地面師詐欺はどう逮捕される?手口と罪名を詳しく解説

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「地面師」とは、他人名義の土地や建物をあたかも自分の不動産であるかのように装い、売買契約を結ばせて巨額の金銭をだまし取る極めて悪質な詐欺グループを指します。住民票や印鑑証明、登記識別情報などの公的書類を偽造し、仲介業者や司法書士まで巻き込んで取引を本物らしく演出するのが特徴で、大企業ですら被害に遭うほど巧妙です。

その裏側では、所有者になりすます役、偽造書類を用意する役、仲介業者を装う役、資金を受け取り分散させる役など、細かく役割分担された組織犯罪として動いています。こうした地面師詐欺は、詐欺罪だけでなく、有印私文書偽造罪・公文書偽造罪・公正証書原本不実記載罪など多数の罪が重なり、起訴されれば高い確率で実刑判決に至るのが実情です。

一方で、被害に遭った側には、売買契約の無効・取消し、加害者や関係者への損害賠償請求、不動産会社や金融機関への責任追及などの民事上の対応手段も用意されています。本記事では、地面師詐欺の仕組みや適用される罪名、起訴・実刑の判断基準、被害に遭った場合の具体的な対処法まで、詳しく解説します。

地面師詐欺とは

「地面師」とは、実在する他人の土地や建物を、自分の所有物であるかのように偽って不正に売却し、巨額の金銭を詐取する詐欺師のことを指します。単なる詐欺とは異なり、不動産登記、印鑑証明、司法書士、仲介業者など、不動産取引に関わる制度や人間関係を巧みに悪用する高度な犯罪です。

不動産は一件ごとの金額が大きく、所有確認にも一定の時間を要するため、地面師詐欺は「計画性が高く」「組織化された」犯行となることが特徴です。まずは、地面師詐欺とはどのような行為を指すのか?について詳しく解説まます。

所有者になりすまして行う詐欺行為

地面師詐欺の根幹は、他人の土地や建物の「真の所有者」になりすますことにあります。これは刑法上の「詐欺罪」や「私文書偽造罪」「公正証書原本不実記載罪」などに該当し、複数の法令違反が重なる非常に悪質な犯罪です。

地面師詐欺の典型的な流れとしては、以下のとおりです。

  • 所有者情報を調べ、実在する不動産を特定
  • 本人になりすますため、偽の住民票・印鑑登録証明書・身分証などを用意
  • 不動産業者を通じて買主を探し、売買契約を締結
  • 代金の決済が完了した直後に連絡を絶って逃走

このようにして、真の所有者が知らない間に、その不動産が「勝手に売られ、金が詐取されている」という状態が完成します。

詐欺罪の成立要件は以下のとおりです。

  • 欺罔行為
  • 錯誤
  • 処分行為
  • 財産移転

欺罔行為とは「相手を騙そうとする意思」を指します。地面師詐欺は、存在する不動産の売買に関する代理権を有していないにも関わらず、あたかも売買代理権があるかのように見せかけて相手を騙します。よって、欺罔行為が成立します。

そして、相手方は地面師グループを信じて売買契約に応じているため、「錯誤」が発生し、結果として金銭を支払うことで処分、財産移転も成立する流れです。よって、地面師グループによって行われる行為は「詐欺罪」が成立し得ます。

地面師グループの構造と役割分担

地面師詐欺は単独犯ではほとんど成立せず、役割分担が極めて明確な「組織的犯罪」です。事件の多くでは、以下のような構造を取っています・

  • なりすまし:実在の所有者になりすまし、契約や面談を行う
  • 書類班:偽造された公的書類を作成・取得する
  • 仲介業者風の協力者:売主と買主の橋渡し役を装い、信頼感を演出
  • 司法書士役・立会人役:取引を形式的に「本物」に見せるための演出
  • 金の受け取り役・引出し役:売買代金を即座に分散・持ち逃げする実行犯

このように地面師詐欺は、詐欺と文書偽造、マネーロンダリングが複合的に絡む知能犯グループによって行われます。逮捕された場合、組織全体が共犯とされ、全員に重い刑罰が科される傾向にあるため注意しましょう。

【事例】過去に発生した地面師詐欺

地面師詐欺の悪質性を象徴する事例として、2017年に明るみに出た「積水ハウス地面師事件」が有名です。この事件は、東京都品川区の高級住宅地にある土地を巡り、地面師グループが偽造書類を用いて所有者になりすまし、積水ハウスから約55億円もの資金を騙し取ったとして、十数人が逮捕・起訴されました。

この事件では、主に以下のことが問題となっています。

  • 売買契約書に記載された印鑑証明・登記識別情報がすべて偽造
  • 司法書士も騙されて手続きに関与
  • 資金は複数の名義口座に分散して一部国外に流出

上記のとおり、制度の隙を突いた極めて巧妙な手口が使われていました。この事件をきっかけに、不動産業界では「本人確認の強化」や「登記情報の即時照会」が求められるようになり、現在も地面師対策は社会的課題となっています。

大手ハウスメーカーである積水ハウスが地面師詐欺被害に遭ったことで、大きな話題となりました。その後、地面師グループは逮捕されていますが、詐取された55億円超のお金は返還されていません。

地面師詐欺はどんな罪に問われるのか

地面師詐欺は、単なる「だまし取る行為」にとどまらず、複数の重大犯罪が重なり合う複合的な知能犯です。そのため、逮捕・起訴された場合には、詐欺罪だけでなく、文書偽造、登記関係、場合によっては組織犯罪処罰法やマネーロンダリング関連法令まで適用されることがあります。

次に、地面師詐欺で実際に適用される代表的な罪について、順に詳しく解説します。

詐欺罪に該当

地面師詐欺の中心となるのが、刑法246条に規定された「詐欺罪」です。

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

引用元:刑法|第246条

詐欺罪が成立するためには、以下の4要件を満たしている必要があります。

  • 欺罔行為
  • 錯誤
  • 処分行為
  • 財産移転

地面師は、真の所有者になりすまし、虚偽の名義や偽造書類を用いて売買契約を締結し、買主から金銭をだまし取ります。この一連の行為が、詐欺罪の「欺罔行為(ぎもうこうい)→錯誤→財物交付→財産移転」という構成要件をすべて満たします。

金額が数億円単位になることも珍しくなく、とくに不動産会社や金融機関を騙している場合は、「社会的影響が大きく、悪質性が高い」として実刑判決が下されやすい傾向にあります。

有印私文書偽造・同行使罪に該当

地面師が所有者になりすますために用いる住民票・印鑑登録証明書・委任状・身分証明書などの書類は、たいていの場合が偽造されており、その行為は「有印私文書偽造罪」に該当します。

(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
一 他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為
二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為
2 他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書等又は他人が電磁的記録印章等を使用して作成した権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書等又は電磁的記録文書等を偽造し、又は変造した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法|第159条

さらに、それら偽造文書を不動産取引の場で実際に提出した時点で、「偽造文書行使罪」(刑法161条)も成立します。

この罪のポイントは、「本物そっくりの書類を作って、しかもそれを使った」という二重の違法性にあります。さらに不動産取引という「信頼が命の場」で使われるため、非常に重く処罰されます。

偽造公文書等との複合犯罪になるケース

さらに悪質なのは、偽の印鑑登録証明書や住民票、登記識別情報通知など、行政機関が発行する文書を偽造して用いた場合です。このような場合は、刑法155条の「公文書偽造罪」が適用されます。

(公文書偽造等)
第百五十五条 行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名(以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において「印章等」という。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画(以下この章において「文書等」という。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造する行為
二 公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等(印章等として表示されることとなる電磁的記録をいう。以下この章、第百六十五条及び第百六十七条において同じ。)を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等(文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録をいう。以下この章において同じ。)を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の電磁的記録印章等を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき電磁的記録文書等を偽造する行為
2 公務所若しくは公務員が押印し若しくは署名した文書等又は公務所若しくは公務員が電磁的記録印章等を使用して作成した電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書等若しくは電磁的記録文書等を変造した者は、三年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法|第155条

公文書の偽造は、「国の公的信頼を破壊する行為」とされ、私文書偽造よりもはるかに重く扱われます。地面師事件では、自治体発行の書類が精巧に偽造されていることが多く、複数の関係者が共謀して行っていることが明らかになれば、共犯全員が重罪に問われる可能性が極めて高くなります。

また、登記申請に偽造書類を提出して「虚偽の登記」を実現させた場合は、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)も併せて適用されることが一般的です。

地面師詐欺で起訴・実刑になる基準

地面師詐欺事件では、被疑者が逮捕された後、極めて高い確率で起訴され、かつ実刑判決に至るケースが多いのが実情です。単なる「詐欺事件」の枠にとどまらず、偽造・組織犯罪・金融犯罪・登記制度の悪用など、刑法・不動産法・行政法の複数領域にまたがる悪質な犯行と評価されるためです。

次に、検察や裁判所がどのような観点で「起訴・実刑に値するか」を判断しているのか、代表的な4つの基準を詳しく解説します。

1.被害額の大きさ

大きな判断材料となるのが、被害金額の規模です。地面師詐欺は不動産取引を舞台にするため、1件あたりの被害額が数千万円~数十億円規模になることも珍しくありません。

たとえば2017年の「積水ハウス地面師事件」では、55億円超が詐取されたことで社会に大きな衝撃を与えました。このような巨額被害が確認された場合は、情状を問わず実刑となるのが一般的です。

仮に「1億円未満の被害」であっても、繰り返しの犯行や複数被害者がいれば、累積して重く扱われます。

2.犯行計画性・組織性の評価

地面師詐欺の特徴として、犯行の計画性と組織性の高さがあります。犯人グループが、なりすまし役・書類作成役・不動産仲介役・資金回収役などに分かれて動く構造が明らかになると、それだけで悪質性が高いと評価されます。

さらに、共犯者間で役割分担が明確で、犯罪の準備や段取りが綿密に進められていた場合、「営利目的で組織的に行われた極めて悪質な犯行」とされ、量刑は必然的に重くなるのです。

とくに以下の要素が明らかになれば、起訴・実刑の可能性は高まります。

  • 他人名義で多数の銀行口座を開設し、資金の逃避ルートを確保
  • 偽の身分証を複数用意し、同時並行で複数の詐欺を実行
  • 不動産業者・司法書士などへの偽装を伴う「完全な演出」
地面師詐欺は組織的犯罪であり、計画性が高くなければ成立しません。そのため、たとえ未遂で終わったとしても、実刑判決となる可能性はとても高いため注意しましょう。

3.偽造や資金移動の巧妙さ

詐欺そのものに加えて、使用された偽造書類の精巧さや、詐取資金の分散・隠蔽方法の巧妙さも、量刑を左右する重要なファクターです。地面師詐欺では、次のような手口が多く見られます。

  • 印鑑証明書や登記識別情報通知書などの精密な偽造
  • 架空名義の銀行口座を大量に使い、資金を分散・海外送金
  • 電子登記システムを使って、正規手続きを装った偽登記申請

これらの行為は、それぞれが「文書偽造罪」「犯罪収益移転防止法違反」に該当し、詐欺罪に追加して実刑理由を強める結果となります。

4.被害者の人数・社会的影響

被害者が個人か法人か、またその数がどれほどかによって、社会的影響の大きさも判断されます。とくに大手企業・自治体・医療法人などが騙された場合、メディア報道の影響も相まって、裁判所は「社会の法的秩序に対する重大な挑戦」と位置づける傾向にあります。

また、不動産業界全体に対する信頼を損なうような手口であった場合も、「制度への信頼を破壊した」として量刑判断に不利に働きます。そのため、実刑判決の可能性は高まるでしょう。

【結論】詐欺罪は実刑の可能性が高い

詐欺罪は本来、「10年以下の拘禁刑」という法定刑が定められています。とくに地面師詐欺のような金額が大きく、計画的かつ組織的に行われた事件では、執行猶予がつかずに実刑となるケースが非常に多いです。

また、地面師事件では詐欺罪だけでなく、以下の犯罪も同時に成立する可能性が高いです。

  • 有印私文書偽造罪
  • 公文書偽造罪
  • 登記官への虚偽申請(公正証書原本不実記載罪)
  • 犯罪収益の隠匿(組織犯罪処罰法)

複数の重罪が併合して問われるため、判決は一層厳しくなる傾向があります。結果として、実刑判決となる可能性が高いでしょう。

実際、2017年に発生した積水ハウスへの地面師詐欺では、多くの関係者が実刑判決を受けています。中には、不起訴処分となっている者も存在しますが、これは証拠が不十分であることに起因しているとされています。証拠が揃っている場合は、実刑判決となり、長期間にわたって刑務所に収監されることになるでしょう。

地面師詐欺を行った場合、金銭が支払われた時点で資金洗浄が開始されているケースが多いです。そのため、長期間刑務所に収監されたとしても、出所後に現金を受け取れることから、リスクを負ってまで地面師詐欺を行う者もいます。

地面師詐欺が実刑判決になりやすい理由

詐欺罪全体では、被害金額や反省状況などにより「執行猶予付き判決」になるケースもあります。しかし地面師詐欺に限っては、極めて高い確率で実刑判決が下されているのが現実です。

これは、単に被害額が大きいという理由にとどまらず、犯罪の構造・社会的影響・刑事政策的な要請が複合して「厳罰が必要」と判断されるからです。次に、地面師詐欺が実刑になりやすい4つの理由を詳しく解説します。

【執行猶予とは】
執行猶予とは、刑の執行を猶予することを言います。たとえば、拘禁刑1年執行猶予3年の刑罰が言い渡された場合、拘禁刑の刑罰を直ちに執行せず、3年間猶予します。執行猶予期間中に、他の犯罪で罰金刑以上の刑罰が執行されなければ、執行を猶予されていた拘禁刑が執行されることはありません。

高額被害が発生しやすい重大事件である

地面師詐欺は、対象が土地や建物などの不動産であることから、1件あたりの被害額が数千万円から数十億円に及ぶのが特徴です。たとえば、積水ハウスが被害に遭った地面師事件では約55億円の被害が発生しました。仮に「成功」していなくても、契約書を交わし手付金が支払われた時点で、詐欺未遂が成立するため、結果は重大です。

裁判所は被害額について、以下のとおり判断します。

  • 社会的影響が大きい
  • 一件あたりの損害が著しく巨額
  • 損害回復が著しく困難

上記のことから、「刑事罰によって社会的警告を与える必要がある」と判断し、実刑を選択する傾向が強いのです。

組織犯罪として悪質と判断されやすい

地面師詐欺は、単独犯で実行されることはほぼありません。多くのケースでは、以下の役割に分類されます。

  • 所有者になりすます「スーツ役」
  • 偽造書類を作る「書類班」
  • 不動産業者を装う「仲介役」
  • 司法書士風の立会人
  • 資金回収・分散の実行犯

少なくとも5〜10人規模で役割分担をし、組織的に犯罪を進めていくことが一般的です。このような構造が判明した場合、裁判所は「組織的・計画的な詐欺であり、個人の突発的な動機とは質が異なる」として、犯行の悪質性を極めて高く評価します。

また、共謀関係の中で「主導的立場にあった者」「複数回関与した者」は、他の被告人よりも重く処罰され、懲役10年の実刑が下された判例も存在します。

反省の有無・弁済状況が強く影響する

刑事裁判においては、被害者に対する謝罪・示談・賠償の実施状況が量刑に大きく影響します。しかし、地面師詐欺においては、以下の状況から「十分な反省がない」「実害回復の見込みがない」と判断する傾向にあります。

  • 被害額が極めて高額で、全額賠償が困難
  • 資金がすでに複数口座に分散・隠匿されている
  • 加害者が資金の行方を明かさない(証拠隠滅の意図)
  • 反省文や謝罪文が形骸的で真意が感じられない

つまり、被害金を全額返還できず、かつ反省の姿勢が弱い場合、情状酌量の余地は著しく狭まり、実刑が避けられない構造にあるのです。

再犯リスクの評価が厳しい

地面師詐欺は、一度その手口を習得した者が再び同様の犯行に及ぶ可能性が高いと評価されやすい犯罪でもあります。

  • 書類偽造の技術やルートが温存され
  • 仲間内で新たな詐欺スキームを組みやすい
  • 実刑にならなければ再犯の抑止にならない

上記のような懸念があるため、裁判所は量刑理由において「再犯防止の観点から厳しい刑罰が必要」と明記することもあります。とくに、過去に同様の詐欺や文書偽造歴がある場合には、再犯加重(刑法57条)により、刑期がさらに加算されることになります。

地面師詐欺の民事上の対応

地面師詐欺は刑事事件であると同時に、被害者にとっては重大な民事問題でもあります。数千万円から数億円にわたる高額な資金を詐取されてしまうためです。

詐欺によって成立した契約の法的効力、加害者・関係者への責任追及、保険制度による救済など、実際の法的対応には複数の手段があります。次に、代表的かつ実効性の高い対応方法を詳細に解説します。

売買契約の無効・取消し請求

まず検討すべきは、そもそもその不動産売買契約が法的に有効なものなのかという点です。地面師詐欺による契約では、契約の当事者が実際の所有者でない人物であったり、契約締結が虚偽の情報に基づいていたりします。そのため、法律上「錯誤」または「詐欺」に基づく取り消しや無効の主張が可能です。

民法95条(錯誤による意思表示の無効)および同96条(詐欺・強迫による取り消し)がこれを根拠とします。実務的には、被害者が「真の所有者から売買をしたと誤信して契約を締結した」「売主側が偽造書類で所有者になりすまし、買主を欺いた」という主張を構築し、契約の効力そのものを争います。

契約が無効・取消となれば、売買代金支払い義務が消滅し、代金返還請求に進むことが可能です。ただし、実際には代金が既に流出しており、回収可能な資産が存在しないというケースも多いです。そのため、無効・取消を認めさせるだけで「損害回復が完了」するわけではないという点にも注意が必要です。

損害賠償請求(加害者・関係者)

契約の無効・取消に並行して、被害者は詐欺行為に基づく不法行為責任を根拠として、加害者や関与者に対して損害賠償請求を行うことができます(民法709条)。地面師詐欺では、買主が代金だけでなく、不動産取得に伴って発生した登録費・印紙代・仲介手数料・固定資産税など、損害が多岐にわたるため、賠償請求額は多額になります。

さらに、加害者が組織的・計画的に行為を行った場合、民事裁判でも「恒常的に無権利売買を繰り返していた」「資金回収ルートが複数存在した」との評価がなされます。このことによって、相当の損害賠償が認められる可能性があります。

一方で、加害者側の資産が散逸している、所在が不明である、組織の末端が実行役にとどまっていて背後関係が不明確、という点が回収を困難にする現実もあります。被害者は、裁判上・執行上の手続きを見据えて、加害者の資産状況の早期調査と仮差押え・保全命令の手続きを検討すべきでしょう。

金融機関・不動産会社の責任追及

地面師詐欺の取引には、不動産仲介会社・司法書士・登記所・銀行・信用金庫などが関与しています。買主側の立場からすると、詐欺実行者だけを追うだけでなく、取引過程において注意義務を怠ったこれらの第三者に対しても責任を問うことが実効的な被害回復の手段となります。

たとえば、不動産仲介会社が売主の所有権を十分に確認せず、偽造書類を用いた取引を仲介していたとしましょう。この場合、契約締結時に果たすべき善管注意義務を怠ったとして、損害賠償責任を負う可能性があります。

司法書士が登記申請の際に不自然な取引背景を疑いながらも手続きを進めていた場合にも、専門家としての義務違反が問われることがあります。金融機関についても、融資実行前に売買対象の所有権確認を十分に行わなかった場合、融資差損害について被害者が追及を図るケースがあります。

保険適用の可能性

取引関係者(不動産業者・司法書士・金融機関など)が加入している損害賠償責任保険、不動産取引をカバーする保険商品(例:登記済保証保険、取引保証保険等)など、保険を活用して被害回復を図る可能性も存在します。

とはいえ、保険が必ず適用されるわけではありません。詐欺が行為として故意に実施された場合、多くの保険では「故意及び重大な過失」が免責事項となるため、詐欺そのものに起因する損害が保険対象とならないケースが多いです。

さらに、被害発覚後の迅速な保険請求・証拠提出・関係機関との協議が求められ、保険会社との交渉が長期化・困難化する傾向にあります。それでも、取引関係者が保険を活用して和解に応じた事例もあるため、被害者として早期に保険適用の可否を確認し、損害回復の手段を多角的に検討することが重要です。

よくある質問

地面師詐欺に関するよくある質問を紹介します。

Q.地面師詐欺はどれくらいの被害額で逮捕される?

A.金額の大小に関わらず、逮捕される可能性があります。

地面師詐欺は刑法の「詐欺罪」に該当します。詐欺罪の法定刑は、未遂であっても「10年以下の拘禁刑」であり、非常に重い罪です。そのため、少額であったり未遂で終わった場合であっても、逮捕されたり処罰されたりする可能性が高いです。

とくに地面師は1人で行うことが難しく、組織的犯罪と判断されるケースが多いです。そのため、「証拠隠滅」や「逃亡の恐れ」があると判断されやすく、結果として逮捕に至ることが多いため注意しましょう。

Q.騙された側に過失があっても被害回復できる?

A.被害回復は可能です。

通常の不動産取引の場合、被害者側にも過失があった場合は、過失相殺されるのが一般的です。しかし、詐欺による被害回復は「不法行為に基づく損害賠償」であるため、そもそも契約自体の取り消しが可能です。よって、過失の有無に関わらず、被害回復を求められます。

ただし、被害回復を求める賠償請求を行ったとしても、必ずしも全額返ってくるとは限りません。加害者側に被害回復する能力がなければ、現実的には難しいでしょう。

Q.地面師詐欺は初犯でも実刑になる?

A.初犯でも実刑となる可能性が高いです。

地面師詐欺を含む詐欺行為は、初犯であっても実刑判決となる可能性が高い犯罪です。とくに詐欺罪は、未遂罪であっても「10年以下の拘禁刑」と定められており、非常に重罪です。このことからもわかるように、執行猶予付きの判決が下される可能性は相当低いと思っておいたほうが良いでしょう。

【執行猶予とは】
執行猶予とは、刑の執行を猶予することを言います。たとえば、拘禁刑1年執行猶予3年の刑罰が言い渡された場合、拘禁刑の刑罰を直ちに執行せず、3年間猶予します。執行猶予期間中に、他の犯罪で罰金刑以上の刑罰が執行されなければ、執行を猶予されていた拘禁刑が執行されることはありません。

Q.企業の担当者が責任を問われることはある?

A.社内で責任を追及される可能性はあるでしょう。

地面師詐欺に騙されてしまった担当者は、確認作業を怠ったなどの理由で責任を問われる可能性があります。ただし、地面師詐欺に関与していない限り、刑事罰に問われることはないため安心してください。

Q.被害届と告訴状の違いは?

A.被害の申告をするもの、加害者に処罰を求めるもの、といった違いがあります。

被害届は、あくまでも「こういった被害に遭いました」と伝えるための届出です。一方で、告訴状は「こういった被害に遭いました。加害者に対して処罰を求めます」といった意思表示を示す届出です。

まとめ

地面師詐欺は、他人の不動産の所有者になりすまし、精巧に偽造された公的書類や巧妙な演出を用いて売買契約を締結させ、巨額の代金を詐取する組織的・計画的な詐欺です。背景には、なりすまし役・書類偽造班・仲介役・司法書士役・資金回収役といった明確な役割分担があります。

地面師詐欺の罪に問われた場合、詐欺罪だけでなく、有印私文書偽造罪、公文書偽造罪など、複数の重い罪が併合されるのが通常です。被害額は数千万円〜数億円規模に及ぶことも多く、被害回復が極めて困難で社会的影響も大きいことから、初犯であっても実刑判決となるケースが多い点も地面師詐欺の特徴です。

他方で、被害者側には、錯誤・詐欺を理由とした売買契約の無効・取消し、加害者や関与した不動産業者・金融機関等に対する損害賠償請求の検討といった民事上の手段があります。早期に動くことで被害回復の可能性を少しでも高めることが重要です。

地面師詐欺は「うっかり騙された」で済む問題ではなく、不動産取引の信頼基盤そのものを揺るがす重大犯罪です。疑わしい取引に直面したり、被害に気付いたりした段階で、速やかに証拠を保全し、不動産や刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが、自身と事業を守るための第一歩となります。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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