薬物で逮捕されたときの流れとデメリットを紹介!前科を回避するコツや弁護士に相談するメリットも解説

薬物で逮捕されたときの流れとデメリットを紹介!前科を回避するコツや弁護士に相談するメリットも解説
薬物で逮捕されたときの流れとデメリットを紹介!前科を回避するコツや弁護士に相談するメリットも解説

薬物犯罪は重罪なので、初犯でも逮捕されます。逮捕後は身柄拘束された状態で取調べを受けなければいけませんし、初犯でも勾留請求によって長期間身柄拘束される可能性が高いです。適切な防御活動を展開せずに最終的に有罪判決が確定するに至ると、罰金刑でも前科がつくことになります。

なかには、「薬物を使用・所持するのは自己責任なのに、なぜ捕まるのか」という疑問を抱く人もいらっしゃるでしょう。また、「芸能人が薬物使用で逮捕されるのは有名人だからで、一般人で初犯なら軽い警告だけで見逃してもらえるのではないか」と勘違いしている人も少なくありません。

ただ、規制薬物は肉体的依存・精神的依存を引き起こして人間としての健全な生活を妨げるものです。また、幻覚や妄想状態に陥った薬物中毒者が殺人・強盗・深刻な交通事故などを引き起こす危険性も高いため、社会全体にとってもハイリスクなものと考えられます。このような事情が考慮されて、芸能人でも一般人でも、薬物犯罪を引き起こすと初犯でも厳しい刑事処罰が下されるのが実情です。

そこで今回は、以下の薬物犯罪にまつわる重要ポイント5点について詳しく解説します。

  1. 逮捕対象になる薬物犯罪一覧
  2. 薬物犯罪で逮捕された後の刑事手続きの流れ
  3. 薬物犯罪で逮捕されることによって生じるデメリット
  4. 薬物犯罪で逮捕されたときに弁護士に相談するメリット
  5. 薬物犯罪で前科がつかないようにするポイント

薬物犯罪は初犯でも厳しい刑事処分が下される可能性が高い犯罪類型です。ただ、出来るだけ早いタイミングで刑事弁護に強い専門家に相談すれば、有利な刑事処分を引き出して社会復帰・更生への難易度を軽減できます。検挙された事案の詳細次第では、薬物で逮捕されても前科なしで事件終結を目指せるでしょう。

本来なら薬物には一切手を出すべきではありませんが、万が一薬物犯罪に巻き込まれた場合にはすみやかに刑事事件の実績豊富な弁護士までご相談ください。

目次

薬物犯罪で逮捕される一覧と刑罰

薬物犯罪は、違法薬物それぞれに対して法規制が定められています。”薬物犯罪法”などというひとつの法律が定められているわけではありません。

違法行為の対象として逮捕される薬物犯罪及び規制立法の一覧は以下の通りです。

  • 大麻取締法
  • 覚醒剤取締法
  • 麻薬及び向精神薬取締法
  • あへん法
  • 毒物及び劇物取締法
  • 薬機法
  • 麻薬特例法

それでは、各薬物立法で規制されている犯罪行為と罰則について、それぞれ具体的に見ていきましょう。

大麻取締法違反

大麻は、知覚の変化・学習能力の低下・運動失調・精神障害・IQの低下・薬物依存を引き起こす危険な薬物です。乾燥大麻(マリファナ)だけではなく、大麻リキッド・大麻ワックス・大麻クッキーなどの製品も流通しており、安易な使用に対して警鐘が鳴らされているのが実情です。

これを受けて、「大麻取締法」では、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)や大麻関連の製品に対する規制について定めています。

まず、大麻をみだりに所持・譲り受け・譲り渡した場合には、5年以下の懲役刑が科されます(同法第24条の2第1項)。営利目的で大麻の所持・譲受・譲渡をした場合には、7年以下の懲役及び200万円以下の罰金刑です(同法第24条の2第2項)。大麻の所持・譲り受け・譲り渡しについては未遂犯も処罰されます(同法第24条の2第3項)。

次に、大麻をみだりに栽培・輸出・輸入した場合には、7年以下の懲役刑が科されます(同法第24条第1項)。営利目的で大麻の栽培・輸出入をした場合には、10年以下の懲役及び300万円以下の罰金刑という形で法定刑が上乗せされます(同法第24条第2項)。大麻の栽培・輸出・輸入についても、未遂処罰規定が置かれています(同法第24条第3項)。

なお、都道府県知事から免許を受けた大麻取扱者(大麻栽培者・大麻研究者)については、目的の範囲に限って栽培・研究などが合法と取り扱われます。

大麻取締法では、大麻の所持や譲受・譲渡は犯罪として規定されていますが、「大麻使用」は処罰対象から外されています。これは、尿検査などによって体内から検出された大麻成分(THC)が、大麻取締法の処罰対象から除外されている大麻草の成熟した茎・種子及びその製品(麻織物・麻縄・七味唐辛子など)からもたらされたのか、大麻取締法上の禁止薬物である大麻草によって摂取されたかの判別ができないからです。そこで、「大麻を所持等している場合には薬物として大麻を使用している可能性が多い」という実態を踏まえて、大麻使用は不可罰とし、所持や譲受・譲渡のみを犯罪行為として取り扱うという法律構造が採られています。

覚醒剤取締法違反

覚醒剤は脳内で働く中枢神経刺激薬のことで、精神依存性が高い危険な薬物です。劇的な高揚感と幻覚症状、強い禁断症状を生み出すアンフェタミンやメタンフェタミンを含有するものが主な規制対象となります。

これを受けて、「覚醒剤取締法」では、覚醒剤及び覚醒剤原料の輸入・輸出・所持・製造・譲渡・譲受・使用に関して諸規制を定めています。

まず、覚醒剤をみだりに所持・譲り受け・譲り渡した場合には、10年以下の懲役刑が下されます(同法第41条の2第1項)。営利目的で覚醒剤の所持・譲受・譲渡した場合は、1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金刑です(同法第41条の2第2項)。

次に、法令上許されている場合を除いて、覚醒剤を使用した場合の法定刑は10年以下の懲役刑です(同法第41の3第1項第1号、第19条)。大麻と違って、覚醒剤は使用自体が処罰対象とされます。

また、覚醒剤をみだりに輸出・輸入・製造した場合、1年以上の有期懲役に処せられます(同法第41条第1項)。営利目的で覚醒剤を輸出・輸入・製造した場合の法定刑は、無期懲役もしくは3年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金刑です(同法第41条第2項)。

これらの行為はすべて未遂犯も処罰されます。

麻薬及び向精神薬取締法違反

モルヒネ、コカイン、ヘロイン、MDMA、LSDなどの「麻薬」や、メチルフェニデートなどの「向精神薬」は、幻覚や中毒性の高さから「麻薬及び向精神薬取締法違反」において規制対象とされています。

ただし、麻薬及び向精神薬に関する薬物犯罪の法定刑は以下のように細かく分類されているので注意が必要です。

薬物分類 原則法定刑 営利目的の法定刑
ヘロインの輸入・輸出・製造 1年以上の有期懲役 無期もしくは3年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金
ヘロインの製剤・小分け・譲渡・譲受・交付・所持 10年以下の懲役 1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金
ヘロイン以外(モルヒネ・コカイン・MDMA等)の輸入・輸出・製造・栽培 1年以上10年以下の有期懲役 1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金
ヘロイン以外(モルヒネ・コカイン・MDMA等)の製剤・小分け・譲渡・譲受・交付・所持 7年以下の懲役 1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金
向精神薬の輸入・輸出・製造・製剤・小分け 5年以下の懲役 7年以下の懲役及び200万円以下の罰金
向精神薬の譲渡・譲渡目的所持 3年以下の懲役 5年以下の懲役及び100万円以下の罰金

ここから分かるように、特に依存性の強いヘロインの法定刑は重く設定されており、厳しい取り締まりが行われるのが実情です。

あへん法

あへんとは、ケシの実から採取されるアルカロイド樹脂を乾燥させたもので、麻薬の一種です。脱力感や倦怠感によって衰弱状態に至らしめる薬物であり、身体的・精神的な中毒性が高いことから、あへん法において規制されています。

まず、あへんまたはけしがらの吸食に対しては7年以下の懲役刑が定められています(同法第9条、第52条の2第1項)。

次に、あへんまたはけしがらをみだりに譲渡・譲受・所持した場合の法定刑も、7年以下の懲役刑です(同法第52条第1項)。営利目的であへんの譲渡・譲受・所持した場合には、1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金刑に処せられます(同法第52条第2項)。

さらに、けしの栽培、あへんの採取、けしまたはあへんの輸出入の法定刑は、1年以上10年以下の懲役刑です(同法第51条第1項各号)。営利目的で当該行為をおこなった場合は、1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金刑が下されます(同法第51条第2項)。

あへん法の規制対象は「生あへん」で、「あへん煙(吸食用として製造されたあへん煙膏)」は以下のように刑法の処罰対象です(刑法第136条~第141条)。事案によってはあへん法と刑法の重複適用が想定されるケースもあり得ますが、競合する場合には法定刑が重い方で処罰されます(あへん法第56条)。

  • あへん煙の吸食:3年以下の懲役
  • あへん煙・器具の所持:1年以下の懲役
  • あへん煙吸食用の場所を提供して利益を図る行為:6カ月以上7年以下の懲役
  • あへん煙の輸入・製造・販売・販売目的所持:6カ月以上7年以下の懲役
  • あへん煙を吸食する器具の輸入・製造・販売・販売目的所持:3カ月以上5年以下の懲役
  • 税関職員によるあへん煙・器具の輸入及び輸入許可:1年以上10年以下の懲役
  • 以上すべての未遂処罰規定あり

毒物及び劇物取締法違反

薬物犯罪のなかには、「毒物及び劇物取締法」(通称「毒劇法」)の規制対象になるケースも含まれます。たとえば、トルエンを主成分とするシンナーは重度の酩酊状態を誘因する中毒性の高い物質であることから、毒劇法による処罰対象です。

たとえば、毒劇法の規制対象である毒物・劇物(興奮・幻覚・麻酔作用を有するもの)を、みだりに摂取・吸入・使用目的所持した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金刑(併科あり)の範囲で処断されます(同法第3条の3、第24条の3)。

薬機法違反

いわゆる「危険ドラッグ=指定薬物」に対する規制は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬機法」、旧薬事法のこと)で定められています。

指定薬物は、医療等の用途以外の目的で製造・輸入・販売・授与・所持・譲受してはいけません(同法第76条の4)。これに違反した場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑(併科あり)が科されます(同法第84条第28号)。なお、業としてこれらの行為に及んだ場合の法定刑は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑(併科あり)です(同法第83条の9)。

覚醒剤や麻薬に対する法規制とは異なり、危険ドラッグに対する法規制は省令で詳細が決定されます。つまり、「どの種類の危険ドラッグが指定薬物にするのか」については、中枢神経系の興奮・抑制や幻覚作用の程度・当該薬物が人体に取り込まれたときにどのような保健衛生上の危険を生じるのかなどについて、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いてその都度指定されるということです(同法第2条第15号)。たとえば、昨日まで合法として扱われていたドラッグが明日からは違法薬物として検挙対象になるということも充分あり得ます。巷では、合法ハーブ・合法アロマ・パウダー・お香などと銘打ってさまざまな商品が開発されていますが、”脱法ハーブ”に位置付けられる薬物もすぐに規制対象に含まれるようになると考えておくべきでしょう。

麻薬特例法違反

薬物犯罪が海外と組織的に行われる実態に対応する目的から、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(通称「麻薬特例法」)が定められています。麻薬特例法の規制対象とされる薬物は、麻薬・向精神薬・あへん・覚醒剤・大麻です(同法第2条第1項)。

たとえば、覚醒剤等の規制薬物を「業として」譲渡・譲受・輸出入・製造した場合には、無期または5年以上の懲役刑及び1,000万円以下の罰金刑が科されます(同法第5条各号)。また、薬物犯罪を犯す目的で規制薬物として当該薬物を取引した場合には、輸出入目的なら3年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑、譲渡・譲受目的なら2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑に処されます(同法第8条各項)。さらに、薬物犯罪によって得られた収益の隠匿や違法行為の隠蔽に対しても、細かく刑罰が定められています。

麻薬特例法を根拠として「コントロールド・デリバリー(controlled delivery/泳がせ捜査)」という手法が認められている点も同法の特徴として挙げられます(同法第3条、第4条)。コントロールド・デリバリーとは、薬物犯罪が組織的に実行される実態を踏まえて、違法薬物を税関等で発見してすぐに押収するのではなく、捜査機関の制御下において配送し、受け取り先で所持・譲受などの被疑事実で逮捕するという捜査手法のことです。違法薬物をそのまま制御下配送するケースもあれば、規制薬物をすり替えたうえで泳がせ捜査をする「クリーン・コントロールド・デリバリー」が認められている違法薬物も存在します(ヘロイン、覚醒剤、大麻、あへんなど。ただし、クリーン・コントロールド・デリバリーが実施されたケースでは法定刑が引き下げられるのが一般的)。

薬物犯罪で逮捕された後の流れ

薬物犯罪が発覚すると、他の犯罪と同じような刑事手続きのレールに乗せられます。

薬物犯罪を被疑事実として逮捕された後の流れは以下の通りです。

  1. 逮捕
  2. 勾留請求
  3. 起訴処分・不起訴処分の決定
  4. 刑事裁判

逮捕

薬物犯罪の捜査の端緒は職務質問・所持品検査・自動車検問が多いです。ただ、薬物犯罪に対する取り締まりが厳格化している現状において、どのような経緯であれ薬物犯罪が捜査機関に発覚すると逮捕を免れるのは不可能に近いでしょう。

現行犯逮捕・通常逮捕・緊急逮捕のいずれであったとしても、警察署で身柄拘束付きの取調べを受けなければいけません。取調べ以外の時間は留置場に身柄が留められます。

「薬物犯罪を犯したと思料される被疑者をさらに取り調べる必要がある」と判断された場合には、警察から検察に身柄が送致されます(検察官送致、送検)。

薬物犯罪で逮捕後に警察で取調べを受けるのは48時間以内

逮捕後、警察で身柄拘束付きの取調べを受けるのは48時間以内と定められています(刑事訴訟法第203条1項)。なぜなら、確かに逮捕段階では被疑者が罪を犯した可能性はあるものの、罪を犯したことが確定しているわけではないからです。

無罪の可能性を否定できない被疑者に対して、時間制限なしで取調べを強制するのは重大な人権侵害と言えるでしょう。

薬物犯罪で逮捕されても留置の必要がなければ釈放される

通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕のいずれであったとしても、警察が薬物犯罪の被疑者を逮捕し続けられるのは「逮捕する必要性」があるときだけです。たとえば、逃亡のおそれがある場合、証拠を隠滅するおそれがある場合には、逮捕して身柄を押さえておく必要があると言えるでしょう。

つまり、薬物犯罪の容疑で逮捕されたとしても、身元引受人がはっきりとしていたり、被疑事実に対して否認していなかったりする場合には、逮捕処分が解かれて在宅事件として扱われる可能性があります。

在宅事件扱いになると任意での捜査が続けられるので事件終結までには時間がかかりますが、身柄が拘束されずに済むので社会生活への支障は大幅に軽減できるでしょう。

ただし、警察や裁判所からの呼び出しに応じないなどの事情が発生すると、在宅事件から身柄事件に切り替えられてしまうので注意が必要です。

違法薬物だと認識しているだけで逮捕される

たとえば、所持している薬物がヘロインであるとの認識がなくても、「違法な薬物かもしれない」という認識・認容があるだけで刑事処罰の対象となります(いわゆる「未必の故意」)。

裏を返せば、「風邪薬だと思っていた」というケースでは、たとえヘロインを所持していても罪に問われることはないということです。

ただし、薬物犯罪の前科があるようなケースでは、「違法薬物ではなく風邪薬だと思っていた」という主張は通りにくいでしょう。

違法薬物の種類を勘違いしていても逮捕される

覚醒剤所持の容疑で逮捕されたものの、被疑者にはマリファナ所持の認識しかなかった場合でも有罪になります。いわゆる「抽象的事実の錯誤」の問題です。

そもそも、刑事罰が科されるには、当該犯罪事実に対する故意がなければいけません。つまり、覚醒剤所持の罪で逮捕されたとしても、「覚醒剤を所持していたこと」に対する認識・認容がなければ、覚醒剤所持の罪で有罪にはならないということです(刑法第38条第2項)。

ただし、覚醒剤もマリファナも、「法律で所持が禁止されている違法薬物」という点で共通しています。また、覚醒剤を所持する行為も、マリファナを所持する行為も、行為態様には大きな差異は見られず、実質的に両罪は重なり合っていると言えるでしょう。

したがって、マリファナ所持と誤認した状態で覚醒剤を所持していたとしても、マリファナ所持の故意が認められて、マリファナ所持の罪が成立するとするのが判例実務です(最決昭和54年3月27日)。

薬物犯罪で逮捕された後は微罪処分を期待できない

薬物犯罪で逮捕された場合、微罪処分を目指すのは不可能に近いでしょう。

微罪処分とは、警察によって逮捕された場合でも、検察官送致を免れて警察段階の捜査で事件を終結できるパターンのことです。微罪処分を獲得できれば前科はつきません(前歴は残ります)。

一般的に、微罪処分の対象として扱われるのは以下のような事件類型とされています。

  • 軽微な犯罪類型(窃盗罪、占有離脱物横領罪など)
  • 被害額が少ない(2万円以下が目安)
  • 被害者と示談が成立している
  • 犯情が軽微(衝動的に犯行に及んだケースなど)
  • 前科がないこと

薬物犯罪は社会的に悪質性の高い犯罪類型に位置付けられているので、余程の事情がなければ微罪処分の対象になることはあり得ません。ですから、薬物犯罪の嫌疑をかけられて逮捕されたケースで前科回避を希望するとしても、微罪処分獲得を目指すのは適切な防御活動とは言えないでしょう。

勾留

警察から薬物事犯の被疑者の身柄を引き取った検察官は、原則として24時間以内に起訴・不起訴の決定をする必要があります(刑事訴訟法第205条第1項)。

ただし、薬物犯罪の場合には、組織的犯行の疑いがあったり、入手経路について慎重な捜査が必要になったりすることが多く、24時間以内では起訴・不起訴の判断をするに足りる充分な証拠を収集できないケースが少なくありません。

そこで、「更なる身柄拘束付きので捜査の必要性がある」と検察官が判断した場合には、勾留請求によって原則10日間、最大20日間、身柄拘束付きの取調べ期間が延長されます(同法第208条各項)。

したがって、薬物犯罪のような重罪を犯したケースでは、逮捕から最大23日間身柄拘束期間が経過しなければ起訴・不起訴の決定が下されない危険性に晒されると考えられます。

起訴・不起訴の決定

検察官は、検察官送致されてから原則24時間以内もしくは勾留期間満了までに、薬物犯罪で逮捕された被疑者に対する処分内容を決定します。検察官が下す処分内容は、起訴処分・不起訴処分に大別されます。

起訴処分とは、検察官が担当した薬物犯罪事件を刑事裁判にかける意思表示を内容とする訴訟行為のことです。これに対して、不起訴処分とは、検察官が担当した薬物事犯を刑事裁判にかけずに終結させる決定のことを意味します。

日本の刑事裁判の有罪率は99%とも言われているので、起訴処分・不起訴処分のいずれになるかが前科がつくか否かの分岐点になると言えるでしょう。

「薬物所持や使用は言い逃れできないので不起訴処分を獲得するのは無理なのでは?」というのは誤解です。なぜなら、不起訴処分は「無罪のとき」以外にも獲得できるからです。確かに、嫌疑なしや嫌疑不十分の場合が不起訴処分の典型例ですが、他にも、「嫌疑はあるものの起訴する必要がない」というケースでも不起訴処分が下されます。たとえば、遊び半分でたまたま1回だけ薬物に手を出してしまったようなケースが典型例として挙げられるでしょう。ただし、「薬物事犯は初犯なら起訴猶予になる」と言い切ることもできないので、刑事弁護に強い専門家に依頼して不起訴処分獲得に向けて尽力してもらう必要があります。

刑事裁判

薬物犯罪で逮捕されて検察官に起訴処分が下された後は公開の刑事裁判にかけられます。

刑事裁判は、弁論手続きや証拠調べ手続きを経て、証拠や供述内容が総合的に考慮されて判決が言い渡されるという流れです。

実刑判決が下された場合には刑務所に収監されますが、薬物犯罪で初犯なら執行猶予付き判決を目指すのも不可能ではないでしょう。

違法薬物事犯については、平成28年に「刑の一部執行猶予制度」が新設されて、更生の道を目指しやすくなっています(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律)。薬物事犯は再犯率が高く、刑務所のなかで刑期を過ごすことだけが社会復帰への唯一の道ではないのが実情です。保護観察や薬物再乱用防止プログラムのプロセスを辿りながら社会全体で薬物からの脱却を支援する取り組みが進められているので、弁護人の意見を参考にしてください。

薬物犯罪で逮捕されたときに生じるデメリット4つ

薬物犯罪で逮捕されると以下4点のデメリットに晒されます。

  1. 逮捕・勾留段階で長期間身柄を拘束される
  2. 会社にバレると懲戒処分を下される可能性が高い
  3. 学校にバレると何かしらの不利益処分を下される可能性が高い
  4. 薬物犯罪で前科がつくと今後の社会生活に悪影響が生じる

逮捕によって生じるさまざまなデメリットは迅速な刑事弁護で回避・軽減可能なものも少なくありません。

刑事事件の実績豊富な弁護士へ相談する意欲付けのために、薬物事犯で逮捕された後に生じるデメリットを正しく理解しましょう。

逮捕・勾留期間中は身柄を拘束される

薬物犯罪の容疑で逮捕されると、最短72時間~最長23日間身柄を拘束されます。

身柄拘束期間中は弁護士以外の第三者と一切連絡を取れない状況に追い込まれます。また、連日厳しい取調べが続くので、精神的ストレスも蓄積するでしょう。さらに、厳しい状況から早期に逃げ出したいからと言って「捜査機関に有利な供述=自分に不利な供述」をしてしまうと、不起訴処分や執行猶予付き判決が遠のくことになりかねません。

したがって、薬物事犯で逮捕された場合には、いかに身柄拘束期間を短縮できるかがポイントになると言えるでしょう。

会社から厳しい懲戒処分を下される可能性がある

薬物事犯で逮捕された場合には微罪処分の可能性は極めて低いので、長期の欠勤を理由に会社に逮捕事実がバレるのは間違いないでしょう。

もちろん、どのような経緯で逮捕されたかを会社に知らせる義務はありませんが、後日会社側から調査されたときに嘘をつくことは許されません。そして、薬物犯罪で逮捕・前科がついたことが明らかになった場合には、就業規則違反を理由に何かしらの懲戒処分が下される可能性が高いです。

懲戒処分の内容は各社の就業規則次第ですが、最悪の場合には懲戒解雇もあり得ます。

就業規則に明確な記載がなければ、薬物犯罪で逮捕されたことを理由に懲戒処分が下されたとしても、処分の有効性自体を会社側と争う余地が残されています。このように、会社員が何かしらの犯罪で逮捕された場合には労働紛争に発展するケースも少なくないので、逮捕された時点で刑事事件・労働事件の双方のノウハウに精通した弁護士に相談しておくとスムーズでしょう。

学校を退学になる可能性がある

薬物犯罪の容疑で逮捕されたことが学校にバレたときの処遇は、学則の内容及び学校側の裁量次第です。

たとえば、学則で厳しい処分基準が規定されているケースでは退学になる可能性もありますが、学生の更生を重視する学則内容が定められてなら退学を回避できる場合もあるでしょう。

なお、大学の場合には多少欠席期間が続いたとしても、「薬物犯罪で逮捕されたこと」までが所属大学にバレるとは限りません。また、捜査機関や裁判所に対して学校への報告を避けるように嘆願することも可能です。

ただし、学生の薬物犯罪は話題性が大きいため、成人の場合にはニュース報道される可能性を否定できません。また、実名報道されなくてもインターネットで話題になるだけで学校が逮捕の事実を知るのは避けられないでしょう。これらのリスクを回避するには、薬物事犯で逮捕された後できるだけ早期に弁護士に相談をして、穏便に刑事手続きを進めるのが有効な対抗策だと考えられます。

前科がつくと社会生活に支障が出る

薬物犯罪の容疑で逮捕された後、最終的に前科がつくことになると、今後の社会生活に多くの支障が生じます

前科によるデメリットは以下6点です。

  1. 職業によっては免許や資格の取り消し対象になる
  2. 履歴書の賞罰欄に記載しなければいけない
  3. 就職活動や転職活動で前科を隠すと、後に発覚したときに懲戒処分対象になる
  4. 法定離婚事由に該当する可能性があるので離婚を避けられない
  5. ビザの発給制限・渡航制限の対象になる国がある
  6. 再犯時に刑事処分の内容が重くなる(再犯加重)

原則として、自分から告白しなければ前科が無関係の第三者にバレることはありませんが、薬物事犯で逮捕されたことが報道されるとインターネット上にいつまでも情報が残り続けてしまいます。

その場合には、削除申請などの法的措置が不可欠になるので、このような社会復帰を目指す方法についても弁護士までご相談ください。

薬物犯罪で逮捕されたときに弁護士に相談するメリット5つ

薬物犯罪の容疑で逮捕されたときには、できるだけ早期に弁護士に相談するのがおすすめです。

なぜなら、刑事事件の実績豊富な弁護士の力を借りることによって、以下5点のメリットが得られるからです。

  1. 早期の身柄解放に向けて尽力してくれる
  2. 不起訴処分獲得を目指して防御活動を展開してくれる
  3. 執行猶予付き判決や軽い刑事処罰獲得に向けて情状を主張してくれる
  4. 身柄拘束中の辛い期間も弁護士接見で励ましてくれる
  5. 薬物依存からの脱却支援についても相談にのってくれる

早期の身柄解放に向けて尽力してくれる

薬物犯罪は初犯でも逮捕される可能性が高い犯罪類型ですが、弁護士に相談すれば早期の身柄解放に向けて動いてくれるでしょう。

以下のように、刑事手続きのステージに応じて防御策は異なりますが、刑事事件に慣れた弁護士なら状況に応じた対応を期待できます。

  • 逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを理由に逮捕・勾留の必要性がないと主張する
  • 不起訴処分を獲得して早期の事件終結を目指す
  • 起訴後すぐに保釈請求手続きをとってくれる
  • 執行猶予付き判決を獲得して実刑を回避する

捜査機関や裁判所に身柄を拘束された状態が続くほど、社会生活への復帰や更生の難易度は高くなります。

刑事手続きが進むほど早期の身柄解放に向けた防御活動の選択肢が少なくなるので、薬物犯罪で逮捕された後は、一刻も早く優秀な私選弁護人に連絡するべきでしょう。

不起訴処分獲得に向けて防御活動を展開してくれる

薬物で逮捕されたとき、前科がつくかどうかを分ける重大な分岐点になるのが不起訴処分です。刑事事件に強い弁護士に相談すれば、不起訴処分獲得を目指して防御活動を展開してくれるでしょう。

薬物犯罪で逮捕されたケースでは、尿検査や毛髪検査の証拠、薬物所持の現行犯を押さえられた状況などを踏まえると、完全に否認して「嫌疑なし」を勝ち取るのは現実的ではありません。そこで、事案の状況を踏まえて以下のポイントを効果的に主張すれば、起訴猶予を理由とする不起訴処分獲得の可能性が高まると考えられます。

  • 初犯であること
  • 違法薬物の所持量や摂取量が極めて軽微であること
  • 薬物犯罪に至った経緯や動機、犯情が軽いこと
  • 家族の協力や支援プログラムのサポートなど、再犯防止策が整っていること
  • 薬物事案を犯した本人が真摯に反省して再犯しない旨を誓っていること

裏を返せば、過去に薬物犯罪での逮捕歴があったり、反社会的勢力との関わりがあったりすると、不起訴処分の獲得は難しいのが実情です。このようなケースでは、不起訴処分獲得に向けて防御活動を展開するのではなく、少しでも有利な判決内容獲得に向けた防御活動を展開するのが適切だと言えるでしょう。

軽い判決獲得に向けて適切な情状を主張してくれる

薬物犯罪の弁護実績豊富な専門家に相談すれば、少しでも有利な判決内容獲得に向けて尽力してくれます。

たとえば、初犯で更生可能性を見込めるなら、執行猶予付き判決を獲得して実刑を免れることもできるでしょう。また、違法薬物に手を出してしまった経緯を公開裁判で丁寧に説明すれば、検察官の求刑から大幅に短縮した刑期を獲得することも可能です。

薬物で逮捕されて起訴処分が下されると有罪を回避するのは難しいですが、公開の刑事裁判で丁寧に情状を主張・立証すれば、判決内容が有利に傾くことは少なくありません。前科がつくとしても内容は軽い方が社会復帰への道は楽になるので、起訴処分が下されたとしても決して諦めないことが大切です。

弁護士接見で被疑者を励ましてくれる

逮捕・勾留段階で被疑者とコンタクトを取れるのは担当弁護士だけです。刑事事件の実績豊富な弁護士は身柄拘束中の被疑者が厳しい状況に置かれていることをよく理解してくれているので、接見の機会を有効活用してさまざまなケアを実施してくれるでしょう。

たとえば、身柄拘束中で外部と連絡できない被疑者に代わって、家族や会社・学校への対応を丁寧に取り仕切ってくれます。また、薬物が原因で暴力事件などを起こしてしまったときには、被害者との間で早期に示談をまとめて処罰軽減に向けて尽力してくれるでしょう。さらに、取調べでの供述内容や供述調書へのサインの可否などについても、法的知見を駆使して専門的なアドバイスを提供してくれます。

特に、薬物犯罪の逮捕・勾留段階での対応は、被疑者に下される処分内容や社会復帰への難易度を大きく左右するものです。刑事事件に慣れていない弁護士に依頼すると「処分は軽くなったが会社への対応を失敗してしまった」「取調べで言ってはいけないことを話してしまった」などの不利な状況に追い込まれかねないので、刑事弁護の依頼先は慎重に吟味してください。

薬物からの更生支援の相談にも対応してくれる

薬物依存から抜け出すのは簡単ではありません。たとえば、覚醒剤の再犯率は約70%と非情に高い数値になっているのが実情です(令和3年版犯罪白書)。

薬物犯罪で逮捕された経験を踏まえて社会復帰を目指すには、生活環境や交友関係自体から根本的に見直す必要に迫られます。会社や生活で上手くいかないことがあったとしても、薬物を逃げ道にすることはできません。

しかし、薬物での逮捕歴があると、再就職に失敗したり、友人や家族からの信用を失ったりして、逮捕前よりも厳しい社会生活が待っているのが実情です。このような辛い状況で薬物を拠り所にせずに再起するのはかなりハードルが高いと言えるでしょう。

したがって、薬物で逮捕された後は、薬物に手を出さないのは当然のこととして、薬物に近付かずに済むような生活環境を整えたりカウンセリングを受けたりする努力を惜しまないようにしてください。薬物事案に強い弁護士に相談すれば、提携しているNPO法人やカウンセリング機関・更生施設なども紹介してもらえます。

薬物犯罪で逮捕されたときには早期に弁護士へ相談しよう

薬物使用等は重大犯罪ですが、逮捕されたからといって刑務所に服役することが決まるわけではありません。また、服役したから薬物との関係を断てるという簡単な話でもないのは明らかでしょう。

早期に適切な防御活動を展開すれば学校や会社にバレずに済ませることもできますし、不起訴処分を獲得できれば前科も回避できます。また、執行猶予判決を獲得できれば、日常生活を送りながら薬物との関係断絶を目指すことも可能です。

薬物で逮捕されたときは、「社会生活へのデメリットを軽減しつつ薬物との関係を断つ環境を作り出せるか」が最重要課題です。薬物犯罪の経験豊富な弁護士なら、法律論だけではなく実生活にも気を配ったケアが期待できるので、できるだけ早いタイミングでの相談をご検討ください。

刑事事件でお悩みの場合はすぐにご相談ください。

刑事事件で重要なのはスピードです。ご自身、身内の方が逮捕、拘留されそうな場合はすぐにご相談ください。

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