男性が路上やビーチ、ディスコなどで初対面の女性を口説く「ナンパ」。出会いの手段の一つとして気軽に行われていますが、やり方によっては法に触れたり、トラブルに発展したりする可能性があります。
本記事では、ナンパで違法行為にあたるケースを、実際の法律に照らし合わせて網羅的にまとめました。また、後半ではリスクを最小限に抑えるポイントについても説明しています。
1.ナンパで犯罪行為となるケース
ナンパ行為それ自体は犯罪ではありませんが、場合によっては違法となるケースも。ここでは、以下の3つの場面に分けて、問題となる事例と、該当する条例・法律について解説していきます。
- 声かけ
- ホテル
- 相手が未成年
それでは、見ていきましょう。
①声かけ時点でのケース
軽犯罪法・迷惑防止条例違反
路上で声かけをする際に注意しなければならないのは、女性の前に立って進路を妨害したり、しつこくつきまとうことです。
「軽犯罪法」の第1条28号では、進路妨害やつきまといなどで、相手に不安や迷惑を覚えるさせる行為を禁じています。違反した場合の罰則は、「1日以上30日未満の身柄拘束」か、「1,000円以上1万円未満の科料(金銭徴収)」です。
軽犯罪法(第1条28号) 二十八 他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者
出典:軽犯罪法 | e-Gov法令検索
また、都道府県によっては「迷惑防止条例」によってしつこい声かけやつきまといを戒めているケースもあります。
例えば東京都では、正当な理由なくつきまといや待ち伏せをする行為、また監視していることを思わせるようなことを告げる行為を禁止しています。迷惑防止条例に違反した場合、東京都では6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
東京都迷惑防止条例 第5条の2 (つきまとい行為等の禁止)(1) つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、住居等に押 し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
出典:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
脅迫罪・強要罪
さらに、声かけの最中に相手の生命や身体を侵害するような言動を行うと、「脅迫罪」や「強要罪」に問われる可能性も。
実際に殴る、蹴るなどをせずとも、暴行を加えるそぶりを見せるだけで「脅迫」にあたります。また、腕や衣服をつかむ、物を投げるなどの行為が「暴行」と判断されるケースもあります。
たとえ誘った側が合意だと思っていたとしても、誘われた側が脅迫や暴行によって「行為を強要された」と感じた場合、被害届が出され、逮捕に至る可能性がないとは言えません。脅迫をすれば「脅迫罪」で「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」、脅迫によって何かの行為を強要すれば「強要罪」で「3年以下の懲役」が科せられます。軽はずみや冗談のつもりでも、脅迫や強要と受け取られかねない言動は慎みましょう。
トラブルを避けるためには、女性が難色を示した時点で、決して深追いせず、すみやかに離れることです。声かけなどの迷惑行為の判例では、被害者とされる側の意見が重んじられる場合が多いです。相手から訴えられたり恨みを買ったりするような行為は、控えた方が良いでしょう。
脅迫罪(刑法第222条) 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
出典:刑法 | e-Gov法令検索
強要罪(刑法第223条) 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
暴行罪(刑法第208条) 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
出典:刑法 | e-Gov法令検索
②ホテルでのケース
強制性交等罪・強制わいせつ罪
路上での声かけにより女性をホテルや家に連れ込むことに成功しても、安心してはいけません。合意をとらず無理に性的な行為に及んだ場合、「強制性交等罪」や「強制わいせつ罪」に問われる可能性があります。
「強制性交等罪」は、「13歳以上の人に対して、暴行や脅迫によって性交等を行うこと」とされています。旧来の「強姦罪」は男女間の性交のみを対象としていましたが、2017年に法改正され、「強制性交等罪」では肛門性交(アナルセックス)や口腔性交(フェラチオ等)も含まれるようになりました。
ここでの暴行や脅迫は、「相手の抗拒(抵抗)を著しく困難にする程度」だとされています。しかし、相手の年齢や性別などによっては、暴行や脅迫の程度が軽かったとしても「強制性交等罪」が成立するケースがあります。
強制性交等罪(刑法第177条) 十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は,強制性交等の罪とし,五年以上の有期懲役に処する。
出典:刑法 | e-Gov法令検索
一方、「強制わいせつ罪」は「13歳以上の人に対して、暴行や脅迫によってわいせつな行為をすること」と刑法で規定されています。わいせつな行為とは、抱き着く、キスをする、下着の中に手を入れる、服を脱がす、など。
強制性交等罪と異なり、強制わいせつ罪は「脅迫」や「暴行」の程度が軽微でも適用される点がポイント。相手が嫌がるそぶりを見せたら、決して無理強いはしないことです。ちなみに強制わいせつ罪の刑事罰は、「6月以上10年以下の懲役」です。
強制わいせつ罪(刑法第176条) 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。
出典:刑法 | e-Gov法令検索
準強制性交等罪・準強制わいせつ罪
さらに、相手が心神喪失や抗拒不能の状態であることにつけこんで行為に及んだ場合は、「準強制わいせつ罪」や「準強制性交等罪」が成立します。心神喪失や抗拒不能である状態の例として、アルコールで酩酊している、睡眠薬などによって意識が朦朧としている、などが挙げられます。
準強制わいせつ罪・準強制性交罪(刑法178条) 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。 2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
③相手が未成年だったケース
続いて、相手が未成年(18歳未満)だった場合を見ていきましょう。2022年の法改正により、成年年齢は20歳から18歳に引き下げられました。ナンパした相手が18歳以上であり、かつ同意がとれているのであれば、性的行為をしても問題はありません。
しかし、相手が18歳未満だった場合には「淫行」として罪に問われるケースがあります。
「淫行」とは?
「淫行」については、最高裁判所で以下のような判例が出ています。
二 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解すべきである。
出典:刑集 第39巻6号413頁 裁判例結果詳細 |最高裁判所 公式サイト
つまり、青少年(18歳未満の児童)に対し、「心身の未熟さに乗じて」性的な行為に及んだり、青少年を単純に「自分の性的欲望を満足させるための対象」として扱うような性的行為が「淫行」にあたります。
やや曖昧な定義ですが、逆を言えば、相手を尊重し、真剣に交際している中で性行為に至ったと判断される場合は、処罰の対象とはなりません。
しかし、ナンパをして出会った当日に行為に及んだと言う場合、真剣交際と判断される見込みは低いです。相手が未成年である可能性を感じた時点で、ホテルに連れ込むのはやめておいたほうが賢明でしょう。
ちなみに「淫行」で問題となるのは、相手の「年齢のみ」。つまり、18歳であれば高校生と行為に及んでも処罰の対象とはなりません。逆に、社会人として働いていたとしても、17歳未満であれば法令違反となります。
「淫行」の罰則は?
未成年との「淫行」は、各都道府県が定めている青少年健全育成条例に違反します。
例えば、東京都の「青少年の健全な育成に関する条例」の場合。青少年に対して淫行を行った際の処罰は、2年以下の懲役。または100万円以下の罰金です。
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第18条の6 何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない。
(罰則)
第24条の3 第18条の6の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
出典:東京都青少年の健全な育成に関する条例
相手が13歳未満だったケース
相手が13歳未満だった場合は、同意があったとしても、「強制わいせつ罪」や「強制性交等罪」が成立します。
上記(ホテルでのケース)で説明しましたように、「強制わいせつ罪」は、13歳以上の男女に対し、『暴行や脅迫』を用いてわいせつな行為に及んだ場合に適用される罪です。
しかし、13歳未満の児童は性的な行為のリスクに対して十分な判断能力を持たないとされるため、暴行や脅迫がなくても、また同意があったとしても、「強制わいせつ罪」に問われるのです。
では、相手が身分証明書などを偽造し13歳以上だと偽っていた場合はどうでしょうか。この場合は「誤信(13歳未満を13歳以上だと思い込んでいた)」にあたりますので、「強制わいせつ罪」は成立しません。これは、「強制性交等罪」についても同様です。
その他のケース
性的な行為をしなくとも、相手が未成年の場合に注意しなければならないケースがあります。
1つは「深夜徘徊」。未成年者の深夜の連れ回しは、各都道府県が定める青少年健全育成条例によって禁じられています。
(深夜外出の制限)
2 何人も、保護者の委託を受け、又は同意を得た場合その他正当な理由がある場合を除き、深夜に青少年を連れ出し、同伴し、又はとどめてはならない。
出典:東京都青少年の健全な育成に関する条例
上で言う「深夜」とは、午後11時から午前4時の間のこと。午後11時以降にナンパをする場合、相手の年齢には特に注意を払うようにしましょう。この規定に違反した場合、三十万円以下の罰金が科せられます。
また、相手が20歳未満であれば、間違っても「飲酒」を勧めてはいけません。ご承知だと思いますが、日本では「未成年者飲酒禁止法」によって20歳未満の飲酒は禁止されています。
第一条 二十歳未満ノ者ハ酒類ヲ飲用スルコトヲ得ス
出典:二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律 | e-Gov法令検索
この法律では、飲酒を提供している店や、未成年の親権者・監督者でなければ直接に罰せられることはありません。
しかし、未成年の飲酒が発覚した場にいた場合、事実確認のために会社に連絡され、処分されるケースもあります。
また、相手が断っているにも関わらず無理に飲酒を勧めた場合、「強要罪」(刑法223条)が成立する可能性があります。
2.リスクを最小限に抑えるためのポイント
気軽にナンパにチャレンジしてみたら、法律に違反して逮捕。さらに、会社や家族に知られ、解雇や離婚にまで発展。人生を棒に振ってしまった……。恐ろしい想像ですが、決してありえない話ではありません。ナンパによって生じるリスクを最小限に抑えるため、留意していただきたいポイントをまとめました。
①警察の取り調べには真摯に対応する
ナンパ中に警察官から職務質問を受けた際は、素直に応じるようにしましょう。ナンパ自体は違法ではないので、よっぽど悪質な行為をしていない限り、その場で拘束されることはまずありません。「場所を変えるように」などの指示をされた場合も、すみやかに従いましょう。
②未成年の気配がする相手は避ける
18歳未満と知りながら性的な行為に及んだ場合、先に説明したように「青少年健全育成条例」違反となります。未成年と淫行の罪を犯した場合、逮捕されるだけでなく、実名報道や会社・家族に罪を知られる可能性もあります。
こうしたリスクを防ぐためにも、若いと感じた相手にはそれとなく年齢を確認しておきましょう。ただし、口頭での確認だけでは不十分。17歳の高校生が「19歳」だと実年齢を偽ることは十分に考えられるからです。出会い系アプリもものによっては年齢の偽証が容易ですから、信じるのは危険です。生年月日の分かる身分証明書を確認できれば、ベストでしょう。
では、相手の年齢を確認せずに行為を及んだ場合はどうでしょうか。実は、多くの都道府県では、「児童の年齢を知らなかった」という理由で処罰を免れることはできません。しかし、相手が偽の身分証明書を用意していた場合など、正しい年齢を知らなかったことに過失がなければ、処罰の対象になりません。
どちらにせよ、18際未満を相手にしたナンパ行為はリスクしかありませんから、怪しいと感じた時点で、おとなしく身を引くことです。
③弁護士に相談する
ナンパ後に何らかのトラブルが発生した場合、処罰や逮捕のリスクを最小限におさえるため、弁護士への相談をおすすめします。弁護士に相談するメリットは、以下のようなものがあります。
- 相手女性との示談交渉を適切に進められる。
- 会社や家族に知られる前に解決できる可能性が高まる。
- 勾留・起訴を避けられる可能性が高まる。
ここでは、よくある2つのトラブル事例を挙げ、弁護士に相談する重要性についてお伝えします。
事例①泥酔した女性と無理に行為に及んだ
ナンパで女性をホテルに連れ込んだあと、相手が泥酔してしまい、意思疎通のとれない状況で行為に及んでしまったとします。こうした場合は「準強姦罪」が適用され、最大20年の懲役が科されます。
不当に長期な刑罰が科されるのを避けるためには、いちはやく証拠を保全し、相手女性と示談を行う必要があります。刑事事件を扱う弁護士に依頼すれば、起訴される前に示談を成立させ、検察官に示談書を提出し、不起訴処分となる可能性も高まります。
事例②18歳未満と性行為に及んだ
未成年との淫行で逮捕された場合は、弁護士をつけるタイミングが重要となります。青少年保護育成条例違反で逮捕された人のうち、警察に勾留される人の割合は78%(※)。勾留されると、10日間は拘束され、その間、会社や自宅に行くことはできません。勾留の延長が決定されれば、さらに10日間にわたって拘束されることになります。体調不良などの理由で20日間も欠勤することは難しいでしょう。勾留されれば、犯した内容が会社に伝わり、解雇されるリスクも高まります。
※2021年度 検察統計年報
勾留されるか否かは最短だと逮捕の翌日に決まります。そのため、逮捕された当日か、少なくとも翌日までには弁護士をつけておく必要があるわけです。
3.まとめ
今回はナンパによって発生しうる法的なトラブルについて解説しました。
まとめますと、留意していただきたいのは以下の2点です。
- ホテルに誘う際や行為の最中は女性に乱暴をしない。相手の同意をとる。
- 相手が未成年かもしれないと思ったら、手を出さない。
10人に1人がマッチングアプリで結婚する時代。出会いの手段も昔に比べて多様化しています。ナンパによって生まれる出会いや学びもあるでしょう。
ただし、そこにはいくつもの危険や罠がひそんでいます。今回は性行為関連のトラブルを中心に上げましたが、行為後に金銭を要求されたり、ホテルで財布から現金を盗まれたり、といったケースもあります。
もしトラブルに巻き込まれた場合は、被害を最小限に抑えるためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。