虚偽告訴罪とは「虚偽の告訴・告発をした場合」に成立する犯罪です。虚偽の告訴をすることによって、告訴された人は人生を狂わされてしまう恐れがあります。また、警察等の捜査機関は嘘の事件について時間と人員を割いて捜査を行わなければいけません。
そのためたとえ「面白半分」や「冗談」のつもりであっても、その行為は犯罪となるため注意しなければいけません。
この記事では虚偽告訴罪の成立要件や具体的な例について詳しく解説しています。虚偽告訴罪について詳しく知りたい人は、本記事を参考にしてください。
虚偽告訴罪とは
虚偽告訴罪とは、虚偽の告訴をしたものに対して問われる犯罪です。「虚偽」とは嘘のことであり、「告訴」とは犯罪事実を申告し、犯人に対する処罰を求める行為のことです。
つまり、虚偽告訴罪とは、嘘の犯罪事実を申告して犯罪に対する処罰を求めた場合に成立する犯罪です。まずは、虚偽告訴罪について詳しく解説していきます。
虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪
虚偽告訴罪は虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪です。告訴をすることによって警察等の捜査機関は事件として認知し、捜査を開始します。告訴された内容の信ぴょう性が高い場合は、被疑者を特定し、任意で事情を聞いたり逮捕をしたりします。
つまり、嘘の告訴をした場合であっても警察は動き、何の罪もない人が時間を奪われ、最悪の場合は長期間にわたって勾留されてしまう可能性があるのです。
発生していない事件について人員を割き、無実の人が人生を狂わされてしまうのが「虚偽告訴」です。重大な事態を引き起こす可能性のある行為であり、絶対にやってはいけない行為であることは誰もがわかっていることでしょう。
そのため、虚偽の告訴をした者に対しては「虚偽告訴罪」という犯罪が成立し、処罰の対象になります。絶対にやめましょう。
刑法第172条によって定められている法律
虚偽告訴罪は刑法という法律の172条に記載されています。条文は以下のとおり記載されています。
第百七十二条
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。引用元:刑法|第172条
つまり、「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」という前提のもと、虚偽の告訴をした場合は虚偽告訴罪が成立します。
たとえば、あなたは会社の同僚Aを妬んでおり、どうにかして刑事罰や懲戒処分を与え、社会的にダメージを与えたいと考えていたとしましょう。そうした考えのもと、「Aが会社のお金を同僚している」と虚偽の告訴をしました。この場合、虚偽告訴罪が成立するのです。
ただ、一方で「Aが会社のお金を横領している」といった噂を聞き、正義感の強いあなたは会社にその旨を伝えたとしましょう。この場合は、虚偽告訴罪は成立しません。
なぜなら「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」という前提がないためです。仮に、上記の内容がただの噂であり、嘘であったとしても「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」の前提がないため虚偽告訴罪に問われることはありません。
ただし、虚偽の噂を流した人は刑法に定められている「信用毀損および偽計業務妨害」に該当し、処罰される可能性があるため注意しましょう。
虚偽告訴罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の懲役」
虚偽告訴罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の懲役」となっており、罰金刑のないとても重い犯罪です。虚偽告訴罪は「ただ嘘をついただけなのに……」と思っている人がいるかもしれません。
しかし、虚偽の告訴をすることによって捜査機関は人員を割いて捜査を行い、犯罪の疑いをかけられた人は社会的信用を失ってしまいます。このことを考えると虚偽の告訴をした人の犯行は非常に重く、厳しく罰せられるべきです。
ただし、「3カ月以上10年以下の懲役」の法定刑であるため、執行猶予付きの判決が下される可能性もあります。執行猶予が付くと前科は残ってしまうものの、刑務所に収監されることはありません。しっかり社会で反省をして更生して行く機会を与えられる犯罪でもあります。
虚偽告訴罪の成立要件
虚偽告訴罪が成立するためには以下3つの要件を満たしている必要があります。
- 人に何らかの処罰を与えようとしていること
- 虚偽の告訴・告発であること
- 故意が認められること
次に、虚偽告訴罪の成立要件についても詳しく解説します。
1.人に何らかの処罰を与えようとしていること
虚偽告訴罪が成立するためには「人に何らかの処罰を与えようとしていること」が前提です。先程の条文でも解説したとおり、「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」という前提が必要になります。
つまり、刑事または懲戒の処分を受ける可能性のない虚偽告訴をしたとしても虚偽告訴罪は成立しません。
たとえば「同僚のAさんは不倫をしている」と虚偽の内部告発をしたとしても、犯罪は成立しません。なぜなら仮に不倫をしていたとしても刑事罰に問われることはないためです。また、懲戒処分も受けることもないためです。
懲戒処分とは、一般的に企業が従業員に対して下す処分のことを指します。懲戒処分には軽いものから戒告・譴責(けんせき)・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇があります。
会社によっては社内不倫が原因で懲戒処分が下される可能性もあります。この場合は、虚偽告訴罪が成立する可能性もあるため注意しましょう。
上記のように虚偽告訴罪が成立するためには「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」という前提が必要です。「嫌いなAさんに社会的ダメージを与えよう」などと考えて虚偽告訴をしただけでも成立するため要注意です。
2.虚偽の告訴・告発等であること
虚偽告訴罪が成立するためには虚偽の告訴・告発である必要があります。たとえば、事実の告訴・告発をした場合は虚偽告訴罪は成立しません。また、虚偽告訴のつもりで行った場合であっても、実は真実であったような場合も虚偽告訴罪は成立しません。
たとえば、同僚のAさんを陥れようとして「Aさんは会社のお金を横領している」と内部告発をしたとしましょう。あなたは、ただAさんを陥れようとして虚偽の告訴をしたつもりです。しかし実際にAさんが会社のお金を横領していたような場合は、虚偽告訴罪が成立しないことになります。
また、虚偽告訴罪が成立するためには「告訴」もしくは「告発」をしている必要があります。
告訴とは法律に定められている一定の人(被害者等)が権限を有する捜査機関(警察等)に犯罪事実を申告し、処罰を求める行為です。ただ申告しただけでは告訴とはならず、必ず処罰を求める意思表示が必要です。
告発とは告訴する権利を有していない人が捜査機関(警察等)に犯罪事実を申告し、処罰を求める行為です。告訴同様にただ申告しただけでは告発とはならず、必ず処罰を求める意思表示が必要です。また、内部告発であっても成立します。
つまり、ただ嫌いなAさんに対して社会的ダメージを与える目的で噂を流しただけでは、虚偽告訴罪は成立しません。あくまでも捜査機関等に対して告訴したり告発したりした場合に成立する犯罪です。
3.故意が認められていること
虚偽告訴罪が成立するためには「故意」がなければいけません。故意とは「結果の予想をたて、意思をもって行うこと」と考えておけば良いです。
たとえば、虚偽の告訴をした場合に虚偽告訴の被害者となった人が社会的にダメージを受けてしまうことは想像できるはずです。そのうえで虚偽の告訴をしていることが必要です。
そのため、噂話を信じて告訴したり告発したりした場合は「故意」がないため虚偽告訴罪が成立しません。たとえば風の噂で「同僚のAさんは会社のお金を横領している」と聞き、その噂を信じて内部告発したような場合です。この場合は、故意がないため虚偽告訴罪は成立しません。
虚偽告訴罪の具体例
虚偽告訴罪は「虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪」ですが、あまり聞きなれない罪であるのも事実です。そのため、具体的な例をもとになぜ虚偽告訴罪が成立するのか、あるいは虚偽告訴罪が成立しないのかについて詳しく解説します。
嫌いな人を陥れるために虚偽の告訴をした場合
嫌いな人を陥れる目的で虚偽の告訴をした場合は、虚偽告訴罪が成立します。たとえば、嫌いな人(仮にAさんとします)を陥れる目的で食事に誘い、その後にホテルへ行って性行為をしたとしましょう。
その後、あなたは「無理やりされた!」と嘘の告発をし、Aさんが不同意性交等罪で逮捕されたとします。しかし、Aさんは「同意があった」と主張するはずです。警察や検察は同意があったかどうかについて捜査を行うことになるでしょう。
結果的に同意があったことが明らかとなれば、あなたは虚偽告訴罪で処罰される可能性があります。
本事例で虚偽告訴罪が成立するための要件は以下のとおりです。
1.Aさんを陥れようとしている(刑事罰・懲戒処分を受けるように仕向けている)
2.「無理やり行為をされた」と虚偽の告訴をしている
3.あなたはAさんを陥れようという故意がある
上記のことから虚偽告訴罪は成立し、実際に処罰の対象になり得ます。
一方で、以下のような例の場合は虚偽告訴罪が成立しません。
- 同意をしていない場合
- 同意をできない状態にあった場合
- Aさんを陥れようとは考えていなかった場合
まず、同意のない性行為等は法律によって当然禁止されています。たとえ大人の男女がホテルに入室したとしても、「入室=同意があった」とは認められません。そのため、Aさんの不同意性交等罪は成立するため、あなたの虚偽告訴罪は成立しません。
次に、あなたが同意または不同意の意思を示すことができない状況であった場合です。たとえば食事に行った際に大量の飲酒をし、酩酊状態にあった場合。またはAさんが上司であり「断れば自分のキャリアに影響を与えるかもしれない……」と考えていたような場合です。
上記の場合もAさんに対する不同意性交等罪が成立するため、あなたに対する虚偽告訴罪は成立しません。
そして、そもそもAさんを陥れようとしていなかった場合です。虚偽告訴罪は「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」という前提が必要です。そのため、その前提がなければそもそも虚偽告訴罪は成立しません。
たとえば、仮に「その場では同意をしたけど後から考えたらやっぱり嫌だった……」と考えて不同意性交等罪の告訴をした場合です。この場合、虚偽告訴罪は成立しません。
ただし、あなたが虚偽の告訴をすればAさんは社会的に大きな影響を与えます。そのことを認識しておきながら虚偽告訴をした場合は、虚偽告訴罪に問われるため注意してください。
痴漢をされていないにも関わらず「痴漢された」と告訴した場合
痴漢をされていないにも関わらず、特定の人を陥れようとして「痴漢された!」と虚偽の告訴をした場合に虚偽告訴罪は成立します。虚偽告訴罪は前提として「刑事または懲戒の処分を受ける目的で」があります。
しかし、「痴漢冤罪で示談金を騙し取る目的で」という前提でも事足ります。そのため、たとえば示談金を詐取する目的で何の罪のない人に罪をなすりつけ、痴漢冤罪を行った場合は虚偽告訴罪が成立し得ます。
上記例で虚偽告訴罪が成立するためには以下の要件を満たしている必要があります。
- 実際に痴漢をされていないこと
- 刑事または懲戒の処分を受ける目的もしくは示談金を詐取する目的であること
- 故意であること
大前提として「実際に痴漢をされていないこと」が必要です。たとえば、実際に痴漢をされていて、勇気を振り絞って「この人痴漢です!」と言ったものの、実際に痴漢をした人が違うケースがあります。
この場合、あなた自身は実際に痴漢を受けており、加害者を勘違いしていることになります。そのため、上記条件のすべてを満たしていないことになります。よって、虚偽告訴罪は成立しません。
また、たとえあなたの間違いで相手の人生を狂わせてしまったとしても、そこに故意がない以上は相手から賠償請求を受けても認められることはありません。
実際に被害を受けていないにも関わらず告訴をした場合
実際に被害を受けていないにも関わらず、嘘の告訴をした場合も虚偽告訴罪が成立します。「周囲の目を惹きたい」「心配されたい」などの考えから、実際にはされていない犯罪事実を告訴することです。
たとえば、門限に遅れてしまってこのままでは両親に怒られる……。と考え、警察等の捜査機関に対して「帰り道で知らない人に急に抱きつかれました……」と嘘の虚偽をしたとしましょう。この場合、虚偽告訴罪が成立します。
上記例では特定の人に対して刑事罰もしくは懲戒等の処分を与えることを目的にはしていません。しかし、捜査機関等はあなたから聞いた内容を元に周囲を捜査し、似た人に対して任意で事情聴取を行います。
結果的にあなたの知らない人が時間を奪われたり身柄を拘束されたりなどさまざまな影響が発生する可能性があります。そのため、特定の人を陥れようとしたわけではなくても虚偽告訴罪が成立するため注意してください。
虚偽告訴罪に似た犯罪
虚偽告訴罪は「虚偽の告訴をした場合に成立する犯罪」ですが、この犯罪に似た犯罪がいくつかあります。
- 名誉毀損罪
- 恐喝罪・恐喝未遂罪
- 詐欺罪・詐欺未遂罪
- 虚偽申告の罪
次に、虚偽告訴罪に似た犯罪について詳しく解説します。虚偽告訴罪が成立しなくても他の犯罪が成立する可能性もあるため注意してください。
名誉毀損罪
名誉毀損罪は「事実を摘示して他人の名誉を毀損させた場合」に成立する犯罪です。たとえば、「同僚のAさんは〇〇さんと不倫しているらしい」と言った噂を流した場合に成立する犯罪です。
名誉毀損罪は大前提として「事実を摘示」していなければいけません。つまり、嘘の噂を流したとしても名誉毀損罪にはなりません。嘘の場合は刑法に定められている「侮辱罪」が成立します。
虚偽告訴罪は「嘘の犯罪事実を告訴・告発すること」ですが名誉毀損罪は「事実を摘示して人の名誉を毀損させること」といった違いがあります。また、相手の名誉を毀損する目的はなく、犯罪事実を告訴・告発した場合は犯罪になり得ません。
あくまでも、刑事罰等とはならない事実を摘示し、相手の名誉を毀損させた場合に成立する犯罪である。と覚えておけば良いでしょう。ちなみに名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
懲役刑と禁錮刑はいずれも刑務所の中に収監される自由刑です。それぞれの違いは刑務作業の義務があるかどうかです。懲役刑は刑務作業が義務付けられていますが、禁錮刑は義務付けられていません。2025年6月1日からはどちらも統一されて「拘禁刑」という刑罰に変わります。
恐喝罪・恐喝未遂罪
虚偽の犯罪事実を摘示して金銭を要求すると恐喝罪や恐喝未遂罪が成立します。たとえば、同意のうえで性行為を行ったとしましょう。しかし、後からになって「同意していなかった」と伝え、「告訴・告発されたくなければお金を支払え」と言う行為です。
いわゆる美人局のような手口が恐喝罪・恐喝未遂罪になると言うことです。被害者からすると「告訴・告発は避けたい……」と考え、お金を用意してしまうケースがあるでしょう。
恐喝罪は「金銭等を支払わせた時点」で成立する犯罪です。一方で、上記のように相手を脅しただけでも恐喝未遂罪が成立するため注意が必要です。また、金銭を詐取する目的で虚偽の告訴をした場合も恐喝罪や恐喝未遂罪に問われる可能性があります。
恐喝罪・恐喝未遂罪の法定刑はいずれも「10年以下の懲役」です。非常に厳しい罰則規定があるため注意してください。
詐欺罪・詐欺未遂罪
人を欺いて金銭を詐取しようとした場合は、詐欺罪・詐欺未遂罪が成立し得ます。たとえば、美人局は詐欺の典型例です。
性交等を行ったり行おうとしたりした相手に対して「未成年に手を出した」などと言いがかりをつけて金銭を詐取した場合は詐欺罪が成立します。また、詐欺を働こうとした時点で詐欺未遂罪が成立し得ます。
詐欺罪が成立するためには以下4つの要件を満たしている必要があります。
- 欺罔(きもう)行為
- 被害者側の錯誤があること
- 財物の交付があること
- 財産または財産上の利益の移動があること
欺罔行為とは「相手を騙そう」とする行為です。つまり、初めから相手を騙すために美人局を行った場合は一つ目の要件を満たします。そして、加害者側が伝えた内容によって被害者が錯誤していなければいけません。
錯誤とは内容を事実であると認識することです。つまり「未成年に手を出してしまった……」と勘違いをしている状態です。そのうえで金銭等を交付した場合は詐欺罪が成立します。
詐欺罪の法定刑は恐喝罪等と同じ「10年以下の懲役」です。非常に厳しい罰則規定が定められているため注意してください。
虚偽申告の罪(軽犯罪法違反)
軽犯罪法では「虚偽申告の罪」として、「虚偽の犯罪もしくは火災を公務員に申し出た場合」について罰則規定を設けています。
虚偽告訴罪に似ている犯罪ですが、虚偽告訴罪は「告訴・告発」がなければいけません。一方で、軽犯罪法の虚偽申告の罪については告訴・告発を必要としていません。また、範囲に「火災」が含まれています。
たとえば以下のようなケースは軽犯罪法の虚偽申告の罪に該当します。
- 「〇〇で火災が発生しています」と嘘の通報をする
- 「私は人を殺しました」と警察官に嘘をつく
上記のような場合は軽犯罪法の虚偽申告の罪に問われることになります。法定刑は「科料または拘留」です。
科料とは1,000円以上1万円未満の金銭納付を命じる刑事罰です。1万円以上の金銭納付を命じる刑罰のことを「罰金刑」と呼びます。
拘留とは、1日以上30日未満の期間刑務所に収監される刑事罰です。30日以上の場合は懲役刑や禁錮刑となります。また、刑事手続における「勾留」と読み方は同じですが、まったく異なるものであるため注意してください。
虚偽申告罪に問われた場合の流れ
虚偽告訴罪に問われた場合、そのまま逮捕されてしまう可能性があります。実際に虚偽告訴の罪を犯してしまった人は、「今後どうなってしまうのだろうか?」と不安を抱えているのではないでしょうか。
次に、虚偽告訴の罪に問われた場合に起こり得る流れについて詳しく解説します。不安を抱えている人はぜひ参考にしてください。
逮捕
虚偽告訴罪は犯罪であるため罪を犯した時点で逮捕されてしまう可能性があります。逮捕とは罪を犯した疑いのある人の身柄を一時的に拘束するための手続きです。
しかし、罪を犯したからと言って必ずしも逮捕をするわけではありません。逮捕は被疑者の身柄を拘束するための手続きであるため、必要に応じて「逮捕をせずに在宅捜査で捜査を行う」という選択をするケースもあります。
逮捕をするかどうかを決める際の重要な事項は「逃亡や証拠隠滅の可能性があるかどうか」や「重大な事件かどうか」です。
虚偽告訴罪の法定刑は「3カ月以上10年未満の懲役」であり、他の刑法犯と比較すると軽くもなく重くもないというところです。このことから、逃亡や証拠隠滅の可能性を考慮したうえで逮捕されるかどうかが決定すると考えておけば良いでしょう。
とはいえ、虚偽告訴罪は「虚偽の告訴をすること」で成立する犯罪です。そのため、虚偽の告訴をした事実があるだけで証拠としては十分です。そのため、在宅捜査で事件を進めていく可能性もあるでしょう。
万が一、逮捕された場合は初めに48時間の身柄拘束が可能となります。この間は警察署内にある留置場という場所で過ごさなければいけません。そのうえで取り調べ等に応じ、事件を検察官に送致します。
これを「身柄付送致」と呼びます。一方で、在宅事件の対象となっている被疑者の身柄を検察官へ送致する場合は「書類送検」と呼びます。
勾留請求
事件が検察官へ送致されると、検察官はさらに24時間以内に引き続き被疑者の身柄を拘束する必要があるかどうかについて判断します。逮捕時と同様に「逃亡や証拠隠滅の恐れがあるかどうか」等の基準をもとに判断することになります。
もし、勾留が必要であると判断された場合は勾留請求を行わなければいけません。勾留請求後は、裁判所へ行って勾留質問を行い、最終的には裁判官が勾留の必要があるかどうかを判断して決定します。
勾留が確定すると初めに10日間の身柄拘束が可能です。その後、一般的には勾留延長が認められるケースが多く、さらに10日間合計20日間の勾留が行われることになり、社会的な影響も甚大になり得ます。逮捕から勾留期間を含めると最長23日間のたまたということになるのです。
起訴・不起訴の判断
勾留されている被疑者の場合は勾留期間中に、事件について起訴するか不起訴とするかを決定します。起訴された場合はそのまま刑事裁判を受けることになります。
なお、起訴されたあとも引き続き身柄拘束は継続するため注意してください。ただし、保釈請求が可能となり、保釈が認められれば保釈金を支払って一時的に社会へ戻ることが許されます。
そして、勾留されていない被疑者の場合は起訴するまでに期限の定めがありません。通常は2カ月〜3カ月以内に起訴・不起訴の決定がなされます。その後は刑事裁判を受ける流れです。
刑事裁判を受ける
起訴された場合は刑事裁判を受けます。刑事裁判ではあなたが犯した罪について有罪か無罪かを判断します。罪を犯した事実があり、有罪となることが決定した場合は、どの程度の刑罰を与えるかを決定し、判決として言い渡します。
判決に従って刑に服する
判決が確定するとその刑罰に従って刑に服する必要があります。虚偽告訴罪の法定刑は「3カ月以上10年以下の懲役」です。そのため、罰金刑の定めがなく、執行猶予付きの判決が下されなければ刑務所に収監されることが確定します。
執行猶予とは、刑罰の執行を猶予することです。たとえば「懲役1年執行猶予3年」という判決の場合、刑罰は「懲役1年」です。しかし、この刑罰を直ちに執行せずに3年間猶予するというのが執行猶予です。
執行猶予期間中に罰金刑以上の刑罰が確定しなければ、懲役1年の刑罰が執行されることはありません。一方で、罰金刑以上の刑罰が確定すると、執行を猶予されていた懲役1年という刑罰が加算される可能性があるため注意しなければいけません。
虚偽告訴罪に関するよくある質問
虚偽告訴罪に関するよくある質問を紹介します。
Q.暴行を受けた際に大袈裟な反応をして処罰を求めるのは虚偽告訴罪になりますか?
A .暴行を受けた事実がある場合は、虚偽告訴罪に該当しません。
暴行を受けた際の被害程度は自分の証言が主となるケースが多いです。そもそも暴行罪は「暴行の結果、傷害まで至らなかった場合」に成立します。
つまり、傷等もなく客観的に見て被害程度がわからないケースが多いです。そのため、自分から「〇〇をされて〇〇が痛い」と被害申告をする必要があります。もちろん、診断書を得ることも必要となりますが、病院でも同じで目に見えない以上は自らの申告をもとに診断がなされます。
また、実際に暴行を受けたという事実がある場合は、虚偽の告訴とはならないため虚偽告訴罪は成立しません。
ただし、被害程度について嘘をつくのは避けたほうが良いです。たとえば、軽く突き飛ばされただけであるにも関わらず、相手に処罰を与える目的で「何度も殴られたり蹴られたりしました」と言うのは明らかな嘘であるためやめましょう。
Q.証拠がない場合は虚偽告訴罪になり得ますか?
A .証拠がないからといって必ずしも虚偽告訴罪になるとは限りません。
虚偽告訴罪は「虚偽の告訴・告発をした者」に対して問われる犯罪です。そのため、証拠がなくても虚偽の告訴・告発をしているわけでないならば虚偽告訴罪にはなりません。
また、そもそも警察等の捜査機関に告訴等をする場合に証拠は必要とされていません。もちろん、証拠となり得る何かがあれば良いですが、証拠がないからと言って事件を認知しない、捜査しないと言ったことはありません。
警察等の捜査機関はあなたから得た証言等をもとに捜査を行い、証拠を集めて被疑者を特定・逮捕し、起訴して刑事裁判でそれを証明していきます。必ずしも被害者側がすべての証拠を探したり集めたりする必要はなく、証拠がないからと言って虚偽告訴罪に問われるようなこともありません。
Q.実際に罪を犯していない人が「私がやりました」と嘘をつくのは虚偽告訴罪になりますか?
A .虚偽告訴罪にはなりませんが、軽犯罪法違反の虚偽申告の罪に問われる可能性があります。
虚偽告訴罪は「虚偽の告訴・告発」をした場合に成立する犯罪です。告訴とは被害者等が事件について警察等の捜査機関に伝えて捜査をしてもらい、犯人に対して処罰を求めるための手続きです。
告発は、被害者等事件と直接関係のない者が警察等の捜査機関に対して捜査・犯人の処罰を求める行為です。そのため、実際に罪を犯していないにも関わらず「私がやりました」という行為は告訴・告発のいずれにも該当しません。このことから、虚偽告訴罪は成立しません。
ただし、軽犯罪法の虚偽申告の罪では上記のような行為について罰則規定を定めています。そのため、軽犯罪法違反になる可能性があるため絶対にやめましょう。
Q.嘘をつくと虚偽告訴罪が成立しますか?
A .嘘をついただけでは虚偽告訴罪は成立しません。
「嘘」の内容によっても異なりますが、ただ嘘をついただけで直ちに虚偽告訴罪が成立するわけではありません。たとえば仮病を使って会社を休んだとしても虚偽告訴罪やその他犯罪に抵触することはありません。
虚偽告訴罪は「虚偽の告訴・告発をした場合」に成立する犯罪です。そのため、上記のような犯罪性のない嘘をついたとしても罪に問われることはないため安心してください。
告訴・告発とは犯罪事実を警察等の捜査機関に伝え、相手に対して刑事罰もしくは懲戒を与えようとしていることが前提です。よって、この条件を満たしていなければ虚偽告訴罪は成立しません。
Q.性加害における虚偽告訴の証明はどのように行えば良いですか?
A .初めに弁護士へ相談をしましょう。
性加害は密室で行われているため、性加害の虚偽告訴を証明することはとても難しいです。また、性加害を受けたと主張する相手側は実際に「被害を受けた」と認識している可能性もあり、この場合は性加害の虚偽告訴を証明することは非常に困難です。
そのためまずは弁護士へ相談をしたうえで今後の対応方法について検討していくべきでしょう。
なお、虚偽告訴を証明することは困難であっても性加害を否定することはできる可能性があります。そもそも相手方を虚偽告訴罪に問うためには、あなたに対して刑事罰もしくは懲戒などの処分を与える目的を持って行為に及び、虚偽の告訴・告発であることが条件です。
つまり、相手側が実際に「被害を受けた」と認識をしている場合は、そもそも虚偽告訴罪が成立しません。しかし、客観的な証拠に基づいて同意があったことを証明することは可能です。
仮に、あなたの無実が証明できたとしても虚偽告訴罪の成立要件を満たしていない以上は、相手側を罪に問うことはできないのです。
そのため、虚偽告訴罪に問うことを目指すのではなく、前提として自分の身の潔白を証明することを目指すべきです。証明するためには可能な限り相手側とのやり取りや親密関係にあったことなどを証明する必要があります。
また、同意があったことを主張するためにお酒を飲んでいないこと、上下関係が成立していないことなど、「相手側が容易に断れる状況にあったか?」についても確認しておくべきです。もし、相手側が容易に断れる状況にあったのであれば、その証明も同時にしていくと良いでしょう。
まとめ
今回は、虚偽告訴罪について解説しました。
虚偽告訴罪は、嘘の告訴・告発をすることによって成立する犯罪であり、被害を受けた相手は人生を狂わされてしまう可能性がある犯罪です。また、警察等の捜査機関も虚偽の告訴・告発内容をもとに必要のない捜査を行う必要があり、通常業務に多大な影響を与える可能性もある犯罪です。
そのため、虚偽の告訴・告発は絶対に行ってはいけません。冗談のつもりであっても立派な犯罪が成立することを理解しておきましょう。