殺人を犯してしまい、「今からでも自首すれば刑が軽くなるのか」「そもそも自首が成立する条件とは?」といった不安や疑問を抱えていることでしょう。自首は刑法において減刑が認められる重要な行為ですが、単に警察へ出頭するだけでは「自首」として成立しないケースもあります。
とくに殺人罪のように重大で、早期に捜査が進む犯罪では、事件が発覚したり犯人が特定されたりしたあとでは、自首が成立せず「出頭」扱いとなり、減刑の対象外になることもあるため注意が必要です。
本記事では、殺人罪における自首の成立要件や、自首のタイミング・出頭との違い・自首によるメリットや注意点を詳しく解説します。また、自首した後の流れや、弁護士への相談の重要性についても解説しています。「少しでも罪を償いたい」「後悔の念から自首を考えている」といった思いを抱える方にとって、後悔のない判断をするための参考になる内容です。ぜひ参考にしてください。
目次
殺人罪における自首の成立要件とは
殺人罪における自首の成立要件は、以下のとおりです。
- 犯罪もしくは犯人がまだ発覚していない段階であること
- 被疑者本人が自ら進んで警察・検察に出頭すること
- 自分の処罰・罰則を求めていること
- 自首の意思表示が明確であること
まずは、殺人罪の自首成立要件について詳しく解説します。
犯罪もしくは犯人がまだ発覚していない段階であること
自首が成立するためには、「犯罪もしくは犯人が特定されていない状態で自ら出頭」をしなければいけません。たとえば、罪を犯した直後である場合は、殺人事件が起きていることを捜査機関は認知していません。その状態で自ら犯罪を申告した場合は、一つ目の要件を満たします。
もしくは、犯罪自体は発覚しているものの、捜査機関が犯人を特定できていない状態で自ら出頭した場合も、自首の一つ目の要件を満たしています。
たとえば、殺人事件が起こったことを捜査機関が認知しているものの、事件直後である場合は誰が犯人であるかを特定できていないことが多いです。このタイミングで自首をすれば良いです。
もし、捜査機関に犯罪事実が認知され、犯人が発覚している場合は、自首は成立しません。この場合は「出頭」になり、自首による効果を得られません。そのため、自首をする場合は早めに行うことを検討したほうが良いでしょう。
自首が成立するためには、自ら「捜査機関に申告すること」です。たとえば、第三者に犯罪を申告し、その第三者が警察へ通報をしたとしても自首は成立しないため注意しましょう。
被疑者本人が自ら進んで警察・検察に出頭すること
被疑者本人が自ら進んで警察や検察に出頭しなければいけません。自首は、「自ら出頭すること」であるため、逮捕された場合には当然成立しません。
なお、「被疑者本人が自ら進んで出頭すること」とは言うものの、友人や家族に促されて出頭した場合でも自首の成立要件を満たします。あくまでも、逮捕されたり警察から呼び出されたりする前に自ら出頭すれば良いと考えておきましょう。
自分の処罰・罰則を求めていること
殺人罪で自首が成立するためには、自分の処罰・罰則を求めていることが条件です。殺人罪で自首をすれば、当然何らかの罪に問われることになります。そのため、自ら「自分を処罰してください」と伝えなくても、自首をした時点でこの要件を満たしていると解されます。
自首の意思表示が明確であること
自首は、自発的に犯罪事実を申告するものです。そのため、自首をする意思表示と同時に、事件について自発的に証言しなければいけません(黙秘権を否定するものではありません)。
たとえば、他の犯罪を隠匿する目的で殺人罪のみについて自首をした場合、「自首の意思表示が明確である」とは言えません。他にも、実際にいる真犯人をかばったり隠したりする目的で、他の人が自首をした場合も「自発的に犯罪事実を申告している」とは言えず、自首は成立しません。
自首を成立させるためには、犯罪事実を認めて自ら積極的に申告する意思がある状態でなければいけません。
殺人罪の自首はどのタイミングで行うべき?
殺人罪の自首をするタイミングは、大まかに以下の2つです。
- 事件が発覚する前
- 被疑者が特定される前
タイミングが遅すぎると自首は成立しないため、注意が必要です。次に、殺人罪における自首の適切なタイミングについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
事件が発覚する前
自首を成立させるためには、事件が発覚する前もしくは被疑者が特定される前でなければいけません。そのため、自首をする最適なタイミングとしては、事件が発覚する前です。
事件が発覚してしまった場合は、初動捜査を行ってある程度容疑者が絞れるケースがほとんどです。そのため、できるだけ早いタイミングでの出頭が自首成立の大きなポイントになり得るでしょう。
被疑者が特定される前
遅くても被疑者が特定される前に自首をしなければ、成立しません。被疑者が特定されてから出頭をしても「出頭」としてしか扱われません。
出頭は広義で使用される言葉ですが、ここで言う出頭は自首が成立しなかった場合の出頭です。自首は減刑が認められていますが、出頭の場合は法律による減刑は認められていません。そのため、自首を検討するのであれば、遅くとも被疑者が特定される前でなければいけません。
タイミングが遅れれば自首は成立しない
タイミングが遅ければ、自首は成立しません。本記事で何度も解説しているとおり、自首が成立するためには「事件発覚前もしくは被疑者が特定される前」である必要があります。
詳しくは後述しますが、自ら出頭をしたとしても自首と出頭では扱いが大きく異なります。せっかく自首を検討しているのであれば、早め早めに行動することで、被疑者本人にも大きな影響を与えるでしょう。
自首と出頭の違いとは
「出頭」と言う言葉は、「本人自ら捜査機関に出向くこと」と言う意味で使用されます。つまり、「自首をするために出頭する」という言葉を使用しても間違いではありません。
出頭をして自首が成立しなかった場合は「出頭」で終わり、出頭の結果、自首が成立した場合は「自首」と言う扱いになります。自首と出頭は、刑事事件においては大きな違いがあります。次に、自首と出頭の違いについても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
犯罪申告をするタイミング
自首が成立するためには、犯罪申告をするタイミングがとても重要です。本記事で何度も解説しているとおり「犯罪が発覚する前もしくは被疑者が特定される前に犯罪を申告すること」で自首が成立(他要件あり)します。
犯罪申告のタイミングが遅れてしまえば、「出頭」という扱いになり、減刑規定がありません。これが、自首と出頭の大きな違いの一つです。
減刑規定の有無
自首と出頭は、減刑規定の有無が異なります。
自首 | 刑法による減刑事由がある |
出頭 | 減刑事由なし |
刑法において「罪を犯したものが捜査機関に発覚する前に申告した場合は、その刑を減刑できる(刑法第24条)」と記載されています。あくまでも、「減刑できる」というものであり、必ずしも減刑が認められるわけではありません。
しかし、弁護活動を行っていくうえでも、自首をしていることを考慮するよう訴えることができます。結果的に減刑される可能性が高まります。
一方で、出頭の場合は減刑事由に該当しません。つまり、減刑される可能性が自首と比較して低いのです。もちろん、「自ら出頭した」という事実が良い心象を与え、減刑される可能性はあるでしょう。
しかし、自首と比較した場合の減刑の可能性や減刑の効果は限定的であるため、出頭をするのであれば「自首の成立」を目指したほうが良いでしょう。
殺人罪で自首をするメリット
殺人で自首をするメリットは以下のとおりです。
- 減刑される
- 供述の信用性が増す
- 精神的に安定する
次に、殺人を犯した場合に自首をするメリットについて詳しく解説します。
減刑される
自首が成立した場合、減刑される可能性が高まります。そもそも、殺人罪の法定刑は「死刑または無期もしくは5年以上の有期拘禁刑」です。
たとえば、死刑に値する殺人を犯した人であっても、自首をすることによって無期拘禁刑に減刑される可能性があります。無期拘禁刑相当の殺人を犯した場合は、有期拘禁刑に減刑される可能性があるのが「自首」を行うことによる最大のメリットです。
供述の信用性が増す
自首をすると言うことは、自ら犯罪の申告をしている状況です。そのため、供述の信用性が増します。
たとえば、殺人罪に至った経緯がいわゆる怨恨であった場合、その供述が信用されれば量刑判断にも大きな影響を与えます。そのため、できるだけ早期に自首を行い、事実の供述をすることがとても大切です。
精神的に安定する
自首をすることで精神的に安定できます。殺人罪は重大な犯罪であることから、「いつ逮捕されるのだろうか」など、さまざまな不安を感じていることでしょう。
外を歩いていてもすべての人に疑われているような感覚に陥ってしまう人も少なくありません。結果として、精神的に不安定になってしまう人も多いです。「少しでも精神的に楽になりたい」と感じる部分があるのであれば、早期に自首をして成立させたうえで罪と向き合っていくことを検討しましょう。
殺人罪で自首した後の流れ
殺人罪で自首をした場合、通常はそのまま逮捕されます。その後、勾留を経て刑事裁判が行われる流れです。次に、殺人罪で自首した後の流れについても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
逮捕
殺人罪で自首をした場合、逮捕される可能性が高いです。「逮捕」という行為は、罪を犯した疑いが強い人の身柄を一時的に拘束するために行われるものです。
通常は、罪を犯したからといってすべての人が逮捕されるわけではありません。逮捕するためには、被疑者が「証拠隠滅もしくは逃亡する恐れがある」ことが条件です。逮捕されない事件のことを「在宅事件」と呼びますが、殺人罪の場合は逮捕されるケースが大半です。
なぜなら、殺人罪は重大な犯罪であるため、証拠隠滅や逃亡の可能性が高いと判断されるためです。仮に、自首をしていたとしても、殺人罪が成立している以上逮捕される可能性が非常に高いと思っておいたほうが良いです。
逮捕の種類は「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類ありますが、自首をした場合に成立する逮捕は緊急逮捕となります。
通常、逮捕するためには裁判所が発布する逮捕状がなければいけません。しかし、緊急性が高い場合など一定の要件を満たしている場合は、緊急逮捕が可能です。緊急逮捕の場合は、逮捕状がなくても逮捕は可能ですが、遅滞なく逮捕状を請求・発布されることが条件です。
また、自首をした時点で逮捕できるだけの要件が揃っていない場合は、初めに任意という形で事情を聞き、容疑が固まり次第逮捕状を請求して通常逮捕となる可能性もあります。いずれにせよ、「逮捕」であることに変わりはありません。
逮捕された後は、最長48時間以内の身柄拘束が可能となります。48時間は、警察署内にある留置所と呼ばれる場所に収容され、事情聴取を受けます。その後、検察官に事件を送致するまでが大まかな流れです。
勾留請求
事件を送致したあと、検察官は引き続き被疑者の身柄を拘束する必要があるかどうかについて判断します。身柄拘束の必要があると判断された場合は、裁判所に対して勾留請求を行います。
たとえ自首が成立していたとしても、殺人罪は重大な事件であるため、勾留が認められるケースが大半です。勾留が認められた場合は、最長で20日間の身柄拘束が可能となります。
起訴・不起訴の判断
検察官は、被疑者の勾留期間中に被疑者を起訴するか不起訴とするかを決定します。自首をして素直に罪を認めている場合や、あなたが罪を犯したと疑うに足りる十分な証拠が揃っている場合は、かならず起訴します。
起訴されたあとも引き続き身柄拘束は継続し、通常は拘置所と呼ばれる場所で「未決勾留者」として過ごさなければいけません。
刑事裁判を受ける
刑事裁判の準備が整い次第、刑事裁判が開かれます。刑事裁判では、あなたの犯した殺人罪について審理し、有罪か無罪かを判断します。どのような事情があったにせよ、人を殺める行為は犯罪であるため、有罪判決が下されると思っておきましょう。
自首をしている以上、罪を認めていることが明らかであるため、弁護側は量刑を軽減するよう弁護活動を行っていく方針になるでしょう。
判決に従って刑に服する
刑事裁判で判決が言い渡され、判決が確定した場合は刑が執行されます。拘禁刑であれば、刑務所に収監されて刑務作業や更生プログラム等、受刑者ごとの特性に応じて柔軟に何らかのことが行われます。
死刑であれば、拘置所に収監されて刑の執行を待ちます。死刑囚は、死すことが刑罰であるため、刑務作業等が義務付けられていません。ただし、希望をした場合は刑務作業が認められる場合もあります。
殺人罪で自首する際の注意点
殺人罪で自首をする際は、以下のことに注意してください。
- 自首の意思表示は明確に行うこと
- 早めに弁護人へ依頼をすること
- 供述内容は慎重に検討すること
次に、殺人罪で自首をする際の注意事項について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
自首の意思表示は明確に行う必要がある
自首をする際は、「自首をします」「罪を認めます」など、明確な意思表示を示すことが大切です。本記事冒頭でも解説したとおり、自首が成立するためには「自首の意思表示が明確であること」が条件です。そのため、自首をする際はしっかりと意思表示することを意識しておきましょう。
早めに弁護人へ依頼することが重要
早めに弁護人への依頼を検討しておきましょう。通常、逮捕された被疑者は1度だけ無料で弁護人を選任できます。その後、勾留が確定した時点で私選弁護人が付いていなければ、国選弁護人(無料)が付けられます。
しかし、いずれの場合もタイミングとしてはとても遅いです。早めに弁護人へ依頼しておくことで、早期に適切な弁護活動を行うことができ、量刑判断にも大きな影響を与えます。
そのため、費用は実費となるものの自首をする前に弁護人へ依頼をしておいたほうが良いでしょう。自首をする際のアドバイスや自首後の取り調べの応じ方、弁護活動の方針などを事前に打ち合わせできる点が大きなメリットです。
供述内容は慎重に検討すべき
自首をしたからといって、すべてのことを話す必要はありません。自分に不利になる恐れのある内容の供述は慎重に検討・判断するべきです。
言わなくても良いことを供述してしまうことで、量刑判断に大きな影響を与える可能性があるためです。できることであれば、自首前に弁護人に相談をしたうえでアドバイスをもらい、供述内容を決定していったほうが良いでしょう。
殺人罪の自首でよくある質問
殺人罪の自首でよくある質問を紹介します。
Q.自首すれば必ず刑が軽くなりますか?
A.かならず減刑されるわけではありません。
殺人罪は重大な犯罪です。どのような事情があったにせよ、人を殺める行為は決して許されるべきではありません。刑法では減刑事由として自首をした場合の記載がありますが、あくまでも「減刑することができる」と書かれているのみです。
つまり、自首をしたからといって必ずしも減刑されるとは限りません。犯罪の内容や殺人に至った経緯等を考慮したうえで判断されます。
Q.弁護士なしで自首しても問題ないですか?
A.問題ありません。
弁護士なしで自首をしても問題ありませんが、事前に弁護士へ相談をしておいた方が安心です。なぜなら、逮捕後や勾留後に選任される弁護人は、タイミングとしてとても遅いためです。
そもそも、自首をした時点で取り調べが開始されます。自首をする人は、自らの犯行をすべて話してしまうでしょう。すべて話したあとに弁護人が付いても、余計な供述をしてしまった後かもしれません。
そのため、何を供述し、何を供述しないのかを慎重に判断するためにも、事前に弁護士へ相談をしておいたほうが安心です。最終的な量刑判断にも影響を与えるものであるため、初めに弁護士への相談を検討してください。
Q.自首すると罪を認めたことになりますか?
A.自首をした場合は、罪を認めたこととなります。
自首は「自分が罪を犯しました」と自ら申告した際に成立するものです。そのため、そもそも罪を犯していない人が自首をする場面が起こり得ません。
Q.自首のタイミングが遅れると不利になりますか?
A.出頭扱いとなる可能性があります。
自首のタイミングが遅れてしまうと、出頭扱いになり減刑効果が限定的になる可能性があります。自首は、捜査機関に事件や容疑者が発覚する前に自ら犯罪を申告することを指します。
殺人罪は重大な事件であり、日本の警察も優秀であることから事件の発生から容疑者の特定までそう多くの時間はかりません。自首を成立させるためにも、できるだけ早めに出頭したほうが良いでしょう。
Q.自首をするデメリットはありますか?
A.デメリットも少なからずあります。
殺人罪の場合、自首と同時に逮捕される可能性が非常に高いです。そのまま、長期間にわたって社会に戻ってこられなくなります。
とはいえ、デメリットよりもメリットのほうが大きいです。殺人罪という重大な犯罪を犯している以上、遅かれ早かれ逮捕される可能性が高いため、自分自身で覚悟を決めたのであれば、早期に自首を検討したほうが良いでしょう。
まとめ
今回は、殺人罪における自首について解説しました。
殺人罪における自首は、事件や犯人がまだ発覚していない段階で被疑者本人が自ら進んで警察や検察に出頭し、明確に自首の意思を示すことで成立します。自首が認められれば、刑法により減刑の可能性があるため、重大な犯罪である殺人罪においても、量刑の軽減が見込まれる重要な手段です。
ただし、自首として認められるには「事件発覚前または犯人特定前」でなければならず、タイミングを誤ると単なる出頭扱いとなり、減刑の恩恵は受けられません。また、自首のメリットとしては、減刑の可能性が高まるだけでなく、供述の信用性が向上し、精神的な不安からも一定の解放が得られる点が挙げられます。
自首をすれば通常は逮捕され、その後は勾留・起訴・刑事裁判という流れとなるため、覚悟をもって行動することが必要です。さらに、自首の際は供述内容に注意が必要です。弁護人に早めに相談をしてアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
自首によって必ずしも刑が軽くなるわけではないものの、刑事手続きにおいて有利な要素となるのは間違いありません。できる限り早い段階で、適切な方法で自首を行うことが、今後の処遇に大きく関わるといえるでしょう。