警察から出頭要請がかかった場合、出頭要請に応じるのか、出頭拒否をするのかを決める必要があります。
ただし、出頭拒否をすると、逮捕・勾留によって強制的に身柄拘束されたり、起訴・有罪になりやすくなったりする点に注意が必要です。
正当な理由があれば出頭拒否をしても問題ありませんが、理由もないのに出頭拒否をするのはハイリスクだといえるでしょう。
そこで、この記事では、刑事事件を起こして警察から出頭要請をかけられた人のために、以下の事項についてわかりやすく解説します。
- 出頭要請の内容や方法
- 出頭拒否をしたときに生じるデメリット
- 出頭拒否をしたあとの刑事手続きの流れ
- 出頭拒否するか迷ったときに弁護士に相談・依頼するメリット
目次
出頭拒否するとどうなる?
まずは、出頭要請の内容、出頭要請の刑事手続き上の位置付け、出頭拒否するとどうなるのかについて解説します。
そもそも出頭要請とは
出頭要請とは、警察や検察官が被疑者・参考人に対して事情聴取を受けるために任意で出頭するように呼びかけることです。
出頭要請は、電話やハガキ、自宅などへの訪問という形でおこなわれるのが一般的です。
出頭要請と自首との違い
自首とは、捜査機関が犯罪事実や犯人を把握していない段階で、犯人自ら捜査機関に犯罪に及んだ事実を申告し、処罰を求めることです。捜査機関が犯罪事実について何も把握していない状況で自首をすれば、検察官から起訴猶予処分を引き出しやすくなったり、刑事裁判において自首減軽の恩恵を享受できたりします。
これに対して、出頭要請は、犯罪事実や犯人を捜査機関が把握した段階でおこなわれるものです。出頭要請に応じれば有利な情状判断を引き出しやすくなるものの、刑事手続き上のメリットが確約されるわけではありません。
出頭要請と出頭命令の違い
出頭命令とは、裁判所が被告人に出頭を命じることです。
引用:刑事訴訟法|e-Gov法令検索
正当な理由がないのに裁判所の出頭命令に違反すると、強制的に勾引されます。
これに対して、捜査機関からの出頭要請に応じなかったとしても、それだけを理由に強制的に連行されることはありません。
出頭を拒否してもそれだけで刑事罰が科されることはない
出頭要請は、あくまでも被疑者や参考人に対して、任意での出頭を求めるものです。
ですから、出頭要請を無視・拒否しても、それを理由に刑事罰が科されることはありません。
また、出頭要請のあとに実施される事情聴取も任意を前提としたものなので、事情聴取を途中で切り上げて帰宅することも可能です。
出頭拒否すると逮捕される可能性が高まる
出頭拒否をしても、理屈上、刑事罰が科されることはありません。
しかし、被疑者として出頭要請をかけられたにもかかわらず、出頭拒否をしたときには、通常逮捕手続きに移行するリスクに注意が必要です。
通常逮捕とは、裁判所が発付する逮捕状に基づいて実行される強制的な身柄拘束処分のことです(刑事訴訟法第199条第1項)。
逮捕状が発付されるのは、以下2つの要件を満たしたときです。
- 逮捕の相当性:被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
- 逮捕の必要性:逃亡または証拠隠滅のおそれがあること
任意の出頭要請を拒否したり、出頭要請には応じたものの事情聴取で黙秘をしたりすると、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると判断されて「逮捕の必要性」要件を満たしてしまいます。
この状況で、被疑者が罪を犯したことを示す客観的証拠がある程度そろっていると「逮捕の相当性」要件も満たすので、逮捕状が発付される可能性が高まるでしょう。
ですから、刑事事件について身に覚えがある状況なら、理由もなく出頭拒否をするのではなく、任意の事情聴取に誠実に対応するのが合理的な判断だと考えられます。
出頭拒否をして逮捕されると長期間身柄拘束される可能性が高まる
正当な理由なく出頭拒否をつづけると通常逮捕される可能性が高まります。
そして、通常逮捕された場合、逮捕・勾留によって長期間身柄拘束されるリスクに晒されます。
逮捕後、想定される身柄拘束期間は以下のとおりです。
- 警察の取り調べ(逮捕段階):48時間以内
- 検察官の取り調べ(逮捕段階):24時間以内
- 検察官の取り調べ(勾留段階):20日間以内
- 起訴後勾留:刑事裁判が終了するまで
これだけの身柄拘束期間が生じると、仮に検察官から不起訴処分を獲得できたとしても、社会生活にさまざまな支障が生じかねません。
たとえば、無断欠勤を理由に会社をクビになったり、人事評価が下げられたりします。また、家族や恋人、知人などに刑事事件を起こして逮捕された事実がバレてしまうでしょう。
出頭拒否をすると起訴処分が下される可能性が高まる
必要な捜査活動が終了すると、検察官が刑事事件を公訴提起するかどうか(起訴か不起訴か)を決定します。
起訴処分とは、刑事事件を公開の刑事裁判にかける旨の判断のことです。これに対して、不起訴処分とは、刑事事件を刑事裁判にかけずに検察限りで刑事手続きを終了させる旨の判断を意味します。
ここでのポイントは、実際に刑事事件を起こした事実に間違いがなくても、「起訴猶予処分」という形式で不起訴処分を獲得できる余地が残されているという点です。
起訴猶予処分とは、被疑者が犯行に及んだ客観的証拠が存在する状況でも、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を総合的に考慮した結果、検察官限りの判断で刑事手続きを終了させることです。(刑事訴訟法第248条)。
出頭拒否をせずに真摯な姿勢で事情聴取に応じたという事実関係があれば、被疑者にとって有利な情状証拠と扱われるため、起訴猶予処分を獲得しやすくなります。これに対して、出頭拒否をした場合には反省の態度がないと判断されるため、起訴猶予処分を獲得しにくくなるでしょう。
ですから、犯行に及んだ客観的証拠がそろっている状況なら、敢えて出頭拒否をしても刑事手続きが不利になるだけなので、素直に出頭要請に応じるべきだと考えられます。
出頭拒否すると量刑判断が厳しくなる可能性が高い
検察官が起訴処分を下して刑事裁判にかけられた場合、出頭拒否は量刑判断でも不利な証拠と扱われます。
たとえば、任意の出頭要請に応じていれば執行猶予付き判決や罰金刑を獲得できたはずなのに、出頭拒否をして刑事手続きが不利に進んだために実刑判決が確定するというケースも想定されます。
【まとめ】出頭拒否のデメリット・逮捕されたときのデメリット5つ
出頭拒否をした結果、生じる可能性がある5つのデメリットについて解説します。
- 刑事手続きにおいて不利な扱いを受ける
- 実名報道される可能性が高まる
- 家族にバレる可能性が高い
- 学校や会社にバレる可能性が高い
- 有罪になって前科がつくリスクが高まる
出頭拒否によって刑事手続きにおいて不利な扱いを受ける
出頭拒否をすると、刑事手続き上、以下のデメリットが生じます。
- 逮捕・勾留によって長期間身柄拘束される可能性が高まる
- 起訴猶予処分を獲得しにくくなる
- 実刑判決が下される可能性が高まる
- 執行猶予期間や罰金刑が厳しい内容になる可能性が高まる
出頭拒否して逮捕されると実名報道されるリスクが生じる
刑事事件を起こすと、テレビの報道番組やネットニュースなどで実名報道されるリスクに晒されます。
もちろん、すべての刑事事件が実名報道の対象になるわけではありません。
どのような刑事事件が実名報道の対象になるかについての画一的な基準は存在しませんが、一般的に、以下の要素を有する刑事事件は実名報道の対象になる可能性が高いといわれています。
- 被疑者が逮捕・起訴された刑事事件
- 著名人や社会的地位が高い人物による刑事事件
- 被害が深刻な刑事事件(殺人、放火、強盗、高額の詐欺・横領など)
- 社会的関心が高いテーマに関する刑事事件(性犯罪、ネット犯罪、特殊詐欺など)
つまり、出頭要請に応じて在宅事件として処理された場合には実名報道リスクは低いですが、出頭拒否をして通常逮捕されると実名報道のリスクが高まるということです。
一度でも実名報道されると、半永久的に犯罪歴に関する情報がインターネット上に残りつづけてしまいます。
たとえば、就職活動や転職活動の際には、応募先の企業は求職者の氏名をネット検索するので、簡単に犯罪歴がバレてしまいます。また、交際や結婚、交友関係もうまくいかなくなる可能性が高いでしょう。
出頭拒否して逮捕されると家族にバレる可能性が高まる
まず、出頭要請に応じた場合、任意で捜査活動に協力をすれば良いので、何日も連続で捜査機関に身柄を押さえられることはありません。指定された日時に警察署を訪問し、数時間程度事情聴取を受ければ帰宅できるので、家族に刑事事件を起こした事実を隠しやすいです。
これに対して、出頭拒否をして通常逮捕された場合、最低でも数日間、満期まで逮捕・勾留されると数週間、留置場に身柄をとどめられます。強制的な身柄拘束期間中は、自宅に戻ったり家族に電話連絡をしたりできません。
ですから、出頭拒否をして逮捕されると、家族や恋人などに刑事事件を起こした事実がバレる可能性が高いでしょう。
出頭拒否して逮捕されると会社や学校にバレる可能性が高まる
出頭拒否をして逮捕されると、長期間外部と連絡がとれない身柄拘束状態が継続するため、家族だけではなく、会社や学校に刑事事件を起こした事実がバレる可能性が高いです。
たとえば、被疑者が学生の場合、学則・校則に基づき「退学・停学・訓告」などの処分が下されます。特に、退学や停学になると、卒業後の進路にも大きな悪影響が生じます。
また、被疑者が社会人の場合、勤務先の就業規則の懲戒規程に基づき何かしらの懲戒処分が下されるリスクに晒されます。懲戒処分は「戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇」の7種類に分類されますが、刑事事件を起こしたケース、実名報道によって企業の社会的信用が毀損されたケースなどでは、会社をクビになっても仕方ないと覚悟しなければいけません。
出頭拒否をすると有罪になって前科がつく可能性が高まる
出頭拒否をして捜査機関や裁判所からの心証が悪くなると、有罪判決が下される可能性が高いです。
そして、有罪判決が確定した場合、刑事罰が科されるだけではなく、前科がつく点にも注意をしなければいけません。
前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。実刑判決だけではなく、執行猶予付き判決や罰金刑が確定した場合にも、前科者と扱われます。
前科持ちになると、今後の社会生活に以下のデメリットが生じます。
- 履歴書の賞罰欄への記載義務、採用面接で質問されたときの回答義務が生じるので、就職活動・転職活動の難易度が高くなる
- 前科を隠して内定を獲得したり就職に成功したりしても、前科の事実が発覚すると、経歴詐称を理由に内定取り消し・懲戒解雇処分が下される
- 前科を理由に就業が制限される資格・仕事がある(士業、警備員、金融業など)
- 前科を理由に離婚を言い渡されたり結婚話がなくなったりしかねない
- ビザやパスポートの発給制限を受ける場合がある(海外旅行、海外出張に支障が生じる)
- 再犯に及んだときに刑事処分が重くなる可能性が高い など
日本の刑事裁判の有罪率は極めて高いので、無罪判決獲得を狙うのは現実的ではありません。
ですから、前科によるデメリットを避けたいなら、検察官から起訴猶予処分の判断を引き出せるかがポイントになるでしょう。
理由なく出頭要請を拒否すると起訴猶予処分を獲得しにくくなるので、冤罪などの特別な事情がない限り、任意の出頭要請は拒否せずに誠実に対応するべきだと考えられます。
出頭拒否せずに警察署を訪問するときのポイント4つ
出頭要請がかかったときには、特別な事情がない限り、出頭拒否をするべきではありません。
ここでは、出頭拒否をせずに警察署を訪問して事情聴取を受けるときのポイントについて解説します。
- 供述内容や供述方針をあらかじめ決定する
- 理由もなく黙秘をしたり供述拒否をしたりしない、嘘をつかない
- 被疑者に認められた権利や刑事手続きの流れを理解する
- 出頭要請がかかったタイミングですぐに弁護士に相談する
事前に供述内容・供述方針を決める
出頭要請がかかってから実際に警察署に訪問するまでには、数日程度の猶予が与えられることが多いです。
ですから、出頭日当日までに、事情聴取でどのような供述をするのかについて戦略を立ててください。
何の準備もせずに警察署に出頭すると、供述内容に齟齬・矛盾が生じたり、捜査機関がつかんでいる客観的証拠と反する供述をしたりしかねません。出頭要請後の事情聴取で捜査員に不信感を抱かれると、逮捕・勾留のリスクだけではなく、起訴・有罪の危険性も高まるでしょう。
不必要に黙秘・供述拒否をしない
出頭拒否をせずに事情聴取を受ける場合、正当な理由がないのに黙秘や供述拒否をするのは避けるべきです。
というのも、客観的証拠がそろっている状況なのに、不必要に犯行を否認したり黙秘をしたりすると、通常逮捕手続きに移行するリスクが高まるからです。
もちろん、証拠がそろっていない状況において、無駄に自ら不利な立場に追い込まれるような供述をする必要はありません。
ですから、黙秘・供述拒否の方針をとるかどうかを決める前に、捜査機関がどのような証拠を収集しているのか、捜査活動の進捗状況などは正確に分析をするべきでしょう。
自分の身を守るための権利や刑事手続きの流れを理解する
出頭要請がかかったときには、今後想定される刑事手続きの流れや被疑者に認められた権利を理解しておきましょう。
出頭要請のあとの刑事手続きの流れ
出頭要請を受けたあとの刑事手続きの流れは以下のとおりです。
- 警察署に出頭をして、警察段階の取り調べを受ける
- 警察から検察官に刑事事件が送致される
- 検察段階の取り調べが実施される
- 検察官が刑事事件を起訴するかどうかを決める(起訴されなかったら刑事手続きは終了する)
- 起訴された場合には刑事裁判にかけられる
- 判決が言い渡されて刑事罰が確定する
出頭要請に応じて在宅事件として刑事手続きが進められた場合、捜査機関に強制的に身柄拘束を受けることはありません。
これに対して、出頭要請を拒否して通常逮捕された場合や、出頭要請に応じたものの途中で逮捕状が発付された場合には、身柄拘束された状態で刑事手続きが進められます。
被疑者側に認められた権利
出頭要請を受けて事情聴取を受ける際には、被疑者側にどのような権利が与えられているかを理解しておきましょう。
- 黙秘権:自己に不利益な供述を強制されない権利のこと
- 弁護人選任権:自己の利益を守るために弁護人を選任する権利のこと
- 事情聴取に対する拒否権・退去権:逮捕状が発付されていない状況において、事情聴取を拒否したり途中で切り上げたりできる権利のこと
- 供述調書への署名押印拒否権:作成された供述調書への署名・押印を拒否する権利のこと
- 供述調書の増減変更権:作成された供述調書の内容を訂正してもらう権利のこと
出頭拒否するか出頭するかについて弁護士に相談する
出頭要請がかかったときには、自分だけで対応を決めるのではなく、必ず弁護士に出頭拒否をするのかについて相談をしてください。
刑事事件に強い弁護士に相談・依頼をすれば、出頭要請後の対応などについてアドバイスをくれます。
特に、逮捕・勾留されていない場合、国選弁護人や当番弁護士制度を利用できません。
ですから、出頭拒否するべきかについて迷ったときには、刑事事件への対応が得意な私選弁護人の力を借りると良いでしょう。
出頭拒否するか迷ったときに弁護士へ相談・依頼するメリット
さいごに、出頭拒否をするかどうか迷ったときに弁護士に相談・依頼するメリットについて解説します。
- 出頭要請への対応方法についてアドバイスをくれる
- 逮捕・勾留によるデメリットの回避・軽減を目指してくれる
- 起訴猶予処分獲得を目指してくれる
- 実刑判決回避を目指してくれる
出頭要請がかかった経緯などを総合的に考慮したうえで防御方針や供述内容を明確化してくれる
出頭要請がかかったあとにどのような対応方法をとるべきかは、刑事事件の内容や捜査活動の進捗状況によって異なります。
刑事事件への対応が得意な弁護士に相談すれば、法律相談の際に刑事事件に関する事情を聴取したうえで、出頭要請後の対応についてアドバイスをくれるでしょう。
逮捕・勾留によるデメリットの回避・軽減を目指してくれる
逮捕・勾留されると、強制的な身柄拘束によるデメリットを強いられます。
刑事事件の経験豊富な弁護士は、取り調べでの供述方針についてアドバイスを提供したり、取消請求や準抗告などの法的措置を尽くしたりして、早期の身柄釈放や在宅事件化を目指してくれるでしょう。
起訴猶予処分獲得を目指してくれる
出頭要請がかけられて捜査活動hの対象になった以上、検察官の公訴提起判断への対策が不可欠です。
刑事実務に詳しい弁護士に相談・依頼をすれば、起訴猶予処分の判断を引き出すために役立つ情状証拠や証人などを用意してくれるでしょう。
実刑判決回避を目指してくれる
検察官が起訴処分を下した場合、刑事裁判への対応が欠かせません。
実刑判決を下されると刑期を満了するまで服役を強いられるので、出所後の社会復帰が困難になってしまいます。
刑事裁判経験が豊富な弁護士に相談・依頼をすれば、執行猶予付き判決や罰金刑を獲得することで、実刑判決回避を目指してくれるでしょう。
出頭拒否をするべきか悩んだときには弁護士へ相談しよう
刑事訴追の対象になった場合、「軽い刑事処分を獲得すること」「強制的な身柄拘束を回避すること」が重要です。
しかし、正当な理由がない状況で出頭拒否をすると、今後の刑事手続きが不利に進められる可能性が高いです。
ですから、出頭要請がかかったときには、どのような態度で捜査活動に向き合うかを、できるだけ早いタイミングで判断する必要があります。
刑事事件相談弁護士ほっとラインでは、出頭拒否判断などへのアドバイスが得意な法律事務所を多数紹介中です。弁護士に相談するタイミングが早いほど有利な状況を作り出しやすいので、警察から呼び出しがかかったときには速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。