占禁止法違反の行為は行政処分の対象です。

    ここでは、排除措置命令競争回復措置命令課徴金納付命令について解説します。

    排除措置命令を下される

    排除措置命令とは、「独占禁止法違反状態を是正するために公正取引委員会が発する命令」のことです(独占禁止法第49条)。

    公正取引委員会とは、「内閣府設置法第49条第3項に基づき、独占禁止法第27条第1項により、同法の目的を達成することを任務として設置された行政機関」のことです。委員長及び4人の委員からなる合議制の行政機関で、国家行政組織上は「内閣府の外局」として内閣総理大臣の所轄に属します(同法第27条の2)。ただし、公正取引委員会の委員長・委員には独立して職権を行使する権限が与えられているので(同法第28条)、実質的には上級官庁の指揮命令を受けることのない独立した行政委員会に位置付けられます。

    公正取引委員会は、個別の独占禁止法違反事件に対して調査を実施して、排除措置命令の内容を決定します

    たとえば、価格カルテルによって商品の値段を不当につり上げていた事案では、「価格に関する合意の破棄」「社員や関係企業に対して合意破棄をした旨を周知すること」「今後価格を共同で取り決めないなどの再発予防措置を徹底すること」が命じられるでしょう。

    競争回復措置命令が発せられる

    競争回復措置命令とは、「独占的状態を是正するために公正取引委員会が発する命令」のことです(独占禁止法第8条の4第1項)。

    事業の一部の譲渡など、その他当該商品・役務について競争を回復させるために必要な措置が、個別具体的な事情を考慮して命じられます

    ただし、公取委による競争回復措置命令によって事業者の経営規模が縮小したり、経理が不健全になったりする場合には、競争回復措置命令は発せられません。

    また、事業者側が自主的に競争を回復するための措置を講じた場合も、共同回復措置命令の発付は見送られます。

    さらに、公正取引委員会が競争回復措置命令を発するときには、以下の事情に基づき、事業活動の円滑遂行や雇用される者の生活安定について配慮されます(同法第8条の4第2項)。

    • 資産及び収支その他の経理の状況
    • 役員及び従業員の状況
    • 工場、事業場及び事業所の位置その他の立地条件
    • 事業設備の状況
    • 特許権、商標権その他の無体財産権の内容及び技術上の特質
    • 生産、販売等の能力及び状況
    • 資金、原材料等の取得の能力及び状況
    • 商品又は役務の供給及び流通の状況

    課徴金納付命令が下される

    課徴金納付命令とは、「価格カルテルなどの独占禁止法違反に及んだ事業者から競争制限による経済的利得を課徴金として国庫に納付させる制度」のことです(独占禁止法第7条の2、同法第7条の9、同法第20条の2~同法第20条の6)。

    独占禁止法違反の”やり得”を防止するために、刑事罰以外に金銭的ペナルティが課されます。

    課徴金納付命令の対象行為

    課徴金納付命令の対象行為は以下の通りです。すべての独占禁止法違反に対して課徴金納付命令が発せられるわけではありません。

    • 不当な取引制限(カルテル、談合)
    • 排除型私的独占
    • 支配的私的独占
    • 共同の取引制限
    • 差別対価
    • 不当廉売
    • 再販売価格の拘束
    • 優越的地位の濫用
    課徴金額の計算方法

    課徴金の金額は以下の計算式によって算出されます。

    課徴金額 = (違反行為に係る期間中の対象商品・役務の売上額や購入額、密接関連業務の対価の額)×(課徴金算定率)+(違反行為に係る期間中の財産上の利益に相当する金額)

    課徴金算定率は、行為類型ごとに以下のように定められています。

    行為類型 課徴金算定率
    不当な取引制限 10%(違反事業者及びグループ会社がすべて中小企業の場合は4%)
    支配的私的独占 10%
    排除型私的独占 6%
    共同の取引拒絶
    差別対価
    不当廉売
    再販売価格の拘束
    3%
    優越的地位の濫用 1%

    なお、独占禁止法違反行為を繰り返した場合や、独占禁止法違反行為において主導的役割を担っていた場合には、それぞれ課徴金額が1.5倍に上乗せされます。違反行為を反復継続し、かつ、違反行為において主導的役割を担ったときには、課徴金額が2倍まで加算され得ます。

    また、行政処分である課徴金納付命令と刑事罰である罰金刑が同時に問題になるケースでは、「罰金額の1/2に相当する金額」が課徴金から控除されます。

    課徴金の調査協力減算制度

    市場の健全化を考えると、可能な限り競争制限効果を排除する必要があります。

    もちろん、公正取引委員会は職権で調査を開始して独占禁止法違反の行為に対して是正するように動きます。

    しかし、公正取引委員会のマンパワーにも限界があるので、すべての独占禁止法違反行為が発見されるわけではないでしょう。

    そこで、独占禁止法では、「課徴金の調査協力減算制度(新課徴金減免制度)」を設けて、独占禁止法違反行為に関与している事業者が積極的に通報・報告するように促しています。公正取引委員会がおこなう事件調査に事業者が協力するインセンティブを高めることによって、効率的かつ効果的に事件が真相解明されて、違反行為の排除・抑止によって市場原理の回復が実現されます。

    調査協力減算制度の内容は以下の通りです。将来的に高額の課徴金を課されるリスクを軽減したいときには、他の事業者に先立って公正取引委員会の調査活動に協力するべきでしょう。

    【公正取引委員会の調査開始前】

    課徴金減免申請の順位 課徴金減免申請の順位に応じた減免率 事件の真相解明に資する程度に応じた減産率
    1位 全額免除
    2位 20% 最大40%
    3位~5位 10% 最大40%
    6位以下 5% 最大40%

    【公正取引委員会の調査開始後】

    課徴金減免申請の順位 課徴金減免申請の順位に応じた減免率 事件の真相解明に資する程度に応じた減算率
    最大3社(調査開始前と合わせて5社まで) 10% 最大20%
    上記以外 5% 最大20%

    民事上の責任を追及される

    独占禁止法違反行為に及んだ場合、民事上の法的責任を追及される可能性もあります。

    独占禁止法違反行為によって被害を受ける私人から想定される主張は以下3つです。

    • 契約などの法律行為が独占禁止法違反で無効
    • 損害賠償請求
    • 差止請求

    契約などの法律行為が独占禁止法違反で無効

    契約や契約解除などの法律行為が独占禁止法違反を理由に無効主張される可能性があります。

    たとえば、債務不存在の根拠、損害賠償請求に対する抗弁、不当利得返還請求の根拠、契約上の地位の確認、商品などの引き渡しの根拠として、契約などの法律行為について独占禁止法違反が理由とされます。

    なお、「独占禁止法と私法はまったく別の法領域なので、独占禁止法を理由に契約の有効性が左右されることはない」というのは間違いです。

    もちろん、独占禁止法違反を理由に直ちに契約などが無効になるわけではありません。しかし、独占禁止法違反の個別具体的な状況が公序良俗に違反する状況なら、独禁法違反が民事上の契約の効力を左右することになります。

    契約の有効・無効によって企業側が負担する賠償責任の範囲は大きく変動します。公序良俗違反の判断では相当細かい事情が考慮されるので、かならず独占禁止法違反事件や企業法務に強い弁護士までご依頼ください

    損害賠償請求

    独占禁止法違反行為に及んだ事業者が負担する損害賠償責任については、独占禁止法で特則が定められています(同法第25条、同法第26条)。

    独占禁止法上規定される損害賠償責任は「無過失責任」です(同法第25条第2項)。

    具体的には、私的独占・不当な取引制限・国際的協約に関する違反・不公正な取引方法に及んだ事業者及び同法第8条に違反した事業者団体は、故意または過失がなかったことを証明して賠償責任を逃れることはできません

    なお、独占禁止法違反を根拠にする賠償責任は、「排除措置命令または納付命令が確定した日から3年」で消滅時効にかかります(同法第26条第2項)。

    また、独占禁止法違反が民法上の不法行為責任(民法第709条)の要件を満たす場合には、これを根拠に賠償責任を追及される危険性もあるのでご注意ください(最判平成元年12月8日)。

    差止請求

    不公正な取引方法によってその利益を侵害され、または、侵害されるおそれがある者は、これによって著しい損害を生じ、または、生じるおそれがあるときには、侵害事業者・事業者団体に対して、その侵害の停止または予防を請求(差止請求)することができます(独占禁止法第24条)。

    つまり、独占禁止法違反行為に及んだ場合だけではなく、他事業者にとって事業活動に対して侵害リスクがある行為に及ぼうとしている場合には、差止請求の対象になる可能性がある点に注意しなければいけません

    特に、これから事業活動を展開しようとする場合には、ライバル企業などから差止請求をされないような事前調査が不可欠です。独占禁止法違反で摘発されるような事案だけではなく、普段から継続的に企業法務や当該事業活動の実務に詳しい法律事務所に相談しておくことを強くおすすめします。

    独占禁止法違反で逮捕されそうなときに弁護士へ相談するメリット

    独占禁止法違反の容疑で逮捕されるか不安な状況に置かれたときや、独占禁止法違反などのリスクのない健全な状態で事業活動を継続したいとご希望の経営者の方は、すみやかに弁護士に相談することをおすすめします。

    なぜなら、企業法務や独占禁止法違反事件に強い弁護士の力を借りることで、以下3つのメリットを得られるからです。

    1. 公正取引委員会の措置に対して適切な対応をとってくれる
    2. 独占禁止法違反の容疑をかけられないような健全な企業経営アドバイスを期待できる
    3. 課徴金の調査協力減算制度への対応を期待できる

    公正取引委員会の措置に対して適切な対応をとってくれる

    独占禁止法違反事件が発覚すると、さまざまな手続きに巻き込まれます。

    たとえば、犯則事件調査、審判手続き、審決に対する取消訴訟など、段階に応じて公正取引委員会に対抗する必要に迫られます。

    独占禁止法違反事件が立件されると、早期に対策を取らなければ高額の課徴金負担や厳しい是正措置の対象になりかねません。

    特に、逮捕されて刑事罰の対象になるような事案では、身柄拘束期間の短縮化や不起訴処分・執行猶予付き判決獲得に向けた防御活動の負担も生じます。

    できるだけ早いタイミングで弁護士に相談をして、少しでも今後の事業活動や社会生活に支障がない状況を作り出すべきでしょう。

    独占禁止法違反の容疑をかけられないような法的アドバイスを提供してくれる

    企業活動を継続するには、M&Aや設備投資など、さまざまな経営判断を強いられる機会にぶつかるはずです。

    しかし、「自社の経営状況を改善するため」という目的であったとしても、独占禁止法などの諸規制に違反する状況が肯定されるわけではありません。しかし、事業活動に強い経営者でも、かならずしも法律に詳しいわけではないでしょう。

    そのため、企業活動を継続・展開するときには、常に独占禁止法などに詳しい専門家の意見を聴く機会を作るべきだと考えられます。顧問契約によって随時必要なリーガルサービスを提供してくれる法律事務所も多く存在するので、普段から法的アドバイスをアウトソーシングする機会を設けるように意識してください。

    課徴金の調査協力減算制度で報告すべき事情を丁寧に整理してくれる

    課徴金の調査協力減算制度で高い減算率を獲得するには、公正取引委員会の調査に対して積極的かつ効果的な協力をする必要があります。

    弁護士は、独占禁止法違反行為の状態ごとに適切な調査・情報収集をおこない、高い減算率の獲得を実現してくれるでしょう。

    独占禁止法違反の状況ごとに報告すべき事実の具体例は以下の通りです。

    報告すべきテーマ 具体的な内容
    違反行為の対象となった商品または役務 ・商品または役務の名称、種類、用途、特性
    ・供給等が可能な地理的な範囲
    ・需要者、供給者、流通経路
    ・市場占有率
    ・価格変動要因
    ・規格その他関連規制
    ・発注情報(発注者名、発注者の担当者名、発注方法など)
    違反行為の態様 ・合意内容(価格、生産数量、販売地域、受注調整の方法など)
    ・合意内容の決定方法(会合、電話、電子メールなど)
    ・合意の実施方法(決定された価格での供給等を開始した時期、個別物件における受注予定者の決定方法、受注予定者以外の者の協力方法、受注価格の伝達方法など)
    ・社内における検討状況(価格決定方法、受注を目指す物件の決定方法など)
    違反行為の参加者 ・違反行為者の情報(事業者名、所在地、株主・グループ会社の構成、部署の指揮監督系統、加入している業界団体など)
    ・違反行為に関与した担当者の情報(所属事業者名、役職、氏名、経歴、社内における権限・地位、違反行為への関与期間など)
    違反行為の時期 ・違反行為の開始時期(合意をした時期、経緯、契機など)
    ・違反行為の終了時期(違反行為を取りやめた時期、経緯、契機など)
    違反行為の実施状況 ・取引先への価格交渉の時期、方法など
    ・違反行為の前後を含む商品・役務の価格動向など
    ・価格交渉の状況など、違反行為者間の情報交換(時期、場所、方法など)
    ・合意内容を実施しない事業者への対応、報復など
    ・価格改定などに係る取引先への通知、業界紙への連絡状況など
    ・商品・役務の受注状況(受注者、受注価格など)
    課徴金額の算定に関する事項 ・違反行為の対象になった商品・役務の売上額など
    ・違反行為の対象になった商品・役務の供給に関して完全子会社などに与えていた指示や情報の内容
    ・商品・役務に密接に関連する業務の対価の額に相当する額
    ・商品又は役務を供給しないことに関して得た財産上の利益に相当する額
    ・過去の違反歴
    ・違反行為者が他の事業者に違反行為をすることなどを要請した具体的な内容
    ・違反行為者が他の事業者に違反行為の実行としての事業活動について指定した具体的な内容
    ・違反行為者が他の事業者に公正取引委員会の調査の際に資料等を隠蔽することを要請した具体的な内容
    ・違反行為者が他の事業者に公正取引委員会に減免申請しないこと等を要請した具体的な内容

    独占禁止法違反の不安があるときは弁護士へ相談を!

    独占禁止法違反で立件されると、課徴金の納付命令を下されるだけではなく、違法行為に関与した人物が逮捕される危険性も生じます。たとえば、逮捕されて起訴されるような事態に追い込まれると、初犯でも実刑判決が下されて刑務所に収監されかねません。

    独占禁止法違反で立件された方や、企業活動が独占禁止法違反を生じないか不安を抱えている方は、躊躇なく弁護士までご相談ください。公正取引委員会への対応や企業経営の盤石化に向けたアドバイスを提供してくれるでしょう。

    刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

    刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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