犯罪を犯して有罪判決を受けた経歴がある人は、いわゆる「前科持ち」となってしまいます。前科があると、犯罪を犯した事実を知られてしまうため、当然就職にも影響が出るでしょう。
ただ、前科持ちの人の就職を邪魔してしまうと、せっかくの更生の機会を奪うことになります。そのため、法律的には前科の報告義務を課していません。あくまでも、企業側が採用を判断する上で前科を気にするかどうか、といった点で判断をします。
今回は、自分や身内に付いている前科が就職に与える影響や、犯罪歴の報告義務について詳しく解説します。前科があるけど就職をして更生を目指したい、と考えている人はぜひ参考にしてください。
前科が就職に与える影響
前科の有無が就職に与える可能性がある影響として、考えられるのは以下のとおりです。
- 企業に雇用してもらえない可能性
- 資格制限(欠格)による影響
前科があることにより、今後の就職にさまざまな影響を与える可能性があります。まずは、実際に起こり得る影響とはどういったものなのか?について解説します。
企業に雇用してもらえない可能性がある
前科があることで企業に雇用してもらえない可能性があります。「前科がある」と企業側が把握した場合、当該企業はあなたがとても魅力的な人材であったとしても「雇用しない」といった判断をすることがあるでしょう。
もちろん、前科の内容によっても企業の心象は異なりますが、企業では以下のことを懸念して雇用しないという選択をするでしょう。
- トラブルを起こすのではないか?
- 企業イメージが悪くなるのではないか?
本人が反省をしており、生活の再建を目指していたとしても企業側がどう感じるかは自由です。もちろん、犯罪を犯した人にも職業選択の自由があるように、企業側にも雇用の自由があります。
よって、前科があることによって採用してもらえないという可能性は十分に考えられるでしょう。
資格制限が設けられていることによる影響
就職をする上で資格が必要な場合、前科が原因で影響が出る可能性があります。一部の国家資格は、前科が付くことによって資格を剥奪されたり、新たに取得することを制限されたりします。
主に、以下のような資格が制限されています。
-
- 教員
- 取締役・監査役等
- 宅建士
- 士業(税理士・弁護士等)
- 医師
など
他にもさまざまな資格が制限を受けます。つまり、「前科がある」という事実のみで資格を取得できず、関係ある職種への就職が難しくなります。また、前科が付く前に取得した資格であっても、剥奪されるため今後の就職に大きな影響を与えるでしょう。
身内に前科ありの人がいる場合の影響
自分ではなく身内に前科持ちの人がいる場合、今後の就職に与えるのか?と不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。次に、身内に前科持ちの人がいる場合の影響についても詳しく解説します。
身内の場合は影響がない
身内に前科持ちの人がいる場合、基本的には就職へ与える影響はないと考えて良いでしょう。そもそも、企業側が就職希望者の身内に前科持ちの人がいる事実を把握していないケースが大半であるためです。
もし、何らかの形で「身内に前科持ちの人がいる」と知られてしまった場合は、影響が出る可能性は少なからずあります。これは、あくまでも企業がどのように感じてどのように判断をするかです。
たとえば、まったく同じ能力をもったA・Bがいたとして、採用枠は1つだったとしましょう。仮にAさんの身内に前科持ちの人がいることが発覚した場合、企業側はBを採用するかもしれません。
自分ではないため直接的な影響は少ないものの、企業側が知った場合に影響が出る可能性はあるというものです。ただ、就職後に発覚した場合は、解雇事由等に該当しないため、解雇される心配はありません。
「身辺調査」による影響が出る可能性もある
就職をするにあたって、身辺調査が行われる場合は影響が出る可能性が高いです。たとえば、一般的に知られている例として、警察官や自衛官への就職を希望する場合は、身辺調査が行われています。
基本的には3親等以内の家族の身辺調査を行います。つまり、3親等内に前科持ちの人がいる場合は、影響が出る可能性があるでしょう。
ただし、建前上は希望者をすべて平等に扱わなければいけないと定められているため、身内に前科持ちの人がいても直ちに不合格となるわけではありません。
とはいえ、やはり警察官や自衛官という特殊な仕事の場合、不祥事を起こさないためにも懸念されてしまうのは事実でしょう。影響が出る・出ないは一概に判断できるものではありませんが、影響が出る可能性はある、程度に思っておくと良いかもしれません。
警察官や自衛官になる際の身辺調査の合否基準は、公表されていません。そのため、身内に前科持ちの有無が採用へ与える影響も「不明」であるのが事実です。ただ、建前上は平等に扱うものとするのが基本です。
前科がある場合の報告義務の有無
前科を持っている人が就職をする際、報告をする義務があるのか?言わなければバレないのではないか?と考える人もいるでしょう。次に、前科がある場合の報告義務の有無についても詳しく解説します。
自分から報告する法的義務はない
前科があったとしても、自ら報告する法律的な義務はありません。つまり、聞かれなければ答える必要はない、ということです。
ただ、就職をするにあたって企業側から問われる可能性はあるでしょう。この時、嘘をついてはいけません。もし、前科があるにも関わらず「ない」と嘘をついて就職し、就職後に発覚した場合は経歴詐称等で解雇事由に該当する可能性があります。
ただ、すべての場合は解雇事由に該当するわけではありません。日本の法律では、労働者側のほうが守られています。そのため、一度採用をしてしまった以上はなかなか解雇できません。
前科の有無で解雇になるためには、「前科があることを知っていたら採用をしていなかった」という事実がなければいけません。
たとえば、「全国ニュースになるような大きな事件を起こした経験がある人を採用すると、企業イメージに影響がある」といった場合は解雇事由に該当するでしょう。一方で、軽微な犯罪でそこまで大きく影響を与えないケースでは解雇が難しいです。
また、就職前に聞かれなかったために答えずに就職し、就職後に前科が発覚したような場合は、基本的には解雇できません。なぜなら、企業側の採用基準として前科の有無が必要なのであれば、面接の段階で遅くとも尋ねるべきであるためです。
つまり、前科の有無を聞かれた場合は正直に答えたほうが良いですが、聞かれなければ基本的に答えなくても良いということです。自分が不利になるようなことをわざわざいう必要はない、と考えておけば良いでしょう。
「賞罰欄」がある場合は記載しなければいけない
企業側から指定された履歴書に「賞罰欄」がある場合は、賞罰欄に前科の事実を記載しなければいけません。賞罰欄とは、受賞歴や犯罪歴を記載する欄のことです。
受賞歴とは、たとえば全国・国際レベルで受賞をした経験がある人やボランティアや人命救助で感謝状を得た場合に記載をします。これらの情報は、採用を行うにあたって良い影響を与えるためです。
一方、犯罪歴には前科等の情報を掲載しなければいけません。具体的には以下のように記載をします。
「20〇〇年○月 〇〇罪 懲役◯年 執行猶予◯年」
もし、前科があるにも関わらず記載しなかった場合は、経歴詐称等で解雇となる可能性があるため注意してください。賞罰は、企業側が採用を判断する上で必要な判断材料であるためです。
ただし、前科をいつまでも書かなければいけないと、更生をして生活の再建を目指す人にとって大きな弊害となります。そのため、刑法では以下のとおり定めています。
禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
引用:刑法|34条の2
つまり、禁固刑以上の刑罰を受けた人はその後、罰金刑以上の刑を受けることなく10年以上経過した場合は、効力を失います。また、罰金刑以下の場合は、その後罰金刑以上の刑を受けることなく5年経過した場合は、効力を失うということです。
刑の効力を失った場合は、前科があったとしても賞罰欄に記載する必要はありません。
ちなみに、執行猶予付き判決を受けた場合は、以下のとおりです。
第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
引用元:刑法|第27条
つまり、執行猶予付き判決の場合は、執行猶予の期間を満了した時点でその効力を失います。そのため、賞罰欄への記載の必要はありません。
現在裁判を受けている最中であり、現時点で有罪判決を受けていない場合は、賞罰欄へ記載する必要はありません。あくまでも、記載しなければいけないのは「罰」を受けた場合のみです。起訴されただけ等の場合も書かなくても良いです。
【要注意】報告しなくてもバレる可能性がある
前科を隠して就職を行おうとしても、勝手にバレてしまう可能性があります。主に、バレる原因は以下のとおりです。
- 名前を検索して出てきた
- 逮捕時の実名報道
とくに大きな事件であればあるほど、さまざまな人の記憶に残るためバレてしまう可能性があります。もし、バレてしまったとしても、報告義務を怠っていなければ何ら問題はないでしょう。
先ほども解説したとおり、前科はあくまでも賞罰欄がある場合や聞かれた場合に答えるのみで良いです。刑の効力が失効したときや賞罰欄の記載を求められなかった場合は、自分からあえて伝える必要はありません。
前科を理由とした解雇は個別に判断される
就職後に前科が発覚した場合、解雇されるかどうかは個別に判断されることになっています。たとえば、前科の有無を問われた際に「ない」と嘘をついて就職をした場合は、解雇となる可能性があります。
また、嘘をついて就職し、企業側に多大な損害を与えた場合は損害賠償請求の可能性があるため注意してください。
たとえば、前科があることを隠して企業へ就職し、その後に広く世間に知れ渡ったとしましょう。このことが原因で企業側のブランドイメージが著しく損なわれた場合は、解雇と同時に損害賠償請求の可能性があります。
ただし、初めから前科があることを伝えていた場合や聞かれていなかった場合は、解雇するのが難しくなります。なぜなら、企業側にも責任があるためです。
もし、前科の有無が採用の判断基準になるのであれば、初めから聞いておけばよかったためです。労働者としては「聞かれなかったため答えなかった」というのは当然です。自ら不利になる事実を伝える必要は一切ありません。
前科がつくタイミング・前歴の違いを解説
前科がある場合は、就職をする際に報告しなければいけないケースがあります。つまり、前科さえ付いていなければ、報告する義務がないとも言えます。では、「前科」はどのタイミングで付くものなのでしょう。
逮捕されたタイミングなのか、起訴されたタイミングなのか、有罪判決が下ったタイミングなのか、わからないという人も多いでしょう。
また、前科と前歴の違いを理解していない人も多いのではないでしょうか。最後に、前科が付くタイミングや前科・前歴の違いについて詳しく解説します。
前科は「有罪判決」を受けた事実がある場合に付く
前科とは、有罪判決を受けた履歴のことをさします。つまり、有罪判決が下るまでは前科がついていない状態です。よって、以下に該当する場合は前科が付いていません。
- 逮捕されたが起訴されなかった場合
- 起訴されたが無罪判決となった場合
有罪判決とは、科料以上の判決のことを指します。つまり、科料・拘留・罰金・禁錮・懲役・死刑といった判決を受けた場合は、前科として残り一定期間賞罰等に記載しなければいけません。
なお、少年事件の場合は「処分」となるのが一般的であり、これらは前科ではありません。ただし、重大事件を起こし、検察官送致となって刑事裁判を受け、有罪判決が下った場合は前科として残ります。
前歴は「犯罪の疑い」をかけられた場合に付く
前歴とは、警察や検察などの捜査機関から犯罪の疑いをかけられ、捜査の対象となった履歴を指します。つまり、逮捕をされた場合や不起訴処分となった場合であっても、前歴として履歴が残ってしまいます。
たとえば、何らかの犯罪の疑いをかけられた人が、捜査の過程で冤罪であることが確定して無罪となった場合や不起訴となった場合に残るのが前歴です。他にも、犯罪を犯した場合であっても微罪処分となった場合に前歴が残ります。
微罪処分とは、警察の中で事件を終結させる手続きです。本来は、検察へ送致しなければいけませんが、事件の内容等を考慮した上で、微罪処分とするケースが稀にあります。
前科と前歴は全く異なる
前科は有罪判決が下った場合に付き、一定期間は社会生活に影響を与えます。もちろん、就職にも影響を与えることがあるでしょう。
一方、前歴はあくまでも「犯罪の疑いをかけられた場合に付くもの」であるため、賞罰等に記載をする必要がありません。そのため、日常生活や就職において影響はありません。
前科前歴などとひとくくりに言われることが多いですが、実際はまったく異なる言葉、意味であることを覚えておくと良いでしょう。
まとめ
今回は、前科が就職に与える影響について解説しました。
前科があると、その事実が就職の際に影響を与える可能性があります。とくに、賞罰等で前科の有無を問われた場合は、ほぼ確実に影響が出ると考えておいたほうが良いでしょう。
ただ、影響があるといっても、絶対に採用してもらえない、就職ができないということではありません。前科を持っている人が就職をできなければ、更生の機会を無くしてしまうことになるためです。
前科の報告義務がある期間内は、影響があるため限られた範囲内で就職活動をしなければいけませんが、一定期間を経過すれば他の人と同じように職の幅が広がります。今は仕方がないと受け止め、可能な範囲で就職活動を行ってみてはいかがでしょうか。