証拠なしでも逮捕される?現行犯と通常逮捕の違い・誤解しやすいポイントを解説

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「証拠がないから逮捕まではされないだろう」「防犯カメラもないし大丈夫」と考えている人は少なくありません。しかし、刑事手続の実務では、この考え方はかなり危険です。刑事訴訟法では、犯罪の最中や直後に犯人を押さえる「現行犯逮捕」について、逮捕状なし・証拠収集前でも身柄拘束を認めています。

痴漢や万引き、暴行などの場面で、被害者や周囲の人がその場で取り押さえる「私人逮捕」も、法律上きちんと根拠がある制度です。一方、逮捕状を使う通常逮捕や緊急逮捕では、裁判官に対し「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」や「逃亡・証拠隠滅のおそれ」を示す必要があります。証拠が乏しい段階ではハードルが高くなります。

それでも、性犯罪・暴行傷害・ストーカー行為・SNS上の脅迫などでは、物的証拠が弱くても、被害者の供述や状況証拠をもとに逮捕に踏み切るケースが実際に存在します。

本記事では、現行犯逮捕と通常逮捕・緊急逮捕の違い、「証拠なし」でも逮捕に至りやすい典型的な犯罪類型、逮捕後に証拠不足で釈放・不起訴となる仕組みについて解説。そして、身に覚えがないのに疑われたときの対応や、逮捕された際に必ず押さえておきたい黙秘権・弁護士選任・供述調書への署名の注意点まで詳しく解説していきます。

【結論】現行犯は証拠なしで逮捕できる

「証拠が揃っていなければ逮捕されないだろう」と考えるのは、大きな誤解です。たしかに、通常の逮捕手続きでは裁判官が発付する逮捕状や相当な証拠が求められます。しかし、「現行犯逮捕」の場面においては、証拠が十分整っていなくても逮捕が認められる例があるのです。

その根拠は、刑事訴訟法第212条に基づいており、法律上の枠組みとして実務で多数適用されています。たとえば、誰かが盗品を持って逃げそうな場面を目撃した、あるいは暴行の直後にその場にいたという状況があれば、「証拠をこれから集める」という段階でも逮捕が可能なのです。

まずは、証拠がなくても逮捕はできるのか?について詳しく解説します。

現行犯逮捕は証拠が不要

現行犯逮捕とは、元に罪を犯した者もしくは現に犯行をし終えた者に対して行える逮捕です。刑事訴訟法では、以下のとおり明記されています。

第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
② 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

引用元:刑事訴訟法|第212条〜213条

このような状況が揃えば、「証拠が完璧に揃っていない=逮捕できない」という常識は崩れます。逮捕状なしでも身柄を確保でき、警察による逮捕・勾留に繋がる可能性が高まります。さらに、私人(一般人)でも逮捕できます。

刑訴法第213条では、現行犯人については何人でも逮捕できると規定されています。これは、「警察が到着する前に被害者や第三者が犯人を取り押さえる」ようなケースでも、法的に認められているということです。

たとえば、痴漢をした者がその場で周りの乗客に取り押さえられた場合、私人による現行犯逮捕が成立します。私人逮捕であっても、警察官が行う逮捕と同等の効果を得られます。

【私人逮捕とは】
私人逮捕とは、警察官等逮捕権を有していない人が行う逮捕を指します。逮捕をするためには、現行犯、準現行犯である場合に限られています。また、軽微な犯罪である場合は、相手の住所や氏名等が明らかではなく、犯人が逃亡する可能性がある場合のみ認められています。

通常逮捕は「証拠なし」では難しい

通常逮捕、つまり逮捕状を伴う逮捕では、警察・検察が「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要性(逃亡や証拠隠滅のおそれ)」を裁判官に示す必要があります。証拠が著しく薄い場合、逮捕状発付は認められず、捜査機関は「任意出頭」や「在宅捜査」の形で対応を図ることが一般的です。

そのため、「証拠なし」という現状では、通常逮捕を起こすハードルがかなり高いというのが実務の傾向です。

証拠がなくても逮捕自体は可能

「証拠が全くないから絶対に逮捕されない」というわけではありません。実務上では、「犯行直後+現場+目撃者通報」のように時間的・場所的な接着性が極めて強いケースでは、捜査機関が証拠収集を待たず身柄を確保する方向に動くことがあります。

こうした逮捕は、後に「起訴すべきか」「証拠十分か」が検察・裁判所で改めて審査されるため、逮捕はあくまで捜査段階の措置であり「有罪が確定した」と同義ではありません。逮捕された段階で弁護士と相談し、身柄解放や証拠整備の戦略を立てることが極めて重要です。

そもそも「逮捕」はどのような行為?

「逮捕」という言葉は日常でも頻繁に使われますが、法律上は非常に厳格な制度です。安易に「警察に呼ばれたから逮捕された」と解釈されるものではありません。逮捕とは「捜査機関が被疑者を身柄拘束して取り調べ・勾留などを可能にする手続き」を指します。つまり、被疑者の自由を奪うため、憲法34条・刑事訴訟法212条以下に定められた要件を満たす必要があります。

適法な逮捕でなければ、捜査・勾留・起訴、さらには証拠能力にも影響を及ぼすおそれがあります。

任意同行と逮捕の違い

「任意同行」と「逮捕」は、外見的には似ていても法的性格は大きく異なります。任意同行は、警察官が捜査手続の一環として被疑者を任意で事情聴取のため警察署に同行させるものであり、本人の自由意思に基づき行われるものです。

これに対して逮捕は、被疑者の自由を奪う「身柄拘束」の措置であり、捜査機関が被疑者を捜査・起訴・勾留するために用いる強制手段です。そのうえで、通常逮捕に必要な要件として「相当な嫌疑」が挙げられます。

これは、捜査機関が「この者が犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由がある」ことを指し(刑事訴訟法199条)、単なる疑い・憶測では足りません。さらに、証拠が十分ではないと通常逮捕は難しいという実務的なハードルもあります。

ただし、証拠とは必ずしも物的証拠(物品・映像・文書)だけを指すわけではありません。目撃者証言・被害者供述・被疑者の言動・逃走・証拠隠滅のおそれなど、総合的に「犯罪の嫌疑が濃い」と判断できる根拠があれば、立件に足り得る場合があります。

つまり「証拠が弱いのに逮捕された」と感じる場面があるのは、捜査機関が映像や物品だけでなく、被疑者の動機・情状・逃亡可能性などを含めた総合判断で逮捕に踏み切ったためです。

このように任意同行と逮捕は、被疑者の立場・捜査機関の手続き・法的拘束力という点で根本的に異なります。疑わしい呼び出しを受けた際には、自分が「任意で呼ばれているのか」「逮捕されて身柄拘束を受けているのか」を区別して把握することが非常に重要です。

現行犯逮捕・通常逮捕・緊急逮捕の違い

逮捕制度には以下の3種類が存在します。

  • 現行犯逮捕
  • 通常逮捕
  • 緊急逮捕

現行犯逮捕は、被疑者が犯罪をまさに行っているか、行い終わった直後の状態で逮捕状なしに身柄拘束できる制度であり、証拠調べが十分でなくても適用されます。

通常逮捕は、捜査機関が証拠をもとに逮捕状を請求・取得し、被疑者を拘束する制度です。この場合、裁判官が逮捕状を発付するには「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」「逃亡や証拠隠滅のおそれ」等を認める必要があります。証拠が集まっていない段階では、逮捕は難しいのが実務です。

緊急逮捕は、被疑者に拘留の必要性が生じ、かつ逮捕状請求が間に合わないときに警察が一時的に逮捕できる制度(刑訴法210条)で、通常逮捕と現行犯逮捕の中間的な位置づけです。捜査機関は緊急逮捕後、48時間以内に通常逮捕の手続きをとらなければならず、こちらも証拠の裏付け・必要性が求められます。

このように、逮捕には複数の制度があり、その適用条件・手続き・証拠・時間的制約がそれぞれ異なります。被疑者やその家族が身柄拘束された場合には、どの逮捕制度が用いられたかを理解することが、権利保護・適正手続きの確保につながります。

証拠が弱くても逮捕に至る犯罪の代表例

物的証拠が揃っていない状況でも、状況・被害の性質・証言の信頼性などによっては、捜査機関が早期に逮捕に踏み切る犯罪があります。次に、とくに「証拠が弱くても逮捕の可能性が高い」代表的な4つの犯罪を解説します。

性犯罪

異性・同姓を問わず、意図的な性的な接触・行為をめぐる犯罪では、たとえ防犯カメラ映像や目撃者が不十分でも、被害者の供述により逮捕まで至ることが多くあります。たとえば、不同意性交等罪では、「被害者が同意していない」または「同意を示す意思形成・表明が困難な状態にあった」ことが構成要件となります。

捜査段階では、被害者の証言と被疑者の動き・状況の整合性が重視され、防犯カメラがない・物的証拠が乏しい場合でも逮捕に至る場合があります。そのため、自覚なく「証拠が薄いから安心」という判断をすると、気づかぬうちに逮捕・勾留されるリスクがあるのがこの分野です。

暴行・傷害

身体的接触を伴う暴行・傷害行為は、目に見える怪我や外傷があれば物的証拠になりますが、必ずしもそれがなければ不起訴というわけではありません。たとえば、被害者が倒れた、飲食店を出た後に一句刺激的なやりとりがあった、加害者が即逃げたという状況など、複数の状況証拠があったとしましょう。

この場合、暴行があったと疑われる相当な理由が認められることがあります。また、暴行罪は「身体に対する暴行」で構成され、傷害を与える必要はなく攻撃的な接触でも成立し得ます。そのため、被害届が提出されていなくとも警察が動くことがあります。そのため、「証拠がないし大した怪我もしていないから大丈夫」と安易に考えるのは危険です。

ストーカー規制法違反

ストーカー規制法に基づく罪では、「執拗なつきまとい・待ち伏せ・面会強要・複数回の連絡」など、被害者の平穏な日常を侵害する行為が繰り返された時点で捜査対象となります。

映像や録音が完璧でなくても、被害者の記録・通報履歴・目撃証言などが蓄積されていれば、警察が継続性・執拗性・被害者の恐怖という観点から逮捕を検討するでしょう。録音・通話記録・LINE等の通信記録も証拠として活用されることがあります。

逃亡・証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、被疑者の身柄確保が優先されるため、物的証拠の存在が必須ではありません。こうした性質から、ストーカー行為は証拠が揃う前段階でも逮捕事例が比較的多く見られます。

SNS上の脅迫など

最近では、SNS・LINE・メールなどの文字・音声を通じた脅迫行為が増えています。とくに、物的証拠(映像・写真)が少ない場合でも、通信ログ・被害者側のスクリーンショット・アクセス履歴などが「証拠」として捜査に利用されるようになっています。

たとえ「殺すぞ」「家まで来るぞ」などの脅迫が単発であっても、被害者が恐怖を感じていれば捜査対象になり得るでしょう。また、加害者が何らかの形でそれを実行又は企図していると捜査側が認めれば、逮捕に至る可能性があります。

通信の匿名性や消去可能性があるため、捜査機関は「逃亡・証拠隠滅のおそれ」「簡単に削除される証拠」であると判断した時点で迅速に身柄拘束を検討する傾向があります。証拠の量ではなく状況の危険性と被害者の生活への支障が逮捕の鍵になるでしょう。

逮捕後に「証拠不足」で釈放される仕組み

逮捕されたからといって必ずしも起訴・有罪となるわけではありません。捜査機関は逮捕後、被疑者の身柄を一定期間拘束したうえで「証拠が十分か」「起訴に値するか」を判断します。

証拠の裏付けが弱かったり、逃亡・証拠隠滅の恐れが低かったりすれば、釈放される仕組みも整っています。ここでは、逮捕から釈放・不起訴に至るまでの流れと、証拠不足が理由で釈放される可能性があるポイントを詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

逮捕〜48時間:警察・検察の判断ポイント

法令では、警察が被疑者を逮捕してから48時間以内に検察官に身柄を送致しなければならないとされています。その後、検察官は送致を受けてから24時間以内に、さらに裁判官に勾留請求を行うか起訴するか、あるいは釈放するかを判断します。

この48時間から72時間の間に、「犯罪の嫌疑が相当程度あるか」「逃亡・証拠隠滅のおそれがあるか」「捜査を継続する必要があるか」などの判断がなされます。証拠が弱かった場合には、この段階で釈放されるケースも存在します。

物的な証拠が乏しくても、被疑者の供述・状況証拠・関係者の証言が一定整っていなければ、捜査を継続する根拠として弱いと判断されるでしょう。

勾留却下・準抗告の可能性

検察官が「身柄を引き続き拘束して捜査する必要あり」と判断した場合、勾留請求が行われます。裁判官に勾留請求を行った場合、裁判官は「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」かつ「逃亡・証拠隠滅のおそれ」などを確認して勾留を認めるかどうか判断する流れです。

もし、裁判官が勾留の必要を認めないと判断すれば勾留請求は却下され、被疑者は釈放されます。これは「勾留却下」と呼ばれ、証拠や嫌疑の程度が弱いと判断された際に起こります。

さらに、検察官または被疑者側はこの決定に対し「準抗告」という救済措置を提出し、再検討を求めることが可能です。つまり、逮捕後に勾留に至らなければ、釈放という選択肢も法制度上しっかり位置づけられているのです。

証拠が弱いと逮捕されても不起訴になる

逮捕された後、身体拘束が続き、捜査機関が起訴に向けて捜査を進めます。そして、最終的には起訴する・しないの判断が行われます。起訴されなければ当然のことながら公判(裁判)は行われず、被疑者は身柄を解放されることになります。

実務では「証拠が十分でない」「被疑者の責任が合理的に追えない」「被害者の供述に支障がある」などの理由で不起訴となるケースも多数あります。たとえ逮捕という強制的な身柄拘束を受けても、証拠が弱い状況では最終的に釈放・不起訴となる可能性が高いです。

被疑者・被害者双方にとって、逮捕後すぐに「釈放・不起訴が可能な段階」を知っておくことが、過度な不安を軽減し、適切な手続きを取る上でも非常に重要となります。

もし身に覚えがないのに逮捕されそうな場合

何もしていないのに「警察から連絡が来た」「呼び出しを受けた」という状況は、誰にとっても大きな不安材料になるでしょう。こうしたとき、焦って自ら動くことで、かえって逮捕や勾留につながる危険があります。

たとえ自分が無実であったとしても、初動対応を誤ると不利に働く可能性があるため、冷静に状況を把握し、適切な手続き・専門家への相談を早めに行うことが大切です。次に、身に覚えがないのに逮捕されそうな場合の対処法について詳しく解説します。

任意同行の段階での注意点

警察から「署に来てください」「こちらに同行してください」と呼び出された場合、それは通常「任意同行」という手続きです。これは法的には強制力がなく、あくまで任意で警察署等へ行くものです。

しかし、実際にはこの段階で捜査機関が被疑者の動きを探っており、「逮捕のための証拠を十分に集めていないが、身柄拘束の準備段階」という状況であることも少なくありません。そのため、任意同行を拒否した場合でも、捜査機関が「逃亡・証拠隠滅のおそれあり」と判断すれば逮捕状請求へと進む可能性があります。

呼び出された際には、まず「何の容疑で」「どのような状況か」を確認し、弁護士と相談できる時間を確保してから出頭・同行すべきです。供述・署名・押印を急ぐのではなく、自らの権利や今後の流れを冷静に把握して動くことが、後の不利益を防ぐための鍵となります。

見知らぬ容疑をかけられた際の行動

「自分では何もしていない」「知らない人物・聞いたことのない事件で名前が挙がった」というケースも起こり得ます。この場合、慌てて「誤認です」「誰かが私の名前を使ったのでは」などと供述を始めるのではなく、まず自分の行動と状況を整理することが大切です。

たとえば、その日時・場所・同行者・通信記録・アリバイとなり得る証拠を速やかに確認・記録する必要があります。さらに、呼び出し・聴取時には「弁護士と相談してから回答します」という意思を明らかにしておくことも大切です。無理に「自分はやっていません」と詳細を説明しすぎないことが望ましいでしょう。

これは、供述の内容が捜査側に「逃げている」「真実を隠そうとしている」と悪く解釈されるリスクを避けるためです。初動対応を誤ると、後で供述内容の矛盾や記録・証拠の有無が量刑判断に影響を与えることがあります。

やっていない場合に絶対言ってはいけない言葉

無実を訴える場面であっても、以下のような発言は避けるべきです。

  • 「多分〜」
  • 「確か〜とは思いますが」
  • 「記憶が曖昧です」

こういった曖昧な表現は、捜査機関にとって「証拠隠滅・逃亡の可能性あり」と受け止められ、逮捕・勾留の判断材料になり得ます。より安全な対応としては、「私はその事実を認識しておりません。弁護士と相談の上、改めて説明いたします」というような、明確かつ簡潔な表現を用いることが望ましいです。

また、取調べ・聴取時には録音・録画の可能性・供述調書への署名による法的影響もあるため、供述を始める前に弁護士への相談を検討するべきです。供述やサインによって、後に「否認から有罪へ」という流れになってしまう事例も存在します。

逮捕されたらどうすべきか

逮捕された後は、ただ時間が過ぎるのを待つだけではなく、自らの権利を知り、適切な対応をとることでその後の流れを大きく変えられます。身柄を拘束された状況下で何もしないでいると、不利な状況になり得ます。そのため、どのような行動が自分にとって不利益を避けられるかを理解しておくことが被疑者・その家族双方にとって不可欠です。次に、とくに抑えておくべき3つのポイントを解説します。

黙秘権の行使と弁護士選任の重要性

被疑者には、自己に不利益となる供述を強制されない権利として、憲法第38条および刑事訴訟法第198条2項に定められた「黙秘権」が保障されています。取り調べの場面で「何も答えない」「弁護士と相談してから答えます」と明言することは、不利な供述調書を作らせないための防御手段です。

さらに、被疑者には「弁護士を選任できる権利」もあり、逮捕直後の段階で弁護士に連絡を入れて、助言を仰いだうえで取調べに臨むことが重要です。弁護士がいることで、取調べにおける「誘導的な質問」「長時間拘束」などの不当な圧力に対する抑止力にもなります。早期に弁護士を選任し、黙秘の方針を明確にしておくことが、逮捕後の戦略の基盤となります。

逮捕された被疑者は、一度だけ無料で「当番弁護人」を呼ぶことができます。その後は、勾留確定後もしくは起訴後に国選弁護人が選任されます。ただ、私選弁護人の場合は自分の意思でいつでも自由に選任できるため、検討しましょう。

供述調書の署名押印の注意

取調べの終盤には、警察や検察が作成する「供述調書」に対して署名・押印を求められるケースが多くあります。この供述調書は裁判での重要な証拠となるため、内容を十分に確認せず署名・押印してしまうと、裁判で不利になる可能性があります。

調書に記載された内容に事実誤認・記憶違い・意図しない記述がそのまま証拠として使われると、後から訂正が困難です。さらに「調書に署名した=その内容を承認した」という印象を裁判官に与えます。そのため、内容に誤認等がある場合は「署名押印を拒否する」といった選択肢も検討されます。

供述調書は、被疑者が発言した内容を警察官等が文字として書きます。そのため、ニュアンスや言い回しの違いが発生する可能性もあり、結果的に「証言とは異なる印象を与える可能性がある」場合もあります。最後にかならず、供述調書の内容を確認されるため、署名押印する前に訂正を依頼しましょう。

不利な証言をしないためのポイント

逮捕後の取調べでは、被疑者の発言ひとつひとつが証拠として記録され、裁判段階で供述証拠として活用される可能性があります。そのため、以下のポイントに留意することが不可欠です。

  • 「私は〜したと思う」「記憶が曖昧ですが」という曖昧な発言は、後に矛盾や信用低下として扱われることがある
  • 被疑事実の認否・日時・場所・動機などを急いで語ろうとせず、「弁護士と相談してから」という姿勢を示す
  • 足りない記憶や推測を確実な記憶として発言しないこと。捜査側はその発言をもとに「自白の補強」として利用することがある
  • 自分の主体性のない供述(「友人に言われて…」「つい反応して…」など)は、裁判において他者への責任転嫁とみなされ、量刑に悪影響を及ぼすことがある

このような慎重な言動は、証言・供述によって自己の不利益を積み重ねてしまうリスクを軽減します。弁護士のアドバイスを得た上で、供述調書・事情聴取・勾留・起訴手続きへと進む流れの中で、適切な発言と対応を行うことが被疑者側の防御を大きく左右します。

よくある質問

証拠なしで逮捕されるのか?について、よくある質問を紹介します。

Q.被害者の証言だけで逮捕されますか?

A.「証言だけ」での逮捕は難しいでしょう。

逮捕をするためには「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること」や「証拠隠滅、逃亡の恐れがあること」が必須条件です。そのため、「被害者の証言だけ」で逮捕まで至るのは相当難しいでしょう。

ただし、たとえば性犯罪で被害者が診断書を提出していたり、合理的な証言があったりしたとしましょう。この場合は捜査を行い、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある」と認められれば、逮捕に至る可能性があります。

なお、被害者側が虚偽の被害報告をした場合は、被害者を名乗る人物側が虚偽告訴罪に問われる可能性があります。

Q.防犯カメラがなければ逮捕は無理?

A.防犯カメラの映像がなくても、逮捕は可能です。

防犯カメラの映像がなくても、犯罪を立証できれば逮捕される可能性があります。防犯カメラの映像は、悪魔でも証拠の一つにしかなり得ません。たとえば、「万引きをした状況が録画されている」という状況であれば、その映像をもとに窃盗罪の立証が可能です。

しかし、たとえば「自宅内で性犯罪が行われていた」というケースでは、防犯カメラの映像提供は不可能です。そのため、その他証拠等をもとに逮捕や起訴を目指していくことになるでしょう。

Q.LINEを消されたらどうなりますか?

A.LINEのやり取りのみが証拠になるわけではありません。その他の証拠を集めましょう。

加害者側を確実に罪に問うためには、証拠が必要です。犯罪の内容次第では、LINE上でのやり取りも証拠になり得ます。そのため、削除される前にスクリーンショットを撮影しておくなどの対応が必要でしょう。

仮に、LINEのスクリーンショットを撮り忘れていたとしても、その他証拠を元に犯罪を立証できる可能性があります。まずは、弁護士に相談をしたうえで証拠となり得る物を集めることが大切です。

Q.誤認逮捕されたら会社にバレますか?

A.会社に知られてしまう可能性があります。

逮捕された場合は、72時間、勾留が確定した場合はさらに20日間の身柄拘束が行われます。この間は、当然会社にも出社できないため、このことが原因で会社に知られてしまう可能性があります。

後に、誤認逮捕であることが発覚したとしても、その後の対応については各会社によって判断されるため、一概には言えません。もし、事実ではない罪で逮捕された場合は、直ちに弁護士への相談をしましょう。

Q.不起訴でも逮捕歴は消せますか?

A.逮捕歴(前歴)は消えません。

不起訴処分は「あなたは何も罪を犯していませんでした」という証明ではありません。たとえば、罪を犯していた可能性は否定できないものの、証拠が不足するため不起訴とする(証拠不十分)。または、罪を犯していたことが明らかではあるものの、起訴するほどではない(起訴猶予)となるケースがあります。

仮に、捜査の結果、犯人でないことが明らかとなった場合(嫌疑なし)であっても、逮捕された事実を消すことはできません。

とはいえ、前歴による社会的影響はほとんどありません。唯一、今後同じような事件を起こしてしまった場合に、「再犯の可能性」として厳しい処罰等が下される可能性があるでしょう。

まとめ

本記事では、「証拠がなければ逮捕されない」という誤解を前提から見直し、逮捕制度の全体像と実務上の運用を整理しました。現行犯逮捕・準現行犯逮捕は、犯行の最中や直後という時間的・場所的な近さを理由に、逮捕状なし・証拠収集前でも身柄拘束を認める仕組みを指します。痴漢や万引きなどで私人逮捕が行われるケースも法的に有効です。

一方、通常逮捕では、裁判官が「相当な嫌疑」と「逃亡・証拠隠滅のおそれ」をチェックします。しかし、性犯罪・暴行傷害・ストーカー行為・SNS上の脅迫などでは、被害者供述や通報履歴・状況証拠を重視した早期逮捕が行われることもあるでしょう。そのため、「物的証拠がないから安心」とは決して言えません。

ただし、逮捕=有罪ではなく、逮捕後48〜72時間での送致・勾留請求の段階や、勾留却下・不起訴といったルートを通じて「証拠不足による釈放」に至る可能性もあります。

身に覚えのない罪で逮捕された場合や容疑をかけられた際は、感情的に説明するのではなく、黙秘権を含む自分の権利を理解し、早期に弁護士の助言を受けることが重要です。「証拠が弱いから大丈夫」と油断するのではなく、逮捕までの流れと逮捕後の選択肢を正しく知っておくことが、自分と家族を守る最大の備えとなるでしょう。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、勾留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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