時効には「民事上の時効」と「刑事上の時効」の2つがあります。民事上の時効とは、民事責任を問うことのできなくなるタイミングです。刑事上の時効とは、公訴時効を迎えるタイミングを指します。
この記事では、時効の種類や時効が成立する年数について詳しく解説しています。時効の成立年数について詳しく知りたい人は、本記事をぜひ参考にしてください。
時効の種類
「時効」と呼ばれるものには「民事上の時効」と「刑事上の時効」の2種類があります。民事上の時効は、民事責任を追及できなくなるタイミングのことを指し、刑事上の時効とは、控訴をできなくなるタイミングを指します。
まずは、時効の種類について詳しく解説します。
民事上の時効
民事上の時効とは、民事責任を問うことができなくなってしまう時効を指します。民事上の責任としては、消滅時効と取得時効があります。
消滅時効とは、一定期間権利を行使しなかった場合にその権利を消滅させる時効です。一方で、取得時効とは、一定期間占有し続けた場合に所有権を取得できるということを指します。
消滅時効はさまざまな要因で利用できます。たとえば、被害者のいる刑事事件の場合は、被疑者は被害者や被害者遺族に対して損害賠償を求められる場合があります。しかし、被害者もしくは被害者遺族が一定期間その権利を行使しなかった場合に、消滅してしまうタイミングが「消滅時効」です。
具体的に言うと、たとえば詐欺事件の被害者は、罪を犯した人に対して被害額や詐欺被害を受けたことによって受けた賠償金の請求を行うことができます。これを損害賠償請求権と言いますが、賠償請求をすることができなくなるタイミングのことを「消滅時効」と言います。
取得時効については刑事事件ではとくに関係のない話であるため、本記事では解説しません。
不法行為による損害賠償請求権が消滅するタイミングは、3年もしくは20年です。被害者または法定代理人(弁護士等)は、損害及び賠償義務者を知ったときから3年以内に行使をしなかった場合に消滅時効が成立します。
もしくは、不法行為が発生したときから20年経過した時点で、消滅時効が成立します。
たとえば、被害者がその罪を犯した犯人を特定した場合、その時点から3年経過した時点で民事時効は成立します。もし、犯人が特定できなかった場合は、不法行為(犯罪)が合ったときから20年経過した時点で民事時効は成立し、損害賠償の請求を行うことができなくなります。
刑事上の時効
刑事上の時効とは、公訴時効のことを指します。公訴時効とは、「被疑者を起訴できなくなるタイミング」のことです。刑事事件における一般的な流れは以下のとおりです。
1.捜査
2.逮捕
3.送致
4.起訴
5.刑事裁判
6.判決
刑事事件で被疑者を罪に問うためには、検察官に送致をしたうえで起訴をする必要があります。起訴できなければ、被疑者を刑事裁判にかけて罪に問うことはできません。
つまり、公訴時効を迎えることによって、被疑者を起訴できなくなるため、罪に問うことができなくなるということです。よって、公訴時効を迎えた時点で、罪に問われることはないと考えて良いでしょう。
なお、時効のカウントが始まるタイミングは「不法行為が行われた時点」です。たとえば時効10年の場合は、不法行為〜起訴まで10年間以内に終わらせなければ罪に問えません。仮に、不法行為から10年経過した時点で逮捕されたとしても、時効は停止せずに公訴時効は成立してしまいます。
公訴時効の年数
公訴時効は犯罪の種類によって変わります。また、重大な犯罪の場合は、公訴時効がないものもあります。次に、主な犯罪の公訴時効について詳しく解説します。
主な犯罪の公訴時効
刑事訴訟法では、公訴時効について以下の通り明記されています。
人を死亡させた罪のうち、禁錮刑以上に当たる犯罪の場合(死刑を除く)
法定刑 | 時効 |
---|---|
無期懲役もしくは禁錮、懲役30年以上 | 30年 |
20年の懲役・禁錮 | 20年 |
上記以外の罪 | 10年 |
人を死亡させる犯罪のうち、死刑の規定がない犯罪の例としては以下のようなものが挙げられます。
- 業務上過失致死罪(5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)
- 傷害致死罪(3年以上の有期懲役)
- 過失致死罪(7年以上の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金)
等々
人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪
法定刑 | 時効 |
---|---|
死刑 | 25年 |
無期懲役または禁錮 | 20年 |
15年以上の懲役・禁錮 | 10年 |
15年未満の懲役・禁錮 | 7年 |
10年未満の懲役・禁錮 | 5年 |
5年未満の懲役・禁錮・罰金 | 3年 |
拘留・科料 | 1年 |
公訴時効がない犯罪とは
「人を死亡させた罪のうち、禁錮刑以上に当たる犯罪の場合」のうち、死刑に当たる罪については、時効はありません。たとえば、以下のような犯罪には時効はないため、覚えておいてください。
- 殺人罪
- 強盗殺人罪
- 不同意性交等致死罪
等々
上記の犯罪はすべて時効はありません。よって、何年経っても公訴時効を迎えることはないため、早めに自首・出頭をしたうえで罪を償ったほうが良いでしょう。
公訴時効の注意事項
公訴時効には以下の注意事項があります。
- 時効が延長されることがある
- 時効が停止されることがある
- 民事上の責任は残っている可能性がある
次に公訴時効における注意事項について詳しく解説します。
時効が延長されることがある
時効は一定年数経過することによって成立しますが、延長されるケースもあるため覚えておいたほうが良いでしょう。
公訴時効の延長に関する規定はないものの、法改正によって時効が延長されたケースが過去にあります。たとえば、平成16年に大幅に時効が延長されました。殺人罪を例に見ると、それまでは殺人罪の公訴時効は15年でした。
しかし、平成16年の改正に伴い25年に延長されています。また、現在は殺人罪の公訴時効は廃止されているため、殺人罪による時効は存在しません。
このように、今後さまざまな要因によって時効が延長される可能性があるため覚えておきましょう。
なお、改正される前に行われた犯罪であっても、改正時点で時効が成立していない事件については対象になります。つまり、現在進行形で時効が進んでいるとしても、今後の改正に伴って延長される可能性があるということです。
公訴時効が延長する要因はさまざまですが、平成16年を例に見ると「平均寿命がのびた」や「新しい捜査技術が開発されていること」などが挙げられます。平均寿命がのびたことによって、被害者や被害者遺族の処罰感情が薄れにくくなっていることが挙げられます。
さらに、新しい捜査技術の開発によって、犯罪から月日が経過していたとしても、有力な証拠を集めやすくなっているため、時効が延長されることになっています。
時効が停止されることがある
時効は停止されることがあります。時効の停止とは、たとえば10年で時効を迎える罪を犯した場合であっても、時効を迎えるまでの間に停止期間があった場合は、不法行為から10年以上経過しなければ、時効は成立しません。
具体的には、「被疑者が国外にいるもしくは身を隠しており、有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合」です。
たとえば、10年で時効を迎える罪を犯した人であって、罪を犯した後に3年間国外へ逃亡していた場合、時効は3年間停止されます。よって、時効成立までに13年間の時間を要するということになります。
もし、罪を犯してすぐに国外へ逃亡をするなどして、有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合は、永遠に時効が成立することはありません。
民事上の責任は残っている可能性がある
公訴時効が成立したとしても、民事上の責任が残っている可能性があります。たとえば、公訴時効はもっとも短いもので1年で時効が成立します。しかし、民事上の賠償責任は最長で20年間経過するまでは時効が成立しません。
そもそも、時効が成立するような事件の場合、手がかりがほとんどなく、被疑者を特定できていないケースが多いです。この場合であっても、不法行為を行ってから一定期間経過することによって公訴時効は成立します。
しかし、民事上の時効は被疑者を特定できていない場合、「不法行為が発生してから20年」経過しなければ成立しません。つまり、公訴時効のほうが先に時効を迎えることがあります。
そのため、「時効が成立した」と思って自分の罪を公にすることによって、被害者や被害者遺族から民事上の責任を問うための訴えを起こされることがあります。
公訴時効の目的とは
公訴時効は、「検察官が起訴できなくなるタイミング」を指します。起訴できなくなれば、罪を犯したにも関わらず、その人に対して罪を問うことができません。被害者としては、とても悔しい思いをすることでしょう。
ではなぜ、公訴時効というものがあるのでしょうか。その理由は、主に以下のとおりです。
- 証拠が少なくなる
- 人の記憶も曖昧になる
- 処罰感情が気薄化する
次に、公訴時効の目的について詳しく解説します。公訴時効のある意味について知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
時間の経過に伴い、証拠が少なくなる
時間の経過に伴い、事件の証拠は減少していきます。たとえば、証人となる人がなくなってしまったり、証拠となる物が失われたりしてしまいます。結果的に、罪に問うだけの証拠を集められなくなってしまうのです。
たとえば、防犯カメラに残っている映像に犯行の証拠となる映像が残っていたとしましょう。しかし、過去に遡って何十年分ものカメラ映像を残していることは少ないです。
上記のことから、公訴時効という期限を設けています。なくなってしまった証拠を集めるために多くの人員を割いていては、解決できる事件も解決できなくなってしまうでしょう。
事件の発生から時間の経過に伴い、徐々に捜査本部を縮小していって最終的には公訴時効を迎えて事件は終了します。
時間の経過に伴い、人の記憶も曖昧になる
刑事事件において、人の記憶はとても重要です。被疑者本人の記憶や証人となり得る人の証言など、人の記憶は証拠になり得ます。
刑事事件においては「確固たる証拠」がなければいけません。少しでも無実の可能性がある場合は、起訴をしたり有罪判決を下したりすることは許されません。
しかし、事件発生から何十年も経過してしまった場合は、罪を犯した本人の記憶も曖昧になるでしょう。証人となる人の記憶も曖昧です。また、物的証拠となり得るものもどんどん減少していきます。上記のことから公訴時効という期限を設けているのです。
時間の経過に伴い、処罰感情が気薄化する
刑事事件において、被害者や被害者遺族の処罰感情は判決に大きな影響を与えます。そのため、処罰感情が厳しければ厳しいほど判決等の処分は重くなります。
しかし、罪を犯してから時間が経過することによって、被害者や被害者遺族の処罰感情は徐々に気薄化していきます。被疑者を許すことはできなくても、事件発生当初と比べると気薄化する傾向にあるため、公訴時効による期限を設けているのです。
公訴時効に関するよくある質問
公訴時効によるよくある質問を紹介します。
Q.公訴時効の起算日はいつですか?
A.不法行為が終わった時点です。
不法行為が終わった時点とは、犯罪が終わった時点であると考えておけば良いでしょう。公訴時効は、時間ではなく1日単位であり、犯罪を終えた後が1日目とカウントされます。
たとえば、2024年1月1日に窃盗の罪を犯した場合は、2031年1月1日を迎えると公訴時効が成立します。公訴時効が10年の犯罪であれば、2034年1月1日に公訴時効を迎えるということです。
なお、本記事でも解説しているとおり、公訴時効には停止や延長となることがあります。そのため、必ずしも上記で公訴時効を迎えるとは限りません。
Q.民事上の時効が成立した場合はどうなりますか?
A.不法行為を行った者に対して、損害賠償を請求できなくなります。
民事上の時効は3年もしくは20年経過した時点で成立します。民事上の時効が成立した場合は、不法行為を行った者に対して、損害賠償請求を行う権利を失います。よって、賠償責任がなくなると考えておけば良いでしょう。
Q.公訴時効を迎える前日に逮捕される可能性はありますか?
A.可能性はゼロではありませんが、その可能性は低いでしょう。
時効が成立するまでは、被疑者を公訴(起訴)することができます。しかし、起訴をするためには、逮捕をしたうえで証拠を集めて検察官へ事件を送致し、検察官が「有罪にできるだけの証拠がある」と判断したうえで起訴をします。
そのため、時効の前日に逮捕をしたところで起訴をすることは難しいため、現実的に逮捕の可能性は低いでしょう。
そもそも、逮捕をした時点で48時間の身柄拘束が行われ、事件を送致します。その後24時間以内に検察官は勾留請求を行います。その後、最長20日間の身柄拘束を行い、起訴・不起訴の判断を行うのが流れです。
つまり、通常であれば身柄拘束されている23日間の間に有罪にできるだけの証拠を集めて起訴・不起訴の判断をします。もし、有罪にできるだけの証拠が揃わなければ、嫌疑不十分等によって事件は終了してしまうのです。
先ほども紹介したとおり、刑事事件においては「確固たる証拠」がなければ起訴をしたり有罪判決を下したりすることはできません。少しでも無実の可能性がある場合は、起訴をすることすらできないのです。
上記のことから、時効前日に逮捕をして確固たる証拠を集め、起訴をするまでに持っていくのは現実的に不可能です。このことから、起訴前日の逮捕の可能性はとても低いと考えて良いでしょう。
Q.警察等が公訴時効のタイミングを誤って逮捕した場合はどうなりますか?
A.気付いた時点で即時釈放されます。
前提として、警察等が公訴時効のタイミングを誤って逮捕する可能性は限りなくゼロに近いです。逮捕という行為は、人の身柄を拘束する行為であり、自由を奪う行為です。
そのため、たとえ過去に罪を犯した被疑者であっても、罪に問うことのできない人の身柄拘束を行うことは、絶対に許されません。
とはいえ、可能性がゼロなわけではありません。もし仮に、実際に公訴時効を迎えている事件の容疑で逮捕された場合は、気付いた時点で即時釈放されます。被疑者自身も「公訴時効を迎えている」と伝えれば良いでしょう。
なお、逮捕された時点で1度だけ当番弁護人を呼ぶことができます。この制度を利用し、弁護士を通して公訴時効を迎えていることを確認する方法を検討しても良いでしょう。
Q.時効を迎えた場合は何らかの通知等が行われますか?
A.何も通知は届きません。
公訴時効を迎えたとしても警察や検察、あるいは裁判所等から時効を知らせる通知が届くことはありません。そもそも、時効を迎えたことを知らせる手段がありません。そのため、自分で罪を犯した日を確認したうえで公訴時効を迎えたことを確認します。
とくに大きな罪を犯した場合や社会的影響力の大きかった事件の場合は、全国ニュース等で「〇〇事件の時効を迎えました」と報道されることもあります。
まとめ
今回は、時効は何年で成立するのか?について解説しました。
時効には民事上の時効と刑事責任を問うことのできなくなる公訴時効があります。不法行為に伴う民事上の時効は、3年もしくは20年で成立します。公訴時効は、「公訴(起訴)」をできなくなるタイミングのことを指し、それぞれ異なる意味合いがあるのです。
公訴時効は、その事件の内容によって迎える年数は異なるため、一概にはいえません。もっとも軽い事件であれば、1年経過した時点で公訴時効を迎えます。しかし、重罪であれば最長で30年は時効を迎えることはありません。
また、殺人罪等重い罪を犯した場合は、公訴時効がそもそもありません。今回解説した内容を踏まえ、時効に関する知識を深めてみてはいかがでしょうか。