性病を移すと犯罪が成立する?被害者・加害者目線でそれぞれ解説

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故意に性病を移した場合は、傷害罪という犯罪が成立するため注意しなければいけません。ただし、故意や過失がなければ罪に問われることはありません。

この記事では、性病を移した場合にどのような犯罪が成立するのか?について、詳しく解説しています。また、被害者目線で性病を移されてしまった場合の対処法や対応方法について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

故意に性病を移した場合に成立する犯罪

相手に対して性病を移してしまったとしても、直ちに罪に問われることはありません。ただし、故意に性病を移した場合は、以下の犯罪が成立する可能性があります。

  • 傷害罪
  • 過失傷害罪

まずは、故意に性病を移した場合に成立し得る犯罪について、詳しく解説します。

傷害罪

故意に性病を移した場合は、傷害罪が成立します。傷害罪が成立する要件は、「暴行等によって、相手に傷害を負わせた場合」です。

まず、傷害とは「傷を付けること」「怪我をさせること」を指します。性病は、痛みやかゆみ、発熱、発疹など身体に何らかの症状が現れることが多いです。性交渉等によって相手に、性病を移し、これらの症状を与えている事実により「傷害を与えた事実」として認定されます。

そして、「暴行等によって傷害を負わせた場合」とありますが、お互い同意のうえで粘膜接触を行っていた場合は、暴行罪には該当しません。しかし、性病を持っていることを知っていて、相手に性病を移す可能性を把握しているにも関わらず、粘膜接触を行えば、暴行に該当します。

そもそも、暴行と聞けば多くの人が「殴る・蹴る」などの行為をイメージするのではないでしょうか。当然、これらの行為も暴行に該当しますが、直接的な危害を加えていなくても、暴行になり得ます。

たとえば、「唾を吐きかける」「胸ぐらを掴む」といった行為であっても、暴行罪という犯罪が成立します。暴行は「他人の身体に対して不法な有形力を行使すること」と定義されているため、性病を移す行為も当然に傷害罪が成立するのです。

なお、傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。非常に厳しい刑罰が科される可能性があるため、注意しなければいけません。

また、性病の種類によっては、最悪の場合死に至るものもあります。性病を移したことによって相手が死亡してしまった場合、傷害致死罪が成立する可能性もあります。傷害致死罪の法定刑は、「3年以上の有期懲役」であり、罰金刑の定めはありません。

過失傷害罪

過失傷害罪とは、不注意によって人に怪我をさせてしまった場合に成立する犯罪です。たとえば、性病であることを気付かずに粘膜接触を行い、性病を移してしまった場合に成立する犯罪です。

あくまでも、過失がある場合に限って過失傷害罪が成立します。過失認定は、個別事案ごとに判断されます。

過失傷害罪が成立した場合の法定刑は「30万円以下の罰金または科料」です。科料とは、1,000円以上1万円未満の金銭納付を命じる財産刑の一つです。1万円以上の金銭納付を命じる刑事罰を罰金刑と呼びます。

故意・過失がなければ罪に問われない

故意や過失がない場合は、罪に問われることはありません。先ほども解説したとおり、過失は個別事案ごとに判断されます。

一方で、故意とは「性病を移してやろう」「性病が移っても良い」と思っている状況です。たとえば、性病を自覚していながら、相手に対して「移そう」もしくは「移っても良い」と思いながら性病を移す行為を行った場合に故意が認められます。

性病が移る可能性を自覚していながら性病が移る可能性がある行為を行っていた場合は、当然犯罪です。

しかし、たとえば「性病に気付かなかった」「性病である可能性疑う余地がなかった」など、明らかに故意や過失がない場合は、罪に問われることはありません。

性病を移してしまった場合の対処法

性病を移してしまった場合の正しい対処法は、以下のとおりです。

  • 受診して診断を受ける
  • 弁護士へ相談をする
  • 被害者へ示談の提案をする

次に、性病を移してしまった場合の対処法について詳しく解説します。

受診して診断を受ける

まずは、受診をしてどのような性病を患っているのかについて確認しておきましょう。受診することによって、自覚症状がなくても性病にかかっているかどうかを確認できます。そのうえで、性病にかかった時期を推定しておきましょう。

相手の主張や相手から提示された診断書をもとに、確実に自分が性病を移してしまったのか?について確認しておくと良いです。

性病の種類によっては、自覚症状がないものや潜伏期間が長いものまでさまざまです。そのため、まずは受診して診断を受け、性病の種類やかかってしまった時期の推定を行っておきましょう。

弁護士へ相談をする

もしもあなたが、相手に対して性病を移したことが明らかである場合、弁護士へ相談しておきましょう。弁護士へ相談をしておくことで、刑事事件に発展した場合のサポートはもちろんのこと、被害者との示談交渉も行ってくれます。

さまざまな面でサポートしてくれるため、まずは、弁護士への相談を検討しておくと良いでしょう。

被害者へ示談の提案をする

被害者へ示談の提案を検討してください。傷害罪等が成立する場合であっても、被害者と示談交渉が成立していれば、刑事罰に問われない可能性もあります。

とくに、「この人に性病を移してやろう」など、悪い気持ちを持って行った場合でなければ、刑事罰に問われる可能性は低いです。

被害者との示談交渉を行っておくことで、被害者の処罰感情も薄れます。結果的に、長期勾留回避や刑事罰回避などのメリットがあります。

なお、示談交渉は弁護士に依頼をしたほうが良いです。当事者間同士で行うと、書類の取り交わしに不備が発生する可能性があります。また、高額な示談金を請求される可能性もあるため、かならず弁護士へ相談をしたうえで示談交渉を進めていきましょう。

【被害者目線】性病を移された場合は賠償請求できる?

もし、自分が性病を移されてしまった場合、賠償請求はできるのか?と考えている人も多いのではないでしょうか。性病を移された場合、故意や過失があった場合は、相手を罪に問えるほか、賠償請求も可能です。

次に、被害者目線で性病を移された場合は賠償請求できるのか?について、詳しく解説します。

故意・過失の証明が必要

性病を移した相手に対して無条件で賠償請求を求めることは可能ですが、賠償請求が認められるためには、故意や過失があったことを証明しなければいけません。

損害賠償請求は、誰でも無条件で行うことができます。しかし、民事裁判にて賠償命令が下されるためには、故意や過失の証明が必要です。つまり、故意や過失の証明ができなくても賠償請求自体は可能であるものの、賠償命令が下されるためには、証明が必要ということです。

そもそも、賠償請求は民事であるため「民事不法行為に基づく損害賠償請求」を行わなければいけません。民事不法行為に基づく損害賠償請求の故意や過失を証明しなければいけないのは被害者側です。

つまり、被害者であるあなたが相手の故意や過失を証明しなければいけないということであり、現実的には相当難しいです。

ただし、刑事事件の場合は検察側が犯罪を立証しなければいけません。つまり、検察が捜査を行ったうえで、あなたに対して性病を移した事実に対して故意・過失があったことを証明します。

そのため、あなたに対して性病を移した罪で有罪判決が下された場合、検察側で犯罪を立証できたということになります。この事実があることによって、民事でも容易に故意や過失があったことを証明できるでしょう。

故意・過失があったことの証拠となり得る例

故意や過失があったことを証明するためには、性病が移ったと思われるタイミングで相手が性病に感染していたことを証明する必要があります。

たとえば、仮にあなたが2025年4月1日にAさんと性交渉を行い、性病が移されたと仮定します。この場合、あなたはAさんが2025年4月1日時点で性病に感染していた事実を証明しなければいけないということです。

証明の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 診断書
  • 連絡ツールのやり取り
  • 証言

たとえば、Aさんが2025年4月1日前に病院を受診して性病であると診断されていたとします。この場合は、「Aさんはあなたに性病を移す可能性を知っていながら、性交渉等を行った」という証明ができます。

また、性病である事実を第三者等に伝えていた場合、その内容が記載されているメール等も証拠になるでしょう。たとえば、友人等にメールで「今、性病にかかってるんだ」などと伝えていた場合は、その内容が証拠となり得ます。

上記と同じく、Aさんの友人等からの証言が取れれば、証拠となる可能性があります。いずれの場合であっても、性病が移されたであろう行為があった時点で、相手が性病にかかっていたことを証明できれば、賠償請求も可能です。

故意・過失の証明がなければ難しい

本記事でも解説しているとおり、相手側に故意や過失がなければ賠償請求を行っても認められることがありません。たとえば、性病を移された事実はあるものの、相手側は自分が性病にかかっていることを知らなかった場合です。

性病によっては長い潜伏期間を経て発症するものもあります。自覚症状もなく性交渉等を行って性病を移された場合、相手に対して賠償請求を行っても、認められる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

なお、故意や過失があったとしてもその事実を証明できなければ、賠償請求が認められる可能性は低いです。

【被害者目線】性病を移された場合の対処法

もしもあなたが、誰かから性病を移されてしまった場合、どう対処すれば良いのだろうか?と悩まれているのではないでしょうか。性病を移された場合に検討すべき対処法は、以下のとおりです。

  • 受診して診断を受ける
  • 証拠を集める
  • 加害者に賠償を求める

次に、被害者目線で性病を移された場合の対処法について詳しく解説します。

受診して診断を受ける

初めに、病院を受診して診断書を発行してもらいましょう。適切な処置を行い、症状を悪化させないことが大切です。また、診断書をもらうことによって、性病が移された時期や病名から移した相手を特定することができます。

後から、相手に対して受診料等を請求できるため、忘れずに領収書ももらっておきましょう。

証拠を集める

賠償請求を行うための証拠を集めておきましょう。先ほども解説したとおり、賠償請求を行って認められるためには、故意や過失があったことを証明しなければいけません。証明をするのは、被害者側です。

そのため、些細な内容であっても証拠となりそうなことを集めておきましょう。なお、何が証明になるのか、どのように証拠を集めれば良いかわからない場合は、弁護士への相談を検討してください。

加害者に賠償を求める

加害者に対して賠償を求めましょう。賠償は、治療費や慰謝料といった名目で請求可能です。性病を移された場合は、病院を受診した際の受診料や交通費等がいわゆる治療費に該当します。

そして、慰謝料とは精神的苦痛や実際に発生した損害に対する賠償の請求が可能です。たとえば、性病の症状(痒み等)によって日常生活に影響が出た場合は、その影響に対する賠償請求が可能です。

ただし、損害に対する賠償請求が認められるためには、実際に損害を受けたことを証明しなければいけません。たとえば、痒みで夜も眠れずに仕事に支障をきたした場合は、その事実を証明する必要があります。民事裁判では、証明できた部分に対してのみ賠償命令が下されます。

性病を移した場合の犯罪についてよくある質問

性病を移した場合の犯罪についてよくある質問を紹介します。

Q.配偶者から性病を移された場合は離婚できますか?

A.性病を移された事実のみで離婚することはできません。

「性病を移された」という事実のみでの離婚は認められませんが、不貞行為が明らかである場合は、離婚できる可能性があります。たとえば、配偶者が浮気相手から性病を移され、結果的にあなたに性病が移ってしまったとしましょう。

上記の場合は、不貞行為が明らかであるため、離婚できる可能性があります。ただし、不貞行為があっても、必ずしも離婚できるとは限りません。たとえば、「1回だけ性風俗に遊びに行って性病を移された」という場合は、離婚自由として認められにくいです。

不貞行為があったとしても、離婚できるかどうかは、あくまでもその内容次第である点に注意が必要です。

また、性交渉等を行っていなくても性病に感染する可能性があります。そのため、性病を移されたからといって、必ずしも不貞行為があったとは認められません。このことから、性病を移されたことを理由にした離婚はできません。

Q.性病であることを知らずに移した場合、処罰されたり賠償請求されたりしますか?

A.知らずに移してしまった場合は、処罰されたり賠償請求が認められたりする可能性は低いです。

基本的に、故意や過失がなければ罪に問われることはありません。また、賠償請求がなされたとしても、認められる可能性はゼロに近いです。

ただし、何らかの性病の症状を発症しているにも関わらず、「知らなかった(気付かなかったふり)」と言った場合は、罪に問われたり賠償責任が生じる可能性があります。不安がある場合は、弁護士への相談を検討してください。

Q.性病を移された場合、どこに相談をするのが正解ですか?

A.まずは病院へ相談をしてしっかりと治療しましょう。

性病を移されてしまった場合は、初めに病院での治療を行いましょう。病院へ行くことに抵抗がある人や不安な人は、初めに厚生労働省の性感染症相談窓口への相談を検討してください。

また、加害者・被害者問わず、弁護士への相談を検討しても良いです。加害者側であれば、被害者との示談交渉などのサポートを行います。被害者であれば、相手に対する賠償請求等のサポートを行ってくれます。

さまざまなサポートを行えるため、弁護士への相談を検討してください。

Q.風俗の仕事をしていて性病を移された場合、どうなりますか?

A.顧客を特定できれば賠償請求が可能です。

風俗のお仕事は、不特定多数の人と接触するため、誰から性病を移されたかを特定することが困難です。しかし、特定できた場合は、相手に対して賠償請求を行うことができます。この場合、休業していた期間の給料等も請求できます。

もし、あなたが性病を移されていることを自覚していながら、接客を行い、他のお客さんに性病を移した場合は、あなたが賠償請求される可能性があるでしょう。また、故意や過失が認められる場合は、刑事罰の対象にもなるため注意しなければいけません。

もし、性病を発症する前で気付かずに不特定多数の人に性病を移してしまった場合、罪に問われたり賠償請求が認められたりすることはありません。

Q.未成年で相談をする相手がいません。どうすれば良いでしょうか?

A.未成年でも病院への相談を検討しましょう。

未成年でも、まずは病院を受診して治療してください。病院によっては、匿名で相談をできるところがあります。匿名の場合、保険証を出せないため、費用は高額になるかもしれません。

後から性病を移した相手に対して賠償請求できる可能性もあるため、まずは治療することを1番に考えたほうが良いです。

もし、病院へ行く前に相談をしたい場合は、厚生労働省の性感染症相談窓口への相談を検討してください。匿名でも相談できるうえに、今後のアドバイスを受けられます。

まとめ

今回は、性病を移した場合に成立する犯罪について解説しました。

性病を移す行為は、傷害罪や過失傷害罪といった犯罪が成立します。法定刑も厳しく、最悪の場合は懲役刑もあるため注意しなければいけません。ただ、性病であることを自覚せずに性交渉等を行い、移してしまった場合は罪に問われません。

今回解説した内容を踏まえ、不安がある場合は早期に弁護士への相談を検討したほうが良いでしょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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