職務質問は「警察官職務執行法」という法律によって明記されている、警察官の職務です。周囲の状況や挙動から判断をして、声がけの必要があると判断された場合は質問が行えます。
職務質問は、地域の治安維持・防犯の観点から見てもとても重要な警察官の職務です。そのため、とくに理由がないのであれば警察官の職務質問を拒否する必要はないでしょう。
ただ、法律上は職務質問は任意であるため、職務質問を拒否しても何ら問題はありません。
今回は、職務質問の法的根拠や拒否をしても良いのか?について詳しく解説をします。警察官の職務質問に疑問や不満を持っている人もぜひ参考にしてください。
職務質問の法的根拠
職務質問とは、警察官が通行人等を停止させて何らかの質問等を行う行為のことを指します。職務質問は、治安維持や防犯といった観点から見て、とても重要な役割を担っています。
職務質問は任意であり、あくまでも警察官から通行人等に「お願い」をする立場です。そのため、当然、職務質問を拒否することが可能です。
しかし、警察官も地域の治安維持や防犯のために必要であると判断をしているため、職務質問を行っています。そのため、協力を求められた場合は協力、対応してあげることが好ましいです。
とはいえ、突然警察官に声をかけられた場合、少し身構えてしまうこともあるでしょう。
そもそも、警察官はどういった法的根拠に基づいて職務質問を行っているのか、また、どういった権限で職務質問を行うことができるのか?について詳しく解説します。
警察官職務執行法によって明記されている
職務質問は「警察官職務執行法」という法律によって以下のとおり明記されています。
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
引用元:警察官職務執行法|第2条
わかりやすく言うと警察官が何らかの罪を犯したもしくはこれから犯そうとしていると疑うに足りる理由がある場合は職務質問を行えます。また、何らかの犯罪について知っていると疑われる人物に対しても職務質問が可能です。
街を歩いていて突然声をかけられた人からすると、「自分は何もしていない」「なぜ、突然声をかけられなければいけないのか?」と感じることはあるでしょう。しかし、警察官はあなたの挙動等から判断して職務質問を行っています。
実際にあなたが何らかの罪を犯しているかどうかは、指名手配犯等ではない限り客観的にはわかりません。そのため、疑うに足りる相当な理由がある場合に限って、任意という形で職務質問を行って地域の治安維持、防犯を行っています。
職務質問の対象となる者も明記されている
警察官職務執行法では、職務質問の対象となる人も明記されています。以下が対象となり得る人です。
- 異常な挙動が認められる場合
- 周囲の事情から合理的に判断して何らかの罪を犯していると疑われる場合もしくは犯そうとしている場合
- 犯罪が行われようとしていることについて知っていると疑える相当な理由がある場合
たとえば、自動車を運転していて蛇行運転をしている場合、「飲酒運転の可能性がある」と判断され、職務質問を行える正当な理由であると認められるでしょう。他にも、夏場であるにもかかわらず手袋をはめて歩いていれば「何らかの犯罪を行おうとしている」と判断されるでしょう。
上記のように、異常な挙動やその他周囲の状況から判断をし「何らかの犯罪の疑いがある」と疑うに足りる理由がある場合は職務質問の対象になります。
ただ「異常な挙動」は人の見方によっても異なります。自分では普通に歩いているつもりであっても、警察官から見ると「異常な挙動である」と判断されるケースもあるため要注意です。
職務質問は任意であり拒否も可能
職務質問は一定の要件を満たした場合に警察官ができる行為です。しかし、あくまでも「任意」であり、職務質問を依頼された通行人等は警察官に対して職務質問を拒否することができます。
しかし、現実的に見ると通行人等が「職務質問には応じません」と言ったところで、警察官が「そうですか」と言ってその場を離れることはまずありません。そのため、事実上は職務質問が半強制的な行為です。
次に、職務質問は拒否しても良いのかどうか、拒否をした場合はどのようなことが起こるのか?について詳しく解説します。
警察官による「強要」はできないと明記されている
職務質問について明記されている「警察官職務執行法第2条」では、「答弁を強要されることはない」と書かれています。つまり、警察官は職務質問を強要することはできないのです。
そのため、通行人等が警察官から職務質問を依頼された場合は、拒否することも法律上可能であるということです。
しかし、現実的には警察官からの職務質問を拒否するのはとても困難です。たとえば「職務質問は任意ですよね?拒否します」と伝えても、「はい、そうですか」と言ってその場を離れる警察官はいません。警察官としても何らかの根拠を持って通行人等に声をかけているためです。
つまり、法律的に職務質問の強要はできないが、「お願い」という形でしつこく職務質問への協力を促して来るのが現実です。
職務質問の拒否=怪しいと判断されるため要注意
何もやましいことがない人であれば、職務質問で声をかけられたとしても、警察官に協力をできるはずです。そのため、「警察官からの職務質問を拒否する=何らかの犯罪に関与している可能性がある」と判断されやすくなってしまいます。
職務質問は、あくまでも任意であり拒否することも可能です。しかし、警察官は通行人の挙動等を見て「犯罪の可能性がある」等と判断をして声をかけています。もし、職務質問を拒否すれば、その疑いがさらに増すことになります。
特別な事情がなければ、職務質問に応じるのが普通であるため、素直に応じたほうが変な疑いをかけられずに済むでしょう。職務質問は、地域の治安維持・防犯のために必要なことであるため、そういった意識を持ち、協力してあげましょう。
警察官を無理に振り払うと公務執行妨害罪で逮捕される可能性もある
警察官からの職務質問はあくまでも任意です。しかし、任意だからと言って職務質問を受けたあなたが無理にその場から離れようとしたり、警察官を押しのけたりすると公務執行妨害罪という犯罪が成立する恐れもあるため要注意です。
公務執行妨害罪とは、公務員の職務の執行を暴行や脅迫によって妨害した場合に成立する犯罪です。警察官が行う職務質問は正当な職務であるため、その場を離れる目的で警察官を強く押したり殴ったり、あるいは脅迫をしたりした場合は公務執行妨害罪になり得ます。
公務執行妨害罪が認められた場合、その場で逮捕されて強制的な取り調べを受けることになります。また、法定刑は「3年以下の懲役または禁錮、50万円以下の罰金」であり重罪です。
事実上、職務質問の拒否は難しい
職務質問はあくまでも任意であり、受けた人に協力をしてもらう形で行われるものです。しかし、現実的に考えると職務質問の拒否は難しいです。
なぜなら、警察官に対して「職務質問を拒否します」と伝えても、「わかりました」と言ってその場を去る警察官は存在しません。お互いの我慢比べが始まるでしょう。
また、職務質問の協力を依頼された人がその場を離れようとしたとき、「肩に手を乗せて止める」程度の行為は認められる可能性があります。このとき、協力を求められている人が手を振り払ってしまった場合、その場で公務執行妨害罪で逮捕される可能性があります。
我慢比べは警察官のほうが強く、公務執行妨害による逮捕や裁判所への令状請求からの強制捜査など、手札は相手のほうが多いです。そのため、事実上職務質問を拒否することは難しいです。職務質問は素直に応じたほうが早めに解放されるため、何もなければ市民の義務として応じるのが好ましいでしょう。
職務質問で行われる内容と所要時間
職務質問で行われる内容は主に「所持品検査」です。さらに、薬物使用の可能性がある場合は、任意で尿を出してもらう場合もあるでしょう。
基本的に、素直に職務質問に応じた場合は、数分程度で終了するケースが多いです。そのため、職務質問の依頼があった場合は、素直に応じてしまったほうが早いです。
所持品検査
初めに、危ないものを持っていないかどうか、所持品の検査を行います。所持品検査では、基本的には自分からポケットの中にしまってあるものをすべて出してもらい、中に違法薬物や刃物等、犯罪となるものを所持していないかどうかを確認します。
また、同意を得られた場合は本人の身分証明書を提示してもらい、過去の前科・前歴の照会を行う流れです。
この所持品検査で危ない物を持っていたり、犯罪に使うであろう物を所持していた場合は、さらに厳しい質問が行われることになります。たとえば、空き巣に使うような物を車両に積んでいた場合、空き巣犯の可能性が高いとしてさらに厳しい質問や検査が行われます。
薬物使用の可能性がある場合は尿検査
所持品検査の結果、たとえば腕に注射跡があったり過去に薬物での前科・前歴があった場合は、あくまでも任意という形で尿を出してもらう場合があります。もし、尿検査を断ると、「薬物使用の可能性が高い」と判断されて令状請求、強制採取となる可能性もあるため要注意です。
何もなければ数分程度で職務質問は終了する
職務質問は、何もなければ数分程度で終了するケースが多いです。基本的には、持ち物をすべて出して、服の上からポケット等を触られて隠している物や危ない物を持っていなければそれで終了します。
「急いでいるから!」などと言って職務質問を拒否すると無駄に時間がかかります。何度もお伝えしていますが、警察官は「わかりました」と言って素直に帰ることはありません。そのため、やましいことがないのであれば急いでいる場合であっても素直に応じたほうが良いです。
職務質問に関するよくある質問
職務質問に関するよくある質問を紹介します。
Q.本当に急いでいて職務質問に応じる余裕がない場合はどうすれば良いですか?
A.職務質問は何もなければ数分程度で終了するため、素直に協力してあげるのが好ましいです。
本当に急いでいる場合であっても、数分程度であれば時間を取れる人もいるのではないでしょうか。この場合は、素直に職務質問に応じてあげたほうが早く解放されます。
もし、数分の時間もないくらい急いでいる場合は、「〇〇で時間がないため拒否します」と伝えれば良いです。また、職務質問を受けたからと言って立ち止まる必要はありません。そのままその場を歩き続けて良いです。
なお、時間がない理由を述べる際は、可能な範囲で具体的に伝えると良いです。「この後、〇〇で取引先と打ち合わせがあるため時間がありません」などと伝えれば、納得してくれるケースも多いです。
警察官がずっと付いてくるような場合は、身分証明書を提示したり名刺を渡したりして「後からこちらに問い合わせしてもらえれば対応します」と伝えれば良いでしょう。
Q.職務質問を拒否し続けたら逮捕されますか?
A.拒否し続けたことによる逮捕の可能性はありません。
職務質問は任意であり、身柄の拘束や答弁の強要はできないと法律によって定められています。そのため、職務質問を拒否しても逮捕されることはありません。
ただし、警察官に暴行を加えたり脅迫をしたりすると公務執行妨害罪によって逮捕される可能性があるため注意しなければいけません。
警察官は、職務質問を行うために立ち去ろうとする通行人の肩を持って止めたり、前に立ち塞がったりする行為は強要ではないとされています。そのため、実際にこういった行為が行われたときに、肩の手を振り払ったり警察官を押して避けたりした場合は暴行として公務執行妨害罪の現行犯逮捕になり得ます。
とくに我慢比べが長引いてしまうと、職務質問の協力を依頼されている側もだんだんイライラしてくるでしょう。このとき、つい、警察官に乱暴な行為をしてしまうとその場で逮捕となるため要注意です。
Q.職務質問と任意同行は何が違いますか?
A.職務質問は任意の質問ですが、任意同行は任意で警察署等へ連れて行くことを指します。
職務質問は挙動や周囲の状況から見て犯罪の疑いがあると判断された場合に、任意で質問をする職務です。職務質問では、交番や警察署等へ強制的に連れて行くことはできないとされています。
一方で、任意同行とは任意で警察署等へ連れて行くことです。たとえば、何らかの犯罪について知っている可能性が高い人物に対して、任意で警察署へ連れて行き、その事件について取り調べを行います。
職務質問はあくまでも「何らかの罪を犯している、もしくは犯そうとしている可能性がある」と判断された人に対して任意かつその場で質問を行う行為。任意同行は犯罪について知っている人物を任意同行し、事件について取り調べを行う行為。といった違いです。
任意同行は何らかの事件の犯人である可能性が高いものの、確固たる証拠がないため、任意同行を求めて自白を得る、という場合にも利用されます任意同行で取り調べを行い、自白やその他証拠を得られてから逮捕状を請求し、そのまま逮捕ということもあります。
Q.事実上拒否が難しい職務質問は、違法ではないですか?
A.職務質問はあくまでも「任意」であり、強制力はないため違法ではありません。
もちろん、警察官としても行き過ぎた行為があった場合は違法になる可能性があります。たとえば、監禁罪や強要罪が成立することもあるでしょう。
しかし、建前上は任意であり、あくまでも協力を依頼している立場であり、強制ではありません。そのため、違法性はないと判断されることが多いです。また、警察官は違法となるラインを把握しているため、違法にはならないライン際で職務質問を行っています。
上記のことから、警察官が行う職務質問が違法になる可能性は低いです。
Q.職務質問を受けたときの正しい対処法を教えてください。
A.「素直に応じる」ことが正しい対処法です。
警察官から職務質問の依頼があった場合は、素直に応じましょう。素直に応じれば数分程度で終了します。そのため、とくに理由がないのに拒否をしたりその場を逃げたりすると余計に時間がかかってしまいます。
職務質問は地域の治安維持・防犯といった意味があります。警察官が職務質問を行うことによって、犯罪を未然に防げる可能性もあるでしょう。
たとえ、自分は犯罪者ではない、怪しいものは持っていない、という状況であっても警察官から協力を依頼された場合は、素直に協力してあげるようにしましょう。そういった積み重ねが治安維持に繋がっているためです。
まとめ
今回は、職務質問の拒否について解説しました。
警察官が行う職務質問は、警察官職務執行法という法律によって明記されている正当な職務です。しかし、強制力はなく、あくまでも任意・お願いという形で行われるものです。
そのため、法律的には職務質問の拒否は可能です。ただ、現実的に拒否をすることは難しいです。なぜなら、警察官も何らかの疑いを持って声をかけているためです。その疑いが晴れなければ、未然に防げた犯罪が実際に発生してしまうかもしれません。
一つ一つの声がけが地域の治安維持、防犯につながっています。そのため、職務質問の依頼があった場合は、拒否をせずに協力するようにしましょう。